海の家で着替えを終えて砂浜へと出てきた犬乃 さんぽ(
ja1272)と竜見彩華(
jb4626)は、仲間たちの水着姿を見て思わずその足を止めた。
目立つのはやはり、モデルのバイトをしている大学部の2人、葛城 縁(
jb1826)と彩咲・陽花(
jb1871)だった。縁が纏うは、汚れてもいい使い古しの赤いビキニ── 少しサイズが合っていないのか、撃退士たちの中でも際立って肉感的な若い肢体が、まさに零れ落ちんばかりに躍動している。一方の陽花は縁の様にダイナマイトなバディと言うわけではないが、出る所はきちんと出た上品な身体のラインは、その長い黒髪と白い肌のコントラストにより和的な美しさを醸し出す。
『脱いだら凄かった』のは、蒼色のセパレートに身を包んだ蓮城 真緋呂(
jb6120)。まだ成長期の細身の身体は両腕に収まってしまいそう。にもかかわらず、たわわに実った若き果実はその存在を主張して止まず、ベビーフェイスとのアンバランスも相まって、未完成が故の瑞々しい魅力を放ち。
皆から一歩退いた位置で、メイドの立ちポーズで佇むステラ シアフィールド(
jb3278)は、学園指定水着にその身を包み…… その身体を型に押し込めようとする水着に反発するかのように、内側から肉の魅力を押し上げていて、若い外見年齢からは想像もできないその色香は、流石は悪魔種族といったところか。
「み、みんな、大胆だね…… 格好良いけど」
「こ、これが『してぃーがぁる』の本気、ってやつだべか」
呟き、学園指定水着を着た自身をバスタオルで隠す彩華。それを見た加奈子と沙希が「同志っ!」と親近感を抱いたり。
「今年最初の海が…… バイトと演劇で忙しくて、やっと海に来れたのに……」
そんな皆の前で、沙希と同じく落ち込む陽花。その肩を縁は慰めるようにポンと叩くと、どこか遠くを見やって呟いた。
「陽花さんも、沙希ちゃんも…… またひとつ悲しみを背負ってしまったね。でも、これも経験だよ、うん」
「『ひと夏の経験』?」
「そっ、それはまだ沙希ちゃんには早いかなー。私だってそれは……って、いや、げふんげふん」
咳き込む縁に小首を傾げる沙希と加奈子。大学部・神棟星嵐(
jb1397)は、そんな沙希を見て笑った。
「姫様(星嵐が沙希に対して使う呼称。理由=「なんとなく」)はそんなに海で遊びたかったですか? ……しかし、加奈子ちゃんと二人だけというのは珍しいですね。いつも3人なイメージがありましたが」
女性陣と堂々と会話を交わしていく星嵐。さんぽは思った。こんなお色気むんむん(←死語)の只中にあって、クールな態度を崩さぬ星嵐── すごいなぁ。これが大人の男ってやつなのかなぁ。
「それにしても、魔具や魔装を溶かしちゃう敵ってのは、困りますよね! 愛用の武具が使えないもの。それに、水着で戦闘、っていうのも何だか心許ないし……」
どこか落ち着かないようにもじもじしながら、真緋呂が恥ずかしそうに言う。
彩華は頷いた。こういう敵を破廉恥って言うんですよね、ししょー(注:=さんぽ)。あんな風に育つなんて、きっと水が合わなかったんだべな……
「ホント、あのディアボロを作った奴は、張り倒してやりたいわね」
心底げんなりとした表情でそう嘆息する月影 夕姫(
jb1569)は、水着姿の女性が居並ぶ中、ただ一人制服を着込んでいた。その胸元まできっちりと生真面目にボタンを留めている。
「そうですね。撃退士の命とも言える魔具魔装を破壊する事によって、戦意を喪失させようという魂胆なのでしょう。なんとしてもここで倒しておかねばなりません」
(マジメだ!)
星嵐の言葉に、心中で同時にツッコミを入れる沙希と加奈子。では、どう倒すか、と話を続ける星嵐に、ステラが言った。
「その様な能力があることは聞き及んでおりますし、そこは割り切ってしまえばよいかと」
「割り切る?」
「はい。最初から溶かされることを前提に行動を取ってしm」
「わー!」
慌てて大声をあげ、沙希と加奈子の耳を塞ぐ縁と陽花。ちょっと困ったように「全裸?」と小首を傾げる加奈子に対し、縁はぶんぶんと頭を振った。
そんなこんなで時間を潰していると、海の向こうから件の水魔がようやく姿を現した。
撃退士たちはすぐに戦闘態勢へと移行した。波打ち際まで前進しながら、ステラと彩華が言葉を交わす。
「あの水魔…… 陸に上がれば干上がるか、水分を吐き出すと縮んでしまう可能性がありますね」
「そっか。そう言えば昔、クラゲを干したら消えちゃったことがあったっけ」
作戦は決まった。砂浜側から遠距離攻撃で水魔を誘引しつつ、水の上を移動できる者たちが背後に回って退路を断ち、砂浜へと追い上げる──
さんぽはその身にバトルセーラー服を纏うと、マジカルステッキ、うさみみカチューシャ、ねこしっぽと次々と活性化していった。その姿はさながらセーラーバニー。後は網タイツがあれば完璧か。
「すごい女子力です、師匠! さすが忍者あざと……いや、げふんげふん。私も、負けていられません!」
彩華もまた、指定水着にバトルセーラー服を重ねた。師匠にその姿を見られても気にしない。だって、女友達だもの。
一方のさんぽは困ったように微妙にその視線をずらした。……犬乃さんぽは『男の子』である。先程も彩華は同じ部屋で着替え始めて、視線を逸らすのが大変だった。指定水着の着用自体は、活性化で一瞬だったけど。
「状況開始! みんな、クラゲに刺されないよう気をつけてね! 特に沙希ちゃん!」
魔法入門書を開いた夕姫の号令で、遠距離班は各自、攻撃を開始した。星嵐の散弾銃が火を吹いて無数の水柱が立ち上ぼり。縁が放ったアウルの矢が水魔表皮に突き刺さる。
攻撃を受けた水魔は反撃すべく、浅瀬への移動を開始した。それを見たステラと真緋呂が正面から迎え撃つ。
「『奇門遁甲』で幻惑、認識障害を起こさせ、陸地に誘い込む…… 試す価値はありそうです」
その為には敵に近づかねばならない。その分、装備を溶かされる確率も上がるが、虎穴に入らずんば虎児を得ず。恥じらいは捨てることにする。
一方の真緋呂はクラゲがうじゃうじゃの海に入ることを躊躇いつつも、えいっ、と思い切って中へと入った。水上を進む水魔がそちらに『砲口』を向け、迎撃の『水流』撃ち放つ。
「きゃっ!?」
放たれた敵の初弾を真緋呂は活性化した盾で受け凌ぎ…… だが、その勢いには抗し切れずに後ろへと転倒した。波打ち際に尻餅をついた真緋呂がけほっ、けほっ、と咳込んで。その顎先から滴る水が胸元へポタポタ落ちる──
「支援射撃!」
叫んだ縁が放つ援護の矢。魔法の火矢を投射する夕姫の横で、星嵐が『ヘルゴート』から『オンスロート』を展開。無数の影刃で水魔表皮を切り刻む。
水魔の『水刃』による反撃は、夕姫がバトルアンブレラを開いて受け弾き。だが、続けて放たれた『黒い水刃』は傘の盾をなんなく貫通した。その柄ごと夕姫の制服を縦一文字に切り裂く水刃。その一撃は魔装を破壊できる他には、水着の生地を切り裂ける程度の威力しかない。
「本当に服破壊特化なんだ……!」
「……ホント、アレ作った奴は踏み潰してやりたいわ」
驚く縁にひきつった笑みを返して。水着の無事を確認した後、火矢攻撃を再開する夕姫。その攻撃は先程よりもどこか苛烈な気がしたり。
「中央が交戦を開始した……! 私たちも行くよ!」
陽花と彩華、二人のバハムートテイマーは、浮遊して水上を行くべく馬竜──スレイプニルを召喚した。現世に顕現した2頭の召喚獣は召喚主を振り返り…… いつもと違う姿に思わず二度見する。「いや、私たちだから!」とツッコミを入れつつ、『クライム』で騎乗する陽花と彩華。そのまま『水上歩行』で走るさんぽと共に、水魔の裏手へと回り込む。
「幻光雷鳴レッド☆ライトニング! イカタコクラゲもパラライズ★!」
さんぽは効果音と共にマジカルニンジャステッキを振ると、ポーズをつけながら真紅の雷鳴を撃ち放った。それに合わせて口から電光を吐き出す陽花の馬竜。それに呼応した真緋呂が『サンダーブレード』で斬りつける。
「このまま陸まで押し込みます! 無理やりっ!」
叫ぶ真緋呂。それより早く、彩華は麻痺した水魔へ向けて『ボルケーノ』を撃ち放ち。着弾後の水柱が水魔を浜側へと引っくり返す。
追撃をかけようとした真緋呂は、だが、水中で何かに足首を掴まれ、そのまま水の中へと引きずり込まれた。それに気付かぬまま『チャージラッシュ』を敢行する陽花。その背に陽花を乗せた馬竜が体ごと水魔にぶつかり…… 直後、『クラゲのスカート』の下からブワッと湧き出した無数のミミズ型触手が撃退士たちに絡みつく。
最も酷かったのは至近にいた陽花だった。馬竜に跨った陽花の身体を無数のミミズ型触手が絡みつき…… 締め上げる触手たちから分泌される粘性の液体がが、陽花の白い肌を濡らし、水着にも染み込んでいく。
「こっ、この絵はちょっと、色んな意味で危険なんじゃないかなっ?!」
その顔を真っ赤にしながら身悶える陽花の姿を、それ以上に真っ赤になった縁が食い入る様に見つめて硬直し。同じく、陽花ほどではないにしろ、馬竜ごと触手に掴まった彩華は、逆にそれを利用して陸へと引っ張ろうとした。張り付いた触腕の吸盤にバトルセーラー服を引き千切られつつ、彩華は涙目になりながらも「こんなこともあろうかと下は水着です! この後遊ぶ積もり満々だったのです!」と構わず水魔を引き続ける。
「きゃっ、ちょっ、変なところさわるなぁ! セクハラだわ、セクハラ! えっちなのはいけないと思いますっ!」
その反対側では、足首から太ももまで触手に巻きつかれた真緋呂が水の中から引き出され、逆さ吊りにされていた。何とかアミュレットを活性化させつつ、『エアロバースト』を周囲へ放つ真緋呂。衝撃波が水面を走り、敵に掴まっていた真緋呂、彩華、陽花の三人が触手から引き剥がされる……
水魔の麻痺が解けるまで攻撃の機会を窺っていたステラは、敵の移動再会を確認すると、肉薄して『奇門遁甲』を放った。
認識障害により、後ろへ逃げようとしていた水魔の身体がよろけたように横へと逸れる。
方向感覚をなくした敵は、全周に霧状の闇を撒き散らした。動じる事なく呑まれるステラ。彩華はふふん、と胸を張る。
「だから、下は水着だって何度……きゃああああっ!?」
……指定水着は、魔装であった。上着どころか水着まで穴だらけにされた彩華はそのまま馬竜の上でバランスを崩し……「せくしー系お洒落はまだハードルが高いべさー!?」との声を最後に海へと落下する。
「むっ……!」
同じく、闇の霧に男子指定水着を溶かされた星嵐もまた、慌てて海中に腰を落とした。ハッとするさんぽ。いけない。このままでは神棟先輩の仇名が『巨人剣・フルチング』になってしまう……!
「いや、そこまで見栄は張りませんけど」
さんぽにツッコミを入れながら、星嵐はざばっ、と腰を上げた。思わず目を逸らしたさんぽが改めて見直した時、星嵐の腰には新たな指定水着が活性化されていた。
「こんなこともあろうかと、もう一枚予備を用意していたのですよ」
ニヤリと笑い、ハンドガンを手に敵へと向かおうとする星嵐。さんぽは小首を傾げた。指定水着じゃまた溶けるんじゃ? それとも普通の水着もあるのかな?
星嵐の動きが、ピタリと止まった。
「……もう一撃も喰らえない」
ダラリと汗を流し、振り返る星嵐。海上に「星嵐さあぁぁん!?」とのさんぽの悲鳴が木霊する……
一方、闇の霧が晴れ、同様にほぼ全裸(注:略)になったステラは、全く動じることなくエプロンを取り出し、その身に纏った。
「裸エプロンなど、下僕にとっては何ほどのものでも…… そうですね、衆人観衆の前での露出プ(ピー!)に比べれば……」
「わー! わー!」
「(色っぽい吐息と共に)……身体は正直なものですね。頭では割り切っていても、この肌は羞恥と恍惚に桜色に染……」
「ぎゃー!」
慌てて叫びつつ、沙希と加奈子の耳を塞ぐ縁。とりあえず二人をステラから放した場所に移した縁は、水着に大きなダメージを受けて海に落ちた陽花にバスタオルを渡すべく前に出る。
「陽花さん、これ……!」
「縁!?」
我が身の危険も顧みず、陽花にタオルを投げ渡す縁。反撃の触手をかわした縁は…… 無理に体勢を捻ったお陰で、サイズの合わない水着の中からその中身が零れ出た。慌てて背後から両手を回し、見えぬように隠す陽花。その沈み込むような感触に、双方がひゃあ、と悲鳴を上げる。
「よ、陽花さん、も少しそのまま!」
「そのままって……きゃあ!?」
二人の頭上に振り下ろされた触手を、縁が『回避射撃』で銃撃し。アウルの矢を連射して触手の接近を阻む縁の胸を隠したまま、陽花は馬竜に攻撃の指示を出す……
あまりにも酷い(真緋呂は『阿鼻叫喚』と表した)戦場の光景に目を背けるさんぽに対しても黒い水流が浴びせられ…… 『男の子』な部分が露出してしまうかもしれない、と思った瞬間、さんぽは遂に覚醒した。
「英雄燦然! ニンジャ☆アイドル!」
叫ぶさんぽ。スポットライトの中、ステッキが消え、代わりに拳に巻かれるバンテージ。赤いマフラーが颯爽と水上に翻る。
「猫のように舞い、兎のように刺す…… マジカルニンポー、くびはねる☆ひっと!」
さんぽの拳より放たれた、疾風切り裂く一撃が。海側から水魔の本体を横一文字に切り裂いた。逃げ出そうとした水魔は、だが、認識障害により砂浜側へとよろける。すかさず、『呪縛陣』で水魔を地に縫い付けるステラ。そこへ突進していく夕姫の接近を阻むべく、水魔は霧状の闇を撒き散らし。だが、全ての魔具・魔装の活性化を解いた夕姫は、セパレートの水着姿で闇を抜け、そのまま水魔に飛び乗った。
「霧状の闇が魔具魔装を破壊するっていうのなら…… 最初から生身なら何も怖いものなんてないわよね?」
崩れた水魔の上に跨り、モーニングスターを手に活性化させる夕姫。笑顔だが、その目は全く笑っていない。
「さて、覚悟はいいかしら? ……存分に、撲殺してあげるわ」
●
「……お前の敗因は、このニンジャを脱がせてしまったことだよ」
戦闘終了後──
沈黙し、動かなくなった水魔を見やって。さんぽは赤いマフラーを棚引かせながら背中でそう語った。
直後、注目効果により皆の視線が集中していることに気付き、「みっ、見ちゃダメだもん!」と顔を真っ赤にして服を押さえる。
「あー、やっとサッパリしたわ。色んな意味で。……さ、気分転換に美味しいものでも食べに行きましょうか」
海の家でシャワーを浴びて人心地付いた夕姫が、友人たちを食事に誘う。
加奈子と沙希は顔を見合わせた。
夕姫もまた色んな意味で、『脱いだら凄い』人でしたー