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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/06


みんなの思い出



オープニング

 高等部3年、榊勇斗の級友、恩田敬一は、彼なりに妹のことを愛していた。
 事業に忙しい両親は家には不在がちだったし、兄は敬一が物心ついた時には既に大学生であった。お手伝いさんたちは皆、優しかったが、いつも子供の相手が出来るほど手空きでもなく…… 自然、4つ年下の妹、麗香の遊び相手は、敬一が務めることが多かった。小学校に上がっても、仲が悪いことはなかった。生活を共にする唯一の家族、という繋がりを、ごく自然に感じていたのかもしれない。
 そんな敬一と麗香に撃退士の素養があると判明したのは、敬一が高1で麗香が小6の時だった。久遠ヶ原学園への編入を撃退庁の役人に打診された時、両親は当然の如く反対したが、敬一は新しい世界を求め、早々に転入を決めてしまった。麗香もまた学園に転出することを望んだが、まだ小学生の彼女の意見が容れられることはなかった。両親が手元に置くことを望んだこともあり、彼女の撃退士としての訓練は家庭教師──とあるフリーの撃退士──を雇い、家庭で行われることとなった。
「私をここに置き捨てて、一人だけ外の世界に行くの?」
 学園に出発する前日、敬一は麗香と初めて喧嘩らしい喧嘩をした。……今にして思えば、敬一はその事を負い目に感じていたのかもしれない。
 初めての寮生活、一人暮らしに浮かれ、撃退士としてはほぼ遊んで1年を過ごし── 高2の秋、新たなクラスで敬一は生涯の友と出会った。 榊勇斗というその男子生徒は両親を早くに亡くし、同じく撃退士の素質を持っていた妹・悠奈を連れてこの学園に転入して来た。支度金や補助金の類は全て叔父叔母夫婦に流れ、殆ど何も無い状態からの出発だった。男子寮に入ればまだ楽だったかもしれないが、勇斗はマンション寮での、唯一の家族である悠奈との生活に拘った。勉学に励み、訓練に明け暮れ、そして、バイトで己の身を削る── 勇斗は、その全てを一人で抱え込んでいた。
 妹を残して出てきた負い目──だからこそ、敬一は勇斗を放っておけなかったのかもしれない。敬一は勇斗と友人になると、陰日向にそれを支えた。友人たちや妹・悠奈の協力もあって、勇斗たちの生活も次第に落ち着いたものになっていく。
 ふと思い至って、敬一は久方ぶりに実家に顔を出してみた。1年ぶりに会った妹・麗香はそっけなくなっていた。ついでに言えば、撃退士としての実力も敬一よりずっと上で、久遠ヶ原学園に対する興味もなくしたようだった。
 これはいかん、と敬一は、積極的に依頼に参加するようになった。そして、度々、実家に帰っては、撃退士の様々な話を妹に聞かせてやった。麗香は撃退士の活動に関しては素直に敬一の話を聞いた。その話の中でも特に勇斗と悠奈の話は麗香の心を打った。妹と共に懸命に生き抜こうとする勇斗と、その兄を支える健気な悠奈の姿は、麗香にとって理想の兄妹の形であったのかもしれない。

「勇斗様は、私にとって理想の『お兄様』なのです」
 そして、現在── 14歳ながら飛び級で高等部1年に編入してきた麗香は、敬一の前に座った勇斗の横で、その身を摺り寄せる様にしながら、勇斗に撃退士としての心得などを聞きせがんでいたりする。尾ひれの付いた敬一の話をすっかり信じ込んだ麗香は、時間ができればこうして勇斗と敬一のクラスに入り浸るようになっていた。
 どうしてこうなった、と敬一を見返す勇斗。敬一はすまん、と勇斗に両手を合わせた。


 ある日の放課後──
 その日もいつもと同じ様に勇斗を訊ねようと学内を歩いていた恩田麗香は、その途中、訓練場に集まった学生たちの中に勇斗の姿を見つけて、思わずその身を隠していた。
 出て行って話しかければいい── そう思ったが、いつになく真剣な勇斗の表情に知らぬ内に躊躇っていた。
 やがて、学生たちは、各々、魔具魔装を活性化させると、それぞれ旧校舎のあるエリア──学園ゲート出現により放棄された、野良天魔のうろつく危険区域へと入っていった。麗香は己のヒヒイロカネを確認すると、彼等の後についていく。
 放棄区域の奥まで進んだ所で、学生たちはそれぞれ思い思いに周囲へ散り始めた。……どうやら、生徒の自己責任により行われている実戦訓練であるらしかった。個人、或いは数人の少人数で、野良天魔を相手に、それぞれに定めた訓練目標を達成する── いざという時には互いに支援できる範囲内での行動ではあるが、それでも危険である事には変わらない。
 その『訓練』(とは名ばかりの実戦)に、勇斗は単独で挑んでいるようだった。現れた単騎の鬼型ディアボロと正対しつつ、何かの状況を想定してか、ひたすらに受け続ける勇斗。それを見た麗香は、いてもたってもいられずに物陰から飛び出した。蒼銀竜──ティアマットを召喚すると、鬼型の横合いから殴り込ませる。
「何をしているのです、勇斗様?! この様な凡百を相手に、打ち負けますわよ!」
 召喚獣に攻撃させつつ、盾を構えて勇斗に並び立つ麗香。増援の登場に、鬼型は踵を返して逃げていく。
「麗香ちゃん!? どうしてこんな危険な所へ?」
「それはこちらの台詞です!」
 麗香の返事に勇斗は自嘲するように笑うと、自己回復を活性化しながら自分たちの事情を説明した。

 悠奈がひょんなことから天界の少年天使と仲良くなったこと。
 悠奈に執着したその少年天使──徹汰ことアルディエルが、悠奈を連れ去ろうと目論んでいること。
 悠奈も悠奈で徹汰を説得し、学園に引き込む気満々であること。
 兄として、妹の願いは叶えてやりたいが、同時に、万一の事態を想定しておかねば、等々──

「以前、悠奈たちと一緒に『強敵と遭遇した』という想定で訓練をしたことがある。……僕は殿に残って妹たちを先に逃がそうとした。だけど、僕が戦場に残っている限り、悠奈は退こうとはしなかった」
 妹を守ろうと側にいれば、それが足枷になるという事実。かと言って、共に逃げられるほど敵は甘くはないだろうし、悠奈が敵に拉致される可能性は高くなる。それを防ぐ為には、妹を守り切る手段をどうにか得る事。或いは、妹が天使と出会う前に、そもそもの原因を『妹抜きで排除』してしまうか……
「どちらにせよ、今より実力を高めておく必要はある。幸い、悠奈には良い友人たちがついているし、もう昔みたいに俺が守ってやる必要もない。……悠奈は悠奈で自分に出来ることを模索している。なら、俺も自分で出来る事はやっておかないと」
 勇斗の話を聞いて、麗香は軽く眉根を寄せた。……敬一に聞いた話の中では、勇斗はいつも前線で、仲間と共に、力なき人々の為に戦っていた。
 今の勇斗はこの学園の放棄区域の中で、ただ自分の為だけに戦っている。
 その事実に思い至った麗香は── だが、それを否定したりはしなかった。勇斗が戦い、強くなるのは、ただ全て悠奈の為だ。互いを優先し、互いの為を想って生きる──まさに麗香が理想とする兄妹の姿ではないか。
「わかりましたわ」
 麗香は勇斗を見返した。全てを受け入れるのも、一つの愛の形ではある。
「勇斗様のお邪魔はしません。ですが、一人はやはり無茶ですわ。私が悠奈役を承ります。存分に戦いなされませ」


リプレイ本文

 突き出された槍の穂先を、顔を逸らして半身で避け── 眼前を過ぎ行く赤錆の刃をやり過ごしながら、黒羽 拓海(jb7256)は『骸骨戦士』へ大きく一歩を踏み込んだ。
 槍の穂先が引き戻されるより早く体内でアウルの力を爆発させ、突き出した直刀の切っ先で敵の眉間を突く。乾いた音と共に弾け跳ぶしゃれこうべ。そのまま敵の背後へ抜けた拓海はクルリとその身を回し、振り下ろした刃でもって敵の背骨を袈裟に断つ。
(『その刃を研ぎ直せ』、か──)
 瞬く間に敵を斬り伏せた拓海の脳裏には、だが、先の戦いで大天使ダルドフが残した言葉が浮かんでいた。
 普通に考えればそれは己の未熟を指摘した言葉なのだろう。未だ届かぬ高みに位置する強き敵── であれば、今は己を鍛え上げるしかない……はずだ。
 新たな敵の気配を感じて、拓海は直刀を構え直した。現れたのは、長大な鉄パイプを引きずり持った、全長3mにもなる『妖精巨人(トロル)』だった。新たな強敵の登場に、拓海は敢えて距離を詰める。
(不慣れな銃や弓で戦える相手ではないだろう──この巨人も、かの大天使も!)
 ──なぜ敵である自分たちにあの様な言葉を掛けたのか。その答えは正直、自分で想像するしかない。
 かの大天使と再び戦場で会い見えられたなら。或いは、その時には『答え』を得られるだろうか──

 学園放棄区域における野良天魔との実戦は、新人の学生撃退士が行う訓練の定番の一つである。が、最近は『ジョブチェンジ』したてのベテランの参加も多い。
「これがバハムートテイマーなのねェ…… 初めての召喚だから、色々と楽しみねェ……♪」
 『転職』直後、その感覚を『慣らし』に来た黒百合(ja0422)は、他の参加者たちと別れた直後、わくわくしながら初の『ヒリュウ』を召喚した。
 やや無造作に、だが精巧に規定の召喚手順を終えて…… 光と共に顕現したヒリュウがパタパタと、召喚主が差し出した腕に留まる。にっこりと笑いかける黒百合を見上げて、ヒリュウは、だが、圧迫感の様な何かを感じた。それに気づかず、いや、構わず、黒百合が笑顔のままで、言う。
「きゃはァ、初めましてェ! まずは名前を決めないとねェ」
 『タベゴロ』、『ホネツキ』、『ゲレゲレ』、『ト○ヌラ』、『ヌルヌル』、『ベトベト』、『非常食』…… 次々と上げられる己の名前候補に、ヒリュウが目に見えて竦み上がる。
「さァ、どれが良いかしらァ? 愉快な名前を考えてみたのだけどォ……?」
 心底楽しそうに笑う黒百合。ヒリュウが涙目でプルプルと首を振る……

(……そういえば、一人だけで戦闘を行うのは、『はぐれ』てから初めてかもしれませんね)
 眼前に迫った短槍を持ちの『小鬼』に自動拳銃を撃ち放ち…… 倒れ伏した敵の沈黙を確認しながら、ユウ(jb5639)はふとその様なことを考えていた。
 鳴り響いた銃声に呼ばれて、新たに迫る敵の足音──ユウは素早く周囲の地形に目を配る。
 立ち並ぶ無人の旧校舎群の中に、比較的原形を留めた、コンクリ製の頑丈そうなものがあった。近づく狼の鳴き声に背後を振り返ったユウの目に、四辻の陰から飛び出してくる2匹の『狼』と『小鬼』たち。ユウはコンクリ壁の間の狭い通路に飛び込むと、路地に飛び込んできた狼を銃の速射で撃ち倒した。更に、路地入り口で固まった小鬼たちに無数のアウルの影の刃を投射。纏めて敵を斬り散らす。
 文字通り一息ついたユウは、だが、直後、路地の反対側から回りこんできた小鬼に気づいて慌てて背後を振り返った。突き出された槍の穂先を跳びかわし……咄嗟に展開した『闇の翼』で宙へと舞うと、小鬼の頭を踏み蹴って敵の手の届かぬ高みへと上昇する。
「あ。……っ」
 そこでハッと気がついて、ユウは「しまった」といった顔をした。今回、彼女は翼を使わないことを己に課して、この訓練に臨んでいたのだ。
 ユウはそのまま建物の屋根へと上がると、改めて頭を振った。……普段、どれだけ仲間たちに助けられていたか。その存在の大切さとありがたさを改めて噛み締める。
 またやり直しね、と呟きながら、ユウは屋根の上から改めて他の参加者たちの様子を確認した。
 その中でも、特に目に付いたのは勇斗だった。
 彼は一人ではなかった。にもかかわらず、彼は一人で戦おうとしている──そんな風に、ユウには見えた。

「ボク専用スキルも出来たしぃ、今、必殺の、試し撃ちぃ♪」
 魔女の箒に跨って、光の翼で訓練区域を飛び回りつつ。そんな事を言っていた白野 小梅(jb4012)は、眼下に『蟻』の行列を見つけ、きゅぴ〜んとその目を光らせた。
 敵の行列に沿って頭上を通過しながら、魔女の箒をふるふる振って、「にー、にー」と鳴く猫型アウルをポロポロと振り落とす。その爆撃(?)に逃げ惑う敵を見下ろし、その瞳を輝かせる小梅。既にその頭の中から当初の目的は消えている。
 旋回し、再び爆撃の為のアプローチに入った小梅は、その最中、眼下にどこかで見た髪型を見つけて急停止。蟻型のことも忘れて、ばびゅんとそちらへ降下する。
「あれに見えるは幻の金髪縦ロール! おーい、麗香ちゃーん!」
 足裏で地面をバウンドしながら着地した小梅が麗香の元へと走り寄る。その場には麗香だけでなく、高等部の男子学生も1人いた。そして、そんな2人からつかず離れずの位置で戦う、3人組の撃退士たちの姿も見える。
「それじゃあ、いつもと違う形で戦闘、いってみようか。頑張って援護するよ。こういうのも新鮮な感じがしていいもんだねー」
「旋棍の使い方は一応、護身術程度にはお母さんに習ったけど…… うぅ、ドキドキするよ。でも、これも前衛の経験を積んで銃手としての成長を遂げる為……」
 ギター型魔具を肩に提げ、どこか楽しげにリズムを取る彩咲・陽花(jb1871)の横で、旋棍を手にした葛城 縁(jb1826)が己の胸に手を当てて何度も深呼吸を繰り返す。
「陽花も、縁も、ジョブチェンジしたばかりなんだから、無理だけはしないでね」
 自身は『転職』せぬまま友人2人について来た月影 夕姫(jb1569)が、そう言いながらさりげなく、チラリと勇斗たちへ視線をやった。……最近の勇斗の鍛え方は敬一から聞いていた。また何もかも一人で背負った顔して、無茶な鍛え方をしている、と。
「この前の結果が変な方向へ結んじゃったかしら……」
「頑張ってはいるみたいだけど…… 少し無茶をし過ぎかな?」
 同じく、心配そうに勇斗を見やる縁。その横で陽花は、複雑な表情で沈黙している。『理想のお兄様』となついた麗香がちょっと勇斗にくっつきすぎじゃないかなー、などと、別の意味での心配もしてみたり。
「悠奈ちゃんのお兄ちゃん!? 初めましてぇ! 悠奈ちゃんと麗香ちゃんの『親友』のぉ、白野小梅でっす!(ペコリ)」
 一方、勇斗が悠奈の兄だと知った小梅は、人懐っこい笑みをにこにこ浮かべて、そう元気よく挨拶した。そして、強くなる為の特訓中だと聞いて、小梅も参加を表明する。
「訓練手伝うぅ! 仲間と一緒に戦えばぁ、どんな敵にも勝てるんだもんね!」
 満面の笑みで、即ち、純粋な善意でもって告げる小梅。勇斗は苦笑した。小梅は、撃退士はチームでこそ強くなれると信じている。故に、勇斗がなぜ一人で抱え込もうとしているのか、その意味が解っていない。
(……まぁ、守るべき対象が2人になったと思えば良いか。そういう状況もあるだろうし……)
 心中に呟いた勇斗は、直後、どぉん、という音と共にス○ンドっぽい何かを具現化させた小梅を見返し、驚いた。小梅の背後には、巨大化して仁王立ちになったアウルな仔猫。なぜか劇画調になった小梅が、腕を組んで少し背を逸らした姿勢で告げる。
「……ニュースキル、『ニャンコ・ザ・ズームパンチ』」
 ね? カッコイイでしょー? とにっこりと笑う小梅(劇画)の背後で、しゅぱぱぱぱっ、と拳をシャドーさせる巨大仔猫。びっくりした麗香が思わず勇斗の腕にしがみつく。
 瞬間、ぷちん、と何かが千切れるような音を、縁はすぐ側に聞いた。「どうしたの、陽花さん?」と振り返った縁が、すぐ隣り、ごごごごご……と効果音を具現化させた陽花に気づいて滝汗を噴出する。
「ごめん、縁。もう辛抱堪らんとです」
「が、我慢の限界って意味だよね!? なんか別の意味じゃないよね!?」
 スッと笑顔を取り繕って(でも、ちょっぴりアウルの陽炎なんかを揺らしながら)勇斗へ歩み寄る陽花。その後を慌てて追う縁の後を、夕姫が軽く嘆息しながら、やれやれといった調子でついていく。
「あ、勇斗くんと縦ロールちゃん……じゃなかった、麗香ちゃん。せっかくだから私たちも一緒していいかな? 私たちの方はさっきまでで連携の確認できたし、これからは勇斗くんのお手伝いをさせてもらうんだよー」

 かくして、6人の大所帯で訓練は継続する。
 前衛支援の為、巫女服姿でギター魔具をかき鳴らす陽花。その支援を受けながら、縁が敵の突進をサイドステップでかわしつつ旋棍からアウルの衝撃波を振り放ち。その後方、蒼銀竜を召喚した麗香の横では、小梅のにゃんこがオラオラと前方の敵を打ちのめす。
 夕姫は同じディバインナイトとして勇斗に付いて細かく助言を与え続けた。自分たちより多数の敵を想定した立ち回り、足捌き、位置の取り方── 敵を盾(スクリーン)にする方法や、脚を攻撃して敵の動きを止める戦法。『フォース』で弾いた敵をぶつけて敵の行動を阻害するやり方、わざと後退して敵を誘引し、味方の範囲攻撃に引きずり込む方法等々……

「みんな、お疲れ様。……今回の訓練、勇斗くんは、どんな状況を想定していたの? そこが漠然としてると訓練も意味が薄くなるわよ?」
 お昼の休憩時。建物の屋上で縁が重箱のお弁当を広げる中、夕姫は勇斗に冷えたタオルと水を手渡しながら、そう話を切り出した。
 それをありがたく受け取りながら、勿論です、と勇斗は答えた。脳裏には常に徹汰=アルディエルの戦闘能力がちらついている。奴と出会ってしまった際、如何にして悠奈を逃がすか──何べんも、何べんもシミュレーションを繰り返しては、絶望的な気分になる……
「うーん…… 他のジョブを経験してみるのはどうかな? また違ったものが見えるかもしれないよ?」
「そうね。手数を増やす事で、出来ることも増えるしね」
 そう勧めてくれた縁と夕姫に、勇斗は頷きつつ懸念する。アルディエルが再び現れるまで…… それまでに、他職を渡り歩いて自身を強化できるだけの時間的余裕があるだろうか……?
「……勇斗くんがディバインナイトを選んだのは、誰かを護る為だったわね。なら主な手段は2つ。1つは防御手段とその技術を純粋に高めていくこと。もう一つは相手の足止め──行動阻害技術を高めることね」
 私はどちらかといえば後者よりだけど、苦笑した夕姫は、真面目な表情で勇斗を見やった。
「何にせよ一朝一夕にどうにかなるものではないわ。無謀な訓練や無茶なオーバーワークはむしろマイナス。地道にやっていくしかないの」
「自分だけで考えすぎたらダメだよ。視野狭窄にならない為にも、ね」
 夕姫と縁の言葉に、勇斗は「わかってます」と苦笑した。──彼女らには今の自分が編入したてのあの頃の自分に重なって見えるのだろう。もうあんな無茶はしない。だからこそ、今回はしっかりと計画を立てた訓練を……
 それを聞き、縁と夕姫は互いに顔を見合わせた。
「勇斗くん、何も分かっていないよ」
「え?」
「一人で何もかも背負い込んで戦う必要なんてない、ってこと。……悠奈ちゃんにたくさん友達が出来たように、今のあなたにも多くの仲間や友達がいるわ。全部一人で抱え込まず、任せるべきは任せ、やれることをやればいいの。……お姉さんからの忠告よ」
 2人の言葉に、勇斗はきょとんとしたような──目から鱗が落ちたような顔をした。視線があった陽花が言う。──もっと友達やお姉さんたちを頼ってくれても良いんだよ、と。
「さて、難しい話はこれくらいにして。お弁当を食べよっか」
 陽花はパンと手を合わせると、背後から重箱を持ち出し、勇斗に向かって勧めた。礼を言い、そちらへ箸を伸ばす勇斗。陽花が手にしている重箱は縁が持って来た重箱と同じもので──故に、縁と夕姫は気づくのが遅れた。
 陽花が持つ重箱の中身は、縁が作ってきたそれとは違っていた。
「ダメ!」
 慌てて叫ぶ縁と夕姫。陽花の作る料理は殺人級の破壊力を持っている。
「ん?」
 だが、必死の叫びが届くより早く、勇斗は箸でつまんだ揚げ物を口へと運び…… 一噛みした直後、顔からすぅーっと血の気を失せていき。硬直したまま、脂汗をぶわっと噴き出してゆっくりと沈んでいった。


「さあ、ヒリュウ(←仮名)。ほら、『体当たり』ィ♪」
 夕焼けに染まった空の下、間近へと迫った敵に対して、黒百合が召喚獣へ攻撃の指示を出す。目標は、小剣と小盾を手にして迫る前衛の骸骨戦士ではなく、軽弩を構えた後衛の骸骨。涙目になりながらそちらへぶち当たり、粉砕するヒリュウ。その下を掻い潜って小剣を切りつけて来る敵に、だが、黒百合は余裕の表情を崩すことなく。直後、振り返ったヒリュウのブレスが前衛の骸骨を背後から打ち崩す。
「これは良い下ぼk……召喚獣を得ましたわァ…」
 震えるヒリュウの頭を撫でながら、集合地点へ戻って来た黒百合は、そこで見ない顔の少女──麗香を見つけ、同じバハムートテイマーとして話し掛けた。
「えーとォ、この場合は先輩ィ……じゃなくて恩田御姉様ァ、と呼べばいいのかしらねェ? この初心者バハムートテイマーに色々と指導して頂ければ有難いのだけどォ…… ねェ、御姉様(はぁと)♪」

「重傷者!? 大丈夫ですか、私の治療は必要ですか?!」
 同じく、集合地点── 意識を失い、陽花に膝枕をされた格好で倒れている勇斗を見つけて、訓練から戻ったばかりのユウは慌ててそちらに駆け寄った。
「いえ、これはどちらかというと胃薬の領分なんで」
「は?」
 陽花の返事に困惑していると、今度は拓海がボロボロになって戻って来て、今度こそユウは慌てて治療に駆けつける。
「楽しかったねぇ♪ み〜んなで強くなってぇ、ニッコニコでいよぉねぇ♪」
 大きく両手を上げて伸びをした小梅が、皆に呼びかけるようにそう叫び。意識を取り戻した勇斗をクルリと振り返って、「欠けちゃだめだよ」と妙に大人びた表情で告げた。
「戦うのは一人じゃない、か……」
 ユウに治療を受けながら、拓海は、改めて縁と夕姫に釘を刺される勇斗を見やって呟く。
 かの天使を殺したくないとの思いは今もある。が、それで勝てる相手とも思えない。その刃を研ぎ直せ── 拓海は改めて己の直刀を見返した。剣に込める想いは一つ。自分の大切な存在を護り抜く──
「迷いは、晴れましたか?」
 治療を終えたユウが聞く。拓海と勇斗がそれぞれの表情で頷いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
鉄壁の騎士・
リチャード エドワーズ(ja0951)

大学部6年205組 男 ディバインナイト
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅