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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/07/27


みんなの思い出



オープニング

 久遠ヶ原学園実務教師・松岡と、民間撃退士会社『笹原小隊』第一分隊長・藤堂は、旧体制下の久遠ヶ原学園において教育を受けた、同じ旧世代の撃退士である。
 当初は年齢、性別が異なる為、殆ど接点はなかったが、訓練成績等で互いに名の知れた相手であった。初めての会話は入学から1年後。比較的実力の高い者が集められたクラスにおいて、同班になったことがきっかけだった。
「藤堂です。よろしく」
「……松岡だ」
 この時のことを、同班で行動を共にした杉下(現『笹原小隊』第二分隊長)は今でも鮮明に覚えている。容姿・実力共に傑出した委員長然とした生真面目な藤堂と、実力はありながら何事にも不真面目でいいかげんな性質の松岡は、性格的な面から言えば、まさに水と油だった。二人の第一印象は、共に『苦手なタイプの男』と『めんどくせぇタイプの女』── だが、戦場における相性は群を抜いていた。近接格闘に長けた突撃役の阿修羅・松岡と、ハンドガンと盾を手にその背を守るディバインナイト・藤堂。そして、そんな2人を支援するインフィルトレイターの杉下を加えた班は、こと実戦形式の訓練においては(松岡のやる気的に)非常に高い戦績を弾き出した。
 やがて、生真面目な藤堂がちゃらんぽらんな松岡を監督する(或いは、世話を焼く)形で、実生活においても3人は親しく(?)なっていった。……ちなみに、その(ト○とジェ○ー的な)仲の良さから周囲に『リア充』認定をされていた2人であったが、杉下の知る限り、2人が正式に交際していた事実はない。傍から見ても見え透いた感のある2人ではあったが、正直な所、互いに『自分の気持ち』に気づいていたのか、それすらも怪しい、と杉下は見る。
 ……やがて、学園内にゲートが出現し、全校生徒の3分の1が死亡するという大惨事が発生した。多くの級友や顔見知りが犠牲となった。その中には藤堂の弟もいた。
 そして、衝撃的な事実が伝わった。『これまでの軍隊式教育は、学生のアウルの成長を阻害する』というものだった。
 正直な所、学生たちにとってこれは堪えた。死んだ仲間たちの仇を討つべく、復讐を期して腕を磨いていたというのに、その自分たちにはもう撃退士としての伸びしろがないというのだ。これまでの厳しい訓練も、自律も、覚悟も、使命感も、みんな、みんな、そう遠くない未来に限界を迎え、無駄になってしまうのだ。
「違う。たとえアウルの力が乏しいままであっても、たとえ撃退士としての実力が後進に抜かれる程度のものであっても…… それでも、僕らは、僕らには、あの厳しいばかりの訓練の日々で得られたものが……僕らにしか得られなかったものがあるはずだ。ならば、僕らは、僕たちに出来ることをしよう。僕らにしかできないことをしよう」
 呆然とする撃退士たちの中で、笹原が──現隊長のお兄さんだ──立ち上がって皆に告げた。後の『小隊』はこの時、萌芽したと言っていい。
 卒業後、笹原を中心に集まった有志たちは、相互の扶助を目的とした民間撃退士会社を立ち上げた。藤堂や杉下を含め、クラスの多くがそれに参加した。
 だが、松岡は参加しなかった。彼はこの学園に──自分たちをこの様な状況に(結果として)追い込んだ学園に、教師として残ることを決めた。
 松岡の決定を、多くの級友たちは『裏切り』と捉えた。松岡は反駁することもなく、杉下たちの前から消えた。

 そんな松岡が、藤堂や杉下たちと再会したのは今年。別れてから8年の歳月が経っていた。
 山形のとある最前線の『砦』にて、攻め寄せて来た二個中隊規模の『骸骨銃兵』の方陣に対し、『城壁』に拠ってどうにか応戦を続ける『笹原小隊』。だが、来るはずの増援は秋田への攻勢を強めていた天使勢力に備える為に来援せず…… 撤退の許可が出された後も、市民が避難する時間を稼ぐ為、籠城を継続した『小隊』は、だが、奮戦も空しく徐々に戦力を消耗していくしかなかった。
 そこへ、多数の学生撃退士を引き連れ、増援として現れたのが松岡だった。松岡は、常に笹原小隊のことを気にかけていた。学園として、依頼として正式な手続きを踏まぬまま、急遽、無理をして人を集めた。書類上は『砦の防衛戦に参加中の学生を救出する為』という理由付けがなされていたが、その後も防衛戦に参加していることから、名目に過ぎないことは明白であった。
 ちなみに、8年ぶりに松岡と再会することとなった藤堂は、松岡の姿を見るや『城壁』の上から飛び降りて駆け寄り……
「今更どの面下げてのこのこ現れやがった?!」
 と渾身のグーパンチを松岡の顔面へと叩き込んだ。
 以来、2人は、公共の場を除いては一度も顔を合わせていない。作戦会議において事務的な会話を交わすだけだ。
 それを見て杉下は苦笑する。──それでいて2人とも、作戦会議の場におけるその会話に淀みはない。疑問点がでない位、互いの思考を理解するその相性の良さを、果たして本人たちは理解しているだろうか……

 2014年、7月──
 山上に敵が築こうとしていた拠点の破壊、および、こちらの『城壁』爆破の阻止以降、膠着していた『砦』攻防戦の戦況が動いた。
 その日は散発的に行われていた『蛙人』による夜襲もなく…… 比較的、よく眠れた撃退士たちはいつもの如く、いつも夜明けと共に始まる敵襲に備えるべく『城壁』の上へと上がり…… ふと目の前に広がる光景に違和感を覚え、その正体に気がついた時、己が目を疑った。
「敵が、いない……?」
 驚愕の報告は、すぐに『小隊』の上層部に届けられた。会議室に集まり、顔を見合わせる隊長たち。確かに敵は『攻城兵器』の殆どを失い、銃兵による進撃路の開拓にも失敗した以上、撤退する理由は十分にあるのだが……
「罠だ」
 敵おばちゃん指揮官のそれまでのやりようから、藤堂はそう断じた。成算のなくなった──或いは、陽動としての役目を終えた──攻城戦に見切りをつけ、『砦』の中から戦力を誘い出そうというのだろう。
「うん。だけど、東北の撃退局からは、一刻も早く敵の所在を確認するよう、矢の様な催促が来ていてね」
 現小隊長の笹原が、申し訳なさそうに皆に言った。現在、秋田および仙台方面では天使勢力による攻勢が強まっている。もし、その消えた敵がそちらに向かうようなことがあれば、仙台もまた対策を考えなければならない。
「あれだけの地上戦力、そうほいほいと右へ、左へとは動かせないとは思いますがね」
 やれやれと肩をならしながら、藤堂が立ち上がった。指揮官であれば、確かな情報を欲しがる仙台の人間の気持ちは分かる。そして、雇い主の命令があれば従うのが今の自分たちの立場だ。
 待て、と松岡が立ち上がった。『小隊』の兵たちは、皆、長い攻防戦に従事してきて疲労し切っている。
「俺も学生たちを連れて行く」
「待った。今、ここの学生たちが受けた『依頼』は『砦の防衛任務』でしょ? 哨戒・警戒任務は本来、私たち『小隊』の仕事。貴方たちの出番はないわ」
「だが……」
「自分のわがままで生徒を契約外の、無用な危険に晒すつもり? 『先生』?」
 藤堂の言葉に松岡は言葉を失い…… そんな松岡を見て藤堂は微笑を浮かべると、笹原に「自分の隊が行きます」と告げ、見事な敬礼一つを残して退室していった。
 逡巡した松岡は、ただそれを見送るしかなかった。


リプレイ本文

 自分たちのことを気にして、松岡が斥候任務を見送った── 会議室で交わされた松岡と藤堂の会話の内容は、それから1時間としない内に、『砦』にいる学生たちのほぼ全員に広まっていた。
 十何時間ぶりにまともな食事を取りながら、イラついた様子で黙々とパンを千切る松岡。それを見た永連 璃遠(ja2142)は傍らの日下部 司(jb5638)と顔を見合わせ…… 黒井 明斗(jb0525)はコホンと咳払いをした後、姿勢を正して松岡に言った。
「松岡先生。どうぞ藤堂さんたちを追って行ってください」
「契約はあくまで『砦の防衛』だ。ルールを守らせるべき教師が率先してそれを無視するわけにもいかん」
 既に一回、それに近いことをしているくせに── 生徒たちは心中でツッコミを入れた。そも自分たちがこの『砦』にいるのも、藤堂たちの危機を聞いた松岡が始末書覚悟で人を集め、増援として連れて来たからだ。
「先生。確かに俺たちの契約は『砦の防衛任務』です。ですが、藤堂隊長たちを失う事は、即ち、貴重な『砦』の防衛戦力を失うことを意味するのではないでしょうか?」
「ここで戦う小隊の人たちに助力することだって、立派に『砦を守る』ことに繋がります。故に藤堂さんたちを助けることも、立派に僕たちが受けた依頼の範疇です。……っていう言い訳はどうでしょう?」
 司と璃遠の説得──或いは、誘惑──に、松岡は一瞬、虚を衝かれた顔をした。
「……詭弁、だよなぁ」
「いいえ、『拡大解釈』よ。以前、先生がやってみせたような、ね」
 そう答えたのは、食堂の外からやって来た月影 夕姫(jb1569)だった。全ての魔具魔装を活性化させた、フル装備で立っている。
「ここまでつき合わせておいて、今更『防衛任務』とか。罠に学生を飛び込ませたくないって気持ちは分かるけど…… 開けた場所で敵に囲まれたら、藤堂さんたち、全滅は避けられないわよ?」
 小声で告げ、そのまま食堂を出て行く夕姫。頷いてみせる司と璃遠。明斗が背筋を伸ばして言う。
「大丈夫です。松岡先生たちが抜けても、この砦は陥とさせません」
 松岡は無言で立ち上がると3人に「後を頼む」と告げ、夕姫の後を追って外に出た。
 食堂の外には夕姫の他に、彩咲・陽花(jb1871)と雪室 チルル(ja0220)、木暮 純(ja6601)、天羽 伊都(jb2199)たちもいた。いずれも既に完全武装。皆、藤堂たちを助けに行く為、松岡の決断を待っていた学生たちだ。
「あのおばさん天魔が素直に退くわけがないつうの。絶対、罠があるって」
「戦力を砦から引き離すつもりかな? それとも本気の撤退……? あのおばさんが何を考えてるか想像しずらいけど、放っておくわけにもいかないよ」
 姿を現した松岡を見てニヤリと笑って見せる純の横で、巫女服に薙刀を手に思案気に陽花が言う。
「ん〜、今時、奪都以外でこうガチガチの攻城戦とかしてる場所あったのね!」
 ボロボロになった砦をぐるりと見回し、呟いてみせる伊都。──さてさて、今回、敵さんは少なくとも単純な力攻めは諦めたようだけども…… 本当に大事なのは『箱物』じゃなく、そこを守る人員だよね。
「砦はたとえ落とされても(大変だけど)奪い返せばいいわけだし、やっぱり小隊の戦力が削がれるのが一番の問題だよね! というわけで、ボクたちは小隊戦力を維持するという点を意識して動きたい。つまり……」
 あなたは間違っていない── 生徒たちの言外のその言葉に、松岡は無言で西門へその足を向けながら、ついてくる学生たちに言った。
「すまん。俺のわがままでお前たちを危険に晒す」
「仲間を助ける。別に当たり前のことよ」
 事も無げに、夕姫が答えた。


「さて、私たちはお留守番だわァ。……どちらが敵の本命かァ、楽しみねェ♪」
 西門より出て行く松岡たち増援班を『城門』の上から見送りながら、黒百合(ja0422)は微笑と共に呟いた。
 本命? どちら? 黒百合が発したその言葉の意味を理解できず、表情に?を浮かべる後輩撃退士に説明する。
 つい先日まで、ここの敵の主目的は、この『砦』を陥とすこと──或いは、仙台から増援を呼び寄せ、ここに貼り付けさせることだった。そのどちらも、主攻である秋田侵攻を有利にする為の助攻としての面が強い。
 だが、小隊と学生たちの奮戦により、敵はそのどちらの目的も達することなく、鳥海山主力による秋田侵攻が始まった。つまり、この『砦』を巡る戦いは、戦略的に見ればただの消耗戦に堕したことになる。
 故に、敵は退いた。だが、敵指揮官の性格上、ただで退くとは思えない。砦の外に出てきた戦力を待ち伏せして叩くか、或いは留守になった砦をその間に占領するか── 斥候か、砦か、『本命』とはそういう意味だ。
「ふむ。まぁ、妥当な戦略ではある☆ 相手からすれば、砦から誘い出せた時点でこちらの戦力を強制的に分割できるわけだからねぇ☆」
 黒百合と後輩の話を聞いて、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)もまた黒百合の話に首肯した。
 とは言え、籠城したままでいればいるで今度は『こちらに深読みをさせて砦から動けなくさせておいて、その間に悠々と撤退を完了させる』という可能性もあり得るわけで……
「なんにせよ『情報が少なすぎる』かぁ…… やだねぇ。完全に敵の思惑通りってわけだ☆」
 ジェラルドのそのぼやきに、黒百合は笑みを返した。確かに、自分たちは敵の思惑に乗っているのかもしれない。だが、この時点で確かなことが一つある。
「……どちらが本命にせよ、出て行った戦力がある程度離れるまで、敵はアクションを起こせない」
 せっかくこちらの戦力を分割したのに、合流や挟撃をされては意味がない。つまり、こちらにはまだ幾許かは態勢を整える時間がある。
「というわけで、その間は好き勝手にやらせてもらいましょォ♪」
 黒百合のその言葉に、元傭兵・リーガン エマーソン(jb5029)は苦笑しつつも同意した。相手の出方が読めぬ時には、まず守りを固めるのも一手ではある。
「後手に回るのはあまり好きじゃないけど…… 状況が状況。仕方ないねぇ☆」
 ジェラルドもまたそう肩を竦めると、黒百合と共に壁を下り、二人して敵の攻撃が始まるまでの間、出来うる限り砦の防御態勢を向上させようと試みた。
 バーナーもクレーンもない中、ありったけの補修剤(これまでの戦いで破壊された砦の残骸)をかき集め、他の学生たちと共に、西門の内側に設けられたバリゲードの改修作業を行うジェラルド。黒百合は明斗と合流し、空き缶とビニールテープを用いた手作りの鳴子作りに入る。
 そんな2人の背を見送って…… リーガンは一人、城壁の上に残った。皆が砦の防衛力向上に勤しむ間、見張りとして周囲を警戒し続ける為だ。
 すっかり冷めた紙コップのコーヒーを飲み干し、活性化した銃をホルスターの中に収める。魔具であれば瞬時に装備できるので活性化しておく必要はないのだが、長年の習慣でホルスターに重みが無いと落ち着かなくなっていた。これも職業病かね、と思わなくもないのだが、過去を偲ばせるささやかな習慣としてなんとなく直せないでいる。
 そんな自分に苦笑しながらリーガンは砦の外へと視線を飛ばし…… 先程、出発した松岡たちが山の陰に消えていくのが見えた。
「……なかなかに気になる間柄の二人ではあるが。今はそれどころでもないか」
 松岡と藤堂。学生たちの間に流れた二人の噂話を思い出しつつ。戦場へ向かう増援班と、かの行く先にいる斥候班に対し、リーガンは幸運の祈りを捧げた。


 召喚されたそのヒリュウはまず城壁の上をグルリと一周し── 後、何か意を決したように、えいやっと城壁の上を越え、砦南部の市街地上空へ向け哨戒飛行を開始した。
 一生懸命に翼を羽ばたかせ、限界高度の10mを維持しつつ、怯えた様子できょろきょろと地上に索敵の視線を飛ばす。時々、召喚主から命令を受けたのか、涙目で地上付近まで降下しては地上を攻撃する素振りを見せる。何かを見つけたわけでは……残念ながら、なかった。何かが地上から近づいて来ていることを想定しての、牽制の──嫌がらせの攻撃だ。
「黒百合さんのヒリュウが哨戒に飛んでますね」
 その光景を地上から──砦の南側にある無人の街並から見上げながら、哨戒班として砦に残った璃遠が呟いた。
 その場には軽装直剣装備の璃遠の他に、帷子儀礼服に大剣装備の司と、そして、UPCジャケットに散弾銃姿の葛城 縁(jb1826)の姿もあった。3人は敵の奇襲があることを想定し、砦の外に出て敵の接近を警戒。哨戒に当たっていた。活動範囲は主に砦の南側──無人の街並が広がる、視界が悪いエリアである。
「あのおばさんが何を考えているのかわからないけど…… どんな手で来ようとも、思い通りにはさせないんだよ……!」
 璃遠と同様に空飛ぶヒリュウを見上げながら、グッと拳を握って呟く縁。あのヒリュウと同様に、敵もまた烏型のサーバントを飛ばして情報を集めていたことがある。砦内の状況は敵も掴んでいるだろう。
「今まで私たちが何度かやったみたいに、部隊を側面や後方に回り込ませているかもしれないもんね」
「はい。やはり砦の南側は、他の方面よりも身を隠せる場所が多いです。敵が潜んで近づいて来ていないか、調査の必要性を感じます」
 縁と璃遠の言葉に頷く司。無線機で砦に進発する旨を伝え、双眼鏡を下ろして振り返る。
「では、ここからは会話を封止します。伝達方法は基本的に手信号。可能な限り音を物消し、建物の陰を利用しながら、敵に先に見つからぬよう、細心の注意を払って移動しましょう」
 そこで口を閉じ、手信号で了解を求める司。縁と璃遠も頷き、手信号で意思を返す。
 3人は『索敵』が仕える縁を先頭に、無人の街並へと入っていった。縁を頂点にトライアングルを形勢しながら、いつでも縁への支援に入れるような距離で、近接攻撃型の2人が側方と背後に警戒の視線を飛ばす。
 いつ何時、敵が壁の中から現れるかもしれないという緊張感──こちらの存在が知られぬよう、阻霊符は使っていなかった。そんな中、塀の陰から通りの先を伺う縁。静かだった。以前、来た時には犬型サーバントが何匹もうろついていたものだが、今は文字通り猫の子一匹見かけない……

 随分と先まで進んで哨戒を終え、3人は一旦、小休止の為に足を止めた。
 建物の陰に入り、無言のまま水分を補給する。これまで、敵の大群が入り込んだ痕跡は全く発見できなかった。何の成果もないことに焦りを覚えつつ、同時に、それはこちら側からの奇襲がない兆候、と前向きに考える。
(陽花さんと夕姫さんは間に合ったかな……?)
 友人たちを気遣い、嘆息する縁。と、無線機のイヤホンからこちらを呼び出す音が鳴り、司はその返答として無線機を2度、ON/OFFした。
 通信は、砦のジェラルドからのものだった。それは、藤堂たち小隊の斥候班が待ち伏せを受けたことと、砦の北面に敵、蛙型サーバントが現れたことを知らせるものだった。西方、斥候班には骸骨銃兵1個小隊規模。砦北面には蛙人が約二個分隊── 璃遠は思わず、息を吐いた。
「両面ですか。急いで戻らないと。問題は──」
 自分たちはどちらの増援に向かうか、ということ。どちらも戦力の規模的には敵がこちらを上回っている。
「西は遠すぎる…… 増援班に、陽花さんたちに任せるしかないよ。私たちは来た道を戻って、東側から砦の北面に」
 縁の言葉に、璃遠と司は頷いた。もう身を隠す必要もない。砦の救援を最優先に、全力でそちらへ戻る。

 皆の殿に立ってその場を去ろうとした司は、ふと何かの気配を感じて背後を振り返った。その視界に映るは無人の街並。音もなく、特に変わった様子もない。
「どうかしましたたか?」
「いや」
 頭を振り、走り出す璃遠と司。その背が遠くに離れた後で── 物陰から、4本腕の骸骨と、真っ赤なコート姿のおばちゃん──敵指揮官が姿を現した。
「…………ふ」
 微笑とも苦笑とも取れない表情で何かを呟くおばちゃん指揮官。やがて彼女は踵を返すと、もと来た道を戻っていった。


 事前に最も待ち伏せを警戒していた市街地において、敵の襲撃はなく──斥候班はそのまま先へ抜け、田園地帯へと入った。
 田んぼの中を貫くバイパス道を進むこと暫し──やがて、道の真ん中に、撤退中に隊列から落伍したのか、膝をついて崩れ落ちた『炎岩人』の姿を見つける。
「罠かな?」
「罠よね」
 眉をひそめる藤堂と杉下。左右の田んぼは既に泥地── 市街地とは異なり道も少なく、迂回には大幅な遠回りが必要だ。
「そういう意味では、あの壊れた炎岩人1体で殿の役目は十分に果たせているね。……敵が素直に撤退している、と考えた場合の話だけど」
「どちらにせよ、こちらに選択肢はない、か」
 藤堂は部下の半数に周辺の警戒を指示すると、残る半数に遠距離からの銃撃を命じた。次の瞬間、案の定と言うべきか、左右の畑、その泥中に伏せていた骸骨銃兵たちが身を起こし、現出させた銃でもって左右から銃撃を浴びせかける。銃声と跳弾。飛び交う銃弾が薄い防風柵を貫き、何人かの兵を打ち据える……

「見つけた! この山の向こう。この先の市街地の先!」
 その様子を、召喚し、先行させたヒリュウの視覚越しに確認した陽花が、共に行く増援班の皆に向かって叫んだ。
 焦る松岡に向かって、目にした情報を逐一伝える。……田の中の道で待ち伏せを受けた藤堂たちは、既に負傷者を抱えて市街地への後退を始めていた。泥中の骸骨たちは阻霊符によってそれを追えないでいる。
 だが、その市街地では、敢えて一度藤堂たちを通過させた伏兵の骸骨たちが、その退路を塞ぐべく藤堂たちの背後に迫りつつある……
「っ!」
 松岡は走った。山を越え、街へ飛び込み…… 複数の家屋に立て篭もらんとする藤堂たちを視界に捉える。その手前には、包囲の輪を閉じにかかる伏兵の骸骨たち。更にその向こうには、殿の藤堂たちへ突っ込む炎岩人……!
「間に合え……っ!」
 伊都は銀色のコインを取り出すと、その瞳を薄く金色に輝かせながら光纏した。同時に、活性化された魔装が伊都の身体を覆い、直後、光り輝くその装備が黒光と共に黒一色へと染まる。最後に、獅子の兜が頭部を覆って変身──黒獅子モードが完成。宙に現れた黒き大剣をその手に掴み、敵に向かって突進する……
 だが、そんな伊都の傍らを、巨大な光の柱が背後から前方へと掠め飛び──包囲網を形勢しようとしていた骸骨たちの壁の一部がその一撃により吹っ飛んだ。慌てて背後を振り返る伊都。その視線の先には、刺突大剣をかっこ良く突き出し、『封砲』を放ったチルルの姿──
「あたい参上! 英雄は遅れてやってくるものよ、って、ああっ!?」
 そんなチルルの傍らを今度は松岡が駆け抜けて。藤堂たちに今にも火炎放射を浴びせかけようとしていた炎岩人に対して、烈風の如きパンチをその顔面へと叩きつけた。その拳に込められたアウルの力に大きく後退する岩人。松岡は藤堂の眼前にその背中でもって立ちはだかり……直後、余りの無茶に黒焦げになってガクリと倒れ伏す。
「ちょっ?!」
 慌てる藤堂の前に、再び迫る炎岩人。瞬間、振り下ろされた岩の拳を、その間隙に割り込んだ伊都が大剣でもって受け凌ぎ。その傍らに共に飛び込んだチルルが巨大な氷の棍棒のフルスイングで再び敵を打ち飛ばす。
「今の内に! おいしい所を持っていったその黒こげ先生を連れて、早く!」
 巨大な靄と化して霧消する氷の棍棒を手に藤堂へ叫ぶチルル。その横で魔具を銃に持ち替えた伊都が、再び距離が離れた岩人に牽制の銃撃を撃ち放つ……
 藤堂は2人に礼を言うと松岡を抱え上げ、味方が逃げ込んだ建物の一つへと飛び込んだ。そこには既に兵たちと、純と夕姫、陽花がいた。
「草だなんだにまみれてねえのは久しぶりだなおい!」
 東側の窓枠に被筒を乗せ、自動小銃をフルオートで撃ちまくる純。東側より迫る敵は既にこちらの退路を塞いでいた。今は純の張る弾幕に敷地内への突入を諦め、下がっているが、あちこちの建物の陰から応射を浴びせかけてくる。
「骸骨に追われて逃げてきた所を、撤退ルートに潜伏していた伏兵で退路を断ち、包囲する、か…… 予想通りとは言え、やってくれるわね、あのおばさん」
「魑魅魍魎の類ならお祓いも出来るんだけどね。あの人、ただの天使(勢力)だからどうしようもないよ。困ったもんだね」
 窓枠から東側の敵に大型ライフルを撃ち放ちながら呟く夕姫に、陽花がヒリュウの視覚共有で周囲の様子を観察しつつ、苦笑混じりにそう答える。
 でも、出血は強いらせてもらうけどね、と、東側の骸骨に向けて魔力の弾丸を撃ち放つ夕姫。純は魔具を狙撃銃へと換えると、開いた遊底にアウルの闇の力を込めた。
「さあ、どいつからだ! 近づいて来た奴から撃ち抜いてやるよ!」
 弾幕が弱まったことで、敷地への侵入を再開する骸骨たち。その先頭の骸骨が、それを待ち構えていた純の一撃によって上半身ごと吹き飛んだ。

 逆巻く炎が身に纏った黒き鎧を灯りに照らし── 振るわれた拳を大剣の腹に滑らせた後、伊都は振り被った刀身をその腕へと降り下ろした。
 送り流すようなその一撃に、炎岩人がグラリとバランスを崩し。瞬間、その内側へするりと入り込んだチルルは、その剣先を岩人の腹、岩の隙間へ突き上げるように突き入れた。身を起こそうと力を込めた岩人の片脚を、横へと払う黒き刀身。自重により更に深く剣身を咥え込んだ岩人は、そのままチルルを道連れに押し潰さんとして…… 寸前、剣を消して跳び退いたチルルの眼前で倒れ伏す。
 勝利に酔いしれる時間は、だが、伊都にもチルルにもなかった。田を抜けて来た骸骨たちが一斉射撃を浴びせかけてきたからだ。
 慌てて屋内へと退避する伊都とチルル。陽花のヒリュウもまた建物の屋根へ身を隠した。炎岩人こそ倒したものの、敵にはまだこちらを包囲する骸骨銃兵の群れがある……
「退避は?!」
「負傷者がいる。彼等の応急処置が済まねば脱出はできない」
「増援は?!」
「砦も今、襲撃を受けている」
 負傷者を看る小隊の回復役──長い攻防戦の後で癒しの力を使い果たしている──に、チルルは「使って!」と救急箱を投げ渡した。礼を言い、治療を始める回復役。藤堂は松岡の治療を終えると、傍らの夕姫に礼を言った。
「ありがとう。まさか、来てくれるとは」
「気にしないで。現有の全戦力を守ることも、砦の防衛に繋がるんだから。それに…… 戦友を放ってはおけないでしょ」
 礼は無事に帰ってから、と言いながら、窓枠からそっと外を窺おうとした純は、激しい敵の銃撃にその頭を引っ込めた。
 代わりに屋根の上のヒリュウが窺う。敵は、どうやら砦戦と同じ戦法を採るようだった。隊列を組んでの一斉射撃でこちらの頭を抑えつつ、距離を詰めて突入する──壁があった砦と違い、ただの家屋では全滅は必至だ。
「一刻も早くここから移動しないと」
 焦りと共に呟く陽花。彼女が見る限り、こちらに残された時間はあまり多くない……
「終わった!」
 と、そこへ、回復役の兵が負傷者の応急手当を終えたことを告げた。間に合った。どうやら犠牲者は出さずに済みそうだ。
 チルルと陽花が部屋の東へ、伊都と夕姫が西へと移動する。純と杉下は東の窓枠。負傷者を抱えた兵たちは中央に。松岡を抱えた藤堂もここだ。
「次の敵の一斉射撃の後、仕掛けるぞ」
 ジリジリとした空気の中、数歩前進した敵が構え、家屋に一斉射撃を浴びせかける。次の瞬間、夕姫は伊都に発煙手榴弾を投げ渡し、二人してそれを外へと投擲した。家屋の西側を覆う白煙に混乱する西の骸骨たち。東から屋内に突入しようとしていた骸骨たちは、だが、純と杉下の銃撃によってその機先を制せられた。直後、チルルが扉の陰から温存していた『封砲』を「どっせい!」と撃ち放ち、敵包囲網の只中に皆の退路を切り開く。
「戦闘なら君の出番だよ、スレイプニル! ……ヒリュウだと跨がれないしね(汗)」
 陽花は馬竜──スレイプニルに騎乗すると、巫女服と薙刀を振りはためかせながら外へと飛び出した。そのまま一気に上空へと駆け上がり、敵が形勢する包囲網を俯瞰で捉え、見極める。
「うん。ヒリュウでこっそり見ていた通りの隊列だね。それじゃあ……!」
 陽花は馬竜に拍車をかけると、直上より降下を開始した。慌てて銃口を上に向ける骸骨たち。それを純と杉下が次々と狙い撃ちにしていく。敵上空を通過し、上昇へと転ずる陽花。その眼下の敵中で、雷撃の薙ぎ払いが、渦を巻く爆炎が、炸裂して敵を吹き飛ばす。
 チルルは混乱し切った敵隊列の只中へ突っ込むと、そのまま突破口付近の敵を追い散らしにかかった。負傷兵を抱えた兵たちが後に続き……純もまた魔具を突撃銃に換え、窓枠を乗り越え突入する。
「黒獅子の天羽の全開、特と見よ! ……ってやつだね」
 夕姫と共に敢えて家屋の西側から飛び出した伊都は、煙幕の只中を突っ切りながら、出会い頭の骸骨たちを次々に屠っていった。夕姫も敵を『フォース』で煙の帳の向こうへ押しやり、その射線(視線)を無効化する。
 二人は西側の骸骨たちを混乱させるだけ混乱させると、そのまま煙の向こうへ抜け、夕姫が陽花に確認してもらった狭い裏道へと入り込んだ。
「少しでも敵の戦力を削っておきたかったところだけど……」
 合流した撃退士たちは一路、砦への帰路に着いた。
 骸骨たちは追撃をせず、速やかに西へと去っていった。


 砦の北面の草叢の陰に仕掛けておいた鳴子が一斉に鳴り響き、城壁の上にいた明斗はすぐに『生命探知』を使用した。
 いつかも感じた敵の気配── 意図的な配置とにじりよるその行動に、蛙人の接近を脳裏に描く。
「敵襲! 北面より数18! 接近中!」
 叫び、警鐘を打ち鳴らしながら、明斗は、だが、困惑にその眉をひそめていた。砦へ迫る生命は確実に探知できているのに、目に見えては何もそこにあるようには見えなかったからだ。
「こちらリーガン。北面壁上に到着した。だが、敵が視認できない。目標の指示を請う」
 敵襲の報告を受け、北壁へと辿り着いたリーガンは、城壁の陰から銃を構えつつ、無線機に対して困惑の声を返した。黒百合も、ジェラルドも、壁上には到達しえたものの、目標となる敵が狙えず、銃撃も為しえずに味方と顔を見合わせる。
「不可視の、敵……?」
 明斗は呻くように呟くと、その奥歯を噛み締めた。蛙人の夜襲であれば、照明弾に黒色が鮮やかに浮かび上がった。だが、今は真昼間。見えない敵など、どうすれば良いと言うのか。
(落ち着け…… 敵の位置が分かるのは僕しかいないんだ……!)
 明斗は眼下の地形の特徴を元に、大まかな敵の位置を味方に知らせた。その報告を元に、黒百合が、そして、ジェラルドが狙撃銃と自動小銃とで銃撃する。着弾誤差修正。更に銃撃。だが、その様なやり方では中々弾は当たらない。明斗の脳裏では、敵がぴょんぴょんと蛙跳びに、次々とこちらへ迫り寄る様が感じられる……
 そんな中、2人がフルオートで撃ち捲くった銃弾の幾つかが、敵の身体を捉え、貫いた。ボッ、と身体に大穴を空け、体液を撒き散らしながら倒れる敵。その瞬間、敵の体色が薄まり、蛙人としての姿が露になった。その体色は──黒ではなく、白だった。
(まさか……!)
 その瞬間、撃退士たちはハッと気づいた。
 もしかして、蛙人は周囲の風景に溶け込む体色変化の能力を持っているのではないか? これまで黒一色だったのは夜襲だったからで、本来は昼間でも使用可能な、奇襲・潜入用のサーバントなのではないか……?
 次の瞬間、明斗は最も壁に近づいていた敵集団に、壁上から『コメット』──アウルの彗星を立て続けに撃ち降ろした。アウルの彗星がたちどころに何発も地面を穿ち、直撃した蛙人を粉々に打ち砕く。巻き上がった粉塵の砂煙が風に乗って周囲に漂い、周囲の草色に擬態していたその体色を浮かび上がらせる。
「こちらリーガン。目標を視認した。攻撃を開始する」
 リーガンは手早く銃口を振ると、両手に構えた自動拳銃をそちらへ立て続けに速射した。幾発ものアウルの銃弾を受け、着弾の穴を穿たれ倒れる蛙人。蛙人はすぐに砂塵に合わせて体表を変化させたが、リーガンはそれまで敵がいたポイントへ向けて更なる銃撃を浴びせかけた。砂塵色に変わりきる前に、頭部を打ち抜かれる別の蛙人。更に砂塵が薄れ、草叢に浮かんだ砂塵色の蛙人を次々と狙い撃っていく。
「こうなるともうただの的よねェ♪」
 改造狙撃銃のスコープに映った敵を次々と狙い撃ちにする黒百合の右耳に、聞き覚えのある後輩の悲鳴が聞こえた。即座に銃床から頬を離し、右の壁上を振り返る。いつの間にか、壁上に1匹の蛙人が上がり込んでいた。唐突な出現に不意打ちされ、驚き、座り込んだ後輩に組み付く蛙人。黒百合は即座に魔具を長槍へと換えると、そちらへと走り寄りつつ、踏み込んでその穂先を敵へ突き入れた。突進の勢いを受け、その頭部を丸ごと吹き飛ばす蛙人。ふと嫌な気配を感じて、そのまま膝を沈ませる。
 至近、傍らの壁の矢座間の上に、空色に擬態した蛙人が立っていた。その口中から吐き出された舌の刺突を辛うじて掠め避け…… 靴底に力を込めて踏み堪えつつ、補助用スラスターを点火させつつ、その長大な槍を身体ごとぶん回し。敵を斜め上へと打ち上げた直後、更に別のスラスターへと繋げ。壁上に落ちた蛙人を真上からの一撃で叩き潰す。
「援軍! 援軍だ!」
 激戦の続く北面の壁に、リーガンの声が高らかに響いた。それは味方の鼓舞を目的とすると同時に、誤射を避けるよう警告する意味もあった。
 なぜなら、援軍は敵と同じフィールド、壁の下にやって来たからだ。砦の南側を哨戒していた縁、璃遠、司の3人が砦を東側から回り込み、敵の側方から襲い掛かったのだ。
「突撃! 壁上からの援護の下、砦に迫る敵を蹴散らします!」
 砕氷舞い散る氷の大剣を高らかに構えながら、司が先頭に立って側面から手近な蛙人に切りかかった。思いもよらぬ方向からの奇襲に、慌てふためく蛙人たち。離れた場所から見た場合、特に効果的だった体色変化による擬態も、近づいて近接戦闘の間合いから見た場合は色々と不自然な粗が目立った。司はその『不自然な人型』に向けて大剣の刃を降り下ろした。ずばん、と袈裟切りに身体を割られ、蛙人が膝から崩れ落ちる。
 姿さえ見えてしまえば、敵はこれまでの蛙人と変わりはなかった。奇襲に狼狽する敵の側面へと肉薄した璃遠が、斜め後方からまず1匹の蛙人を切り捨てる。すぐ側の別の個体の口中から放たれる水弾による反撃。璃遠は直刀でそれを受けると、舞い散る飛沫と水滴を隠れ蓑に持ち替えた閃破を抜刀。放たれた衝撃波でもって、水の壁ごとその向こうにいる蛙人を切り捨てる。
「ひゃっは〜! 蛙人は消毒だ〜!」
 司と璃遠と共に突入してきた縁は、哨戒時とは一転、二人の後衛に位置すると、構えた火炎放射器から取って置きの『ナパームショット』を撃ち放ち、地上に渦巻く爆炎の華を裂かせた。アウルの炎に巻かれ、その中に姿を浮かび上がらせる蛙人たち。それを壁上から撃ち下ろされる銃撃が次々と狙い撃ちにしていく。
 さらに付近の敵が一掃されると、縁は得物を散弾銃に変更し、遠目の敵を狙い撃ちにし始めた。満遍なく弾が飛び散る散弾銃は、たとえ分かっているのが大まかな位置のみであっても、敵を捉えて吹き飛ばす……
 眼下に現れた援軍の到着を確認したジェラルドは、それを機と見るや否や、その得物をワイヤーへと変更。壁上から外へと飛び降りた。
 白銀の長髪をなびかせ、優雅に地面へ舞い下りるジェラルド。一瞬、その足元、周囲に赤黒い何かが現出し、禍々しい鈍い光がゆるりと明滅する。
 突如、眼前に飛び降りてきた撃退士の出現に、周辺の蛙人たちは水弾による集中砲火で出迎えた。直後、居並ぶ蛙人の只中で見えない光の糸の様なものが暴れ、絡みつき…… 直後、見えざる何かに意識を刈られた蛙人がガクリと膝をついた。放たれる水弾の雨の中、ジェラルドは無造作にその一匹に近づき……その額を指先でとん、と突く。瞬間、ジェラルドの足元から湧き出した触手の様なものがその蛙人に巻きつく光景が幻視され。直後、水弾によって穿たれたジェラルドの傷が幾つか消える。
 ジェラルドは表情も変えず、更に次の敵へと渡る。その異様な迫力に押されたのか──或いは、砦攻略が成らなかったらすぐに撤収するよう命令されていたのか── 蛙人たちは這う這うの体で逃げ出していった。


 増援班たちにより救出された斥候たちが、砦へと帰還した。
 蛙人たちにまさかの昼間奇襲を受けたという砦も、学生撃退士たちの活躍により守られた。
「蛙人=夜襲との先入観を利用し、これまでずっと隠してきた能力を使っての奇襲に失敗した──敵にとって、これは痛手ではなかろうか」
 野戦病院のベッドに松岡の見舞いに訪れた杉下がそう言うと、松岡と藤堂は二人揃って首を振った。
「いや、こちらも敵の能力を知ったことで、敵が正面にいない時でも常に奇襲を警戒しなければいけなくなった。つまり、もし、敵が本格的に撤退を目論んでいたとしても、おいそれと追撃は出せなくなったということだ」
 同音異句に同じ様な意見を告げる二人。もうお前等、くっついちまえよ、と杉下が零すも、当人たちは「???」……

 翌日──
 久方ぶりにぐっすりと休んで城壁に上がった撃退士たちは、改めて敵襲のない朝を迎えた。
「どうやら本当に敵はこの正面から撤収したらしい」
 新たに斥候を出した結果、笹原はそう結論付けた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
次なる階梯に至りし技・
木暮 純(ja6601)

大学部4年138組 女 インフィルトレイター
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
徒花の記憶・
リーガン エマーソン(jb5029)

大学部8年150組 男 インフィルトレイター
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド