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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/12/31


みんなの思い出



オープニング

 妹の悠奈にどうやら気になる異性が出きたらしい──
 複数の友人たちからそのような内容のメールが送られて来て。榊勇斗はそれを見た瞬間、任地の食堂で思わず、口にした茶を盛大に噴き出した。
 その行為に悲鳴を上げた級友の恩田敬一に謝りながら台布巾で卓上を拭き、後始末。暫し、沈黙した後に、敬一に話題を振る。
「これ皆の気のせいだよな? 悠奈に恋とかまだ早いよな?」
「落ち着けよ、『お兄ちゃん』。悠奈ちゃんも来年は14だろ? 別に早いってことはないじゃないか」
「いや、しかしだな、悠奈はまだ学生であって…… 異性とお付き合いとかそういうのは、兄としてまだ認めるわけにはいかないというか……」
「だから、落ち着け。別に恋人が出来たとかいう話じゃないだろう」
 完全にテンパった勇斗を、敬一は苦笑と共に見返した。普段は落ち着いた印象の勇斗がこうも取り乱すとは。意外な一面………… でもないか。ってか、完全に予想の範囲内だ、コレ。
「別に普通だろ? お前だって悠奈ちゃんくらいの頃には、クラスに気になる女子くらいいただろう」
 どこかからかう様な口調で敬一が言うと、勇斗はピタリと動きを止めた。
「……おい、榊。……マジか?」
「……いや、普通に異性には興味があったとは思うんだが…… 告白とか、恋人とか、そういう発想はなかったわ」
 ──今から12年前。悠奈が物心つく前に、両親は、恐らくは天魔によるものと思しき事件に巻き込まれて死んだ。当時、幼かった勇斗が覚えているのは、夕焼けに染まった団地の我が家── そして、両親とはもう会えないのだというおぼろげな確信と、これから先、妹は自分が守っていかねばならないという漠然とした使命感だけだった。
 中学校に通っていた時も、どうしたら妹を連れて叔父夫婦の家を出て行けるか、出て行った後の生活基盤はどうするか── そんな事ばかり考えていた気がする。同年代の級友たちが熱中していた遊びも、部活も、恋愛も、当時の勇斗にとっては二の次だった。
「俺も三人兄妹の真ん中で、悠奈ちゃんと同い年の妹はいるけど、そういう心配はしたことがないなぁ。まぁ、お前んとこは、榊が悠奈ちゃんの親代わり、みたいなとこはあるんだろうけど……」

 以来、勇斗はそわそわと落ち着かない様子で、友人たちから送られてくる情報を待つようになった。食前、食後、就寝前、哨戒任務中の小休止── 時間があればスマホに手を伸ばし、その内容に一々憂いたりホッとしたりする。
 そんな『微笑ましい情景』(敬一談)が一変する情報が届いたのは、とある哨戒任務に出発する直前のことだった。
「藤代徹汰── 悠奈ちゃんのボーイフレンドは、学園に所属するはぐれ天魔ではなく…… 天界に所属する天使──『敵』であることが判明しました」
 送られてきたメールには、それまでのメールにあった冷やかし交じりの文体ではなく、真摯に事実のみがそう記されていた。
 徹汰がなぜ学園の制服を着ていたのか。なぜ悠奈に近づいたのか── 詳しい経緯は分からない。おそらく、学生のフリをして何かをしようとしていたのだろう。
 だが、勇斗にとって、そんな事はどうでもよかった。表面上、皆の前で気丈に振舞ってはいるものの、落胆し、悲嘆にくれているのは明らかだ── メールには、事件後の悠奈の様子について、そう記されていた。
「……これが俺の選んだ道か」
 勇斗はそう嘆息した。
 この無慈悲な世界── 天魔の侵攻を受けるこの世の中にあってなお、兄妹二人で生き延びられるよう、妹を守っていけるだけの力を求めて、天魔との戦いの道を選んだ。だが、その結果、妹が最も自分を必要としているであろう時に、側にいてやる事もできない。今もあの広いマンション寮の部屋で一人、泣いているであろう悠奈を残し、自分はこの遠く離れた北の大地で、顔も知らない誰かの為に天魔と戦い続けている……
「戻ってもいいんだぜ?」
 集まった学生たちに号令をかけつつ、勇斗を振り返った敬一が言う。だが、勇斗は暫し沈黙した後、力なく首を横に振った。
 本音では、今すぐ契約を破棄してでも悠奈の元へと戻りたかった。だが、兄の勇斗が任務を放り出し、戦友たちを戦場に残して学園へ帰還すれば、恐らく、悠奈はその要因となった自分自身を責めるだろう。そして、なにより── 勇斗自身が、後々、自分自身を許せなくなる。
 敬一は何か言いたげに、だが何も言わずに微笑して。勇斗の肩をポンと叩くと隊列の先頭へと歩いていった。
 勇斗は無言でスマホを仕舞った。悠奈へのメールは後だ。心配で心配で仕方が無いが、今はこの任務を終えることだけを考える。

 哨戒中の各班に、撃退署の本部から大型の亀型ディアボロの出現が報せられたのは、屯所への帰途、道すがらのことだった。
 最後の目撃地点から最も近い場所にいたのが、勇斗たちの班だった。勇斗は敬一と無言で視線を交わすと、敵の進路、○○号線の先へと駆け足で回り込む。
 塹壕代わりに潜んだ畑の土くれの陰から鏡を出し、道路上を近づいて来る巨大亀型ディアボロの様子を窺う。
 『ソレ』は二車線を丸々塞ぐほどに大きな、全長6mにも及ぶ敵だった。オリーブドラブ色の滑らかな甲羅の中から、岩の様な質感の野太い四肢が左右に二本ずつ生えている。前後の首と尻尾は同様に野太いものの、こちらはどこか柔軟性がありそうな皮膚であり。だが、その首の先に頭部自体は、まるでヘルメットかある種の巨大なハンマーの様に硬質な外観をしている。四肢と甲羅の上には鋭い角状の突起物が複数。なぜか、その間を時折、風が渡るような低い音が通り、不気味な『唸り声』を周囲へ響き渡らせている。
 そして、何より目を惹くのは── その『親亀』の背に乗った二匹の『子亀』だ。大きさは2m程。溝の彫りの深い甲羅の左右には『人間の腕』状の四肢が生えていて、『親亀』の甲羅にぺたぺた張り付いたり、角状突起を掴んだりしながら『親亀』上を移動。頭部はなく、その代わりに何か『砲』の様な短い突起物が怪しげに突き出している……
「哨戒班より本部。亀型は依然、時速7km程度で○○号線上を進攻中。このまま進攻すれば○○町内へ突入の恐れあり。住人の避難、および討伐隊編成の要ありと認む」
 勇斗が無線機でそう進言しがた、現地を管轄する撃退署の本部は暫し、応答を返せなかった。待つこと暫し。喧騒に包まれた様子の撃退署からようやく返事が来る。
「本部より哨戒班。当署は住民の避難誘導で手一杯だ。。即応部隊を編成する人員を確保できない。哨戒班独力による脅威の排除は不可能か?」
 勇斗は思わず通信機を耳から放し、レシーバーを見返した。
「……危険が大きすぎる。相手はデカブツで、しかも、恐らくは戦闘特化型。何より、撃破するには情報が少なすぎる」
 無茶言うなと言外に含んで返答すると、通信機の向こうの署員はあっけなく了承した。恐らくあちらも言ってみただけ、という気分ではあったのだろう。
「では、貴班には住民の避難が完了するまでの遅滞戦闘をお願いする。討伐隊は学園に派遣を要請する。それまで、出来うる限りの情報を集めてくれ」
 通信が終わると、敬一は笑って「逃げてもバチは当たらんと思うぞ」と冗談交じりに苦笑した。
 勇斗は肩を竦めて、笑った。
「そういうわけにもいかないだろ。僕らが逃げれば、人々に要らぬ被害が出る」


リプレイ本文

「……悠奈ちゃんのこと、聞きました。元気の無い彼女を見ると、私も、その、心配で……」
 状況開始の少し前──
 進行する亀型の進路上に回り込むべく、森の中を急ぎながら── 竜見彩華(jb4626)は傍らの勇斗にそう声をかけた。
 勇斗は微笑を浮かべ、ありがとう、と礼を言った。これからも悠奈の事を、友人として気にかけてくれるとありがたい。
「でも、今は…… あの亀型を何とかしなければ」
 表情を引き締め、告げる勇斗。月詠 神削(ja5265)は頷いた。
(一般人が優先…… 解っているじゃないか)
 ──亀の進路上には町。避難は完了していない。遅滞戦闘を行うにも敵の情報は無きに等しく、その任に堪え得るだけの戦力が自分たちにあるかも分からない。
 故に、勇斗は妹の元には戻らず、貴重な戦力としてここに残った。……後輩が気を張っているのだ。自分もしっかり頑張らないと。
(悠奈ちゃんのこと、本当は気になって気になってしょうがないはずなのに。なのに、自分の責務をしっかり果たして……)
 やっぱり強いな、と葛城 縁(jb1826)は勇斗を見た。ちゃんと男の子してるんだね、と優しい微笑でそう思う。
「……よぉーし! 勇斗君が早く悠奈ちゃんの元へ帰れるように、おねーちゃんたちも頑張らないとだね!」
「そうね。今は出来うる限りの情報を集めて、本部が対策を立てられるようにしないと…… 悠奈ちゃんのことはそれが終わってから話しましょう」
 改めて気合を入れる縁の横で、月影 夕姫(jb1569)が励ますように勇斗の背をポンと叩く。
「……でも、困った時はちゃんと私たちに相談してね。何でもかんでも一人で抱え込まないでいいんだからね」
 彩咲・陽花(jb1871)が振り返って心配そうにそう言った。……勇斗は悠奈の事で悩んでいる。それが焦りに繋がらなければよいのだが……

 撃退士たちが辿り着いた襲撃予定地点── そこは道沿いの森が少し開けた場所だった。道の北側には雑草まみれの畑が広がり、南側には閉鎖された直売所の建物と砂利敷きの駐車スペースが広がっている。
「『ジークフリート線』はここか…… なら、易々と抜かれる訳にもいかないわね」
「東の小川が『ライン川』、ですか? 確かに洗濯日和ではありますけど」
 戦場を見渡し、皮肉気に苦笑する常木 黎(ja0718)に、敬一がそんな事を言い。黎は「お、いけるクチ?」と笑いながら、縁、陽花、彩華と共に、北側の畑に身を伏せ、隠れる。
「勇斗くん。初めは防御重視。情報収集も兼ねて敵の初撃は受け流すわよ」
 道路上に進入しつつ、傍らの勇斗に告げる夕姫。その反対側には大鎌を一振りした神削が陣取り。その3人の支援に敬一が後衛に入る。
 一方、南側の建物の陰には、御神 優(jb3561)と陽波 透次(ja0280)の2人が伏撃の為に潜伏した。
「人数足らんからわいら2人だけで追い込みをかけなならんとか…… マジで勘弁して欲しい状況やな」
 外の様子を窺いながら、愚痴を零す優。透次は「確かに」と頷いた。敵はどんな強力な攻撃をして来るかも分からない。下手をしたら一撃で死ぬかもしれない。
 そう思った瞬間、ブルリと震える透次の身体。その表情には、しかし、(未知の敵とか、スリル過ぎる……!)と、恐怖ではなく、愉悦が浮かんでいる。
「……敵に突進する時には、僕が先頭に立ちます。御神さんは少し遅れて、後からついて来てください」
「……ありがとな、陽波はん」
 涙を隠し、遠い目で空を見上げる優。攻めは強いが守りはあかん── そんな自分の為に、透次は囮を買って出てくれている……


「敵亀型、視認しました。進路変わらず。敵速に変化なければ2分後に接触します」
 召喚したヒリュウをもふっと抱き締めた後、両手で空へと上げ放ち── 必死でぱたぱた羽ばたくそれと感覚を共有した彩華が、迫り来る亀型を見つけて皆にそう報告した。
 道路上、緩やかなカーブを越えて姿を現す親子亀── それを確認した神削と勇斗は、それぞれ『挑発』と『タウント』で敵の注意を惹こうとする。
 亀の歩みは変わらなかった。気付いているのかいないのか、或いは、あれが最高速か…… 頷き、魔具を大剣へと変更して構える神削。その横で、夕姫が右手を亀へと突き出しながら、5連の指輪から生み出した5つの光弾を立て続けに投射する。
 アウルの光弾は親亀の四肢関節、首、頭へと飛び、命中しては次々と弾けて散った。見た目通り、四肢も頭も硬いみたいね…… と、半ば呆れながら夕姫が呟く。
 反撃が来た。親亀の上に乗る2体の子亀が甲羅をぺたぺた前へと進み、砲口に赤光を灯して放つ2発の炸裂弾。それは盾と大剣を構えた撃退士たちの只中に着弾すると、周囲に礫と爆風とを撒き散らした。その爆煙の中から飛び出し、大剣を打ち下ろす神削。敵を誘引すべく北側へと回り込むも、親亀はそれを無視するようにひたすら前へと進み続ける……
「……子亀はやはり砲だったな。あの気持ち悪い四肢で甲羅の上を自由に行き来し、砲塔の役割を果たしている」
「親亀の進路、進行速度、共に変化なしですね…… 戦闘よりも前進が優先なのかも」
 一方、戦闘を開始したA班と亀の戦いを、畑に伏せたB班はじっと観察し続けていた。黎は土塁の陰から手鏡で様子を窺い、彩華はヒリュウの視界を通じて、別角度からそれを見下ろす。
 戦場では、親亀がその首を伸ばし、その硬いハンマー状の頭部でもって、前方を扇状に薙ぎ払っていた。その一撃を、神削たちは避けずに魔具で受け凌いだ。回避する事もできたが、その拍子に敵の突破を許してしまう恐れもある。進路は塞ぎ続けなければ。最悪でも、一般人の元へは向かわせない……!
 正面との接敵により、亀の前進速度は大きく低下を余儀なくされた。それは即ち、北側からの『陽動攻撃』を仕掛けるタイミングでもあった。
「待ってました、だよ。行くよ、陽花さん!」
「ん。おいで、スレイプニル! 縁に合わせて、派手に行くんだよー!」
 縁は陽花と頷き合うと、散弾銃を活性化しつつ畑の『塹壕』から飛び出した。お百姓さん、ごめんなさいー! と叫びながら雑草だらけの畑を突っ切る縁。その後方を、馬竜──スレイプニルを召喚した陽花が共に続く。
 黎もまたうつぶせに転がると、畝の上に左腕で保持した突撃銃を乗せ、支援射撃を行った。狙うは親亀の頭部。装甲化できないはずの眼窩── リズミカルな銃声と共に閃光が銃口から迸り、放たれたアウルの銃弾が立て続けに親亀の頭部に弾け飛ぶ。
 キィン、と甲高い音がして、黎は銃床から頬を離した。……なんだ? 当たっていないのか……? 今のは眼球に叩き込んでやったと思ったのに……
「これなら、どうかな……!」
「スレイプニル!」
 亀の側方6mまで距離を詰めた縁が、親亀の後肢に銃口を向けて腰溜めに『ナパームショット』を放った。着弾し、爆発的に燃え広がる炎の渦。同時に馬竜が放った『ボルケーノ』が亀の上部で炸裂し、衝撃が周囲の空気を震わせて陽花の巫女服をはためかせる。
「……っ!? 今のは……」
 その様子をヒリュウで上から観察していた彩華は驚いた。縁と陽花の攻撃が亀に当たる直前、何かに阻まれたように見えたのだ。
 案の定、爆煙が晴れた時、亀の甲羅には傷一つついてはいなかった。亀の周りを吹き荒ぶ魔法の風が、撃退士の攻撃を『受け』ていたのだ。驚くべきはその能力。元から甲羅も硬いのだろうが、普通、撃退士が攻撃すれば傷(1d6)くらいはつけられるのだが……
「……見つかった」
「え?」
 照準越しに子亀の砲口がこちらに指向するのに気付いて、黎は傍らの彩華の肩をポンと叩くと、ここから離れるように言いながらゴロゴロと地面を転がった。ええーっ!? と悲鳴を上げながらわたわたと駆け去る彩華。直後、蒼い光を讃えた子亀の砲口から青色怪光線が迸り、畑に設けられた小さな土塁を直線状に消し飛ばす。
「縁、下がって!」
 光線は、別の1匹によって縁と陽花たちにも放たれていた。飛び乗った馬竜から眼下を見下ろし、叫ぶ陽花。熱量に身を焼かれた縁が傍らの水路に転げ落ち。泥塗れになりながらも涙目で水路の底を這い進んで位置を変える……

「行くでっ、陽波はん!」
 子亀がB班に喰いついたのを確認して── 南側に潜んでいた優と透次は一気に建物の陰から踊り出した。優の前に出て加速し始める透次。気付いた子亀の1体が、『人の腕』でもう1体の『肩』を叩いてそれを報せる。
「危険は…… 快感だ──ッ!」
 砲口がこちらに指向するのを見て、透次はその身を横へと転がし。直後、放たれた青光が直線状に薙いで砂利をガラスへと溶融する。
「こうなりゃ自棄や! 思いっきりどつき倒したるわい!」
 その隙に、一気に亀へと接近した優が親亀の足元へと肉薄し。『白帝戦吼撃』──突き上げるような掌底で親亀の前肢を打ち上げた。相手に後退を強いる轟撃もデカブツ相手には通じない。だが、上げた足の1本を掬うくらいの事なら出来る。
「今や!」
 優の合図に応じて、透次は『紅爪』──鉤爪付きの鎖を投射した。打ち上げられたままの脚に絡まり、拘束していく鎖の群れ。赤く紅に発行する鎖に地面へ縫い付けられて、初めて亀が歩みを止める。
 優は体勢の開いたその亀の腹に肉薄すると、低い姿勢から伸び上がるようにその拳を突き上げた。腹なら柔らかいかもしれない── だが、その一撃も『風』によって阻まれる。
「こんな所もかい!」
 ツッコむ優の周囲で風の音が唸りを上げ…… 巻き上がった『砂塵』が南側へと叩きつけられた。砂が目に入り、一旦、距離を取る優。風の音に危険を感じて飛び退いていた透次を子亀の砲口が狙い定め── 放たれた白色散弾を、透次がアウルの限界を越えた爆速でもって斜め前方へ回避する……


 紅の鎖を引き千切って前進してくる親亀── その首の横へと入り込み、神削はその首目掛けて手にした大剣を振り下ろした。
 その一撃は、だが、見えざる風の盾に打ち弾かれ。押し出されてくる亀の前肢に踏み潰されぬよう、後ろへと離脱する……

 夕姫、神削、勇斗の前衛3人は、敬一の支援を受けつつ、よく敵を抑えていた。その前進を押し止めることこそできなかったが、敵の進行速度を大きく遅滞し続けている。

 放たれる砲撃をかわしながら走り続け、ステップを踏むように首、足、尻尾と古刀で切りつけていく透次。その横で優は四門からアウルを開放しつつ、亀の弱点を見つけるべく手当たり次第に攻撃して回る。
 だが、その攻撃も、亀の『風』の防壁の前に悉くが弾かれた。どんだけ硬いねん! と叫ぶ優に放たれる亀の反撃。黎と縁、2人の銃手がその砲口に銃撃を加え、その回避を援護する。
「恩田さん、南側の援護に回ってください……!」
 彩華は無線でそう指示を出しながら、自らもヒリュウを南側へと飛翔させ、『インパクトブロウ』を放たせた。拳を出して突っ込んでいくヒリュウ。だが、見えざる壁にぶつかり、ぽよんと跳ねる。
「子亀も守れるの!?」
 叫ぶ彩華の横で膝射姿勢を取り『アシッドショット』を放つ黎。弾丸自体は風に弾かれたものの、装甲劣化効果は本体に及んだ。だが、それも束の間、その効果が継続する前に亀が抵抗、消散する。
「Damn…… 中々手強いわね」
 それならば、と黎は親亀の関節を狙って『ピアスジャベリン』を放った。可動部分である以上、関節は装甲化し難い。それに風の内側まで入り込む直線攻撃であれば、内部のダメージまでは『受け』れまい……
 放たれたアウルの貫通弾は『風』を貫き、本体の反対側へと突き抜けた。
 だが、亀の動きは変わらない。「ポーカーフェイスにもほどがある」と呆れたように呟く黎。抜けた以上、中にはダメージが通っているはずだ。或いは本体は再生能力まで持っているのか。
「こんなの、どうやって……!」
 半ばやけくそになりながら、縁は甲羅、四肢、突起、頭部と、手当たり次第に撃ちまくった。
 と、展開されていた一つの『風の盾』が、急に乱れて強さを弱めた。「え?」と驚き、発砲する縁。だが、風は何事もなかったかのように復活し、再び散弾を受け散らす……
「陽花! 縁! 子亀を落とすわ。落ちたら集中攻撃で倒すわよ!」
 せめて子亀くらいは倒しておこうと、夕姫は上部に攻撃を集中させた。斧槍を手に馬竜に降下を開始させる陽花。支援射撃を行った縁の散弾の一つが再び甲羅上の突起に当たり、瞬間、その周囲の風圧が弱くなる。
「……っ!?」
 その瞬間、夕姫が放った光弾がその隙間から飛び込んだ。甲羅の斜面に張り付いていた指が数本、弾け飛び、たまらず転がり落ちる子亀。すかさず陽花がその傍らへと走り込み、槍斧の斧部でその子亀を殴り飛ばす。そのまま、引っくり返った亀の腹を槍斧の穂先で突く陽花。その硬さに眉を潜めつつ、今度は亀の『手』を貫き、縫い止める。
 そこへ走り込んで来た夕姫が、手の平の上に浮かべた光弾を子亀の砲口へと投げ入れた。内部に直撃を受けた子亀が暴れまわって引っくり返る……
「何が起こったの!?」
 風の盾が弱まるのを見ていた彩華は、状況を再現すべくヒリュウにブレスを放たせたが、それは突起物に当たる前に風の盾に弾かれた。
 突起が傷つけば風が弱まる。だが、その突起自体、風によって守られており…… 偶然に頼らず直撃するには、いったいどうしたら良いのだろうか……?
(ならば……!)
 神削は敵の隙を見て取ると、『全力跳躍』で地を蹴った。
 子亀が1体落ちた今、甲羅の上には飛び乗るのに十分なスペースがある。子亀が甲羅上に居られる以上、そこには風はないはずだ。親亀の上へと飛び乗り、近接攻撃であの突起物を破壊する……!
 慌てた様に砲を振り上げる子亀。遅い。大剣を振り下ろしつつ着地体勢に入った神削は、だが、次の瞬間、亀の周囲に吹き荒れた暴風によって側方へと吹き飛ばされた。
「『風』に『投げ』られたっ!?」
「嫌な予感……」
 呟く夕姫の視界の中で、ヒリュウと陽花もまた遠方へと飛ばされる。夕姫は勇斗に下がって防御するよう叫んだ。腰を落とし、自分たちを『投げ飛ばそうと』する風の乱流を『受け』凌ぐ。
 だが、その暴風は収まるどころかますますその風力を増していき…… ついには、親亀がゆらりと僅かに宙に浮き始めた。
「浮遊した……っ!?」
 風の中、叫びにならない叫びを上げる夕姫をよそに、四肢で地を蹴る親亀。エアホッケーの如く宙を滑った敵は一気に25mほど前へと進み…… それが限界なのか、着地し、再び四肢で歩き出した。


「ここまで……かな?」
 進む亀を見送りながら、撃退士たちは足を止めた。これで悠奈ちゃんにメールが送れるね、と笑う縁に、だが、勇斗は首を振る。
「いえ、敵の目的がまだ…… せめて、後続に引き継ぐまでは」
 スキルを自己回復に変更し、追跡を継続する勇斗。陽花たちは心配そうにその顔を見合わせた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
撃退士・
御神 優(jb3561)

大学部3年306組 男 阿修羅
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー