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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/25


みんなの思い出



オープニング

 2015年、1月。新学期──
 冬の長い日差しが開け放ちになった窓から入り込み、マンション寮のリビングを朱に染めていた。
 真っ赤な陽の光と影の黒とのコントラスト。ある種、幻想的とも言える自室のその光景に── 久遠ヶ原学園大学部1年、榊勇斗は、まるで自分が金魚鉢の中にいるかの様な心地で、ふらつく身体を壁に支えた。
(油断した…… 最近は依頼を受けてばかりで、この時期、この時間に帰って来ることなんて滅多になかったから……)
 西日の当たる部屋だった。引っ越して最初にこの部屋に入った時に目眩を感じて以降は十分気をつけてはいたのだが……
 壁に背を預けたまま、意識して呼吸を大きくする。動悸が治まるのを待って胸元から手を外し…… 強張った汗まみれの手を見下ろし、頭を振って、皺くちゃになったシャツを伸ばして壁から離れる。
「勇斗さん……?」
 リビングの方から聞き慣れぬ声──いや、ある意味では嫌と言うほど聞き知った声ではあったが──で呼びかけられ、勇斗は両肩を脱力させたまま、ゆっくりと、そちらを振り向いた。
「……そうだな。まずは貴様がなぜ我が家にいるのかを聞かねばならないな。……アルディエル?」
 心配そうに、或いは所在無さ気に椅子から立ち上がった中等部の堕天使に対して。勇斗は赤く染まった壁に黒く長い影を投げ掛けながら、まるで煉獄の幽鬼の如く低い声で口の端を吊り上げた。

 2014年、11月──
 勇斗の妹、悠奈の説得を受け入れ、天界から堕天した天使アルディエルは、当該機関によって思想的な検査を受けた後、晴れて久遠ヶ原学園への入学が認められた。
 当然のことではあるが、学園での日常のありとあらゆることがアルにとっては初めての経験だった。学園寮での一人暮らし。皆で一緒に授業を受けること── 『読み、書き、そろばん』は幼少時に『姉』から手解きを受けてたものの、こちらの世界の文字とかはまだ読み書きは出来ないし、日常生活に関する一般常識もまだ十分に承知していない。
 そんな彼を悠奈とその友人たち──沙希や加奈子、麗華といった面々がフォローした。寮では同じ年頃の男子たちと生活を共にしつつ、学園では初等部に交じって人間社会に関する勉強。放課後は悠奈や勇斗たちと実戦的な戦闘訓練に明け暮れつつ、人間社会の常識を知るべく、妹たちと連れ立って商店街へと繰り出す日々が続いている……
「……で、どうだ? 学園の方は……?」
「はっ、はいっ! 皆様方のおかげさまをもちましてっ! 大変ですが日々、楽しく過ごさせていただいております、兄上殿!」
 『直立不動』で椅子に座った『お客様』であるアルに対して、わざわざその背後を回るようにキッチンから戻って来た勇斗が、入れたてのお茶の入った湯飲みをゴトリとアルの前に置いた。
 自身の席へと座り、背もたれに腕を乗せながらコーヒーカップを傾ける勇斗。元々は緑茶党だったのだが、戦地で安物のコーヒーばかり飲んでいる内にこちらの方もいける口になってしまった。というか、今ではすっかり悠奈の方がお茶を淹れる腕前が上になってしまった為、家では悠奈のお茶以外は飲まないようにしている。
「……ほぅ、それは重畳。……で、この部屋に君がいる理由についてだが」
「ハッ! 悠……妹君からご招待いただいたのであります、サー! なんでも皆で『じょぶちぇんじ』に関する相談をするとのことで」
 目の前の湯飲みの中身──ぼこぼこと泡立つお茶(……なのか?)から目を逸らせずにいたアルが、質問を受けて背を伸ばす。
「……悠奈が?」
 勇斗は大物ぶった演技を止め、素に戻ってアルに訊ねる。
「ただいま〜」
 その時、スーパーに寄って買い物をして来た悠奈が沙希と加奈子を連れ立って帰って来たので、勇斗の興味はそちらへ移った。
 アルは内心、ホッとした。……よかった。コレを飲めと勧められなくて本当に良かった、と。
「おい、悠奈。今、こいつから話を聞いたんだが、ジョブを変えるって本当か?」
「うん。徹……じゃない、アル君、天界の力を失って冥魔と戦える力が弱くなっちゃったでしょ? だから、私たちもこれを機会に出来ることを増やしてみようかなー、って」
「ってか、アルぞう、訓練中に『自分だけ足手纏いだ』、って陰で泣いていたもんなー」
「泣いてない!」
「……そんなわけで、思春期女子のみんなで横並び行動的思考と言いますか、私たちも一緒に何かを鍛え直そうかという話になりました」
 晩飯の素材をテキパキと冷蔵庫に収める悠奈に、スーパーの袋から買って来たお菓子をテーブルの上にぶち撒ける沙希。加奈子は勝手知ったるなんとやら、悠奈を手伝った後、コップをお盆に出して飲み物の準備を始めている。
「すみません、勇斗様。でも、チーム単位での戦力を見直す良い機会かと思いまして……」
 当然の如く勇斗の隣りにしれっと座って殊勝な顔を見せる麗華。彼女自身は現在バハムートテイマーだが、チームの前衛・打撃力不足を考慮し、変更先として(たとえどこかの体育教師と第一分隊長と被ると言われようと)阿修羅を考えていた。理由は情動的なもので、阿修羅になればディバインナイトである勇斗に庇って貰えるあり……
「とりあえず、落ち着け」
 脳内で何かを妄想して瞳を輝かせる麗華を片手で制しつつ、勇斗は、すっかりパーティの準備を整え始めた悠奈たちにそう告げた。女三人寄れば姦しいとは言うが…… ふとアルと目が合って、唯一の同性として互いに何かが通じあったり。
「ともかく、俺も『転職』はしたことがないし…… 相談と言ってもそっちの方面でアドバイスはできないぞ?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん! こんなこともあろうかと、依頼形式で皆に相談を頼んでおいたから!」
 悠奈が告げるや玄関の呼び鈴が鳴る。
 は〜い、と返事をしながらぱたぱたと駆けて行く妹を見やって、勇斗は感慨深く息を吐いた。
「……優しい目をしていますね」
 その小声の主──アルに勇斗が視線を向ける。
「本来、『兄』という存在はそう言う目で弟妹のことを見るんですね…… そう言えば、『姉』もそんな目で僕の事をよく見ていたような気がします。……ファサエルとは共に戦場を渡り歩いてばかりで、会話らしい会話も殆どありはしませんでしたけど」
 自嘲気味に微苦笑を浮かべて目を逸らす少年天使に、少し考え、勇斗は言った。
「……この学園で暮らしていけば、たくさんの人間と関わることになる。その中には良き友人となれる者もいれば、一生の恩師と呼べる人物もいるかもしれない。……家族となるべき人とも。過去の事実は変えられないが…… これまでの分を、ここでこれから取り戻すことは出来るはずだ」
 勇斗の言葉に、アルがなにやら感動した面持ちで「お兄さん……」と涙を浮かべる。
 瞬間、アルは己の失敗を悟った。その単語を聞いた瞬間、勇斗の片眉がピクリと上がる。
「まぁ、お前の家族となるのが悠奈とはまだ限らんがな! 新たな出会いもあるかもしれんぞ? ぬ、だが、悠奈を泣かすことは許さんからその場合は堕天した挙句にゴートゥーヘルでターンエンドだ。むぅ。これでは八方塞りではないか、アル、っていうか俺。とりあえず俺が出したお茶は飲まんのかね……?」


リプレイ本文

「あけましておめでとう。だいたい一月ぶり……かな? 今の生活にはもう慣れたかい?」
「というわけで、呼ばれて飛び出たんだよー! アルくんもどうやら(ある意味)馴染んでるみたいで、安心したんだよ♪」
 相談に乗るべく訪れた友人たちがやって来ると、榊家のリビングはまた一層賑やかになった。
 土産の煎餅を提げて、アルに新年の挨拶をする永連 璃遠(ja2142)。おかげさまで、と答えるアルの後ろで、彩咲・陽花(jb1871)は持参した自作の苺ケーキ(ホール)を悠奈に手渡すと、麗華と反対側の勇斗の隣りにしれっと座った。横にぴったりくっつくように椅子を寄せてにっこり笑う陽花にムッとして、麗華もまた勇斗に身体を寄せ。笑顔の下にオーラを隠した竜虎が互いを牽制する。
(モテモテだな、勇斗。けどなんかあんまりうらやましくはないぞ……!)
 そんな3人と机の角を挟んで座りながら、日下部 司(jb5638)は生暖かい視線で勇斗を見やった。妹の前だから、と動じた様子は見せない勇斗の背中は、だが、汗でびっちょりだ。無言で助けを求める勇斗の視線に気づかぬふりで、司がアルに話しかける。
「しかし、年頃の女の子が男の子を一人残して家を出るなんて、悠奈ちゃんもかなり大胆だな…… まあ、それだけアルが信頼されているということなんだろうけど」
「すぐにお兄さんが帰って来るから、と言われていましたから」
 訂正を入れつつも、どこか嬉しそうにアルがはにかむ。
「実はアルも悠奈に異性として見られていないという可能性は……」
「いい加減、現実を見ような、勇斗」
 そんなこんなで盛り上がっていると、魔法の箒に跨った白野 小梅(jb4012)が「こ〜んにちはぁ〜♪」とベランダへと降り立った。お茶会の気配におおっ、と目を輝かせ。手にした某ドーナツチェーンの箱入りドーナツ3箱を手にテーブルへ駆け寄るといそいそとお気に入りの一品を取り出し、それを半分に割って一方を悠奈にはい! と手渡し。もう一方は璃遠と話すアルの口へ「はいっ!」と無理やり突っ込んだ。
「っ!???」
「アルちゃん、それが人間界の代表的スイーツ、ドーナツなの」
 おいし? と小首を傾げ、続ける小梅。彼女が言うには、今、人間界のスイーツはドーナツ戦争の真っ最中であるらしい。ドーナツ一つの売れ行きでコンビニ業界の勢力図も変わるとかなんとか。
「と、いうわけで、ボクは今、ドーナツ信者を増やすべく、絶賛布教活動中なの」
 さらに別の一種を取り出し、有無を言わさず増援投入。のどを詰まらせたアルが堪らず目の前の湯飲み──勇斗が淹れたアレ──を手に取り…… どろり濃厚な薬膳茶(の様な何か)の粘度と味に顔を七色に変え(←昭和的表現)つつ、どうにか呑み込む。
「ほう……? 吐き出さなかったことは褒めてやろう。食べ物を粗末にする奴に悠奈は任せられんからな……」
(勇斗がなんかかなり面白い感じの壊れ具合に……!)
(なんだかなぁ)
 拳をグッと握る司の横で、葛城 縁(jb1826)は苦笑を浮かべた。
 あらゆる意味で前途多難そうな悠奈とアル(ともう一組)を見やって、思う。先は長そうだなぁ…… 私? 私は…… そんなことよりお腹が減ったよ?

「ジョブチェンジか…… 俺自身は今の所、ルインズを極めることに集中しているから考えたこともないけど、色んなジョブのスキルが使えることはやっぱりプラスになることだよね」
「今、考えてみると確かに悠奈ちゃんたちのチームって微妙にバランス偏っているもんね。アル君も加わったことだし、ここらで色々と見つめなおしてみるいい機会かな?」
 なんだかんだでテーブルについて、茶と茶菓子を囲みながら…… 皆は今日の本題──ジョブチェンジに関する話題に入った。
「えぇっ!? 悠奈ちゃんたち、『転職』するの?!」
 驚いたのは小梅だった。転職についての話は今知ったらしい。
「反対だよぉ。ジョブチェンってぇ色々と技は増えるけどぉ、一時的に弱くなっちゃうよぉ……? 特に前衛と回復はぁ、専念して崩さない方がいいんじゃないかなぁ」
 麗華ちゃんもぉ、と小梅が続ける。
「バハムートテイマーって、強くなったらもっと色々と呼べるんでしょ? いいなぁ、いいなぁ。やっぱりバハムートのままがいいよぅ」
 小梅の中で興味が変わった。麗華が呼び出した召喚獣ときゃっきゃうふふと遊び転がる自分の姿を想像し、きらきらと瞳を輝かせる。
「僕も『転職』はしたことはないから、経験者としてのアドバイスじゃないけど…… とりあえず、クラスチェンジしたらフォーメーションが変わるはずだから、イメージし易そうなものを持って来たよ」
 璃遠はそう言うと、持参してきたチェス盤と駒を取り出し、テーブルの上に広げた。物珍しげに駒を手に取る中等部女子たちの興味が収まるのを待ってから、それぞれに駒を選ばせ、まず適当に盤上へ並べる。
「まず悠奈ちゃんたちに聞きたいのは、将来的に今のジョブをメインとするのか、それとも転職先をメインにするのか、ね。私としては今のジョブをメインに補助として転職先のスキルを習得していく方が良いと思うけど」
 夕食の鍋を作るべくキュッとエプロンを締め、悠奈と共に台所に入った月影 夕姫(jb1569)がキッチンからそう訊ねた。
 悠奈たちは顔を見合わせると、そのつもりです、と夕姫に答えた。これまで積み重ねてきた経験が最も高いのが今の職だ。総合的な力を考えればそれを無駄にしたくはない。
「了解。となると…… まず確定なのは、希望がはっきりしている麗華ちゃんかしら?」
「うん。自分がなりたいジョブに挑戦するのも手の一つだね」
 頷くと司は麗華の駒──白のクイーンを受け取り、盤上の前衛へと置いた。
「前衛とか、後衛とか、これだと一目で分かりやすいでしょ? 自分たちの立ち位置を想像しながら動かしてみればいいかな、って。攻め手、守り手、支援役…… 常に隣り合わせな位置の人とか、誰が誰を守るとか……」
 璃遠の説明を聞いた麗華が早速、ウキウキと勇斗の駒──黒のルークを自分の駒の隣りに置こうとする。
 そこへ陽花が自分の駒を──白のナイトを割り込ませた。二人の間に走る見えざる電光──勇斗は硬直したまま沈黙する。
「……なんですか? 阿修羅となる私の隣りに守り手たる勇斗様が来るのは当然のことと思いますが?」
「気が早いよ。勇斗くんが転職してディバじゃなくなったら守り手ではなくなるし」(←『先読み』)
 なんとなくばりばりと轟く雷鳴。その熱雷を感じておおっ、と呟く沙希と加奈子。一方、璃遠は気配に気づかず「ん?」とその小首を傾げ。小梅は一箱全てのドーナツを半分に分けると構わずアルへと押し込み続ける。
「勇斗くん。『転職』するなら同じ防御型のアストラルヴァンガードがお勧めだよ。今までの戦い方を続けるのであれば長所をしっかりと伸ばすのは悪いことじゃないしね。……阿修羅さんを守る事はできなくなるけど!」
 やいのやいのと騒ぐ友人たちを見やって、夕姫と司はそれぞれに嘆息した。
「……まぁ、勇斗くんと沙希ちゃんに関してはこのままでもいいと思うけどね。突き詰めてより強くなるのも必要だろうし。……それでも敢えて言うなら、沙希ちゃんは陰陽師? 攻撃の手数を減らさず自力で回復できるようになるし、攻めにも守りにも選択肢が増えるし」
「攻撃力特化の阿修羅も沙希ちゃんの選択肢ではあるんだけどなぁ。ただ、その場合……」
 そう言って意味ありげに沙希を見やる司。気づいた沙希がピンと来て…… 麗華に向けてニヤリと笑う。
「あー、そっかー。攻撃重視で阿修羅も手かぁー。そうなると私も勇斗先輩に守ってもらわな……って、ヒィッ!?」
 冗談口を最後まで言う事は出来なかった。何かの情念を背負った陽花と麗華が笑顔のまま沙希を振り返ったからだ。
「……平和ですね」
「あー、うん…… 平和???」
「少なくとも刃傷沙汰にはなっていません」
「……あれ? 私の知る平和とは少し違うヨ……?」
 呟く加奈子に戸惑う縁。その加奈子の服の端を、とことこと寄って来た小梅がちょいちょい引っ張る。
「加奈子ちゃんはぁ、ニンジャとかどうかなぁ?」
「ニンジャ…… 鬼道忍軍ですか?」
「そう! ボクがぁ陰陽師とハイブリッドだからぁ、加奈子ちゃんはニンジャのハイブリッド!」
 おおっ、と瞳を輝かせかけた加奈子は、だが、それを曇らせた。
「ですが、ニンジャになったら語尾にニンニンをつけねばならない……」
「そうだよ!」
 めっさ良い笑顔でさらっと言い切る小梅。なぜならそっちのが面白そうだから!
「忍ぶならどっちかっていうとナイトウォーカーじゃないか? 魔法攻撃スキルも多いし。カオスレート変動技の多いインフェとかもおもしろいと思うけど」
「そうね、攻撃重視ならナイトウォーカー、防御重視ならアストラルヴァンガードかな。殲滅力か回復がもう1枚あるとかなり違うから」
 いつの間にか、司と夕姫がこっちに来ていた。彼らが去ったテーブルの東部戦線(?)では陽花と麗華に挟まれた勇斗が左右からケーキやスコーンを口に押し込まれ。そこへアルが自分の前にあった薬膳茶をそっと勇斗の前へと押し出す……
「大丈夫でしょうか……?」
 加奈子は懸念した。いや、勇斗のことではなく。これまで殲滅力を活かせなかった自分がそちらを伸ばす方向で良いのか、と。
「大丈夫。その内、物凄い数と嫌でも戦う機会が来るよ」
 どこか遠くを見やるようにしながら、縁が乾いた笑いを零した。押し寄せる骸骨銃兵の方陣をサイケデリックなカラーで思い出す。……アルが仲間になった以上、今後は掃討戦も増えるだろう。殲滅力はより重要になる──縁は加奈子の肩をポンと叩いた。
「悠奈ちゃんも。アスヴァンは回復役だけど、戦術次第でアタッカーにもなれるんだからね」
 縁は回想する。群れ来る敵集団を前に高笑いをしながら、心底楽しそうに範囲攻撃をぶっぱなす友人──桜井・L・瑞穂(ja0027)(←黒目線入り。SE:高笑いと爆発音)の姿を。
「他の前衛と一緒に戦ったり、いざと言う時には範囲攻撃を担って、戦況を立て直す役割もできる…… うん、まぁ、あそこまで派手になられても、お姉さん、困っちゃうけど」
 転職をするのなら…… 勇斗かアルが回復を覚えてもいいかもしれない。チームの回復能力が下がる分、一人じゃ追いつかないこともあるだろうから。
 そう言って2人の方を向いた縁は、瞬間、顔を七色(←昭和的以下略)にして倒れる勇斗を視界に捉えた。
「……平和ですね」
「あれ? 平和って混沌って言葉と同義だっけ……?」

「話が進まなくなったら、気分転換にお風呂や買い物に行って外の空気を吸ってくるのも良いかもしれませんね」
 とりあえず場を落ち着かせる為、璃遠の提案に従い、休憩を取ることにした。
 意識を取り戻した勇斗が一人でそっと璃遠に近づき、訊ねる。
「教えてくれ。璃遠が愛読している小説の名探偵たちだったら、俺はどうすればいい?」
「……すいません。ちょっと難易度が高すぎます……」

 夕食が出る。ミトンで鍋を運んでくる夕姫に、配膳を手伝う学生たち──
 何の間違いか、『殺人クッキング』陽花の作った料理がアルの前へと並び。
「いや、普通に美味しいですけど……」
 という彼に。「練習の成果が出た」と喜ぶ陽花に「そんな馬鹿な!」と取り寄せた料理を口に運んだ縁と夕姫が悶絶して倒れ伏し。未だ成功率は低いと知る。

「アルくんは前衛向きなクラスを希望なんだね。僕もそれで良いように思う。今までの戦い方をそう簡単に曲げる必要はないからね」
 璃遠はアルにそう頷くと、彼を表す駒──黒のビショップを前衛に置いた。
「『似たような戦法を取れるクラス』の方がやり易いかな? そうするとルインズかアスヴァン?」
「器用さと変幻自在さが持ち味っぽいから、アカBかな。防御低いから注意が必要そうだけど」
 陽花と夕姫がそう言うと、小梅もアカレコに賛成した。うん、他の人とジョブが被らないのは良いと思うよぉ?
「……うん。アルくんにはいずれは話をつけなきゃいけない人もいるわけだし、その為にはやっぱり後衛職だと難しそうな気がする」
 璃遠の言葉に、勇斗は難しい顔をした。先程までとは打って変わって真剣な表情だった。
「……やはりファサエルを放っておくわけにはいかないか? 俺としてはもうあまり悠奈たちを危険に巻き込みたくはないんだが」
「どう決着をつけるにせよ…… やっぱり僕が行かなければならない……と思う。『弟』として。……どうすれば良いのかなんて、まるで考えついてもいないけど」
 いざとなれば一人でも── そう告げる少年天使に対して、「アルくん」と悠奈たちが少し怒って見せた。
「アルくんはもう一人じゃない。もう少しお兄ちゃんや私たちを頼って……ううん、信じてくれてもいいんだよ?」
 アルの手を両手で包み、兄をジッと見やる悠奈。夕姫が笑みを浮かべ、勇斗の肩をポンと叩いた。
「……『アカBは防御力が低いから注意が必要』よ、勇斗くん?」
 ……なんか生暖かい視線を向ける仲間たちに深く、大きく嘆息して。勇斗は心配そうに自分を見る悠奈とアルとに向き直った。
「……初撃だけだ。初撃だけダメージを肩代わりしてやる。他にも守るべき対象はいるんだ。だからさっさと経験を積んで強くなれ」


「まあ、転職に制限はないから、色々やってみて自分に一番合ったものでいいと思うわよ」
「私もなんだかんだでインフィルトレイターが性に合ってるって思ったしね。何より自分に合っていると思えるのが大事じゃないかな!」
 相談を終えて、榊家の玄関先──
 見送りに出た悠奈たちに向けて、夕姫と陽花がそうぶっちゃけた。
 ただし、転職直後はレベルが下がり、動きが鈍くなるから要注意。一歩一歩確実に、進んでいくことが大事だ、と縁が母の言葉を伝える。
「守りを固くするなら一度ダアトを経由するのもありだぞ、勇斗。実戦において後衛の視点や動きを学ぶこともできるしね。まぁ、しばらくは歯痒い想いをするだろうけど」
「アル君も。いつでもお姉さんたちに相談するのよ? そう『お義姉さん』に!」
 勇斗に告げる司の横で、なんか他とは違うニュアンスで義姉を強調する陽花。気づいた麗華がそれに食って掛かり、更に悠奈のツッコミが入る。
「ちょっと! 勇斗様は私の『お兄様』ですわよ?!」
「いや、私のお兄ちゃんだからね……?」

 数ヵ月後── 2015年、夏。
 半年の間、経験を積み、研鑽を重ねた彼らは戦場へと戻る。
 アルの『兄』、ファサエルのいる山形、鶴岡ゲートへと──


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド