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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/24


みんなの思い出



オープニング

 喧嘩別れをした榊兄妹の再会に際し、友人たちが企画した鍋パーティーを終えて──
 会場となったマンション寮、自室のベランダから帰寮する友人たちを見送って、兄妹──榊勇斗と榊悠奈は暫し無言で佇んだ。
 このまま何事もなかったかのように、普段通りの兄妹に戻るのも一つの方法ではあっただろう。だが、勇斗はそれはしたくなかった。
 「会話のきっかけに」と友人に勧められて買った土産物を── 青森で買ってきた夫婦茶碗と湯のみのセット(=日用品)と…… 今風のデザインを取り入れた若者向けの、銀色のアクセサリーをそっと取り出し、手渡す。
「お兄ちゃんが…… 高価なものをっ!」
「をい」
 驚きで目を丸くした悠奈は、だが、次の瞬間、微妙な顔をした。細工の趣味は悪くない。きっと、誰かのアドバイスを貰ったのだろう。だが、勇斗と揃いのアクセサリーには、互いのイニシャルが刻まれており……
「お兄ちゃん…… こういうのは普通、恋人同士でやることだよ」
「…………マジか」
 世界に一つだけの兄妹オリジナル! と勧めた友人の顔を思い出しつつ、嵌められたか、とこめかみを揉む。いや、向こうも知らず、ふつーに勧めて来た可能性も大ではあるが。
 だが、それも、おかしそうに笑う悠奈を見ているとどうでもよくなった。勇斗は星空を見上げて、「悠奈」と妹に呼びかけた。
「お前に謝らなきゃならないことが二つある。……一つは、感情に任せてお前の頬を叩いたこと。もう一つは、お前の『覚悟』を疑ったことだ」
 夜空を見上げたまま言う勇斗に、悠奈は小さく頷いた。
 兄は、妹を守れる力を得る為に、その手を天魔の血で染めることを決意した。
 妹は、そんな兄の力になるべく、恐怖を押し隠して戦場へと赴いた。
 だが、あの日、敵に捕まり『人質』となった悠奈に対して、戦闘後、勇斗は「遊びでやっているなら帰れ!」と頬を叩いた。
 それが八つ当たりであることは、勇斗自身、分かっていた。──この世でたった一人の肉親を失うかもしれない── 戦いに際して感じたその恐怖を、自分が同じ戦場にいながら妹を敵手から守れなかった己の不甲斐なさを、全て悠奈に押し付けた。……分かっていたはずなのに。悠奈がいったいどういう想いで── どれだけの覚悟で、戦いの場に出てきていたかを。
「うぅん。私こそごめんなさい…… お兄ちゃんに心配をかけちゃって……」
 悠奈は言う。
 学園に来る前、叔父夫婦の家にいた頃から…… いや、物心ついた時から、勇斗は常に悠奈の味方であり続けた。頬を叩かれたのも初めての経験だった。当然、ショックは大きかった。正直、そのようなことが起こりうるなど、想像だにしていなかった。
 だが、今にして思えば、それも当然のことだったと思う。悠奈が受けた初めての、学園外での戦闘依頼── 浮かれる気持ちが無かったかと言えば嘘になる。挙句、敵に捕まって、自分の身だけでなく仲間たちの命をも危険に晒した。「大丈夫です。お兄ちゃんや皆さんを信じてましたから」── と、軽々しく、そんな言葉も口にした。全ては自身の不甲斐なさが原因なのに。
 あの時、自分が兄の立場だったら、と想像してみる。……いったい、どれだけ心配するだろう? ……無事でいてくれて、いったい、どれだけ安堵するだろう?
「いや、まぁ、うん、なんだ…… でも、みんな言ってただろ? 『最悪の状況下にあって、悠奈は最善を尽くした』って。……俺もそう思うぞ。あの時は言えなかったけど…… よく頑張ったな、悠奈」
 どうにか謝罪の言葉を互いに言い終えて…… 多少、柔らかくなった空気に照れ臭そうにしながら、勇斗はそう言って悠奈の頭にポンとその手を置いた。
 置いた瞬間、悠奈の目から涙がポロポロと溢れ出し…… わけも分からずホッとした悠奈は、おろおろと慌てる勇斗の手の下でひとしきり泣き続けた。

「けど、本音を言えば、やっぱり俺は、悠奈に戦場に出て欲しくない」
「うん。私も、お兄ちゃんには危険な目に遭っては欲しくないよ」
「だが、しかし……」
「うん、それは……」
 頭上に星の瞬く玄関のベランダで。だが、二人は微笑を交わした。
「俺はもっと強くなりたい。人々の助けとなりたい。最初は悠奈を守る為だったけど、苦しむ青森の人々を── この世界の現実を見てしまった以上、それを打破する為の一助となりたい」
「私も。ただ家でじっと心配しながら待っているのは嫌。お兄ちゃんについていく…… ううん、一緒に歩いていく為に強くなる。今はまだ弱くて足手纏いだけど…… いつか必ず、追いついてみせるから」


 2013年、11月──
 進級し、高等部3年となった榊勇斗は、その日、始業式を終えた後から、早速、体育教師・松岡が行っている放課後の自主訓練へと足を運んだ。
 場所は相変わらず学園の片隅にあるサブグラウンドの一つ。『教官』たる松岡は雑務があるのか未だ来ておらず、体操着に着替えた学生たちの何人かが自主的にウォーミングアップを済ませているところだった。
 勇斗は彼等と挨拶を済ますと、自らも身体を温めながら松岡が来るのを待った。だが、それから少し経っても、松岡は現れなかった。始業式の後ということもあってか、今日は集まってくる生徒の数も少ないようだった。まだそんなに知られていないのか、新入生の姿も殆ど見受けられない。
「……今日は、自主練かな?」
 そう呟いて訓練相手を勇斗が探そうとした時、校舎からのんびりと駆けて来るジャージ姿の姿が目に入った。
 訓練場に到着するなり、松岡は集まっている面子をぐるりと見回し、「これなら、いけるか」と呟いた。
「今日の訓練は中止だ。代わりに、実戦訓練を実施する」

「学園ゲート近郊、放棄区域内において、最近、1体のディアボロが暴れまわっている。我々が『ヌーベルミノタ』──通称を『牛男』と呼んでいる個体だ」
 集合をかけた学生たちに松岡が告げた敵称に、勇斗は懐かしげに顔を上げた。
 聞き覚えのある名前だった。基礎訓練を終え、松岡教室に参加した勇斗が二度目に戦ったのがこの『ヌーベルミノタ』と仮称される敵だった。サーバント『ミノタウロス』の模造品。出来損ないの劣化版。全長2〜3m。雄牛の頭を持つ人型という点は同じだが、こちらは立ち上がることができず、まるで獣のように這いつくばっている。だが、手足の鉤爪をスパイクにしたその機動性能は高く、常に動き回りながら突進攻撃を仕掛けてくる。
「どうやら元気が良いのが1匹交じっているらしくてな。これが低レベル用の『浅い』エリアにまで出張ってくるらしい。……新入生も入ってきたばかりだしな。彼等が本格的に撃退士として活動し始める前に『危険』はなるべく排除しておきたい。今日、お前たちにやってもらいたいのは、この片角の『牛男』を討伐することだ」
 片角、と聞いて、勇斗は松岡を見返した。
 松岡はニヤリと笑った。
「そうだ、榊。こいつはあの時、お前たちと戦い、逃げた『牛男』だ。体長は3m〜4m。あれから余程『苦労』したのか、前より筋骨粒々に『変化』し、頭も良くなっている。鉤爪で壁に張り付いたりも出来るようになったようだ」
 倒せるか? と訊ねてくる松岡に。勇斗はただ一言、頷いた。
「今度こそは、必ず」
 悠奈も頑張っている。兄として、こんな所で足踏みしているわけにはいかなかった。


リプレイ本文

「以前、初陣で戦い、逃がしてしまった通称『牛男』が今回の相手です。標的である牛男自体を捜索する必要がありますし、徘徊するはぐれも同時に相手をしなければなりません。中々に難しい依頼かと思います」
 学園放棄区域へ向かうマイクロバスの車内にて── ステラ シアフィールド(jb3278)は運転する松岡の横に立ち、両手を前に添えての直立姿勢でそう言った。
「そうですね…… 正直、人の怖さを知ったディアボロは手強いと思います」
「はう…… 今日は訓練のつもりだけだったのに……」
 仁良井 叶伊(ja0618)がステラの意見に同調すると、若菜 白兎(ja2109)は自らの頬を両手で覆った。いきなりの戦闘依頼に、白兎はちょっと戸惑っていた。一方、叶伊の方には大分余裕があるように見受けられる。
「まあ、周辺の雑魚を疎かにせず、牛男もうまく撹乱できれば負けはないと思います。飛び道具や隠し玉に注意しつつ、今回は確実に仕留めましょう」
 落ち着いた調子の叶伊の言葉に、座席の陰に半分隠れてぴるぴるしていた白兎は一つ、頷いた。
「実戦はいつやってくるか分からないですものね…… 慌てず対処できるようにならなくちゃ」
 ギュッと両の拳を握り、コクコクと自分に言い聞かせる白兎。その仕草を見た勇斗は、なんとなく、妹・悠奈を思い出した。
「勇斗君、悠奈ちゃんとしっかり仲直りできたみたいだねー。お姉ちゃん、一安心だよ♪」
「良かったんだよ。お互い、少しは素直になれたのかな?」
 後ろの席から顔(と胸部)を乗り出した葛城 縁(jb1826)がわしゃわしゃっと勇斗の頭を撫で。隣りに座った彩咲・陽花(jb1871)が我が事の様に喜び、微笑む。
 日下部 司(jb5638)と神棟星嵐(jb1397)はその光景を振り返り、互いに顔を見合わせ、苦笑した。
「あの様子だと、勇斗さんは無事に悠奈ちゃんと仲直りできたのかな。よかった、よかった」
「そうですね。これからも悠奈ちゃんを大切にしてくださいね、と伝えましょう。……打ち上げの席ででも」
 そう言って前を向く司と星嵐。二人はは勇斗の戦友だ。戦友ではあるのだが…… 縁や陽花、年上や同年のおねーさんたちに捕まった勇斗の事は放っておく。

 目的地に到着し、バスを降りた撃退士たちは、早速、『牛男』捜索の為の隊列を組んだ。
 隊列の先頭には星嵐と司に白兎とステラ、勇斗が加わり、露払いを担当する。隊列の底──最後衛には叶伊。銃手の縁は隊列の中央から全周に対する支援射撃を担当し。召喚師の陽花と竜見彩華(jb4626)は牛男と遭遇するまで戦力を温存。側面・後方の警戒に徹する。
「お久しぶりに御座います、榊様。あの頃と比べ、ご立派に成られたご様子…… 今回も頼らせていただく事になろうかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
「勇斗さんは体力を温存しつつ、牛男の攻撃の妨害と、逃走の阻止をお願いしますねっ! その代わり、火力は任せてください!」
 初めて会った時と同様、カーテシーで優雅に挨拶をするステラ。後衛からは彩華が元気良く勇斗に声をかける。
 気合入ってるね、との勇斗の言葉に、彩華は力強く頷いた。
「私も新米の頃は先輩方に助けられながら経験を積みました。今度は、私が後輩たちを助ける番! これってなんだか…… えへへ、ちょっと嬉しいじゃないですか!」

 探索行は、まず縁の『忍法「響鳴鼠」』によって始められた。
「おいで、おいで、チュー太郎やーい」
 スキルで呼び寄せた小鼠に、かつて遭遇した牛男の外見的特徴を伝えて、放つ。しゅたたっ、と壁の穴に戻っていった鼠は、やがて小鼠の情報網で得て来た情報を縁の耳元に報せた。(注:スキル修正前で判定)
「うん、うん…… そう。教えてくれてありがとうだよ」
 縁が得た情報によれば、牛男と思しき生物は体育館側の旧学生寮が並ぶ一角で見受けられたと言う。司は地図を見ながら頷いた。縁が得た情報は、司が調べた過去の牛男出現エリアとも合致していた。
「では、これより捜索を開始します。各自、全周を警戒。戦闘は可能な限り避けつつ前進します」
 星嵐の言葉を締めに、撃退士たちは目的地に向かって移動を開始した。途中、様々な雑兵がうろついていたが、幸い、発見が早く、無駄な交戦には至らずに済んだ。先行する星嵐が物陰から敵を発見し、軽く拳を握って停止を示し。それを見た司が背後に対して手信号で迂回の指示を出す……
 旧寮に辿り着いた時、そこには既に牛男の姿はなかった。こちらが到着するまでの間に相手も移動したのだろう。
 代わりに、前方からはスケルトン──骸骨型ディアボロの隊列が、寮と寮の間の路をこちらに近づきつつあった。前衛の撃退士たちは後衛に退避の指示を出しながら、自分たちも物陰に隠れて相談を始めた。
「戦闘を仕掛けてみますか? 上手くいけば戦闘の音に反応して牛男が出てくるかもしれません。ただ、他のはぐれも集めてしまう可能性はありますから、博打的な意味合いもあるのですが……」
 ステラの提案に、星嵐は考え込んだ。──個人的には、牛男と戦闘中に介入されるのも面倒なので、この辺りの雑魚は先に倒しておきたい。だが、ステラの言う通り、戦闘は他の敵を呼び寄せる可能性がある。長引いた所を牛男に乱入されるのが、今、考えうる限りで最悪の状況だ。
 司は、早期に殲滅が可能であれば、との条件付きで賛成した。殲滅後、すぐに移動し、潜伏。寄って来た牛男に対して奇襲を仕掛けられればそれがベストだ。もし、牛男以外であっても、やり過ごすなり再戦するなり選択肢は確保できる。
「よし」
 前衛班は攻撃をを決断すると、その旨を後衛に伝えて警戒待機をお願いした。『本番』の牛男戦を前に、全力を出せる戦力を半分は残しておく意図だ。
 奇襲は成功した。
 初手はステラ。半ば廃墟と化した旧校舎群の壁の上から、スカートをフワリと浮き上がらせながら優雅に着地。魔具魔装を活性化しつつ、不意を衝かれた敵隊列へ入り込み、『呪縛陣』──身体の自由を奪う識別不可の結界を展開。直後に奥へと離脱する。
 不意を打たれ、一部は『束縛』まで喰らって混乱する中、星嵐によって『二の矢』が放たれた。『ヘルゴート』──冥府の風をその身に纏ってアウルの力を増幅させた星嵐が、空中に作り出した闇色の逆十字を敵中に投下。隊列の中央を重圧にて押し潰す。
「突撃します! 後衛が損耗せぬよう、前衛だけで殲滅します!」
「後ろには通さないの! ……こう見えても頑丈さには自信ありなの。榊先輩と一緒に頑張るの!」
 騎兵槍を活性化し、突撃態勢を取る司の横で、盾を前面に押し構えた白兎もまた突進を開始した。小さい身体を精一杯に走らせ、勇斗と共に盾ごと、身体ごと骸骨にぶつかっていく。振るわれた反撃はまず盾で受け弾き。直後、白兎は得物を大剣へと換え、その身の丈以上の刃を振り被って骸骨を盾一文字に叩き割る。
 そんな白兎と勇斗の戦線を越えて、司は更に前進した。目にも留まらぬ速さで敵中へと踏み込み、腰溜めに構えた槍を突き入れる。その一撃を胸骨にまともに喰らい、あばらごとバラバラに弾け跳ぶ骸骨。がしゃり、と槍を右脇に抱え直す司の後方で、『翔閃』による一撃を受けていた3匹の骸骨もまた、ばらばらになって崩れ落ちる。
「中央、クリア!」
「こちらも残余の敵全てを制圧しました」
 戦闘は終わった。司は、すぐにこの場から離れるように、と背後を振り返り…… ステラは首を横に振った。
「どうやら…… 賭けは凶と出たようです」
 その視線の先、道の奥で、戦闘に気付いた新手の骸骨が集まり始めている。
 そして、後方からもまた、腐骸兵──ゾンビ型サーバントの群れがこちらに接近しつつあった。

 前衛が戦闘状態に入った時。中衛の縁もまた支援射撃を開始していた。
 活性化した散弾銃を構え、ステラの中央突破に混乱する敵へと向けて発砲する。
 反応はすぐにあった。それぞれに側方、そして後方を警戒していた彩華と陽花は、後方に生じた異変に気付いていた。
「後方に腐骸兵です! 今は1体しかいないけど……!」
「うん。すぐに集まってくるだろうね……」
 いよいよ自分たちも戦わなければならないか── その緊張感の中にあって、叶伊は一人、他の場所にも注意を払っていた。
 腐骸兵たちが察知し得たのだ。近くにいる牛男も戦闘の気配に気付いたはずだ。そして、人を警戒し、より注意深くなった『手負いの獣』が壁に張り付く力を得たとなれば──
 叶伊は無言で顔を上げた。
 瞬間、蒼空を影が覆う。──横の兵舎の屋根によじ登った牛男が、上から奇襲を仕掛けてきたのだ。
「直上から敵!」
「ええっ!?」
 短く警告を発すると、叶伊は落ちてくる敵に番えた矢を放ちつつ、落ちてくる敵の側方へと全力で跳躍した。慌てて頭上を振り仰ぎ、一瞬、矢を放とうとして諦め、横へと跳び転がる彩華。陽花は、射撃中で反応が遅れた縁に後ろから飛びつくと諸共に道端へと転がった。叶伊の矢を受けて態勢を崩した牛男が地面へ落ちて暴れ転げ、周囲の腐骸兵の何体かを巻き込んで吹き飛ばす。
 そんな彼等から敵の注意を逸らすべく、敵の側方へと回った叶伊は『挑発』を使用した。体勢を整え直して這い起きた牛男の頭がグルリと向き直り。叶伊はそ攻撃軸から逃れるように横へと回りながら、手に活性化させた符から雷刃を生み出し、敵の後肢を射線に捉えようとする。直後、後肢をフックさせて跳躍し、『すっ飛んで』来る牛男。叶伊の傍らを跳び過ぎていった敵の巨体が建物に突っ込んで壁を崩す……
「あれが『ヌーベルミノタ』ですか……」
 轟音に振り返った星嵐が、その暴れ牛の様な凶暴さを見て呟く。
「あっち(牛男)に向かうの。誰か、こっちの引継ぎを……!」
 骸骨の剣を大剣で受けつつ、叫ぶ白兎。ここは俺が、と引き受けた司が、眼前2体の骸骨を横にした騎兵槍で押し返し。その間に白兎は勇斗共々、急いで後方へと走り出す。
「ん、あの時のリベンジだよ」
「今度は絶対、逃がさないんだよ!」
 起き上がった陽花は馬竜──スレイプニルを召喚すると、その背に飛び乗るようにしながら召喚獣を上昇させた。最大高度10mで水平移動に移り、斧槍を活性化。上空から敵を見下ろしつつ、周囲の腐骸兵を巻き込むように『ボルケーノ』を撃ち下ろす。
 その爆風に髪をはためかせながら、膝射姿勢を取る縁。その横で彩華は蒼銀竜──ティアマトを牛男の眼前へと召喚した。敵の存在に歓喜し、雄叫びを上げる蒼銀竜。その美しさに目を輝かせつつ、彩華は手を振って攻撃命令を出し。闘争本能を解放させた蒼銀竜が喜び勇んで牛男に襲い掛かる。
「縁! 支援を!」
「うん!」
 蒼銀竜を迎え撃つべく、直立し、組み合う牛男。二大怪獣大決戦な様相を呈し始めた敵の背後に、陽花は降下しながら回り込み…… 背後からすれ違い様、蒼銀竜を掴む牛男の手を斧槍で薙ぎ払った。その一撃を受けた牛男は、己の肩口に噛み付く蒼銀竜を牛男は地面へ引き倒し、去り往く馬竜の後肢に手を伸ばす。だが、それは、満を持して縁が放った散弾に顔面を叩かれ、怯まされたことで届かない。
「お待たせなの!」
 白兎と勇斗が駆けつけて来る中、縁や彩華をギロリと睨む牛男。主のピンチに、地に倒れた蒼銀竜が首だけ起こしてブレスを吐きかけるのもものともせず、鉤爪で高速突進を開始。進路上の何もかもを薙ぎ飛ばそうとする。
 その直前、どうにか間に合った白兎と勇斗は、彩華と縁の前に立って肩膝を付き、地に着けた盾と大剣を斜めに構えて立ち塞がった。突進して来た敵の角を受け弾き、力を逸らす勇斗と白兎。その衝撃に弾き飛ばされつつも、どうにか体勢は保ち切る。
「今なの! 『審判の鎖』を……!」
 カウンターを入れようとした白兎が敵通過直後に振り返り…… だが、突進を続けた牛男はずっと先まで突っ込んでおり、白兎は慌ててもと来た道を戻りだす。
 突進を終え、回頭し、再び突撃体勢に移ろうとする牛男。だが、その動きを止めた一瞬の隙を逃さず、危険も顧みずに肉薄したステラが『呪縛陣』の範囲に捉えた。
 一瞬、その結界に動きを止めた牛男に襲い掛かるは司と星嵐。前方のスケルトンを掃討し終えた3人が、遂に牛男戦に参戦したのだ。
「反撃の態勢が整いましたね」
 彼等の参戦を確認すると、叶伊は己の中の戦士の心を鼓舞して能力を向上。『挑発役』を引き継いだ司へ向いた敵の意識の陰から目にも留まらぬ速さで疾駆しつつ、敵の後肢に雷刃を集中投射した。その負荷に耐え切れず、バキンッ、と弾ける後肢の鉤爪。攻撃の肝たるスパイクの片側を潰された敵は、一際大きな怒号を放つと、もっとも撃退士たちの少ない後方から逃走しようとする。
「ティアマト!」
 そうはさせじと彩華が命令を発し、倒れていた蒼銀竜が逃げる牛男の横合いから跳びかかり、零距離から『サンダーボルト』を浴びせかけた。再び足を止められ、苛立たしげに蒼銀竜を殴り飛ばそうと振り上げた腕は、星嵐が放った茜色の刃によって切り裂かれた。雄叫びを上げ、傷口を押さえる牛男。そこに、てけてけ追いついてきた白兎がやっとこさと『審判の鎖』を投げかけ、地面へと繋ぎ止める。
「スレイプニル! 思いっきりやっちゃって!」
「御免ね。これ以上、逃がしはしないよ……!」
 牛男の背の上を駆け抜けつつ、斧槍の穂先を突き入れる陽花。縁は動きを止めた敵の軸足を狙い、アウルの光を纏った弾丸を浴びせて残った鉤爪をも破壊する。
 叶伊と星嵐、ステラの魔法の刃に、追いついてきた司、雪兎、勇斗の白刃に全身を切り裂かれた牛男は…… いかづちを放ち続ける彩華の蒼銀竜の腕の中で遂に力尽き、縋りつくように地に崩れ、倒れ伏した。
 完全に沈黙したそれを前に暫し佇み…… 討伐を確認した撃退士たちは、それぞれにそれぞれの程度で歓喜を表現した。

「やったやった、やりましたっ!」
 彩華は歓喜に飛び上がりながら蒼銀竜をぺしぺし叩くと、すぐそばにいた勇斗や皆とハイタッチを交し合い、その健闘を讃えあった。
「以前は倒し切れなかった相手を倒すことが出来ると、自分の成長が実感できるね。勇斗くんも強くなったんだよ」
 馬竜から下りた陽花が、どさくさまぎれに勇斗の背中にギュッと抱きつく。
 縁は天を見上げた後、牛男の死骸を見下ろし、思った。……前に牛男と戦った時には、まだ生き物を殺すことへの躊躇があった。今はもう…… 躊躇いがないと言えば嘘になるけど、迷いはない。人々を守る為、私たちはこれからもっと頑張らないと……
「誰かを守ることって難しいけど…… 少しずつ、確実に出来ることは増えている。最初は戦う度に誰かが傷つくんじゃないか、って怖かった。でも、今は…… 皆を信じて、自分のできることをやればいい、って思えます」
 妹と同じ年代の彩華の言葉に。勇斗は悠奈を思い出しつつ、大きく一つ、頷いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
愛って何?・
ステラ シアフィールド(jb3278)

大学部1年124組 女 陰陽師
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド