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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
形態:
参加人数:12人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/12/18


みんなの思い出



オープニング

 4体の飛行サーバントが『砦』を急襲し、その上空に侵入して来た時── 槙田は、敵の行動目的に対して違和感の様なものを感じていた。
 砦への攻撃……? まさか。40人近い撃退士がいる拠点をたった4体の飛行キメラで陥とせるわけがない。どこか砦の施設の破壊が目的? 否。だったら、最初に急襲した時点でそちらを攻撃していたはずだ。
 では、こちらの兵力の減衰が目的か? ならば、なぜ、負傷した兵に止めを差さない? 攻撃の手を休め、なぜわざわざ一旦上昇した?
 瞬間、槙田は答えに気づいた。
 兵に攻撃を仕掛けたのは、目標を燻り出す為だ。止めを差さなかったのは、それより優先する目標があったからだ。
 一旦、上昇したのは、『さがしもの』にはそちらの方が都合が良かったからだろう。『砦』の『城壁』の上に──敵と近い立ち位置にいた槙田にはよく見えた。
 蜂の巣をつついたような騒ぎの中、冷静に部下たちへ指示を飛ばし、指揮を執る…… 第三分隊長の姿が。
「まずい、奴等の狙いは──!」

 ………………
 …………
 ……


 山形県内の最前線の一つに塞を構え、鳥海山の天使勢力に対する警戒任務を引き受けている民間撃退士会社、通称『笹原小隊』── その駐屯地たる『砦』を敵飛行サーバントに急襲された同隊は、襲撃を受け重傷を負った第三分隊長を後送。一時的にではあるが、全ての前線指揮官が『砦』に不在という状況に陥った。
 小隊は急遽、人材確保の為に久遠ヶ原学園へ派遣していた第一、第二分隊長の藤堂と杉下を呼び戻しつつ、隊長副官の指揮の下、24時間態勢で警戒網を構築。守りを固めた。
 第三分隊員の槙田もまた動員され、また気の休まらない任務の日々を過ごすこととなった。
 槙田は内心、舌を打った。──この他事激務、まるで撃退署にいた頃のようだ。まったく、少しでも楽ができるかと撃退署を辞め、この小隊に入隊したというのに。これじゃあ、まるで…… 槙田が忌み嫌っていた、旧体制下の学園生時代、そのものじゃないか……
 その日も、槙田は夜間の歩哨を終えて、短い睡眠を取るべく女子兵舎の自室に向かって歩いていた。
 早朝の日の光が差し込む廊下を、猫背で、あくび交じりに進んでいると、廊下の角でばったり副官と出くわした。慌てて姿勢を正しながら、槙田は内心で舌を打った。いつもなら、この何かと口うるさい副官を見かけた瞬間、進路を変えていたのだが。
 槙田の敬礼に返礼しながら、副官は、ちょうどいい、と口にした。
「君には今から第三分隊長代理となってもらいます」
「は?」
「藤堂、杉下の両名が補充兵──いや、現学園の撃退士を連れて帰還しました。これより、あちらの教師と学生の運用面について話し合います。こちらからは笹原隊長に自分、それに各分隊長が出席しますが、第三分隊はまだ病院ですので……」
 つまり、隊の体面上、そう言う名目で顔を出しておいてくれればいい、と副官は槙田に言った。あんたにはこの目の下の隈が見えんのか、と内心で反駁しつつ、抑え切れない嫌味を洩らした。
「それはまた…… なんともやる気が出る理由ですね。夜勤明けなんで寝ててもいいですか?」
「目を開けたまま眠れるなら構わんよ」
 副官は肩も竦めずにそう答えると、待たせていた車に乗って小隊指揮所──旧市役所棟に向かった。学園からの『客人』は応接室にいるようだった。副官と槙田が最後だったらしく、室内には既に笹原隊長と藤堂、杉下、小林の各分隊長が集まり、雑談に華を咲かせていた。
「しかし、学園の実務教師にしては随分とお若い」
「……よく言われます。あはは……」
 学園の撃退士── 久遠ヶ原学園の学生たちを『引率』してきたのは、体育教師の安原青葉だった。隊長である笹原の言葉に答えながら、笑顔を引きつらせている。──現役学生と見まごうばかりの童顔と低身長。恐らく、自分の外見にコンプレックスがあるのだろう、と、同じ女性である槙田は看破した。……もっとも、青葉の胸部のバランスは実年齢相応であり、その点に関しては、同じ女として槙田のコンプレックスではあるが。
「遅くなりました」
 遅参を謝じながら入室する副官。その後に続いて入った槙田を見て、分隊長たちは「おや?」という顔をした。槙田としては苦笑するしかない。その反応を見て、分隊長たちも「そういうことか」と納得する。
「おお、槙田くんか。安原先生。槙田くんはうちの『古参』──学園旧体制下で教育を受けた隊員の中では最年少なんですよ。女性に年齢の話を振るのもなんだが、年だけなら二人とも同じくらいかな?」
 そう笑う笹原の言葉に、槙田と青葉の目があった。……槙田が学園にいたのは中学の頃だった。当時、同世代はまだ数が少なく、学園ゲート出現時に生き残った連中の顔は殆ど覚えている。目の前の教師の顔に見覚えはなかった。互いの境遇の差から考えれば、槙田よりも年若いはずだ。
「私が学園に入学したのは、2007年──16歳の時でした。だから、槙田さんより2つ下かな……? あ、私、学園が新体制になってからの第1期生なんですよ。まだ試行錯誤の手探り状態で、私のアウルの成長も頭打ちになって教師になったんですけどね、アハハ……」
 答えながらそう笑った青葉は、だが、互いに微妙に顔を見合わせて沈黙する小隊の面々に気付き、その声を細くした。何かまずい事でも口にしたか、と、助けを求めるように槙田へ視線だけを振る。
「そうか、君は新体制下の学園で育った世代の教師か……」
 笹原の呟きに、視線を戻す青葉。笹原は己の指を組み替えながら、そこに視線を落としたまま言葉を続けた。
「安原先生。我々の方から生徒の派遣を学園に要請しておいてなんだが…… 我々と学園生が共に活動するに当たって、懸念事項が一つある」
 ……『笹原小隊』は、かつて、学園旧体制下において軍隊式教育を受け、アウルの成長が著しく阻害された学生たちが、卒業後に有志を集って設立した民間撃退士会社である。撃退士としての使命、人類に対する義務感などを徹底して叩き込まれ、厳しい訓練に明け暮れた辛い学生生活を送った挙句、学園ゲートの出現により多くの同期・友人たちを失った世代である。しかも、必死になって高めようとしたアウルの力は、皮肉にもその軍隊式教育の影響で成長が頭打ちとなり…… そんな過酷な運命に弄ばれた彼等の中には、現在の学園に対して複雑な感情を抱いている者が多くいる。
「勿論、この藤堂や杉下等、実際に学園の撃退士と行動を共にして、その様な感情を払拭した者も多くいます。ですが、全員がそうできるかと言えばそうではない」
 もしかしたら、生徒たちに居心地の悪い思いをさせてしまうかもしれない── 申し訳なさそうにそう言う笹原に、だが、青葉はあっけらかんと手を振り、言った。
「あ、多分、そういうことだったら、大丈夫だと思います」
 コロコロ笑う青葉に、槙田を始め、小隊の面々は目を丸くした。
「笹原小隊の皆さんがプロであることは承知しています。感情を戦場に持ち込まれることはないでしょう。立場は違えど同じ目的を持つ者同士── 実戦に不安はありません。
 それに、まぁ…… とにかく見ていてくださいよ。うちの生徒たちって、何と言うか、凄いのは戦闘能力だけじゃないんですから」


リプレイ本文

 笹原小隊の面々は今の学園生に対して複雑な感情を抱いている──
 青葉からその話を聞かされても、天宮 佳槻(jb1989)には何の感情も湧き上がってはこなかった。
 佳槻には、彼等が抱いているという感情も『特権意識』と『依存心』の裏返しにしか見えなかった。彼等の年代であれば皆、ある程度の自由を手にした立派な大人であるはずだ。『自立』できずに過去に『依存』したままでは、その自由も扱えまい。
 そも、今の学園生にも一般人にも大切な人を失った者は山ほどいるし、皆が皆、気ままに生きているわけでもない。過去に依存していたら、置いていかれるだけなのが現実だ。過去に拘泥するものには、言っても分からぬだろうけど──

 その様なことをふと思い返しながら── 佳槻は同じ学園生である断神 朔樂(ja5116)と共に、笹原小隊第4分隊の哨戒任務に随行していた。
 冷たい風が木々の間を渡り抜けてゆく山野。濡れ落ち葉の斜面の上を、野戦服姿の分隊員たちが白く吐く息も細く、無言で登り続けている。
 と、隊列の先頭──ポイントマンが、尾根を越える直前で身を伏せ、拳を上げて停止を指示した。応じた隊員たちが音も無く腰を落として周囲を警戒する中、第4分隊長・小林はポイントマンの手信号に集中する……
「骸骨戦士を視認。数は8。尾根の下を西から東へ向け移動中、ッスか……」
 学園生への通訳に呟き、兵たちに左右に展開するよう手信号で指示を出す小林。兵たちは無言で横一列に展開すると、音も無く尾根まで登っていく。
 小林は佳槻と朔樂を振り返ると、最終確認の意味も込めて尋ねた。
「近すぎて回避できないんで、これより戦闘に入るッス。殲滅戦ッス。二人には期待してもいいんスよね?」
 朔樂は無言で、手にした愛刀『天霞』を示した。佳槻もまた、作戦には従う、と頷いた。研鑽を重ねて得た分隊の力がどれ程のものか、お手並み拝見といったところだ。
「現状を鑑みるに、『砦』の主戦力たる小隊員の損耗は避けたいところ…… 是非、我等を先鋒にお使いくだされ」
 増援として来た以上、それ相応の仕事はする── そう告げる朔樂の言葉に、小林は、ありがたいッス、と頷いた。能力頭打ちの小隊員にとって接近戦は消耗が激しい。彼等の主兵装がクラスに関わらず銃器なのもその為だ。
 2分後── 分隊は尾根の上から敵隊列に対する横撃態勢を整えると、一斉射撃後、敵を挟み込むように、敵隊列の前後から佳槻と朔樂を突っ込ませた。
 佳槻は『明鏡止水』で邪念の一切を心から振り払うと、無駄の無い動きで斜面を駆け下りて。敵隊列の後方へと回り込みつつ、最後尾の骸骨戦士に向けて自動拳銃を立て続けに速射。朔樂は、猛々しく燃え盛る銀炎のアウルを翼に曳きつつ、混乱する敵隊列前方より突入し、先頭の骸骨へと踏み込み、抜刀。鋭角的な刃の軌跡が敵の得物を避けて走り、頸部を断たれた骸骨の頭部が高々と宙へと舞い上がる……


「ここが『笹原小隊』の『砦』ですかぁ…… 民間会社のお仕事を間近で見られるなんて幸運ですね」
「将来の職場かもしれないしなあ。ちっとばかりセンパイ方の話を聞くとするか」
 補給物資と共に鉄道で揺られて運ばれながら── ようやくと到着した砦を見上げて、神雷(jb6374)はその瞳を輝かせた。
 傍らの阿手 嵐澄(jb8176)を置いて砦の中へと走り出し。そびえ立つ『城壁』や、その上に立つ歩哨、野戦服姿で腕立て伏せやら長距離走を行う人々を見てなんか感激したりする。
「凄い地味です。流石です。これはもう興味津々ですよ。早速、学園とは違う普段の訓練方法とか、教えて貰いましょう、阿手嵐澄様」
「フルネームで呼ぶな。ランスおにーさんってお呼び……ってか、さり気に酷いこと言ってるよな、お前」
 先走る神雷をのんびり追いながら、嵐澄は長い髪を風になびかせつつ神雷にツッコミを入れた。どこか違和感のあるその長髪に、側を通る兵たちがチラチラ見やる。
 嵐澄の了承を得た神雷は「では、参りましょう」と、なんと着物姿のまま、ランニングをする隊列の後ろに走ってついていってしまった。
「ちょっ、許可も得ずにいきなり訓練に交じるとか…… あ、ども、ランスっていいます……ヨロシク」
 慌てて神雷の後を追ってランニングに加わりながら、嵐澄は、色んな意味で怪訝な顔して振り返った隊員たちに頭を下げた。同時にズルリとずれる嵐澄のカツラ。兵たちが慌てて視線を逸らす……
 一方、同様に列車に乗って砦へとやって来た神凪 宗(ja0435)は、一人、砦内を歩きながら、物珍しそうにキョロキョロと視線を飛ばした。
 宗が東北を渡り歩いていた時には、まだこの様な『砦』は存在もしていなかった。過ぎていった年月の数と東北の変化を感じながら、宗は万感の想いを抱く。
(さて…… 山形に出没する天魔の情報を収集しないと。自分も激戦を潜り抜けてはきたけれど、現場で戦闘を繰り返してきたこの小隊の経験談はきっと役に立つ)
 宗は兵舎に荷を置くと、そのまま昼寝をしたい衝動に抗いつつ、砦の中庭へと取って返した。忙しそうにしている小隊員たちに物怖じしつつ、話が聞けそうな人を探し…… 暇そうに、もとい、のんびりと歩いている女性を見つけた。
「あの……」
 呼び止めて用件を話すと、その女性──槙田は一瞬、面倒臭そうな顔をした。
「ごめんなさい。私、分隊長代理の業務で忙しいんで。射撃場に第3分隊の連中がいるんで、そいつらに聞いてくれる?」
 そのまま忙しそうにすたすたと早足で歩み去っていく槙田。宗は一瞬、呆気に取られた後、素直に言われた方へと歩き出す。
 辿り着いた先は、野外の射撃場だった。
 立射、膝射、伏射とそれぞれに射撃訓練を行う野戦服姿の兵士たち── 話かけれずに立ち尽くす宗にごついオヤジ顔の兵士が気付き、「やっていくか、若いの?」と訓練を勧めてくる……

「やほォ、藤堂ちゃん。遊びのついでに手伝いに来たわよォ♪」
 城門の前に集合した第1分隊に藤堂を見つけて。黒百合(ja0422)はそちらに向けて上げた右手を優雅に振った。
 怪訝な顔をする分隊員たちに挨拶と自己紹介。後、手にした土産物──果実と菓子の入った紙袋──を藤堂に手渡し、皆で食べてね、とニコリと笑う。
「僕にはおみやげないのかなぁ」
「……えーと、誰だったかしらァ?」
 黒百合の冗談(?)に落ち込んで見せる杉下。その杉下に藤堂は土産を預け、黒百合に謝った。
「ありがとう。だが、済まない。うちの分隊はこれより哨戒で砦を出るんだ」
 言われて、黒百合は第1分隊が皆、野外装備であることに気付いた。一方、杉下は平服姿。こちらは見送りといったところか。
 黒百合は、ふーん、と少し考え込んで…… 自分も一緒に着いていくことにした。
「ちょ、今、着いたばかりでしょ?」
「ご心配なくゥ」
 返事を聞くより先に門を出て、隊列の先頭に立つ黒百合。藤堂は肩を竦め、自分の指示に従うように言った。
「りょォかァーい♪ じゃァ、先頭でェ、慎重にィ、敵との接触に備えまァす」
 仕方が無いな、といった風に一つ息を吐く藤堂。その仕草に、あの鬼の分隊長が、と隊員たちが目を丸くした。

 哨戒に出て行く第1分隊を中庭から見やって── 両手に巨大な寸胴鍋を提げた月影 夕姫(jb1569)は、残念そうに肩を落とした。
「そうか。藤堂さん、これから任務なのね……」
 しょんぼりとそう呟く。夕姫はこの日の夜、友人の葛城 縁(jb1826)と彩咲・陽花(jb1871)と共に、小隊の皆の為に炊き出しを行う予定だったのだ。できれば、藤堂にも一緒に料理に加わって欲しかった。一時でも任務を忘れて、少しでもストレスを発散して欲しかったのだが……
「鍋、借りてきたよー」
「お疲れ様ー」
 夕姫は鍋を提げつつ、中庭の片隅に設けられた臨時の炊き出し場に辿り着いた。借り受けて来たガスコンロにバーベキューセット── その一角はブルーシートで区切られ、本番まで隠されている。
「今の笹原小隊は、24時間態勢で警戒網を構築しておる。皆、疲れておるじゃろう」
 そう言ったのは、夕姫たちの隣りで、プレハブ一つを借り切って休憩所兼BARを開くイーリス・ドラグニール(jb2487)だった。イーリスは普段、学園の『部活』で『喫茶&BAR 【NEST】』を運営している。今、設営しているのは、その出張版といったところか。同部所属のリザベート・ザヴィアー(jb5765)と共に、今は準備の真っ最中だ。
「小隊の中には、わだかまり等もあって中々声をかけづらい御仁もおろう。……故に、皆がリラックスして、本音で語り合える場を提供したいんじゃよ」
 イーリスの言葉に、縁と陽花、夕姫は、互いに顔を見合わせ、頷き合った。
「そうだね。笹原小隊の人たち、本当に大変そうだもん。休んでいる時くらいは皆に笑っていて欲しいな」
「うん。こういう時は温かくて美味しいものを食べて、身も心もあったかく、元気にしないとね」
 改めて気合を入れ直す縁と夕姫。陽花もまた拳を握り、その身にやる気をたぎらせる。
「よーしっ、今日こそは、私も料理、頑張るよっ!」
「それはダメ」
 陽花が決意表明をした瞬間、間髪入れずに縁と夕姫のツッコミが入った。
「陽花! 貴女は自分の料理の腕が殺人級だと自覚して! これ以上、砦の戦力を低下させる気っ!?」
「小隊の人たちをこれ以上、病院送りにするわけにはいかないよね?」
 両サイドから入る痛烈なダメ出しに涙目になりながら、だが、今日の陽花は諦めない。
「でも、私だってずっとこっそり練習してきたし…… きっと、多分、もしかしたらっ!」
 手強い。瞬間、縁と夕姫がアイコンタクトで通じ合う。
「そうだ、陽花。買出しに行きましょう! 材料以外で買いたいものもあるし!」
「あー、うん、そうだね! あった、あった、他に必要なもの。さぁ、陽花さん、夕姫さんといってらっしゃーい、だよ♪」
 がっしと陽花の腕を捕らえる夕姫と、ぶんぶんと手を振り、見送る縁。釈然としないものを感じながらも、陽花は素直に頷いた。うん、食材の買出しは必要だもんね。頑張って行ってくるんだよー。

「む? 買出しか? だったら買ってきて欲しいものがあったのじゃが……」
 『店内』から顔を出したイーリスは、ふと通りかかった日下部 司(jb5638)と目が合った。
「おお、良い所に」
「えー」
 事情を聞かされた司は、苦笑混じりにイーリスの頼みを引き受けた。どちらにせよ、任務の時間まで暇だったのだ。一人で色々悩み、考え込んでいるよりは、何か動いている方がマシだろう。
「俺に買う方のお手伝いは出来るとは思えませんが…… 荷物運びくらいなら遠慮しないで下さい」
 自嘲気味に言う司に対して、イーリスは遠慮なく大量の買出しを頼んだ。出来うる限り新鮮で味の濃い果物、カクテルのベースとなる飲み物、それに、ピーナッツなどのつまみ類等々をメモに書いて渡す。
「いやぁ、悪いのぅ。後でわしの店に来い。一杯奢るついでに話くらいは聞いてやる」
「……すみません。夜は歩哨の任務があるんで」
 イーリスに謝辞を告げ、司は砦の後方へと向かって歩いていった。
 駐車場には既に陽花と夕姫の他、休暇を利用して買出しに行く兵たちが多く集まっていた。目的地は一番近い大きな市。とはいえ、この砦から人の住む市は10km単位で離れている。
 兵と撃退士たちは、幾台かの車両に分乗し、出発した。助手席に座った司は運転席の兵を見やった。隊の中では、比較的若い年齢の兵だった。……或いは、学園撃退士の輸送を押し付けられたのかもしれない。
「自分は日下部司といいます」
 司は積極的に運転席の兵に話しかけた。話す内容はどうでもよかった。自分の事を話し、相手の事を聞くことにこそ、意味があると思った。
「自分は塚本って言います。第3分隊の所属です」
 どうやら運転手は人懐っこい性格らしく、会話に快く応じてくれた。年下の司相手にも、その言葉遣いは丁寧だ。
 逆に司は言葉に詰まった。彼等の分隊長──第3分隊長が偽天使の襲撃を受けた時、司はその戦場にいた。あの場にいて、守れなかったことが悔しい。全ては戦場での出来事だから、それを負い目に思ったりはしないけど……
 やがて、目的地の大型スーパーに着くと、塚本は学生たちの買出しに付き合い、荷物もちを買って出てくれた。
 店の規模の割りにどこか人の少ないスーパーは…… 置かれている物の数も寂しかった。
「大勢の避難民が山形市内に入ってまして。物資もあちらが優先で、こちらの方にまではなかなか……」
 それでもどうにか買うべき物を揃えて、司たちは帰路についた。窓越しには、隊列を組んで走る高機動車の車列に手を振る子供と、頭を下げる大人の姿──
「塚本さん」
 山間を走る帰途の車中で、司は運転手に呼びかけた。
「あの時── 第3分隊長が偽天使に襲われた時、俺はあの場にいました」
「そうですか…… 僕もです」
 分隊長を守れなかった男二人は、チラリと目を合わせ、苦笑を交わした。
「ただ、このままで終わらす気はありません。分隊長が戻ってくるまでに、絶対、巻き返しを図りましょう」
 司の言葉に、頷く塚本。日が落ちる夕暮れの空に、空を飛ぶ偽天使の姿が見えた。


「さぁて、陽花さんも買出しに行かせたし…… そろそろ下拵えを始めますか!」
 炊き出し場で鍋の配置等の準備を終えた縁は、荷物の中からごそごそと肉球のワンポイントが入ったエプロンと三角巾を取り出し、纏った。後、白布を口の端に咥えて襷がけ。肩と胸部の間でキュッと結んで気合を入れる。
「さて、目指すのは…… どこか懐かしい、お袋の味だよ!」
 冷蔵庫から肉を取り出し、野菜の入ったケースをよっと担いで移動して。醤油、みりん、砂糖を適量に分けて用意しつつ、人参の皮を剥き、玉葱、ジャガイモを切り分け、膨大な量の食材を準備していく。
「とりあえず、寸胴一つ分の材料は切り分けたかな?」
 文字通りホゥと一息ついて、額の汗を拭く縁。と、そんな縁をブルーシートの隙間から覗く兵たちに気がついて。縁はにっこり微笑みかけると、ひらひらと手を振ってみせる。

 いつの間にか、なんかちんまいのが交じっていた──
 ランニングを終えた兵たちが和服姿の少女に気付いて── 当の神雷は和服の裾についた砂を手で払いながら、彼等の視線に気づいてにっこりと笑いかけた。
「走り込みやら、地味な訓練の積み重ねとか、大好きなんです、私」
 なんで俺たちの訓練に? と訊ねる兵に、真面目な顔して答える神雷。
 兵たちは顔を見合わせ苦笑した。彼等が日常に行っている訓練は…… 彼等自身の、言わば自己満足のようなものだったからだ。
「俺たちは正式に戦闘訓練を受けた世代だからな。アウルの力や身体能力では及ばぬものの、ソフトウェアに関しては今の学生たちにも負けない自負がある」
 だが、どんなに身体を鍛えても、どんなに技術を磨いても。アウルの力に上限がある以上、今の学生たちには及ばない。血を吐くような思いで修得した技術や経験も、スキル等で容易に代替が利いてしまう。
「それでも、皆様は訓練を続けているのでしょう?」
 神雷の問いに、兵たちは迷う事なく頷いた。自分たちが続けている訓練は、身体でなく己の心を鍛えるものだ。どの様な状況に陥っても、仲間の為、自分の為、即座に身体は動くように、と──
「……やっぱり人間は凄いです」
 神雷はホゥと息を吐いた。
「だからこそ人間には可能性がある。……私は、人間たちが天魔を討滅できるようになるその日まで、人間たちを守れる力が欲しいんです」
 唄うようにそう言いながら、はにかむ様に微笑む神雷。
 兵たちはそんな彼女を見て顔を見合すと……
「ガムいるか?」
「チョコは?」
「あめちゃんは?」
 と、無数の駄菓子で歓待し始めた。

 そんな神雷たちから少し離れた、射撃場のテーブルで、宗は兵たちに交じって魔具の分解掃除をしていた。
 VWの基幹部分に手を出せるわけではない。だが、それでも、兵たちは自分たちが手を出せる範囲で、己の武器を黙々と整備している……
「民間の撃退士というのは…… いったいどのようなものなのですか?」
 この辺りの敵の種別と特徴を聞き終えた宗は、兵たちにそのような事を尋ねてみた。
「そうだな…… そこそこの実力があれば、民間の撃退士派遣会社に登録する者が多いだろうな。実力が突出していれば、一流企業のお抱え撃退士になったり、フリーランスで荒稼ぎすることも可能だろう」
 俺たちの場合、最初から可能性の扉は開かれていなかったが── 兵たちが自嘲気味に目を伏せる。
「励めよ、若いの。お前たちには未来を自分で選べる自由と可能性がある。俺たちとは違ってな」
 ベテランの兵はそう言って、宗の肩をポンと叩いた。それでも彼等は、この笹原小隊に属するという自身の選択は、最善であったと信じている。
 それを見ていた嵐澄はいたたまれなくなって、神妙な顔で兵に尋ねた。
「ぶっちゃけ、久遠ヶ原学園って…… どうなんすかねぇ、実際のところ」
 正直なところ、学園に属して日の浅い嵐澄は、己が属する学園についてよく知らなかった。故に彼等の率直な意見を聞いてみたかった。或いは、彼等が学園に持つ暗い感情を吐き出させてやることもできるかもしれない。「俺たちにとって学園は、辛い記憶しか無い場所だ。我々の原点であると同時に、辛苦の根源でもある。……だが、まぁ、今の学園は、撃退士の養成機関としては成功していると言えるだろうよ。つまり、それは、我々の払った犠牲を無駄にはしなかったと言うことだ」
 兵たちの言葉を、嵐澄は無言で聞いていた。達観── それが運命に弄ばれた、彼等の気分なのだろう。そんな彼等からすれば、今の学園生たちが『呑気』に見えるのも仕方ないことかもしれない。
「俺も…… 色々失って、この道に入ることにしたけど……」
 嵐澄が真剣な目で語る。
「どうせなら、センパイ方みたいに…… やるべきこと、ビシッとキメたいっす」
 ガタリ、と嵐澄が立ち上がった拍子に、ビシッとテーブルにカツラが落ちた。
 何かいたたまれない気持ちで沈黙する兵たち── ベテランの兵の一人が、嵐澄の肩をポンと叩いた。


 とっぷりと冬の日が落ちて── 哨戒班と買出し組の帰還を待って、ついに炊き出し場を覆っていたブルーシートが取り払われた。
 照明の下、巨大な寸胴鍋が並んだ炊き出し場からは煮物と鍋料理の美味そうな匂いが周囲に立ち込め。その隣り、イーリスが設けた簡易休憩所では、ネオン風に飾りつけた電飾が渋く光を放っている。
「お疲れ様です。あったかいもの食べて、元気つけてくださいね」
「わぅわぅ! おかわりもあるんだよー♪」
 いったい何事かと集まって来た兵たちで炊き出し場は大賑わいとなっていた。これまでずっと同じメンバーで作戦してきた笹原小隊の面々にとって、こういったイベントは目新しいものだった。
「さて、買出しもしてきたし、今度こそ手伝うよー! 野菜をちょっと斬るくらいなら──っ!?」
 厨房で包丁を握った陽花の手を、縁は笑顔でグッと掴んだ。「ぬぅ、動かぬ」「危なかったわい」などと小芝居を交えつつ、縁が陽花を厨房から追い出し、配膳するよう指示を出す。
 それでもめげずに縁の隙を見て厨房に入り込もうとする陽花を、裏で夜食の弁当を盛り付けていた夕姫がちょいちょいと手で招いた。
「なに? 盛り付けの手伝い? それくらいなら……」
「んーん。ほら、アレ、持ってきているんでしょ? 丁度、人も集まってきているし、ここで売り子をやったらどう?」
 盛り付けすらさせてもらえないんだ、と軽く絶望しつつ、陽花はそういえば、と持って来たものを思い出した。荷物の中からその何か──雑誌の束をよいしょと取り出す。……ちょっとこれ、見せるのは恥ずかしいけど…… 夕姫さんの言う通り、こうした所だし、こういう娯楽も必要だよね。
「はわぶっ!? よ、陽花さん、どうして── どうしてそれがそこにあるのかなーっ!?」
 満開の笑顔で料理を振舞っていた縁は、隣りの長テーブルで雑誌を売り始めた陽花の、その売っている雑誌を見て仰天した。
 それは陽花と縁がモデルのバイトで撮影したグラビアが載った雑誌だった。特に、縁の写真はこれまでで一番際どいものとなっている。
「だって、夕姫さんが、笹原小隊の皆さんの役に立つものだから、って……」
「分かってるのかなー! 意味分かって言ってるのかなー!」
 ワタワタと真っ赤になって慌てる縁。その背後で、陽花が厨房に立つのを防げた夕姫が、満足そうに笑顔を浮かべる……

「……あれは合わせ鏡ね」
 薄暗い闇の中、淡々と解散する第4分隊と佳槻を城壁の上から見下ろしながら、青葉はポツリと呟いた。
 彼等は互いを何も知らず、知ったつもりになってそのありようを否定している。教員向けの資料に記載された佳槻の評価は、『戦闘時、己の感情を切り離すことができる』というものだった。だが、青葉は懸念する。佳槻のあれは感情を切り離しているのではなく…… 過去の経験から、己の感情すら実感できていないのではないか? それが他者への共感に対する障害になっているのではないか……?
「我々の境遇も、この世界に数多ある不幸の一つに過ぎないのだろう。だからといって、あの辛酸の日々をただ受容できるほど我々も人間はできていないし…… かと言って、そんな世の中に拗ねて見せたところで、何の意味もないことは重々承知している」
 そう言いながら城壁上に現れたのは、哨戒任務から帰ってきたばかりの藤堂だった。青葉はさすがに心配して大丈夫なのか訊ねたが、藤堂は笑って首を振った。
「学生たちも頑張っているからな。少しくらいは気張って見せるさ」
「……集中力の維持には適度な休息も必要じゃ。隊長が働いていては、部下たちもおちおち休めまい。率先して休憩を取るのも隊長の務めではないかのう」
 藤堂の言葉に答えたのは青葉ではなく、続いて階段を上って来たリザベートだった。城壁に上る藤堂を見つけ、後を追ってきたのだろう。彼女は藤堂、杉下、槙田の3人をBarに誘うべく探し回っていた。
「弁当じゃ。夕姫から見張りの連中に渡すよう頼まれた。休憩時間にでも摘んでやってくれ」
 言われて、青葉は渡された重箱とポットを開いて見やった。見れば、おにぎりと冷めても味が落ちないものを中心に、手軽に摘めるメニューがバランスよく配されている。ポットの中には、温かいお味噌汁。寒空の下、歩哨に立つにはありがたいものばかりだった。
「しかし、休めと言われても人がいないからなぁ」
「その為に私たちが呼ばれたのでしょォ……? ここは私が代わっておくわァ」
 いつの間に城壁に上がっていたのだろうか。藤堂の傍らに座り込んでいた黒百合が、言いながら立ち上がる。わぁっ、と驚く藤堂に、黒百合は話を続けた。
「ほらァ、貴女も分隊長の前に女の子でしょォ? 少しは自分を大切にしなさいなァ」
 そう言い残して黒百合は、夕姫製弁当を手に取り、それを兵たちに配るべく城壁の上を先へと進んだ。
 その背に藤堂が礼を言い…… ふと足を止めた黒百合が振り返る。
「私を優しい人と思っているなら、それは酷い勘違いだわァ…… 私は怖い怖い食虫植物ゥ。綺麗な蝶を騙し、喰らい尽くす悪魔の華よォ…… あはァ♪」
 不敵な微笑みをその場に残し、黒百合は軽い足取りで、まるで鼻歌でも歌わん勢いで城壁の上を歩いていった。

「イーリス。隊長殿たちにクランベリーとパイナップルを3、ピーチネクター2をビルドで。妾にはダミーデイジーを頼む」
 プレハブの一つを借り切ってイーリスが開いたBar『NEST』出張所──
 先に呼ばれていた杉下と槙田の座るカウンター席へ、藤堂を連れたリザベートが、ヨイショと椅子の上に登った。
「……相変わらず、悪戯の趣味が悪いな、おぬしは」
 注文を受けたイーリスが注文に応えながら、しかめ面でリザベートを睨みつける。不思議そうな顔をする隊長たちに、リザベートはそのカクテルの名前を教えてやった。あからさまなその名を聞いて顔を赤らめる杉下。肝心の藤堂と槙田は顔色一つ変えていない。
「女だてらに男所帯で働いていれば、その程度で一々動じてられないというか」
「つまらんのう。ていうか、なんで男のお前が頬を赤らめておるのじゃ。このむっつりめ」
「……美人さんに囲まれるのは光栄ですがね。女子会に男が一人で紛れてしまった様なこのいたたまれなさ、って言えば分かってもらえます?」
 言いながら杉下は、先程の会話から、リザベートとイーリスが知り合いなのかと訊ねた。
「昔馴染みじゃ。だが、はぐれた時期はこ奴の方が早くてのう…… お陰で今では随分と水をあけられたものじゃ」
 リザベートが答えると、3人の隊長は合点がいった。二人の関係性に、ではない。その様な話題を振った理由に、だ。
「そう。後輩が──年下の方が強いという点がわしらには共通している。まぁ、会話の切欠くらいになればの。抑え付けるからこそ根が深くなる。赤裸々に語り吐き出してこそ互いに分かるものもあろう」
「皆、思うところはあるじゃろうが…… ここで会ったのも何かの縁じゃろ。全ては酒の席だけの話── そんなものはここに全て置いていけばいいのじゃよ」
 イーリスの言葉に、藤堂と杉下は顔を見合わせ苦笑しながら、隙なく杯を傾けた。
 強かに酔ったのは槙田だった。すぐにアルコールを分解してしまう撃退士は酒では酔えないはずなのだが…… 雰囲気に酔ったのか、1時間もしない内にもうグデングデンという有様だ。
「あんたりゃ現役の学生はね、あたしらの犠牲の上に今の学生生活を満喫してんのよ。あたしりゃを踏み台にして今のあんたたちがあるわけよ。そこんとこ、自覚してるわけ? そりゃりゃ、あんたたちゃに責任はないけどりょ、そりぇでもうちらにしちゃらおもしろくにゃいわけっちゅよ。教官にくしょ虫呼ばわりされる日々…… そのくしぇ、ゲートが出た時にはその教官も同期もみーんなくしょ虫みたいにこりょされて…… 挙句、就職した撃退署ではお茶組みしぇくはらあたりまえって、どういうことだ、このクソハゲオヤジがっ!」
 言いたいことだけ言いまくると、槙田は糸の切れた人形みたいにカクリと意識を失った。藤堂と杉下は特にコメントしなかった。イーリスとリザベートもまた何も反駁しなかった。まぁ、これで槙田も少しはすっきりしただろう。そんな事を考えながら4人は静かにグラスを傾け。ジャズピアノのBGMが流れる中、カラリ、と氷が音を立てる……


 翌朝──
 ガンガンと不快に鳴り響く警鐘の音に、槙田は痛む頭を抑えながら兵舎の自室の扉を開けた。
 見れば、城壁を越えて砦内に侵入してくる4体の有翼人型サーバント『偽天使』── 槙田はズボンを引き上げベルトを締めると外に出て、第3分隊長代理として周囲に指示を飛ばし始める。
 そんな槙田を見つけて、偽天使たちは高度を上げた。
 しまった。槙田は舌を打った。酒で頭が回らなかった。敵の目標はこちらの指揮官── つまり、自分であったのに。
「二度目は── させません!」
 と、物陰から飛び出してきた司と第3分隊員たちが、槙田の周りをグルリと囲むように立ち塞がった。甲高い金属音が鳴り響いて、司が敵の槍を弾き。塚本たち兵たちもまた槙田を狙った攻撃をその身をもって受け止める。
「神(髪)は死んだ! ……俺の毛根ごとな!」
 カツラをむしりとるように光纏しながら物陰から飛び出した嵐澄が、その頭部を光らせつつ、愛銃のヅラ…… もとい、ズラトロクH49を撃ち捲り。つい先ほどまでウトウトしていた神雷が嘘の様に活き活きと、両手に生み出した2本の炎の槍を嬉々として敵へと投射する。
「邪魔で御座るな」
 佳槻の支援射撃の下、飛び出した朔樂が、急制動した刃の一撃で鋭角的に敵に切りつけ。黒百合は城壁の上から、影より生み出した無数の棒手裏剣を眼下の2体へ投げ下ろす……
 襲撃の失敗を悟った敵は、地に墜ちた味方をよそに上空へ逃げようとしたが、それは背後より飛び出してきた宗によって阻まれた。昨日、互いに挟撃態勢を取ることを分隊員たちと確認し合っていたのだ。飛び上がらんとする敵の背へ、宗は洋弓から放った矢を突き立て。地に落ち、グリンと頭を向けるもろこし頭に、それが散弾発射の前兆であることを聞き知っていた宗がすかさず素早い動きで二の矢を放つ。
 頭部に矢が突き立てられた敵が地に倒れて仰臥して。双剣に武装を変えた神雷と、走り寄った朔樂によって膾切りにされて倒れた。宗が直刀に持ち替えた時には、戦闘は既に終わっていた。3体の敵が地に倒れ、空に逃げ切れたのはわずかに1体── その勝利に兵たちから歓声が沸く。
「お主らが強くあろうとしたのは、ただその強さを誇示したいからで御座るか?」
 いつの間にか戦いが終わって呆然とする槙田に、朔樂は告げた。
「力があるのは皆同じ、力の本質たる感情も当然同じで御座る。何かを成したい、守りたいと思えば、力は力として自然とお主らを守護者とする。この砦をこの人数で護り続けたはお主らの力。それは紛れも無くお主らが精鋭だという証で御座ろう」
 その言葉を聞いて、拳を突き上げる兵士たち。徹夜明けの学園生たちと第4分隊の面々が、それを見て何事かと眠い目を擦る。
「そうか。偽天使に勝ったんだ……」
 地に転がる死骸を見つけて、陽花は頷いた。せっかく縁あって繋がった小隊と学園の絆── それを長く続けていく為にも、これ以上、被害を出すわけにはいかない。
「……こういう時に何かお祈り出来ればいいんだけど。実家の仕事、ちゃんと覚えていればよかったかな」
 己の巫女服を見下ろしながら、陽花は暫し、苦笑を洩らした。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
銀炎の奇術師・
断神 朔樂(ja5116)

大学部8年212組 男 阿修羅
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
雪煙に潜む狙撃者・
イーリス・ドラグニール(jb2487)

大学部6年145組 女 インフィルトレイター
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
その名に敬意を示す・
リザベート・ザヴィアー(jb5765)

卒業 女 ダアト
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB
ズレちゃった☆・
阿手 嵐澄(jb8176)

大学部5年307組 男 インフィルトレイター