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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/05


みんなの思い出



オープニング

 2015年、1月。新学期──
 久遠ヶ原学園高等部の体育教師、松岡は、その日、初等部教師からの依頼を受けて、生徒たちの『戦闘訓練』の教官を務めていた。
 『戦闘訓練』といっても、相手は初等部の1年生──アウルの素質こそあるものの、まだ幼い子供たちである。即戦力ではなく将来的な戦力化を念頭に編成されたクラスであり…… つまり、殆ど普通の小学1年生と変わらない。
 松岡は依頼を持って来た知り合いの初等部教師と相談し、遊びの中に訓練の要素を織り込むことにした。
 例えば、缶蹴り。松岡が鬼となり、まずは子供たちに自由に行動させて、連携もなくばらばらに缶を蹴りに来た子供たちを捕まえまくる。
 終ったらミーティング。なぜ勝てなかったのか意見を出させ、子供たちが飽きかけてきたところでさり気なく、ジョブごとにゲーム形式でスキルの訓練。再び缶蹴りを始める前には『作戦会議』を開かせて、どうすれば勝てるようになるか、を子供たち自身に考えさせる。
 そして、2回目──
 1回目はてんでバラバラに、好き勝手に行動していた子供たちが、2回目以降は全包囲や誘引、挙句には飽和攻撃まで仕掛けてくるようになっていた。
 松岡を共通の敵と認識し、チーム全体としての勝利を希求した結果である。スキルに関しては言わずもがな。新しく得た知識や技能を即座に遊びに応用させることに関しては、子供たちは大人などよりよっぽど柔軟だ。
「まつおかせんせ〜、さよーならー!」
 勝利の興奮冷めやらぬまま、手を振り去っていく子供たち。松岡は笑顔でその背を見送って……
「なにやってんだ、俺は……」
 一人きりになった瞬間、そう言って肩を落とした。


 11月の新年度を機に、松岡は学園の実務教師を退職するつもりであった。そして、一人の撃退士として、最前線で天魔と戦うつもりであった。
 松岡には友人がいた。戦友がいて、憎からず思っている女(ひと)もいた。彼らは共に旧体制下の学園で訓練を受けた仲間であり…… 共に学園ゲートが出現した際の惨劇を目の当たりにした立場であった。
 惨劇の際、当時22歳の松岡は、まだ歳若い中等部の後輩たちと共にいた。後輩たちの中には、藤堂──松岡が憎からず思っていた女性の弟、慎もいた。
 彼らは、学園から教え込まれていた撃退士としての義務感──力なき人々の盾となり、剣となりて天魔を討つ、という教えに従い、勇敢に戦い、そして、帰らなかった。
 松岡はそれを止められなかった。彼等を守って重傷を負い、動けなくなっていたからだ。あどけない笑顔で振り返り、戦場へと向かう少年少女を、松岡は無力感に打ちのめされながら見送ることしか出来なかったのだ。
「お前なら、慎たちを連れ返ってくれると信じていたのに──」
 ただ独り、おめおめと生きて帰った松岡に対し、藤堂は空虚な表情でそう告げた。それが怒りでも非難でもないことは松岡にもわかっていた。ただ、その信頼に応えられなかった己の無力を恥じた。そして、なにより── 戦いの煤に汚れたまま、泣きつかれた藤堂の何もかも空っぽになってしまったかのようなその表情── 好きな女にそんな顔をさせてしまった自分が、何よりも許せなかった。
 それ以降はなにもかもが変わってしまった。
 藤堂とは会う機会も減った。合わせる顔がなかった。
 更に、天魔への復讐へ燃える学生たちにさらに追い討ちをかけるように、自分たちが受けた軍隊式教育がアウルの成長を著しく阻害するという事実が知らされた。多くの撃退士の成長が頭打ちになる中で、松岡は順調にアウルの力を伸ばし続けた。真面目に訓練を受けてきた連中が馬鹿を見て、ちゃらんぽらんにやっていた松岡が例外となった、という事実は、元々周囲から浮きがちだった松岡を更に孤立させた。
 卒業後、一部の学生たちは有志を募り、相互扶助を目的とした民間の撃退士会社を設立した。友人たちも参加したが、松岡は参加しなかった。自分を特別だと思っているのだろう、と、周囲は裏切り者扱いした。
 松岡は、教師となった。
 旧体制下の学園においてアウルの成長が阻害されていない人材は貴重だった。熱心な勧誘を受けたものの、多くの学生たちの人生を狂わせた学園に残ることに、当初は気が進まなかった。
 空っぽの松岡を変えたのは、説得に来ていた中年男の一言だった。
「無駄に、してしまうのかね……?」
 誰が、何を、とはその男は言わなかった。考えさせてください、とそれだけを松岡は搾り出した。
 数日後。松岡は要請を受諾する旨、自ら男に伝えに行った。
 男は破顔しなかった。ただ、松岡の内面を慮って、その腕をポンと叩いた。

 2007年、春── 新体制の下、新たな久遠ヶ原学園が開校。以来、松岡は教師として多くの撃退士を育ててきた。
 担任として最初に受け持った生徒の中からは、自分と同じ教師になる者もいた。
「私は、先生に憧れてこの久遠ヶ原学園の教師になったんですよ!」
 同じ体育科に配属になったその生徒、安原青葉が再会に際して告げられた言葉に、教師冥利につきながらもこそばゆい笑みを零す。

 やがて、順調に成長して来た松岡のアウルの力も、遂に頭打ちになる時が来た。
 軌道に乗った学園の教育方針は、幾人もの教え子たちを松岡以上の撃退士たちへと成長させた。
「もう、自分の役割は終ったな…… ようやく」
 ある種の充足感を胸に、秋晴れの空に呟く。
 そんな折、山形のとある最前線で、かつての仲間たちが作った民間撃退士会社(通称『笹原小隊』)が危機に陥っていると聞いた時、松岡の身体は自然と動いていた。
 依頼の形式に乗っ取らずに事後契約の形で生徒を集め、『小隊』が守る『砦』へ増援として自ら率いて送り込む。
 結果として、学生たちの奮戦により『小隊』と『砦』は守られた。だが、松岡は己のしでかしたことを、内心、愕然と振り返った。
(俺はいったい何をした──? かつての仲間たちを…… いや、かつて好きだった女を死なせたくないと言う己のエゴの為だけに、生徒たちを危険に送り込んだっていうのか……!)
「松岡…… 松岡だって!? いったい今更どの面下げてのこのこ現れやがった?!」
 顔を合わせるつもりはなかった藤堂は、そう言ってグーで松岡の事をぶん殴った。そして、自分を庇って怪我をした松岡の病室を包丁を持って訪れ、リンゴを剥いてやった。
 そこへ見舞いに訪れた青葉が鉢合わせして…… なんか見えざる女の戦いに、皿のリンゴは山盛りになった。

「私は反対です! 生徒たちはどうするんですか?!」
 学園を辞めようと思う── 最初にそう打ち明けられた時、青葉は松岡にそう答えた。
 多くの者は、青葉が松岡を自分の側に繋ぎとめる為に反対している、とそう捉えた。恩師としてではなく一人の異性として、青葉が松岡の事を想っていることは、当事者以外の周囲からはバレバレのことであった。
「違います。松岡先生が本当に藤堂さんと元鞘に納まるつもりで学校を辞めるのならいいんです。……いえ、ぜんっぜん良くはないんですけどっ!」
 問われた青葉は真っ赤になってわたわたした後…… 至極真面目な、或いは深刻な表情で俯いた。
「でも、きっと違うんです。松岡先生が戦場に戻られるのは、きっと……」


リプレイ本文

 久遠ヶ原学園、屋上。夕刻──
 冬の落日に赤く染まった学園を見下ろしながら── 悩める男、松岡は、その日一日の出来事を──生徒たちから掛けられた言葉を思い返していた。

 早朝── 妙に早く目を覚ましてしまった松岡は、ふと屋上に顔を出していた。
 薄蒼い空の下、寒々しいというよりは、透明感のある冷たい空気── 深呼吸をして、一人、体操を始める……
 早朝の体操は、松岡の学生時代の日課だった。集団行動を重視する旧体制下では寝坊は勿論、早起きも禁止であったのだが、いつの間にか同班の皆が松岡に付き合って参加するようになったため、教官も苦笑しつつ黙認していたものだった……
「おはよう、先生! やっほー! 朝からそんな暗い顔してどうしたのさ!」
 感慨に耽りながら大きく胸を反らした所で、明るい元気な大声と共に思いっきり背中を叩かれた。
 咳き込みつつ背後を振り返ると、雪室 チルル(ja0220)がそこにいた。
「……そんなに暗い顔してたか、俺?」
「うん! なんか唐突に昔のトラウマか何かと再会してこれから自分はどうするべきかとか悩んじゃってるキャラっぽい顔してた!」
「……えらく具体的だなぁ、おい」
「あたいが相談に乗るよ!」(←微妙に聞いてない)

(暗転)
 ──学園を辞めようか悩んでいる。
 そう告げると、月影 夕姫(jb1569)と彩咲・陽花(jb1871)は驚いた顔をした。
 場面は、昼食時、サブグラウンド── グラウンド脇の土手の芝生にシートを敷いてお弁当を食べる2人の光景。松岡は体育倉庫から自主訓練用の機材を運び出している。
「学園を辞める……ね。いったい、どういった想いでその考えに行き着いたのかしら」
 夕姫は、なんか静かに怒っていた。箸を止め、自らも正座しながら、たしたしと膝を叩いて松岡をシートの端へ呼ぶ。
「笹原小隊の砦への増援が自分のエゴ? 先生、貴方、何様のつもりですか。……確かに、きっかけは先生だったのかもしれません。でも、あの時、私たちが人を集めたのも、その呼びかけに応じて皆が集まったのも、自分たちで考え、自分たちの意志で行動した結果です」
 友達や、大切な人や、同じ学園生や、共に戦う戦友たちを。天魔に怯える力なき人々を助けたい── そんな想いが学生たちを行動に駆り立てたのだ。それを松岡のエゴと言うのは、集まった生徒への侮辱でしかない。
 正座をしたまま姿勢良く腕を組んだ夕姫の前で、項垂れる松岡。いや、まったく仰る通りで全く以って言葉もないです、と土下座でもしかねない勢いだ。
 そんな夕姫を、巫女服姿の陽花が宥める。いや、全然怒ってないケド? とぷりぷりする夕姫に茶を勧めつつ、陽花もまた松岡を振り返って言う。
「砦の救援に行った人たちは皆、自分たちがそうしたいと思ったからそうしたんだと思うな。誰に強制されたわけじゃない。そこで戦う人たちを助けたいとまず自分で思ったからこそ、先生の言葉を聞いて集まり、駆けつけてくれたんじゃないかな?」
 だから、先生がそのこと自体を気にすることはないよ、と陽花は言った。一瞬、ホロリとしかけた松岡は、だが、続く陽花の言葉にトドメを刺される。
「うん、それを先生のエゴだと考えるなら…… やっぱり、皆に失礼かも」

(暗転)
 同じ様なことは、雫(ja1894)にも言われた。
 場面は放課後。自主訓練が行われているサブグラウンド。体操服姿の雫が無表情で、だが、どこか呆れたように松岡を見返している。
「私も山形の戦線に赴きましたが、それは私自らの意志です。恐らく、増援に出向いた皆も同じ。危険に追い込んだと思い込む事こそエゴだと思いますよ」
 雫の言葉に、うん、それは重々…… と胃を押さえて俯く松岡。
 生徒たちがそう言ってくれるのはありがたい。だが、問題は松岡の心の内にある。
 確かに、松岡のエゴなのだ。なぜなら、彼は……

(暗転)
「教師を辞めて…… 山形に、行かれるつもり……?」
 自主訓練終了後。オリーブドラブのタンクトップに野戦服姿の雨宮アカリ(ja4010)が、汗を拭きながら松岡に訊いた。
「……気づいていたのか」
「これでも元は軍人よぉ? だいたい察しはついているわよ」
 水分補給の為のスポーツ飲料を受け取りながら、松岡の隣りの芝に腰を掛けるアカリ。これまでに敵味方を問わず、どれだけの死を見てきたことか……

「先生は何をしに戦場に赴くのですか?」
 訓練中、松岡と並んで走りながら雫が訊ねた。勿論、天魔と戦う為だ、と答える松岡。訊き方が悪かったようですね、と頭を振る。
「……先生は、何の為に戦うのですか? 贖罪の為ですか? それとも…… 死に場所を探す為ですか」

「兵士として、一人の人間として『小隊』に加わるのなら、持てる力の全てを尽くして欲しい。でも、もし、贖罪のつもりとか、小隊の皆と『心中』することが目的なら……」
 その先は敢えて続けず、アカリが傍らの松岡を振り返る。
 無言で顔を上げる松岡。その視線の先、実戦装備に身を包んだ雫がこちらに歩を進める……

「天魔との戦いは、あるかないかも分からない先生の『罪』とやらを償う為の場ではありません。明日を望む人たちが未来を賭して戦う場です。その様な場所に、死に場所を求めて来られるのは周りの皆にも迷惑です。……そうは思いませんか?」
 実践訓練の最中、問われて身体を硬直させた松岡に、雫は大きく溜め息を吐いた。
「失礼ながら、正直、今となっては阿修羅としての力は私の方が上…… 力が頭打ちとなった先生に、いったいどれ程のことができるというのです?」
「……挑発か? だったら、乗るわけにはいかないが……」
「模擬戦──あくまでも訓練ですよ? 時は自主訓練終了後、場所はここ。……戦場に赴くというのなら、その覚悟の程を見せてください」

「松岡先生! 組み手をお願いします!」
 全ての訓練終了後。日も暮れ始めた校舎への帰途の上──
 松岡を見つけて駆け寄って来た黒井 明斗(jb0525)がそう言って『訓練』を申し込んだ。
 どこか疲れてボロボロになった松岡が手の平で額を押さえ…… 今日は良く生徒に対戦を申し込まれる日だ、と嘆く。
「黒井も俺の覚悟を問うとか、そんな感じか?」
「いえ、自分が納得したいからです。……先生も、何も考えずに頭を空っぽにしてみるのも良いかと思いますが?」

 個人としての松岡の戦い方は、実に阿修羅らしく攻撃に特化したものだった。
 最も強力な敵に正面から突撃し、我が身も顧みずに圧迫をかけ続けて制圧する。恐らくは支援役を伴うことが前提の戦い方だろう。──藤堂や、杉下と共に戦っていた時の。

「実戦訓練の時は、先生、いつも後ろで生徒たちを見守り、指示を出すことしかしていませんでしたからね。それが本来の戦い方ですか」
 猛攻を凌ぎつつ、反撃で削り、打ち崩して…… 倒れた松岡を見下ろしながら、荒い息で雫は言った。
「今までもそうやって己を殺しながら、生徒たちに戦い方を…… 生き残り方を教えてきたのでしょう? 先生が学園に残り、教職を続けていけば、戦場で命を落とす生徒は減り続けると思うのですが」

「私としては、昔の学園を知っているからこそ、松岡先生にはこのまま学園に残って先生を続けて欲しいって思うんだよ」
 何かがグサリと突き刺さって落ち込んだ松岡に、陽花はそう言葉を続けた。
「その過去があればこそ、今、教えられることもあると思うんだよね。……それに、やっぱりどう言っても私たちにとって先生は先生だしね」
 縁(葛城 縁(jb1826))も言っていた。──何時迄も過去を見るのではなく、未来を見る為に後進育成に集中して欲しい。優秀な教師が一人でも居てくれた方が、自分達、学生もその教えを糧としていくことができるのだから、と──
「学園を辞めるのはもう教えることがないからですか? それとも守れなかった後輩たちをかつての仲間に重ねたからですか?」
 そっぽを向いたまま、夕姫も陽花に続く。
「罪悪感というなら、それはただの自己満足です。藤堂さんたちの信頼は得られませんよ。……さっき、1年生を教えていた先生や生徒たちは本当に楽しそうに見えました。『無駄にしない』為じゃなく『未来の為』に…… あれこそが先生ができることじゃないんですか?」

「失った命、奪った命への償いは、戦いで死ぬ瞬間まで全力で戦い続けること…… どう死ねば償えるか、より、どう生きれば償えるかを考えるべきでしょう?」
 倒れた松岡の横にしゃがみ込み、そう言葉を掛けたアカリは、だが、松岡の表情を見て小首を傾げ…… ハッと気づいて、訊ねた。
「……もしかして、先生、教師を続けることが苦痛なの? 今の生活自体が嫌で堪らない?」


 松岡に組み手を申し込みに行く前のこと。明斗は青葉が主催する放課後の料理教室を訪ねていた。最近の松岡の様子について、青葉に話を聞きに行く為だった。
 安原先生はいますか、と扉を開けて── エプロン姿の女性とたちが一斉に振り返る。男一人いないその空間に明斗は何となく顔を赤く染めて…… 眼鏡を指で直しながら、青葉を廊下に呼び出した。
「授業は勿論、放課後の自主訓練の教官も、これまでと変わらず、真面目に、一生懸命にやっているわ。……でもね、それが終った後に時々、ふっと空を見上げて、心ここにあらずと言った感じになる時があるの。まるで抜け殻にでもなったような感じ。あんなのは──」
 あんなのは、そう、初めて担任として松岡先生に会った頃以来だ。生徒の前では明朗快活な良い先生。だけど、その心の奥底では──

「──早朝の体操は禁止だった。班の皆が付き合ってくれるようになって、教官も苦笑しつつ黙認してくれた。……だが、その教官も今はない。同級も3分の1が死んだ。残った連中は今も最前線で戦っている。そして、俺はこの学園で一人、体操を続けている……」
 地面に倒されたまま、松岡は教え子たちに想いを吐露した。
 許されるのか? いや、許されたとして、俺はそれに耐えられるのか?
 先程、生徒たちは松岡がエゴだと思う事こそエゴだと言った。……確かに、それは松岡のエゴだった。学園を辞める口実として、その事をダシにしたのだから。

「いいんじゃない? 学園を辞めるかどうかは先生のやりたいようにやればいいよ」
 松岡の話を聞いて、あっけらかんとチルルは言った。
「あたいが学園に来たばかりの頃は、剣の持ち方すら知らなかった。アウルだって十分なコントロールは儘ならなかったし、一人暮らしも覚束なかった。学業は……今も鋭意努力中」
 だが、それでもなんとかやってこれたのは…… なんだかんだでやれるようになったのは、先生や多くの学校関係者たちのお陰だと思う。
「先生にも止むを得ない事情があるんでしょ? それに関して生徒たちに気を遣わなくても良いと思うよ? あたいたちは先生を信じて今までやって来た。これからも信じてやっていくつもり。だから、あたいたちのことは気にしないで、自分が為すべきことを為すといいよ」
 それが信頼ってもんでしょ! と、チルルが松岡を振り返り。感極まって言葉を詰まらせた松岡の姿に、自分がとんでもなく恥ずかしいことを言ったと気づいて、チルルが慌てて両手を振る。
「……って、偉い人がそう言ってた! 要約すると、あれだ、『こまけえことはいいんだよ!』 ってことで!」

「先生の生末は先生が決めること。どんな選択であっても、それが確固たる意志に基づくものなら、私は支持します」
 倒れた松岡にそう言い残して、雫が魔具魔装を解きつつ、その場から離れていく。
 アカリは倒れた松岡に手を差し出した。
 松岡の生き方は、結局、その根っこはしっかりと戦士のそれだった。全てにケリがつかないままでは、平和の無為に耐えられない。

「先生、もしかして、自分の役割が終ったとか、そんな事を考えてないですか?」
 松岡を引き起こしながら、明斗もまたそう言った。
「そんな甘い考えでは困ります。小隊への増援部隊は先生が言いだしっぺなんですからね。終わりまでちゃんと面倒を見てもらいますよ? 悠長に死んでいられると思わないでください」

 地面から引き上げつつ、同志ですね、とアカリは声をかけた。
 藤堂がいて、杉下がいて、そして、隊の皆がいて。かつての居場所に似たその懐かしい雰囲気は、アカリにとっても大切なものだった。


(場面転換。再び夕刻の屋上──)

 ふと、人の気配を感じて松岡が振り返ると、昇降口に夕姫が立っていた。
 今日は色々と生意気言ってすみません、と、恐縮しながら頭を下げる。松岡は慌てて手を振った。皆、学生たちが自分の事を考えて言ってくれたことである。
「でも、学園に残るにしろ、残らないにしろ…… ここでウダウダ悩んでいるより、『好きだった女を助けにいくんだ!』って言い切っちゃった方が、皆、喜んで力を貸すと思いますよ」
 夕姫の言葉に、松岡はコーヒー噴いた。
「な、な……」
「いえ、この学園って万事そんなノリですし…… っていうかそっちの方が面白いですし(ボソっと)」
 絶句する松岡。ふと先程の事を思い出す。

「あ。一つ、言わせてもらいますが……」
 その場から立ち去ろうとした雫が、ふと立ち止まって踵を返した。
「藤堂さん達との関係をハッキリさせた方が良いと思いますよ? あやふやな関係を続けるのは教師として、いえ、男性として誠実とは言えませんからね」

 同刻。青葉の料理研究会──
 料理の腕だけはなぜか上がらない陽花が今日も己の生み出してしまったサムシングを脂汗と共に片付けながら…… 同様に殺人級の激甘スイーツを作り上げてしまった青葉に声を掛けた。
 いや、青葉の場合はわざとか。料理は完璧な青葉がスイーツだけは壊滅的な理由── それは毎回、激甘好きの松岡の味覚に合わせて作っている為だ。
「じゃ、今日も松岡先生に届けにいこっか」
 ……陽花は青葉の背中を押すことにした。理由は面白そうだから。そんなことしてる暇があったら自分の恋路をなんとかしろよ、とかいう親友のツッコミはとりあえず横に置いておく。

「ちょっと待て。今日、女性陣が皆、冷たかったのって、まさか……」
「さあ?」
 意味ありげに笑いながら屋上を去る夕姫。日が沈んでいく屋上に、松岡と1羽のカラスだけが残された。


 数ヵ月後──
 松岡と青葉の二人は、笹原小隊と共闘すべく山形を訪れる。青葉は引率役。松岡は教師のまま、学園との『連絡役』として小隊に常駐する。
「戦士として戦う。同時に、生徒たちも見守り続ける── それが俺の歩んできた道だからな。それを教え子たちにそれを気づかされたというのも…… ある意味、俺の勲章なんだろうさ」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
魂繋ぎし獅子公の娘・
雨宮アカリ(ja4010)

大学部1年263組 女 インフィルトレイター
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー