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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/22


みんなの思い出



オープニング

 その敵は、亀の形をしていた。
 その全長は6m。2車線の道路幅をまるまる埋め尽くす大きさだ。2台のバスが並んで迫り来る様、と言えばその威容の程が伝わるだろうか。
 ごつごつした野太い四肢は、まるで岩石の塊のような重量感に満ち満ちて。彫りの深い溝によって亀甲模様が刻まれたオリーブドラブ色の滑らかな甲羅は沈む夕日の陽光を受けて鏡の様に煌きながら、いかにも分厚く、硬そうな佇まいを見せている。
 その甲羅と四肢の表面には、複数の鋭い角状の突起物。その周囲に渦を巻きながら、生み出された『魔法の風』がごうごうと唸りを上げている……


 ○○号線を東進していたその巨大な亀型ディアボロは、小川に渡されたコンクリの橋を越えて、無人の集落へと入った。
 その未知の敵に対する威力偵察および遅滞戦闘を行った撃退士たちの一人──久遠ヶ原学園・高等部3年、榊勇斗は、友人の恩田敬一と共に亀型を追跡し、敵との接触を継続していた。
 敵は集落に入った後も特に破壊活動等は行わず、ただひたすらに道の上を、時速6〜7kmのゆっくりとした速度で東に向かって進み続けていた。距離を取って追跡する勇斗たちにも気付いているはずだが、特に気にした様子はない。6m級の『親亀』の背の上に乗った2m級の『子亀』──頭部の代わりに砲の様な突起物を突き出した亀型ディアボロ。甲羅の左右に生えたその四肢は『人間の腕』状で、『親亀』の甲羅に張り付いてぺたぺたと這い進んでいる──が、その『砲口』をじっと勇斗たちの方に向け続けているだけだ。
「眼中になし、か…… 移動の邪魔をするようなら実力で排除する、ってことかね。まるで『巨象の周りを飛び回る蝿』って感じだな、俺ら」
 その余りにも堂々とした亀型の進みっぷりを見て、敬一が笑いながら軽口を叩く。
 勇斗は笑わなかった。──まるで戦車だ。絶大な防御力と耐久力にものを言わせ、こちらの抵抗をものともせずにただひたすらに前へと押し通す。
 問題は、それがどこへと向かっているか、だ。この道の先には人の住む町がある。人々の避難はまだ完了していないはずだ。避難民でごった返す街中にアレに突入されようものなら、それはもう酷い事になる……
「……討伐隊はまだか」
 焦りを押し殺し、呻く勇斗。亀は集落を抜け、一面に畑が広がる大規模農場地区へと差し掛かっていた。とは言え、この辺りも緩衝地帯として放棄された区域であり、畑には放ったらかしにされた野菜を覆い尽くすように雑草が生えまくっている。
 その雑草以外、遮蔽物のないだだっ広い空間を、勇斗たちは距離を取りつつ慎重に亀を追跡し続けた。
 やがて、道は三叉路へと突き当たり、亀は一旦、その足を止めた。ある種の巨大なハンマーの様な頭部が持ち上がり、その長い首をするすると上へと伸ばしながら、その頭を左右に振って……
 そのまま何かに納得したのか、亀は首を縮めて元に戻すと、その進路を右へと変えて再び前進を開始した。その進路は側道ではなく、○○号線の先。
「あの亀、今、道を確認したのか?」
 呟き、勇斗は眉根を寄せた。そもそも、なぜ、あの亀はわざわざ道路上を歩んでいるのだろう……?


「これより後、現在、○○号線を進行中の大型亀型ディアボロを『暴風亀』と呼称する。この暴風亀を討伐するのが君たちの任務となる。まずは手元の資料を見てくれ」
 勇斗と亀がいる地点より東、○○号線の先に位置する町に構える撃退署──
 その会議室の一室に設けられた対策本部に、亀討伐の依頼を受けた学園の撃退士たちは集まり、ブリーフィングを受けていた。

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○親亀×1
 全長6m(3×3スクエア)。頭部、四肢、尻尾、甲羅、角状突起物等の部位からなる。
 その鎧たる甲羅は非常に頑強。物理攻撃より魔法攻撃の方が効果があると思われるが、その絶大な防御力を前にしては誤差に等しい。
 頭部や四肢といった『本体部分』も甲羅程ではないが非常に硬く、更に再生能力があることも確認されている。

 問題は、甲羅や四肢に生えた突起物が生み出す『魔法の風』。砂塵を巻き上げたり強風で人を吹き飛ばしたりといった攻撃手段としては勿論、何より厄介なのが『風の盾』だ。
 非常に高い『受け』能力を誇る他、1d6ダメージをも減衰する。甲羅や本体の高い防御能力と相まって、実質、無敵の盾と化している。
 突起物(各スクエアに一つずつ)にダメージを与えれば効果が弱まる事が確認されているが、その突起物自体、風の盾に守られている為、難しい。
 稀に突起物を狙った通常攻撃が風の盾内部に届く事もあるが、その確率は非常に低く、また、すぐ風が復帰する為、手立てが無い場合、痛撃を与えられるかは幸運頼みとなってしまう。
 範囲攻撃に対しても、全てのスクエアに風を展開可能。直線攻撃であれば風の盾の内部に攻撃可能。

攻撃手段
頭部
 噛み付き(威力:中 命中:中 射程1-3 前方のみ)
 薙ぎ払い(威力:高 命中:低 射程1-3 前方90度コーン)
脚部
 踏み出し(威力:小 命中:高 射程1-1。攻撃行動ではなく、移動。1スクエア強制後退)
 踏み潰し(威力:極高 命中:極低 射程1-1。攻撃行動ではなく、移動。1スクエア強制後退)
尻尾
 振り払い(威力:小 命中:中 射程1-5 後方のみ。拘束あり)
魔法の風
 砂塵(威力:極小 命中:極高 射程1-5 視覚障害あり)
 暴風(威力:小 命中:高 射程1-7 全周。4スクエア後退あり。対空特効)
○○
 ○○○:不明
○○
 不明

移動力:5 旋回にも1使用。質量による強制押し出しあり。但し、立ちはだかる人数によって移動力は減衰する。
 風によるホバー(浮遊)移動能力。12スクエア水平移動固定。途中障害無視。彼我双方にダメージ判定あり
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○子亀×1
 全長2m(1×1スクエア)。砲状の頭部と『人間の腕』状の四肢を持つ。
 砲口からは多種多様な砲撃を行う攻撃の主力。親亀の背中に乗ってぺたぺた張り付き、行動する。
 甲羅は硬いが、その四肢は存外脆い。が、親亀の『風の盾』によって守られている為、撃破は困難。

攻撃手段
頭部
 赤色炸裂弾(威力:中 命中:中 射程1-7 範囲2、識別不可)
 青色怪光線(威力:高 命中:高 射程1-15 直線、識別不可)
 白色光散弾(威力:小 命中:極高 射程1-4 範囲90度コーン。視覚障害あり)
○○
 ○○:不明
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「これらの情報は、この暴風亀を発見した哨戒班が命がけで収集してきた情報だ。彼等は親亀の移動を遅滞させつつ、子亀の1体をも倒している」
 状況の説明を終えた後、居並ぶ撃退士たちに向けて、本部の指揮官は声を高めた。
「君たちの任務はこの暴風亀の討伐だ。……現在、○○号線沿いの町村に対して市民の避難が行われているが、敵に突破を許した場合、最悪、間に合わない状況も考えられる。なんとしても敵を止めてくれ」


リプレイ本文

 なぜ、こんな事になったのだろう──?
 齢40を過ぎて久遠ヶ原学園に入学する羽目になったジェームス=マイヤーズ(jb8683)は、一面に広がる平原を見渡すうちに、ふとそんな事を考えていた。
 久遠ヶ原学園大学部3年── それが今の彼の身分である。が、周囲の学生たちは皆、子供の様な年齢の若者たちばかりで、そんな中に自分の様なおっさんが交じっていると、なんというか、そう、場違い感が半端ない。
 どこかくすんだ白ワイシャツに、草臥れた黒のスラックス。現役時代──こう見えて探偵事務所の所長だった事もある──から着続けて色褪せた濃緑色のロングコートは、まるで今の自分を象徴している様だ。
「どうしてこんな事に、ねぇ……」
 改めて口に出しながら、撃退署から借り受けたセダンに寄りかかり、くしゃくしゃになった箱から煙草を咥え取って火をつける。
 黙々と戦いの準備を進める若者たち── 北側の畑に立つ陽波 透次(ja0280)は黙々と足場となる地面を踏み固め、神凪 宗(ja0435)は恩田敬一が持つ符を確認しながら、『亀』の『突起物』を破壊する方法について、連携の打ち合わせを続けている。
「……どうやら敵が市街地を目指しているのは間違いなさそうですね」
 地図を見ながら、鑑夜 翠月(jb0681)はそう言って形の良い眉をひそめた。緑色のリボンで纏めた腰まで届く長い髪── 一見、女の子にしか見えない可愛らしい外見だが、『彼』はれっきとした男である。
「あの亀怪獣…… 何の目的でここに派遣されて来たのかな……? なんだか嫌な予感がするんだよ」
 葛城 縁(jb1826)がその表情を曇らせ、言う。撃退士は力なき人々の剣であり、盾である。その双肩には多くの人たちの人生が懸かっている。もし、自分たちがここを抜かれたら、きっと大変な事になる。
「町の人たちの生活の為にも、今、ここで、食い止めなきゃ! 絶対、この先には遠さねえべさ!」
 撃退士としての責務を改めて胸に刻んで、竜見彩華(jb4626)が檄を飛ばす。翠月は頷いた。相手の目的が分からないからこそ、余計に市街地には近づけたくはない。可能ならばこの場で決着をつけるべく、最善をつくすべきだ。
(住んでる場所が『壊される』ってのは、大なり小なり悲しい事だからねぇ…… 出来れば防ぎたいものだ)
 若い3人の会話を耳にしながら、ジェームスは心中で呟いた。自分もまたここに来るまでに色んなものをなくしてきた。天魔の為に誰かが何かをなくす光景は…… まぁ、あまり見たくはない。
 ジェームスは腰を上げると、吸い終えた煙草を携帯灰皿に揉み消した。
 ふと気付いて苦笑する。この携帯灰皿の習慣も、学園に入学してから身についたものだった。

 その少し前──
 暴風亀の追跡を続けていた榊勇斗たち哨戒班は、駆けつけた撃退署員に後を引き継ぐと、休息を取りつつ、学園から来た討伐隊との合流を果たした。
 急ぎ携帯食をかっ喰らう勇斗にお茶を勧めながら、彩咲・陽花(jb1871)が心配そうな視線を向ける。……勇斗はここ暫く学園の寮にも帰らず、ずっと戦場に在り続けた。たった一人の肉親、妹の悠奈の事が心配でたまらないはずなのに。
(休息を取るとは言え…… 哨戒班の人たちにはやはり少し疲れの色が見えるな)
 そんな勇斗たちを見やって、日下部 司(jb5638)はそう感じていた。司もまた勇斗が無茶をしがちな性格である事は承知している。
 だが、自分からは何も言わない。勇斗自身が疲れた顔を見せず、気を張り続けているからだ。ならば、俺はそんな彼等の負担を少しでも軽減できるよう身体を張ろう。無茶をするというのなら、共に無茶をし、負担を減らそう。そう決める。
「よう、勇斗! メシは喰い終わったか? なら早速、作戦会議や!」
 携帯食を食べ終えた御神 優(jb3561)は、ドッカと勇斗の横に腰を下ろした。
「前回は暴れ足りへんかったからな。今度はあんじょう倒さんと。勇斗も頼むで! 普段は『シールド』で壁になりつつ、体力がやばそうな奴(無論、わいも含むで!)は『庇護の翼』でガードやな。そして、あんの亀の前では『不動』で足止めや!」
「……いや、下がらないと、俺、踏み潰されるんだけど」
「そこは気合や!」
「……」
「あとは根性!」
「……もういっそすがすがしい」
 苦笑する勇斗に豪快に笑いながら。優は一転、真面目な顔でガッと勇斗の肩を組んだ。
「普段は皆のアシストに徹しつつ、もしも亀がホバー移動する素振りを見せたら、『シールドバッシュ』で移動を封じて貰えればありがたいわ。後は…… わしらで何とかする」

 戦闘の準備を終え── 署員から暴風亀の接近を告げられ、道の左右の草陰に身を隠す撃退士たち。
 亀に対する足止め役の一人として道路上に残った勇斗に、陽花は振り返り、声を掛けた。
「勇斗くん! 勇斗くんが帰れない間、悠奈ちゃんの方は私たちでもフォローはするからね! だから…… あまり思いつめちゃダメだよ!」
 苦笑して頷く勇斗に、だが、陽花は安心せず…… 勇斗と同じ足止め班の友人、月影 夕姫(jb1569)に視線を振った。アイコンタクトを受け、頷く夕姫。一方、勇斗の横には司が並び立つ。
「それじゃあ…… 始めるとしますか」
 呟き、騎兵槍を活性化する司の横で、勇斗も盾を活性化する。
 迫り来る暴風亀には、全く動じた気配はなかった。こちらに気付いても変わらぬ歩調で、ただひたすらに迫り来る……


「先制攻撃を仕掛けるわ。勇斗くん、反撃への対応はお願いね」
 夕姫は傍らの勇斗に声を掛けると、ヒヒイロカネを取り出してその得物を活性化した。
 その魔具は勇斗が初めて見るものだった。バスターライフルAC-136──魔力の弾丸を放つスタイリッシュな外観の大型ライフルで、魔具としては長い射程を誇る。
 夕姫はそれを立射姿勢で構えると、亀の四肢の突起を狙って最大射程で弾を放った。亀の進行の遅延、およびダメージの蓄積を狙ったものだったが、その一撃は亀が展開した風の盾に阻まれた。
 宗もまた洋弓を活性化させ、アウルの矢を番えて亀へと放つ。結果は先程の夕姫と同様。風の盾に弾かれた。
「……事前の準備行動も予兆も殆ど無い。展開の速さは対抗スキル並…… まさしく『風の盾』と言ったところか」
「あの防御を確実に抜けるような条件も分からないわね。……今度は同じ箇所を狙ってみましょう。風の唸りとか変わると分かりやすいんだけど……」
 そう言って二の矢を放つ宗と夕姫。彩華は道路上を外れて違った角度から観察してみたが、それでも有効打の条件は見出せない。
 攻撃を受けた『子亀』は、前方に立つ撃退士たちに赤色の炸裂弾を放った。隊列の只中に着弾し、爆風と破片を撒き散らす敵砲弾。盾でそれを受け凌ぐ勇斗と夕姫。吹き流れる爆煙の中、刀に装備を換えた宗が刀身に輝く白光を纏わせる。
「前進! 敵の進撃を俺たちで遅滞します!」
 騎兵槍を前方へ突き出し、構えた司が、宗、勇斗と共に横列で一斉に亀へ向け突撃していく。それに後続する優と夕姫。突撃支援の援護射撃は、だが、その悉くが風の盾に弾かれる。
 近づくにつれてせり上がるように大きく迫る亀の巨体── 横列の左に位置した司はそれに怯まず、眼前に押し出されてくる亀の右前脚に、その速度と質量ごと槍の穂先を突き入れた。風に鋭鋒を逸らされるのも構わず身体ごとぶつかっていく司。横列右側の宗は敵の左足が踏み出されるタイミングを見極めながら、その身を一歩横へとかわし、流れるような剣戟で眼前の亀の脚から頭部へと切りつける……
「ティアマット! きみも亀の正面に行って!」
 彩華は畑の上で蒼銀竜──ティアマットを召喚すると、前衛をフォローすべく亀正面へと突っ込ませた。
「Kisyaaaaaaaa……!」
「Sigyaaaaaaaa……!」
 一旦、距離を取り、魔具を構え直す勇斗。入れ替わりに飛び込んだ蒼銀竜が、互いに怪音を発しながら真正面から亀とぶつかり合う。
「うぅ…… なんか怪獣大決戦みたいだけど…… 亀よりうちの子の方がカッコいいもん!」
 自身を励ます様に呟く彩華。うん、うちの子の方が格好良いのは間違いない。問題は、どっちが「Kisyaaaaaaaa!」でどっちが「Sigyaaaaaaaaa!」なのかということだけど……

「まるで移動要塞ってやつねぇ…… コレは中々厄介と言わざるを得ないかしら」
 交戦を開始した正面班の奮闘を、身を隠した北側の畑から見やって、卜部 紫亞(ja0256)は半ば呆れた様にそう呟いた。
「硬い上にバリア持ちとか反則なのだわ。ゲームや漫画であれば、バリア解除のイベントとかアイテムとか、どっかに転がっていないかしら……」
 前衛に張り付いた3人と1頭の肉薄により、亀の前進速度は半分以下にまで落ちていた。だが、その進撃は止まらず、繰り出される反撃は、やはり風に阻まれて届かない。
「ただ攻撃していても効果はなし、と…… さて、それじゃあ……」
「はい。予定通り僕たちも参戦しましょう」
 紫亜は草の陰に隠れたまま魔法書を活性化すると、羽をパタパタ羽ばたかせる光の玉を生み出した。翠月もまた魔法書から禍々しい形状の刃を引き出し、見えざるアウルの力によってその切っ先を亀へと向ける。
 ほぼタイミングを同じくして、紫亜と翠月の2人は側面から長距離支援攻撃を開始した。手を振ると同時に高速で飛翔した光弾が風の盾に弾けて散って。再度集まり形を成した後、改めて亀へと突入する。翠月の黒刃もまた中空を飛翔し、子亀の手足に突き入れられたが、同様に阻まれた。跳ね返されてクルクル宙を舞う黒刃を翠月が再掌握し、改めて子亀へ投射する……
 その2人の攻撃を合図に、透次もまた亀へと突進を開始した。走りながら活性化した古刀のボロボロの刃を指で挟み。その刀身に降り積もった歳月をアウルで拭う様に抜き放つ。
 新手による側面攻撃にその砲口を左へ向きかけていた子亀は、新たにこちらへ突進して来る透次の姿を認めて、その砲口をそちらへ向け直した。疾く走る透次を照準し、その砲口に光を湛える子亀。自分を指向する砲口を捉えた透次は、その身をゾクリと震わせ──そのスリルに笑みを浮かべる。
(蒼光──! 序盤からいきなり沈むわけには──!)
 透次はスクールジャケットを犠牲に結界を張ると、限界を超えた爆発的な回避能力で横へと跳んだ。直後、光の奔流と化して放たれた青色怪光線が、透次のいた空間と背後の地面を灼き払う。
「ハ……ッ!」
 それを見ずに背で感じて、透次の口から哄笑の端が漏れた。──亀との戦いはこれで二度目。情報を得た今もなお、あの敵は自分をゾクゾクとさせてくれる……!

 子亀の砲口が北に向いたことを確認して── 南側に隠れていた撃退士たちは亀への移動を開始した。
「さて、役に立てるか分からないが、出来る限りの事はさせてもらいますか……」
 いつでも火をつけられるように煙草を口に咥えながら、うつ伏せから身を起こすジェームス。縁は草原を揺らす風が吹きなびく様を意識しながら、陽花と共に草の間を中腰で走り抜けていく……
「どんなに硬かろうが、敵ならば砕き、屠る…… ただそれだけの事」
 中津 謳華(ja4212)もまた、別の角度から亀への突進を開始していた。確かに風の盾は厄介だが、『穴』は万物に必ず存在する。度合いの大小あれど、そこに例外はない。
「怨 南牟 多律 菩律 覇羅菩律 瑳僅瞑 瑳僅瞑 汰羅裟陀 櫻閻毘 蘇婆訶!」
 走りながら魔王尊式真言咒、荒野鬼神四肢招来之法を唱える謳華。覚醒と彼の身の周囲に逆巻くはずの黒焔は噴出せず、体内に荒神の力を宿してその瞳を緋に染める……
「ん、今だよ、スレイプニル! あの前足の突起を狙って『サンダーボルト』!」
 陽花はその足を止めて馬竜──スレイプニルを召喚すると、電光による攻撃を── 風の盾の内部へ抜ける直線攻撃の指示を出した。前衛、司が牽制する親亀右前足の真横から馬竜が嘶きと共に雷光を吐き出し── 放たれた稲妻は風の盾を越え、亀右前足に生えた角状突起物を貫き、突き抜ける。
 瞬間、陽花の眼前で風の盾が明滅するように消え。畑の上を滑り込む様に膝射姿勢を取った縁が、構えた火炎放射器から『ナパームショット』を撃ち放つ。
「……季節はずれの台風は、お呼びじゃないよ!」
 間髪入れぬその攻撃に、風の盾は── 展開されなかった。甲羅の上に着弾した爆炎が爆発的に膨張し。だが、さらに内部で展開された風の盾がその奔流の伝播をせき止める。逆流し、炎の竜と化して外へと噴き出す爆炎の渦。その地獄の様な光景をスペクタクルに見上げながら、ジェームスは亀への接近を続け…… コート内側から取り出したヒヒイロカネを二挺拳銃に活性化すると、その銃口を亀へと突き出し、立て続けに発砲した。照準するは皆と同じく親亀右前肢の突起物。リズミカルに引き金を引きながらアウルの銃弾を連続して浴びせかけ、突起にダメージを与え続ける事で風力の減衰を維持・持続させようとする。
「ぬぅん……っ!」
 風の盾が弱まった事を確認すると、謳華は流れるような足運びでフェイントを二度挟み、地を蹴り、跳躍してその膝を突起に叩きつけた。立て続けに多重攻撃を喰らった突起物は、その衝撃を『徹した』重い一撃に耐え切れず、ピシリ、と音を立ててヒビを入れる。クルリと身を翻し、両腕を組んだ姿勢で着地する謳華。そこへ続けて夕姫の銃撃が撃ち放たれ…… その一撃は、ヒビの入った突起物の上半分を砕き、その破片を宙へと舞い上がらせる。
 貫通攻撃による多重連続攻撃── それが撃退士たちの本命だった。そして、その本命の攻撃は、亀たちの不意をついた左翼班だけの攻撃に留まらない。
「勇斗、伏せいや!」
 背後から聞こえたその叫びに、勇斗がその膝をつく。その背後から走り寄ってきた優がその背を飛び越え…… 跳躍と同時に振り抜かれた拳から無数の蒼い光線が撃ち放たれた。その光の束は互いに絡み合うようにしながら一つの奔流となり、天を飛翔する龍が如く敵頭部の風の盾を食い破る。
「蒼帝光臨波や! まずはそのそのうざったい風、ブチ抜いたるわ!」
 優の叫びと共に弱まる頭部の風の盾。それを視界に捉えた宗は、敵左前脚部への突進を取り止め、1歩横へと飛び退きながらその身を回転させるように突き出した刀身を亀の頭部へと突き入れた。その風の如き一撃によって、ハンマーの様に分厚い亀の岩状の額に一筋の亀裂が入り、深く鋭利な傷が深くその額に刻まれる。
「行け、ティアマット! 『サンダーボルト』!」
 と、それとほぼ同時に、前衛のローテーションで畑側へと下がっていた蒼銀竜が、彩華の指示に従って嬉々として敵に稲妻を吐き掛けた。宗の背後を迸り抜けていく雷の奔流── その雷撃は亀の左前方側から中央に向かって斜めに親亀を貫き、それに沿って風の盾が切り裂かれるように一時霧散する。
 その一連の攻撃に、北側の撃退士たちも呼応した。
 亀が纏う風の盾が確かに弱まるのを見た透次は、回避行動を取りながらその武装をPDWへと変更。親亀の甲羅の上に乗る子亀に向けてアウルの銃弾を連射した。一方、支援射撃に徹していた紫亜はスッとその姿勢を下げ、地に片手と片膝をついた姿勢で『瞬間移動』を用いて一気に彼我の距離を跳躍した。
 亀左側の風の盾に『阻まれる』透次の着弾。一方、亀が反応する間もなく『瞬間移動』した紫亜は、片膝立ちの姿勢のまま親亀の背中の上へと舞い降りた。すぐ横には、透次を照準する子亀の『横顔』。慌てて転回しようとする子亀より早く、紫亜がその手の平を子亀へと向ける。
 紫亜が宙に描き出した円の中から、爆発的に湧き出す無数の白い腕。それは子亀を飲み込む濁流の如く。子亀に絡みついてその身を縛る。
 身動きの取れなくなった子亀に対して、紫亜はアウルの力を煌かせた指先を、横から亀の砲身に向けた。直後、指先から放たれる漆黒の雷撃。その一撃でヒビの入った砲身に更に雷を打ち据える。
「こちらを甘く見たわねぇ…… さぁ、お仕置きの時間なのだわ」
 攻撃を加えながらスッと目を細くする紫亜に、白い腕を掻き分けるようにして拘束を解いた子亀が砲口を向ける。射線から身を逸らそうとした紫亜は、だが、右の足を取られてガクリとその身をつんのめらせた。見れば、粘着状の何かが紫亜の足元に絡み付いていた。──甲羅の上をぺたぺた這い回る子亀の手。そこに拘束攻撃の手段が仕込まれていたか。
 カッ! と砲口から青色怪光線が迸る。その一撃を、紫亜はダアトの魔法防御力で受け凌いだ。
 だが、直後に放たれた赤色炸裂弾は防げなかった。爆風が紫亜を甲羅上から吹き飛ばし── 落下して気を失った紫亜に慌てて敬一が走り寄る。
「卜部さんっ!?」
 その光景を見た翠月は、『ヘルゴート』で己の魔力を底上げすると、体内を渦巻くアウルの魔力の勢いもそのままに、書より闇の刃を生み出した。回復する敬一を支援する為に子亀へ次々と投射する。だが、その攻撃は、透次の弾丸と同様、亀左側の風に阻まれる。
「……っ!」
 子亀の砲塔が紫亜たちの方に向くのを見て、翠月は一気に距離を詰めた。そして、風の盾を破るべく『DDD』による一撃を放つ。
 その一撃が風の盾──対抗スキルを破るのを翠月は確かに見た。だが、直後に発現した新たな風の盾──新たな対抗スキルが追撃を防ぐのも見た。直後、牽制の為に放たれた2頭の召喚獣の『ボルケーノ』。亀上空で炸裂した2つの爆炎は、だが、復帰した風の盾に阻まれて亀本体まで届かない。
「(各スクエアに一つずつ生えた)9つの突起物がそれぞれ区画防御を担当しているのか……」
「突起物に傷を与えても、次の攻撃(次ターン)までに風の盾が復活するのね…… つまり、弱まった直後かほぼ同時で無いと、その内部は直撃できない」
 一旦、距離を取って下がった宗が、夕姫と共に得られた情報を整理した。紫亜の回復を続ける敬一と、それを援護する翠月。そちらから注意を逸らすべく、透次が回避運動を取りながら弾幕を子亀に撃ちまくる……
「でも、突起物が砕けた亀の右前脚は、風の盾が復活していないよ。自己回復能力もないみたいだし、ダメージを蓄積していけば砕けるよ!」
 皆を励ますように叫ぶ彩華。風の盾さえ消してしまえば、どんなに頑丈な暴風亀と言えども攻撃によるダメージの蓄積は防ぎようがなくなる。
「陽花、亀の突起物に対する貫通攻撃をお願い。縁、風が弱まった隙を同時に多段攻撃で狙うわよ」
 夕姫はその武装を銃から虹のリングへと変更すると、守りの『防壁陣』を捨てて攻めの『神輝掌』へと転換した。
 頷き、火炎放射器をギュッと握り締める縁。陽花もまた頷いた。精密な照準が必要であるものの、1回の直線攻撃で上手く複数の突起を捉えられれば。縁や皆の範囲攻撃で纏めてダメージが徹るはず……


 敬一の治療を受けた紫亜が意識を覚醒した時、戦場は既に市街地の入り口近くに達していた。
 ここまでに破壊できた突起は4つ。右前足、頭部、中央、左前足の4箇所が風の守りを失っていた。攻撃機会の多い正面の鎧をようやく引っぺがしたといった所か。この時点で残された貫通攻撃は殆ど無い。
「……ここまで押し込まれたら、半分負けているようなものよねぇ…… なんとか逆転できないかしら……?」
 紫亜は敬一に礼を言うと、再び書を手に取って立ち上がる。
「いずれにせよ、できることを全力で叩き込むだけだ」
 そう言って進むは謳華。既に鬼神招来の効果も切れたが、まだその気力は漲っている。

「幾ら頑丈に出来ていたって、壊せないはずはないよね……!」
「どんなに硬くたって、一点を狙い続ければ……!」
 ただひたすらに前進を続ける亀に対して、縁と陽花の二人は連携しての攻撃を続けていた。
 狙うのはただ一点。風の盾を失い、自己回復能力も無い甲羅の部分だ。肉薄して『火炎』を浴びせかける縁。時折、子亀の砲撃を泥塗れになりながら耐え忍び…… そこへ馬竜に跨った陽花が上空から突っ込みながら、斧槍による一撃離脱をただひたすらに打ち続ける。
(とは言え、流石に手が痛いけど……)
 真っ赤に腫れた手を見やって、涙目で呟く陽花。勇斗と共に前衛で敵の進撃を抑え続けてきた司は、瞬発的に伸びてきた噛みつきを槍を横にして受け凌ぎ…… その得物がミシリ、と嫌な音を立てるのを聞いて、慌てて活性化を解除。後方へと弾き飛ばされながら地を転がり、再び槍を活性化してその頭部へと向き直る。
「調子のりよって! 今、その頭、カチ割ったるで!」
 その司と入れ替わるように前へと出た優は、亀の頭に向かってダンッ、と一歩踏み込むと、その掌底で打ち上げるようにして亀の顎へと打ち込んだ。ガンッ、と跳ね上げられる亀の首。落ちてくるところへ足を踏み締め、肩からの肘打ちでその頭を吹き飛ばし。だが、その首を甲羅に引っ込めて衝撃を吸収した亀は、バネが弾ける様な一撃で優を後ろへと吹き飛ばし。そこへ亀の頭が打ち下ろされるのを、彩華がティアマトに受け止めさせる……
「いやぁ、若いのにばかり頑張って貰っちゃって、おじさん、情けないなぁ……」
 敵との距離を保ち、最大射程から速射を続けるジェームスがそう呟き。そんな事はないよ、と縁が励ましの声をかけた。あの風の盾さえない箇所ならば、攻撃を当てさえすればダメージは与えられる。あそこまで硬いと与える値に大きな差はなく、ジェームスの攻撃も立派なダメージソースだ。
(とは言え、このままだと……)
 縁は焦りを押し殺しながら、進む亀を振り返った。前回の戦闘で、確かに自分の一撃は風の盾を越えたのだ。あの時、自分は何をした……? 抜けた時の共通点は何なのか……?
「御神、代わるよ」
「ありがてえ」
 『剣魂』で自己回復を終えた司が、優に代わって再び亀の前に出る。
 敵は既に、市中を流れる川にまで達していた。

 橋の袂の分かれ道に差し掛かった親亀は、そこで大きくその首を伸ばした。……橋を渡れば避難途中の人々の集合場所。道を曲がり、川沿いに進めば撃退署の前に出る。
 道を確認した親亀は…… その巨体を旋回させ、撃退署方面へと進路を変えた。
「やはり拠点破壊が目的ね……」
 夕姫は眉をひそめた。途中でも道を確認していた事から、固定目標の破壊が目的だとは思っていた。目的地に辿り着いたら後は範囲攻撃か、或いは自爆での大規模破壊か……
 そんな亀の進撃を、紫亜は雑居ビルの上から見下ろしていた。その隣りには同じ子亀対応班の翠月。……実は、直線攻撃の集中砲火を放った際、親亀の突起物で一番最初に壊れたのが、前後左右から直線攻撃を撃ち込まれ、ダメージが集中した中央部の突起物だった。だだっ広い畑では、この中央部を攻撃する術がなかった。だが、この市街地には高所を取れる場所がたくさんある。
 紫亜の意図を了解し、『ヘルゴート』からの火力を撃ち下ろす翠月。上部の盾を失った子亀に、それを防ぐ事は出来なかった。黒い刃に腕の一つを甲羅に縫い付けられ、悶絶した様に震える子亀。そこへ前方から走り寄ってきた宗がその勢いもそのままに『壁走り』でビルの『壁面を』駆け上がり…… 子亀と同じ高さから取っておきの『火遁・火蛇』の炎を放った。一直線に宙を走った炎が子亀を貫き、その背後、左斜め後方の突起物をも吹き飛ばす。
 そのままビルの上へと駆け上がった宗は、そこでクルリと一回転。バク中を決めながら甲羅の上へと舞い降りた。膝を落として衝撃を吸収しつつ、子亀が振り返るより早くその身を転回させて白刃を振るう宗。血飛沫が舞い、斬り飛ばされた左の腕が空に舞う。
 四肢の半分を失った子亀は甲羅の上からずり落ち、半壊した突起の1つに引っかかってぶら下がった。『瞬間移動』でビルの上から瞬時に移動して来た紫亜は、その子亀を無感動に下へと蹴り落とす。地面に落ちた子亀は、もうまともに動く事も出来なかった。ジェームスが引っくり返った子亀の腹にアウルの銃弾を叩き込み、その沈黙を確認する。
「子亀がいなくなれば、後は硬いだけの亀さんだよ! 近接は怖いけど、それ以外は!」
 その陽花の視線の先で、『溝の深い甲羅』の一つが、ある種のVLS──ミサイルの垂直発射装置の様にパカリと開き…… まるで火山の噴火の様に、何かを上空へと打ち上げた。それを追ってはたと視線を上げる陽花。射出高度の頂点に達したそれはまさに『火山弾』とも言うべき姿で。上昇から下降へとゆっくりと移り変わったそれは、自然の摂理、重力に従って地面へと落下していく……
「っ! 逃げて!」
 陽花の警告の叫びに、撃退士たちは慌てて落下点から退避した。その『着弾』と同時に、広範囲、高威力の爆炎が爆発的に燃え広がる。
「着弾が遅い(次ターン)巨大爆弾ってとこ? まさか、あんなのが甲羅の模様の数だけ残ってるの!?」
 降りかかる砂塵に頭をぷるぷる振りながら、驚きの声を上げる縁。やはり、と夕姫は呟いた。あれだけの火力を腹に抱えているのなら、最期の手段は自爆と言う事も十分あり得る。
「させないんだよ!」
 火炎を浴びせかける縁の攻撃によって、遂にひび割れ、砕ける甲羅。その隙間から、ゴロリと転がり落ちてくる火山弾。瞬き一つの後、慌てて撃退士たちが退避した後、巨大な爆発が周囲に炎を撒き散らす。
 その炎の中でも悠々とした姿を見せる親亀の周囲で、今度は轟々という音と共に暴風が湧き起こる。
 槍を地面に突き立ててその風に対抗しながら、司は「まずい……!」と目を細めた。敵は浮遊移動で突破する気だ。もし、連続で使用されれば、全力移動で追いつく事はできても、まともに戦闘は行えまい……
 砂塵舞う暴風をやり過ごし…… 司は向かい風に力を込めると、接近して『ウェポンバッシュ』による一撃を横殴りに敵に加えた。重量級故に無効化されてきたノックバックは、だが、浮遊中であるが故に、いとも容易く流された。空の駐車場を横滑りで通り過ぎ、小さな川原へ落ちる亀。再び浮遊移動を使用して道に戻ろうとした亀は、だが、浮遊しかけたところで勇斗の『シールドバッシュ』に無効化され、霧散した風と共に地に落ちる。
「これが最後のチャンスです。……攻撃箇所の集中を!」
 川原の斜面を駆け下りながら叫ぶ透次。親亀が首と尻尾を最大限に伸ばして薙ぎ払い、撃退士の接近を牽制する。
「勇斗! 一旦、力を練るさかい、援護頼むわ!」
「勇斗さん! ティアマットの天の力を使用して攻撃に集中します。ダメージも増えちゃうので、防御、お願いします!」
 四門を開放して能力を高める優と、ティアマットの光の属性値強化する彩華。勇斗はその2人の間に入り、『庇護の翼』の連続使用で親亀の薙ぎ払いから左右の2人を守り切る……
「いい加減…… これで吹き飛びなさい!」
 夕姫はその頭部が元へと縮む瞬間を狙って5連の光弾を撃ち放つと、その後を追う様に突進し着弾直後の頭部へと肉薄。亀の喉元に捻りこむ様に、光り輝く拳を打ち上げた。がはっ、と言わんばかりに大口を開けて仰け反る亀の頭部。そこに駆けつけて来た透次は、それまでの流れからその攻撃を集中するターゲットを亀の頭部へと決めた。亀左側から走り寄り、その紅の鎖、『紅爪』によって、だらしなく開いた亀の下顎を大地へと縫い付ける。
「むぅん、はあ……!」
 その反対側、右側から走り寄って来た謳歌が、猛禽の如き最短の動きで突き出したその肘で、親亀の左の目──宝石状の硬いそれ──を打ち貫く。『紅爪』を放ち終えた透次は、走りの余勢を駆って亀の側まで肉薄すると、靴底を滑らせながら巨大なガトリングガンを亀右側の目へと向けた。回転する多重砲身。そこから炎の舌を伸ばしながら、近接火器が夥しい数の弾丸を高速で吐き出し、見る間にも亀の岩状の頭部を削り取っていく。
「助かったで、勇斗! おおきにな!」
「ありがとうございます、勇斗さん。さぁて、やっちゃえ、ティアマット! ドラゴンの女神の名を冠しているのは、伊達じゃないんだから!」
 四門を開放し、肉体のリミッターを外して一撃に全てをかけた優が、その王道、再びの『玄帝剛掌破』でもって亀の頭部を打ち上げた。そこへ飛びかかっていく彩華のティアマット。既に虫の息の亀の顎を上下に蒼銀竜が掴み…… グシャリ、と頭部を潰されて、件の暴風亀は沈黙。二度と起き上がることはなかった。


 市街地で擱座した親亀を取り囲んで警戒を続けていた学園の撃退士たちは、駆けつけて来た撃退署の署員に任を引き継ぎ、そこでようやくお役御免となった。
「ようやっと終わったな…… ほな、みな、おつかれさーん」
「みなさん、お疲れ様でした!」
 優と勇斗が片手を上げてハイタッチを交わしたのを契機に、彩華を始め応じた者たちがそれぞれに手を打ち鳴らす。
「とりあえず、敵の意図は挫けたみたいね。市街地には入られてしまったけど……」
「これで、こちらの方は一段落ですね。……後は早めに悠奈ちゃんと連絡を取り合ってくださいね」
 陽花、縁と共にやって来た夕姫が微笑と嘆息を同時に吐き出し、司がそう言いながら傍らの勇斗に視線を向ける。
 その時にはもう、勇斗はスマホで悠奈に電話を掛けていた。司は目を瞠りつつ、苦笑と共にその場を去る。
「勇斗君が戻れない間は、自分たちや友人たちが悠奈ちゃんについている。でも、戻ってあげた時は…… いつも通りに接してあげてね。……悠奈ちゃんの家族は勇斗君だけ。それだけは君にしかできないことだから」
 悠奈への連絡を終えた勇斗に、縁がそう微笑みかける。
 陽花はそれに頷きながら…… 疲れ切った様子で、勇斗の背にしなだれかかった。

「それにしても、これ…… 後始末はどうするのかしらねぇ……」
 擱座した親亀の死骸を振り仰ぎながら、最後に紫亜が呟いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

原罪の魔女・
卜部 紫亞(ja0256)

卒業 女 ダアト
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
撃退士・
御神 優(jb3561)

大学部3年306組 男 阿修羅
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
撃退士・
ジェームス=マイヤーズ(jb8683)

大学部7年179組 男 インフィルトレイター