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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/08/17


みんなの思い出



オープニング

 2014年7月──
 鳥海山の天使勢力による、ゲート展開を視野に入れた本格的な作戦が展開され始めた秋田県。戦場より遠く離れた後方の小さな物資集積場──

「最後の便がまだ帰ってこない。連絡も取れない」
 その日も予定されていた全ての補給物資を前線へと送り出し、つつがなく一日の業務を終えて交代を待っていた門の守衛は、事務所から掛かって来たその内線電話によってその日の『残業』を余儀なくされた。
「そちらから何か見えないか?」
 内線電話の受話器を戻し、嘆息しながら双眼鏡を手に詰所を出る。
 夕焼け空に蝉の声── 慌しく騒然とした様子の事務所と異なり、守衛の詰める門の前は平和で静かなものだった。一般市民の避難も終え、すっかり人もいなくなった無人の街並は喧騒からは程遠い。
 守衛は集積場側の河川敷の土手に上がると、双眼鏡でグルリと周囲を見やった。そして、道路の真ん中を、腕を押さえ、足を引き摺りながらこちらへ歩いてくる少年の姿を見つけたのだ。
「おい、大丈夫か!?」
 守衛は無線で事務所に連絡を入れると、少年の方へと駆け寄った。その姿を見てホッとしたのか、路上に崩れ落ちる少年。守衛は慌てて少年を抱え上げた。
 少年はどうやら久遠ヶ原学園の学生のようだった。制服はボロボロで、ところどころに血の跡のようなシミもあった。
「どうした、おい、何があった? しっかりしろ、すぐに助けが来るからな」
「……別の任務を終えて移動中に、輸送トラックが襲われているところに出くわしました。護衛の撃退署員が戦闘中で、僕も加勢しましたが力及ばず…… 襲撃者には、天使が含まれていました」
「天使!?」
 守衛は驚き、困惑した。天使と言えば連中の指揮官クラス。それがどうしてこんな戦場から遠く離れた後方で──それも、こんな辺鄙な、戦略的に重要でもなんでもない補給路の──トラック潰しなんてやっているんだ?! リスクとリターンのバランスが取れていない。というか、この辺りに天使を投入しなけりゃならないくらいの戦力なんて存在しない。……天使だと?! こんなのはサーバント(捨て駒)にでもやらせておけばいい仕事じゃないか。
「同感です。僕もそう思わなくもないのですが……或いは、理性ではなく、感情による行動なのかもしれませんね」
 少年はどこか自嘲気にそう呟くと守衛の手を借りて起き上がった。その所作に、怪我は案外大丈夫そうだ、と守衛は思った。撃退士というものは、みんなこういうものなのだろうか。
 少年は守衛に礼を言うと、なぜかそこで口ごもり…… 咳払いを一つした後、まるで初めて異性に告白する初心な中学生の様に、緊張した面持ちで訊ねた。
「とっ、ところふぇ(←噛んだ) ……こほん。……ところで、こちらに榊悠奈という撃退士がやっかいになっていませんか? 僕と同じくらいの年格好の、久遠ヶ原学園の学生なのですが」
 守衛は瞬きを一つすると、その様な者はいない、と答えた。そもそも、この辺りは戦略的な重要性も低く、わざわざ学生に依頼を出すような所でもない。
「そうですか…… となると、もう少し活動範囲を主戦場に近づけた方が良いかな…… でも、他の連中の『縄張り』に近づきすぎることにもなるし……」
 ぶつぶつと何やら独り言を呟く少年。そうこうしている内に、状況を知らされ、血相を変えて事務所を飛び出してきたお偉いさんが、少年に対して詰め寄った。
「どういうことだ?! 天使だと!? どこで見た?! 数は?! どんな奴だった?!」
 がっくんがっくん揺さぶる上司を制止し、少年の身体の状態を確認する回復役。少年はその身を回復役に任せながら、自分が見たと言う天使の特徴を語り始めた。一方で、回復役は困惑を露にした。少年の身体には、傷など殆どなかったからだ。
「僕が見た天使──輸送トラックを襲ったそれは、年の頃は13、4。人間の少年の様な格好をしていたよ。あと、久遠ヶ原学園の制服を身に纏い、学生に擬態していたかな」
 一瞬の沈黙の後…… 慌てて銃を構える兵士たち。驚き、身を固めた守衛に、少年は困ったように笑うと「ごめんね。そういうことだから」と謝りながら、両の手の平に光の珠を現出させた。


 鳥海山の天使勢力が大きく動き始めた──
 そう慌てて訓練場に飛び込んできた友人の早河沙希と堂上加奈子の報せを受けて、久遠ヶ原学園中等部2年、榊悠奈はいよいよだね、と頷いた。
 頷き、兄である高等部3年、榊勇斗を顧みる。勇斗もまた覚悟を込めて、悠奈に対して頷いた。いよいよだ、と昏く呟く。同じ『覚悟』ではあるが、兄妹の抱くそれは全く異なる……

 以前、同じ秋田の戦いで、悠奈は徹汰と名乗る学生撃退士と洞窟の中に閉じ込められたことがあった。その間、意気投合した2人は互いの家族に関する想い、悩みなどを語り合い、まだ恋と呼ぶには幼い、友人同士の関係となった。
 だが、徹汰は『保護者』である青年天使の命によって、情報収集の為、学園に潜り込もうとしていた少年天使・アルディエルだった。撃退士たちによってその正体を看破された徹汰=ルディは悲しげな表情と共に悠奈の前から去り。友人が敵方の天使であったことを知った悠奈はショックで落ち込んだものの、友人に説得されてその元気を取り戻した。
 曰く、「悠奈ちゃんが説得して学園に堕天させちゃえばいいんじゃない?」
 以来、悠奈は徹汰が出没しそうな秋田の戦いが再開するまで、己を鍛えて機を待った。
 兄である勇斗も同じく己を鍛えて機を待った。だが、それは、いざとなれば『敵』と刺し違えてでも悠奈を守るという、そういった類の覚悟だった。勇斗は、以前の戦いでアルディエルの強さを知る機会があった。そして、妹を自分たちの下へ連れ去ろうとしていることも。
(兄として、妹の願いは叶えてやりたい。悠奈が説得できるならそれでよし。……だが、もし、それが叶わぬ時は、悠奈をあちらに連れて行かせはしない!)
 妹を守る──それが自分の命の使い処だと、勇斗は昔からそう思っていた。だが、無駄に死ぬつもりもない。叔父夫婦の家で肩身の狭い思いをしていた昔と異なり、今の兄妹には、その人生すら預けられる友人たちがたくさんいる。
「それじゃあ、行こうか」
 勇斗がそう言って立ち上がると、妹たちもまた元気良く立ち上がった。彼女たちのこの笑顔を守る── その為に自分に出来ることを。

「秋田辺りで少年天使が出る依頼、ですか?」
「はい。多分、これまでに一人の犠牲者も出ていない、そんな天使との遭遇例がどこかにあると思うんですけど」
 学園の依頼斡旋所の一つ、『踊るぷにぷに亭』──悠奈からの注文に(そんな依頼あるわけが)と内心で思いながら端末を操作していたオペレーターが、該当する案件を見つけて「うそっ、あった!?」と目を丸くする。
「秋田のあちこちで補給路や集積所を襲撃している少年の姿の天使がいますね。被害者はなぜか皆、重傷止まり……一人の死亡者も出ていません」
「! それです、多分!」
 話を聞いた悠奈は迷う事なくその依頼を選択した。


リプレイ本文

「なんとしても悠奈ちゃんの想いを徹汰君……いや、アルディエルに届かせないとね」
「その為にも、自分たちが全力で悠奈ちゃんたちをフォローしますから。自分の信念に嘘をつかず、頑張ってくださいね」
 久遠ヶ原学園、転移装置前──
 ジリジリと灼けつく様な心持ちで待機する悠奈を気遣い、日下部 司(jb5638)と神棟星嵐(jb1397)は励ましの声を掛けた。
 その心遣いに笑顔で礼を返した悠奈の表情には、だが、いつもの快活さはなかった。──徹汰が自分を探して襲撃を繰り返し、その為に怪我をした人がいる──その事実が悠奈の心に影を落としていた。
「……徹汰くん、何か大きな勘違いでもしているのかも。ちゃんとお話しないとだね」
 葛城 縁(jb1826)は優しくそう告げると、立ち上がり、悠奈たちの事情を知らない他の参加者たちに状況の説明を始めた。その上で、悠奈に徹汰を説得する機会を与えて欲しい、と、そう訴える。
(……榊兄妹? たしか、悪友や、彼奴の兄弟と縁がある人だったような……)
 その説明を聞きながら、礼野 智美(ja3600)はふと小首を傾げた。記憶を辿り、確信する。うん、確かに報告書で見たことがある名前に違いない……
「アルディエルという天使のことはよく分かりませんが…… そうですか。過去に悠奈さんと交流があったのですね」
「むむむ、ボクの親友をつけ回す天使めぇ! ちゃんと悠奈ちゃんの話を聞かないとぉ許さないんだからなぁ!」
 一通り事情を聞き、頬に手を添え頷くユウ(jb5639)。その横で白野 小梅(jb4012)ががっでむと拳を握りつつ、本音では「天使怖い」と産まれたての仔鹿のようにぴるぴる震えている。
 なるほど、あの時の自主訓練はこういう事態を想定していたのか、と、ユウはチラリと勇斗を見やった。司もまた星嵐と共に、無言で集中する勇斗を心配そうに眺めやる。以前と違い、流石にもう無茶はしないとは思うが……
「本音を言えば、天使に対して思うところは色々あるで? でもまあ、説得が上手いこといくんやったら、万事問題なしやねん?」
 黒神 未来(jb9907)はそう言って、悠奈ににかっと笑ってみせた。……未来の左目が灰色に沈んでいるのは、天使による襲撃が原因である。それによって未来はそれまで打ち込んできたスポーツの道を閉ざされた。……素直に許せるわけはない。が、今回は話が別だ。無駄な戦いは避けたいという、悠奈の気持ちは良く分かる。
「やれやれ、説得とか面倒くさいことだ…… って、あれ? 戦闘にならないなら、そっちの方が面倒くさくないのか……?」
 苦笑混じりに、自らの思考の糸をこんがらかせる向坂 玲治(ja6214)。智美も答えた。生徒の説得によって学園に来た天魔もいっぱいいるらしい。件の天使も妹さんだけには友好的っぽいし、説得できるとしたらそれは彼女だけだろう……
「みなさん、ありがとうございます!」
 悠奈は喜色を浮かべて立ち上がると、皆に深々と頭を下げた。
「説得できるのが一番なんだろうけどォ…… まァ、世の中は確実な事なんて何もないからねェ♪ 」
「な、なんにせよ、まずは自分の想い、考えを思いっきりぶつけちゃいなさい。全てはそこからだよ、悠奈ちゃん!」
 きゃはァ、と悪戯な表情を浮かべて言う黒百合(ja0422)を遮るように、彩咲・陽花(jb1871)が慌てて悠奈の両肩をガッと掴む。その様子を見て、沙希や加奈子たちと共に笑う雪室 チルル(ja0220)。良い意味で『単純』なチルルは説得の是非を問わなかった。──考えるのは他人の仕事。説得が失敗した時、正面からぶつかるのが自分の仕事だ。
「連絡来ました。アルディエルによる襲撃です」
 勇斗の報告に一気に緊張感を高めながら、撃退士たちは戦闘の準備に入った。
「沙希ちゃん、加奈子ちゃん、貴女たちはここに残った方が……」
 悠奈の友人たちを振り返った月影 夕姫(jb1569)は、そう言い掛けて、だが、口をつぐんだ。悠奈の、親友の一大事。絶対についていくんだ、と2人の表情が告げている。
(言っても無駄か…… まぁ、自分が彼女たちの立場だったら、同じ様にするだろうしね)
 夕姫は苦笑し、頭を振った。代わりに沙希と加奈子を励ます様に、2人の背をパンと叩く……

 サークルを潜り抜けた瞬間、撃退士たちは即座に魔具魔装を構え、周囲の状況の確認に入った。
 蒼い空の下、緑の草原が広がる緩やかな丘の中腹── 稜線に見えるガードレールが丘の上を走る道路の存在を知らしめる。
 その道の上にはガードレールに激突し、荷をぶちまけたトラックが1台──距離は50mといったところか。トラックの周囲では、サーバント『燈狼』と『牙虎』が10体以上、零れ落ちた食料を缶ごとガシガシ喰らっている。そして、ボンネット上に、襲撃を成功させたにも関わらず物憂げに座る少年天使・アルディエル──
「見つけた! あいつが天使ね! ……って、あれ? どっかで見なかったっけ?」
 意気込み、その後に小首を傾げて、チルルはハッと思い出す。秋田の某撃退署での戦いの際、撤収していく少年天使を遠目に見た。へぇ、あの時の天使が『徹汰』なのね、と刺突剣を持つ手に力を込める。
 『敵』も転移して来たこちらに気づいた。ぼんやりと上げた天使の視線がこちらの一点で硬直し…… 驚愕から喜色へと目まぐるしく表情が変わる。
「……来たか!」
 光の翼を広げ、ボンネットより飛び降りるアルディエル。瞬間、サーバントたちは命令も無いまま撃退士たちへ向け丘を駆け下りる。
「落ち着いて話をするには、まずアレをなんとかしないとダメのようね」
「さてェ…… 慣れないアストラルヴァンガードで何処まで動けるかしらねェ。楽しみだわァ♪」
 素早く膝射姿勢で大型ライフルを構える夕姫。黒百合もまた足を止め、軽く舌なめずりをしながら『獲物』たちの動きを注意深く観察した。
 敵は牙虎1頭、燈狼2匹を天使の直掩に残すと、こちらへと距離を詰めつつ大きく左右に展開した。それを見たチルルは思考ではなく、直感で敵の思惑を看破した。だが、こちらの目的は天使の説得。故に敢えてそれに乗る。
「散開! 悠奈が説得に入るまで敵の突破を阻止! 両翼からの攻撃を凌いで、時間を稼ぐよ!」
 敵正面に立ち、叫ぶチルル。智美は長槍を活性化すると、己の闘気を解放しながら、右翼側より迫る敵の1班に突っ込んだ。
(交渉を有利に進める為にも、敵の手数は積極的に減らしておきたい。……それに、今までの報告書やさっきの動きを見る限り、サーバントがあの天使の命令をちゃんと聞くか不安だし)
 長槍を手に疾く地を走り、先頭の牙虎目掛けて智美が穂先を突き入れる。繰り出された剣状の穂先が牙虎の顔面に突き入れられ、ただの一撃でもってその姿を掻き消した。
(幻影……!)
 理解し、包囲されぬよう手早く横へと駆け始める智美。まずこの敵から撃破しようと、敵が行き足を止めて智美を包囲せんとする。
 と、そこへ側面から銃撃が浴びせかけられ、智美の背後に回ろうとしていた燈狼がたたらを踏んで跳び退いた。振り返った燈狼の視線の先に、狙撃銃を構えたユウの姿。と、その指が冷静に引き金を引き絞り。直後、眉間を撃ち抜かれた燈狼が頭を仰け反らせて地に倒れる。
 新たな敵の出現に、回避運動に移る敵。ユウは智美を包囲しようとする燈狼へ立て続けに牽制射を放ちながら、牙虎(モザイク付き)に対して本命の一撃を叩き込んだ。闇の力が込められた銃弾は、陽炎に揺らぐ牙虎の本体を正確に撃ち貫いた。ボッ! と横腹を穿たれた牙虎が、背後に大穴を空けて色んなものをぶち撒ける。
 強力な射手の存在を悟った敵は、そちらにも戦力を分けた。ユウは膝立ちになりながらアームを拳銃へと変更し、射撃を加えながら立ち上がり、後方へと退避する。
 そんな敵の動揺と隙を、智美が見逃さなかった。こちらを囲う燈狼たちを槍の穂先の素早い出し入れで牽制しつつ。ユウへ向けて駆け出そうとした背後の1体へ背中から一歩踏み込み、長槍を撓らせながら身体ごとぶん回して得物を大きく横へ薙ぐ。カウンター気味に正面から柄を叩き込まれたその燈狼が、反動で吹き飛び、地を転がる。瞬間、一斉に距離を詰める燈狼たち。智美は手早く槍を小脇に抱えると、地を蹴り、包囲されぬよう距離を取る……
 一方、左翼──
 派手な右翼側の戦場に対して、左翼側のそれは深く、静かに始まった。
 誰もいない草原を駆け、中央へと迫る左翼側の敵。まさに無人の野を駆けるが如く草の原の疾駆したその狼の群れは、だが、直後、何もいなかった筈の草原から飛び出してきた何かに側面を突かれ、隊列の中ほどまで入り込まれた。
 次の瞬間、その何かから放たれる『氷の夜想曲』。アウルの冷気が空間を伝播し狼たちに襲い掛かり。燈狼の灯を吹き消すが如く、強制された眠りが効果範囲内の彼等の意識を刈り取った。
「しっかし、説得も始まらんうちに先走ってちょっかいかけて来っとは」
 狼たちに奇襲を仕掛けたその何か──それはナイトウォーカーの未来だった。こんなこともあろうかと、敵が突進を始めた際に『ハイドアンドシーク』で気配を消し、隊列の左側の草原に身を伏せ、敵を待ち構えていたのだ。
 作戦は図に当たった。何体か鼻が利く奴もいたが、そいつらは真っ先に眠らせた。奇襲に混乱し、足が止まる敵──未来はその只中を駆け抜け、再度、夜想曲を奏でながら敵中を突破した。
「うちも脳神経が灼き切れるくらいガッツリ戦うてみたいんやけどな? 今は倒すより無力化する方が優先や」
 手下が寝た状況でまだ戦いを続けようってアホな考えはせえへんやろ── 呟き、再度、気配を消しながら未来が背後を振り返り── そこへ中央からてくてくと歩いて来た黒百合が、その周囲に燃え盛る劫火を呼び出し…… 無造作にぽいっと敵中へと投げ込んだ。
「ああっ!? せっかく寝かせたのにっ!?」
「ごめんなさいねェ? でも、『アンタレス』を撃ち込むのに最も効率が良かったからァ」
 慌てる未来に悪びれることなく言う黒百合。瞬間的に燃え広がる地獄の業火。夜の冷気に包まれ眠っていた狼たちを炎が巻き込み、強制された眠りに中断を強いて叩き起こす。
「でも、まァ、無力化という意味では、睡眠も永眠も変わらないわァ♪」
 再び敵中へ放たれる劫火の嵐。倒れ伏す狼たちの姿に、黒百合は今度こそ満足そうに頷いた。

 こちらの戦力の分散を確認したアルディエルが直掩を連れ斜面を折り始めた時── 玲治と星嵐の2人は隊列を離れ、一旦、後方へと下がった。
「アルディエルがトラックから離れました」
「……んじゃま、一丁、行くとしますか」
 そのまま大きく戦場を迂回し、外縁部から丘を駆け上がる星嵐と玲治。その目的は、トラックの周辺に取り残されていると思しき人員を救出してくることだった。
 輸送隊の非戦闘員と、護衛の撃退署員── 普通なら生存は絶望的なところであるが、件の天使が『不殺』であるなら、生きている可能性が高い。
(そして、生きていればこそ──交渉で、相手の手札として使われる危険性もある。『悠奈ちゃんと交換』とか言い出されたら目も当てられない……)
 そんな星嵐の考えを見透かしたかのように、アルディエルの視線が2人を捉える。だが、アルディエルはそんな2人を見逃した。やはり、と心中で首肯する星嵐。以前もかの天使は負傷者の治療に向かった撃退士を見逃したことがある。
 だが、手下であるサーバントには見逃す理由がなかったらしい。天使に直掩していた牙虎の吠え声が2人の存在を他班に伝え…… 主力から牙虎2頭と燈狼2匹の計4匹が分派し、こちらへ向け駆け上がって来る。
「主人の意向を無視するとは。躾のなってない犬っころたちだな」
 玲治は呆れたようにそう呟くと、「どうする?」と星嵐を振り返った。狼はともかく虎2頭は2人で相手するには厳しい相手だ。
「……半分は幻影だと思います。1体ずつならなんとかなります」
「実際に4体だったら?」
「逃げましょう」
 その言い草に笑みを浮かべながら、玲治は迫る敵に対して前に出た。その手には全長4m近い白銀の槍──この様な開けた戦場では無類の強さを発揮する愛槍だ。
 星嵐もまた足を止め、迎撃態勢を整えた。銀色の双銃を構えながら『ヘルゴート』。射程内に入った敵に対して銃を乱射し、本体・幻影の別なく撃ち捲くってまずは敵の実体を看破する。
 星嵐の予想通り、敵の半分は幻影だった。アウルの銃弾を受け、霞と消える。
 玲治は迫る2体のうち牙虎の正面に移動すると、手にした長槍を突き入れた。穂先に肩口を切り裂かれつつ、突進を継続する牙虎。玲治もまた怯まない。鋭い牙と爪を振り上げて襲い掛かってくる巨体を凧形の盾で受け止め、押し返し。視界の隅、後衛へ突破しようとする狼に対してその長大な槍を振るって牽制する。
 星嵐は玲治を中心に円を描く様に狼の反対側へ回り込むと、牙虎の横腹に向かって両手の銃を速射した。唸りを上げ星嵐を睨む牙虎に玲治が盾ごとぶち当たり。その後方を回り込んでくる狼に向け、星嵐もまた両刃の直剣に魔具を替え、その刃に光を灯す……


 各所で激戦が続く中── 悠奈の元へ歩みを進めていた徹汰=アルディエルは、縁が掲げ持った『話し合い希望!』と書かれた白旗を目にして足を止めた。
「徹汰……じゃなくて、ルディ君! ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「君と話がしたい。俺たち……いや、悠奈ちゃんの話だけでも聞いてもらいたい。一度、矛を収めてくれないか!」
 縁と司の呼びかけに、ルディは応じることにした。緊張した面持ちで推移を見守る勇斗。その陰から顔を出し、魔女の箒を手にじぃー、と油断なく徹汰を藪睨みにする小梅。悠奈の背後についたチルルは、眼前の天使よりもむしろ周囲の側方や背面を重点的に警戒している……
「縁は前に自己紹介を済ませたけど、私の方はまだだったね。私は陽花。悠奈ちゃんたちの友達なんだよ」
 魔具も召喚獣も持たずに悠奈に並び、陽花が改めてルディに自己紹介をする。
「まさか、戦闘の意志がない状況で再び会話をするなんて思ってもみなかったんだよ。縁の方はそんな予感があったみたいだけど」
 陽花の言葉に、同感だね、と苦笑するルディ。この人一人探すには広い世界で、また悠奈と会えるとは思ってもみなかった。希望は捨てるもんじゃないな、と、割かし本気で思えてくる。
「……悠奈ちゃんと話をする前に一つ教えて欲しいんだけど。あなたは何で悠奈ちゃんに拘っているの?」
「「ふぇっ!?」」
 夕姫に尋ねられて、ルディと悠奈が同時に素っ頓狂な声を上げた。慌てふためく2人に勇斗が複雑な表情を浮かべ、それを見た陽花と縁が顔を見合わせ、苦笑する。
 アルディエルはこほんと咳を一つすると、己の事情を説明した。──どうせこの世界は天魔によって収奪し尽くされる。だから、そうなる前に天界に引き込み、救済を施すのだ。冥魔を撃ち滅ぼすという大義の名の下に──
「嘘ね」
 それ以上は聞かず、夕姫は断じた。
「そんな気持ちでわざわざこんなことまでしたって言うの? 本心で語らないと悠奈ちゃんには──いえ、誰の心にも届かないわよ?」
「……ねぇ、『大義』って言ってたたけど…… 天界が正しいって、誰が決めたのぉ? それはホントに自分の考えぇ?」
 それまでずっと怯えて震えていた小梅が、ジッとルディを見据えて訊ねた。天界は──天使は人間の上位存在ではない。そんなことも分からない者が天界には多すぎる。目の前の天使はどうだろうか。ちゃんと自分で考えているだろうか……?
「……私たち、久遠ヶ原学園の『学生』は、皆、理由こそ違えど、『自分の意思』で行動しているんだよ。勉学も、訓練も、誰かに強制されて何かをしたり、戦わされたりすることはない…… 悠奈ちゃんだって、自分の意思で、今、ここにいるんだよ。こうして君と話をする為に、自分の意思でここに来たんだよ」
 縁のその言葉に、徹汰は改めて悠奈を見つめ返し、なぜ? と一言、問うた。悠奈は息を大きく吸うと…… 正面から徹汰に向かって語りかけた。
「……あの洞窟で徹汰君に会うまで、私は天使って怖いものだと思ってた。私たち人間を見下し……うぅん、人を人とも思っていない、って」
 その認識は正しい、と徹汰は言った。天使の多くは人間を『資源』としか見ていない。そう言う意味では、徹汰の兄天使はまさに正しく天使であろう。
「……でもね、徹汰君と会って、話して思ったの。天界の天使も家族の事で悩んだりするんだ、喜んだり、悲しんだり…… 私たちを同じなんだ、って」
 だから考えた。いっぱい悩んだ。でも、結局、思いついた事は一つだけ──
「──私は、徹汰君と戦いたくない。殺し合いをしたくない。だから…… だから、徹汰くん。私たちの学園に──久遠ヶ原学園に一緒に来ない?」
 僕が、人間の、学園に……? 悠奈の話を聞いたルディは、大きくその目を見開いた。何を言っているんだ、そんな冗談── 狼狽し、悠奈以外の撃退士たちに視線を彷徨わせる。
「悠奈ちゃんの言ってることは……その想いは本物よ。その事で悠奈ちゃんが誰かから咎められることもない。あなたが決断さえすれば、私たちも歓迎するわ」
「想像して見て、ルディくん。学園で、悠奈ちゃんと一緒に学園生活を謳歌している自分を…… 誰に戦いを強制されることもない、いつでも会いたい時に悠奈ちゃんに会える生活を──」
 縁と陽花の言葉に、ルディは文字通り頭を殴られたような衝撃を受けた。本当に、そんな事が── 潜入、弱体化、兄天使、戦争──様々な思考が脳裏をごちゃまぜに行過ぎる。
 そんな中、ふと浮かんだ情景は、悠奈と並んで学園へ登校する姿。笑顔の自分たちを想像したルディは悠奈に応じるべくその右手を上げて──
 瞬間、フラッシュバックする姉天使の今際の記憶。倒れ伏し、血塗れになったその細い指でルディの頬を優しくなぞり…… 痛々しく微笑を浮かべながら、その唇が最期の言葉を発する──
 ルディの顔から表情が消え、悠奈の手を取ろうとしていた右手がゆっくりと下げられた。
 チルルと勇斗が表情を消し、泣きそうな顔をした悠奈の前に出る。
「無理だよ。冥魔どもを殲滅するには、天界の力が必要だ。君たちの学園では、魔界を滅ぼすことはできない」
 右翼側の敵を殲滅し終え、ユウと共に中央に戻って来た智美は、その雰囲気から説得が失敗したことを悟った。『悪魔に殺された姉みたいな天使』──やはりその存在がネックになったか……
 アルディエルが翼を翻し、その両手に光の珠を現出させ、構えた。
「……僕は直接の上司に学園の撃退士を一人、捕まえて来るよう命令されている。できれば悠奈に来て欲しかったけど……」


 牙虎と燈狼を返り討ちにした玲治と星嵐は、そのまま丘を駆け上がってトラックの元へと走り寄った。
 周囲には重傷を負って倒れた4人の撃退署員── そして、運転席に非戦闘員の運転手が残っていた。玲治が倒れていた撃退士たちを抱え上げ。星嵐が運転手に「大丈夫ですか?」と声を掛ける。
 運転手はガタガタと震えるばかりで呼びかけにも反応しなかった。……無理も無い。危害を加えられなかったとは言え、周囲を容器ごと缶詰を喰らうようなサーバント共に囲まれていたのだ。
 星嵐は運転手のシートベルトを外してやると、手を引いて車外に出してやった。外に出ると、銃声や剣戟の音が響いてきた。
「おいおい、マジかよ……」
 かんべんしてくれ、と肩を落としつつ、しゃーねーな、と槍を手に味方が戦う戦場へと書け戻る玲治。星嵐は署員を全てトラックの荷台に載せると、運転手の頬を叩いてその正気を取り戻させた。ハンドルを握らせ、とにかくこの戦場を離脱するよう言い含め、自身は銃を手に玲治の後を追う……

「言葉で言っても伝わらないなら、拳で伝えるしかないね。スレイプニル、出番なんだよ!」
 説得の失敗を受け、陽花はその場に馬竜を召喚。薙刀を手にその馬上へ飛び乗り、戦闘態勢を整えた。
 天使直掩のサーバントは露払いでも務めようというのか、先陣を切って撃退士たちへと突撃する。まず幻影を突っ込ませ、守備陣の撹乱を図る燈狼たち。瞬間、左翼側から飛び出してきた人影が悠奈の前に立ち塞がった。未来だ。左翼の敵を撃滅し、間一髪、戻って来たのだ。
 正面へ向き直り、赤く輝く左目を敵へと向ける未来。瞬間、正面にいた敵の幻影が消え、その眼力が発する重圧が後ろの敵の動きを止める。そこへさらに放たれるユウの無数の影の刃。まるで風に舞う木の葉か蝗の如く浴びせかけられた小刃の猛威が燈狼の身体を切り刻み、その身を大地へと叩きつける。
 その犠牲が生んだ間隙に、陽炎を纏った牙虎がさらに地を蹴り、突っ込んで来る。その横を、互いに無視して駆け抜ける牙虎とチルル。更にその上空を馬竜に跨った陽花が通過し、薙刀を手に突撃を掛ける。フッ、と呼吸法の息を吐きながら、手にした刺突剣を少年天使へ突き入れるチルル。上からは陽花が天使の上方を駆け抜けながら、眼下の敵へ弧を描くように薙刀を振り払う。
 天使はその同時攻撃を、手にした光の珠で難なく受け凌いだ。一方、牙虎は倒れた燈狼の横を駆け抜け、榊兄妹の眼前へと突入し…… そこへ重装を纏った司がその身ごと小盾でぶつかり、真正面から牙虎の突進を受け止めた。
 落ちかけた膝を堪えて踏ん張り、大剣の柄でぶん殴る。その横合いから、両の腕に蒼海布槍を天女の如く展開させた夕姫が、その布状魔具を振るって牙虎の顔へと投げ放る。牙虎の牙に巻きつき、ピンと張る布槍。そのまま虎へと突進した夕姫は、その突進の勢いのまま拳に煌く『神輝掌』の光を虎の側頭部へと振り抜き、叩き込む……!
「まだ諦めたらダメやで、悠奈クン! まだ決裂したわけやない!」
 悠奈を振り返り、叫ぶ未来。交渉の機会はまだ残っている。それはこちらが圧倒的に優位に立った時── 即ち、全てのサーバントを倒した時に!
「そうか──! まだ交渉が終わったわけじゃないんだ!」
 司は悠奈を励ます様にそう声を掛けると、夕姫がぶん殴った反対側から振り被った大剣を斜めから切り落とした。虎の肩口に一撃を加えた後、流れるような横撃でもって、虎の牙を折り飛ばす。さらに智美が側面から連続的に突き入れた槍の穂先が虎の足元を削り…… その足が止まった所を、司と夕姫が一撃を振るって止めを刺す。
「アルディエル! 今、君がしていることが本当に君の願いなのか?! 悠奈ちゃんの想いを受け取っても尚、少しも変えることが出来ないものなのか?!」
 牙虎に止めを刺して天使を振り仰いだ司は、驚愕に眼を見張った。周囲にアウルの砕氷を振り撒きながら、正面から刺突剣で打ち合うチルルと、そのチルルと挟み込むように、天使の背後、背後へ回り込みながら馬上から薙刀を振るう陽花── まずは敵の攻撃手段を確認すべく、離れた場所からの牽制攻撃が主であるとは言え、アルディエルは複数の撃退士を同時に相手取ってなお互角の戦いを見せていた。その距離に対応するように、光の珠は手の平から離れ、腕の延長線上に浮遊。天使の手の動きに合わせ、見えざる棒で、或いは見えざる紐で繋がっているが如く宙を舞い、チルルと陽花に襲い掛かる。
 アルディエルには、まだ余裕があるようだった。──少なくとも、司の言葉を聞き、理解し、唇を噛み締める程度には。
「このぉ! 本気でいくんだよっ!」
 縁はジャコンッと散弾銃を構えると、アウルの力を全開にした。そのままアルディエルを中心に微妙に銃口をずらしながら、腰溜めに衝撃を吸収しつつ、目にも留まらぬ三連射を浴びせかける。
 広い範囲に亘ってばら撒かれたアウルの散弾の文字通りの弾幕を、だが、天使はカッと目を見開き、翼をはためかせてその全てを回避した。更に追撃をかけるチルルと陽花。天使は更に放たれた夕姫の大型ライフルの銃弾をまるでサーカスの様に空中で避けながら、その間隙に身を捻り、光の矢の散弾を追撃してくる陽花に放った。
「あっ……!?」
 召喚獣と同時に攻撃を喰らい、墜落して地面へと激突する陽花。天使はそこに止めを刺さず、光の珠を手に引き戻すとそれを双剣状に変化させ、追ってくるチルルに逆突進し、慌てるチルルと互いに剣を切り結ぶ……
「手で受けているところを見ると、サリエルと違い、自動防御ではないようですが…… なんという同時対処能力。まるで背中に目があるよう……!」
 後方から狙撃銃で支援射撃を行いながら、どこか感心したようにユウが呟いた。勇斗と悠奈の裏に隠れた小梅は、天使怖いと震えながら頑張って箒を振るうも、現れたアウルの仔猫は皆、耳が倒れ、尻尾も足の間に隠れていたりする。
 発砲。ユウの放ったその銃撃に気づいた天使は、光を楯状にしてそれを防いだ。砕かれ、光の粒子と化して散るその盾の様子に、重い闇の力を感じ取り、反撃の光──遠距離攻撃を放とうとしたアルディエルは、だが、その直前に振るわれた黒百合の、ブースト付きの長槍による殴打に中断を余儀なくされた。両腕をクロスし、二枚重ねの光の盾でその一撃を受け止める天使。「へェ♪」と驚きの笑みを浮かべた黒百合は、直後、ガクリと膝を落とした。同時に、天使に与えた傷が、見る見る内に消えていく。
(何かをされたァ……? この天使、私の『吸魂符』と似たような能力をォ……?)
 そんな黒百合から距離を取りながら、アルディエルは大きく息を吐いた。多人数からの攻撃に完璧に対応しているように見える彼も、その実、あまり余裕はなかった。
 その集中力は永遠に持続できるわけではないのだ。天使はチラと視線を振ると、撃退士たちの中で最も組し易そうな相手を──悠奈と、その同級生たちに狙いを定めた。一撃離脱で掻っ攫うべくその翼を翻し。その眼前に立ち塞がった盾持ち──勇斗を数合の後、打ち払い──
「お兄ちゃん!?」
 打ち払おうとしたところで、悠奈のその叫びにルディは思わずその動きを止めていた。
 明確なその隙に、チルルが荒い息を吐きながら天使の背に奥義を叩き込もうと腕を上げ。その直前、間髪入れずに勇斗の後ろから飛び出してきた小梅が、なんとまさかのグーパンチでルディの頬を殴り飛ばす。
「悠奈ちゃんをイジメるなぁ! っていうか、女の惚れ方間違えるな!」
 あまりと言えばあまりの事態に、思わずみんなその手を止めて戦闘が中断される。
「おっと、俺たちが来たからにはそこまでだ! 月並みなセリフだが、こっから先は俺を倒してからだぜ!」
 トラックの所から書け戻って来た玲治が戦場に飛び込むなりそう見栄を切り…… すっかり熱の引いた場の様子に「あれ?」と小首を傾げてみせる。
「……その人は悠奈ちゃんの兄、勇斗ですよ。悠奈ちゃんは兄である勇斗と離れることを望んでいない」
 同じく、戻って来た星嵐は、手にした銃を仕舞いながら、さり気なく沙希を庇うように立ちつつ、ルディに対して声を掛ける。
 縁もまたそれに続いた。「君がこの兄妹を引き裂くと言うのなら、私たちは絶対に君のことを許さない」──
「勇斗くん。あなたの想いを彼に伝えてあげて。多分、あなたの言葉が一番、彼に届くと思う」
 夕姫に背中を押されて、勇斗は難しそうな表情で天使を見上げた後…… 顔を背け、嘆息混じりに一気に告げる。
「……俺は兄として、妹、悠奈の望みを出来うる限り叶えてやりたいと思っている。だから、今回のお前に対する説得にも自分なりに協力することにした。……だが、それが不調に終わった今、俺がすべき事は悠奈の身を守ることだ。妹やその友達を無理やり連れて行こういうのなら、俺は全力でその邪魔をする。倒さなければ止められないと言うのであれば、悠奈の意思に反してもお前を滅ぼす。そう決めていた」
 そこまで言って、勇斗はルディに顔を向けた。
「だが、お前がいないと悠奈が幸せではないと言うのなら……俺はお前を受け入れる。もう一度聞く。お前は悠奈の為に学園に来るつもりはないのか?」
 そんな勇斗の言葉に、ルディは笑みを浮かべ、だが、答えずにその高度を上げた。良いお兄さんと仲間たちだね、とどこか寂しそうに悠奈に告げる。
「お兄さんとは仲直りできてたんだね。……良かった。君は一人じゃないじゃないか。君には僕と違って、戦うこと以外の生き方もある。僕には君が必要だったけど…… 君にはもう、僕は必要ではないよ」
 ルディは寂しそうにそう言うと、その翼を翻して南へと去っていく。
「アルディエル! 悠奈さんたちの言葉を……想いを聞いて、もし、何か思う所があるのなら…… 自身の心と対話を続けてください!」
「君の説得……私たちはまだ諦めてないからね! なんとなく、君は悠奈ちゃんの良い友達になれそうだから!」
 少年天使の様子に何か感じるものを見出し、ユウがその背に声を掛ける。陽花もまた声を掛けつつ、その内容に苦笑した。──友達以上になられると、勇斗くんはまた複雑であろうけど。
「ゆっくり考えて、今度会った時に答えを聞かせて。私たちは、待っているから」
 夕姫の声を最後に天使は今度こそ戦場を離脱する。
 それを確認して、小梅がへたり、と座り込んだ。なんて無茶を、と駆け寄る悠奈に、だって、友達だもん、とにっこり笑う……
「悠奈ちゃん。君の想いを言葉にすることをこれで諦めないで。彼の事情から言葉を受け取ることは出来ないかもしれない。でも、想いを乗せた言葉はきっと彼に届いているはずだから」
 落胆する悠奈に励ましの声を掛ける司。ユウもまた頷いた。
「悠奈さんの想いに…… 自身の内なる声に、彼が心を傾けてくれればよいのですが……」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー