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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/13


みんなの思い出



オープニング

 『笹原小隊』と称するその撃退士集団は、かつての学園卒業生たちが有志を集って設立した『民間撃退士会社』である。
 『撃退署』や『撃退局』を主な『顧客』とし、中長期的な任務を請け負う。
 現在は山形県内のとある最前線に塞を構え、鳥海山の天使勢力に対する警戒任務に当たっている。サーバントのうろつく危険地帯で、敵の大規模侵攻の徴候がないかを絶え間なく哨戒し続ける、地味だが、とても重要な仕事だ。
 『小隊』の面々は、その地味で、重要で、危険な任務を、撃退士としての誇りと人類への義務感を胸に、日々、黙々と続けている。

 その『笹原小隊』が拠点とする山形の『砦』は、山間を流れる川の畔に築かれていた。
 川と、それに沿って走る道路と鉄道とを、コンクリの『城壁』で塞ぐように築かれた『砦』は、いわば、敵の予想進撃路を塞ぐ『栓』の役割を果たしている。東北の撃退局はこの川沿いのルートを山形への侵攻路の一つと想定しており、いざという時には、後方の本隊が反撃の準備を整えるまで遅滞戦闘を──つまり、時間稼ぎの役目も担う。……口さがない隊員などは『アラモ砦』などと言って揶揄し、自嘲したりもするが、多くの隊員は重要な役割を任されたことに誇りを抱いている。
 第三分隊に所属する隊員・槙田は、どちらかと言えば前者に属する『あまりやる気の出ない』タイプの人間だった。
 元々、『笹原小隊』は、かつての軍隊式教育のせいでアウルの成長に支障を来たした学生たちが、撃退士として行き抜く為に設立した互助の為の組織である。自然、その結束は固く、撃退士として個々の能力は現役学生に劣るものの、チームとしての戦闘力は、現役学生の『作業効率』と比べても決して劣ったものではない。
 槙田は彼等の同期であったが、『小隊』への参加はずっと遅れた。
 ……嫌々ながら学園に徴集され、嫌々ながら軍隊式の教育を受けて育った。当時中学生の槙田は学園の何もかもを斜に構えて見ていて、当然の如く、『撃退士としての誇り』やら『人類への義務感』などというものはこれっぽっちも身につかなかった。挙句、学園ゲートの出現で、マジメにやってた多くの学生たちが死んでいったのを見てしまえば…… 何もかも馬鹿らしくなるのも当然だったろう。
 小隊設立の演説をぶつ笹原兄──当時の発起人は、現隊長・笹原の兄だった──に背を向けた槙田は、やる気もないまま、流されるまま、撃退署の撃退士として採用された。
 入ってすぐに後悔した。給料は安い上に、勤務はほぼ24時間のべつなし。同僚は皆、疲れ切っていて、新人の槙田に雑務の全てを押し付けた。セクハラまがいの強要をされかけたこともある。
 それでも数年は勤め上げて…… 結局、何も変わらないことを『確認』した後、槙田は撃退署を退職した。民間の方がずっと待遇が良いことにも、馬鹿らしさに拍車をかけた。
 万年人手不足の撃退署から足抜けするのには、先のセクハラを理由にした。退職後は学生時代のツテを頼り、『笹原小隊』に『志願』した。特別な理由はなかった。ツテを頼るのが一番楽そうだった。

 その日も槙田は特段なやる気も見せず、普段通り淡々と『砦』の『城壁』に上って周囲の警戒任務に当たった。
 早朝、空の白ばみ始めた時分。コーヒーの一杯でも持って来てくれればいいのに、と愚痴る同僚の言葉を無視しつつ、交代に来た旨伝え、形式的に敬礼を交し合う。
「連中、また来てるぜ」
 と言われて、槙田はそちらへ視線を振った。見れば、右手、川向こうの山の上に、数匹の有翼型サーバントがこちらを睥睨しつつ、まるで鳶の様に遊弋していた。
「『偽天使』か……」
 『偽天使』── 文字通り、一見、天使のようにも見える有翼人型のサーバント。ジャガイモの様にデコボコした白い頭部に、黒点3つが穿たれただけの顔を持つ。そのコンセプトはおそらく『案山子』だろう。すわ天使の襲来か、と人間たちを慌てさせ…… その地域から遠ざけるか、或いは、その様を見て嘲笑う為に作ったものに違いない。
 その『偽天使』がどこからともなく飛来して来て、ああやって山の上をグルグル回ってどこへとも無く去っていくのが、ここ最近、砦の見慣れた光景となっていた。攻撃してくるわけでもなく、山の上を回るだけ回って日没になったら帰っていく…… 最初の頃は山に人をやって迎撃したりもしてたのだが、追い払ってもすぐに戻って来るので諦めた。あれを何とかするのであれば、近場全ての山の上に戦力を貼り付けるか、敵の出撃拠点自体を叩き潰すしかないだろう。……まぁ、今の『小隊』にはそんな戦力はないのだが。
「連中、何の意図があってアレを飛ばしているんだろうな」
「さてね」
 味も素っ気もない槙田の返事に肩を竦めて、同僚の隊員は『城壁』を下りていく。槙田は内心、肩を竦めたいのはこっちの方だ、と思いながら、普段通り、阻霊符を起動した後、双眼鏡で空を見上げた。
 ……先日、小隊とこの『砦』正面の敵勢力は、互いに想定外の遭遇戦により少なくない戦力を失った。敵は育成途上の『骸骨狼騎兵』1個中隊を。小隊は貴重なベテラン撃退士8人を──
 戦線は膠着し、小隊は『業務』に『支障』が出ぬよう、久遠ヶ原学園の現役学園生に助力を求めざるを得なくなった。今も『砦』の一室にはいざという時の為に、依頼を受けた現役学園生の一班が詰めている。
 小隊員の中には現役の学園撃退士に対して複雑な感情を拭えずにいる者も多いが、槙田自身は彼等に対して特に含むところはなかった。自身の周囲に波風さえ立たなきゃそれでいい、とそう思う。
 ぼんやりとそんなことを考えながら、槙田は双眼鏡越しの視界を横へと流し…… ふと感じた違和感に慌てて山上へと視線を戻した。
 いつの間にか、山上を飛ぶ飛行物体が1体に減っていた。……『偽天使』じゃない。あれは…… 鳥型? 漆黒の濡羽は大烏か。違和感があるのは、その脚が3本あるからか……?
「いや、違う……!」
 槙田は慌てて視線を振った。違和感の正体は、先程までいた偽天使がどこにいったのかということ……!
「……いた!」
 4匹の偽天使は、稜線沿いに飛行しながらこちらへと向かって来ていた。その翼が翻る。敵は既に『砦』への降下コースへ入っている……!
「敵襲ーっ!」
 槙田は叫びながら鐘を打ち鳴らすと、砦内は騒然としてそれに応じた。散発的に迎撃の銃火が上がる壁上、その頭上を、蒼空を背景に偽天使たちが飛び過ぎていく。
「砦上空に入られた!?」
 舌を打ち振り返る槙田の視線の先で、偽天使たちは屋内から慌てて飛び出してきた撃退士たちを上空から散発的に『啄ばみ』始めた。
 槙田は混乱しつつ銃を放った。──違和感が、まだ拭えない。連中、いったい何が目的で……?
 槙田の混乱を他所に、砦の混乱自体はすぐに収束に向かい始める。守備隊を率いる第三分隊長、そして、学園の撃退士たちが屋内から広場へ出てきたからだ。その辺り、流石は歴戦の撃退士といったところか。分隊長の指示に従い、素早く迎撃態勢を整え始める隊員たち。散発的に攻撃を仕掛けていた偽天使たちは一旦、上空へと上昇すると…… それぞれにそれぞれのコースで螺旋を描くように降下を始め……
 瞬間、槙田は気付いた。違和感の正体と、連中の目的に──
「まずい、奴等の狙いは──!」


リプレイ本文

 『偽天使』たちの襲撃が行われる少し前──
 学園の撃退士たちは、『小隊』から宛がわれたプレハブの『詰所』でそれぞれに平穏な休憩時間を過ごしていた。
 日下部 司(jb5638)は休みの時間も小隊から借り受けた敵の資料に目を通し。月影 夕姫(jb1569)、葛城 縁(jb1826)、彩咲・陽花(jb1871)の3人娘は、忙しい合間を縫って借り受けた調理場でケーキを作って、持って来た。
 ヒース(jb7661)はそんな彼らから離れた場所で、片手で本を読んでいたが…… 警報が鳴り始めるとパタリとそれを閉じ、ヒヒイロカネを手に素早く表へと飛び出した。
 お茶会の準備を進めていた3人娘もまた、慌てて外へと飛び出した。よほど慌てていたのか、陽花は切り分けたケーキのお皿をそのまま持って来てしまっていた。
「せっかく今日のケーキは上手く出来たのに……」
 ケーキをしょんぼり見下ろす陽花を見て、縁はそのケーキを一口で頬張った。美味しいともごもご頷く縁に、陽花は驚きつつも微笑で礼を言いながら、縁の鼻の頭についた生クリームを指で拭い取る。
「っ! 天使……っ!」
 カウボーイハットを掴んで飛び出したジェイニー・サックストン(ja3784)は、『城壁』を越えて侵入し、広場の兵に対して降下攻撃をしかける敵を睨んで、憎々しげに吐き捨てた。ハットを目深に被りつつ、活性化させたショットガンを素早く『天使』へと向ける。ひび割れたメガネのレンズと照星の向こうで振り返る『偽天使』。ジャガイモと3つの黒点というその天使とは似つかぬホラーな顔面に、思わずその身を竦ませる。
「……全くもって、ええ、イラつくパチもんですねっ、と」
 若干の苛立ちを声に含ませ、改めて引き金を引くジェイニー。偽天使は足元の兵から離れると、まるで地面の虫を弄ぶ鳥の如く、別の兵士を鉤爪で『啄ばみ』始める。
 傷つき倒れた兵を見て、司は我が身の危険も顧みずに広場へと飛び出した。頭で判断する前に、思わず身体が動いていた。気がつけば、敵の飛び交う広場の空の下── それでも戻るという選択肢はつゆほども思わず、鉤爪の下を掻い潜って負傷者の元へと滑り込む。
「大丈夫ですか?! もう少しの辛抱です。頑張って下さい……!」
 牽制に大剣を振り回しながら、負傷者へと声をかける司。広場の端でその様子を見ていたセリェ・メイア(jb2687)は、だが、足を震わせて動けずにいた。
(助けに、いかなきゃ……っ!)
 なけなしの勇気を振り絞って心が叫ぶ。だが、恐怖に竦んだ身体はそれに反して動いてくれない。──怖い。涙目で唇を震わせる。敵が怖い。戦いが怖い。だが、何よりも。この期に及んで、人が怖い──!
「たった4体……? せっかく急襲に成功したっていうのに?」
 夕姫は怪訝な顔で呟いた。
 敵の意図が解らなかった。敵の攻撃は散発的で、まるで遊んでいるかのようだ。現状は、混乱するこちらを完全に手玉に取っている。自分が有利な状況で、なぜ『本気』を出さないのか? 現に今も、屋内からは「どうした!?」、「なにがあった!?」と次々と兵たちが飛び出して来ている。状況は不利になっていくばかりだというのに……
 と、広場まで降下していた4体の偽天使が、急に攻撃の手を休めて上空へと舞い上がり始めた。それを見たセリェが意を決して広場の負傷者の元へと走り寄る。
 夕姫はハッとした。敵の目的は…… 或いは、こうして人を集めるのが目的なのではないか──?
「縁! 陽花! 敵は自爆攻撃や範囲攻撃を仕掛けてくる可能性があるわ。散開しつつ十字砲火を。絶対に味方に近づけさせないで!」
「了解。これ以上、被害者を増やすわけにはいかないんだよ。今度こそ、私たちがしっかりしないと!」
「うん。あの時みたいなことには、させないんだからね!」
 夕姫の言葉を受けて、陽花と縁はそれぞれ行動を開始した。陽花は馬竜──スレイプニルを高速召喚すると、巫女服を翻しつつ騎乗。上空へ上がった敵を迎え撃つべく、空中へと舞い上がる。それを見たヒースもまた無言で『闇の翼』を展開し、陽花とは別の敵に向かって跳躍、飛翔した。その手に銀色の大鎌を活性化させ、クルリと回して手に納める。
 散弾銃を活性化させた縁はそんな陽花とヒースを見送りながら…… 空を見上げて敵の動きを確認しつつ、広場全域を射程に納めるべく射撃位置へと移動を始めた。
 夕姫はふと思いついた。
(自爆攻撃…… ってことは、城門の破壊もありえるんじゃ……)
 踵を返し、一人、城門へ向けて走り出す。
 同じ結論に達したのだろう。城門の前には既にレイラ(ja0365)の姿があった。活性化したPDWを両腕で抱え上げつつ、やって来た夕姫と視線を交わして頷き合い、二人並んで城門の防衛につく。
「敵の狙いは、負傷者か、城門か…… いずれにしても、天魔の好きなようにはさせはしません」
 レイラの言葉に頷きながら、夕姫は空を見上げた。上空の4体の偽天使は、それぞれ別のコースを取りながら、再び攻撃の為の降下を始めていた。その内の1体が翼を羽ばたかせ、緩やかに旋回しつつ城門へと降下して来る。
「迎撃! 敵が落ちても近づかないで! 完全に沈黙するまで油断しちゃダメだからね!」
 夕姫の号令に従い、迎撃の銃火を撃ち上げ始めるレイラ。照準器に敵を捉え、接近を阻むべくアウルの火線を撃ち放つ。夕姫もまた右手に嵌めた五連の指輪から光弾を生み出すと、手を振り払って前面上方へと投射した。敵の接近を阻む弾幕だ。
 司も自分たちの方へと下りてくる敵に気付いた。セリェに負傷者の手当てを任せ、自身は彼等を敵から守るべく大剣を手に立ち上がる。
 だが、城門や負傷者たちへ向けて流麗な軌跡を描いて舞い降りて来ていた敵は…… 半ばまで降下してきたところで、鋭利な機動で針路を変えた。
 走りながら空を見上げていた縁は、驚愕に目を見開いた。
 敵はただ一つの目標へ向かって、四方から一斉に突っ込んでいた。その行く先には、蜂の巣をつついた様な騒ぎの中で冷静に部下たちに指示を飛ばし、指揮を取る第三分隊長の姿──
「まずい、奴等の狙いは、分隊長だ!」
「ええっ!?」
 槙田と縁の警告に陽花は驚きの声を上げると、馬竜を駆ってどうにか敵の針路の一つに割り込んだ。空中に放たれる『ボルケーノ』。その爆炎を越えて突っ込んで来る偽天使に、陽花は斧槍をすれ違い様、カウンターで横薙ぎに叩き込もうとした。だが、偽天使は反撃もせずに翼を畳むと、クルリと回転しながらその身を沈みこませ、陽花の刃の下を突破する。大鎌を手に翼を翻したヒースは、敵と速度を合わせながら敵針路に立ち塞がっていたが、間合いを詰めようとする敵のフェイントに合わせて距離を取ったところを一気に突破された。即座に頭から反転、逆落としに降下し、追いかけるヒース。だが、加速のついた敵には追いつけない……!
「チィッ!」
「隊長さん、避けて!」
 ジェイニーは敵の小賢しい機動に舌を打つと、銃を持った右手を振って『回避射撃』を撃ち放った。同じく、縁もまた分隊長に殺到する敵に向けて出来うる限りの『回避射撃』を叩き込む。
 分隊長は正面から振るわれた斧に辛うじて対応した。だが、四方からの攻撃全てを避けることは出来なかった。銃手の援護の下、右方の槍斧をどうにかかわし…… だが、同時に左方から槍を左の腿へと突き立てられ、続け様に振るわれた剣によってその背中を切り裂かれる。
 苦痛に顔を歪めた分隊長が地面へと倒れ伏し── 止めを差すべく再攻撃の態勢に入った偽天使たちは、だが、学園の撃退士たちによって阻まれた。
 倒れた分隊長に斧を振るおうとする敵に対して、散弾銃を連射しながら大声を上げて突進していく縁。手の中でクルリとショットガンを回したジェイニーが立射でそれを援護し、その圧力に一旦距離を取った偽天使に対してレイラが銃撃。火線の鞭で追いたてる。
 槍斧を叩きつけようとしていた1体は、上空から逆落としに降ってきたヒースの鎌に背中を斬られ…… 直後、そのまま突っ込んできたヒースに激突され、諸共に地面へと叩きつけられた。陽花もまた別の1体に馬竜ごと突撃。間髪入れずに振るわれた陽花の攻撃を、敵は槍をかざして受け止め。直後、陽花は柄を引き、斧部分で敵槍をフック。直後、馬竜の鉤爪でもって偽天使の腹部に横殴りで切りつける。
「やめて、やめて! それ以上、人の領域に入らないで!」
 最後、背後から剣を振るおうとしていた偽天使には、『緊急障壁』を発動したセリェが分隊長との間に割り込んだ。両手を広げて膝立ちで立ちはだかるセリェの眼前で偽天使の剣がシールドに打ち付けられ。背後へと打ち倒されたその衝撃で、思わずセリェの光纏が解除される。
(痛い、痛い、イタイ、痛い……!)
 自らの傷を押さえて涙を浮かべるセリェの下で、分隊長が呻き声と共に身じろぎした。「君は……?」との問いかけに、セリェがビクリと身を震わせる。
(怖がられる、かもしれない……)
 自らの羽を振り返ってそんな事を気に病みつつ…… だが、すぐに分隊長の傷に気付いて、押さえる。
「大丈夫です、か……? ……すみません。本物の、天使が、助けに来て、なんというか、その、すみません……」

「誰か! 隊長さんを…… 負傷者を、早くっ!」
「負傷者を屋内に退避させます! 搬送の協力をお願いします!」
 セリェの眼前に立ちはだかって散弾銃を連射しながら、縁は周囲の兵たちに向かって叫んだ。当初の負傷者、広場の2名を抱えてどうにか立ち上がった司も、同様の呼びかけを周りに行う。
 司は駆けつけてきた兵たちに負傷者を受け渡すと、自らは大剣を手にして彼等の護衛についた。セリェもまた重傷の分隊長を兵たちに任せ、血と涙を拭いながら五連の指輪を活性化させる。
「この人たちは…… 私が守ります!」
 再び光纏して瞳を碧に輝かせつつ、毅然とした態度で敵前に立ちはだかるセリェ。司はそのセリェの前に立つと、支援攻撃をお願いした。縁とジェイニーにも援護を願いつつ、周囲の状況を確認する。
 槍を持った偽天使は、馬竜を駆る陽花が空中で押さえ込んでいた。時々、高度を取って振り切ろうとする敵に対して、見えざる宙の地平を騎走する陽花が上手く相手取っている。ヒース共々地面に激突した斧槍の偽天使は、共に未だ地面に倒れたまま動かない。
 他の2体──斧と剣を持ったジャガイモ頭は、他の敵には目もくれず、ただひたすらに第三分隊長を狙って襲い掛かってきた。一斉に火を吹く縁とジェイニーの散弾銃に、セリェが放つ5連の桃色光弾。司は、負傷者たちの搬送を始めた兵たちの殿に立つと、迫る剣持ちの偽天使に下段で大剣を構え…… 空から隊列に割り込もうとする敵の鉤爪に大剣を思いっきり振り上げた。その痛烈な剣撃に打たれた敵が、6mも後方へと弾き飛ばされ。再び接近してくる敵へ向け、今度は肩に担ぎ上げた刃を振り下ろし、再び後方へと吹き飛ばす。
「皆は城門の防御と支援射撃をお願い! 敵には近づかないで。負傷者は、私たちが助けます!」
 一方、夕姫は城門の付近にいる兵たちにはその場を動かないよう要請すると、レイラと共に城門の前から移動し、主戦場との距離を詰めた。
 だが、完全には城門前から離れない。敵の目的が分隊長であると判明した以上、それを守る意味は薄いが、それでも、追い詰められた敵が最後に自爆等で城門の破壊を目論まないとも限らない。
 偽天使とバラけて地面に転がったヒースは、立ち上がろうとしてよろめき、膝をついた。墜落のダメージは小さくなかった。だが、その無茶のお陰で敵は攻撃の機会を失い、こうして地面に倒れている。
 それでいい、と仮面の下でヒースは思った。敵の撃退と城塞防御が今の最優先事項だ。自身が傷つき、負傷しても、それに見合う代償を敵に強いることができたなら御の字だ。
 一方、そのヒースに墜とされた斧槍の偽天使は、地面から這い起き上がりつつ、分隊長を搬送する隊列に視線を向けて…… 直後、その頭部── トウモロコシ状の顔をボコリ、と膨らませた。
「──っ! 気をつけてっ! そいつ、何かするわよ!」
「皆、伏せて! 固まっていたら危ないかも、だよ!」
 気付き、警告の叫びを上げる夕姫。縁は皆に警告を発しつつも、自らは負傷者たちの間に立ち塞がった。
「もう、あんな思いをするのは…… 絶対に、嫌なんだよ!」
 敵中に孤立した小隊の斥候隊を救出に行って、縁は多くの兵が── 人が死ぬのを見た。皆を守る。たとえ自分が傷つこうとも、もうあんなことは繰り返させない……!
 そんな縁の横を、ジェイニーは駆け抜けた。驚く皆をよそに、敢えて敵との距離を詰める。
「何をするつもりでも、潰せれば!」
 ジェイニーは這いつくばった偽天使を蹴倒して仰向けに転がすと、至近距離からその顔面に『精密殺撃』の一撃を放った。
 銃声と共に顔半分を吹き飛ばされるもろこし頭。だが、直後、残った半分の『もろこしの実』が対人散弾として撃ち放たれ、ジェイニーの身を吹き飛ばす。
 半身を起こし、グルリと頭部を回して、まだ打ち出されていない面を分隊長へ向ける偽天使。だが、それが放たれるよりも早く、大太刀を手に疾く門前から突っ込んできたレイラの『薙ぎ払い』によって、頭部を打たれ、地に倒れた。
 靴底を滑らせ、停止しながら…… 続け様にその身を回転させ、烈風の如き突きを放つレイラ。その衝撃により、敵を8mも吹き飛び、広場のど真ん中で止まった。レイラの思い描いた通り、周囲に兵も誰もいない空間で。
「今よっ!」
 それに呼応した夕姫が、倒れた敵の頭に向けて5連の虹色光弾を叩きつける。残った頭部が立て続けに光弾に砕かれ、弾け跳び。そこへ更に縁の、レイラの銃撃、セリェの光弾が浴びせかけられ……
 ずたぼろになった敵は、だが、油断せず注視する皆の視線が集中する中…… 沈黙したまま、もう二度と起き上がることはなかった。


 屋内への退避を終えた分隊長を確認して──
 継戦の理由を失った残り3体の偽天使たちは上昇して戦場を離脱していった。
 ヒースは痛む身体を手で押さえて立ち上がりながら、その行く手、山の頂上を遊弋する3本足の烏を見やった。烏は天使の離脱後も暫し、その場を回っていたが、やがて鳥海山方面へ向けて飛んで行った。
 陽花は上空から砦の破損状況、被害状況を確認すると、地上へ下りて怪我人の手当てを手伝うべく野戦病院へと走る。砦には戦闘準備態勢が発令されていた。慌しく周囲の哨戒に出る車両を見送って、レイラは、水炊きの準備が無駄になりましたね、と嘆息する。
「奴等のトップは頭の切れるやつっぽいわね。骸骨狼騎兵の指揮官だけじゃないってことか……」
 夕姫の言葉に憂鬱な気持ちを抱えながら…… 縁は、ふと自らの頬を拭った。
 手の甲には、生クリームがついていた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
闇に潜むもの・
ジェイニー・サックストン(ja3784)

大学部2年290組 女 バハムートテイマー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
恋愛道場入門・
セリェ・メイア(jb2687)

大学部6年198組 女 ダアト
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
黒鴉より暗き翼の・
ヒース(jb7661)

大学部7年101組 男 ナイトウォーカー