.


マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/03/01


みんなの思い出



オープニング

 斥候として送り出した撃退士4人が、骸骨兵士と戦闘になり、全滅した──
 山形県某所に常駐する撃退士の守備隊、通称『笹原小隊』に属する面々は、その報せを聞いた時、驚愕し、どよめいた。
 骸骨兵士── その名の通り、骸骨の姿をしたサーバントである。鳥海山を中心に半径30kmを天使に支配されたこの地にあっては、特に珍しい敵種ではない。常に群れで行動し、連携して敵に当たる。天界の装備で武装している場合もあり、中には指揮官クラスの強敵も存在するものの…… 基本的に特殊な能力は持たず、個々の能力はかなり低い。文字通りの雑兵である。
 それだけに、全滅の話を聞いた小隊の面々は驚きを隠せなかった。骸骨兵士ごときを相手に、4人の撃退士が全滅することなどありえない。彼等の任務は偵察だった。仮に遭遇した敵の数が多かったとしても、戦闘を回避して戻ってくればよいだけの話である。
「待ち伏せか? 逃げる間もなく圧倒的な数の骸骨兵士に包囲されたとか」
「骸骨相手だ。突破くらいできるだろう。……敵は本当に骸骨だけだったのか?」
 隊員たちがざわめく中、続報が入ってきた。斥候隊の戦死者は2名。2名の重傷者が捜索隊により救出され、こちらに搬送されたというものだった。
 その報せを受けて、分隊長の一人、藤堂は野戦病棟へと向かった。丁度、重傷者の一人が担架で運び込まれるところだった。
「どうした!? 何があった!?」
「……と、藤堂さん…… 骸骨が…… ……に……」
 藤堂の問いに答える前に、意識を失う重傷者。慌しく運び込まれる担架を藤堂は呆然と見送って…… そんな藤堂に一人の男が話しかけた。
「大丈夫だ。出来うる限りの応急処置は施してきた。……これ以上、誰も死なないよ」
「……ドクか」
 男は同じ分隊長の杉下だった。通称、ドク。元医者の撃退士で、藤堂の──最早、殆ど存在しない──数少ない同期の一人だった。
「捜索は貴方の第2分隊が? 教えてくれ。いったい彼等に何があった?」
「落ち着きなさい。せっかくの美人が台無しだ。……さて、何から話したものか」
 杉下は近場のベンチを勧めると、くしゃくしゃに草臥れた煙草を取り出し、火をつけた。藤堂はベンチには座らず、杉下の話をじっと待った。
「……僕たちが現場に到着した時、戦闘は既に終わっていた。敵の姿はどこにもなかった。真っ白に染まった雪の原には、倒れ伏した4人の撃退士と…… 彼等が流した血の赤が、降り続ける雪に埋もれかけていた」
 その光景を見た杉下は絶望を深くしたが…… 運よく2人の撃退士がまだ命を繋いでいた。杉下は部下に全周警戒を命令すると、回復師──アストラルヴァンガードと共に応急処置を施した。残りの2人は既に事切れていてどうしようもない状態だった。杉下は遺体と負傷者を持ってきたソリに乗せるよう命じながら、戦死者の傷跡を注意深く観察した。
「遺体に残されていた傷は、全て刺突によるものだった。真っ直ぐに空いた小さな傷は円形──恐らくはクロスボウの矢のようなものだろう。大きな、抉られた様な跡がある傷は剣か槍──他に斬撃の跡がないことを考えると、恐らくは槍だ」
 ただし、随分と細身の槍── 使い手は小型なのかもしれない。水平方向からの刺突が多いことから、空は飛ばない敵と思われた。
「……中には背中まで貫通している傷もあった。『硬い』魔装と撃退士の身体を、骸骨ごときがどうやって貫いたのか、謎だがね」
 もっとも、腑に落ちないことはまだある、と杉下は続けた。
「今、話したように、戦死者の遺体に残されていたのは、武器によってつけられた傷だった。……だと言うのにだ。現場に残されていたのは『狼』の足跡だけだったのだ。獣の様な、四速歩行の…… 骸骨の、少なくとも二足歩行の敵が記した足跡はなかった」
 狼系のサーバントもまた、この地では特に珍しい敵ではなかった。体長は種別によって1m〜2mと様々。中には5mを超えるものもいると言うが、小隊の面々はまだ見たことがない。俊敏性に優れ、鋭い牙を持ち、集団で敵を襲う知能を持つ厄介な敵だが、それでも撃退士が一方的にやられるような強敵ではないし、なにより、狼は得物を使わない。
「遺体の傷跡から推察するに、敵の得物は小型の槍…… 恐らく使い手の全長は1m程度の小型種──多分、小型の骸骨だ。だが、その攻撃力はその質量に見合わぬ高いもので、何より、足跡が残っていない」
「新種という可能性は?」
「生存者から殆ど情報は得られていないが、それでも新種という言葉はなかった」
「狼については?」
「足跡から恐らく全長は1.5m程度。雪上の移動に特化した雪狼──スノーウルフと思われる。集団で『狩り』を行うのが奴等の流儀……のはずなんだが。現場には精々4匹程度の足跡しかなかった。そして、撃退士の遺体に狼の牙の跡はない」
 杉下の言葉に、藤堂はしかめっ面をした。
 まったく訳が分からなかった。現場に残された証拠と証言から導き出される敵の姿は、全て既存の弱敵だ。だが、なぜか戦死者の遺体には骸骨の得物による傷しかなく、現場に残された足跡には雪狼のものしかない。物量攻撃を得意とする敵であるのに、戦場に投入された敵はなぜか数も少なく、にもかかわらず、4人の撃退士がほぼ一方的にやられている……
 と、そこへ、野戦病棟の扉が開き、中から守備隊のボス、笹原小隊長が副官を伴って現れた。
 藤堂は駆け寄って敬礼すると、斥候の仇を討つ為に、自分の分隊を現場に派遣するよう要請した。
「いや、現場には久遠ヶ原学園の撃退士たちを派遣するよう要請する」
 心底すまなそうな顔をして、笹原小隊長は藤堂にそう告げた。斥候を全滅させた敵が、自分たちの手に余る強敵の可能性があるからだと言う。
「ばかな」
 藤堂が呻くと、笹原の副官がジロリと睨んだ。藤堂は構わなかった。藤堂たち『笹原小隊』の面々はかつて、方針を変更する前の久遠ヶ原学園で軍隊式の教育を受け、アウルの成長を阻害された撃退士たちだった。挙句、学園ゲートの出現で多くの仲間たちを失い…… そして、今、4年以上共に戦い続けてきた仲間の仇をも、連中に委ねなければならないなんて。
「新種が出現したという情報はありません。自分たちでも充分やれます」
「藤堂分隊長。これは決定したことなのだ」
 藤堂の言葉を遮る副官。先へ進むことを促された笹原小隊長が済まなそうに、だが、何も言わずに立ち去っていく。
 その姿が完全に見えなくなるまで見送ってから…… 杉下はベンチから立ち上がり、ポンと藤堂の肩を叩いた。
 奥歯を噛み締める藤堂の拳は、これ以上ない位に硬く、硬く握り締められていた。


リプレイ本文

 駐屯地から現場へ向かう道すがら── アストラルヴァンガードの黒井 明斗(jb0525)は、活性化した和弓にアウルの矢を番え、隊列の最後尾から周囲に警戒の視線を飛ばした。
 現場は山間を抜ける道路沿いの、とある集落の外れだった。南北に走る道路の東側は木々の生い茂った山の斜面。道の西側は幅1mの水路を挟んで50mが田畑で、その奥には山森が広がっている。
 明斗は荒い息を吐きながら、防寒具の胸元を緩めた。これまできっちり隙なく着こなしていた辺りに生真面目な性格が見て取れたが、やはりこの積雪の中を行軍するのはキツいようだ。外からの寒気と内からの熱気に、熱に浮かされたような心地でただひたすらに前進する……
 やがて、報告にあった現場の近くに到達すると、撃退士たちは戦闘に備えて曳いて来たソリの上で小休止を取った。
 そんな中、阿修羅の雨野 挫斬(ja0919)は一人休まず、パタパタと雪面を踏み固める。
「何してるんです?」
「ん? ああ、退路を踏み固めているのよ!」
 問う明斗に対し、挫斬が物凄く良い笑顔で答えた。疲れてはいるのだろうが、もうじき敵と見えられる高揚がそれを上回っているらしい。
「……無駄になるといいんだけどね」
 真剣な表情で呟く挫斬。実際、先遣隊は全滅している。用心に越したことはない。
「あの藤堂って分隊長…… 釈然としない、って顔してたな。……仲間の仇と戦えないってのは辛いよな」
 ナイトウォーカー・宗方 露姫(jb3641)が、先刻、駐屯地で状況の説明を行った藤堂を思い起こして呟く。藤堂は態度に出しはしなかったが、それでも端々から無念の想いは汲み取れた。
「せめて、連中は俺たちが必ず仕留めてくる。それだけは約束する──」
 露姫がそう声をかけた時の藤堂の顔を思い出す。その表情はなんとも言えず、複雑なものだった……
「見知らぬ仲とは言え、同胞の弔い合戦ね…… 仇はきっちり殲滅しちゃいましょ♪」
 言いながら、阿修羅・雀原 麦子(ja1553)が雪に突っ込んでいたビール缶に手を伸ばし…… インフィルトレイター・石田 神楽(ja4485)がそれより早く取り上げる。戦闘前にこれは何です? と笑顔で眉をひそめる神楽に、「……あったまるのよ?」と小首を傾げた麦子があはは……と苦笑する。
 それを横目で「なんじゃかのぅ」と見ていたバハムートテイマーの白蛇(jb0889)は、傍らでもじもじするインフィルトレイター・藤宮 睦月(ja0035)に気が付いた。
「どうかしたかの?」
「いえ、今回、雪の中で少しでも動き易いように、と制服を着てきたのですが…… 普段着ている着物と比べますと、なんと言うか、その、随分と心許ない気がして……」
 睦月はなんと生足だった。恥ずかしさに頬を染める睦月に、白蛇はSD状態(二頭身)で声をなくし…… そのままソリの荷から防寒着のズボンを取り出すと、てぃっ! と睦月の足に通す。
 狼と思しき遠吠えが聞こえてきたのはそんな折だった。
 吼え声は西の森の中。撃退士たちがそれぞれ得物を活性化しつつソリから下りる。
 やがて西の森の中から二匹の狼型サーバント──雪狼が姿を現した。
 雪狼の上には、重武装を施した小型の骸骨が騎乗していた。得物は予想通り槍と弩。斥候が全滅した戦場に残されていた痕跡の正体がこれだった。
「やはり骸骨型が狼に騎乗していましたか」
 神楽の言葉に麦子は頷いた。遺体の傷から推察するに、敵の攻撃方法は槍を用いての騎兵突撃と騎乗射に違いない。
「どんな奴が相手だろうと、あたいは負けないんだから!」
 ルインズブレイドの雪室 チルル(ja0220)が、銃剣と一体化した突撃銃を槍兵の様に構えながら、西側最前列に立ちはだかる。
 そんなチルルを殿に、撃退士たちは東側の山の斜面へ移動を開始した。
「騎兵、となれば、まずはその足を潰すが定石…… 宗方殿。共に罠を仕掛けに行こう。……来よ! 千里翔翼!」
 白蛇が白き馬龍を高速召喚し、跳び掴まって空へと上がり、闇の翼を展開した露姫が後へと続く。二人の肩には小隊から借り受けたロープの束が提げられている。東の森の木々の間に縄で罠を仕掛けようというのだ。
「こういう時、飛べるって便利よね」
 えっちら歩を進めながら、空を見上げて麦子が呟く。
 その視界の隅──森の中でキラリと何かが光った。
「むっ!?」
 飛翔する白蛇の馬龍に向け、東の森の中から2本の矢が射かけられた。鱗を突き破り、刺さるクォレル。不意打ちを受けた白蛇は自らも傷を押さえ、それを自己回復しながら後退する。
 露姫もまた自らの気配を殺しながら、一旦、後方へと下がった。東の森の中──斜面に伏兵していた2匹の騎兵は空からの脅威を退けると、今度は地上より迫る撃退士たちに向けて矢を放ち始めた。
 挫斬はソリの陰に身を隠すと、雪に身を伏せ、半ば埋もれるようにしながら這い進んだ。自らが踏み固めた『退路』に達し、そのままその場を確保する。
(高所に伏兵を置かれていた!?)
 雪に塗れた髪をリボンで一つに纏めながら、挫斬は忌々しげに笑みを浮かべた。
 恐らく敵は遠吠えで西に注意を曳きつけつつ、この東の伏兵で奇襲・挟撃しようとしていたのだろう。こちらは待ち伏せする敵の前面にまんまと姿を晒したというわけだ。
 だが、敵にも誤算はある。こちらが東へ移動した為、先に伏兵が戦闘に入ってしまった。西の騎兵はまだ畑の端っこだ。各個撃破の機会はある。
「姫ちゃん! 蛇ちゃん! 道の西側に罠を仕掛けて! 開けたこっちから突撃されたら防げない!」
「白蛇様と呼ばぬかぁ!」
 愛称(?)で呼ぶ麦子に文句を言いながら白蛇は馬龍から跳び下り、道の西側に向かってロープを投げ渡した。同じく地面に降下した露姫がそれを受け取り、単純な仕掛けを施した後、地を這うロープに雪をかけて隠していく。
 一方、チルルはガソリンを雪面に撒いて歩くと、そこにライターで火をつけた。ボボボッ、と雪上を走る炎のライン。だが、見た目の派手さの割りに溶ける雪の量は少ない。睦月は即席のトーチを作って雪面を炙ったが、やはり積もった雪の表面を溶かすのが精一杯だった。溶かすべき雪の総量に比べ、熱量(カロリー)が圧倒的に足りないのだ。おまけにそうやって作った溝の底には溶けた水が並々と溜まっていたりする。
「東の騎兵2匹、突撃態勢!」
 再び馬龍の背に飛び乗った白蛇が、敵状を確認して皆に叫ぶ。間に合わぬと悟ったチルルと睦月は塹壕作りを諦めて迎撃態勢に入った。挫斬と神楽は近場の電柱に走り寄り(地続きの構造体に、符と使用者の手が触れている必要があるからだ)、懐から取り出した阻霊符を貼り付けた。それにより、今、まさに、透過能力で木々をすり抜けながら突進しようとしていた2匹の骸骨騎兵が、木の中から弾き出され、或いは激突して『落馬』する。
「倒れた! 今です。先頭の倒れた騎兵──狼に集中攻撃を!」
 まずは敵の『足』を奪う── 明斗が皆に攻撃目標を指示しながら、自らも弓を引き絞る。
「ぐらちゃん!」
 2m以上もある強弓にアウルの矢を番えて引き絞りつつ、神楽に声をかける麦子。いつも笑顔でお小言を言う神楽はちょっぴり苦手だが、その射撃の腕は麦子も文句なしに信頼している。
 神楽はそれに頷きながら、左手を符に添えたまま『黒業』を使った。右手に持ったPDWが、黒く変色する神楽の右腕と一体化していき、文字通り一つの禍々しき『長銃』と化す。身を貫く激痛は、だが、吐息一つと共に吐き出し。それでも笑顔は崩さずに、照準を木々の間の狼へ向ける。
 タイミングを同じくして、麦子の強弓から放たれたアウルの矢と神楽の三連射が斜面に倒れた雪狼を貫いた。そこへさらに、明斗の、チルルの、睦月の、挫斬の放った矢弾が浴びせられる。
 機動力を失った雪狼に、それに耐えられるだけの力はなかった。文字通り矢継ぎ早の攻撃を喰らった狼は、雪面に赤い華を飛び散らせながら着弾の衝撃に身悶えて…… 光の粒と化して雪原の空に消えていった。


 騎馬ならぬ騎狼を失った相方の骸骨は、木の幹を盾にしながらの射撃に専念したようだった。雪上の機動力というアドバンテージは失ったものの、まだ高所からの射撃という地の利は残っている。
 もう1匹の騎兵は、単騎による突撃は無謀と判断し、木々の間を走り抜けながらの騎乗射撃に切り替えた。西の畑を渡る騎兵2匹はまだ遠い。タイミングを同じくして突撃するつもりだろう。

 魔具を片腕に完全同化した神楽は、肩部の排出口から射撃後の黒いアウルを排出しながら…… 『黒業』の使用を継続し、再び狼に向け三連射を放った。
 麦子の放った牽制の矢を跳び避ける騎兵。そのタイミングを狙って狼を狙い撃つ。
 放たれた3発のアウルの弾は、1発が外れて雪面を砕き、1発は木の幹に逸らされてあさっての方向に跳弾した。1発は幹のど真ん中を貫通し、見事、背後の狼に命中した。だが、減衰した威力では致命傷までは与えられない。
 隊形の西の端に位置したチルルは西より突進してくる騎兵の距離を窺いながら、東の斜面の敵へ向かって突撃銃を膝射した。……外れた。角度が悪い。敵は高所で、木々を盾にし、おまけに素早く移動している。対するこちらは低所で、遮蔽物もなく、おまけに雪で移動もままならない。
 明斗は隊形の南端から東端まで這うように移動しながら、時折、仰向けの様な態勢で弓を木陰の骸骨に向けて放った。当初は敵の足を止めるべくもう一方の狼に攻撃していたのだが、あまりに当たらないため、目標をそちらに変更したのだ。勿論、好き勝手に撃ち放題している骸骨への牽制という意味もある。効果が上がったとは言い難いがそれでもよかった。明斗の第一の目的は、東の騎兵が突撃を始めるより早く、この味方の壁となれるこの位置に到達することにあったから……
「無駄弾を撃たない…… 無駄弾を撃たない……」
 自分に言い聞かせるようにしながら。雪の上に伏せた睦月は、動く騎兵を見据えながら慎重に散弾銃の狙いを定めた。
 まだまだ未熟な自分が、石田先輩や雪室さんのように上手くできるとは思っていなかった。だからこそ、その未熟さを些少でもカバーするよう、雪上に銃を持った腕を乗せ、慎重に狙いを定め……
 と、挫斬の放った拳銃弾が木の幹に弾け、騎兵の動きが一瞬、止まった。睦月は即座に発砲した。木と雪面と骸骨と狼に満遍なく散弾が着弾する。当たった、と睦月は顔を輝かせた。散弾銃であれば精密に狙わなくても、狼も骸骨も纏めて銃撃できる。
「気をつけよ! 西の敵が来るのじゃ!」
 空を飛ぶ白蛇の警告に、チルルは東に向けていた身体を西へと向け直した。
 白蛇は東の敵と戦う皆とは別に、西から突進して来る騎兵2匹の誘導を行っていた。主兵装に活性化した盾を背に背負い、騎走しながら射掛けられる矢を受け弾きながら、自己回復しつつ東へ飛ぶ。
 その西の突進に合わせて、東の騎兵1騎も突撃を開始した。
 槍を手に森から飛び出して来る骸骨騎兵。十字槍を手に飛び起きる明斗。神楽の阻霊符の効果を確認した挫斬が符から離れ、魔具を銃からワイヤに切り替えつつ、その闘気を解放しながら敵へと走る。
「あ〜、もう! 動きにくいったら! これじゃ解体できないよ!」
 その挫斬が来るより早く、明斗に突撃する敵騎兵。膝立ちになった睦月は、その眼前の雪面に向けて散弾銃を発砲した。怯んだ狼の勢いが若干弱まり。突き出された騎兵槍を、明斗が十字槍で受け弾く……
 一方、西方。白蛇を追って突進して来た2騎に向かって、チルルが突撃銃を発砲する。その間に上空へと退避する白蛇と馬龍。新たな敵の存在を認識した騎兵たちがチルルに矢を射かけながら、そのチルルがいる『電柱と電柱の間』に向かって突撃し……
「今よ! 姫ちゃん!」
 麦子の合図と共に、電柱の根元に隠れていた露姫が手にしたロープを思いっきり引き……
 次の瞬間、雪面に埋め隠されていたロープが電柱の間にピンと張り渡された。
 水路を跳び越えようとしていた騎兵にそのロープは避けれなかった。まともにぶち当たった2匹の騎兵が、それぞれ狼と骸骨に分かれて雪の路上へ転がり落ちる。
「人間がそう何度も同じ手に引っかかるなんて思わないでよね! 今度はあたいたちがやっつける番よ。覚悟しろー!」
 ミニ大剣に装備を換えたチルルが、起き上がろうとした狼の1にその大剣を振り下ろす。ドズン、とその腹を断ち割りつつ、返す刀で振り上げて。その剣先に集まるエネルギー── チルルはそれを前へと突き出し。次の瞬間、解放されたエネルギーが『吹雪』と化して直線上の敵を薙ぎ払う。
 技の効果で発生した細氷がキラキラと舞い消える中、立ち上がった骸骨がチルルへ槍を突き入れる。その攻撃は、だが、立ち上がった露姫が振るったチタンワイヤーによって一瞬早く切り払われた。気配を消した露姫のその不意打ちに、骸骨はまったく対応できなかった。槍を持った腕ごと切られる敵。そこへ踏み込んだチルルが大剣を袈裟切りに断ち下ろす。
 西の突撃が阻止されたことで、東から突撃した騎兵は敵中で孤立する形となった。
 欲情の笑みを浮かべつつ、両手にチタンワイヤーを引き出しながら正面から突っ込む挫斬。それをフォローすべく明斗が騎兵の側面へ回り、槍を突く。それを受け凌ぎつつ、挫斬へと突き出される騎兵の槍。瞬間、神楽が放った『黒塵』が挫斬の周囲に黒い粒子を撒き散らしてその身を隠す。
 構わず突き出された槍の穂先が、突進する挫斬の頬を切った。挫斬は目も瞑らなかった。ワイヤーがしゅらん、と敵へと放たれ……切られた狼の前足から血飛沫が飛ぶ。
 そこへ至近距離から放たれる睦月の散弾。堪らず、気絶した狼から骸骨が転げ落ちる。明斗がヒールを飛ばす合間に、挫斬がそれを切り刻む。その顔は不満気だった。骸骨なんて切り刻んだところで面白くもなんともない──


 西の森の奥から遠吠えが響いた。最初に聞こえたあの吼え声だ。
 それを受け、生き残っていた敵は戦場からの離脱を開始した。
 西で生き残っていた骸骨は同じく生き残っていた雪狼に飛び乗り、西の森目掛けて走り出した。麦子の強弓と、飛行する白蛇と露姫により追撃が行われたものの、逃亡に全力を傾注した敵はそのまま森へと逃げおおせた。
 東では、斜面にいた骸骨1匹がいつの間にか稜線を越えて逃げていた。最後に残った狼がタコ殴りにされ、戦闘は終わった。

 今回、遭遇した敵の詳細については、駐屯地に帰還した明斗によって注意喚起のレポートが纏められた。
 神楽も共に詳細を報告した。それが犠牲者に対するせめてもの弔いになれば、と思っていた。
 一部の敵に逃げられた、と報告を受けた藤堂の表情は、やはり複雑なものだった。
 自分たちで仇を取る機会が残された── そう思ってしまった自分が、藤堂にはひどく浅ましく思えてならなかった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
藤宮 睦月(ja0035)

大学部2年198組 女 インフィルトレイター
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー