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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:11人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/11


みんなの思い出



オープニング

●とあるおばさんシュトラッサーの回想・4
 2014年、年末── 『砦』戦を終えて帰還する際、後退路に配置してきたトンボ型サーバントの1匹が、ボロボロになった姿で鶴岡ゲートに帰って来た。
 戦闘があったことは明白だった。問題はそのトンボ型を配置していた場所と、時期だった。
 雪深い冬の山形。管理する者もいなくなった山間の道は分厚い積雪に閉ざされ、大規模な行軍は不可能となる。戦いが行われるとしてもせいぜい斥候同士の遭遇戦か阻霊符を持ってやって来る撃退士たちを追い払うイタチごっこで、雪が解ける春が来るまで小康状態となるのが常だった。
 今回のトンボもそれか? いや、碌な戦闘力もないトンボ型には交戦を避けるように命令(コマンド)を与えていた。
 嫌な予感がした。私はトンボ型にくくりつけていたビデオカメラ──こちらの世界の機械に疎い主に知られず独自に情報を収集する為に工夫した──の映像を確認した。
 雲低く垂れ込めた雪降る白き山間の道── そこに大勢の人間たちがいた。分厚い雪に埋もれたその廃村で、彼らは大規模な何かを設営しているようだった。
(あれは…… 前衛陣地か何か? いえ、あの『間取り』は防御の為というよりむしろ何かの集積場…… 前線の後方に築く拠点の様な……!)
 閃光が煌き、衝撃と共に映像が他所を向いた。私は自分が撃たれたかのようにビクリと身を震わせた。
 いつまでも収まらぬ早鐘の様な鼓動を抱いたまま、私は椅子から立ち上がった。
 ──人間たちは鶴岡ゲートに対する侵攻の準備をしているのだ。山間に雲が立ち込め、バカみたいに雪の降るこの冬に。予想もし得ぬこの時期に! 侵攻はいつだ? 流石にこの冬はあり得ない。早ければ2015年の春。いや、わざわざこの冬に準備を進める以上、間違いなく雪が解けると同時に電光石火で攻めてくる!
 その情報を、今、私だけが知っている── 気づいて、私は足を止めた。
 私の『上司』──主たる天使ファサエルは、ここ最近、鳥海山に呼ばれることが多くなって留守がちで、この時も鶴岡には不在だった。
 ……潮時かもしれない、とかつてファサエルは言った。
 潮時だ、と私も思った。……この鶴岡ゲートから得られる『収益』──精神エネルギーの量は、おそらくこの辺りがピークだろう。撃退士たちの侵攻が始まれば『損益分岐点』はすぐに割る。
 そうなれば、ファサエルは人々から残った精神エネルギーを絞りつくしてこの世界から去るだろう。そうなれば……元も子もなくなってしまう。私のしたこと、全て。
 ……人々を救う為にシュトラッサーとなることを受け入れた。たとえそれで人々に恨まれることになろうとも、人々の犠牲が最小限で済むようサーバントを率いて戦った。なのに……!
 空虚を感じて、空を見上げた。鳥が歌い、花咲き誇る、主の作った常春の館── 雪も、冷たい外気からも隔絶されたこの空間が、人外と化してしまった己の境遇に重なった。
(あちら側には、もう戻れない)
 冬の寒さが懐かしい。あんな凍えるような思いはもう沢山だと分かっていても。
「……愚痴っていても仕方ない、か」
 顔を上げる。決心する。──致命的な事態は避けられない。ならば、それまでに出来うる限り大勢の人間を脱出させる。幸いなことに、主は私の心に洗脳や強制を施さなかった。天使とシュトラッサーは運命共同体。主が死ねばシュトラッサーたる私もいずれ死ぬ。……あの人の心の分からぬ天使はそれだけで私が背信しないと考えているのだろう。
「自棄になった人間が何をするか見やがれ、だっけ? あれは何の台詞だったかしら……」
 赤いコートを羽織り、館の外へと足を進める。
 主への報告は、主が帰って来てからでいいだろう。もっとも、その時にはうっかり報告することをうっかり意図的に忘れてしまっているかもしれないけれど。


 2015年、夏。鶴岡ゲート南方、『第一の矢』・陽動部隊主力──
「清水隊より通信。……結界に囚われていた市民203名を救出、です!」
 南部よりゲートに侵入した救出部隊からその報告を受けた瞬間。山形道および国道112号線近郊にて待機していた主力部隊の司令部は歓声に包まれた。
「敵の主力は? 現れたのか?」
 ただ一人、指揮官だけが厳しい表情で問い返す。実務的な空気を取り戻しつつどこか明るい雰囲気の中、通信士が続報に耳を傾ける。
「……中隊規模の敵と遭遇。清水隊は交戦せず、市民を守って離脱…… その際、敵指揮官・徳寺明美の姿を確認したとのことです!」
「喰らいついたか!」
 指揮官は今度こそ破顔した。立ち上がり、指揮下の隊に命令を発する。
「俺たちも行くぞ! 清水隊を追撃する敵主力の側面を衝く。敵を完全にこちらへ拘束……っ!?」
 言い切る前に爆音が轟き、震動に指揮官はよろめきかけた。コンソールに向き直り、状況の確認を求める通信士たち。それより早く、指揮車の扉が開いて伝令が飛びこんでくる。
「敵襲です! 骸骨狼騎兵、数は200。指揮官は赤いコートの女!」

「敵の主力が陽動主力を急襲したそうです。骸骨狼騎兵のみの機動部隊。数は…… 200!? 骸骨狼騎兵だけの編成で?!」
 同刻、鶴岡ゲート北東、清川。『第二の矢』・急襲部隊主力。民間撃退士会社『笹原小隊』、指揮所──
 分隊長クラスが集まった指揮所とは名ばかりのテントの下で、撃退署員の通信士が素っ頓狂な声を上げた。
「それはつまり…… 敵は清水隊を無視して陽動本隊の所まで駆け抜けた、と。結界の外まで出て」
「果敢な指揮官だ。陽動主力は撃退署員が編成の中心…… その上、機先を制せられたとあっては、損害は否めないだろうね」
 上り始めた陽光の下、風に揺れる枝に蝉の声── テーブルの上の地図に駒を進めながら、藤堂と杉下が淡々と言葉を紡ぐ。
「やはりこちらの配置は看破されていたようですね」
「だけど、僕たちのやることは変わらない。むしろ、敵主力がより深く南下したならこちらにとっては好都合だよ」
 撃退署の皆には悪いけどね、と小隊長の笹原が恐縮すると、岩永や小林と言った他の分隊長たちも笑みを浮かべた。『砦』での戦いはこちらが貧乏くじばかりを引いた。他人に少し苦労が分配されても良いはずだ。
「じゃあ、店ちょ…… じゃない、小隊長。僕らは予定通りッスか?」
「うん。陽動部隊が敵主力を南に引きつけてくれている間に、僕ら急襲部隊は345号線から敵結界内へと突入する。先鋒は藤堂くんの第一分隊と学生たち。露払いは任せるよ」
 敬礼の後、それぞれの隊へと戻っていく分隊長たち。暖機運転で待機していた高機動車の群れがエンジンの唸りを上げ、前進していく。
「藤堂より小隊各員、および久遠ヶ原学園の戦友たちへ。既に承知の事とは思うが、我々に重要なのは速度だ。敵が態勢を立て直す前に結界を食い破る」
 言い終わらぬ内に空に現れる1体のサーバント『偽天使』── 踵を返すそれを見やって、見つかったか、と呟く藤堂。無人の畑野を貫く道を行き行き…… やがて現れた4体の偽天使が、こちらの進路上、左右の畑に、4つずつ保持していた『十字架』をばら撒いた。
「いつぞやの『案山子』か……! 後続が至る前に全て駆逐を駆逐する。全員降車。固まるな。狙い撃ちにされるぞ!」


リプレイ本文

 行く手上空を右から左へフライパスしていく4体の『偽天使』が、それぞれ両脇に2体ずつ提げた『十字架』を投下していくのがフロントガラス越しに見えた。
 放擲された十字架たちが宙を舞い、クルクルと回りながらバラバラと地面へ落着する。
 突き立ち、刺さったそれらはただの一体もその降着姿勢を過たず。
 雑草交じりの稲の原に『十字架』が並び立つ光景は、まるで戦場の墓標の群れに見えた。
「降車、降車、降車! 固まるな、狙い撃ちにされるぞ!」
「左右の畑の草の中に! 遮蔽物のない道の上なんかにいたらいい的よっ!」
 叫び、自らも道の脇に広がる畑の草の中へ飛び込む雪室 チルル(ja0220)。ついた膝から染み入る湿った土の冷たい感触── 千葉 真一(ja0070)が眉ひそめつつ、それでも泥よりはましか、と前向きに考え直す。
 撃退士たちが左右に分かれて隠れた瞬間、十字架たちの『頭部』が発光し── 放たれた3条の光線が高機動車を撃ち貫いた。
 爆発──…… 耳をつんざく轟音と飛び散る破片に、撃退士たちは冷や汗まじりに、それでも不敵な笑みを浮かべる。
「時間稼ぎですか…… 敵の狙いは明白ですが、ここは付き合うしか手はなさそうですね」
「また足止めに的確な敵を置いていってくれたわね…… あまり時間も掛けられないし、ここは一気に叩きましょう」
 しゃがみ、隠れた草の上、頭上を飛び交う光条を見上げながら、黒井 明斗(jb0525)と月影 夕姫(jb1569)が襟元を緩める。
 どうやら今回、索敵・誘導を担うトンボ型はいないようだ。以前に会敵した時は草陰に隠れたこちらを正確に狙撃してきたものだが、今の攻撃にはそれがない。
「ほんとに、もう、急いでいる時に限って……!」
 親友、彩咲・陽花(jb1871)の背中を借りて、葛城 縁(jb1826)が文句を言いながらメモ帳に何か絵図の様なものを書き連ねる。
「って言っても所詮は固定砲台だろ? こないだの高機動部隊に比べれば楽勝じゃん?」
 気楽な調子でそう声を上げるラファル A ユーティライネン(jb4620)の横で、白野 小梅(jb4012)が両手に持った手鏡をそぉーっと草の上に出す。
 光を反射した瞬間、光条がそれを狙撃した。直撃こそしなかったものの、手鏡がビシッとひび割れる。
「……めんどくさそーな奴等だな」
 ポツリと訂正するラファル。手鏡を割られた小梅をよしよしと宥めながら、永連 紫遠(ja2143)もまた頷く。
「貫通攻撃と範囲攻撃は厄介だね…… 敵陣のど真ん中を進むと集中砲火を受けそうだし」
「前は1体だけでも大変だったのに…… あんなに沢山ばら撒いちゃうなんて、今回は大放出だね」
 縁に貸した背をくすぐったそうにしながら、陽花が頭上の偽天使を見上げる。
 十字架をばら撒いていった偽天使たちは、1体だけを残して戦場から離脱していた。残った1体はこちらの動静を監視する役か。となれば、一旦、帰っていった連中も、なんらかの装備なり戦力なりを連れて再び『空爆』に戻ってくるはずだ。
「涙ぐましい努力だな、敵さんも。地には十字架、空には天使。おまけに時間も逼迫している」
 萎えるぜ、と呟くラファル。
 Robin redbreast(jb2203)がふと難しい顔をした。気づいた藤堂が声を掛ける。
「何か心配事でも?」
「いえ。……この田畑は戦闘で荒らしちゃっても大丈夫なのかな、と」
 飛び交う光条の下、暫しの沈黙── 思いも寄らぬ心配に、撃退士たちから笑いが起きる。
「うーん…… 持ち主が避難してからもう何年も経っているだろうし、雑草だらけだし…… また耕作するにしても最初からやり直しだろうし、いいんじゃない?」
 苦笑交じりに返事する藤堂。なるほど、と頷くRobinの顔はあくまで真面目だ。正直、周りがなんで笑っているかも分からない。
「他には?」
「はい。あの『十字架』は線を組み合わせた細長い構造をしています。銃撃系は当たりにくそうなので、精密な照準なしでも当たりそうな攻撃手段を用意しておくべきかな、と。コメット、オンスロート、クレセントサイス、炸裂陣…… 範囲攻撃はたくさんあるので、あたしはそれを撃ち捲る形になると思います」
 再び沈黙。このような状況下にあっても、Robinは淡々と敵への攻撃手段を模索していた。
「そうだよ! こんな所で止まっているわけにはいかないんだから!」
 叫んだのは縁だった。彼女はそれまで何かを描いていたメモ帳のページを破り取ると、それを近場の仲間たちへ配布した。道路の反対側へ逃れた仲間にはメモ帳ごとぶん投げた。
 メモには、縁が高機動車から降りる際に『索敵』で確認しておいた『十字架』たちのおおまかな位置が記されていた。

 12345
A----○----
B 1│ 2 1
C 1 1道 2
D 2│ 1
E 2│ 2 1

(一つのエリアは一辺10m。○は現在位置。数字はエリア内に落ちた十字架の数)

「……そうだな。一つずつ順番に片付けていくしかないか。何事も」
「十字砲火を避けるため、なるべく端から順に削っていこう」
 再び意気を上げるラファルと紫遠。
 Rehni Nam(ja5283)は無表情に、だが、コクリと力強く頷いた。
「鶴岡ゲート攻略戦、その『第二の矢』の切先として…… この敵、殲滅してみせます。鶴岡を取り戻す為にも……!」


 撃退士たちは二手に別れ、道の左右に散った『十字架』たちを北から順番に駆逐していくことにした。
 班分けは、降車の際に左右に分かれたそのまま。東側はチルルにRehni、夕姫、縁、陽花の5人。西側は真一、紫遠、明斗にRobin、小梅とラファルの計6人だ。
「ともあれ、まずは大掃除だ。一匹残らず片付けよう。前哨戦でもあるし、気合入れていくぜ!」
「そうだね。アレを残していったって良い事なさそうだ。見た目もなーんか癪じゃない?」
 グッと拳を握り締めて気合を燃え上がらせる真一に、不敵な微笑で応える紫苑。その横で明斗とRobinが淡々と己の魔具──『薫風のロザリオ』に『ゴルゴンの紋章』と見た目は随分と対照的──を活性化し、準備を進める。
 ラファルは一人後方に残ると、ペンギン帽を乗せた頭を上げた。その視線の先には、上空、戦場外周(AとEの段、1と5の列)を左回りに旋回する天使の姿── メインディッシュを頂く前に、まずは……と呟きながら、ラファルが草の陰に身を沈める。
 『十字架』への接近方法は、おおまかに二つ考えられた。一つはトンボ型がいないことを利用し、直接照準出来ない遮蔽物──生い茂った草の陰に隠れながら近づく方法。もう一つは、速度や打たれ強さ等、己の性能を信じて最短距離で一気に肉薄する方法だ。
 東側に展開した5人は前者の方法を採用した。付かず離れずの距離に散開。範囲攻撃で一網打尽にされることを防ぎつつ。ジリジリと彼我の距離を詰めていく。
「かくれんぼしながら戦闘って面倒くさいわね……」
 身を低く、すり足で移動する夕姫をチラと横目に見ながら、チルル。本来なら先頭切って突撃したいところであったが、さすがに集中砲火を喰らうことは避けたかった。実際、揺れる草の動きを頼りに放たれ来る砲火の勢いを見れば、その選択が正しかったことがわかる。分かりはするが…… 理屈ではなく魂が、なんかもう正面突撃で粉砕したい! と叫ぶ衝動を己自身で宥めすかす。
 一方……
「変身っ!」
 西の草の原の中、『変身(=光纏)』し、黒衣にアーマー、ヒーローマスクを瞬間的に纏った真一がクラウチングスタートの姿勢を取った。その左右には、片膝をつき、両手でリボルバーを構えた紫遠と、手信号でカウントダウンを進める明斗。後ろではRobinがリラックスした──無駄な力を抜いた面持ちで、いつでも攻撃に移れるよう待機している。
 明斗のカウントダウンが0を示す。同時に紫遠と明斗が草の陰から飛び出した。
 照準にB2の『十字架』を捉え、両手で構えたリボルバーを発砲する紫遠。明斗はロザリオから無数の風の刃を投射すると、敵が反応するより早く魔具を黒の円形盾へと変えて構える。
 『十字架』勢からの反撃──B・C段、1・2列からは通常の光線による銃撃が来た。D2の2体は撃退士たちの巧みな位置取りにより、味方が邪魔で射撃が出来ない。
 光条が明斗が構えた盾と紫遠の『シールド』を直撃し、エネルギーの残滓を飛沫に飛ばす。
 直後、草陰からRobinが飛び出した。同時に、地を蹴り、スタートを切った真一も。
「Go! 天・拳・絶・闘…… ゴウライガぁっ!!」
 跳び出す真一。草の原を切り裂くように、飛ぶ様に地を駆ける。魔女の箒を担いで必死に駆ける小梅を後置し、敵を目指す。
 それとタイミングを同じくして、無駄のない動作で目標を定めたRobinが『ファイアワークス』をそちらへ放った。真一の行く手に咲き誇る色とりどりの爆炎の華── その繚乱を見届けることなく、Robinは草陰に身を落としていた。即座に地を蹴り、位置を変える。その場を離れた直後、寸前までいた空間を撃ち貫く光の鋭鋒。膨張した空気に押されるままにRobinは地面を転がり…… 勢いが弱まった所で受身を取って姿勢を正す。
 2つある接近方法の内、西班の6人が選択したのが後者の『最短時間で肉薄する方法』だった。彼らの選択もまた正しかった。西側北部は東に比べて十字架の数が少なく、その分、火力も薄い。
「ゴウライシールド!」
 反撃はただの1条。それを真一は活性化しておいたフローティングシールドを前にかざすことによって受け凌いだ。
 速度を緩めず魔具を換え、次弾が放たれるまでのチキンレース── イニシアチブは……真一が取った。傍らを掠め飛ぶ光条にマスクのゴーグルを照らされつつ、アウルを込めた拳を振り抜く。
「ゴウライ、ハウルストラァァイクっ!!」
 十字架の頭部を拳が打ち抜く── パンチングマシーンの的の様に後ろに仰け反った十字架が、バネ仕掛けの様に身を起こして反撃の光を放つ。それをかわして側面へ回り込む真一。入れ替わる様に草の中を移動してきた紫苑が零距離からリボルバーをぶっ放し。更に正面から突っ込んできた明斗が白銀の槍を扱いて十字架中央を打ち貫く。
 ようやく追いついてきた小梅もまた遅れて箒を振り上げて── 次の瞬間、その姿がシュッとその場から掻き消えた。
 と思った次の瞬間、C2に同じ姿勢で現れる。『瞬間移動』による『跳躍』だ。
「びっくりアターック!」
 B2を飛び越えて躍進したC2の十字架に向かって、小梅は最大射程から『アーススピア』を放った。十字架の足元の地面からズガガガガッ! と突き出される無数の鋭い土の槍。表皮(?)を切り裂かれた十字架から赤い体液(?)が血煙となって宙を舞う。
 更に左手を振ってもう一撃──奇襲により敵は反撃できない── 小梅はもう一度土の槍を放って、後、そのまま草の中へと落っこちた。そのままコロコロと地面を転がる小梅。遅ればせながら反撃の光条が周囲を灼く。
 小梅はカサカサと草の下を這う様に移動すると、暫し身を隠すことにした。バキリ、と何かが折れるような音──仲間たちがB2の十字架を破壊した音だろう。その場合、真一ちゃんは南下を続けるって言っていたから…… 次に自分が顔を出すのはその時で。

 一方、東側──
 草の下に隠れて移動する5人が最初の目標──B4の2体を攻撃範囲に収めようとしていた。
(……まだ? まだかな? そろそろ攻撃範囲に入ったんじゃない?!)
 いい加減突撃したくてうずうずしながら、チルルは今にも飛びかからんばかりに瞳を爛々と輝かせる。
 その地面に落ちる影── ん? とチルルは頭上を見上げた。
 上空を旋回している偽天使が(5の列を)北上しつつ…… ふと唐突に、その手の中に光の槍を生じさせた。
「あ……」
 と何かに気づいて呟くRehni。直後、上空から投げ落とされた光の槍が撃退士たちが潜む草叢の中心に落とされ…… 直後、その周辺のエリアに、B・C段、4・5列の十字架から一斉に光条が放たれた。おまけにD5の個体からは長射程・高威力の貫通攻撃。光の奔流が一直線に草を薙ぐ。
 にょわーっ! となんだかわけのわからない悲鳴を上げつつ、チルルは手近な十字架に向けて、構えた刺突大剣から反撃の『氷砲』を撃ち放った。敵の貫通攻撃に負けず劣らぬアウルの奔流が宙に細氷煌かせつつ目標の敵を飲み込んで── 直後、別の十字架たちから光条を集中的に放たれ、慌てて草の陰へと飛び込む。
「い、1発撃つと5、6発撃ち返されてくるんだけど!」
「やっぱり…… 偽天使の攻撃を目印に十字架たちの一斉攻撃──トンボ型の代わりというわけですね。空からは丸見えですから」
 地に伏せたチルルの横でRehniが淡々と呟いた。
「ちょ、わかってたんなら対応してよ!?」
「先手を取られました。ですが、二度はさせません」
 言い終わる前にRehniは『星の鎖』を使用。自身の腕や身体の回りにアウルの鎖を浮遊させた。直後、偽天使へ攻撃命令。空飛ぶ敵を地に戒める鎖の筋が一直線に空へ飛ぶ。気づき、回避運動を始める偽天使と、それを追う鎖がサーカスの様な軌跡で宙を舞い…… その鎖の始点を狙って十字架たちから放たれる光線の豪雨を、Rehniの前にしゃがみ込んだチルルがアウルの氷の盾で受け凌ぐ……
「『鎖』の命中を確認……」
「おおっ!」
「ただし、抵抗されました」
「ええっ!?」
 一喜一憂するチルルを見て人の悪い微笑を浮かべながら、Rehniは「これも想定の内ではあります」と呟きながら空を見上げた。速度を上げてこちらから離れつつ、だが、戦場に留まり旋回(Aの段を西進へ移行)を続ける偽天使の動きを見やって、Rehniは光信機のマイクに向かって呼びかけた。
「ラファルさん」
「おうよっ!」
 直後、地表、道の西側からドォン……! と轟音が鳴り響き、何もないはずの地面から空中へ炎が吹き上がる。数秒の後、空を舞う偽天使の周りに咲く爆発の華4つ。不意をつかれ、アウルの散弾に晒された偽天使が錐揉み状態で地に向かって落ちていく。
 砲煙の上がった地点、何もないはずの場所から、うっすらとその姿を現し、ガッツポーズを決めるラファル。『俺俺式光学迷彩』を展開し潜んでいた彼女が偽天使を待ち伏せ、アウルの四連装砲──『超巨大高射砲スターブラストセイバー』で敵を地面へ引き摺り下ろしたのだ。
 翼を封じられ、落ちて跳ね転がった偽天使がすぐに地上に飛び起きる。ラファルの方へと向き直った偽天使は、しかし、前方上空、自分目掛けて飛来するアウルの針状ミサイルの群れに気づき、直後、降り注いできたそれに押し包まれた。
「ありったけだ! 喰らいやがれ!」
 再び偽天使へ投射されるアウルの『対天使ミサイル「アゴニーブロッサム」』。無数の針状ミサイルが改めてボロボロになった偽天使に降り注ぎ、無数の爆炎が地上を乱打する……
「……どうやらあちらは片がつきそうですね」
 その光景を見ていたRehniが、どうやら自分が辿り着く前に偽天使との戦闘は終わりそうだ、と判断し、以後はこちらの支援に入ると決めた。
 チルルに続いて前進し、B4にいるもう1体を『生体レンジ』の範囲に捉える。
 『加熱』を続けること数秒…… その十字架がボコリ、と沸騰した次の瞬間、パンッ、という音と共に赤い体液を撒き散らしながら弾け飛んだ。

 その少し前。東側、そんな2人から少し離れた草の下──
 鎖を放ったRehniとチルルに一時、攻撃が集中した時の事だ。こちらを狙う敵の砲撃の勢いが鈍ったことに気づいた夕姫は、迷う間もなくこの機に乗じて反撃へと転じる決意をした。
「陽花! 縁! 私が囮になるわ。十字架たちが私に砲撃する隙に、2人で攻撃を叩き込んで!」
「ええっ!?」
「カウント、いくわよ! 4、3、2……」
「えええっ!?」
 友人たちに反駁する時間も与えず、夕姫は円形盾を活性化させると草の下から飛び出した。
 そのまま自身の左側、B5に孤立した十字架に向かってジグザグに進路を変えつつ突進。何体かの十字架がその『砲口』をチルルたちから夕姫に向け。放たれた光の砲撃が走る夕姫を追い縋る。
「なんて無茶を!」
 叫びつつ、馬竜──スレイプニルを高速召喚し、薙刀を手に飛び乗る陽花。攻撃密度の減少を肌身に感じたチルルが呼応し、B4の十字架へ突進を開始する。
 縁もまた草の陰から身を躍らせると、斜め横に走りながら別のB4の敵へ向け『バレットストーム』──散弾銃を乱射した。舞い上がる草の破片、十字架表面に弾ける散弾。敵が反撃を放つ前に、縁は草陰の地面に身を投じた。それを追う十字架の照準── その反撃が放たれる直前。夕姫が囮となった隙に距離を詰めて来た『馬上』の陽花が、薙刀の切っ先を敵へと向ける。
「やらせないんだよ! スレイプニル! 『ボルケーノ』で支援攻撃!」
 主からの攻撃指示に、嘶き、応じる陽花の馬竜。目標、B4の十字架の周囲にアウルが見えざる力と化して収束していき…… 瞬間、爆発的なエネルギーを開放して周囲の草ごと爆圧する。直後、風の様に疾走して来たチルルが身体ごとぶつかるように剣先を十字架に突き入れ…… 根元から折れて倒れたところを、振り下ろされた陽花の薙刀が『頭部』を一刀の下に断つ。
 夕姫もまた反撃に転じた。B5の十字架の砲撃直後、囮のジグザグ行動の最中に草に身を沈ませ針路変更。直後、別の草陰から一直線に敵へと飛び出し、アウルで硬化した布槍で十字架中央を突き割りつつ、直後に軟化させて引き戻し。そのまま速度を緩めぬまま布を十字架『頭部』に巻きつけジャンピング・ネックブリーカー・ドロップ。そのまま布槍を『首』から『脇の下』へと通して締め上げ、ごきょりと破壊する。
 その間に、縁は『隠密』したまま、匍匐前進で己の位置を変えた。
 びちゃりと湿った土の上を、その身で稲と雑草を押し分け、進む。
 這い進んでいる内に、着衣に水が、肌には冷たさとなって染み込んで来た。
「わぅぅ…… ドロドロで、びちゃびちゃで、草塗れ…… なんだかこういうのも久しぶりなんじゃないかなぁっ?!」
 光条飛び交う草の下、縁が軟土の上で泣く。
 陽花もまた踵を返し、一旦、南の『砲台群』から距離を取った。召喚獣は主とダメージを共有する。囮役がいなければ、貫通攻撃や範囲攻撃を喰らった際に致命傷になりかねない。
 夕姫のいるB5方面へと退きながら、宙を浮遊し走る馬竜の足元に、何かが飛び込んで来たような気がした。
「……あれ? 今、何かいた……?」
 光景はあっという間に後ろに流れてしまった為、確認はできなかった。放たれた光条が陽花と馬竜とを追い立てていた。

 一方、西側──
 B2を制圧した真一は、そのまま速度を緩めることなく南下。小梅が待つC2へと続けて突進を開始した。
 その攻撃にタイミングを合わせて活動を再開し、真一の突撃支援の為に再び『アーススピア』を放つ小梅。仲間の到着に、小梅はもう少しアーススピアを可愛くしたいなぁ、などと考える余裕も出て来た。可愛い──そう、例えば地面から無数の仔猫が出てきてニーニー言いながら引っ掻くとか(?)
 一方、明斗と紫遠、Robinの3人は、西南のC1に向かって移動していた。十字架たちは己の近く──即ち、同じエリアの敵を優先して攻撃する思考ルーチンのようだった。分散すればその分、戦力はきつくはなるが、C2にいる真一と小梅が真横から十字砲火を喰らう危険は避けられる。
「僕が前に出て敵の攻撃を引きつけます! 紫遠さんとRobinさんはその隙に反撃を!」
 自身そっちのけで仲間たちの傷を『ライトヒール』で癒しながら、明斗が仲間たちに声を掛ける。
 自分も回復スキルを持ちなのに治してもらって恐縮しながら、紫遠は大丈夫ですか、と声を掛けた。Robinはありがたく回復を温存し、攻撃に集中することにする。
「相手は1体です。凌げます。それよりもD2からの狙撃に注意してください」
 言いながら、明斗はC1からの砲撃を『アウルの鎧』で受け弾きつつ、ロザリオを振って『コメット』を──空中に生成したアウルの彗星の雨をお返しとばかりに降り注がせた。十字架前面を中心に炸裂する流星雨。射撃と退避を繰り返しながら紫遠がその後へと続き。Robinもまた草の上に身を出すや否や、敵を中心に捉えて『クロスグラビティ』──頭上より降りかかるアウルの逆十字で敵を潰しに掛かる。
 撃退士たちの集中攻撃を受け、最後にメキメキと音を立てながら潰れていく十字架の横で──
 突如、謎の爆発が起こり、撃退士たちは目を見張った。
 ほぼ時を同じくしてC2からも爆発音が響き渡り── 驚いて振り返った撃退士たちが見たものは、爆発に吹き上げられて宙を舞う真一の姿だった。


 何かが爪先に触れたと思った瞬間、真一の身は爆発に包まれていた。
 故に、これから語る光景は真一が自覚してのものではない。
 真一が蹴飛ばしたのは、足元にいた『亀』だった。触れた瞬間、頭と手足を引っ込み、爆発。破片は殆どなく、ただ衝撃波がひたすら派手に真一を空中へと吹き飛ばす。真一は手足をばたつかせる動作(←古い特撮もので良く見かけるアレ)で空中を泳ぐように前回り気味に回転し…… 受身を取りつつ背中から落ちて仰け反りつつダメージ演出(←略)。後、クルリと地を転がってから勢い良く跳ね起きる。
「皆、気をつけろ! 亀だ! 十字架の他になんか亀がいる!」
 直後、光条の集中射撃を浴びて、真一は慌てて草の陰に身を隠した。偽天使を倒し、味方と合流すべく南下していたラファルがその警句に一旦、脚を止めて膝をつく。
「何、え、亀?」
 慌てる紫遠の横で、Robinはそっと耳をそばだてた。
「音がするよ……」
「え?」
「……何かが草を掻き分け来る音が」
 何か棒状のものは…… と探して見つけられず、Robinは紫遠をじーっと見つめた。紫遠はとほほ……と大剣を活性化させると指示された場所の草を掻き分け…… そこに地面をカサカサ歩く亀型とご対面。その異相にわひゃあ、と悲鳴を上げながら大剣を振り下ろし。その切っ先で断ち割った直後、亀が爆発して果てる。
「って、何これ!? 爆発するの?!」
 直後、道の東側でも爆発が湧き起こった。同様にチルルが刺突大剣で草を書き分け、見つけた直後につついて爆発させたのだ。
「えっと…… これ、何かしら……?」
 自身に接近して来た亀型を、夕姫が両端を持って掴み上げた。あ。とそれを見た縁と陽花が硬直し…… 直後に捨てて、捨てて! と腕をわたわた。夕姫が慌てて投げ捨てた先で背中から落ちた亀が爆発する。
「なるほど…… 亀型の自走地雷ってことだね……」
 呟くRobin。爆発自体は大したことはない。大剣の先でつつけば巻き込まれない程度だ。だが、爆発で打ち上げられれば位置がばれる。ばれたら十字架の集中砲火を喰らう羽目になってしまう。
「まったく、こう次から次へと……!」
 スキルを換装しながら慎重に前進を再開するラファル。
 Rehniは『星の鎖』を『生命探知』に換え、その意識を周囲に拡大させた。
(感知…… 動かない反応は『十字架』と判断…… 地中の反応は多分、ミミズとかだから除外……)
 全長5cm以上のミミズ…… 一瞬、想像しつつも動じず、ふるふると頭を振って。残った『地上を動く反応』を地雷亀と判定する。
 一方、西側でも明斗が同様に『生命探知』を使用し、同様の判断で『亀』たちの動きを観察していた。
(一直線にこちらへ向かうものと、十字架の周囲を迷走するもの…… 迷走しているのはまだこちらを捉えていないのだろう。この草の量だ。亀も視覚には頼れない。音? 振動? 十字架は動けないわけだから、ともかく最も近くにいる動くものに反応しているのか?)
「これより地雷亀を駆逐します」
「ラファルさん! そっちにもまだ残った亀がうろついていますよ!」
 生命探知の結果を元に、地雷亀の集ったエリアへ『コメット』を降らせるRehniと明斗。Robinもまた手伝いを申し出、提供された位置情報を下に逆十字を地面へ落とす。
 明斗に警告を受けたラファルもまた舌を打ちつつ、指示された辺りにアウルのミサイルを垂直発射。連鎖する爆発で亀を巻き込み、その進路を開拓していった。


 戦場外縁。草場の陰(←違う)からこっそりひょっこりと顔を出し…… 縁はRehniの再度の生命探知で亀がいると探知されたエリアへそっと『索敵』の視線を送った。
 風に揺れる草の陰にちらと見えた亀の端すら見逃さず、正確な位置情報を仲間へ声をひそめて光信する。
「陽花さん、陽花さん。E5の北側、E4のチルルさんたちに向かって2体の亀が進行中……」
 縁からの報告に、陽花は馬竜の首筋をポンと叩くとそちらへ向かって急行させた。
 既に東側の十字架はE5の1体とE4の2体を残すばかりとなっていた。チルルはRehniの支援の下、目にも見えぬ素早い動きでE4最後の十字架と切り結んでいる。
 縁からの誘導の下、現場へ到着した陽花は、馬竜に乗って宙を翔けながら、草の陰に隠れた地雷亀を上から見つけては、薙刀の石突で上部を突いた。ドンッ! という爆発を後に残し、攻撃位置へ陣取る陽花。そこはもう1体の地雷亀とE5の十字架が一直線に並ぶ位置だった。
「まとめて薙ぎ払っちゃうんだよ! スレイプニル。『サンダーボルト』!」
 カッと開いた馬竜の口元から放たれた雷光が、地面を舐める様にしながら十字架へと直撃する。ドンッ! という爆発と共に吹っ飛ぶ地雷亀。直撃を受けた十字架は…… プスプスとその身を燻らせながら、怒りの反撃を陽花と馬竜に浴びせ掛ける。
「逃げて、陽花さん! 退避だよ! ……あ」
 手に汗握り声援を飛ばす縁とその十字架との『目が合った』。放たれる光線。縁は散弾銃を撃ち捲りながら再び湿った土へとダイブ。草の中、光条の下で泥塗れになりつつ、銃に『ナパームショット』を装填。草の上に銃だけ出して大体の位置へとぶっ放す……
 一方、西側── こちらもD2とE2の2体ずつを残すのみとなっていた。
 『生命探知』で味方に亀の位置情報を伝えつつ、自らもロザリオを振るって味方の進路上から地雷を駆逐していく明斗。Robinもまた指示を受け、流星雨でその周囲を薙ぎ払い。その開拓された進路上を真一はD2へと突進する。
『CHARGE UP!』
 流暢な発音で声が響いた次の瞬間、真一の身体をアウルの黄金アーマーが身を包み。そして、手近にいる十字架に向かって、アウルの力蓄積させた拳を打ち放つ。
『ROOT OUT!』
 Hitの瞬間、命中箇所に閃光と稲光が煌き、十字架は後ろへ仰け反った。
 その傍らを行き過ぎて、どうだ、と振り返る真一。再びバネの様にその身を起こした十字架は、その上半身をふらふらと揺らしていた。スタンが入ったのだ。
「続くよっ!」
 誤射のないよう宣言し、大剣を活性化させつつ肉薄していく紫遠。肩の上に担ぎ上げた大剣にアウルで緑の光を纏わせ…… 鞘持つ左手を己に引き付ける様に引き下ろしつつ右手で太刀筋をコントロール。円を描く軌跡でもって十字架を袈裟切りにして斬り飛ばす。
 更に別のB4に攻撃を仕掛けようとした小梅は、次の瞬間、またB5へと『瞬間移動』した。
「びっくりアタック、ザ・セカンド!」
 ポーズを決めたまま転移し、瞬間、ビッと光条に撃たれる小梅。こてんと草の下に引っくり返った後…… めげずに同じポーズで草の下から出てくる。その背後にはアウルの筋骨隆々な炎の猫魔人。其が吐き出すアウルの炎が2体の十字架たちを巻き込み…… そこへD2を突破してきたラファルがアウルの大型ミサイルを撃ち放つ。
「『多弾頭式シャドウブレイドミサイル』、発射ぁ!」
 空中で弾頭のカバーが外れ、顔を出すマイクロミサイル。そこから一斉に撃ち出されたアウルの小型誘導弾が、次々とにゃんこの炎渦巻く大地と十字架に降り注ぐ(注:描写はすべてアウルによるものです)。
 着弾と同時に弾体からアウルの影の刃が破片の如くばら撒き散らされ、十字架を切り裂き、体液を宙へと舞わす。
 更に、再び東側──
 E4に残ったもう1体を、ザザッ、と敵の内懐へと走り込んだチルルが剣で刺突。ヒビを入れてからクルリと身を回して刀身を横へ薙ぎ、カーン! といい音をさせつつ殴り倒す。
 陽花と縁へ攻撃を仕掛けるE5の十字架の前には、突進して来た夕姫が立ち塞がった。
 これまで側方からの支援射撃に徹していた大型ライフルを横へうっちゃるようにして魔具を換え。草の陰から、引っ掴んだ地雷亀をフリスビーの如く中へと放り…… それを十字架が撃ち貫いた瞬間、布槍を手に撒きつけながら一気にそちらへ肉薄していく。
「私たちはこんなところで立ち止まってはいられないの…… 邪魔よ。どきなさい!」
 十字架が迎撃の光条を放つ瞬間── その右手に輝く『神輝掌』。6mの距離を瞬時に詰めた夕姫が光の力を込めた拳を敵に叩き込み…… 最後の十字架はポッキリと根元から折れ、地に倒れた。


「討ち洩らしはないか? あんな亀でも1匹でも残すと通過する車両の脅威になるぞ」
 全ての十字架の撃破が確認された後── 真一は戦場跡の片づけをしながらそう言って確認を促した。
 『生命探知』を用いて残敵掃討に勤しむRahniと明斗。本隊の通過時刻を聞いて、撃退士たちが擱座した車両を消火し、道路の上から脇へと除ける。
「こちらの配置を看破されているとしても、こんな足止めだけなのは不可解よね」
 救急箱を手に走り回るチルルを背景に、友人たちと共にRobinから回復を受けつつ、敵将を思い返しながら夕姫が呟く。
 ──或いは誘っているのか? それはこの時点では分からない。それでも、自分たちは前に進んでいかねばならない。
「バトンは繋いだ。あとは…… そちらがうまくいくことを祈るよ」
 弟を思い、紫遠が空を見上げる。
 『第三の矢』は、既に放たれているはずだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
飛燕騎士・
永連 紫遠(ja2143)

卒業 女 ディバインナイト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍