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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/02/15


みんなの思い出



オープニング

 年が明け、新学期が始まって最初の登校日。教室に入った久遠ヶ原学園中等部2年・榊悠奈は、自分の席に着くや否や、好奇の視線と興味の人だかりとに囲まれた。
 悠奈が久遠ヶ原学園の制服を着た天界の天使に接触を受け、現地の撃退署で聴取を受けたという噂は、クラスの皆にも伝わっていた。これあるを予期し、共に登校して来た親友の沙希と加奈子が、悠奈が人の輪の中で孤立せぬよう、その左右に位置を占める。
「ねぇ、ねぇ、榊さん。『天使』と洞窟の中で暫く二人きりだったってホント?」
「なあ、敵の天使って、どんなだった? やっぱ怖ぇの? 能面みたいで」
 殆どの生徒は、純粋な興味でもって悠奈に話しかけてきた。悠奈のクラスではまだ敵としての天使を見た者は殆どいない。
 中には「敵と二人きりで何を話したのか」と意地の悪い見方をする者もいたが、そういった者は少数だった。悠奈はその人格に見合った人望をクラスで手に入れていた。
「天使って言っても…… 私が会って話したのは、同じ年くらいの子だったから怖くなかったよ。私たちと変わらない感じ。学園の制服も着ていたし……」
 悠奈の返事に、級友たちの間から「おー……!」とどよめきが起こる。天使と出会って生きて帰って来た悠奈たちは、クラスのプチ英雄と化していた。

●東北地方、天使支配地域。某天使ゲート、結界内──
 どのような仕組みによるものか。周囲に雪が降りしきる中にあって、その一角には『春』があった。降り注ぐ暖かな日差しに、そよぐ風── 咲き乱れた花々からは甘い蜜の香りが漂い、青々と緑茂る木々の枝からは、小鳥が囀る歌声が暖かな風に乗って聞こえてくる……
 その『春』の片隅に、雪塗れになって舞い降りる1人の少年天使。久遠ヶ原学園の制服を着たその姿に2体の『鎧の門番』が得物を構えるが、その顔が見知ったものであるのを確認して姿勢を戻す。
 そんな門番など気にも留めずに中へと入った少年天使の進む先に、この『春』の主がいた。緑の芝生の上に佇む白いガーデンテーブルとチェアのセット。その傍らに置かれたデッキチェアに横たわっていた青年天使が身を起こし、読んでいた本をパタリと畳む。
「なぜここにいる、アルディエル? お前はその制服を纏い、『藤代徹汰』の名を騙って、久遠ヶ原学園に潜入するはずではなかったか?」
「……その学園生たちに、俺が天界の天使である事が看破された。もう潜入は不可能だろう」
 その少年天使の返事に、青年天使は眼鏡を取って眉をひそめた。金髪碧眼、一見すると優男風の外見だが、その端正な顔には生真面目そうな──というか、気難しそうな表情が刻まれている。
「……我々、天使がシュトラッサーを生み出すには、下僕に主の力を分け与える必要がある。私は既に1体のシュトラッサーを作り出したが、これ以上の力の消耗は避けたい。故に、お前には、私の片腕とまではいかぬまでも、有能な手駒であってもらわねばならぬ。だというのに……」
「……学生証が看破されたんだ。俺の持つ学生証は写真が元の持ち主のままだった。写真の目処は立っていたんだろう? それを待たずに俺を前線へ派遣したあんたのミスだ」
 アルディエルと呼ばれたその少年天使は、淡々と事実を『上役』に──『兄』代わりのこの天使に告げた。その表情には、榊悠奈に接していた時の様な柔らかな感情は一切ない。
 『弟』分のその言に、青年天使は一瞬、不快気に片眉をひそめたが、すぐにその表情を消して、少年天使に向き直った。
「言うまでもなく、我々、天界の天使にとって、主敵はあくまで悪魔どもだ。『資源』であるこの世界の人間どもに対して、余計な力と時間を費やすのは愚の骨頂だ」
 だが、当初、天魔に対して脆弱だと思われていた人間どもは、撃退士とV兵器という対抗手段を手に入れた。人間共の主力は撃退庁と呼ばれる組織の撃退士であるらしいが、打撃力の中心は既に久遠ヶ原学園と呼ばれる組織に属する学生撃退士たちに移っている。
「だからこそ、お前を学園に潜入させ、情報を収集させようとしていたのだが……」
「そう上手くいったかどうか…… 話によれば、久遠ヶ原学園は、撃退士の組織と言うよりも、学校組織の側面が強いらしいぜ」
「ガッコウ組織……? 何だ、それは?」
「ある種の教育機関だとか何とか…… ともかく、作戦本部の類の様なものではないらしい」
 むぅ、と青年天使は眉をひそめた。この世界に来て早数年。人間たちの組織や社会についてはそこそこの情報が得られる様になったが、学園に関してはよく分からない点もまだ多い。
「こうなると、潜入に失敗したのは益々痛いな…… 目撃者を全員、消す事はできなかったのか?」
「無茶な話だ。学園の撃退士は腕利きが揃っていた。全員をどうこうなんて、出来なかったさ。……あんたと違って」
 その瞬間、少年天使は畏怖の表情で青年天使を見た。かつて秋田の山の中で、熊型サーバントで誘き出した撃退士の1個班を全滅させたのがこの青年天使だった。少年天使はそれを見ているだけで、何も出来なかった。
 だが……
「言い訳だな」
 青年天使は、そう断じた。
「敵を殺せない天使、か…… さすがは『不殺の破壊者』の『弟』君。お前も『姉』に倣うと言うわけだ、ルディ」
「黙れ! あんたが俺をその名で呼ぶな!」
 その呼び名に反応し、ガーデンチェアーを蹴倒す少年天使。肩で荒く息を吐く弟分に、だが、青年天使は眉一つ動かさない。
「……今回の不手際により、私は秋田方面の戦いから外されるだろう。つまり、新たな力を得る機会を失ったわけだ。精々、消耗しないよう、お前も力を温存しておけ」
 返事をせず、踵を返す少年天使。分かったのかと訊ねる青年天使に、少年天使は振り返りもせず「その前に、やらなければならない事がある」と告げた。
「……そう言えば、お前の『話によれば』の情報源──洞窟で共に時を過ごした女生徒を連れて帰っていれば、情報面でもう少し優位に立てていたかもしれんな」
「……あんたが俺に張り付かせておいた巨人型が入り口前に構えていたから、外に出ることが出来なかったのさ」
 巨人を借りるぞ、とだけ告げて去っていく少年天使。サーバント『コボルド』が椅子を起こすのを無視しながら、青年天使はふぅん、と一言、呟いた。


 年が明け、任務を終えた久遠ヶ原学園高等部3年・榊勇斗は、関係者から詳しい事情を聞くため、妹・悠奈が聴取を受けたという撃退署を訪れた。
 その撃退署は秋田の主戦場からは離れていたが、発生した大勢の避難民への対応に追われててんやわんやの状況だった。自然、勇斗への対応は後回しになり、署内の一室で数時間、夕方まで待っていた勇斗は、出直すかと腰を浮かしかけ…… 直後、激烈な破壊音と巨大な振動とに見舞われ、長テーブルとパイプ椅子ごと引っくり返った。
「なんだ……?」
 頭を抑え身を起こす勇斗。その耳に、「巨人型だ! 巨人型による襲撃だ!」との叫びと警報が聞こえてくる。頭を振り、身を起こす勇斗の視界に、陽光と砂塵越しに映し出されるシルエット。久遠ヶ原学園の制服に身を包んだ、天使の羽を生やしたその少年は── 同じ学生撃退士と思って油断していた勇斗の首を、物凄い握力でガッと掴んで、言った。
「──榊悠奈は、どこにいる?」


リプレイ本文

 秋田の撃退署の一つが巨人型サーバントの襲撃を受けている──
 緊急の依頼を受けて学園の転移ゲートに飛び込んだ撃退士たちは、駐車場への転移後、素早く周囲を見回して戦場の様子を確認した。
 ──撃退署の周囲は畑。ご近所さんの商店街に迷惑はかからない。積雪は深いものの、幸い、駐車場は除雪済み。戦闘中の足場に心配はない。そんな中、周囲へ破砕音が響き渡り── 穏やかに雪の舞い振る曇天の下、報告にあった巨人型が署の建物に取り付いている。
「なんかでっかいのが出てきたわね! あたいがやっつけてやる!」
「デカいな…… 穿ち甲斐がありそうだ」
 真っ先に突っ込んでいったのは、雪室 チルル(ja0220)と中津 謳華(ja4212)の2人だった。水晶の翼のついた白銀の鎧に、アウルの氷結晶を花の様に散らせるエストック──刺突用に特化した超長剣を活性化させつつ走るチルル。謳華は呟く。──大きいからとて関係ない。敵は屠り、斃す。ただ、それだけのこと。
「ジャイアントキリングは撃退士の華である! 故に! 我、進む、故に前へ!」
 黒瓜 ソラ(ja4311)もまた巨人に向かって突撃を開始する。──ドーモ。デカイ=巨人さん。クローリー=ソラです。これから貴方をイェーガーします。いえ、本来の意味でですよ? ドイツ語ですがっ。
 と、撃退士たちの存在に気付いた巨人型がのそりと南へ──駐車場へと転回し…… その視線が合った瞬間、ソラは直角に進路を変えた。
「こっち向いた! 横ダッシュ! 怖ぇ! でも、他は楽になりますね!」
 巨人型を横目に見ながら、もの凄い良い格好でダッシュするソラ。巨人がソラへ水弾を撃ち放つその隙に、月影 夕姫(jb1569)、日下部 司(jb5638)といった前衛組が一斉に巨人との距離を詰めていく。
「あの巨人型…… もしかして、この前のと同じでしょうか?」
「あの時、仕留め損なった奴ですか? 確かに、あの顔に背格好…… 見た目は同じ個体ですね」
 一方、後衛組の牛図(jb3275)と神棟星嵐(jb1397)は前衛に後続しながら、ふとその事実に気付いた。今回の依頼には以前の山狩りの戦いに参加した撃退士も多くいた。牛図と星嵐もその一人だ。
「……とにかく、建物から離さないと中の人が危険です。私が『闇の翼』で飛行して巨人を誘導しますです」
 そう言う牛図は、自身の戦う力について「おまけくらい」と見切りをつけていた。だが、あれが同じ個体なら一度は戦った相手。多少は手の内を知っている。
 射撃武器で攻撃を放ちながら、距離を詰めていく前衛たち。巨人の視線が自身から外れた瞬間、ソラが再びその進路を巨人へ向ける。
 星嵐と牛図はそこで分かれた。星嵐は暁天珠を活性化させると前衛班を援護すべく前進し。牛図は他の後衛班──葛城 縁(jb1826)、彩咲・陽花(jb1871)、竜見彩華(jb4626)、フィーネ・アイオーン(jb5665)らと共に、駐車場の端を大回りするように北へと進む。
 そのまま撃退署まで到達すると、牛図は建物の陰から巨人の様子を窺い、タイミングを見計らって飛行を開始する。
(そう言えば、飛ぶのもあんまり得意ではなかったです)
 ふらふらと翼をパタつかせながら、牛図はその事実を思い出した。視界のすぐ横に、巨人に破壊された建物の2階、壁の破砕部分が目に入る。牛図はそれには恐怖を感じず、ただ「凄いなぁ」と振り返り…… 建物の中にいた2人の学生と目が合った。
「あ、榊さんのお兄さん。こんな所で、お久しぶりです」
 空中で羽ばたきながら、ペコリと頭を下げる牛図。1人は見知った顔だった。もう1人の方は…… ええと、どこかで見たような?
 とりあえず、そのもう1人に首元を掴み上げられている勇斗に向かって、牛図はきょとんと訊ねてみた。──お取り込み中、すみません。もしかして、なんだか困ってたりします?
 毒気を抜かれて動けずにいた『もう一人』が左手を向け、手の平に生み出した光球から光弾を撃ち放つ。牛図はただびっくりして、思わず羽ばたきを止めていた。光弾の直撃した瓦礫の破片が降り注ぐ中、牛図は頭を抑えて滑空しながら皆に屋内の状況を急報する。……あ。思い出しました。徹汰さんです。徹汰さんが建物の中にいました。榊さんのお兄さんも一緒です。
「『燈狼』の陽動に、どこかで見た巨人型の強襲…… やはり、あの天使が関係していたか」
「本当の目的は署じゃなく、署内だったというわけね。巨人が本命って割には署の被害が少ないと思っていたら、どうりで」
 報告を聞き、署を振り仰ぐ司。一時は崩落の危険があるかと危惧していたが、見れば確かに、巨人は建物の壁だけを慎重に壊した印象がある。
 夕姫は唇を噛みながら、後衛組に属する友人たちを振り返った。友人──縁と陽花の2人は、勇斗が徹汰に拘束されていると聞いて既に署内へ向け走り出していた。癒し手たるフィーネは『光の翼』で牛図の元へと羽ばたくと、手に生み出した淡い光で手早く牛図の傷を治療していく。
「ストレイシオン、あの巨人はお願いね。『ハイブラスト』と『サンダーボルト』を適宜、味方の後ろから攻撃して。防御効果も使用自由。スキルが切れたら魔法攻撃で皆を援護よ。とにかく、巨人をこれ以上暴れさせないで!」
 彩華は召喚した青鱗竜──ストレイシオンにそう言い聞かせると、自らは署内へ向け走り出した。青鱗竜は頭の良い召喚獣だ。同時に『行動』はできないが、細部は任せても問題ないだろう。
「陽花も、縁も、皆、十分に気をつけて! なんだか嫌な予感がするの!」
 夕姫は署内に飛び込んでいく友人たちを見送り、再び巨人へと向き直った。司もまた巨人への接近を再開する。勇斗の事は心配だが、今はこの巨人を何とかしないと。あちらも手は足りないとは思うが、こちらとて戦力が十分というわけでもない。
「ともかく、敵を建物から引き離さないと……!」
 星嵐は暁天珠を振りかざすと、生み出した茜色の刃を巨人の頭部目掛けて投射した。夕姫もまた膝をついて大型ライフルを構え、仰角を取って保持しながらアウルの銃弾を頭部へ放つ。
「巨人さんの防御は高そうですなぁ。でも、目鼻に『砂粒』が入ったら、そらうざいったらないでしょう?」
 一気に距離をつめたソラは靴底を滑らせ足を止めると、その足をしっかり踏ん張りながら、活性化した大鎌を思いっきり斜め上へと振り抜いた。大鎌の黒い刃が宙に消え── 『次元突破』により空間を越え、巨人の鼻先を斬りつける。その身を仰け反らせながらギロリと見下ろす巨人。だが、その時には既にソラは横ダッシュで離脱にかかっている。
「そうだ、こっちだ! こっちに来い、デカブツ!」
「ダイダラボッチに比べたら、あんたなんか全然小物なんだから! やーい、やーい!」
 その巨人の足元で、司とチルルは盛んに『挑発』を繰り返した。かかってこいとばかりに手を振り、煽る司。チルルはぴょんこぴょんこと飛び跳ねながら両手を振って巨人を小馬鹿にする。
 その隙に、フィーネに傷を癒してもらった牛図がパタパタと巨人の頭上に位置すると、巨人の直上から直下へ『炎陣球』を──直線攻撃を叩き込んだ。おまけくらい、と牛図は言うが、縦に3hitもすれば結構痛い。『温度障害』によりプスプスと煙を上げる巨人の頭を見て、大笑いするチルルとソラ。その光景に、星嵐と夕姫と司らも思わず苦笑を浮かべる。
 その『挑発』に引っかかったのか、巨人は建物の側から離れ、南側──駐車場側への突進を開始した。蝿を払うように手を振る巨人。牛図がそれまでにないくらい必死に南へと飛び逃げる……

 そんな戦場の様子を、紅香 忍(jb7811)はひとり、撃退署の建物の陰からじっと見つめ続けていた。
 署内に入るでもなく、巨人との戦闘に加わるでもなく…… ただひたすらに、撃退士たちと戦闘中の巨人の所作を観察する。
(強力な巨人…… アレを倒せば箔がつく…… 金になる……)
 ただひたすらに気配を消し、身じろぎもせずに巨人を見続ける忍。その動きをじっと見続け…… 敵が致命的な隙を見せるその一瞬に、ただ一撃に全てを賭ける。
(……動いた)
 撃退士たちの挑発に乗って、巨人が移動を開始する。恐らく、撃退士たちは巨人を建物から引き離して後、反撃に出る積もりなのだろう。
 忍もまた気配を消したまま、南への移動を開始した。姿勢を低く、車の陰に隠れるようにしながら、音も無く距離を詰めていく……

 巨人の動きに呼応し、撃退士たちも急いで──だが、決して慌てずに、南へ一定の距離だけ下がった。そして、巨人が広い駐車場の真ん中にまで到達すると、その時点で反撃に出た。
「はいっ、ここまでっ!」
 走り逃げていたチルルが急停止して振り返り。一本足打法で巨大な『氷の棍棒』を振り被ると、巨人の足へフルスイングで振り抜いた。
 氷壊『アイスマスブレード』による重い一撃は、だが、重量級の巨人を吹き飛ばすことは叶わない。とは言え、そこはそれ、弁慶の泣き所。後退こそさせられなかった巨人だったが、その一撃で前進を止められ、たたらを踏む。
 巨人と併走しながら後退してきた夕姫はそれを見て足を止め、傍らに駐車してあったセダンのボンネットの上に、手にした大型ライフルを上半身ごと振り乗せた。動きを止めた巨人のアキレス腱に狙いを定め、魔法の弾丸を撃ち放つ。
 星嵐もまた近接戦用の黄金の大鎌に得物を活性化しながら、円の軌跡を描く様に巨人の脚部へ突進していた。巨人の視線が自身へ向くのを見ながら、その側面から背面へと回り込むように移動する。──敵正面にはチルルと謳華、遊撃にはソラ、空には牛図がいる。こうして広く展開してしまえば、巨人も的を絞り難かろう。
 その星嵐の動きに呼応して走りながら、口笛を吹いて巨人を呼ぶ司。その動きは星嵐と巨人を挟む様に。自身に巨人の視線が向けば、星嵐は完全に死角に入る……
 うろたえた様に視線を振る巨人。と、夕姫が放った一弾によって、巨人の左のアキレス腱に小さな穴が開き、肉と血を噴き出させつつ後ろへ抜ける。
 星嵐は大鎌を肩へと担いでその傍らを走り抜けた。走り抜けつつ大鎌を一閃し、被弾したアキレス腱を一撃して離脱する。反対側からは司がタイミングを同じくして騎兵槍を構えて突進し、チルルが打った脛へ向かってその穂先を突き入れた。纏った氷の塊を振り捨て、刺突大剣を突き下ろすチルル。そちらへ向いた巨人の視線の先を、ソラが振るった黒刃が掠め過ぎていく……
(今だ)
 瞬間、忍は物陰から飛び出すと、巨人の前を駆け抜けながら、布袋を結わえたクナイを巨人の顔目掛けて投擲した。パン、と弾ける布袋。飛散したアウルの霧が巨人の視界を『目隠』する。
 思わぬ場所からの攻撃に、他の撃退士たちは驚いた。彼等はこの時、初めて戦力がもう一人いる事に気付いたのだ。忍はそんな彼等におかまいなしに、巨人の背面から再び車の陰へと身を隠す。
 視界を奪われた巨人が暴れて周囲へ水魔法を撒き散らし…… 直後、脛に走った激痛に悶絶の叫びを上げた。闘神の巻布により全身にアウルの力を漲らせた謳華が、その『爪』から『牙』──肘から膝へと繋がる強烈な連撃を脛へと打ち込んだのだ。
「どうした…… 貴様の相手は『此処』にいるぞ」
 怒りも憎しみもない、ただ純粋な殺意を滲ませながら、腕を組んだ姿勢のまま半身の構えをとる謳華。
 北から駆け寄って来た青鱗竜が、立ち尽くす巨人の背へ向け、口から雷の塊を浴びせかけた。


 治療を終えた牛図が巨人へ飛んでいくのを見送って…… フィーネはその光の翼を翻すと、破損した壁の外から直接、件の部屋へと舞い降りた。
 『徹汰』が勇斗を抑えたまま、左手の光球をそちらに向ける。だが、フィーネの背に広がる光翼を見た『徹汰』は、瞬間、硬直し……絶好の攻撃の機会を自ら失った。
「わたくしは『癒し手』です。武装もこの杖だけですわ」
 フィーネはそう言って両手を広げると、その杖の活性化も解き、戦闘の意思が無い事を表した。『徹汰』は背後から勇斗を掴み直すと『人質』として盾にする。
「またお会いしましたね、『藤代徹汰』さん? って、これは偽名でしたわね…… この際、折角ですから本名を名乗って頂けませんか? 素性が知れた以上、もう隠す必要もないでしょう?」
 友好的に語りかけながら、困ったように眉を寄せるフィーネ。ルディは『交渉』のペースをフィーネに握られていると感じた。「……これから死ぬ者に、名乗る必要があるのか?」と回答しつつ、手にした光球から短剣状の刃を出して勇斗の喉元に押し当てる。
 と、側方に人の気配を感じて、ルディはそちらに右手の光球を向けた。現れたのは、建物内に残っていた署員だった。取り残されたものがいないか確認する為に建物内を回っていた彼等は、人の声がするのを聞いて避難を促す為にやって来たのだ。
 ルディが反射的に放った光の散弾は、現れた署員2人の不意を打った。フィーネはルディに見向きもせずに、慌ててそちらへと駆け寄った。
「なんて事……! 負傷者の方、意識があるなら声を上げてください! 大丈夫、傷は浅いですわ!」
 手に回復の光を生み出し、負傷者2人の傷を治癒するフィーネ。ルディは、だが、その邪魔をしない。
 フィーネは治療を施しながら、チラと『徹汰』に視線をやった。──負傷者の被弾箇所は全て急所を外れていた。偶然? それとも意識的に? 自分が動いた時も、治療を始めたときも『徹汰』は邪魔をしなかった。であるなら、敢えてそうしたという事になるが……
「大丈夫、ゆ…… きゃあ!」
 そこへ飛び込んできた縁は、血塗れで仰臥した2人の署員と、喉元に光刃を押し当てられた勇斗の姿に悲鳴を上げた。
 その両肩を掴んで引き寄せながら、陽花は幾分落ち着いた様子で素早く周囲へ視線を走らせた。室内の状況は、ヒリュウの目を通して確認していた。故に冷静に事態を把握していたはずだった。
 だが、そんな思惑は、拘束された勇斗を直接目の当たりにした事で吹き飛んだ。友人の前に出ながら、目の前の敵へ声を荒げる。
「やっぱり『徹汰』……! 今すぐゆ…… その子を放すんだよ!」
 逆に縁に肩を掴まれ、陽花はギリギリで勇斗の名前を出す事を押し止めた。──敵の目的が分からない。で、ある以上、勇斗の名前を出す事は──勇斗が悠奈の兄である事は、出来うる限り避けるべきだ。
 陽花は大きく息を吸うと、自身の心を落ち着かせようと試みた。敵は天使だ。少数で対応するのは危険過ぎる。ああして『人質』を取っている以上、目的は強襲ではないのだろう。ならば今回はなるべく戦わずに済ませたい。
「とりあえず、私たちに戦闘の意思はありません」
「そう、私たちは君と交渉する用意がある…… まずは、君の目的を教えてもらえないかな?」
 先程のフィーネと同様、手を広げて武器を所持していない事を示す彩華。交渉の前面に立ったのは、落ち着きを取り戻し、『ポーカーフェイス』と『忍法「友達汁」』を使用した縁だった。落ち着いた調子で静かに『徹汰』の目的を問う。
 ルディの方も、当初は急襲で目的を達するつもりであったが、その機が失われた事は分かっていた。即ち、交渉で目的を達するしかない。
「榊悠奈を、ここに連れて来るんだ」
 ルディのその答えは、撃退士たちの意表を突いていた。まさかその名前が今ここで出ようとは。困惑して顔を見合わせる縁と陽花。それがどういう事なのか、と彩華は必死に考える……
「おい、君は悠奈を知っているのか?」
(勇斗くん)
 呼びかける縁の声は、勇斗の耳だけに聞こえた。背を向け、咳払いの格好をした縁が『忍法「霞声」』で呼びかけたのだ。話を合わせて黙っているように、特に自分の素性を明かさぬように、と……
「悠奈ちゃんなら、ここにはいないんだよ」
 すかさず、陽花が答えて『徹汰』の注意が勇斗に向くのを防ぐ。返答の内容に、ルディの声音が気色ばんだ。勇斗に対する何かの疑念はその時点ですっ飛んだ。
「とぼけるな! ここに連れて来られたことは分かっている!」
 その言葉に、縁と陽花は再び顔を見合わせた。
「本当だよ。悠奈ちゃんは今、学校にいる。君に騙されて非常にショックを受けてたよ。その上、君と長く一緒にいた事で『要注意人物』みたいに扱われて…… どれだけ辛い目にあったことか!」
「そうだよ! 依頼だって遠慮して受けられる状態じゃないんだからねっ! 主に君のせいで!」
 いつの間にか、縁のポーカーフェイスは途切れていた。抑えきれぬ感情が溢れ出したのだ。
 それは陽花も同様だった。悠奈は縁や陽花にとっても可愛い後輩。その悠奈をあんな目に合わせた『徹汰』に一言言わずには気がすまない。
「交渉中〜! 今は交渉中ですから!」
 彩華は慌てて前に出ると、そんな2人を必死に押し止めた。グッと息を呑み込み、抑える縁と陽花。彩華はホッと息を吐きながら、恐る恐る『徹汰』を振り返る。
 肝心の『徹汰』は…… 辛そうな表情で唇を引き締めながら、ジッと押し黙っていた。
 この時点で、ルディの目的は既に達成できなくなっていた。学園から悠奈を呼び寄せても時間を稼がれるだけ。包囲され、脱出も儘なくなる。
 ならば、せめて…… ルディは己の今後を決める、最後の質問を口にした。
「それはつまり…… 悠奈は撃退士たちによって、学園に囚われているということか?」
「は?」
 その予想外の質問に、撃退士たちは憤りやわだかまりごと硬直し、今度こそ本当に呆気にとられた。3人は互いに顔を見合わせ…… 違うヨ? と揃って声を返す。悠奈は事情聴取こそ受けたものの、その疑いは深くなく…… 特に拘束されたりする事もなく学園生活を送っている。
「そうか…… 良かった」
 ……心底ホッとしたように、安堵の笑みを浮かべる『徹汰』。それには、3人は勿論、治療中のフィーネや捕まっている勇斗も驚いて目を丸くした。
「……ようやく、分かった」
 彩華は小さく呟いた。
「彼は悠奈ちゃんを傷つけた── 私は最初、それを単純に許せない、って思ってた。……でも。報告書の中で、彼は傷ついた人を救助していた。私には、彼がそんなに危険な存在にはどうしても思えなかった。……『藤代徹汰』。私はあなたが最初から悠奈ちゃんを傷つけるつもりだったとは思いません。だからこそ、今回の貴方の行動の意味をずっと考えてきた」
 そこで大きく息を吸い…… 彩華が『徹汰』に向き直る。
「今、分かりました。貴方は、悠奈ちゃんが『捕らえられた』と思って、『救出』する為にここへ来たのですね」
 


 手に提げたガトリング砲を重心にクルリと宙を回りながら…… ソラは駐車してあった車の屋根に綺麗な姿勢で舞い降りた。
 そのままガトリング砲を担ぎ直し、車高で稼いだ射程を加えながら巨人の顔へと銃弾の嵐を叩きつける。その目は先程までのソラと異なり、煌くような感情の輝きが一切消えていた。──心の奥底、一番深い場所から漏れ出てくる己の負の感情からの囁きに耳を傾け、己の身体を一時的に冥魔の力の受け皿としているのだ。その間、その表情は氷像の様に空虚になる。
 飛び交う銃弾に行き交う斬撃── 雪舞う駐車場のアスファルトの上を、撃退士たちがまるで氷舞の如く一撃離脱を繰り返す。
 その中心に立つ巨人は…… その足を一歩踏み込み、ソラの乗る自動車を渾身の力で蹴飛ばした。乗用車が軽々と宙に舞い── クルクルと回りながら地面へ激突。跳ね転がりつつ、薙ぎ払う。
「ふっ。柱を投げ、車を蹴る、か。確かに恐ろしいものだが、投げると言う事は直線的、或いは放物線を描くもの。それを理解すればいかに質量があろうとも駆け抜ける事は容易──」
「謳華さん、逃げてー!」
 腕を組みステップを踏む謳華の背後で、漏れ出した気化ガソリンに火花が引火し、盛大に爆発する破損自動車。『銃座』代わりにしていた車の陰に頭を下げた夕姫の周囲に、飛んで来た破片がカラカラと金属音を立てる。
「おら、かかってこいよ、巨人! 魔法や投石物なんか捨ててガチンコで殴りかかってこい!」
 その時にはソラの囁きの効果は切れていた。指先までシュピッと伸ばした良いポーズで猛ダッシュ。脱兎の如き勢いで全力で巨人から距離を取る。
「こっちは当たったら沈む儚い系なんですから。もっと優しくしてほしーもんです!」 そんな事を呟きながら、十分に距離を取り…… 足を止めて活性化したPDWを振り構えると、「慈悲はない。天魔、死すべし!」と再び巨人の頭部へ銃撃を開始する。
 その巨人は、既に新たな車を肩の上まで抱え上げていた。雲海の向こうに薄く輝く太陽が、あんぐりと口を開けたソラの上に巨人の影を落とす。
 巨人の頭上では、牛図が国民的ネコ型ロボットよろしく、慌てた様子で懐から符を何枚も取り出していた。──奇門遁甲は……あ、活性化したら残数がなくなってしまいます。炸裂符……の前に、まず、傷が痛いので回復です。吸魂符の方がダメージも与えられてお得ですけど、確実性ではやっぱり治癒膏の方が良さ気です……
(間に合え……っ!)
 車を両手で持ち上げ、大きく振り被る巨人。その足元に走り込みながら、星嵐は手にした黄金の大鎌を大きく斜めに振り下ろした。その一撃で、それまで夕姫と二人、攻撃を集中して来た巨人の左のアキレス腱が千切れ飛んだ。グラリとその身を揺らす巨人。『ランカー』による一撃を与えた星嵐が大きく跳び退さり、バク宙でクルリと地へ下りる。
 その瞬間を、司は見逃さなかった。その身は常に、巨人を挟んで星嵐とは対称に── 司は手にした騎兵槍を己の右脇に抱え直すと、それを両手で保持しながら一気に巨人の足元へと突っ込んだ。アキレス腱を破壊されたのとは反対側の足が、自重を支えるべく下ろされる。それが地に着く寸前に── 司は、『ウェポンバッシュ』による薙ぎ払いで敵の『軸足』を刈り払った。
「予定通り! まずは足を潰して頭を下げさせ、そして──!」 
 夕姫は、地に倒れ込む巨人を見やりながら、目の前の車の上に飛び乗って蹴り跳ねると、魔具を虹のリングに変更しつつ『小天使の翼』で宙へと舞った。巨人の手から落ちた自動車が爆発して周囲に破片を飛び散らせ。その幾つかが司を襲い、儀礼服の下に着込んだ鎖帷子に喰い込み、止まる。
 その爆炎を背景に巨人の頭頂方面へ回り込みつつ、刺突剣へアウルのエネルギーを溜め込むチルル。敵をライン上へと捉える位置で靴底滑らせ足を止め…… 溜め込んだ吹雪の如きエネルギー波を一直線に突き入れる。
 そこへ直上から牛図が連続で投げ下ろす炸裂符。その爆発に包まれながら、巨人が膝立ちの姿勢へ移行する。再度、物陰から飛び出してきた忍がそれより早く地を蹴り、跳躍。その手に生み出したアウルの重い一撃を、巨人の背後から延髄目掛けて叩き込む。
(入った──!)
 その一撃に『朦朧』とし、グラリと頭を揺らす巨人。そこへ爆炎の只中を越えて飛び出してきた謳華が敵へと突進し、巨人の膝を踏み台にして跳躍。回し蹴りの要領でその膝を敵の顎へと打ち入れる。
 その直上に──『小天使の翼』で移動を終えた夕姫がその右拳に光を集めて小さな太陽を輝かせる。その陰影に浮かぶ表情に、傍らを飛ぶ牛図はビクゥッとその身を震わせた。普段は穏やかな夕姫だが、怒らせると怖い事を牛図は知っている。
「トドメよ。吹き飛びなさい──!」
 夕姫は自ら加速をつけてそれを威力に変換すると、うなだれた巨人の後頭部に向け、輝ける拳『神輝掌』を思いっきり殴り下ろした。

「まだよっ! 敵は再生能力を持ってる!」
 ダグ○ムっぽいポーズで項垂れたまま動かぬ巨人を見やって、周囲に細氷を舞い散らせながらチルルは叫び、突進した。銃撃を再開するソラ。忍と謳華は着地するや否や再び巨人へ跳躍し、影手裏剣や『牙』で打ち貫く。
 星嵐は対面の司と目を合わせて頷くと、『ヘルゴート』で魔力を底上げしつつ、生み出した漆黒の虚無の弾丸『グローリアカエル』を撃ち込んだ。光さえ呑み込むと言われるその属性は昏き冥魔。先刻のソラの囁きと並ぶプラスレートへの天敵だ。
 司もまた足にアウルを込めると、目にも留まらぬ『神速』で巨人の顔へと突進した。狙うは瞼閉ざした巨人の瞳── 頭蓋まで貫けとばかりに突き出された槍の穂先は狙い過たずにそれを捉え──
 だが、それが敵を穿つ直前。カッと目を見開いた巨人はその背を地面に預け、開脚回転で撃退士を吹き飛ばしつつ、両手で伸び上がるようにして立ち上がる。
 その足は、既に自己修復が終わっていた。武道家の如き構えでほぉーと巨人が白い吐息を吐く。
「押し切れなかった……」
 その身を起こしながら、チルルが唇を噛み。忍は「これはダメだ……」と再び物陰へと身を隠す。
(もう巨人は倒せない…… 天使の方に回った方がまだ金になるか……?)
 そのまま気配を消し、戦場を離れて署へと向かう忍。その背後で巨人が足元のアスファルトを踏み砕き。破片を撃退士たちへと蹴り飛ばした。


 外から聞こえてくる爆発音や破壊音に、負傷した署員の治療を終えたフィーネは、戦場へ向かうべくこの場を離れた。
 『徹汰』はそれを妨げなかった。やはり、この人は何かしらの信念を持っている── 確信めいたものを抱きながら、フィーネは翼を広げて外へ飛ぶ。
「では、この場に長居する必要もないな」
 『徹汰』は彩華の問いには答えず、あっけなく勇斗を解放した。
「分かっているとは思うが、もし立ち塞がろうというのなら……」
 撃退士たちは止める気はなかった。というより、現有の戦力で彼をどうこうしようとするには、こちらもかなりの覚悟がいる。
「待ってください」
 『徹汰』が飛び立とうとする寸前── 彩華は彼に呼びかけた。
「何か伝言があれば、お伺いしておきますが…… その、悠奈ちゃんに」
 彩華のその言葉に、『徹汰』は困惑を隠さなかった。彩華は静かに首を振った。たとえ相容れない立場であっても、決して、話し合う事は無駄じゃないと思うから──
「迷惑を掛けたようで、すまないと謝っておいてくれ。だが、そうだな…… いずれまた会えると嬉しい、とも」
 流石に面白くない表情を浮かべる勇斗の口を慌てて背後から塞ぎつつ…… 縁と陽花は、代わりに言った。
「また悠奈ちゃんを誑かすようなら、私たちも、あの子のお兄ちゃんも、今度こそ許さないよ」
「悠奈ちゃんは私たちにとっても可愛い妹分…… 渡す事はできないんだよ。どんなことがあろうともっ!」
 二人の返事に微笑を浮かべながら…… 『徹汰』は今度こそ空へと飛び出そうとする。だが……
「あ。そうだ、君の本当のお名前は?」
 その直前、縁が思い出したようにそう訊ねた。流石に2回目とあって『徹汰』も不機嫌そうに眉をひそめる。
「もう二度と会わないかもしれない相手に名が必要か?」
 答えるんだ、と彩華はちょっと感心した。案外、付き合いの良い性格なのかもしれない。
「それはどうだか分からないけど…… 人の縁って、分からないから……」
 あはは、と笑って誤魔化しながら、縁はそっと呟いた。『徹汰』というのは、戦いの中で死んだ学園の撃退士の名前だ。せめてそれだけでも返して欲しい。それに……
「悠奈ちゃんにまた会う気でいるなら、今度こそ本当の名前を伝えてあげなさい」
 そっぽを向いて言う陽花の言葉に、『徹汰』は意外にも真摯に頷いた。
「アルディエルだ。仲間からはそう呼ばれている」

 空へ舞い上がったルディが口笛を長く吹き── 巨人はその合図に一つ、頷くと、そのサイズを利用して一気に戦場を離脱した。
 鎌倉の大仏が全力で走ると新幹線より早いと言う。機動力のある大型種に全力で逃げられるととてもじゃないが追いつけない。
 撃退署の署員は直ちに続報を報せたが…… 戦力が分散させられているので、透過能力で地面に潜られれば発見は期待できない。ヘリも全て出払っている。残っていたとしても、この曇天では空から見つけるのも困難だろう。「「『徹汰』君。君はあの洞窟で、悠奈ちゃんと話して何を感じた……? 何を思った……? 俺には…… いや、君の事を何も知らない俺が何を言っても意味がないが…… でも、俺はもう一度、悠奈ちゃんとちゃんと話して欲しいんだ。敵対する者たちではなく、あの時、あの場所で同じ時間を過ごした友人として……」
 飛んで行くルディの背を遠くに見やって…… 司は心中でそう独り言ちた。
「はは、勇斗にはとても聞かせられないけどな。それでもそれが俺の本心だ」
 ボロボロに破壊された署から出てくる勇斗を見つけて、司は戦友たちに声を掛けてそちらへ向かう。
「貸しを作り損ねたか……」
「え?」
「いえ、ご無事でなによりです」
 物陰に隠れて機を伺っていた忍が、出てきて勇斗にそう告げる。
 陽花はルディが完全に見えなくなるのを確認すると…… 脱力したように勇斗に縋り、互いの無事を実感するようにギュッとその身を抱き締めた。

「勇斗さん、その、押しのけるような形になってごめんなさい…… 勇斗さんも一杯、言いたい事もあっただろうけど…… 悠奈ちゃんの気持ちを考えると、どうしても彼と話してみたくて」
 多少の逡巡の後、彩華は決意を固めると、勇斗の前に立ってそう言い、深々と頭を下げた。
 勇斗は苦笑を浮かべて頭を振ると、気にしないよう彩華に言った。
「自分の言いたかった事は、ほら、みんなが代わりに言ってくれたから。お陰で冷静になれた。自由に喋れていたら、何を言っていたことか……」
 そう言って笑いながら、勇斗はルディが飛んでいった空に視線をやった。
「あれが『徹汰』、アルディエル…… 僕らの『敵』か……」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
インガオホー!・
黒瓜 ソラ(ja4311)

大学部2年32組 女 インフィルトレイター
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
でっかいひと・
牛図(jb3275)

高等部3年4組 男 陰陽師
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
希望の先駆け・
フィーネ・アイオーン(jb5665)

大学部6年190組 女 アストラルヴァンガード
Lightning Eater・
紅香 忍(jb7811)

中等部3年7組 男 鬼道忍軍