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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/08/31


みんなの思い出



オープニング

 2013年、夏── 山形における天使勢力の大規模侵攻を警戒する任務に当たっている民間撃退士会社、通称『笹原小隊』は、斥候任務の最中に優勢な敵勢力と遭遇。大きな損害を出していた。
 追撃の撃退には成功し、敵騎兵指揮官を討伐して幾ばくか時間は稼いだものの、斥候隊16人中、8人を一刻に喪失した影響は大きく…… 定員40名の笹原小隊は現在、28名でもって任務に当たらねばならぬ状況になっていた。
「あたら優秀な歴戦の兵たちを…… 4年来、共に戦い続けてきた戦友たちを、多く失う結果となってしまいました。如何なる処罰も覚悟しています」
 斥候隊を率いた指揮官の1人、第一分隊長の藤堂は、まだ血も乾かぬ野戦服姿のまま、僚友の杉下共々、小隊長たる笹原の元に赴き、踵を鳴らして頭を下げた。
 戦果よりも何よりも、まずは生き残ること── それが、『笹原小隊』が創設されるきっかけともなった理念であった。笹原小隊は元々、方針を転換する前の久遠ヶ原学園にて、軍隊式教育を受けてアウルの成長に支障を来たしたかつての学園生たちが、卒業後に有志が集って設立したものである。低レベルで成長が頭打ちとなった撃退士たちが、厳しい撃退士人生を共に生き抜いていく為に、互助を目的として作られた集団だ。
 故に、敵騎兵指揮官を屠った戦果も、藤堂には大した慰めにはならなかった。……下げた頭に奥歯が軋む。勿論、仇を討てたことは嬉しいが、何より、部下を、いや、戦友を死なせてしまった自分が何よりも許せなかった。
 執務室のデスクで、藤堂、杉下、両分隊長の謝罪を受けた『小隊長』の笹原は、少し困ったような顔をして、傍らに立つ副官を見上げた。
「……辞めたいのですか?」
「隊には残ります。これからは一兵卒として責務を果たすべく……」
「馬鹿なことを言わないでください。今、ここで大勢の兵を死なせた上に、さらに分隊長を二人も失うわけにはいきません」
 優秀な人材を遊ばせておく余裕などない。貴方たち個人の心情を忖度している余裕もだ── 副官がそう言葉を続ける。
「しかし、それでは部下への示しが……」
「ここは普通の軍隊組織ではないよ、藤堂くん。隊員も皆、駒ではない。自分たちのリーダーは自分たちで決める。そして、彼等はいまだ、君たちが自分たちの分隊長いることを望んでいる」
 答えたのは笹原だった。──兵たちは、藤堂たちが最悪の中で最善を希求し続けたことを知っている。過去4年の間に積み上げられた信頼は、そう簡単に崩れるものでは──足抜け出来るものでは、ない。
「それよりも大事なのはこれからの事だ。この『砦』を抜かれてしまえば、最悪、避難民でごった返す山形市まで敵の侵攻を許しかねない。藤堂くん、報告を。鳥海山からの大規模侵攻の可能性は?」
 藤堂は困ったように隣の杉下を見やったが、杉下は微笑で頷くばかり。藤堂は分隊長を辞めることを諦めると、嘆息の後、報告を始めた。
「……我が隊が入手しえた情報に限れば、敵の山形方面に対する大規模侵攻はない、と自分は考えます」
「ほう。遭遇した敵骸骨騎兵と骸骨戦士は結構な戦力だったようだが。その根拠は?」
「単純な話です。騎兵は『攻城戦』には向きません。遭遇時の状況を見るに、敵はまだその騎兵隊を整備──訓練しているような状況でしたから…… 少なくとも、この正面の敵に関して言えば、この『砦』を今すぐどうこうできるような戦力の配備状況にはないはずです」
 その敵騎兵も、先の戦いにおいて壊滅的な損害を被ったばかりである。彼我の現状を鑑みるに、予想外の遭遇戦で、想定外の被害を互いに出してしまった、と言ったところか。
「では、僅かなりとも時間は稼げる、というわけだな? 戦力立て直しは急務だ。28名ではとても防衛と哨戒、双方には手が回らない」
「……そこで、我々は、如何ながら、久遠ヶ原学園に助力を求めることにしました。兵が足りない分を依頼と言う形で補完しつつ、定員割れの状況を一刻も早く改善する…… それが専らの最優先事項となる、のですが……」
 そこで笹原と副官は顔を見合わせ、藤堂にチラと視線をやった。……笹原小隊はその多くが、かつての久遠ヶ原学園において軍隊式教育を受け、アウルの成長が阻害された撃退士たちで構成されている。厳しい教練の末、撃退士としての責務、人類への義務感を徹底的に叩き込まれた挙句、肝心の力は伸び悩み…… そんな彼等の苦悩とは無縁の所で生活している今の学園生たちに対して、現場の兵たちの多くは複雑な感情を禁じえないでいる。
「……いいんじゃないですか?」
 藤堂は、学園生の受け入れをあっさり認めた。微笑を浮かべる杉下。笹原と副官が驚いた顔をする。
「いいんじゃないですか? 幾度か戦いを共にしましたが、連中、こちらが思っていたよりもずっと真摯で、そして、高い実力を持っています。隊との連携などには正直、不安が残りますが、そこは我々が彼等をどう『運用』していくか、の問題です」
 むしろ晴れ晴れとした表情でそう言う藤堂に、笹原と副官は露骨にホッと息を吐いた。
「それはよかった、なぁ、副官」
「えぇ、隊長殿。渡りに船とはこのことです」
 妙に機嫌が良い二人に怪訝な視線を向け、どういうことです? と問う藤堂。笹原は笑顔で頷いた。
「まぁ、実際問題、人員が足りないとどうしようもないので、学園には既に生徒の派遣を要請しておいたんだが……」
「はぁ」
「なんでも、もうすぐ進級試験が始まるとかで。あんまり人が集まらなかったんだよね」
「…………はぁ」
「うん、だから、藤堂くんと杉下くん、2名はこれより学園に赴き、直接、生徒の確保に当たるよーに。あ、ついでに卒業予定の生徒さんに対する入隊の勧誘なんかもしてきてくれるとありがたいなぁ」
「をい」
「あ、これは正規の業務命令です。拒否すると、お給料と福利厚生を管轄する副官の機嫌がちょっぴり悪くなっちゃうかもしれないなぁ」

 かくして、翌朝──
 久遠ヶ原学園の校門の前には、旧学園制服に身を包んだ藤堂と杉下の姿があった。
「なんで今更こんな格好を…… 10年ぶりだぞ? あちこちがキツくてしょうがないんだが……」
「いきなり野戦服で押しかけても引かれるだけですよ? 服がキツいのは…… 色んな所が成長したんですよ、きっと(棒読み)」
「筋肉がか?」
(……贅肉と言わないところは女の意地なんですかねぇ。でも、筋肉、って乙女心的にはどーなんですか、藤堂さん)
 慎重に表情を消した杉下を他所に、旧学園IDを示して学内への立ち入り許可を得る藤堂。勧誘するぞー、と意気込む彼女の背を見て、杉下は優しげな笑みを浮かべた。
 今回の学園への派遣は、藤堂の息抜きを意図した笹原隊長の計らいだろう。医療の経験がある自分と違って、藤堂は人の生死や命と言うものを割り切れていない。真面目な性分で休暇も取らないだろうから、死んだ部下のことでいずれ自分自身を潰してしまいかねない。
 優しすぎるのだ、と笹原は息を吐いた。生真面目な性質でようやく指揮官然としてはいるが、本来なら、戦場に立つような女性ではない。
(せめて今日一日だけでも、あの戦場のことを忘れられれば良いのだが)
 そう思ってから、ふと、杉下は小さく嘆息した。
 ──あるいはそれは、藤堂にとって最も残酷な話であるかもしれないが。


リプレイ本文

「では仕事にかかりましょう。有望な学生を探すとなれば、まずは体育の授業か戦闘訓練よね」
 IDチェックを経て校内へと入った藤堂と杉下は、早速、案内図を手に歩き出した。
 サブグラウンドの一つには、藤堂たちの目論見通り、戦闘訓練を受ける学生たちの姿── その中でも、グラウンドの片隅で別メニューで模擬戦を行っている若い──というより、幼い──外見の二人が目を惹いた。その体操着姿の男女が手にしていたのは、訓練用の模擬刀ではなく、本物の魔具だった。
「動きが重いな。スキルを見る限り、熟練の撃退士のようだが……」
「うん。恐らくは、病み上がりの身体慣らしといったところかな?」
 話す間に、少女が仕掛けた。
 大鎌を活性化させつつ接近し、目にも留まらぬ速さでそれを振るう少女。その一撃を、少年は半身をずらしただけの、最小限の動きでかわす。
 だが、最初からそれを予測していたのだろう。少女は得物を振り切るより早く、武装を鎌から糸へと変更した。クルリとその身を回転させつつ、引っ掻くように手を払い。その動きに追随して5本の金属糸が宙を奔る。その糸が発する微かな光を視界に捉え、少年は大きく一歩退いた。眼前をただ音のみが跳ねていき── それが行き過ぎるのを見極めながら、少年が『クラブのエース』を取り出し、放つ。アウルの力で生み出された1枚のトランプは瞬時に無数のカードの嵐と化し。次々と少女に張り付いてその動きを拘束する。
 すかさず追撃をかけようとした少年は、だが、少女が無造作に口から放った『破軍の咆哮』に阻まれた。高密度に圧縮されたアウルの『砲撃』を寸での所で身をかわし…… 少年は訓練を中断すると、慌てて少女に詰め寄った。
「ちょっ、今のガッツリ本気だったよねっ?! 当たったらどうするのさ?!」
「またまたァ、そんなご謙遜。しっかり見切っていた癖にィー♪」
 ひらひらと手を振り、取り合わない少女── 藤堂と杉下は顔を見合わせ頷き合うと、グラウンドへと下りていった。
 それを不審者を見る目つきで迎える少女。藤堂たちは慌てて事情を説明した。
「『笹原小隊』、ですか。お話は色々と聞いていますが……」
 少年──エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、手渡されたビラに視線を落とすと、済まなそうに顔を上げた。
「皆様のことは偉大なる先輩方として尊敬しておりますし、献身的な活躍には感動すら覚えます。ですが、すいません。卒業後は祖国に戻って家業を継ぐので……」
 エイルズレトラの返事に、がっくりと肩を落とす藤堂。それを見ていた少女──黒百合(ja0422)が何か思いついたような顔をして。藤堂の背にしな垂れかかると、ご飯を奢るよう囁いた。
「私にご飯を奢ると色々な利点があるわよォ? まず、将来入隊する(かもしれない)生徒に好印象を持たせられるしィ、こうして現役と仲良くしてれば、学園外の人間に対する生徒たちの警戒心も薄らぐような気もするとかしないとかいう希望的観測……? まァ、要約すると、先輩なんだからメシ奢れェ♪」
 藤堂は暫く背中の黒百合を振り払おうとしたが、無理だったので諦めた。まあ、学園を案内して貰う報酬代わりとすれば納得はできようか。……うぅ、給料安いのに。

 藤堂は杉下と手分けするため分かれると、黒百合(流石に背中からは下ろした)と共に学内を回った。部外者は校舎の中には入り難かったので、黒百合の案内はありがたかった。空き教室に残っていた何人かに声をかけては断られ、を繰り返し…… 図書室の前に差し掛かった藤堂は、ふとその足を止めた。
「? どうしたのォ……?」
「いや、なんか懐かしいな、って。建物は違っても、中の本は、多分……」
 室内に入り込み、目当ての本を見つけてクスリと笑う藤堂。デジタルに変わっていたが、古い貸し出し記録も残っていた。そこに自分の名を見つけて、なんとなく泣きたくなる。
 その光景を微笑で見つめながら、「気をつけた方がいいわよォ?」と黒百合が告げた。怪訝な顔をする藤堂に黒百合が続ける。気配を消した何者かが、貴女の背中に近づいてるから、と……
「え?」
 直後。本棚の陰から音も無く飛び出して来た人影が藤堂の背後へ回り込み、一切の躊躇も無しにその腕を藤堂の首に巻きつけようとした。首を極められる直前、咄嗟に展開する『シールド』。視界と、そして、首へのルートを物理的に塞がれた襲撃者を藤堂が床へと投げ飛ばし。馬乗りになって銃を突きつけたところで、大きく目を見開いた。
「子供……!?」
 その一瞬の隙を見逃さず、襲撃者の少女は藤堂の腕を取って銃口を顔から逸らしつつ、そのまま三角締めへの移行を狙い……
「そこまでェ」
 それが極まる直前、黒百合の大鎌が割り込んだ。近接戦途中でフリーズした少女と藤堂に対して、図書室にいた生徒たちが迷惑そうに「しー」と人差し指を口へと当てる。
「これくらいじゃ動じないんだ……」
 そんな生徒たちに苦笑しながら…… とりあえず、藤堂は襲撃者の少女──Robin redbreast(jb2203)を外へと連れ出し、廊下の端に正座させた。
「なぜこんなことを?」
「いえ、『もっと一般常識を学びなさい』との先生の指導に従い、図書室で勉強していたら、なんか怪しい人がこちらをじろじろ見てたので…… とりあえず生け捕りにして目的を吐かせようかと」
 今しがたのRobinより怪しい人がいるのだろうか。そんな事をそこそこ真剣に悩みつつ、藤堂は銃をしまうと自らの身分を説明した。
 事情を聞くと、Robinは素直に「ごめんなさい……」と謝った。同時に、彼女の頭の中で『学園OG』が『上官』と同義にシフトした。幼い頃、特殊な環境で『教育』されたRobinは、その思考法がどこかズレたところがある。
「山形ですか。命令とあらばすぐにでも」
「うん、ありがとう…… でも、今日は人集めが任務だから」
「はっ。シンパ作り、ですね? とりあえず、放送室を占拠してプロパガンダ映像を繰り返し流して、洗n」
「あはははははは」


 新たにRobinという道連れを得た藤堂は、学舎から斡旋所へと移動した。依頼を探す生徒の方が、説得もし易いだろうと考えたからだ。
「ああ、山形戦線の……」
 最初に声をかけた赤いマフラーの男子学生は、笹原小隊の名を知っていた。流石、依頼所にいる生徒! 藤堂のテンションがガッと上がる。
「先日の、砦前の戦いに俺も参加していたんですよ! 見覚えありませんか?」
 ウッ、と言葉に詰まる藤堂。その生徒、千葉 真一(ja0070)は期待に満ちた目で赤いマフラーをアピールするも、思い出せない藤堂は微妙に目を逸らす。
 暫し沈黙の時が流れ…… 真一は、突然、ポーズを決めると、「ゴウライガっ!」と叫んで光纏した。そのヒーロー然とした姿を見て、藤堂がああっ、と声を上げる。
「覚えてる、覚えているよ! 確か物凄いスピードで走り回った子だよね! うん、あれは確か、田んぼでクワガタと戦った時だ!」
「え、そうでしたっけ?」
 再び流れる気まずい沈黙。黒百合とRobinがそれぞれの表情で生暖かく状況の推移を見守る。
「とっ…… とりあえず、立ち話もなんですし…… どこか座れる場所でどうですか?」
 どうにか言葉を搾り出す真一。藤堂はありがたくその提案に飛びついた。

「あれ? 藤堂さん? こんな所で何を? なんか珍しい姿を見た気がするんだよ」
 食堂へと移動する途中、藤堂たちは知り合いに── 巫女服姿の彩咲・陽花(jb1871)に声をかけられた。
 陽花は友人の葛城 縁(jb1826)、月影 夕姫(jb1569)と共に、芝生にシートを広げてお弁当の準備をしているところだった。藤堂は手短に学園に来た目的を告げた。
「勧誘ですか…… すみません、私は、卒業後は家業を継ぐことになるので……」
 申し訳なさそうに断る夕姫に、藤堂は首を振った。断られるのも数をこなせば慣れるものなんだなぁ、とそんなことを思ってみる。
 夕姫は肩を落とした。今回の笹原小隊の勧誘は、あの時の損害が原因だろう。何とか力になりたいが、どこも人手不足の現状、競争相手は多いはず。何か特別な一手がいる。そう、例えば地元出身の撃退士に声をかけるとか……
「とりあえず立ち話もなんですし……」
「よかったら一緒にお昼ご飯、食べないかな?」
 夕姫と縁が予備のシートを広げ、藤堂たちを昼食に誘う。藤堂はその言葉に甘えることにした。
「丁度良かったんだよー。色々と新メニューを思いついちゃって、流石にちょっと作りすぎたかなー、って…… みんな、遠慮なく食べてね!」
 全ての重箱をオープンしつつ、お茶を注いで回る縁。陽花はいそいそそわそわしながら、自らの背後に隠していた弁当箱を取り出した。
「人数も増えたことだし! ここは私のお弁当の出番……」
「「ダメ!」」
 瞬間、縁と夕姫の2人に物凄い勢いで制止された。特に縁はシートの端からすっ飛んできた。
「人死にを出す訳にはいかないよね、陽花さん?」
「そんなにっ!?」
 体育座りで『の』の字を書いて落ち込む陽花。スイーツはこんなに美味しく作れるのになぁ、と、縁が陽花の作ったお菓子を食べて涙する。

「あの…… お食事中すいません。笹原小隊の方でしょうか?」
 藤堂の学生時代の話なんかを話題に昼食を続けていると、眼鏡の若い青年が藤堂に声をかけてきた。
 余程、急いで来たのか、或いはあちこちを駆けずったのか。青年は暫し深呼吸で荒い呼吸を整えて…… 後、何か覚悟を決めた面持ちで藤堂の前に進み出た。
「……初めまして。私は高等部2年、105組の袋井 雅人(jb1469)と申します。卒業後の進路として、笹原小隊への入隊を真剣に考慮しています。ついてはお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
 真剣に、緊張に身を強張らせながら挨拶する雅人。その言葉が終わらぬ内に、藤堂は雅人の手を取った。その目には涙まで浮かんでいる。
「そう言ってくれたのは、君が…… 君が初めてだ!」
「藤堂さん……!」
 緊張しすぎて、なんか貰い泣きする雅人。とりあえず落ち着いてから本題に入る。
「学園での成績や、その他の資料を持参しました。ずばり、自分は笹原小隊で戦力になれるでしょうか」
 雅人が両手で差し出した資料を、藤堂は流し読んだ。雅人の成績は過不足なく『普通』だった。むしろどうやったらここまで普通なのか訊ねたいくらいに普通だ。
 だが、ぶっちゃけ、小隊の採用に関しては、学園での成績は参考資料程度に過ぎない。『仕事』は入社後に覚えて貰う。むしろ大事なのは『正しい素質』を持っているかだ。
「大丈夫だろう。撃退士としての力量は既に隊員を上回っている。真面目で素直そうだし、何より熱意がある」
「藤堂さん……っ!(以下略)」
 そんなやり取りを続ける藤堂と雅人を、陽花はぼんやりと眺めていた。
「……そういえば、院を出た後のことって、考えてなかったね。夕姫は家業の退魔師を継ぐとして、縁はどうするの?」
「私は…… 保育士になるのが夢だったけど、今はそれに撃退士も加わっている、かな?」
 話を振られた縁は、照れ臭そうに微笑を浮かべた。
「二束の草鞋は大変だけど…… 子供たちの笑顔が泣き顔に変わる、そんな世界は嫌だから。小さい頃からの夢だし、お母さんも応援してくれる。だから、頑張ってみようと思う。……陽花さんは?」
「ん。私は、可能なら…… 演劇の世界に入りたいかな」
「巫女さんじゃないんだっ!?」
 陽花が答えると縁は驚いた。小劇団に所属してたり、モデルのバイトもしているから不思議ではないけれど、巫女服を普段着にしてるのに。
「実家に帰ると家族がうるさいけどね。……でも、舞台女優になるのが私の夢。大勢の前で演劇が出来れば、こんなに幸せなことはないよ」
 苦笑から微笑へとその表情を変える陽花。その言葉を聞いて、雅人は「夢、か」と呟いた。
 記憶を失った自分にとって、この学園と皆が『家族』であった。だが、それも卒業までの期間限定。将来に対して、不安がないといえば嘘になる。
 記憶を失った自分には、まだ夢と呼べるような『未来』はなかった。或いは、自分は、卒業で失うことになる新たな『家』を──学園と言う拠り所の代替物を、笹原小隊という繋がりに見出そうとしているのではないか──?
「Robinは将来、やりたい事は?」
「……何も」
 多分、死ぬまで何かを殺し続けて生きていくんだと思う── 何の疑いもなく答えるRobinの微笑に、藤堂は戦慄し。だが、自分と何が違うのか、と、我が身を顧みて暗澹とした気持ちになる……
「みんな、聞いてくれ! 俺の夢は……!」
「「「ヒーローでしょ」」」
 その場で勢い良く立ち上がって己の夢を語ろうとした真一は、直後にほぼ全員からツッコミを入れられ、「お、おぅ……」と立ち尽くした。喜んでいいのか、悲しむべきか、中々に複雑な心地ではある。
 そんな真一を見て、藤堂は、クスリと笑った。
 みんな、この学園にいる間にやりたいことを見つけられると良い。その目標に向かって走り続ければ良い。私たちには存在すらしなかった、『戦うことしか知らぬ大人』になる以外の選択肢が。この学園には、あるのだから。


「色々な話が聞けて勉強になりました。もし、現場で一緒になった時にはよろしくお願いします!」
 夕方を迎え── 帰還すべく杉下と合流した藤堂に向かって、真一は頭を下げると元気良くその場を走り去って行った。
 三々五々去っていく学生たちを見送りながら、藤堂は旧校舎の方に視線をやった。今回の『里帰り』で心残りがあるとすれば、青春を過ごしたあの場所を見ることができなかったことだろうか。
「すみません。あの辺りは閉鎖区域になっているので……」
 夕姫が済まなそうにそう告げる。学園ゲート出現時、年の離れた弟さんが亡くなったことは聞いていた。
「あの…… 入隊は無理ですが、卒業まで出来うる限り協力させていただきます。おこがましいかもしれませんが…… 私たち、藤堂さんの『戦友』ですからね」
 そう言って去っていく夕姫たち。最後に残ったのは黒百合だった。
「隊長なんて職務は辛いばかりよォ? 迫られる非常な決断、忘れられぬ仲間の死…… まァ、不安を感じたら気軽にまた来なさいィ。先輩の話に付き合うのも、後輩の役目だからねェ♪」
 その時は今度こそ奢って貰うから。そう言ってまた黒百合も去っていく。
「どうやら、いい後輩たちにめぐり合えたようですね」
 杉下の言葉に微笑を返し……
 藤堂は呟いた。

 寮へと帰る道すがら。真一は体育教師・松岡と出会った。藤堂たちと別れてすぐのことだった。
「会わないんですか?」
 去ろうとする松岡の背に、真一はそう問いかけた。真一は砦前の戦いの際、松岡が気にかけていた相手は藤堂たちだと直感していた。
「なんのことだ?」
 振り返りもせず去っていく松岡。その背を見送りながら、真一はまた首を傾げた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー