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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/30


みんなの思い出



オープニング

 『松岡教室』── それは、放課後、生徒有志によって行われている、とある自主戦闘訓練の通称である。
 初心者向けの基礎訓練と模擬戦闘、そして、学園ゲートから生じる天魔に対する実戦訓練を主な訓練内容とし、基本的には、編入したて初心者撃退士が依頼に入れるようになるまでのフォローを目的とする。『教官』は、学園の体育教師・松岡。古くから撃退士としての実務経験を持つ31歳の実技教員であり、他のボランティア──経験ある学生撃退士たちと共に『新兵』に対する助言と指導を行っている。

 その日、いつものように教官として初心者への指導に当たっていた松岡の携帯電話が、けたたましいベルの音を訓練場に響かせた。
 その身を強張らせながら、松岡が携帯に手を伸ばす。鳴り響いたその着信音は、緊急事態に際して用いる番号に割り当てたものだった。電話の主は、松岡の予想通り『踊るぷにぷに亭』──『中佐』と仇名される同僚の教師が『顧問』を務める、所謂ファンタジー世界の『酒場』を模したカフェ形式の学内依頼斡旋所──からだった。
「緊急の依頼が来ている。緊急に、纏まった数の撃退士が必要だ」
 『中佐』と呼ばれる髭面の同期は、開口一番、そう言った。
 実戦か? と聞き返しつつ、松岡が訓練場に視線をやる。訓練生の多くは、未だ実戦経験の乏しい『新兵』クラスの学生たちだった。恐らく『中佐』は松岡教室ならば手早く数が集められると踏んだのだろうが……
「悪いが、『中佐』。この場に集まっている学生たちの多くは訓練生だ。実戦はまだ早い。しかも、あくまで学生の自主参加による個人戦闘訓練であり、部隊として統制が取れているわけでもない」
「とりあえず数が揃っていればいい。依頼内容は『砦』の防衛支援──『防壁』の上から遠距離攻撃で敵を追い散らすだけの仕事だ。とにかく、現在、防御火力が手薄だという話で……」
「だがな……」
「同期の誼で頼む。……依頼主は『笹原小隊』だ」
 その言葉を聞いた松岡の身体が硬直した。『笹原小隊』とは、かつて軍隊式教育を受けた学園生たちが、卒業後に有志を募って設立した民間撃退士会社の通称だ。部隊単位で撃退士としての仕事を請け負い、その活動暦は既に4年。軍隊式教育によりアウルの成長が阻害された兵が殆どを占めるが、豊富な実戦経験と長年苦楽を共にした兵たちの連携により、隊としての実力は今の学園生たちと比べても決して低くはない。
「……わかった。学生を連れてそちらに向かう。ただし、引き受けるのはあくまで防御陣地からの銃撃だけだ。生徒たちを矢面に──前線に立たせるのは御免被る」
 松岡は『中佐』にそう伝えると、電話を切り、学生たちに事情を説明した。本人の希望により志願者を募り、了解した者たちのみを引き連れ、転移装置へ向かう。

 『笹原小隊』が担当する件の『砦』は、対天使の『最前線』で、敵の予想侵攻路──山間に流れる川に沿って走る道路と鉄道とを塞ぎ、蓋をする形で設営されていた。まるで刑務所の様な高い壁が即席で設けられ、その鉄扉の門の前面に、くねくねと折れ曲がった道と、幾重にも張り巡らされた鉄条網が敷かれている。
 『砦』の後方、笹原小隊『駐屯地』側のヘリポート──学校の校庭だ──に転移した松岡は、学生たちを整列させると駆け足で『砦』の中──というか、ぶっちゃけ、『防壁』があるだけの、その裏手──に入った。防衛体制を整えた小隊の兵たちの、どこか居心地の悪い視線に晒されながら。依頼を受けた学園生である旨宣言しつつ、生徒たちを『防壁』の上へと上げる。
 戸惑う生徒たちに整列させておきながら、松岡は『防壁』上の前線指揮官、『笹原小隊』の第3分隊長に歩み寄った。
 松岡を振り返った分隊長は、驚いた顔をした。
「おま……っ!?」
「状況は?」
 有無を言わさず言葉を重ねる。分隊長は溜め息を一つ鋭く吐くと、苦虫を噛んだ様な顔をして説明を始めた。
「……斥候として送り出した2個分隊が、優勢な敵と遭遇して孤立。少なくない損害を出しつつ脱出に成功したものの、現在、敵の追撃を受けている」
「救出には向かわないのか?」
「隊の上層部はここの防衛線の維持を最優先とした。とにかく今は人手が足りず、兵を前に出す余裕はない。……斥候の車両を迎え入れたら、敵には壁上からの銃撃によって退散していただく」
 なるほど、目的は敵の殲滅にはあらず、ということか。松岡は素直にホッとした。壁上からの銃撃だけなら、生徒たちにも被害は出ない。
「改めて確認しておくが、学園に属する撃退士は全て久遠ヶ原学園の直轄だ。撃退署にも、撃退庁にも、そちらにも指揮権はない」
「分かっている」
「ならばいい。では、我々が請け負うべき担当戦域はどこになる?」
 互いに刺々しく言葉を交わしながらも、互いにプロとして依頼内容の詰めに入る松岡と分隊長。その横で、双眼鏡を手に前方の警戒に当たっていた兵が「あっ」と小さく声を上げた。
「どうした!?」
「せっ、斥候隊の車両が戻って来ました! 高機動車、数は3! 7騎…… いえ、8騎の『骸骨狼騎兵』の追撃を受けています!」
 直ちに戦闘準備を命令しながら、分隊長が兵から双眼鏡をひったくる。
 見れば、全力で道路を疾走する3台の高機動車──負傷した斥候を詰め込んでいる──に対して、追い縋ってきた8騎の『骸骨狼騎兵』──狼型サーバントに武装した骸骨型サーバントを騎乗させた、高い機動力と攻撃力を誇る敵種──が、遂に追いついたところだった。前方を走る最後尾の車両に対して、騎上から次々と弩を放ち始める敵騎兵。そこに車の屋根上に乗った撃退士たちが反撃の銃火を浴びせかける。
「全分隊、射撃用意。阻霊符担当者は使用を開始。藤堂班、杉下班を迎え入れる。火力を集中しろ。敵を『防壁』の中に入れるな」
「なにっ!?」
 分隊長の言葉に松岡が思わず振り返った時、敵に追われた3号車が遂に致命的な一撃を喰らった。放たれた弩の矢を受けた右後輪の車軸を撃ち貫き…… 直後、タイヤを脱落させた車体が地面に擦れ、火花を撒き散らしながらスピンし、停まる。
 敵は、数騎の狼騎兵を3号車の側に残すと、暫く1号車と2号車に対して追撃したが…… 2両が防壁からの射程内に逃げ込むと追撃を諦めた。
 そのまま踵を返し、取り残された3号車の周囲を囲み始める。松岡は慌てて分隊長を振り返った。
「助けに……!」
「……無理だ」
 両肩を掴んでくる松岡から目を逸らし、忸怩たる表情を逸らす分隊長。『防壁』に拠らずに平地であの『騎兵』と対すれば、少なくない損害が生じる。隊の最優先事項は防衛線の維持── ここで戦力を減らすわけにはいかない。
「馬鹿な! 戦友を見捨てるのか!」
「……ここを突破されれば、最悪、庄内からの避難民でごった返す山形市にまで敵の手が伸びることになりかねない! それだけはなんとしても避けなければならんのだ!」
 言っている本人が納得していない表情で、拳を握り締める分隊長。
 分かった、と松岡は呟いた。近場にいる生徒の中から、なるべく実力のある生徒に声を掛け、同意を取る。
「なにを……?」
「……学園に属する撃退士にはそちらの指揮権は及ばない。俺たちが、勝手に、あの車両に取り残された撃退士たちを救出してくるだけの話だ」


リプレイ本文

 車軸を破壊され、つんのめるようにスピンへ移行した3号車の運転席で、彩咲・陽花(jb1871)はどうにか横転させずに車を止めた。
 ハンドルに胸部をぶつけた痛みに咳き込みながら、友人の胸部なら衝突安全ボディとなり得ただろうか、などと埒もないことを考えつつ、後席の負傷者たちとイーリス・ドラグニール(jb2487)を振り返った。
「……あと少しだったのに。みんな、無事?」
「銃口一つで同時攻撃は防ぎ切れなんだ…… 『砦』の目の前まで来て、何たる不覚……っ!」
 ぶつけた頭を抑えながら、手早く負傷兵たちの傷と自らの突撃銃の具合を確認するイーリス。窓の外には、巻き上げた砂塵の帳を越えて、弩を手に迫る骸骨狼騎兵── 陽花はフレームの歪んだ扉を何度か目で蹴り開けると、外へと潜り出でつつ馬竜(スレイプニル)を召喚した。
「これ以上、犠牲は増やせない…… イーリスさん、絶対、死守だよ!」
「わかっておる。ここまで来てみすみす仲間を殺させてなるものかっ! ……お主らも諦めるなよ! 砦は近い。すぐに救援が来るはずじゃて!」
 イーリスは負傷兵たちをそう励ますと、自らは車の天井に空いた銃座から半身を乗り出し、左側から迫る騎兵に向けて、指切りで三点射を浴びせかけた。
 鳴り響いた銃声に、パッと距離を取る敵騎兵。そのままこちらを囲みながら、西部劇よろしくグルリと回りながら矢を射掛けてくる。
「スレイプニル、一気にやっちゃって! 出し惜しみはなしだよ!」
 その隊列の只中に、陽花は馬竜を突っ込ませた。指示に応え、その力を爆発的に発揮しながら暴れ回り、敵隊列を蹴散らしにかかる馬竜。反撃は勿論、苛烈だった。車右側にいる4騎が四方から次々と矢を放ち。『鎧』を撃ち抜かれた馬竜が嘶きを上げる中、陽花も傷を押さえて呻く。
 激しい反撃の矢の雨に首と肩を竦めて、再反撃の銃火を浴びせつつ…… ふと脳裏に浮かんだセリフに、イーリスは口元に笑みを浮かべた。
「この厳しい状況にあっておかしなことじゃな。……『騎兵隊はまだか』などとは」
「西部劇かぁ。アラモじゃなければいいんだけど」


「開けた場所で敵騎兵とまともにぶつかることとなる。……本当にいいんだな?」
 『防壁』の上から『城門』へと駆け下りながら、松岡は志願した生徒たちに改めてそう訊ねた。
「目の前にいる味方をみすみす見殺しにするなど、性に合わん」
「ここで見捨てたら、きっと愛ちゃん、後悔すると思うの。だから、精一杯頑張るの」
 松岡の後に続きながら、タルト・ブラッドローズ(jb2484)と周 愛奈(ja9363)がそれぞれの表情でそう答える。
 Rehni Nam(ja5283)は、今更何を、といった風情で首を振った。
「この状況、見過ごすわけにはいきません。……全力で救出しましょう」
「……すまん」
 その様な会話ももどかしかったのだろう。千葉 真一(ja0070)は『城門』につくや、いてもたってもいられない様子で門外へと飛び出した。
「必ず助ける……っ! 変身っ! 天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!」
 ポーズを決める時間も惜しみながら、変身──光纏をする真一。走り往く中、ヒーローマスクが活性化され、赤いマフラーが風に棚引く。
「マツオカ教諭、門の守備はお任せするのです」
「敵がこちらに突っ込んで来るとも限りません。門を抜かれぬよう、防衛をお願いします」
 Rehniと、そして、鳳 静矢(ja3856)の進言を受けた松岡は、一瞬、その身を硬直させたものの…… それが生徒の意見ならば、と受け入れた。
 真一を追って走り始めるRehniと静矢。共に前進するべく、とてててて……っと後を追った愛奈は、だが、見る見る内に引き離された。特段、彼女の足が遅いわけではない。先行する3人が速いのだ。
「『よぅ、お嬢さん。乗ってくかい』?」
 そんな愛奈の横に、後ろからやって来た高機動車が速度を合わせ、窓からタルトが顔を出す。
「っ! どうしたですか、それ!?」
 大きく目を見開き、可愛らしくびっくりする愛奈。タルトはニヤリと笑って見せた。
「1号車を借りてきた。負傷兵を運ぶに必要であろ?」
 とにかく乗れぃ、と告げるタルトにはいっ、と元気よく返事して。愛奈は車によじ登ると、屋根上に空いた銃座に半身を収めた。
「……実地で運転するのは初めてだがな」
「へ?」
「まあ、何とかなるだろう。振り落とされるなよ?」
 ぎゃりぎゃりと後輪を滑らせつつ、急発進をする1号車。愛奈の悲鳴を棚引かせていくそれを見送る松岡の傍らに、光纏し、車椅子から立ち上がった御幸浜 霧(ja0751)が、門の中から歩み寄った。
「松岡先生の侠気(おとこぎ)、わたくし感じ入りました。 不肖この御幸浜 霧。負傷者のため、そして何よりも松岡先生の侠気のため戦います」
 礼儀正しく一礼した後、凛とした佇まいで書を片手に抱えつつ。松岡と共に、門へと続く道の守備につく霧。その霧に松岡は言った。──味方は防壁の上にもいる。その銃撃を避けて敵が突破を図るとすれば、救出隊に喰らい付いての突破しかあり得ない。
「了解致しました」
 答えながら、霧はチラと松岡を横目で見上げた。
 どうやら松岡先生は今回、何かに焦っておられるようだ。


 『砦』の門の前には、30mに亘って鉄条網が敷かれていた。門へと続く道の幅はせいぜい車1台分。それも一気に突破されぬよう、左右ジグザグに蛇行している。
 その道をまず駆け抜けたのは、高い移動力に『ブースト』を掛け合わせた真一だった。開けた場所に出た瞬間、敵中に孤立した3号車に向け、全力で一気に距離を渡る。
「お前たちの相手はこっちだ! ゴウライ、反転キィィッック!」
 敵騎兵もかくやという速度で地を駆けた真一は、力強く地を蹴って華麗に宙を一回転するとそのまま、馬竜に突撃しようとしていた敵騎兵の横っ腹に思いっきり飛び蹴りを浴びせかけた。思わず転倒、落馬する骸骨狼騎兵。そのド派手な登場に思わず目を奪われて、敵騎兵が真一への攻撃へと移る。
「来やがったな!」
 真一は笑みを浮かべると、包囲されぬよう足を動かしながら、己の闘争心を解放させた。「Charge Up!」と音声が響く中、黄金の鎧へ収束していくアウルの輝き。直後、頭に突き出された槍を肩ごと首を動かしてかわしつつ、その穂先を手の平で逸らしながら、狼の腹に蹴りを入れる。
 そのまま真一を取り囲むようにして槍を突き出そうとした敵は、だが、駆けつけてきた静矢によってその包囲網を崩された。地面に向けていた銃口を跳ね上げ、両手で狼を撃つ静矢。敵の注意がこちらに向いた瞬間、装備を変更しながらクイクイと手で敵を招き── その挑発に激昂(?)した騎兵の一部が静矢に対して突撃を仕掛け、真一に対する包囲が崩れた。残った敵を、真一がパンチとキックで、車から離れた場所へと誘引する。
 迫る敵を見た静矢はフッと笑みを浮かべると、活性化した大太刀を構えて腰を落とし、アウルの力を刃に乗せて…… 集中したそれを放とうとした瞬間、後方から降り注いできた流星雨が、突撃してきた敵中へと降り注いだ。
 直撃し、或いは砕けて炸裂し、周囲へ飛び散る破片群。思わず行き足を止めた敵の突撃衝力はすっかり失われていた。珍しくきょとんとして後ろを振り返る静矢の後ろで、その『コメット』を放ったRehniがふぅ、と息を吐く。
「些少ですが、敵の頭は抑えました。今の内です」
 静矢の視線に気づき、軽く眉根を寄せつつ追撃を促すRehni。静矢は苦笑しながら、改めてアウルの力を乗せた刃を鞘から前方へと振り抜いた。地を削りて放たれた衝撃波はやがて紫鳥の形を成し── 傍らの僚騎と共に再び突撃に移ろうとしていた敵騎兵を、その乗り手たる骸骨を狼ごと切り飛ばした。その地に落ち、砕ける僚騎の姿に怯まず、突撃へと移るもう1騎。だが、それより早く、静矢は雄叫びを上げながら、あろうことか敵騎兵の正面から逆突撃を仕掛けていた。十分に加速が付く前に内懐に飛び込まれ、乗騎を一閃される骸骨。その直前に狼の背を蹴った骸骨が地に降り、槍で静矢と打ち合い始める。
 Rehniは正面の敵が静矢と真一との戦闘に入ったことを確認すると、自らは取り残された3号車へ向け、てってと走り出した。
 その進む先、3号車の傍らに、土煙と共に突っ込んできて急停車する1号車。屋根上の銃座から半身を出してた愛奈が、ガクンと思いっきり前のめりになりながら「ふみゅう……っ!?」とどうにか転げ落ちずに耐え切って。クルクル目を回しながら体勢を立て直すと活性化した符を掲げ、そのまま銃座から前衛を支援する形で雷の刃を投射する。
「よぉ。助けに来てやったぞ。感謝するが良い」
 タルトは、運転席の窓枠に肘を乗せると、隣の車両に乗るイーリスに向かって、得意げな笑みを浮かべて見せた。タルトにとってイーリスは、学園で己が属する私設部隊の隊長だ。
「ふむ…… こういう場合も『信じるものは救われる』というのかの?」
 対するイーリスはニヤリと笑って、タルトと拳を突き合わせた。そのまま地に降り、車の横へ位置する二人。右翼側に残る騎兵に互いに銃撃とカードを浴びせかける。
「お待たせしました。『騎兵隊』です。狼にも馬にも乗ってませんが」
 3号車の傍らまで辿り着いたRehniは、ニコリともせずにそう冗談を口にすると、負傷兵たちを中心に『癒しの風』を使用した。荒い息を吐いていた兵たちの呼吸が安らかなものへと変わり…… 傷だらけの陽花もまた、頬に柔らかな風を感じた瞬間、身体から痛みが消えていく。
 Rehniは負傷者の状態を確認した後、彼等が立てた救出作戦の概要を陽花に説明した。話を聞いた陽花は驚き、急いで馬竜を呼び戻した。
「了解したよ。じゃあ、すぐに負傷者を1号車に搬送するんだよ」
 陽花は戦場の様子を確認すると、自らは小型弩を活性化させつつ、負傷兵を馬竜の背に乗せ、愛奈が守る1号車へ搬送を始めた。「護衛します」とRehniがその傍らに立って『直掩』する。イーリスとタルトもまた、3号車荷台に横たわった負傷兵たちをその肩に担ぎ上げると、1号車の『屋根の上へと乗せる』。
 タタタッ、と足音がして。ハッとRehniが振り返る。真一を大きく迂回しながら、突進して来る敵騎兵。突き出された槍の穂先を、Rehniは白銀の槍で受け弾いた。そのまま後ろへ抜けようとする敵を強引に押し返し。足を止められた敵騎兵が苛立たしげにその穂先を突き入れようとした瞬間── 横合いから突っ込んできた静矢がその骸骨に体当たりをぶちかました。
「素早い相手には…… 闇雲に振り回しても、な!」
 体勢を崩した骸骨の槍の穂先を弾き上げつつ、狼の首を真一文字に切り落とす静矢。共に倒れた骸骨を、Rehniが槍で叩き割る。
「感謝します」
「それより搬送を」
 再び地を駆け出す静矢。振り返ると既にイーリスとタルトは負傷兵の1号車への搬送を終えていた。屋根の上の負傷兵を庇うように、自らも屋根の上へと上がる二人。最後の一人を馬竜に屋根に乗せさせ、車の傍らに控えさせ。陽花は運転席に入ると、エンジン音を高らかに鳴り響かせた。
「先に行ってくれ! 殿は俺が!」
 赤いマフラーを背に、5体の骸骨たちを睨み据えつつ、叫ぶ真一。静矢は頷くと、車両に先行して後退を開始した。鉄条網帯で唯一の後退路、その入り口を確保しておくためだ。
「すまぬ。後は頼んだぞ!」
 イーリスの言葉に振り返らず、親指を立てて見せる真一。陽花はアクセルを踏み込み、叫んだ。
「皆、行くよ。ここからが正念場だよ……っ!」
 エンジン音も高らかに、『砦』へ加速していく1号車。Rehniはそのエンジンルーフに飛び乗ると、上がった屋根の上から、追撃に入った敵騎兵の眼前に再び『コメット』を降り注がせた。
 1号車を追って迫って来た敵の数は、狼が無事な騎兵3騎のみ。その眼前に降り注いだ流星雨の弾幕は、その敵騎兵の行き足を完全に止めていた。かろうじて追撃に移れたのは、両端に位置していた2騎のみ。それが、荷物が重く、のろのろと加速する1号車に全力で追い縋る。
「フン、ちょこまかと鬱陶しい…… 異界の腕よ、『拘束しろ』」
 その内、右手から迫り来た1騎に関しては、据えた目でそれを見やったタルトが地面から無数の『腕』を呼び出し、その足を絡め取る。動けなくなった狼の上で弩を構えた骸骨は、だが、イーリスが3点射で撃ち放ったアウルの弾に『眉間』を貫かれて沈黙する。
 左側より迫り来た最後の1騎は、だが、突如、「ギャンッ!?」と狼が悲鳴を上げて、側方へと落伍していった。最後の最後になって、愛奈が放った『アーススピア』──地面を尖らせる攻撃魔法──の効果範囲内にまともに突っ込んでしまったのだ。『アーススピア』に拘束効果こそないものの、敵は一度失った速度を取り戻せはしなかった。再加速する頃には既に、1号車は鉄条網に辿り着いていたからだ。
「今だよ、スレイプニル!」
 運転席で発した陽花の命令に従って、馬竜が屋根上の負傷兵を咥えて上空へと飛翔する。同時に、タルトとイーリスもまた負傷兵を抱え上げると、『闇の翼』および『魔竜の翼』をその背に広げ、車の屋根を蹴って宙へと舞った。兵たちが歓声を上げる中、砦内へと降り立つ2人と1匹。それを背に見た真一は、組み合った骸骨1匹を『ゴウライ旋風アッパー』で吹き飛ばすと、再び『ブースト』を使用して一気に戦場を離脱した。
 途中、真一に迫る2匹の静矢がリボルバーで牽制し…… 傍らを駆け抜けてくのを待ってから、自らもその後を追う。
 防壁からの射程ギリギリまで近づき、その背に矢を放とうとした騎兵2匹は、だが、松岡と共に待ち構えていた霧によって追い払われた。
 敵が近づいてきた瞬間、狙い澄ました『彗星』による一撃が、上空から地へと降り落とされる。未練たらしく矢を放とうと戻った所へもう1発。にっこり笑顔で、その実、よくよく見ると青筋を立てながら。道上に立ちはだかる霧の横を、真一と静矢が互いに顔を見合わせながら駆け抜け、その撤収を待って、霧もまた颯爽と門へと戻る。

 松岡の帰還を最後に門扉は閉められ── 追撃すべき敵をなくした敵はとぼとぼと道を帰っていった。
 ちなみに、この残存騎兵は道中、砦へ帰還中の撃退士たちと遭遇し、狼数匹のみを残して全滅することとなる。

「帰って来たのは、これだけなのか……?」
 戦闘後。帰還した斥候隊の負傷兵が運び込まれた野戦病院──
 自ら志願して治療を手伝っていた霧は、負傷兵の一人に発した松岡の質問に、視界の隅だけで振り返った。
(誰かを探している……?)
 松岡が顔を蒼くしている。その理由が、霧はちょっぴり気になった。少なくとも、生徒の前でそんな姿を見せた事はない。
「藤堂隊長と杉下隊長なら、敵指揮官を奇襲する為、途中で降りた。あんたが心配することではない」
 負傷兵の一人が告げて── 野戦病院を去る松岡の表情は、霧からは見えなかった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
意外と大きい・
御幸浜 霧(ja0751)

大学部4年263組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ウェンランと一緒(夢)・
周 愛奈(ja9363)

中等部1年6組 女 ダアト
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
撃退士・
タルト・ブラッドローズ(jb2484)

大学部2年13組 女 ダアト
雪煙に潜む狙撃者・
イーリス・ドラグニール(jb2487)

大学部6年145組 女 インフィルトレイター