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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
形態:
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/13


みんなの思い出



オープニング

 時は少し遡り。久遠ヶ原学園教師・松岡が色々と無茶をしつつ学生たちの中から兵を募り、山形の『笹原小隊』に増援として赴いた頃──
 学園に出没していた『幽霊』退治の引率を終え、自分の属する体育準備室へと帰って来た教師・安原青葉は、ふと、隣の席の同僚、松岡のデスクの様子が変わっていないことに気がついた。
「あれ? 松岡先生、今日も来てないんですか? 先週もずっと来ていなかった気がしますけど……」
 同僚の女教師に尋ねると、彼女は少し驚いた顔をした。
「知らなかったの? 松岡先生、学園には事後承諾の形で学生たちを集めて、山形の……『笹原砦』? に加勢しに向かったわよ? なんでもサーバントの大群に襲撃されて危ないとかなんとかで」
 詳しくその事情を聞いて後── 青葉は同僚に礼を言うと、むぅ、と一言つぶやいた。
 『笹原砦』には青葉も『学生撃退士を派遣する学園の代表』として生徒を引率していったことがあった。山形のとある最前線に塞を構える民間撃退士会社『笹原小隊』が駐留する拠点で、大勢の避難民がいる山形市へと続くルートの一つを塞ぐ形で存在している。旧体制下の学園で撃退士としての教育を受けた学生たちが卒業後に有志を集って設立した組織で、同じ頃に学園生活ならぬ訓練生活を送った松岡の『戦友』たちが多くいる。
 その『小隊』が雇い主──東北の撃退庁から請け負ったのは、砦前面の競合地域における警戒・哨戒任務──鳥海山の天使勢力による大規模侵攻をいち早く察知し、報告することだった。いざ侵攻があった際には、撃退庁の来援を待ちつつ、後方の市民が避難するまでの遅滞戦闘──時間稼ぎを行うこともその任に含まれている。
 だが、今回の『砦』への大規模な襲撃に対し、撃退庁は動かなかった。いや、動けなかった。敵の主攻はあくまで秋田方面である、と判断していた撃退庁は、その時に備えて戦力を残しておかなければならなかったのだ。
 かくして、『笹原小隊』は独力で敵サーバントの大群と相対することとなった。
 激戦は、小隊の防衛力を瞬く間に削っていった。頼みにしていた援軍は到着しないことを知らされた。撤退の許可は出ていたが、小隊は動かなかった。平地でのゲリラ戦で消耗するより、拠るべき砦に篭って持久する方が時間が稼げると踏んだのだ。最終的に本人たちの脱出は難しくなるが…… それでも、この時点で全ての市民が避難を完了したわけではなかったから。
(『砦』には、依頼を受けて派遣された学生たちも多くいた。彼等の『救出』を名目に松岡先生は戦力を集め、共に向かったのだろう)
 他者からの依頼がない時点での、教師に拠る自発的な戦力派遣── しかも、貴重な学生撃退士を危険な戦場へ送り込むという、教師としてはあるまじきやりようだ。事後契約、学生本人による志願という名目はあるにせよ、始末書一枚では済まない掟破りの行動だ。
(どうしてそこまで……)
 かつての『戦友』たちを助ける為。それは分かる。だが、それは、松岡の『今』の全てを投げ打つ危険を背負ってまで、しなければならないことなのだろうか……?

 一週間が過ぎた。が、松岡は帰って来なかった。『学生救出』の為の退路を確保した後も、『現地の情勢を鑑みて』松岡は砦に残っているらしい。
 更に一週間。砦の維持に学生撃退士の力が必要、との報告。正式な依頼として戦力を募集。学生たちは人員を交代して砦と学園を行き来しているが、松岡は唯一の引率者として、継続して砦に残り続けている。
 この時点で青葉のいらいらは頂点に達していたが、更に数週間が過ぎ…… 無茶をして重傷を負った、との報告に、ついに松岡への怒りが爆発した。
「なにをやっているんですか、あんたはー!?」
 携帯電話で呼び出され、砦へと赴いた青葉は、松岡と札が書かれた医務室の引き戸をばぁん! と開けた。
 中には、白いベッドとシーツの上で身を起こしたパジャマ姿の松岡と。その傍らの椅子に座って文庫本に視線を落とす一人の女──
(誰、この美人──!?)
 その光景に怒りも忘れ、動揺する青葉。松岡が美女と二人きり、な光景なんて想像の埒外、現実から最も縁遠い情景だと思っていた。
 そんな青葉の困惑に気づかず、よっ、と呑気に片手を上げる松岡。傍らの女が顔を上げ…… 青葉は、その時点でこの美女が小隊の第一分隊長、藤堂であることに気づいた。病室だからだろうか。常の野戦服でなく私服姿だったので気づかなかった。
「単なる見舞いだ。この男は、私を助ける為に負傷したのだからな」
 本を閉じて立ち上がり、お久しぶり、と挨拶する藤堂。青葉は挨拶を返しながら、チラとテーブルの上を見、思った。……単なる見舞い。でも、その机の上の皿にあるウサ耳リンゴはあなたが切ったのではないのでしょーかー?
「わ、私もお見舞いです。これ、松岡先生の好物の西洋菓子。いつものよーに手作りですがっ!」
 負けじと、持って来た包みを広げ、作ってきた激甘殺人級極甘(←二度言った)西洋菓子を披露する青葉。松岡は早速一つ手に取り、口へと運び…… その目を輝かせながら、青葉の頭をわしゃわしゃ撫でた。
「うん、相変わらず美味いなぁ!」
「ちょ、やめて下さいよ、子供扱いは! もう生徒じゃないんですから!」
 顔を赤くして、青葉が松岡の手から逃れる。新体制下の学園の第一期卒業生でもある青葉の、その恩師が松岡だった。松岡にしてみても、青葉は教師となって最初に受け持った生徒の一人ということになる。
「……相変わらずの甘党なのね、あなた」
 菓子には手をつけず、病室内に漂う香気だけで味を察して、藤堂が呆れたように松岡に呟く。大学部の松岡に高等部の藤堂──学生時代、同じ戦闘単位として共に同じ青春時代を過ごした2人は、今も付かず離れず、微妙な距離感を保ったまま共にいる……
「で、何ですか、私を呼び出した用事って?」
 なんとなくいたたまれない気持ちになって、青葉は松岡にそう尋ねた。
 用件は単純だった。負傷した松岡に代わり、教師として学生たちを『引率』して欲しい、とそういうことだった。
「分かりましたっ。教師として、生徒たちを引率しますっ! 松岡先生もお大事にっ!」
 声に棘を含ませ、言って、青葉が医務室から退室する。何を怒っているのだろうなぁ、ときょとんとそれを見送る松岡。藤堂がジト目でそれを見やり、誰にともなく息を吐く。

 廊下に出た青葉は扉を閉めると、怒りも忘れて嘆息した。
「あの女(ひと)の、為なのかな、みんな……」
 松岡の、『今』の全てを投げ打つ覚悟── その『今』の全て、には私や生徒たちも含んでいるのに……

「あの女(ひと)が……?」
「ああ。俺の長くも無い教師人生の、その集大成だ。教え子の中からああして教師として肩を並べる者が出てきた…… 教師として冥利につきる。学園に残った甲斐があったというものだ」
 一方、青葉が出ていった後の室内── 藤堂の問いかけに、松岡もまた感慨深げに呟いていた。
「今はもう、学生たちの中にも俺より強い生徒が何人も現れ始めている…… 俺のような古い教師は、もう必要ないのかもしれないな」


リプレイ本文

 笹原小隊、拠点の『砦』。その執務室── 迷彩服に身を包み、長い髪を三つ編み一本に纏めた雨宮アカリ(ja4010)は、その扉の前にいた。
 軍用ベレーの角度を直し、手を上げ、ノックする。どうぞ、という返事を待って扉の中へ。相手のきっちり6歩手前まで進み、フランス式敬礼で手を上げる。
「雨宮アカリ、久遠ヶ原学園中等部3年。現刻より笹原小隊への支援を命じられました!」
「えっ!? ああ、うん、新任の挨拶かい?」
 申告を受けた笹原は驚いた顔をした後、微苦笑を浮かべながらアカリの『着任』を許可した。
「……君はなんだか、今の学園生徒らしくはないね」
「はっ。元々、生まれも育ちも『そういう環境』でありましたので…… あ、でも、こう言ってはなんですがぁ、笹原小隊長も『昔の学園生』らしくはないですよぉ?」
 その言葉に目を瞬かせたのは、当の笹原ではなく副官だった。アカリは気づいてハッとした。本人としては親しみやすさに言及したつもりだったのだが。
「しっ、失礼しました。決して、その、頼りないとかそういう意味では……」
「構わないよ。元々、僕は代理だからね。兄や隊の皆ほど染まってはいないんだ」
 そんな笹原の様子に嘆息しながら、アカリに退室を促す副官。アカリは再度、敬礼した後、廊下へと戻り、チラと背後の扉を振り返った。


「学園で姿を見ないと思っておりましたが、こちらの前線に来ておられましたか。……しかし、手ひどくやられたものですね」
 小隊への挨拶を早々に済ませた神棟星嵐(jb1397)は、仲間たちと共に、医務室にいる松岡の見舞いに訪れていた。
「怪我の具合はどうです、先生?」
「いや、お前の方こそ大丈夫か?」
 そう尋ねる千葉 真一(ja0070)に、逆に心配そうな視線を向ける松岡。真一は全身包帯でぐるぐる巻き──松岡などよりよほど重傷に見える。
「一番大変な時に、ここに居られなくてすいませんでした!」
 真剣な表情で頭を下げる真一に、松岡は目を丸くした。謝罪? いやいや。今の学園生には依頼を選ぶ自由がある。
「俺自身が関わろうと決めていたのに出来なかった…… その事が、悔しかったんですよ」
 なるほど、それが重傷を押してわざわざ見舞いに来た理由か── そう察した松岡は、真一の頭を手で掴むと、気にするな、とグリグリ撫でる。
「そっ、そうだ! 差し入れにりんごを持って来たんですよ! 藤堂さんにでも切ってもらって食べさせて貰……」
 照れ隠しか、持っていたりんごの袋(スーパーのビニール袋だが)を見せながら慌ててテーブルに向かった真一は、だが、そのテーブルの上に置かれた皿に大量に盛られたりんご(うさぎ型)の山を見て、背景に稲妻を落としながら戦慄した。
 リーガン エマーソン(jb5029)が皿の上のりんごを至極真面目に観察する。
(切り口が2つ…… 恐らくこれは2人の人間の手によるものだ。しかも、山の上に乗っているうさぎ(=新しいもの)ほど、ディテールが細かく、精緻になっている。まるで競い合ったかのように……!)
「藤堂と安原が切っていった。とても食べ切れん。お前らも食うか?」
「いえ、食べれません(愛が痛すぎて)」
 大人って大変だなぁ、としみじみと呟く真一。それを聞いた日下部 司(jb5638)が「大人……?」と山盛りのうさぎを見つめてみたり。
「なにはともあれ、思ってたよりお元気そうでなによりです。……前回、『屁理屈』で先生の背中を押した一人として、気にしていたんですよ? 色々と」
 永連 璃遠(ja2142)がどこか申し訳なさそうにそう言うと、松岡は首を横に振り、むしろ感謝している、と告げた。
「お陰で、今度は助けられた」

「もし、寝てばかりで暇でしたら、僕の本をお貸ししますよ? もっとも、僕の持っているのはミステリーばっかりですけど……」
「好きなのか?」
「はい。そんなのばっかり読んでいるので、探偵業とか憧れます。もちろん、創作と現実のそれは違うのでしょうけどね」
 そう言って笑う璃遠。いつかなれるといいな、との松岡の答えに、「……はい!」とはにかみ、頷く……
 やがて、松岡と生徒たちの話題は談笑から実務的な話題へ移った。黒井 明斗(jb0525)は砦の現状について松岡と情報と意見を交換する。
「現状、砦の周りは静かなものです。懸念されていた蛙人の襲撃もありません。……もっとも、この程度で大人しく引き下がるとも思えませんね。少し、こちらからつついてみましょうか?」
 きらりと眼鏡に光を反射させる明斗。月影 夕姫(jb1569)もまた、あのおばさんがただ撤退するだけなんて、ちょっと考えられないのよね、と明斗に同意し、頷いた。
「たとえば、逃げる本隊を囮にして別の場所に拠点を作らせておいて、追撃を撒いた後で戻って来て合流するとか。もし、東側まで押さえられたらこの砦は孤立するし、そうでなくても鉄道は使えなくなって補給線は細くなるし」
「……なんにせよ情報は必要か。……分かった。好きにやってみろ。集めるべき情報は、現在、所在の分からない敵本隊の位置と規模。それと敵指揮官の所在だ。……何をするにせよ、複雑な命令が要る作業はサーバントだけでは不可能だからな」
 松岡の了承を得ると、明斗は追撃隊の準備に取り掛かるべく、さっそく外へと出て行った。夕姫もまた砦の南側を捜索し、敵が何かを仕掛けていないか、その確認に当たる準備に向かう。
「さて、我々はどうしますか」
 明斗と夕姫に続いて挨拶を済ませて医務室を出ると、リーガンは他の皆に訊いた。
 星嵐は、補給物資の内容の確認と、食料の割り振りを済ませなければ、と答えた。葛城 縁(jb1826)と彩咲・陽花(jb1871)、そして自分とで有志を募り、手作りの夕食を兵や学生たちに振舞う予定になっていた。
 真一と璃遠は、『城壁』の修復を手伝うつもりだと言った。
「とにかく、何か手伝いたいと思って」
 瑠璃の言葉に、司もまたそれを手伝うことにした。──自分には修復作業が行えるだけの技術はない。でも、力作業なり何なり手伝えることはあるはずだ。
(さて、自分はどうしたものか……)
 リーガンは一人、思案した。


「笹原小隊、ですか。孤軍奮闘、よく頑張れたものですねえ」
 砦内、西門裏── 砦を訪れたエイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、復興作業が進む砦の様子を左右に見ながら、集合場所へ向かって歩いていた。
「孤軍、ではないさ。多くの学生たちがこうして増援として駆けつけてくれた」
 そんなエイルズレトラの独り言を聞いたのか、語りかけてきた女性が一人。その顔を見たエイルズレトラは、「おや、貴女は……」と口にした。以前、卒業予定者を小隊へ勧誘すべく、学園を訪れた……確か、藤堂さん、といったか。
「お久しぶりです。依頼を受けて参上しました。笹原小隊に入隊することはできませんが、マステリオ家は依頼とあらば地球の反対側からでも駆けつけますので。今後ともご贔屓に」
 挨拶方々ちゃっかりと営業を仕掛けるエイルズレトラに、藤堂が苦笑しながら訊く。
「で、今日の仕事は何だ? マステリオ家は壁作りも請け負ってくれるのか?」
「魔術と幻想の壁であれば。今日の僕の仕事は、アレです」
 笑う少年が指差す先には、募った追撃隊の有志を前に、作戦内容を説明している明斗の姿があった。
「今回の追撃の目的は、敵の兵力を減らし、砦への再侵攻を遅らせることにあります。……まぁ、向こうの建て直しが早いと厳しいかもしれないから、今の内に少し意地悪をしてみようというわけです」
 冗談めかして明斗が言うと、学生たちから笑いが洩れた。その雰囲気に明斗は満足して頷くと、真面目な表情に切り替え、話を進める。
「作戦は一撃離脱。一息に攻撃し、倒せるだけ倒して退却。特に蛙人、狼騎兵、炎岩人を中心に狙います」
 一方、そんな明斗たちから少し離れた場所には、夕姫が集めた索敵班が集合していた。
 兵を募るに当たって、夕姫は『ヒリュウを使えるバハムートテイマー』と『周辺地形に詳しい兵』を小隊に要請した。笹原は可能な限りそれに応えた。派遣された兵たちの責任者は、元第三分隊長代理の槙田。本来の分隊長である岩永が復帰した為、身分が宙ぶらりんになっていた彼女に白羽の矢が立ったらしい。
「私のわがままに付き合わせてごめんなさい。でも、何かを見逃すのが一番マズイ事だから」
「砦や小隊の為に考えてくれたことでしょう? 分かってる。気にしなくていいわ。たださ、ほら、なんで選りに選って私なのよ、と。あの筋肉だるまがリハビリがてらに行けばいいのに」
 ぶちぶちと零す槙田に苦笑しながら、夕姫は兵たちを振り返った。
「では、出発します。任務は砦南側の旧市街地方面の捜索。敵に見つからないようにしながら、集められるだけの情報を集めてきましょう」
 その言葉を最後に移動を始める夕姫と兵たち。西門を出るところで、夕姫は見送りに来た友人たち──縁と陽花の姿を認め、手を振った。
「ちょっと出てくるわね。砦の方はお願いね」
「うん! そっちも気をつけてね。ご馳走を作って待ってるんだよ!」
 巫女服にエプロン姿で手を振る陽花。夕姫は、着物に割烹着姿の縁にチラと視線を振ると、アイコンタクトで頷き合った。──陽花の作る料理は殺人級。決して包丁を持たせてはならぬ……!


「敵の進軍は何とか防ぐことができたけど…… この砦も随分とボロボロになってしまったな」
「ああ。……この砦もよく頑張ってくれたよな」
 再度、砦の中と外を一回りして見回り…… 『満身創痍』な砦の現状を改めて確認して、司と真一はしみじみと息を洩らした。
「こういうのを見ると、やっぱり…… 自分ももっと強くならなきゃって感じてしまいますね」
 璃遠もまた己の決意を新たにする。再び敵が来る前に、まず手をつけるべき所は…… 攻防戦に際して効果が大きかった所からだろう。であれば、城壁、城門、バリゲードなどの『外堀』関係。中でもまずは『城壁』の補修を手伝うべきか。
「城壁はまだ無理だろうな。仙台がごたごたしている内は、大規模な『工事』はできないだろうし」
 補修に使える資材の搬入予定を記した資料を思い返しながら、真一は肩を竦めた。まだ土木が砦に入る予定はない。重機もバーナーもここにはない。それでも、と瑠璃は思った。破壊された城壁表面を野晒しのまま放ってはおけない。土嚢でも何でも積んで、自分たちに今、出来る修繕を行わないと……

「これが砦の全容、ねぇ…… もうちょっと強化して備えたいところではあるけど……」
 西門裏に設けられた、パイプテントの修復作業本部── そこの長テーブルで砦の見取り図を確認していたアカリは、その余りのお粗末さに衝撃を受けていた。
「要とも言える城壁と城門が丸裸。すぐに叩ける状態にあるじゃないの。『私たち』ならこの砦の前面に、すぐ放棄して撤退できる程度の簡単な第一次防衛ラインを設けるのに……」
 あまりの衝撃に、独り言を零すアカリ。それらを全てぶっちゃけた後、本部には藤堂と杉下、両分隊長がいたことを思い出し。アカリは錆びた機械の様にギギギと2人を振り返ると、次の瞬間、弾かれた様に椅子を蹴立てて立ち上がった。
「し、失礼! 私の様な新任が分隊長に意見するなど……!」
「あー。気にしない、気にしない。ここでは『隊長』なんて肩書きみたいなものだから」
 しゃちほこばるアカリに対して、藤堂と杉下は特に気にしたふうもなかった。実際、現場の人間として前衛陣地は欲しかったし。時間と予算と重機と兵力と魔具銃器の射程があれば、塹壕と火点で縦深を確保したのに……
「でも、せめてバリゲードくらいは城壁の外に欲しいですよね? 特に城門前。また炎岩人にぶっこみかまされて鉄扉を壊されない強度の物を」
 そう答えたのはアカリではなく、いつの間にか本部入り口に立っていた木暮 純(ja6601)だった。ツナギのスーツに『安全第一』のヘルメット── 城壁の修復作業に従事している学園の女生徒だ。
「でないと、また同じ様にぶっ壊されちゃうし。軍の駐屯地にもあんでしょ? 何か自爆テロのトラックとかを阻むやつ」
 服についた土埃を払ってテントの下に入りながら、純がチラとアカリを見る。アカリはハッとすると、軍が設置しているバリゲードについて説明を始めた。杉下がそれをふむふむと頷きながら聞いている。
「で、木暮は何の用でここへ?」
「城壁の修繕に関してなんですけど。壁面に遠距離武器用の最小限の穴を開けれませんかね? 鉄砲狭間みたいなの」
 純の提案に、藤堂は「それも欲しいな」と素直に返した。返しつつ、済まなそうに首を横に振った。そこまで大規模な改修となると強度計算もし直さなければならないし、多分、仙台から予算がおりない。
「じゃ、現場で出来ることで対応するしかないですね。土嚢をください。それと、それを城壁の上に積む許可を」
 最初から断られることが分かっていたのか、純はすぐに次の提案を行った。本当なら、日本の城の『石落とし』の様な、城壁の真下に取りついた敵を身を乗り出さずに攻撃できるような銃眼も欲しかったところだったが。
「土嚢? どうするの?」
「狭間の代わりに遮蔽物として積みます。ほら、西洋の城の城壁の上の、デコボコしたあんな感じで」
 城壁の上に身を乗り出す銃手の為に、少しでも盾になればいい。そう言う純の言葉に頷き、藤堂が早速、手続きに入る……

「松岡先生と藤堂さんって、実際、どうだったんですか?」
 休憩時間。修理の進む作業現場── 見知った小隊の一員──杉下と出会った司は、差し入れを持って来た星嵐と共に、そこで旧学園時代の松岡と藤堂の馴れ初めについて聞いてみた。
 奇妙なトライアングルが出来ているらしいことは、砦に流れた噂話(皆、娯楽には飢えている)によってなんとなく事情は察していた。さすが大人の恋愛(?)だなぁ、と興味津々の司。それを星嵐が意外そうに眺めながら、ちゃっかりとその場には残ったり。
「……まあ、アレだ。本人たちは気づいてないけど、周りから見れば互いの気持ちが見え透いている、っていう関係だったよ。ラブコメだな。ラブコメ。藤堂も見た目は綺麗だから憧れている奴は多かったけど、付き合おうってまで根性のある奴はただの一人もいなかった。藤堂にとって松岡は口喧嘩相手の相手ではあったけど、人間として、撃退士として、初めて正面から向かい合えた相手だった。松岡にしても同様だ。もっとも、それが男女の機微には疎い2人だから、その後も進展はなかったが」
 2人は付き合わなかったんですか? 驚き、訊ねてくる司。その後ろで星嵐もまた複雑そうな顔をしている。
「まぁね。今から思い返しても、そのまま共にチームを組んで戦場を駆けてく姿しか想像できないな。……だが、それでも、あんな事がなかったら」

「門自体の作り直しは現実的ではないし…… 例えば、破損前提の弾除けとして、金属製の装甲を庇として門の上に増設するのはどうだろう?」
 同刻、休憩時間── 璃遠や作業員たちと共に休憩を取りながら、真一はそんなことを話していた。
「ひさしかぁ。でも、それだと門に取りついた敵を城壁の上から狙えなくならないか」
「まぁ、制圧射撃で頭を抑えられたら、どっちにしろ殆ど真下は狙えないけど」
 仲間たちからのツッコミに、うーん、と考え込む真一。ちょっと待て、と誰かが言った。そもそも城門の鉄扉が破壊された時の状況はどうだったのか?
「あ、そうだ。パチンコで炎岩人を打たれたんだ。……正面から」
 思い出した誰かがポンと手を叩き。「庇、意味ねーじゃねーか」とまた誰かがツッコミを入れる。
 だが、真一は挫けない。ヒーローに立ちはだかる障害は乗り越える為にある(?)。
「じゃあこんなのはどうだ? 普段は庇なんだけど根元は蝶番になっていて、いざという時にはスイッチ一つで根元から折れるんだ。これなら正面からの攻撃に対しても門に被さる蓋になるし、門前に取りついた敵をビターンとサンドイッチにも出来る」
 おおーっ! と歓声を上げる仲間たち。高笑いを上げる真一ともども、ふと真面目な顔になり。「ま、なんにせよ、土木がここに入れるようになってからの話だけどな」と再び作業へ戻っていく。

「……朝も晩も戦っていた、今までが嘘みたいだな」
 純もまた作業の手を休め、背を預け、腰を下ろした城壁の下部から、真上の蒼空と壁とをぼんやりと眺めていた。
 壁。あの戦いの最中も、自分はこうしてこの壁に背中を預けていた。──血の様に赤い夕暮れ。壁の影落ちる陰に隠れた自分に、敵の銃撃により砕けたコンクリ片が降り注ぐ。音。夥しい数の銃弾が頭上を過ぎ行く甲高い音。銃撃の為に身を起こした自分の顔のすぐ横を、敵弾が掠め飛んでゆく……
「ハッ!?」
 ふと我に返り、蒼い空を確認して…… 純は大きく息を吐くと立ち上がり、壁を振り返って手を添えた。
 ザラリとした感触。激戦にボロボロになったその表面に手を滑らせ、純は再び壁を見上げた。
(……砦の中にいる時は、いつもコイツが弾除けになってくれた。奇襲を掛けに外に出た時も、戻る場所があるという安心感を俺たちに与えてくれた)
 だからこそ、自分たちは今、ここにいる。砦もまたここにある。
 心中で純は呟いた。
(……随分と傷だらけになっちまったな、戦友。だが、待ってろよ。すぐにまた綺麗にしてやるからな……)


 召喚された数匹のヒリュウに住宅地上空を先行させて── 『小天使の翼』で浮遊した夕姫は、ブロック塀から屋根の上へと段々に蹴り上がった。
 後方の槙田たちに手信号で合図を送り。屋根の上から双眼鏡で周囲をグルリと見て渡す。
 砦南方、旧市街地の捜索は順調に進んでいた。なにしろ全く敵と会わないのだ。シンと静まり返った無人の街── 文字通り、猫の仔一匹いやしない。
(何もないならそれはそれでいいんだけど……)
 ──冬が来て雪が積もることを考えると、山間部に拠点を築くとは考え難い。拠点建設の資材のこととか考えると市街地の方が隠せる場所が沢山あるけど、一応、麓まで捜索範囲を拡大するべきか……
 夕姫が屋根の上でそんな事を考えていると、突然、何か空気の壁の様なものが横合いから叩きつけられた。
 遠くで立ち昇る白煙と、宙を舞い散る破片群。直後、爆発音が夕姫の元まで到達し、地響きが大きく足場を揺らす。
「状況は!?」
 夕姫は現場へ向かって屋根を蹴ると、壁から壁へと宙を駆けた。
「爆薬を抱えた骸骨が廃屋に潜んでいた。敵は見つかった瞬間に自爆。見つけた兵は──って私なんだけど、窓から飛び出して無事…… 撃退士でなかったら即死だった」
 さらに別の場所で爆発── どうやら敵は、爆薬を抱えた骸骨を複数、この市街地に置いていったらしい。後々、再度の攻防戦に際して奇襲を仕掛ける為か。或いは、将来、補給線へのテロ攻撃に使う為に埋伏していったものか。
「……やっぱり侮れないわね、あのおばさん。経済的すぎるでしょ。いったい一石で何鳥落とす気なのよ……!」
 これでこの市街地にも本格的な捜索の必要性が出てきた。たとえ見つかってしまって攻撃の役には立たなくなっても、敵本隊追撃に割ける人数を減らす役には立つ。

 手信号によるカウントダウンが攻撃開始を示すと同時に、エイルズレトラは召喚した蒼銀竜──ティアマットと共に斜面を駆け下り、眼下に見える敵本隊、骸骨銃兵の隊列に向かって突っ込んだ。
 撃退士たちの先頭に立ち、敵隊列の真っ只中に突撃していくエイルズレトラ。明斗もまたそれに後続し、敵隊列中央が『コメット』の射程に入ると同時に、頭上に呼び出したアウルの彗星を敵中へと放り込んだ。炸裂する岩塊、飛び散る破片──その猛威に薙ぎ倒される骸骨と狼たちを尻目に、明斗は当たるを幸い、ありったけのコメットを立て続けにぶちかます。
 突然の奇襲と明斗の突撃支援射撃に『混乱』する敵の只中に切り込み、骸骨たちをバッタバッタと斬り捨てていくエイルズレトラ。その渦中から距離を取り、まだ無事な骸骨たちが銃撃の為の横列を組み始める。エイルズレトラは、だが、その骸骨たちの後退にも喰らい付いた。蒼銀竜に背中を守らせながら、敵が組む横列の、さらに内側へと紛れ込む。
「囲まれた? ……いいえ、囲ませたんですよ」
 直後、『少年』の両手から零れ落ちた無数のカードが、まるで風に吹かれたように宙へと舞い上がった。直下から吹き上がるカードの吹雪に、まるで糸吊り人形の如く踊り始める骸骨たち。だが、それも一瞬。身に張り付き始めたカードによって、次々とその動きを『束縛』されていく。
 動けなくなった敵の処理は仲間たちに委ね、エイルズレトラはさらに追撃を仕掛けるべく、隊列の前方へと進み始めた。
 出迎えたのは、隊列前方から物凄い勢いで走ってくる、真っ赤なコート姿の小太りのおばちゃん──敵指揮官のシュトラッサーだった。「そこまでよ!」とか叫びつつ、隊列の最後尾に立つおばちゃん。うわ、こっちが悪役っぽい──笑うエイルズレトラの横で、明斗は正直、意外に思った。まさか、シュトラッサーがサーバントたちの殿に立つなんて。
「初めまして、マダム。僕は『奇術師』。ところで──」
「この様な場面で不躾ですが、お名前を教えていただけますか?」
 脚を止めたエイルズレトラと明斗が、立ちはだかった指揮官に名を尋ねた。どうする、と明斗は思った。一撃離脱は成功した。これ以上の戦闘は必要ないが……
「……明美よ。明美ちゃんと呼んでもいいわよ?」
「はい」
 返事と同時に突っ込むエイルズレトラ。どうやらひと当たりしてみることにしたらしい。それに対応して手を振る明美ちゃん。コートのファーの部分が浮遊し、8つに分かれて散開する。それを見た少年は空を飛び始めたふわふわの毛玉にいぶかしげな視線を向けたものの…… 浮かぶばかりで何もして来ないそれらを放って敵指揮官へと突っ込んだ。次の瞬間、その毛玉たちが閃光を発し、8個分の光量でエイルズレトラの視界を灼いた。目を閉じて尚、脳裏に焼きつく閃光の爆発。直後、足の止まった少年の周囲の地面に毛玉が放った光線が綺麗に八角形に着弾し…… その間に、敵指揮官ははるか前方へと離脱していた。
「おや、マダム。もうお帰りですか? 次に会うときは、もっとゆっくりしていってくださいね」
「……できればこのままもう撤退してほしいんですけど」
 エイルズレトラと明斗の呼びかけに、明美は一瞬、肩越しに振り返るも、何も言わずに去っていった。


 夕刻── 日没の時間と共に、その日の修復作業は終わりを迎える。
 終了を告げるアナウンスにハッと顔を上げる璃遠。あまりに集中し過ぎていた為、すっかり時間を忘れていた。アカリもまた同様に、碌に休憩も取らずに作業を続けていて、お腹の音で自らの空腹を知った。
「一心不乱か。少しは手を抜く事を覚えねーと、大人になってからいいように使われるぞ」
「……性分みたいです。仕方ありません」
 軽口を叩いてくる小隊員に、微苦笑で返す璃遠。……うん。これだけ頑張れば、きっと夕食は美味しいよね。

「ふふーんっ♪ 準備万端だよ! やっぱりお料理は皆ですると楽しいからねっ♪」
 その数時間前── かつてと同じ様に野外に厨房を設営した縁たちは、気合と共にすっかり調理の準備を済ませていた。
 調理台の上には、星嵐が用意した鶏肉や野菜、豆腐といった消化に良い食材と、縁が用意した精のつく大蒜が大量に積まれている。炊飯器のご飯も柔らかめと硬めの二種類。そして、何より、今回は学生や兵の中から有志を募り、一緒に調理から行うことになっていた。
「私たちは今まで砦から出ていることが多かったし、こういう時に皆と交流しておかないとだね」
 そう張り切って包丁を持った陽花は、だが、直後、物凄い勢いで反応した縁によってその手首を掴まれた。
「……ゴメンね、陽花さん。前にも言ったけど…… この砦を、陽花さんの料理で壊滅させるわけにはいかないんだよ……!」
 滝の様な涙を目から沸きあがらせながら、容赦なく包丁を奪い取る縁。いつもいつもな展開に、陽花もまたさめざめと涙を流しながら、唯一、認められたスイーツ作りに向かった。
(相変わらずだなぁ)
 そんな光景を離れた作業台から見やりながら、星嵐は自分の作業に集中した。色々と調理を続け、最後に用意したのは鶏肉の雑炊だった。疲れがピークを越えると食欲もなくなってくる。そんな人たちでも少しでも食べ易いようにと、優しい味を心がける。

「さて、みんなお腹も膨れてきたようだし…… 恒例の雑誌販売だよー♪ 今回は夏から秋への移り変わりということで、水着と浴衣姿が満載だよー!」
 ある程度の人数が食事を終えた所で、陽花は大きなキャリーバックの中から、最早、恒例となってきた感のあるグラビア雑誌の販売を始めた。バイトでモデルをしている陽花と縁のグラビアが載った雑誌で、特に縁の方は際どい写真が満載だったりする。
「わああああっ!? 荷物はチェックしたはずなのに?! だから、知っている人にそれは恥ずかし過ぎるからダメだってばぁーっ!?」
 テーブルの間を笑顔で配膳していた縁が猛ダッシュで戻ってくる。またか、と呟き淡々とチョコケーキを作る星嵐。陽花が雑誌を取られないよう頭の上に掲げながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねる縁に言う。
「あれー? これくらいで動じるなんて、プロとしての自覚が足りないんじゃないかな、縁?」
「陽花さんのは際どくないからそんな事が言えるんだよ! 胸がないから! だから、毎回、抱きついてアピールしても、勇斗くんに気づいてもらえないんだよ!」
(ピキッ……!)
 陽花は雑誌の販売を有志に任せると、調理台へと雲隠れして、ひそかに調理していた料理の皿を取り出した。それを陽花の賄に混ぜ込もうとして…… 躓き、大鍋にドボンと放り込む。
「「あ」」
 その様を、通りがかりの司が見てしまった。あわあわと慌てる陽花と固まる司。そこへ交代で休憩を取りに来た面々が食事をしにやって来る。
「♪」(食事を楽しみにしている璃遠)
「……?」(なぜか悪い予感に震わす純)
「……ゾクッ」(どことなく殺気というか身の危険を感じるアカリ)
「♪」(嫌な予感はするけれど、何を食べても平気(←気のせい)な気がする真一)
 こっ、これは皆さんの危険が危ない……! 戦友たちの命の危険に、司の身体は動いていた。
「よ、陽花さんの(危険な)手料理は、他の誰にも食べさせません!」
 言い終える前に鍋の中身を流し込む。見る間に危険物はその量を減らし…… 真っ白に燃え尽きた司が静かに床へと倒れていった。

 陽花の悲鳴が響き渡る宴会会場(?)を壁上から見下ろしながら、リーガンは微苦笑と共に最後のコーヒーを飲み干した。
 皆が休憩を取っている間も、リーガンは皆に番を譲って壁上の歩哨に立ち続けた。勿論、人間には鋭気を養う必要があることは分かっている。だが、大きな戦いが終わったばかりということで、皆の気が抜けがちであるところは、自分の様な人間がフォローをする必要があるだろう。
(……本当に?)
 心の中で、自身に囁く。
 本当は、自分から学生たちの輪の中に入ることを避けているのではないか。その理由付けに利用しているのではないか──?
 改めてリーガンは壁の外へと視線をやって…… 目の前に広がる美しい山林の光景を、自分が戦場としてしか見ていないことに気づいた。伏撃がし易いか、進撃に適しているか── 傭兵として世界中を旅して来た自身の身体に染み込み、こびりついたその思考。息抜きを超え、楽しむ事の重要性を感覚的に理解している若い学生たちを見ていると、自分自身のありように違和感を感じることはある。
「学園での生活は退屈ですか?」
 コーヒーとケーキを差し入れに来た星嵐が、リーガンの背中に投げかける。
「年の差ゆえの場違い感、ではないと信じたいところです。……言っても詮無き事とは分かってはいるのですが」


 一週間後──
 依頼の任期を終えたアカリは、離任の挨拶に訪れた笹原の執務室にあった。
「またお会いできる日を楽しみにしております!」
「うん、君も体に気をつけて」
 笹原の言葉に敬礼を返すアカリ。武運を祈る、と言わないところがこの人らしいところだろうか。
「隊長、あまり無理はされないようにねぇ。こういう落ち着いた時が一番指揮官の精神に来るのは…… 畑違いでも同じはずだからぁ」

 追撃の終了後、明斗は医務室の松岡に報告に訪れた。
「蛙人の姿は見てないです」
 明斗の言葉に頷く松岡。敵の手札は伏せられたまま、か。おちおちと砦を空けれないな……

「安原教官も見舞いに来られたのでしょう? 学園に戻ったらきちんとお礼をしないといけませんね」
 チョコケーキを持って来た星嵐の言葉に、松岡は咄嗟に返事をすることが出来なかった。傷が癒えれば正式に学園に辞表を提出するつもりでいたからだ。
(青葉先生についてはどう考えているのか──?)
 松岡のその表情に気づいたリーガンは、喉元まで出かかったその質問を呑み込んだ。流石にそれを聞くのは野暮ってものだろう。本人の自覚が無ければ意味の無い質問でもあるし……
「……経験というものは、大局的な判断において邪魔になることもあるが、実戦レベルであればこれほど心強い味方はない、と思う。生徒たちにそれを伝えきるまでは、隠居するには早いんじゃないか、と私は思う」
 リーガンの言葉に、松岡は少し考え込む素振りを見せた。
「……まだ、教師として生徒たちに伝えられることがある、と?」
「どうかな。それは私の悩みでもある。……その逆も然り、と最近は思わなくもないのだけれど、ね」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
魂繋ぎし獅子公の娘・
雨宮アカリ(ja4010)

大学部1年263組 女 インフィルトレイター
次なる階梯に至りし技・
木暮 純(ja6601)

大学部4年138組 女 インフィルトレイター
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
徒花の記憶・
リーガン エマーソン(jb5029)

大学部8年150組 男 インフィルトレイター
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド