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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/11/09


みんなの思い出



オープニング

 山形県庄内地方、鶴岡ゲート東方──
 攻略線の『第二の矢』として清川より放たれた民間撃退士会社『笹原小隊』の車列は狩川、藤島を経て、東方よりゲート結界内に突入すべく国道345号線上を西進していた。
 人々が避難して久しい雑草交じりの田の中を走る道を、爆走とも呼べる勢いで目標へと急迫する高機動車の列── その侵攻を阻まんとするは、ゲートの主・ファサエル直属、天使が天使を模して作ったサーバント『偽天使』。結界方面より列を成して飛来して来た6体の『それ』らが翼を翻して急降下へと転じ…… 雲湧き広がる空にそれを見つけた第二分隊長・杉下が、狙撃銃を仰角に構えながら、光信機のマイク越しに部下の銃手たちに指示を出した。
「『偽天使』8体、4時上空より一列に降下を開始。迎撃準備。……敵さんももう妨害用の『案山子』は品切れのようだ。直接のご来店、丁重に出迎えて差し上げましょう。狙って当てる必要はありません。とにかく弾をばら撒いてください」
 翼を畳んで矢の如く降下してくる『偽天使』── それを出迎えるように、速度を落とさず疾走を続ける高機動車の窓から銃身が伸び、銃座の重機関銃が空を仰ぎ……
「撃て!」
 杉下の声と共に撃ち上げられる無数の火線。先頭切って降下していた天使型が四方からアウルの銃弾を浴びせられて肉塊と化し、強制的に降下から落下へのシフトチェンジを余儀なくされる。それを目の当たりにした後続は翼を広げて進路を急転換。散開して個々に攻撃の為のアプローチを試みたが、いずれも火線の網に捉えられて次々と穴だらけにされ、落ちていった。
「ニードル1、ニードル1、こちら小隊指揮所。状況を報告せよ。送レ」
「小隊指揮所、こちらニードル1。偽天使6体と遭遇、これを撃破。作戦に遅延なし。……副長殿にお伝えください。この新しい銃は良い。ご尽力、感謝します、と」

「だ、そうだよ?」
 後方、攻撃発起点。某寺の庭を間借りして設営された小隊指揮所──
 杉下からの感謝の言葉を直接、光信機越しに聞きながら。小隊長・笹原が傍らの副長にそう水を向けると、恩田家の長男は、どこか怯んだような調子で、指で鼻の眼鏡を上げた。
「…………私の功ではありません。金を出したのは父らスポンサーのお歴々で……」
「手配したのは君で、無茶を通したのも君だ。素直に誇って良いと僕は思うなぁ」
 感謝される事に慣れていないのだろう。恩田は無理やり会話を切ると照れた様にそっぽを向いた。
 今回の作戦に隊が参加するに際し、恩田は一連の『砦』戦で得られた教訓から、隊員たちの装備を刷新する必要性を痛感していた。彼は小隊の筆頭スポンサーでもあった実家に戻り、父に下げたくもない頭を下げて──勝手に撃退庁を止めた息子を、父は許していなかった──その資金を引き出した。
 そうして揃えたのは高威力・長射程の車載機関銃型魔具と、兵の主兵装となる新式の小銃型魔具だった。重視したのは射程と命中精度。アウルの成長が頭打ちとなった隊員たちだ。威力は手数で補えばいい。
「……私たち、アウルの力を持たぬ者には、これくらいしかできませんから」
「そうだね。……うん。前線で戦う撃退士たちが少しでも戦い易くなるように…… それが僕らの戦いだ」
 どこか照れた様に言う笹原の表情が…… だが、前線からもたらされた光信を受けて少し翳った。
「──指揮所、指揮所、こちらニードル1。予定通り結界外縁部に到着したんですが…… ちょっと、想定外の状況です」

「なんだ、こりゃあ!?」
 進路妨害用の敵サーバント『案山子』──十字架型を掃滅し。遅れて本隊に合流した第一分隊長、藤堂晶は、想定もしていなかった眼前のその光景に目を瞠った。
 結界の『壁』には、隊員たちがV兵器によって開いた突入路が大穴を開けていた──これはいい。予定通りだ。だが、その穴から草臥れた人たちがぞろぞろと出てくるこの光景はいったい何としたことか。
「岩永、槙田! これはいったいどういう事なの?」
 藤堂は第三分隊長・岩永と、元代理・槙田に状況の説明を求めて詰め寄った。が、藤堂が見たのは自分と同じ様に困惑した2人の表情だった。
「どういう事も何も…… こちらが聞きたいぜ。俺たちは予定通り結界に突入路を開拓した。すると、その途端……」
「中からああして結界に囚われていた人たちが出て来たというわけですよ」
 以来、小隊は結界に侵攻する事も出来ず、ここで避難民たちの保護を余儀なくされたというわけだ。
「現時点で300人…… 後から後からどんどん来ます」
「何よ、それ…… あの人たち、我々がここに来ることを事前に知っていたっていうの?」
 どうするのよ? と藤堂は尋ねた。どうします? と槙田は答えた。ただ一つ確かなことは、自分たちがこの場に足止めを余儀なくされたと言うこと──
「どうにかして前に進めませんか? こんな所でぐずぐずしているわけには……」
 学生撃退士たちを『引率』して小隊に同道している学園の実務教師、安原青葉が焦燥を隠さずにそう訊ねた。彼女の同僚で恩師でもある松岡は、作戦の『第三の矢』として西側から侵攻するべく、既に秘密裏に加茂から上陸しているはずだった。『第二の矢』である自分たちが前進出来ねば、松岡たちが何の支援も無く敵中に孤立することになる。
「落ち着いて。この人たちを放っておいていけるわけないでしょう」
「っ! 藤堂さんは松岡先生の事、心配じゃないんですか!?」
「心配に決まっているでしょう!」
 藤堂の返事に、青葉は言葉を詰まらせた。
「……すみません、藤堂さん。貴女の言う事が正しい。……私たちは撃退士。彼らを放っていくわけにはいかない……」
 肩を落とす青葉の背を藤堂がポンと叩き…… 彼女が言葉を返すより先に、敵襲を報せる警句が上がった。
「……この忙しい時に!」
 空を舞う偽天使たちを忌々しげに見上げつつ、各分隊長と教師たちが走ってそれぞれの部隊に戻る。
 外周の警戒に当たっていた第四分隊長・小林は、部下に迎撃を命じつつ、自分も狙撃銃のスコープを覗き、敵に対して照準した。
 違和感があった。能面の様に無感情な作り物の天使の顔に、表情らしきものが浮かんでいるのが見えた。その天使は、地上を── その場所にいるはずのない避難民たちを睥睨し、「そういうことか」と唇が動く。
 瞬間、その視線がスコープを覗く小林のそれとぶつかり── 小林は思わず引き金を引いていた。銃声と共に飛び出す弾丸── その弾道は天使の前で見えざる何かに捻じ曲げられる。
「天使だ! 偽天使の中に本物の天使が混じっている!」
 偵察員としての常の冷静さも忘れ、光信機に向かって叫ぶ小林。部下たちの放った銃弾の嵐が空を飛び交い、その殆ど全てが天使が生じさせた重力の壁に阻まれる。
「杉下! 今、車両に乗ってる分だけでも避難民を逃がせ!」
「しかし……!」
「行け!」
 くそっ! と悪態を吐きつつ、杉下が藤堂の指示に従って難民を乗せたバスと共に戦場から離脱を図る。だが、天使はそちらに見向きもしない。
(追って来ない……?)
 信じられないというように呟く杉下の視線の先で天使が掻き消え…… 高速飛翔で降下したそれは第三分隊のど真ん中へと突っ込んだ。
 舞い上がる土煙に咳き込みつつ、岩永は部下たちに命を発した。
「発砲を許可する。避難民たちを守れ!」


リプレイ本文

「第三分隊より増援要請! ……まさかこんな所でボスと遭遇するなんて」
「急いで向かうよ! 偽天使に紛れて来るなんて、ホントにまさかのまさかだよ!」
 天空から降り来る矢の如く── 地上の第三分隊を急襲する天使ファサエルを見やり、月影 夕姫(jb1569)と彩咲・陽花(jb1871)は急ぎ周囲の学生たちを呼集した。
 ある程度の人数が集まったところで戦場へと走り出す。まるで他人事の様に遠く、鳴り響く幾重の銃声。だが、耳元のレシーバーは隊員たちの阿鼻叫喚を鮮明に──
「もう少しで到着するよ! 頑張って!」
 逃げ惑う避難民たちを間を縫う様に逆行しながら、祈るように陽花が励ます。
 ファサエルの登場に、最も劇的な反応を見せたのは避難民たちだった。蜘蛛の子を散らす様に走り出す人の群れ── 中にはその場に跪き、天使の方に向かってひたすら許しを請い願う者たちまでいる。
(急がば回れ、とは言うけれど、随分と障害の多い回り道だね……)
 胸元のヒヒイロカネを握り締め、息を弾ませ走りながら。永連 紫遠(ja2143)は避難民たちを横目に眉をひそめて…… 避難民たちを重荷に──いや、『邪魔』に感じている自分に気づいて、慌ててぶんぶんと首を振った。
「いやいや! 戦えない人たちを守るのも僕ら撃退士たちの役目……! 放ってはおけないもの!」

「またあんたね! そういつまでもやられっぱなしだと思わないことね!」
 戦場へ辿り着いた瞬間── 雪室 チルル(ja0220)は考えるよりも早く、真っ先に天使ファサエルへと打ちかかっていた。
 迷い無く突っ込みながら、その速度と質量を切っ先に乗せ、天使の喉元目掛けて下から刺突大剣を突き上げる。
 顔面へと伸び迫るその一撃を、ファサエルは辛うじて大剣で受け止めた。ふわりと距離を取る天使に対してチルルはただの一瞬も速度を落とさず、小動物が如き元気な動きで追い縋り、喰らいつく。
(目的が分からない。なら、あたいがこいつに張り付くしかない!)
 思考ではなく感覚で判断しつつ、立て続けに繰り出す刺突の連撃。それを受け凌ぐファサエルとの間に火花と細氷が散る。
「塚本、おい、塚本! 傷は浅いぞ、しっかりしろ! 分隊長、衛生兵を…… って、おい、ふざけんな。岩永、おい、返事をしろ、目を醒ませ!」
 第三分隊は既に壊滅していた。意識を保てていたのは槙田のみ。血塗れの兵隊を抱えながら、倒れた岩永の所まで這い進む……
「安原先生! 生徒たちに負傷者救出の指示を!」
「それと人々の誘導も。あの天使は…… こちらで抑えます!」
 後続する青葉に夕姫が叫び。黒井 明斗(jb0525)もまた白銀の聖槍を振り構えると、チルルをフォローすべく走り出す。
「もう少し…… もう少し早く到着できていれば……」
 惨状に──見知った戦友たちの無残な姿に陽花は息を呑み。唇を噛み締めながらキッと馬竜──スレイプニルを召喚する。
 白野 小梅(jb4012)もまた動揺を隠せなかった。──まだ誰にも打ち明けた事はないが、小梅には「悠奈とアルディエルの『結婚式』にファサエルを出席させる」という野望があった。まぁ、当人たちの意思はまだ確認してはいないけど、なんとかなりそうな自信は山程あった。……根拠は欠片もないけれど!
 自らも堕天した経験を持つ小梅は、それが天界と人類の和解の先駆けなると信じていた。だが、目の前に広がるこの現実は……
 ギィン……ッ! と一際大きな金属音が響き渡り。チルルを刺突剣ごと打ち弾いたファサエルが一気に距離を取る。天使周辺を浮遊する4体の偽天使が追い縋るチルルに一斉に光弾を撃ち放ち。瞬間的に凍結させた氷の盾でチルルがそれを受け弾く間にファサエルが上空へと舞い上がる。
「あ、こら! だから飛ぶなってば!」
 地上への対応を偽天使たちに任せ、ファサエルは何かを探すように地上へ視線を振った。そして、学園制服系の魔装を装備した集団を見つけると、そちらへ翼を翻す。
 その天使の姿を、地上から見つめる者がいた。第三分隊の戦場から少し離れた、停車した車列の陰──『透明化』で気配を隠したラファル A ユーティライネン(jb4620)だ。
「いくら戦力が払底しているからって、御大自ら出陣なんてありがたみがないわなぁ……」
 アウルの四連高射砲──その『照準』天使を捉えてラファルが呟く。
「名前からして、こう、金髪をふぁっさ〜、とか掻き揚げるスカした野郎を想像してたんだがねぇ…… まあ、どっちにしろ、ここでぶっ倒すのに変わりはねーんだけどね、っと!」
 照準に砲口を追随させ……最後に『引き金』を引く。放たれる砲炎と砲声── 飛行能力を剥奪すべく放たれた4発のアウルの砲弾を、だが、天使は空中を横滑りするようにして回避する。
 舌を打ち、再び照準を合わせるラファル。と、その天使を追う様に、地上から上空へ無数の『彗星の雨』が次々と撃ち放たれるのが照準越しの視界に入った。驚き、振り返るラファル。『コメット』の使い手はすぐ側にいた。
「目標の回避を確認。攻撃を継続……」
 淡々とした仕草と表情で手の平を天使へ向けるRobin redbreast(jb2203)。火線から逃れるべく宙をジグザグに奔る天使を、やがて彗星雨の弾幕が捉え── 護衛の偽天使たちが隊形を崩した瞬間、Robinはその腕にジャラリと『星の鎖』を垂れ下げ、天使へ向けて投射した。
「まずはあの天使を地上に引きずり落ろすよ。……狙うのは天使だけ。天使が落ちれば、偽天使とか勝手についてきそうだし」
「言われなくても!」
 再び天使に向き直り、四連装砲を発砲するラファル。空に咲く爆煙と追随する星の鎖、その全てをかわすことはできなかったのか、やがて天使が舞い下りる様に地上へ降下する。
「天使様ともなると落っこちるのも優雅なもんだねぇ!」
 追い討ちをかける様に、ラファルはアウルの針状ミサイルを一斉に地上の天使たちにばら撒いた。降り注ぐ闇の力にボコッと体表面を破裂させつつ、反撃の光弾を斉射する偽天使たち。爆発する車両群の間を駆け抜けながら、Robinが再び天使たちへ流星群を降り落とす……
「追いついた!」
 躍動するチルルの叫びと共に。アウルの白き光条が振り返ったファサエルを偽天使ごと呑み込んだ。
 細氷の残滓を残して光が消え去り── 当然の如く健在の天使へ、チルルが弾丸の如く突きかかる。
「スレイプニル! 皆に『ブレイブロア』だよ!」
 召喚した馬竜に飛び乗り、追いついてきた陽花が仲間たちを──誰より自分を鼓舞する為に指示を出す。
 新たな戦場へと走り来た夕姫が滑り込む様に伏射姿勢を取り、大型ライフルを撃ち放ち。明斗もまたチルルを支援すべく、敢えて天使の視界に入る様に、背後を取らんとする動きを見せ付ける。
 紫遠は天使の周囲に張り付く護衛の偽天使たちに銃撃を浴びせながら…… 最も損害の大きそうな個体へ一気に肉薄した。そして、活性化した全長3mを超える巨大な『大剣の如き鉄塊』を無造作に、力の限り降り下ろし。受けに掲げた偽天使の腕ごと袈裟切りに斬り落とす。
「やぁ。本来、指揮を執らなきゃならない人が、わざわざ前線に出てきて探し人かい? 美人さんが一杯だろ? 御目に適う人は見つかったかな?」
 剣先をドスンと地へ下ろし…… 紫遠は天使に冗談めかして語りかけた。
 天使が剣戟の手を止め、紫遠を振り返る。
「その顔には見覚えがある。が……」
 天使は怪訝な表情で紫苑を頭から爪先までマジマジ見返し…… 「成長期か?」と真顔でツッコんだ。
「あれは兄! 別人! 性別からして違うから!」
「そうなのか…… では、お前も久遠ヶ原の人間か? ならば、アルディエルはどこにいる? 案内役が必要な本命の部隊にいると踏んだのだが」
 ファサエルの言葉に、撃退士たちは顔を見合わせた。
 同時に確信も得た。……ファサエルはこちらの本当の本命──加茂から上陸した『第三の矢』の存在には気づいていない。
「さ、さあ? あいにくとここにアルくんはいないんじゃないかな? だからさっさと帰って欲しいんだけど?」
 半分、馬竜に隠れながら──以前、ファサエルに捕まった事がちょっぴりトラウマになっている──陽花がシッシとファサエルに手を振る。
 そうか、とファサエルは答えた。
「では、やはり…… あいつには自分で来てもらうしかないか」
 戦闘が再開される。
 全周へ偽天使たちが撃ち放つ光弾── 紫遠は鉄塊の陰に身を潜り込ませると、後方へ跳び下がりつつ再び活性化した銃を放つ。
「固まらず、近寄らず、包囲して攻撃を!」
 集まり始めた兵や学生たちに、馬上から陽花が指示を出す。
 敵中に炸裂するRobinの破片と火花── 激化する戦闘に、小梅はギュッと箒の柄を握った。


 振り下ろされた天使の大剣が、重力波に動きの鈍ったチルルの頭部を捉えた。
 鈍い音と共に宙を舞う血塗れのティアラ── よろけるチルルにトドメを刺すべく振るわれた二の太刀を、横から突進して来た夕姫が身体ごとぶつかる様にして受け凌ぐ。
 む、とファサエルが唸った。臆せず敵へ肉薄する事で、夕姫はファサエルの斬撃のインパクトをずらしていた。そのまま盾ごと押し込んでくる夕姫を、ファサエルは逆に押し弾いた。夕姫はその一撃に跳ね飛ばされつつ、盾の陰から持ち上げた大型ライフルを立て続けに天使へ砲撃する。
 一瞬、昏倒しかけたチルルは、ギンッと目を見開くと再び剣戟へと加わった。大ダメージの後にも関わらず、表情に怯懦の色はない。
「……なるほど。彼女たちの背を支え続けているのはお前か」
「気づきましたか」
 チルルに回復の光を飛ばす明斗にファサエルが打ちかかり。無駄のない正統派な構えで明斗がそれを待ち受ける。迫る敵に槍を扱いて牽制の突きを入れつつ、斬撃を横から左右に叩いていなしながら、彼我の距離を出し入れする。
「……僕が崩れると仲間が苦労しますので。勇んで隙を作るような真似はしませんよ」
 槍の間合いの外から放たれた魔法剣を盾で受け散らしつつ、アウルで生成した『氷の鎌』をチルルが投擲するタイミングで距離を詰め、天使の足元を狙って手にした槍を突き入れる。
「陽花!」
「うん!」
 夕姫の呼び声に、天使の背後に回りこんでいた陽花が馬竜に拍車をかけた。
(あいつの能力に一斉射は通じないわ。……まともに攻撃を仕掛けたのなら、ね)
 先程、戦場に到着した藤堂や学生たちに、夕姫はそう言っていた。──擬似重力で攻撃は逸らされる。接近しても動きを鈍らされたり転ばされたりする。
 でも、万能というわけでもない。効果範囲を広げれば効力は薄くなるし、効力を強めれば死角もできる。強力なマイナスレートの銃撃などで重力盾を形勢させた後、その反対側から攻撃を仕掛ければ──
 背後から突進する陽花に天使が気づいた。瞬間、馬竜の『鬣』を掴む陽花。その鼻先を、ファサエルが横に払った大剣の切っ先が行き過ぎる。
「馬竜、『ハイブラスト』!」
 応じて放たれるアウルの雷撃── 陽花は初めから敵の攻撃範囲に入るつもりはなかった。出来るだけ長く戦場にいる事と、仲間に手を出させぬよう抑える事。それこそが、陽花が自らに課した戦い──
 直後、天使は全周に重力陣を展開し。追撃をかけようとしたチルルと明斗もまた重力に捉われた。陽花もまた馬竜と共に頭上から地面へ押し付けれつつ……  銃弾が頭上を飛び過ぎて行くその音に笑みを浮かべた。

「あれだけの攻撃を喰らって未だ健在…… いやはや、兄から聞いていた通りタフだね」
 創造主へ接近するのを阻まんとする偽天使へ牽制の銃撃を放ちながら── ファサエルの戦いぶりを目の当たりにした紫遠は大きく息を吐いた。
 まさに足止めだけで精一杯…… いや、それだけでも十分か。どういう理由があってか知らないけれど、避難民を狙って来ないだけ随分とマシではある。
「さっきも離脱する避難民たちには目もくれなかったね。人間はもう要らないってことなのかな?」
 その紫遠の後方で『ファイヤーブレイク』を『オンスロート』に換装しながら、Robinはそう小首を傾げた。撃退士たちへの攻撃は…… 何も成果がないと上役に怒られちゃうから、とか?
「それにしたって、逃がしちまうより吸収しちまった方が早くね?」
 各種ミサイルで偽天使たちを切り刻みながらラファルが答え。言われて見ればそーですね、とRobinは逆側に首を傾げながら…… 生じせしめた影の刃を雲霞の如く、天使と偽天使へ向け投げ放つ。
「じゃあ、なんでわざわざ見逃すのでしょうね? 避難民を見て『そういうことか』って呟いてたみたいだけど…… あのおばさんのこと、怒るのかな? なんだか急いでいるみたいだし……」

「気づいているんでしょう? この状況を作ったのが誰なのか!」
 最後の偽天使が影の刃に切り刻まれるのを確認しつつ、夕姫がファサエルに問いかけた。
 そこにチルルは奥義を放つ隙を見て取ったが…… 首を振ってグッと堪えた。今、放ってもきっと防がれる── 勘だ。考えたわけじゃない。が、これまでに潜り抜けてきた修羅場の数が彼女に確信を与えていた。そう、放つなら、もっと──
「……食えないおばさんよね。でも、彼女は賭けに勝った。今更あなたが何をしても彼女の勝利は変わらない。……人間を悪魔に対する駒としか思ってないから、足元を掬われるのよ」
 夕姫の挑発に── ファサエルはただ淡々と、そうかもしれんな、と答えた。夕姫はカッとした。『人の感情が分からない』とかそう言うレベルではない。なぜそこまで他人事でいられるのか。
「あなたね……ッ!?」
 夕姫が答えかけた瞬間。ファサエルの姿が掻き消えた。効果時間が切れていたのか、或いは最初から見せかけていただけか。地上の頚木から放たれた天使は高速で空を飛翔していた。向かう先は──比較的低LVの後輩たちが集まった場所──
「おじさん、ダメぇ!」
 瞬間、その進路上、後輩たちの眼前に小梅が『瞬間移動』で割り込んだ。
 それを見たファサエルは目標自体を小梅へ変えた。振るわれた大剣が『マジックシールド』ごと小梅の小さな身体を弾き飛ばさんとするまさにその直前── 生徒を助けんと飛び出してきた青葉が小梅を突き飛ばし、代わりに喰らって倒れ伏す。
「こいつを帰して欲しければ、今すぐアルディエルを鶴岡に呼べ。来るべき場所はあいつ自身が知っている」
 気絶した青葉を小脇に抱え上げ、飛翔しながらファサエルが言った。
「アルディエルに伝えろ。この鶴岡に『奴』が来ている、と」

 傷を押さえて立ち上がり…… 結界内へ飛び去るファサエルの背に、小梅が叫んだ。
「オジサン、ボクは諦めないからねぇ! 嫌でも絶対に引き摺っていくんだから……!」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
飛燕騎士・
永連 紫遠(ja2143)

卒業 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍