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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/07


みんなの思い出



オープニング

「依頼を、受けてみようと思うの」
 久遠ヶ原学園中等部1年、榊悠奈は、放課後の教室で帰り支度を始めた親友たちに、意を決した様子でそう伝えた。
 まだ教室に残っていた数人のクラスメイトが、悠奈の言葉を聞いて驚いたように振り返る。学園に所属する撃退士ではあるものの、悠奈を含めてこの教室に属する生徒たちの殆どは『依頼』というものを受けたことがなかった。昨年11月の編入において、このクラスには、撃退士の素養は持つものの、様々な事情により撃退士としての活動に積極的でない生徒──本人の意図によらず、積極的になれない生徒も含む──が集められていた。多くの生徒は授業でしか戦闘訓練を受けておらず、それ以外においてはごく普通の学園生活を送っている。
 だからこそ、悠奈の発言は多くの級友にとって驚きに値するものだった。悠奈自身、ある程度の覚悟をもってそれを言ったつもりである。
 だというのに、親友の一人、堂上加奈子は……
「うん。いいんじゃない?」
 教科書を鞄に詰めながら、至極あっけなくそう頷いた。
「……へ?」
「お兄さんの、ことでしょう?」
 極めてオーソドックスな学生鞄のマグネットをパチリと閉じながら、加奈子が小首を傾げて訊ねてくる。
 その淡々とした表情に乏しい顔をぱちくりと見返して、悠奈は小さく微苦笑を返した。……おそらく、加奈子は既に前から予測していたのだろう。悠奈がそう言い出すであろうことを。

 榊悠奈は昨年11月、兄・勇斗と共にこの学園に編入した。
 唯一の肉親たる兄と二人、『他人』である叔父夫婦の家を出ての新しい生活に、悠奈は胸躍らせた。公的な支援以外に金銭的な援助もなく、マンション寮での生活は困窮を極めたが、友人や学生たちの協力もあり、兄妹二人、どうにか生活していく目処も立てられた。
 その為に兄が無茶をしていることは前々から気付いていた。だが、まさか、あの優しい兄が妹である自分に内緒で戦闘依頼まで受けているとは思わなかった。
「悠奈を守れるだけの…… いや、二人でどこでも生きていけるだけの力を、僕は身につけなきゃならない」
 実戦参加が露呈した勇斗は、悠奈に動機をそう説明した。
 ならば、と悠奈は兄に答えた。私も、撃退士として必要最低限の力は身につけたい、と。──これからは兄妹二人、共に生きていく。足手纏いにはなりたくない。

「私に黙って危険なことをしてたんだもんね。私が依頼を受けたって文句は言えないよね」
 スマホで撮影してきた依頼斡旋所の書類を『捲り』ながら、呟く悠奈。その周囲には、好奇心に駆られた級友たちの人だかりが出来ている。
 ぱらぱらと現れる数多くの依頼群── とは言え、悠奈も最初から無茶をする気はなかった。戦闘依頼ほどではないにせよ、いわゆる日常生活の中のささやかな通常依頼においても、アウルの力が高められることは授業で先生たちから聞いていた。無茶をしがちな兄とは異なり、地に足をつけ、石橋を叩いて渡るのが悠奈の人生観である。
「あった。うん、これくらいから始めてみようかな」
 依頼群の中から初心者向けの依頼を見つけて、悠奈はそれに決断した。
 内容は、草刈りのお手伝い。大規模な作業ゆえに人手がいるとのことだった。
「決まった? じゃあ、依頼を受けに斡旋所まで行こう。帰りにアイス食べよーね!」
 もう一人の親友、早河沙希が、鞄を背に立ち上がりながらそう言った。悠奈は驚いた顔をした。依頼には自分ひとりで参加するつもりだったから。
「んっふー。悠奈を一人で依頼に行かせるわけないでしょーよ。私たちもつきあうから! いやー、前々から興味あったんだよね、依頼♪」
 沙希の言葉に頷く加奈子。二人が悠奈に気を使っているのは明らかだった。確かに初の『依頼』とは言え、その内容は『草刈り』だ。中等部の学生、それも女子が心躍らせるようなものではない。
「……ありがとう。サキちゃん、カナちゃん」
 心に染み入るものを感じながら、しみじみと礼を言う悠奈に、なんのことか分からぬ、と言った風情で先に行く親友たち。
 一言で言うのなら、彼女らはそういう友人であった。


「どうも、皆さん。私は『異種植物研究同好会』の渉外担当のモニカ・ヘミングスです。私たち『異植研』は、学園ゲート発生時に放棄された古い温室の一つを活動場所とし、その温室に屯する植物型(どうやら居心地が良いらしい)を観察し、その生態を記録するのが主な活動内容なのですが、なにぶん人手が足りず、『雑草』が伸び放題になってしまいまして」
 目の前に現れた高等部2年の少女──オレンジ色の髪を三つ編みに束ね、フード付きのマントと三角帽子を被った眼鏡の少女がそんなことを言い出した時、悠奈は素直に『騙された』と自身にツッコミを入れていた。
 いや、依頼を受けた学生たちを乗せたバスが学園ゲート付近の放棄区域に入った時から嫌な予感はしていたのだけど。いや、まさか『草刈り』という作業自体が天魔との戦闘を注しているとは思わなかった。……いや、それとも、自分たちが知らなかっただけで、この学園ではそんな隠喩もあたりまえだったりするのだろうか。さすが撃退士の学校やでー(←?)
「厳しい冬の寒さも終わると、植物型MOBの中にも、温室から外に出て来て活動するものが増えてきます。特にこの梅雨の時期ともなると、天然のシャワーを浴びる為か、非常に多くの植物型が出てきます(どうやら雨がとても心地良いらしい)」
 あまりに多くのMOBが外に出るため、それらが放棄区域から出ないよう『間引く』必要がある── モニカは学生たちにそう告げた。
「もしも、植物型が外に出るようなことになったら、私と会長の観察ライフに…… もとい、『異植研』の活動に規制がかかるかもしれません。皆さんにはこちらが指示するエリア内の敵の掃討をお願いします」

 一通り依頼の説明を終えると、モニカは悠奈たちの元を離れ、参加者の中でも比較的ベテランに属する学生たちの下へと歩み寄った。
 そのまま小声で、どうやら初心者が多く参加しているようです、と、耳打ちする。その視線は、悠奈とその友人たち、そして、その彼女らに触発されて参加した多数の級友たちを捉えていた。
「多くの植物型がまだ温室内に籠もっていた春先とは違い、この時期になると多少強い敵も外に出てきたりもします」
 例えば、『トゲトゲちくちくサボテンマン』。木の根を束ねた人型のような外観の大型サーバントで、その打たれ強さと全身に生えた棘が非常に厄介だ。或いは、『剛毛多脚やわらかタンク』。蜘蛛のような外観をした大型ディアボロで、大きな顎と、動きを拘束する粘着糸、レーザー、範囲攻撃の棘を飛ばす強敵だ。
「これらは新人さんだけで対応しようとすると、流石に手に余ると思われます。皆さんは草刈りを遂行しつつも、新人さんたちのフォローをよろしくお願いしますね」


リプレイ本文

 『草刈り』が始まった。
 中等部の初心者撃退士たちは、先輩たちの助言に従って3〜4人で1班に纏まると、全班で一方面から『戦場』へと進みだした。
 目標たる『踊るオロシヨモギ』たちは、のどかな日差しの下、風を受けつつそよいでいたが、敵対勢力の侵攻を確認すると、周囲の味方を集めて対抗する。接敵し、各所から上がる明るい悲鳴と気合の怒号── 斬り払われた瞬間、ヨモギは赤い体液を撒き散らし。それを被った生徒たちがその生臭さに本気の悲鳴を上げる。
「みんな、好き勝手に動いちゃダメだよ。敵の方が数が多い。孤立したらすぐに取り囲まれてしまうからね。常に味方の班が近くにいることを確認して、声を掛け合いつつ攻撃するんだ」
 その『戦線』の後方から日下部 司(jb5638)が初心者たちに声を掛ける。実戦経験のある先輩撃退士たちは班を3つに分け、これが初の実戦となる初心者たちのフォローに回っていた。
 来崎 麻夜(jb0905)は青鹿 うみ(ja1298)と共に、遊撃として中央部のフォローに当たっていた。初心者の手に余りそうな数が出てきた箇所に赴き、初心者たちに気付かれぬよう、多すぎるヨモギを『剪定』して敵の数を調整する。互いに死角を補うように、慎重に距離を取って攻撃する麻夜とうみ。だが、脅威は思わぬ所からやって来た。
 ばしゃり、と生暖かい液体を浴び、思わず動きを止める麻夜。赤く濡れた手を見下ろし、それがヨモギの樹液と知る。
 初心者が、味方が側にいる事に気付かぬまま、麻夜に近づいていたヨモギを銃撃で撃破したのだ。自分たちがしたことに気付かず(もちろん謝罪もせずに)、次のヨモギへと向かう中等部男子たち。麻夜は、濡れて身体に張り付いた黒衣と、ヨモギと、『犯人』たちを順に見やり…… ボソリと一言、呟いた。
「……殲滅」
「どっちをっ!? っていうか、ヨモギでもダメだよ、来崎さん! 今回の主役はあくまで新人さんたちなんだからっ!」
 なんか目が据わった麻夜をうみが慌てて制止する。そこへ樹液の臭いに釣られてわらわらと集まってくる『吸血ころころアブラムシ』。鎖鞭でびしばしとそれを潰す麻夜をよそに、うみはなんとなく涙目になった。
「うぅ…… 『草刈り』って、こういうことだったんですね……」
 その『ぼやき』に反応して、隣り班の悠奈がうみを見る。悠奈もまたその身を赤く染めていた。彼女の班で無事なのは後衛ダアトの加奈子だけ。前衛の沙希などはもうやけっぱちになってヨモギを切りまくっている。
 思わず顔を見合わせ、微苦笑を浮かべるうみと悠奈。縁さんたちが言っていたことは本当だったんだなぁ、と、戦闘前のブリーフィングを思い出す……

「皆さん、こんにちは。俺の名前は日下部司。……先輩風を吹かせられるほど力があるわけじゃないけど、出来る限り皆さんを援護しますので」
 居並ぶ初心者たちの前で司がそう挨拶をすると、彼等は一様に戸惑った様子を見せた。
 無理もない。いきなり実戦を突きつけられたのだ。殆どの生徒はどうしたらいいか分からないだろう。
「あはは…… やっぱり、みんな、知らなかったんだねー」
「依頼を受ける時は、内容も大事だけど、依頼者も見なきゃダメだよー?」
 苦笑して見せる巫女服姿の彩咲・陽花(jb1871)と麻夜。一応、今回の依頼書にもちゃんと『戦闘依頼』とは書かれていたのだ。……あまりに小さい文字だったので、スマホの写真ではとても分からなかったかもしれないが。
「大丈夫だ。俺たちがしっかりとフォローしてやんよ! ま、先陣はこのおにーさんに任せなさい! ……って、そうやって突っ込んではいつも相方に怒られているんだけどなー、あはは……」
 白い歯をキラリと光らせながら、ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)が親指を立てた拳を振って見せ…… 盛大に滑った後、体育座りで落ち込んでみせる。
(新人さんたちのフォローか。……うん。新人の育成は大事だよね)
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)は初々しい初心者たちを見て、自身が師匠に弟子入りした時のことを思い出していた。懐かしい、と微笑するソフィア。……もっとも、その笑みが思わず引きつるような『思い出』もあったりするのだが。
「はいはい、みんな注目ー! これから『草刈り』対象の『踊るオロシヨモギ』の情報を伝えるからねー」
 かつて『草刈り』に参加したことのある葛城 縁(jb1826)が、自作のフリップ(絵柄はとても可愛らしい)で説明を始めた。
 ヨモギの特性として、他の個体と横列を組んだり(草の壁の絵)、斬撃、打撃に応じて硬軟変化したり(くるくる回る草の絵)。もっとも厄介なのは、倒した時に撒き散らす赤い体液(赤汁ぶっしゃあー)だろう。フィリップには全身真っ赤に染まった撃退士の絵が、なぜかここだけホラー調で描かれていたりする。
「大丈夫。溶けたりはしないって。……ただ、『吸血ころころアブラムシ』に集られたりするだけだから」
 縁の横に立つ月影 夕姫(jb1569)が、フォローになってないフォローを入れる。
(初めての依頼…… トラウマにならなければいいけれど)
 ドン引きする後背たちの姿に、微苦笑を浮かべる夕姫。縁から話を聞いていた夕姫らは赤汁対策にレインコートを持って来ていたのだが…… 後輩たちが生身で赤汁に対するというのに、どうして先輩たちだけがそんなものを着れようや。
「だ、大丈夫だって! 何があっても俺たちが全力で援護するから!」
 士気の下がりかけた初心者たちに向け、司が生真面目にフォローを入れる。
 その横で。ロドルフォはまだ立ち直る気配を見せない……

 ……そんなこんなあったブリーフィングの甲斐もあって、初心者たちは比較的早くヨモギとの戦闘に適応し始めていた。
「ん、草相手なら、悠奈ちゃんたち初心者でも苦戦しないし、安心かな?」
 自分たちのように3人1組で戦う悠奈たちを見守りながら、陽花が優しい視線をそちらに向ける。
 程なく、十分な数を揃えた『オロシヨモギ』たちは、厚みのある隊列を組んで反撃に出た。前衛のヨモギが長大な壁と化して初心者たちに押し迫り、その身を逸らした後衛のよもぎが投石器よろしくアブラムシを投射する。
「側面のヨモギは私たちが駆逐するからっ! 前方に集中してっ! 隊列を崩さないようにっ!」
 うみは動揺しかけた初心者たちをそう励ますと、麻夜と共に横へと回った。
 まるでところてんの様に、味方の前衛の隙間から押し出して来るヨモギたち。うみと麻夜がそれを鉄鎖と氷刃による攻撃で押し返す。互いに背中を預けながら、クルリくるりと鞭と符を振るい合う二人。麻夜の鉄鎖による横殴りの攻撃に対してヨモギがその葉を硬化させ。直後、その身をクルリと入れ替えたうみが、符を振ってで生み出した氷刃をクナイの如く投射する……
「来たわね……! 各員、連携しっかり! 一人で戦おうとしちゃダメだよ!」
 一方、ソフィアたちのいる右翼でも敵の攻勢は始まっていた。
 その手の中に巨大な火球を生み出し始めるソフィア。生み出した炎を圧縮し、太陽の様に輝かせ…… さらに巨大に膨らませてから前方へと投射する。
 緩やかな曲射軌道で彼我の前衛を越え、敵中へと着弾したそれは、瞬間、太陽の如き閃光を発して炸裂し。放たれた熱線がアブラムシごと周囲のヨモギを焼き払う。おー、と湧き上がる歓声にソフィアは照れたように応じて…… ふと遠くに、後退し損ねて取り残された班を見つけて叫ぶ。
「司さん!」
 その時には既に司も動いていた。全長4m近くもある騎兵槍にアウルの力を集中しつつ、腰溜めに構えたそれを前へ突く。放たれた黒い衝撃波は楔と化して、ヨモギの隊列を穿ち、貫いた。その開いた隊列の穴へ、すかさず突進していく司とロドルフォ。両側方からそれを叩こうとするヨモギたちを、ソフィアが花舞う炎の剣でもって1本ずつ焼き貫いていく。
「きゃー!」
 ヨモギの大群に囲まれ、しゃがみこんで悲鳴を上げる中等部女子の班。そこに振るわれようとするオロシの一撃を、間一髪、間に身体を割り込ませた司が盾でもって受け弾いた。
 直後、走りこんできたロドルフォが、そのヨモギを大剣で一刀両断に斬り捨てる。飛び散った赤汁が司の盾とロドルフォの身を叩き。周囲に集るオロシヨモギの乱打が皮膚を裂くのも構わず、ロドルフォは前に出る。
 大剣が赤い軌跡を曳いて振るわれる度に、面白いように草が千切れ飛んだ。その葉を硬化し、刃に対抗するヨモギたち。ロドルフォは手の中で柄を回すと剣の腹でもってそれを乱打し、それでも壊れぬとなると得物を釘バットに変えて叩き割る……
「だからあれほど突出には気をつけるよう言っただろう!」
 そう怒鳴りかけた司は、だが、すっかり怯え切った女生徒たちを見て、口をつぐんだ。代わりに、その頭にポンと手を乗せて言う。
「大丈夫だ。ちゃんと俺たちが援護する。次からは気をつければいいさ。……今度はちゃんと周りを見るんだ。1人では無理なことでも、ちゃんと側には仲間がいる」
 女生徒たちが落ち着き、頷くのを待って、司は再び『封砲』でもって退路を開いた。殿を務めるロドルフォの、その身体は血塗れだった。まいったな、と自身で呟く。どうやら、後ろに回復役がいる時の戦い方が、身体に染み付いちまっているらしい……


 最初にその新手に気付いたのは、遊撃に位置していたうみと麻夜だった。
 隊列を空けるヨモギの群れ。その間をがしゃり、がしゃり、と脚を動かし前進して来て、全身に剛毛を生やした蜘蛛型のディアボロがその複眼で撃退士たちを睨み据える。
「あれが噂の『剛毛やわらか蜘蛛タンク』ですねっ!」
「うん…… 敵の情報を得るのは大事」
 二人は初心者たちを一旦下がらせると、敵の後方へ回り込むべく走り出した。蜘蛛はそちらに頭を向けて旋回すると、麻夜に向かって『粘着糸』を吐き放つ。
 剛速球で放たれた糸の束に足を取られ、地に縫い付けられる麻夜。舌を打つ彼女に向き直り、蜘蛛はその口に光を集め── 発射の直前、麻夜は黒い羽根を前面、蜘蛛の眼前へと散布して。直後、地にその身を転がし、光線を避けて糸を剥ぐ。
 その間に背後から迫ったうみは『分身』を使って敵を撹乱しつつ、符を振って氷刃を撃ち放った。放たれた氷の刃は、だが、剛毛によって打ち弾かれた。驚くうみにその剛毛が一斉に撃ち放たれ。扇型打ち出された毛針によって、うみ以外の分身が穴だらけになって宙へと消える。
「粘着糸からのレーザーには注意、っと」
「どうやら一定範囲に一定の人数がいる時、あの毛針は発射されるみたいですっ」
 一連のやり取りにおいて、まずそれだけの情報を得てみせる麻夜とうみ。そこへ、駆けつけてきた左翼班──夕姫と縁、陽花の三人が合流する。
 話を聞いた3人は…… まず、『お手本』として、この蜘蛛の倒し方を実地で悠奈たちに見せることにした。
「重要なのは『チームプレイ』だよ♪」
「防御は任せて。……一点集中。縁の支援から陽花の攻撃まで一気にいくわよ!」
 攻撃は、まず縁による攻撃支援射撃から行われた。長距離から、精密な照準がなされた散弾銃による銃撃が、敵の顔面に向かって放たれる。無数のアウルの散弾が、剛毛に弾けて跳弾し。幾発かが複眼の幾つかの目を眩ませる。
 射撃後、即座に射点を変えるべく走り出す縁。レーザーの砲口がそれを追って蜘蛛の身体が旋回し…… その側方に位置する事になった夕姫と陽花、そして、陽花が召喚した馬竜が迂回から突進へと移行する。
「範囲攻撃、来ますよっ!」
 思わず声を上げるうみ。召喚獣と一緒に範囲攻撃を喰らったら、術者のダメージは倍になる。間髪入れず放たれる剛毛の範囲射撃。陽花はそれを盾で受け…… 無防備な召喚獣を、夕姫が盾でもって防御する。
「違う!」
 夕姫は叫ぶと、陽花らと共に更に後ろへと回り込んだ。側方で放たれたのは脚の毛だった。撃たせる必要があるのは柔らかい腹の毛だ。
 同様の事を繰り返し、敵が剛毛をなくした所に反撃を放つ。
 夕姫が指に嵌めた五連のリングから虹色の光弾が速射され。吸い込まれるようにに当たったそれは柔らかい腹部の皮膚に弾けて5連の穴を穿ち、破く。
 ダメージを受けた蜘蛛の咆哮を掻き消す様に放たれる陽花の馬竜の嘶き。湧き上がった爆発的なエネルギーが蜘蛛の腹に叩きつけられ。弱点を叩き潰されたそれはやがて沈黙し、動かなくなる……

 増援の蜘蛛を倒し、とりあえず人心地付いた撃退士たちは、初心者たちに交代で休憩に入らせた。
 すでにヨモギの攻勢は頓挫し、反攻に転じた戦線にも余裕が出始めている。

 休憩を終えた悠奈たちの前に2匹目の蜘蛛が出現すると、今度は初心者たちでこれを撃破してみようという話になった。
 実際に先輩たちが倒しているのを見て、初心者たちの士気は高かった。倒せれば何にも増して貴重な経験となるだろう。
「俺が敵を引きつける。その間に皆で攻撃してくれ!」
 最も危険な前面だけは『タウント』を使用したロドルフォが受け持った。グルリと周囲を取り囲むべく移動を開始する初心者たち。司はいつでも割って入れる態勢を整えながら、それでもじっと彼等を見守る。
 周囲を取り囲まれた蜘蛛は落ち着かない様子を見せたものの、ロドルフォを無視できずそちらに粘着糸を放った。盾で受けたそちらにレーザーを放とうとする蜘蛛。その発射を邪魔するようにソフィアが炎の刃を放つ。
 宙へと逸れた光条を合図に、一気に距離を詰める新人たち。応じた蜘蛛が全周に毛針を撃ち放ち……
「今ですっ! 反撃ですっ!」
 ハラハラしながら見守っていたうみが叫びながら手に汗握る拳を突き上げ。その横で麻夜が「……勝ったな」とか呟いたり。
 なんというか、ちょっとかわいそうな位集中攻撃を受けた蜘蛛は、碌な反撃もできずに力尽き、倒れ伏した。
 湧き上がるときの声。初陣を勝利で終えた中等部学生たちに達成感に満ちた表情── 『草刈り』なんだけどね、との呟きは、この際、野暮と言うものだろう。


「サボテンは倒さなかったのですね。その周辺のヨモギが残ってますが……」
「倒せなかったのではないですっ。倒さなかったのですっ。だって、あれ、珍しい種なんですよねっ!?」
 そんなやり取りをするうみの横で。ソフィアは集まった初心者たちを前に釘を刺すのを忘れなかった。
「全員、寮に帰ったら、今回の良かった点と悪かった点をじゅーぶん反復しておくよーに! ……何事も反復は大事だよー? 私はよくわかんないけど」
 喜びの内に解散する初心者たち。縁、陽花、夕姫の3人は悠奈たちに初依頼の感想を聞いた。
「……疲れました」
 沙希の返答に笑う悠奈と加奈子。とりあえず、何らかの手応えは掴んだらしい。
「まずは勇斗くんに報告かしらね。……どれほど驚くかしらないけど」
 夕姫がそう呟くと、その場にいる誰もが苦笑を浮かべた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
星に刻む過去と今・
青鹿 うみ(ja1298)

大学部2年7組 女 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
惑う星に導きの翼を・
ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)

大学部6年34組 男 ディバインナイト