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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2013/07/21


みんなの思い出



オープニング

 斥候として送り出した2個分隊が壊滅的な損害を出し、現在、撤収中である── その情報は、『駐屯地』で待機していた他の『笹原小隊』の兵たちに瞬く間に漏れ伝わっていた。
 伝聞という形で噂が広まる中、その情報を裏付けるように、『駐屯地』のスピーカーが戦闘配置を命令する。動揺は大きかった。斥候に送り出した2個分隊── 第一分隊の藤堂班、第二分隊の杉下班は、『笹原小隊』発足当初から続く歴戦の兵たちが多く揃っていた。それが、16名中、生残8名。実に8名もの戦死者を1度の戦いで出したことになる。これは、40名にも満たない人員で任務を請け負う『笹原小隊』にとって、決して無視し得ぬ損害であった。
「生き残った8名も、暫くは使い物にならないでしょう。長期療養中の隊員も除くと、現在、隊で実働可能な撃退士の数は28人にしかなりません」
 小隊長の『執務室』──といっても、放棄された役場の一室を間借りしているだけだが──において、副官が小隊長たる笹原に現状を報告する。
 笹原はまず藤堂と杉下の無事を確認すると、一瞬浮かべた安堵の表情を消して、机の上の地図に視線を落とした。
「……暫く見ない間に、連中、まさかこれほど戦力を揃えているとはね」
 呻く笹原。斥候隊が報告してきた情報によれば、敵は少なくとも24騎の『骸骨狼騎兵』──狼型サーバントに小型の骸骨型を騎乗させた、高い機動力を誇る敵種──と、雑兵たる多数の『骸骨戦士』からなる中隊規模の戦力であったらしい。
「だが、同時に、救出作戦に際しては、10騎程度の骸骨狼騎兵とそれに倍する数の骸骨戦士を討ち取ったと聞いた。もし、これが本当なら、この戦線における敵の中核部隊に打撃を与えるチャンスでもある。もし、敵が深追いしてくるようなら、『砦』の『防壁』の側面、山中に兵を伏せさせ、『防壁』上からの十字砲火で薙ぎ倒せれば……」
 ……彼等、『笹原小隊』は民間撃退士会社である。山形の『最前線』において、鳥海山の天使勢力に対する警戒任務を請け負っている。
 同時に、彼等が『駐屯』する『砦』は、敵の予想侵攻路に対する防衛拠点としての役割も担っていた。山間を流れる川と、それに沿って走る道路と鉄道── そこに『防壁』を築いて『蓋』となし、他の地域から増援が来るまで敵の侵攻を遅滞させる、という役割である。
「これ以上、敵戦力の増強を黙って見ているわけにはいかない。このまま状況が推移すれば、最悪、山形市まで危険に晒される。……庄内からの避難民でごった返したあの町が、だ」
 危機感も露に力説する笹原を、だが、副官は冷静に諭した。『砦』の前に伏兵を出すのは危険過ぎる。万一、看破されれば、或いは伏撃に失敗したら、伏兵隊はみすみす敵の餌食になるだけだ。
「分かっている。だが、地の利がこちらにある内になんとしても叩いておかねば、手がつけられなくなってしまう。それだけは避けなければ。最悪、我々が全滅しても、増援さえ手配しておけば、ここが抜かれることはない」
 笹原の熱弁に、だが、副官は感応されはしなかった。熱のない瞳で笹原を見返しながら、呆れたように嘆息し、頭を振る。
「……そういうことではないのですよ。笹原小隊長殿」
「…………なに?」
「我々は部隊定員の3割を失った。即ち、『笹原小隊』の『商品価値』が3割以上失われたことを意味しているのですよ。ここの守りを任せられぬ、と雇い主に判断されたら、これまで我々が独占してきたここでの仕事を学園の連中に奪われかねない。最悪、契約解除もありえます」
 だからこそ、我々は壁に籠もって、あくまでここを抜かれぬことを最優先に行動すべきなのだ、と副官は言った。対処を考えるのは撃退局の連中の仕事だ。我々は契約した仕事だけしっかりしてればいい。人類への義務感なんて、持っていても邪魔なだけだ。
「……お前と言う奴は……!」
「あなたたち戦闘屋は戦いのことだけ考えていればいいのかもしれませんが。小隊の『財布』を預かる私としては、それだけを考えているわけにはいきません。……それに、良いのですか? この『笹原小隊』がなくなってしまっても? 貴方がお兄さんから預かった…… そのお兄さんに命を預け、ついてきた兵たちとその居場所を、あなたが、壊してしまってもよいのですか……?」
 笹原は奥歯を噛み締め、全身に怒りを漲らせ…… だが、最終的に、肩を落としてうなだれた。すっかり力をなくしたその肩を、むしろ慈愛すら感じさせる表情で副官がポンと叩く。
 すっかり反骨の気をなくした笹原に、副官は『砦』の防備を固める命令を出させ…… 直後、慌てた様子の伝令が一人、ノックもなしに駆け込んできた。
「何事か!」
「ハッ! 撤収中の斥候班から報告です。敵の指揮官を討つ為、藤堂分隊長と杉下分隊長が途中で下車した、と……」
 報告を受けた副官は、まさにあんぐりと口を開けた。
 この状況で敵中に留まるとは。被害を出しすぎて自棄になったか。或いは悲壮感に酔ってしまったのか……

 当の藤堂と杉下は、自棄になってもいなかったし、悲壮感に酔ってもいなかった。
 復讐心は…… 正直、ないとは言えないが、それでも、二人の思考は冷静である。
「敵は我々を追撃している。だが、砦の前までのこのこ追ってきて、銃火の前に身を晒すような真似はしないだろう」
 副官たちに連絡が入る少し前── 車中で藤堂は戦友たちに、敵の行動予測をそう語ってみせた。藤堂は斥候任務中にこれまで幾度か骸骨狼騎兵と交戦した経験がある。互いに損害を出さぬ程度の小競り合いの規模ではあったが、それでも砦の連中よりは奴等について知っていた。
「これまでの戦いを見るに、敵の指揮官(骸骨狼騎兵の中でも、『ダイアウルフ』に『骸骨指揮官』を乗せた大型のもの)は常に自らを安全な位置に置いていた。この追撃においても、自分の属する隊は後衛にしているはずだ」
 だが、今、我々の車両を追撃するに当たって、敵は足の速い騎兵のみでこれを行っている。先の戦闘で残った騎兵の数は、多くても16騎。これを前衛・後衛の二つに分けているなら…… 指揮官を討つ絶好の機会である。
 反駁しようとする部下を片手を上げて制しながら、藤堂は、今度は学園の撃退士に対して緊急で依頼を出すよう要請した。学園には転移ゲートがある。多少、慌しくはあるだろうが、幾人かは戦力を送り込めるはずだ。
「我々はここで降りる。山の木々に姿を隠し、敵騎兵の前衛が車両を追って通過した後…… 後から現れる敵指揮官を急襲する。なに、追撃の指揮を執らねばならぬ以上、敵は必ず現れるさ」
 それ以上の反論を部下に禁じて、藤堂と杉下は山間を走る道のカーブを利用して、敵から見えない位置で車から降り、山の木々の間に身を隠した。それから少しして…… 敵の追撃隊、騎兵縦列の1隊8騎が、砂埃を上げながら車両を追って通過していく。
 その直後から、ぼちぼちと転移されてくる学園生たち。余程慌てて呼集に参加してくれたのだろう。慌てた様子の彼等に、藤堂は立ち上がって手を振り、無線機を指し示す。
「……あの指揮官を倒せれば、暫く時間が稼げるだろうかね?」
 狙撃銃を活性化しながら、杉下が呟いてくる。
「……だといいんだけど」
 学園生への笑顔は絶やさず、藤堂はボソリと答えた。


リプレイ本文

 藤堂が笑顔だったから、雀原 麦子(ja1553)もまた笑顔で手を振り返した。学園より転移して直後のことである。
 すぐにその違和感に気付いた。藤堂はつい今しがた、戦友たちを亡くしてきたばかりのはずなのだ。
「……無理に笑顔を見せているんでしょう。僕たちが戦力として必要だから」
 麦子の傍らで、黒井 明斗(jb0525)が呟いた。でなければ笑えるはずがない。明斗も麦子も、藤堂ら『笹原小隊』の面々が今の学園に対して抱える複雑な感情を知っている。ましてや……

「藤堂殿、杉下殿。わしらも共に行かせてくれ! 怪我ならばもう十分回復した。今度こそ上手くやる!」
 分隊長2人が下車する直前の車中で、白蛇(jb0889)は縋るように2人に訴えかけていた。
 わしらの作戦の拙さが8人の兵を殺した── 血を吐くような白蛇の言葉に、鴉守 凛(ja5462)と月影 夕姫(jb1569)もその顔を俯かせる。
 だが、藤堂は頭を振った。学園の撃退士たちが救出に来てくれたからこそ、藤堂や杉下たち、8人の命が助かったのだ。
 部下たちを失った責任は、指揮官たる自分たちにある。それが戦場に立つ者の『覚悟』だと、藤堂は信じている。

「それは理屈です。でも、感情は……」
 明斗が小隊の面々に会ったのは一度だけ。それでも、在りし日の彼等を思えば胸が痛む。
 自分ですらそうなのだ。共に死線を越えてきた藤堂たちなら、それはいかばかりのものか……
「随分と好き勝手をしてくれたようじゃな、敵は…… その礼はしっかりしておかなくてはのう」
 斜面を下りてきた夕姫や白蛇らの顔を見やって、リザベート・ザヴィアー(jb5765)は呟いた。
 藤堂の部下たちの仇討ち── だが、それ以上に、ここで敵の頭を潰しておくことは重要だ。頭さえ潰してしまえば、大群も烏合の衆に成り下がる。
「ここであの指揮官を倒せるかが、今後のこの戦線の鍵になりそうね」
「……あやつはここで仕留めてくれる。これ以上、失ってなるものか」
 伏撃場所──道路両脇の斜面に生えた下生えに身を隠しながら、夕姫と白蛇が決意を新たにする。
「行動で、返します……」
 凛は分隊長たちに頭を下げると、斜面を下へと駆け下りた。
 口下手な彼女が辛うじて搾り出したその一言に、込められた想いは嘘ではない。だが、同時に彼女の心の中では、敵に対する破壊欲求と眼前に迫った戦いへの昂りが心の底から滲み出し。抑えきれずにさざなみとなって、口の端に笑みをたゆらせる……

「つまり、色々と無理をしているってことよね。藤堂ちゃんは」
 麦子は、こちらに下りて来る藤堂に歩み寄ると、その両手をがっしと握り、その顔を近づけた。
「きっちり敵将の首を取って、まずは送り狼にご退場願いましょう。んで、帰ったらビールで女子会ね。言いたいことはぜーんぶ聞いてあげるから」
 藤堂は戸惑った。撃退士はアルコールがすぐに分解されてしまうから、いくら飲んでも酒には酔えない。
「ダメダメ。そんなだから色々溜まっちゃうのよ。……撃退士はね、アルコールじゃなく雰囲気で酔うの。そこんとこ、後でみっちり教えてあげるから!」


 撃退士たちは班を手早く二つに分けると、道路脇の斜面に生えた木立や下生えの陰に身を隠した。一班が敵の頭を抑える間に、別班が敵の退路を塞ぎつつ、敵指揮官を直撃する作戦だ。
 山里赤薔薇(jb4090)はその身を河川敷側の斜面に生えた草叢の下に潜り込ませると、そのまま身じろぎもせず待機の姿勢に入った。
 だが、することがなくなると、途端に不安が押し寄せてきた。優勢な敵に対する待ち伏せは、待ち伏せる側にも心理的な負担が大きい。ましてや、赤薔薇にとって、このような奇襲攻撃は初めての経験だ。
(『敵指揮官を攻撃するには、まず敵隊列前半をやり過ごす』…… でも、もし、隠れてるのがばれてしまったら……? 敵の全力が私たちに……?)
 怖い。正直、もう帰りたい。早鐘の様に鳴る心臓、噴き出す汗── 魔具を持つ手の震えが止まらない。
 と、すぐ横に伏せた明斗と目が合って。明斗は、自身も震える手を赤薔薇に見せた。
(大丈夫。落ち着け。冷静に、正確に、なすべき事をなす…… 狙いは指揮官、それだけだ……)
 赤薔薇に深呼吸を促しつつ、自身にそう言い聞かせる明斗。一方、これが始めての本格的な戦闘依頼となるエルリック・リバーフィルド(ja0112)は、不安とは別の意味でその心臓をドキドキさせていた。
(遂に初めての戦闘依頼で御座るな……! 足手纏いにはならぬようせねば……!)
 武者震いに感動しつつ、敵の到着を待つ金髪娘。勿論、不安もあるのだが、未知の経験に対する期待と興奮も少なくない。
 生真面目に装具の再点検をして、ふと自らの香水の香りに気付き。の草の葉を千切って自身にすり込み、コロコロと地面を転がり、匂いを消す。
 そのまま大地に伏せたエルリックは、大きく息を吸い込みながら『遁甲の術』で気配を消した。空を渡る風の音に、遠くに聞こえる鳥の歌声── そのまま耳を地面にくっつけ、狼騎兵の足音探しにその意識を集中する……
「来たわね…… 敵指揮官を含む本隊9騎。道路上をこちらに向け、進行中。隊形は単縦列。指揮官の左右のみ、1騎ずつ護衛が併走している……」
 双眼鏡ごと上着を被って地に伏せた夕姫が、無線機にそっと状況を囁く。
 通常の騎兵と比べると恐ろしく静かに迫り来る狼騎兵。裸足で地を駆けるような多数の足音が、緊張し、息を潜めるエルリック、赤薔薇、明斗、麦子の頭上と眼前を駆け抜けていく……
 リザベートは、周囲に潜む凛や夕姫を視線を交わすと、白蛇と共にタイミングを計り、敵の進路上──道路の上へと二人してその身を晒した。
「来るのじゃ、『司』!」
 片手を挙げ、『堅鱗壁(ストレイシオン)』を召喚する白蛇。突如、進路上に出現した敵対勢力の登場に、敵騎兵隊は一旦、速度を緩め、突撃の為の3列縦隊へ隊列を変換しようとする。
 だが、撃退士たちの初撃は、正面からではなく、側面からだった。
 隊列転換中の敵騎兵側面へ向けて、木立の中に立ち上がった夕姫が砲身の如く伸ばした右腕── その右手に嵌めた5連の指輪から5発の光弾が生み出され、ほぼ零距離で撃ち放たれる。
 タイミングを完璧に合わせた一撃を側面にまともに喰らい、左翼側の骸骨1匹、たまらず狼から転げ落ちた。それを避け、慌てて速度と隊列を乱す後列。突出する形となった右翼の1騎に対してすかさずリザベートが書を開き。手をかざし、頁から空中に現出させたハート型の矢を、手を振り、敵へと投射する。
 更に右側から凛も飛び出し、敵隊列に突撃を敢行した。無言で草叢から飛び出し、光の波動──『フォース』でもって、敵指揮官の前方の護衛の1騎を吹き飛ばす。その空いた隊列の只中に、凛はその身をねじ込ませた。眼前に飛び出してきた敵に、思わず急停止する敵指揮官と護衛たち。息つく間もなく、凜は『タウント』を発動させた。口上で注目を浴びるのは苦手なので、行動で示すことにする。大見得を切るように槍斧をぶん回し、そのまま地面へ勢いよく振り下ろして、ここは通さぬと言う意志を知らしめる。
 敵中に飛び込んだ凜は、隊列に打ち込まれた楔の如く、敵を中央から分断していた。当然、敵中に突出、いや、孤立した形の凜に敵の反撃が集中する。
 前後左右から繰り出される槍の穂先。無防備な背中に突き出された槍先は、だが、凛の身を包む蒼い燐光によって阻まれた。それは白蛇が召喚獣に使わせた『防御結界』の光だった。豪雨の様に振り下ろされた槍の穂先はその殆どが燐光の壁に阻まれ、凛の身体まで届かない。
「『司』よ、皆の守護は任せた。わしは敵騎兵の行動を阻害する!」
 白蛇の言葉に応じるように、その翼を広げてみせる翼竜。その横で、リザベートは傍らに立つ木の幹に阻霊符をぴしゃりと張り付けた。これにより、道の両脇に生えた木々や草々は全て敵騎兵を道路上に封じる檻と化した。いかに狼騎兵と言えど、助走するスペースがなければ斜面の木々は飛び越えられない。
「足自慢じゃというのならば、それを徹底して妨害するまでのことよ」
 幼い顔立ちに傲岸(っぽい)表情を浮かべながら、リザベートは、凜に正対してこちらに背を向けた騎兵にアウルの矢を放った。後方から射掛けられ、思わず乗り手を落とす狼。射撃に気付いた騎兵の1がリザベートを排除すべく突撃へ移り。それを翼竜が雷撃でもって迎撃する。
 凛はそのまま槍斧を縦横無尽に振るって敵前衛の封じ込めにかかった。夕姫もまた敵が攻撃目標を定める度に腕を振り向け、光弾を速射してやることで敵を混乱させ続ける。
 前衛を分断された敵指揮官は、後衛に混乱が波及せぬよう、一度距離を取ろうとした。縦深さえ確保できれば、射撃するにも突撃するにも、或いは逃走するにも行動の自由度が高くなる。
 だが、勿論、撃退士たちはそれを許さなかった。後方、退路の道の上には、既に明斗と赤薔薇の二人が飛び出している。
「逃がしませんよ! まずは……っ!」
 星の指輪を嵌めた手を振りかざし、明斗が空中に生み出した無数の小彗星を一斉に直上から撃ち下ろす。斜めの尾を曳き、次々と降り注いだ流星の群れが、敵中で砕け、炸裂し、直撃し、敵指揮官と護衛の騎兵たちを薙ぎ払う。
 その流星の猛威が炸裂する傍らのギリギリを見極めながら、赤薔薇は出来うる限り敵へと近づき、敵指揮官と周囲に対して毒の霧を浴びせかけた。地から沸き立ち、滞留する毒霧の中から、てんでばらばらに逃げ出す敵。そこに明斗が再度、流星雨を叩きつける。
 二度目の攻撃は、敵指揮官を効果範囲の端へとずらしていた。毒の霧から逃れて孤立した敵指揮官へ向けて、味方が走り込むスペースに彗星を落とさぬ為だ。
「その首、なんとしても置いていってもらうわよ!」
 髪に幾本もの枝葉を絡ませながら、ポン刀片手に飛び出していく麦子。その後ろについて行きつつ、エルリックが巻物を取り出し、生み出した風の刃を敵指揮官が乗るダイアウルフへ放つ。……巻物を口に咥え、両手で印を結んだのは、幼い頃に見たニンジャ映画(白黒)の影響だろうか。ともあれ、爆砕する土煙の中から飛び出して赤薔薇に槍を突き入れようとしていた敵指揮官の足が、その風刃をかわすためにたたらを踏んだ。その隙に槍の届かぬ後方へと下がりつつ、手の平の上に炎の塊を生み出す赤薔薇。そのまま適度に距離を取りながらも敵の退路は塞ぎつつ、手を振り、炎を敵へと投射する。
 その隙を逃さず、側面から孤立した指揮官に麦子が突っ込む。気付いた周りの護衛が側面に回り込もうとしているのも気にしない。雑兵は無視して頭を狙う。多少の怪我は覚悟の上だ。取れば勝ち、取らねば負けよ。その気迫を込めて狼上の骸骨指揮官を睨み据え……
 直後、麦子は狼上から突き出された槍を前転でゴロリと避けると、指揮官ではなく、目の前のダイアウルフを膝立ちの姿勢で『薙ぎ払った』。
「将を射んとすればまず馬から、ってね♪」
 ニヤリと笑う麦子の肩を、後から続いたエルリックが踏み台にして跳躍する。その手に活性化した双剣を頭上に振り上げるエルリック。そのまま自身の速度と質量を乗せて骸骨指揮官の頭へと振り下ろす。
 そのエルリックの『兜割り』を、敵指揮官は頭を傾げてどうにか凌いだ。鎖骨に打ち込まれた双剣もそのままに、槍を振るって敵を払う。
 身を捻って着地したエルリックは、そのまま一度地を蹴って槍の範囲から離れた。その間も刀を振るい、狼を斬りつける麦子。『返す刀』で振るわれた槍を「きゃー!」と笑顔で受け逃げる。
 敵指揮官は散り散りになった周囲の護衛に『声』を掛けると、近接する麦子とエリックを牽制しつつ、退路の上にいる明斗と赤薔薇、そして、藤堂に対する圧力を強めさせた。
 機首を並べて狼上から3本の槍で圧力をかけてくる敵。それを藤堂と共に前に出た明斗が槍で打ち合い、一歩も下がらず受け凌ぐ。──自らが受けるダメージは考慮しない。たとえ自分が傷つこうとも、この骸骨指揮官をここで倒せるのなら許容する……!
 だが、敵は、二人が守る6m(3スクエア)の『壁』の間を無理やり割り込みにかかった。明斗と藤堂の間に強引に1騎をねじ込み、半包囲の形から藤堂に攻撃を集中する。
 支援攻撃に徹していた赤薔薇が自ら前に出る覚悟を決めた時── 上空から撃ち下ろされた攻撃が、藤堂を狙った骸骨の得物を持つ右腕を撃ち貫いた。
 それは、『司』(千里翔翼=スレイプニル)に乗った白蛇と、『闇の翼』で宙に舞ったリザベートが放ったものだった。前衛4騎の骸骨狼騎兵を屠り、こちらに駆けつけてきたのだ。
「頭を潰せば、というのはこちらも同じこと。優秀な指揮官をやらせるわけにはいかぬ。藤堂殿と杉下殿── ここで失うには惜し過ぎる人材じゃ」
 告げるリザベートに止めを放たれ、騎上から崩れ落ちる骸骨騎兵。事ここに至って、骸骨指揮官は完全にその戦意を喪失した。残存する味方に盾になるよう命令しながら、撃退士のいない側方──木立を抜けて逃れようとする。
 山の斜面からレティクル越しにそれを確認した杉下が、支援射撃を中断して新たな阻霊符を展開する。
 エルリックは双剣を手に、狼のみになった護衛の一騎に組み付き、短剣を突きたて、拘束した。その脱落した隊列の空白へ向けて。いつの間にかそちらに回り込んでいた夕姫が木立の間から飛び出し、狼上の指揮官に対して側面から零距離で『フォース』による一撃を見舞う。
 明斗の流星群に紛れて再び姿を隠していた夕姫は、斜面の下、木立の陰を渡りながら、再奇襲の機を窺っていたのだ。
 光の衝撃波をまともに受け、骸骨指揮官が『馬上』より落馬する。狼指揮官たるダイアウルフはそれを見捨てて、河川敷からの戦場離脱を試みた。だが……
「逃がすわけないでしょ!」
 強弓を引き絞った麦子が、その闘気を一気に解放しつつ、狙い絞った一撃を逃げる狼の背に放った。首の後ろに矢を受け、倒れる狼。それを見た麦子はホッと息を吐いた。この時の為にちくちく狼を削ってきたのだ。地味に毒のダメージが続いたのも大きかったかもしれない。
「『司』!」
 『騎馬』を失ってなお逃げようとする骸骨指揮官を、白蛇は召喚した神威──ティアマットでもって踏みつけた。
「さあ、止めを、藤堂殿」
 そう白蛇とリザベートに促され、藤堂は戸惑った。一度、杉下を振り返り、頷かれて好意に甘えることにする。
 拳銃を手に、地べたとの接吻を強要された骸骨指揮官の傍らに立つ。藤堂自身は自身の策で敵が滅べばそれで十分だったのだが…… 骸骨の、なんの感情もない虚ろな顔を見て、急に怒りが湧き上がった。
「部下たちは、怒りと恐怖の中で死んでいった。だというのに、貴様は……!」
 3度、銃声が戦場に鳴り響き──
 骸骨指揮官に対する奇襲は、こうして終わった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:18人

銀と金の輪舞曲・
エルリック・R・橋場(ja0112)

大学部4年118組 女 鬼道忍軍
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
その名に敬意を示す・
リザベート・ザヴィアー(jb5765)

卒業 女 ダアト