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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:7人
リプレイ完成日時:2013/06/26


みんなの思い出



オープニング

 2013年5月──
 青森県十和田市に居を構える悪魔子爵ザハーク・オルスは、自らのゲート支配領域に連行する人間を捕獲する為、周辺地域に対して大規模な侵攻を開始した。
 これを受け、山形県内陸地域の『最前線』において天使勢力に対する警戒任務を請け負っている民間撃退士会社、通称『笹原小隊』は、『雇い主』たる撃退署の指示を待たずに即座に動員態勢に入った。青森の動きを受け、鳥海山に陣取る天使勢力が何らかの大きなリアクションを起こす可能性があったからだ。
 休暇中の隊員に急ぎ招集をかけ、全隊員フル装備で隊舎の駐車場に整列する。隊長たちの予想通り、程なくして撃退署から出動命令が出た。隊員たちは即座に分隊ごとにトラックへと分乗すると、『駐屯地』前面のエリアに対する哨戒活動を開始した。

「本部、本部。こちら藤堂。第一分隊はポイントアルファへ到達。依然、敵影なし。……静かなものだ」
「同じく、第二分隊、杉下。ポイントブラボーに到着。旧市街地に敵影なし。敵の大規模侵攻の予兆は一切認められず。予定通り、ポイントエコーにて第一分隊と合流します」
 無線機から聞こえてくる各偵察班の報告は、そのどれもが『平穏』なものだった。
 斥候を率いる第一分隊長、藤堂は、トラックの助手席で無線機のマイクを戻すと、考え込むように爪を噛んだ。……鳥海山の天使どもは、今回の悪魔の行動に対して静観を決め込んだということだろうか。もし、天使が人間と同じ様な思考をするなら、あり得ないことではない。十和田市の悪魔ゲートは既に全住人の吸魂を終えている。言わば資源を取りつくされた『枯れた』土地であり、多大なリスクを負ってまで奪い取るべき価値はない。
 ──余程の理由がない限り、この世界で直接、天魔が矛を交える必要はない── その考え方は、この世界に現出した天使と悪魔、双方に共通する価値観であるように藤堂には思われた。それは、まぁ、そうだろう、と藤堂も思う。天魔にとって備えるべき『主戦場』とはあくまで『本国』であって、この世界には人間と言う『資源』を『収奪』しに来ているだけなのだ。……巻き込まれただけの私たちには堪った話ではないが。
「……しかし、悪魔による今回の『人狩り』が成功すれば、至近に存在する敵対勢力が著しくその力を増すことになる。鳥海山の天使共も、悪魔に対する妨害くらいは仕掛けても良さそうなものだが……」
「どちらにせよ、天使に動きがあるとしたら、山形側でなく秋田側ですよね。だとしたら、こっちは楽でいい。無駄な人死には出ないし、ただで給料が貰えるじゃないですか」
 ハンドルを回しながら軽口を叩く運転手を、藤堂は軽く睨みつけて黙らせた。
 『笹原小隊』は元々、久遠ヶ原学園でかつて軍隊式教育を受け、アウルの成長が阻害された学生たちが、卒業後に有志を集って起業した民間撃退士会社である。在学中に規律や連帯感、人類に対する撃退士としての誇りと使命感を徹底して叩き込まれた世代の撃退士であり、その上、学園ゲート出現時には多くの級友・学友たちを失ってもいる。
 運転手を務めるこの若い隊員は、補充兵として新規に採用された、比較的最近に学園を卒業した撃退士だった。彼等の多くは、アウルの成長を最優先した学園の方針転換もあって、藤堂や古参の卒業生などから見れば信じられないくらいお気楽な者も多かった。藤堂や杉下といった分隊長クラスは、アウル成長の阻害はまだ大分マシな部類であったが、もっとも力を欲しているはずの部下たちは早々に成長が頭打ちになっており…… 後発、それも現役の学生にすら追い越されていく運命の不合理さには、藤堂も怒りを通り越して絶望すら抱いたことすらある。

 藤堂の第一分隊を乗せたトラックは、とある山間の町を第二分隊との合流予定地点に向けて進んでいた。
 カタカタと荷台に揺られながら、風に砂塵が舞う街並に警戒の視線を飛ばす兵たち。全住民の避難を終えて無人と化した街並は時間の経過と共にその寂寥の度合いを増していた。……破壊の痕跡一つないシャッター街。電線はこびりついた汚れでたわみ、ひび割れたアスファルトや石畳の隙間から雑草が伸び放題に生えている。
 合流予定地点は駅前の商店街から少し離れた中学校に設定されていた。第二分隊は先に到着していたようで、何人かが屋上に歩哨として立たされていた。藤堂は運転手にトラックを校門から校庭へと侵入させると、荷台の兵に小休止を命じながら、自らは第二分隊長、杉下のもとへと向かった。おそらく、避難の際に集合場所として使われたのだろう。校庭には大勢の人間が集まっていた名残がゴミとして散在していた。手荷物制限もあったのだろう。校庭の片隅に積まれた荷物の山が、まだ来ぬ持ち主の帰還を待って雨ざらしになっている。
「北回りの哨戒線に天魔の姿は確認できなかった。そちらは?」
「こっちもだ。主幹道路、鉄道沿い、川沿いに見て回ったが、敵集団、大型種がここまで進入してきた痕跡はないようだ」
 再会の挨拶もなしに実務的な話に入る藤堂と杉下。咥え煙草の杉下に1本勧められ、遠慮なく火を借り、紫煙を吐き出す。
「大規模な侵攻の兆候もなく、まずは一安心…… と楽観するには余りにも情報が少なすぎるな。もう少し前進して情報を収集すべきだろうか」
「どうだろうね。藪をつついて蛇を出す、という可能性も……」
 言いかけた杉下を、屋上に上がった歩哨が呼んだ。艶のある唇から煙草を投げ捨て、そちらへと駆け寄る藤堂。杉下が名残惜しそうにしながら、まだ半分以上残った煙草を揉み消して追随する。
「どうした!?」
「山の上に飛行型サーバントの姿が見えます。おそらくは『まがいもの』!」
「数は!?」
「3…… いえ、4匹になりました!」
 自らも双眼鏡を手に取り、確認する藤堂。まるで鳶の様に山の上をクルクルと回る『まがいもの』──天使が自らの姿を模して創造した有翼の純戦闘向け人型サーバント──が4匹、山の尾根沿いに進路をとってこちらへと飛行してきて…… 山の斜面に沿って滑空しながら、編隊を解除して攻撃態勢へと移行する。
「隊長!」
 と、古参の兵が慌てて自分を呼ぶ声を聞いて、ただ事でないと振り返る。小隊結成より4年。修羅場にも慣れているはずのベテランが必死の形相で校門の外へ指を差し…… 自らもまたその先に視線をやった藤堂は、そこに広がる光景に目を瞠った。校門の向こう、道を挟んだ先にある田んぼの向こう側に、ずらりと横列を組んだ骸骨狼騎兵──狼型サーバントの上に小型の骸骨型サーバントを乗せた騎乗タイプ──の大群の姿がある。
「いつの間に!?」
 驚愕する藤堂。その間にも反対側から── 山の斜面を降下してきた偽天使が校舎を飛び越え、虚ろな眼窩と口腔を眼下に向けつつ、節ばった腕に生み出した光の槍を地上の兵たち目掛けて投げ下ろす。不意の挟撃に動揺し、混乱する分隊員たち。槍の直撃を受けたトラックの1台が燃料タンクを貫かれ、直後、火花が気化したガソリンに引火して爆発する。
「……校舎の中へっ! 全員、負傷者を連れて校舎の中へ逃げ込め!」
 命令を受け、血塗れの負傷者を二人がかりで引きずりつつ、昇降口の階段を上る兵たち。田んぼを駆け抜けてきた骸骨狼騎兵の横列が一斉に策を飛び越え校庭へと侵入し。藤堂は杉下の支援射撃の下、自らも負傷兵を肩に担いで校舎の中へと飛び込んだ。


リプレイ本文

 校庭を縦列で走る敵の騎兵──8騎の骸骨狼騎兵が、校舎へ向けて弩を一斉に打ち放った。
 すぐ頭上で鳴り響く、ガラスとコンクリの破砕音── 粉塵と破片が降り注ぐ中、タイミングを見計らって藤堂が反撃の指示を出す。その命令に従い、窓枠から一斉に突き出される銃身。撃ち放たれるアウルの弾丸は、だが、射程外へと離脱していく敵の後塵を貫くのみだ。
「……連中、何かを企んでやがる。相変わらず厄介な……」
 藤堂は、再突撃の為に転回を始めた敵を見やって忌々しげに呟いた。
 校庭に侵入した敵は、こちらが立て篭もる校舎内には入ろうとせず、ずっと校庭からの騎射──最大射程からの一撃離脱に徹していた。……骸骨狼騎兵はかつて雪上での戦闘において、2騎の突撃役と2騎の伏兵とで連携を見せたことがある。校庭の騎兵は陽動だろう。問題は、それを囮に何をしてくるか、ということなのだが……
「分隊長! 今、久遠ヶ原学園の撃退士たちがこちらに救援に向かっているとのことです。何とかそれまで耐えてくれ、と」
 通信兵のその報告に、隊員たちの間で小さく歓声が上がる。
 藤堂は頷いた。……朗報ではある。我々は負傷兵が多く、独力でこの場を動けない。こちらの火力が弱ったと見れば、校庭の敵はたちどころに校内に雪崩れ込んでくるだろう。
 故に、学生たちを信じて任せるしかないわけだが……
「……後方に控えている敵本隊が動き出す前に、どれだけのことができるか。敵本隊が動き出してから、どれだけ素早く行動できるか。その辺りがポイントとなるだろうな……」


「皆、助けに来たよ! もう少しだけ頑張って!」
 無線機の向こうにいる分隊の面々に最後にそう呼びかけて。彩咲・陽花(jb1871)は名残惜しそうに、車載無線機のマイクを助手席のイーリス・ドラグニール(jb2487)へと返した。
「分隊からの連絡によれば、敵騎兵の本隊は学校の外、南側の田んぼに陣取っておる。我々の突入は北側からじゃな。裏門より校内へと進入する」
 マイクを手に、3台の高機動車に分乗した撃退士たちにそう呼びかけるイーリス。その後部座席で地図を広げて頭を合わせている月影 夕姫(jb1569)と葛城 縁(jb1826)が運転席の陽花に道を指示し。慌ててハンドルを切った陽花の運転に夕姫と縁の身体が左へ転がる。
 敵本隊に見つからぬよう、学校の裏手に回り込んだ撃退士たちは、車を裏門の外に止めると手早く校内へと進入。昇降口裏門側の屋根の下へと集まった。
 学校の北側は、時折銃声が聞こえてくる以外、敵の姿もなく静かだった。御堂・玲獅(ja0388)はすぐさまアウルの感覚を周囲に伸ばして『生命探知』を行う。
「……味方の分隊は校舎中央の昇降口を中心に、その左右1階2階に隊を分けて銃座を構築。十字砲火で昇降口を守る構えですね。校舎の中にはまだ敵の反応はありません。もっとも、校舎の端の方は効果範囲外ですので絶対とは言えませんが」
 玲獅の探知結果を受けて、イーリスは手早く案を纏めた。
「……では、まず2班に分かれて校舎の東側と西側から校庭へと回り込む。西に4人、東に5人。敵がいないのを確認した後、校舎と東西から十字砲火で校舎の騎兵を排除。トラックを確保して裏門へと回し、手早く分隊を救出、脱出する」
 イーリスの提案に頷く撃退士たち。宗方 露姫(jb3641)はさっそく、その内容を『意思疎通』で藤堂に報せ、呼応しての銃撃を要請した。顔見知りの『声』に「お前か」と微笑を含ませて了承する藤堂。その『声』を聞いて、露姫は改めて思った。こんな所であいつらを死なせるわけにはいかねぇ。全員連れて生きて帰る。反撃も敵討ちもまずはそれからだ。
「上空のあやつらはどうするのじゃ?」
 白蛇(jb0889)が指を上に向けて問う。その指の先、天井を越えた上空には、2匹の偽天使──『まがいもの』が旋回していた。高度は屋上から上空30m── 地上からでは流石に狙撃もできない。
「私が行きます。狙撃銃なら屋上まで上がれば何とかまがいものまで届くでしょう。あれを撃破できれば広い視界も確保できるし、階段1本下りるだけで分隊との合流も容易です」
 校内、昇降口脇の階段を指差しながら言う玲獅。空を飛べるということで、イーリスと露姫もそちらに回った。手早く3人で打ち合わせを済ませ、玲獅は階段へ、イーリスと露姫は校舎の外へと、それぞれ散っていく。

 イーリスは昇降口裏門側から飛び出すと、『魔竜の翼』でひと羽ばたきし、昇降口の屋根を蹴って空へと舞った。
 階段を駆け上がる玲獅を窓越しに追い越しながら、屋上の塔屋の上に立ち。そのまま、活性化した狙撃銃の銃身を持ちつつ銃床を床に着けながら、挑発的な表情で悠然と空を見上げる。
 そんなイーリスに、上空を旋回していた2体の偽天使も気付いた。旋回を続けながら徐々にイーリスに向かって高度を下げていき、位置エネルギーを運動エネルギーに転換。徐々に速度を上げていく。
 偽天使が最後に攻撃態勢に入っても、イーリスは攻撃態勢も取らずに余裕のまま。突撃してきた偽天使は、だが、その斜め後方から気配を断ちつつ突っ込んできた露姫によってその機先を制せられた。
「喰らえぃ!」
 その身にわだかまらせていた闇を散らし、腕へと再度纏わせて放つ露姫。放たれた闇の力が射線上にいた2匹を巻き込み、翻弄する。
 露姫は逆落としに高度を落とすと、再びその身を翻して滑空、偽天使へ向け突撃銃をフルオートで撃ちまくった。いきり立ち、突っ込んで来る2匹の偽天使。露姫によって、低空戦闘に引き込まれたことにも気付いていない。
 突如、屋上に銃声が鳴り響き、1匹の偽天使が横から被弾してバランスを崩し、屋上の上へと墜落した。
 見れば、階段室の入り口の陰で、膝射姿勢で狙撃銃を構える玲獅の姿。その銃口がツイ、と動き、思わず宙に停まったもう1匹をも屋上へと撃ち落す。
 落とされた偽天使たちは屋上で羽をばたつかせながら、撃退士たちに光の槍を投擲しつつ、上昇しようとする。勿論、撃退士たちはそんな余裕を与えない。狙撃銃を投げ上げたイーリスが立射で射撃を開始。3人の銃撃はまず1体に死の舞踏を躍らせた後、もう1匹も離脱する前に、舞い飛ぶ羽毛の中へと沈める。
「まがいものの排除を完了。屋上を確保した」
 無線機に連絡を入れるイーリス。玲獅は鉄柵へと走り寄り、南側へと視線を飛ばす。
 上空の偽天使2体は落ちた。
 敵の本隊は、まだ動かない。

「……まがいもの、2体しかいないのが怖いんだよねぇ、ボク」
 作戦開始直後の西班── 屋上へと飛んでいくイーリスと露姫を背景に、校舎の『裏庭』を西側へと走りながら。ボクっ娘、アッシュ・スードニム(jb3145)は旋回する偽天使を指差し数えて、不安をそう口にした。
 それを聞き、同じ懸念を抱いていた鑑夜 翠月(jb0681)が猫耳っぽい髪をピクリとさせる。
「その行動を見る限り、敵の練度は高いです。伏兵がいるかもです。索敵には十分注意しないと……」
 女の子のような顔立ちに決意を浮かべて、周囲へ警戒の視線を飛ばす翠月。それとなくそれを聞いていた雨野 挫斬(ja0919)は、その場に似つかわしくない艶っぽい笑みを浮かべた。──偽天使か。……出るかな? 出てきてくれるかな? まがいものとは言え、解体したくなるほど強い敵なら良いんだけれど。
「安心せい。ちゃんと考えておる」
 白蛇は、アッシュと翠月、二人にそう答えると、10m先にヒリュウを召喚。視覚を共有させつつ、撃退士たちの前へと先行させた。
 パタパタと空を翔けながらヒリュウが校舎の西へと飛び出し。西側の鉄柵を乗り越えて敷地内に侵入しつつあった骸骨戦士の大群と鉢合わせする。互いに不意をつかれ、暫し見合うヒリュウと骸骨。直後、弾かれたように横列を組んで戦闘隊形を整える骸骨たちに対して、孤立して囲まれぬようヒリュウもまた飛び戻る。
「敵の主力じゃ! この先に骸骨どもが山ほど居るぞ!」
 ヒリュウに追いつきつつ、警告の叫びを上げる白蛇。やっぱり、とアッシュと翠月は顔を見合わせ、頷いた。……やはり、校庭の騎兵は陽動だった。敵は骸骨戦士からなる主力を側方へと迂回させ、西側からの浸透を図っていたのだ。
「ったく。骨は切っても楽しくないのよね」
 白光の鎧を活性化しながら先行し、敵隊列端の骸骨に対して漆黒の大鎌で切りかかる挫斬。敵のかざす盾の下、脚部を切り払って引き倒し。止めを刺すべく鎌をクルリと上段へと振り上げて。だが、それより早く敵が包囲の態勢に移行して……
「下がれ、雨野!」
 白蛇の叫びに、挫斬は振り返ることなくその場を跳び退さった。直後、練り上げたアウルの力を前方へと投射する翠月。敵陣の頭上に現れた巨大な闇の十字架が、密集隊形をとっていた敵の只中に降り落ち、押し潰す。
「えぇい、わしらは校門を確保しに行かねばならぬと言うのに……っ!」
「ホント! キリがないよねぇ!」
 前衛を潰されたにも関わらず、次々と鉄柵を乗り越えてくる骸骨の大群。それを見て白蛇が忌々しげに呟き、挫斬が笑う。
「行ってきなよ」
 そんな二人にアッシュが言って。翠月が驚いたように振りかえる。
「あんまり無茶しないように、ね。帰り道は守っておくからさ」
 スレイプニル『アディ』を召喚しながら、微笑でそう語るアッシュ。白蛇は「すまぬ」と一言残してそのままその場を校庭へ向け走り出し。挫斬がその後ろにピタリと張り付く。
「と、言うわけで。ここはボクたち2人と1体で抑えることになりました」
「マジですか」
 えへへ、と笑みを浮かべるアッシュに、再度の闇十字を落としながら翠月が呟いて。でもまあいいか、と気を取り直して、骸骨へと向き直る。
 西側から来る骸骨戦士の集団は、裏門の外にもいた。鉄柵の先、北の道路上を東へ進む骸骨たち。気付いたアッシュがアディに指示して『ボルケーノ』で吹き飛ばす。
「……北からも回り込んできてる。裏門を、退路を失うわけにはいかないよね」
 アッシュは翠月に道路の防衛に出ることを伝えると、召喚獣と共に鉄柵を乗り越え、道路上へと布陣した。……夥しい数の骸骨戦士を前にアッシュは思う。あぁ、小隊の人に援護して貰えればなぁ。でも、怪我人も運んで貰わなきゃいけないだろうし……
「状況は非常に厳しいですけど…… 皆さん全員と無事にここから脱出する為、全力を尽くします!」
 自身にそう発破をかけながら、翠月は西の鉄柵を乗り越えようとする敵の真ん中にファイアーワークスを叩き込んだ。敵中で無数の煌きが明滅し。直後、色とりどりの炎が炸裂して骸骨たちを薙ぎ払う。
 だが、それも、数の利を活かして迫る敵にいよいよ押し切られ始めた。翠月は敵に囲まれぬよう非常口から校舎の廊下へ入る。が……
 いつの間にか、廊下にも敵が入り込んでいた。恐らくは、西班がここに辿り着く前に入っていた連中だろう。
 翠月は突然の遭遇に一つ目を瞬かせて。悲鳴と共にアウルの闇でその骸骨たちを吹き飛ばした。

 これだけの数の敵と戦うのは大規模作戦くらいしかなかった──
 校舎の東側を回り込んで木々の間を走りながら、縁はその事実を改めて思い返して、その奥歯を噛み締めた。
 怖くない、と言えば嘘になる。或いは、分隊共々自分たちもこの場で敵の大群に呑み込まれて死んでしまうかもしれない。
 だが、早くも召喚獣を呼び出そうとする陽花と竜見彩華(jb4626)がその手を震わせる姿を見て…… 縁はギュッと恐怖を握り潰した。
「大丈夫だよ、陽花さん、彩華ちゃん。私だって物凄く怖いけど…… 今は震えている場合じゃないもんね!」
 緊張しているのは自分だけじゃない、と息を吸い。召喚師二人の背をバンと叩く縁。
 その光景を見た夕姫は、その唇の端に笑みを浮かべた。絶対みんな無事に脱出するわよ、と、声をかけつつ、意を決す。
「……こちら東班。校舎左側、校庭を臨む地点に到達しました。西班の状況を報せてください」
 東班の先頭に立って走る鴉守 凛(ja5462)は、辿り着いた校舎の陰から校庭の様子を伺いながら、無線機でそう呼びかけた。手信号で同僚たちに停止を指示しつつ、状況を把握しようとする。
 西側から多数の骸骨戦士が侵攻しつつあることを知ったのはこの時だった。最悪、東班だけでやるしかないか、と、報告を聞きながら冷静に思案を進める凛。追加情報で冬蛇と挫斬の二人が突破したと聞いて、まがりなりにも半包囲できると踏む。
「……予定通り、いけます」
 背後の仲間たちを振り返って、小声で呟く凛。夕姫は頷くと、少しでも敵に近づくべく、校舎側の植え込みの陰に身を隠して這い進み。彩華は陽花と共に頷き合うとそれぞれストレイシオンとスレイプニルを召喚。一斉攻撃に備える。
(たとえ信用されていなくても、認めてもらえていなくても…… そんなこと、考えるのは後回しでいい。守りたいから、私は撃退士になったんだ。だから、どう思われたって、守るって、決めたんだ……!)
 数珠状のブレスレットをキュッと握り…… 分隊の面々のそっけない態度を思い返しながら、年少者に見せる優しさを思い出しながら、彩華は改めて気合を入れ直す。
 敵騎兵の縦列が、再び校舎側に向けて移動を始めた。校舎に射撃を浴びせながら、離脱の為の転回を始める敵騎兵。今です、と凛が淡々と無線機に呟き、校舎の陰から躍り出る。
 彩華は縁、陽花の後に続いて、召喚獣たちと共に校庭へと飛び出した。西側から狙撃を始める白蛇。射程内まで敵に走り寄った挫斬が『闘気解放』と共に拳銃からアウルの弾丸を撃ち放つ。
「スレイプニル、一気にやっちゃって! 敵が固まってるなら、好都合なんだよ!」
 靴底を地に滑らせながら足を止めた巫女服姿の陽花が、袖ごと手を前へと払う。隣の馬竜が嘶きと共に棒立ちになり、その口から炎の塊を敵へと向けて投射して。敵縦列只中で湧き起こった爆発が敵騎兵を薙ぎ払い、一部の骸骨を『落馬』させる。
「敵の足を止めます!」
 ストレイシオンを擁する彩華は、敵縦列最後尾の2体を巻き込むように、『サンダーボルト』を放つよう命じた。飛べない翼を大きく広げて雷のブレスを吐く鱗竜。麻痺を喰らった1匹が文字通り雷に打たれたかのように足を止め。つんのめるように落馬した骸骨が、校舎からの集中攻撃によって砕けて倒れる。
「よし、このまま追い立てるよ!」
 五指に虹色のリングを嵌めた右手を銃身の様に前へと突き出しながら、夕姫が植え込みの陰から出て前進を始める。突然の半包囲攻撃に混乱した敵の1騎に狙いを定め。味方の攻撃をかわして背を向けたところを五連の光弾を立て続けに撃ち放つ。背骨を砕かれ、『馬上』から崩れ落ちる骸骨。身軽になった狼が慌てて南へと逃げていく。
 完全に混乱を来たした敵は、校舎から離れる逃れるべく、一斉に南へ雪崩を打った。それを見た白蛇と挫斬が追撃を止め、校庭南側に開く校門を確保すべく走り出す。
 白鶴翔扇を投擲して骸骨の頭を跳ね飛ばした凛は、頭を無くしたまま平気で走り去る騎兵に毒気を抜かれつつ、自身もまた南へと歩を進めた。校庭に置かれたトラックから敵を引き離す為だ。
 撃退士たちにとって幸運だったことに、敵に前線指揮官がいなかった。もし、敵に現場で判断が下せる前線指揮官がいたならば、敵は優速の利を活かし、全騎で西の白蛇と挫斬、南の凛を各個撃破した後、残る4人へと突撃、もしくは、校門の確保を狙ったであろう。だが、実際にはそうはならず、敵は東と西へ戦力分散の愚を犯した。
 敵は兵力を2騎と2騎と1狼に分けると、それぞれ東と西、南へと向けて突撃させた。突撃してくる狼に向けて、活性化した斧槍を振り下ろす凛。縁は、孤立した残敵を掃討している陽花や彩華の側面に出ると、突進して来る騎兵に対して前進しながら散弾銃を向け、先頭の騎兵の狼目掛けてアウルの散弾をぶっ放した。血塗れ、骨砕けになりながらも突進してくる敵騎兵。再銃撃によるパンチで狼を大地に沈め…… その背を蹴って飛びかかってくる骸骨に対して機械剣を手に迎え撃つ。
「このままトラックの確保を!」
「了解ですっ!」
 もう1匹の騎兵を光弾の速射で追い散らしつつ、叫ぶ夕姫。彩華が鱗竜に雷弾を撃たせてトラック周囲の敵を追う。
 西では、挫斬が白蛇に校門を閉めさせながら、突っ込んで来る2騎の1に向かって自分から突進を仕掛けていた。突き出される槍の穂先に肩口を切り裂かれながら、両手で振るったワイヤーでもって騎馬たる狼を切り裂く挫斬。血を吐き、倒れる狼から飛び降りた骸骨に向き直りつつ、白蛇に迫ろうとするもう1騎を銃撃でもって牽制する。
「あれが敵の本隊か」
 校門を締めながら、田んぼの向こうに陣取った敵騎兵の2列横隊を見て呟く白蛇。その中で、一際大きな個体を見つけて、あれが指揮官か、と見極める。
「あ、強そうな騎兵。こっち来ないかな? 来たら解体できるのになあ」
 顔中に自身の血を飛び散らせながら、笑みを浮かべて呟く挫斬に、白蛇は呆れたような視線を向けた。まぁ、気持ちは分からんでもない。敵指揮官までの距離は100m以上。もし、射程距離内であったなら、ここから狙撃してやったものを……
 苦笑を浮かべて敵本隊を見やった白蛇は、直後、その目を見開いた。
 指揮官の指示に従い、動き出す敵騎兵の第2列。白蛇が警告の叫びを発する。
 その声に、自身の流した血と返り血とで血塗れになりながら、狼との一騎打ちに勝利した凛が、南を振り返り、走り出す。校庭から校門へ突撃しようとしていた1騎の狼の下半身を背後から斧槍で斬り落とし。2体の骸骨の反撃にその身を削りながら蹴散らして2人と合流する。
 ここにも無茶をする輩がおった、と呆れる白蛇に、凛は荒い息を返した。……傷つくのは平気。慣れているから。ただ、仲間が危険に晒されるのは許容できない。勝手で一方的な感情だけど、私が友達にできるのはそれしかないから……
「来るぞ!」
 綺麗な横列を維持しながら、田んぼを越えて突進して来る8騎の敵騎兵。白蛇はその前面に発煙手榴弾を一つ、二つと投擲する。突如出現した煙幕に突撃の速度を落とす騎兵たち。そこへ煙越しに放たれたアウルの銃弾が騎兵を掠めて飛び去っていく。
「む、外れたか?」
 上空に上げたヒリュウの視界で、白蛇は弾着修正を施し、再発砲。2発目は命中し、骸骨の盾の上に弾けて消える。
 敵はその場で足を止めると、校門があった方向に向けて一斉に弩を撃ち放った。
「アハハ! なんて凄い集中射撃! ……さてさて、これはあと何分もつかしら」
 校門の陰で斉射をやり過ごしつつ呟く挫斬。その攻撃音に、残敵を掃討し終えた夕姫が振り返る。
「なんてこと……っ!?」
 敵の後詰が動き出したのを見て、急ぎトラックへ駆け寄る夕姫。トラックの運転席には、既に陽花が乗り込んでいた。
「どうする!? 昇降口に横付けして、分隊員を回収する!?」
「敵の本隊が動き出したから、ここで乗り込ませている時間がないよ!」
 助手席の扉に取り付きながら、訊ねてくる陽花に答える夕姫。どうでもいいから早くして、と、荷台に乗った縁が騎射する1騎に散弾銃を撃ち返す。
「……やっぱり裏門へ回すしかない。校内に車が通れる道はないから、校門から外に出て道路を回り込むしか……!」
 夕姫の言葉に即座に反応し、ハンドルとアクセルを操作する陽花。途中、彩華を回収しつつ、校門へと突き進む。校門の前面には煙幕が展帳されていた。脱出するなら今しかない。
 校門の近辺は、撃退士によって確保されていた。
 校門は、閉まっていた。
「校庭から脱出するよ! 校門を開けて、皆も乗って!」
 一旦、校門の前で停車して、運転席から陽花が叫ぶ。
 その目が大きく見開かれた。煙幕の帳の向こうから、ゆっくりと、湧き出すように、突撃してくる騎兵の横列がスローモーションで視界に入る。
 閉められた校門と、その周囲の鉄柵を飛び越え、校庭へと侵入てくる騎兵横列。凛は、塹壕に籠もった銃兵のように、鉄柵を飛び越える狼の腹に向けて下から槍斧の穂先を突き入れた。血を噴出しつつ倒れる騎兵。骸骨が起き上がるより早く、駆け寄った挫斬が首を刎ねる。
 侵入を防げたのは、その1騎だけだった。着地と同時に地を駆け始めた騎兵たちは、校門付近に集まった撃退士たちに四方から弩を騎射してくる。
「ガソリンの臭い!?」
 運転席から飛び降りながら、仲間に退避を叫ぶ陽花。次々と飛び降りる撃退士たちの背後で、多数被弾したトラックが爆発、炎上し。
 その黒煙は敗北の狼煙と化して、天高く空へと立ち昇った。


「敵の本隊が動いた……?」
 地上のその光景を屋上から確認して。玲獅は床から身を起こすと、イーリスと露姫にこう言った。
「分隊と、合流します」
 そのまま塔屋へと向かい、階段を駆け下りていく露姫。イーリスは屋上から校庭南側に向けて膝射姿勢で銃を構え。再び翼を展開した露姫は、銃を手に屋上の鉄柵を蹴り、校庭へ向け降下を始める。
 2階まで階段を下りた玲獅は、周囲に敵影がないことを確認すると、慎重に廊下へ歩を進めた。すぐに、廊下と教室を隔てる扉の所に、分隊の負傷兵がもたれかかって座っているのが見えた。……あそこが、分隊が立て篭もっている教室。あの負傷兵は見張りらしい。銃が撃てる者は全て、戦力として投入されているのだろう。
「大丈夫ですか……?」
 その負傷兵に応急手当が施されているのを確認してから、部屋の中へと入る。校庭にいる味方の撤収を支援する為、分隊はまだこの場に張り付いていた。教室の床には、銃撃戦によって新たに発生した負傷者たちの姿。既に事切れている兵もいた。玲獅は『ヒール』で出来うる限りの治療を施すと、飲料を1/4置いて部屋を出た。
 同様に、階段を挟んで隣りの教室へと入る。こちらは先程の部屋よりずっと負傷者が多かった。玲獅は『癒しの風』で回復を施すと、藤堂に向かって撤収を進言した。
「しかし、校庭の味方を見捨てるわけにもいかない」
 撤収に難色を示す藤堂。その時、廊下でガタリ、と物音がして、部屋の中の皆はその身を硬直させた。
 見れば、いつの間にか扉の見張りの姿がない。玲獅は藤堂と頷き合うと、『生命探知』をその場で試みた。廊下の上、部屋のすぐ側に反応あり。同時に、そのすぐ側にあったもう一つの反応が急速に消えていく──
「廊下に敵です!」
 叫ぶと同時に、扉を破って突入してくる敵── それは、所在の分からなくなっていた偽天使の1体だった。撃退士たちが辿り着く前に、既に校舎内に入り込んでいたのだ。
 玲獅は白きドレスとコートを活性化すると、魔道書から生み出した牙爪を投射しつつ、藤堂に逃げるよう叫んだ。負傷者を抱えつつ、廊下に出る分隊員たち。前衛へと立つ玲獅の耳に、隣りの教室から悲鳴が聞こえてくる……

 一方、1F西側廊下の防衛に当たっていた翠月は、廊下から逃れて入った教室の一つで闇による回復を行っていた。
 その周囲には、1F西側の教室に立て篭もっていた杉下とその部下の分隊員たち。狭い廊下を戦場に長坂の再来を演じていた翠月は、だが、外から窓を破って侵入してきた骸骨たちに挟撃されそうになり…… すぐ横の教室の前部扉に飛びこみ、後部扉から出て敵の背後に回る、ということを繰り返しつつ継戦してきたのだが、遂には最後まで廊下を押し切られ、杉下分隊との合流を果たしていた。
 かちゃり、かちゃり、と、廊下を進み来る骸骨たちの足音が響き…… その足音から敵数を計った翠月は敵隊列の中に飛び込み、『夜想曲』で以って奇襲。不意打ちと睡眠とで混乱する敵の中を、分隊と共に昇降口目掛けて突破する。
 そのまま外まで突破しようとした翠月は、だが、取り残された味方の状況を無線で聞いて、済まなそうに杉下を振り返る。
「すみません…… 校庭の味方が撤収が済むまで、この昇降口を確保する必要があるみたいです……」
「はは、大丈夫だよ。うちの分隊の連中は、可愛い女の子の頼みなら普段以上に力が出るんだ」
 杉下はそう優しく笑ってみせた。翠月も、乾いた笑いを返した。
「重ね重ねすいません。僕、男なんですぅ……」

「あれっ!? 期待していた援軍がこちらに来ませんですよっ!?」
 裏口前の道路を守るアッシュは、翠月と杉下の分隊が昇降口の守りに入ったことで改めて孤軍が続くことになった。
 範囲攻撃系のスキルは、温存しているものを除き、既に使い切っていた。獅子奮迅の働きを見せるアディの横で、扇を手に奮闘するアッシュ。『二人』で共に道を塞いで側面に回り込まれることを防ぎつつ、迫る敵に蓋をして敵の攻撃をいなしながら、じりじりと戦線を後ろに下げる。
「うぅ、そろそろ限界ですよ、マスター! いえ、泣き言は言ってないです! まだまだ頑張れますけど嘘です誰かへるぷみー!」
「大丈夫!? 今すぐそっちに行くから! もう少し頑張ってね!」
「え? その声は葛城さん!? 校庭、大丈夫なんですか!?」

 大丈夫ではなかった。だが、裏門を失えば残るのは全滅の道だけだ。
 故に、先に戻るしかない。たとえ、校庭の戦力を手薄にしても。
「皆、急いで校庭から撤収して! トラックを失った以上、校庭を維持する意味はないよ! 陽花さん、彩華ちゃん! 裏門がピンチだから、私たちは援軍に向かうよ!」
「撤収ですか!?」
 校庭の後退戦を演じながら、彩華が驚いた声を上げる。だが、縁と、そして、陽花の表情を見て、彩華は何も言えなくなった。
「夕姫さん、昇降口をお願い」
「了解。私たちの帰り道は頼んだわよ」
 笑顔で答える夕姫に頭を下げて、縁は昇降口へと飛びこみ、裏口へと駆け抜ける。
 1F廊下の横を通り過ぎるとき、骸骨に刺された分隊員の一人が悲鳴と共に倒れ込んで来た。思わず駆け寄り、抱き起こす彩華。絶命した兵の瞳が、無感情に彩華を見返す。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私たちに力が足りなくて。でも……」
 今はまだ泣けないから。唇を噛み締め、立ち上がる。

 校門に取り残されていた3人は、戦況に利あらずと解して校舎への離脱を開始していた。
 3人の中で一番消耗していたのは、自己回復手段を持たない挫斬だった。血塗れで荒い息を吐きつつ、それでも白蛇を護衛して進む挫斬。この期に及んですら、その顔には笑みが見える。
「『司』、此度もすまぬの…… 殿を頼むのじゃ」
 頷く召喚獣をその場に残し、更に歩を進める3人。集中攻撃を受ける『司』に、凛は『庇護の翼』でそれを守り……
「確かに、痛みには慣れてる、けど……っ」
 全身に刻まれた傷の多さに、思わず継戦意欲すら折られそうになる。戦場に残り、『インパクトブロウ』で敵を押し戻す『司』。そこへ弩の集中射撃が飛んで無数の矢が突き刺さり…… 「がっ……!?」と気絶して倒れようとする白蛇を、挫斬が小脇に抱えて、進む。
 消えゆく召喚獣の傍らを駆け抜けて来る騎兵たち。背後に迫ったその槍が3人の背に迫ろうとした時、屋上のイーリスが放った銃弾がその槍ごと右腕の骨を砕く。
「ようやく射程内じゃの…… 急ぐのじゃ。ここから先は邪魔はさせぬ」
 無線機にそう告げつつ、再び発砲するイーリス。足元を撃たれた騎兵がたたらを踏んで進路を変える。
 更に追い縋る別の1匹には、屋上から滑空してきた露姫が上空からワイヤを槍に絡めた。そのまま引きずられそうになるところを魔具の変更でやり過ごしつつ、その活性化した大剣で骸骨の首を跳ね飛ばし、敵が反撃をかわしながら、長居せず上空、屋上へと舞い戻る。
 昇降口を確保して待っていた夕姫は、3人が昇降口に飛び込むのを見て、入り口を隠すように発煙手榴弾を地面へと叩きつけた。
 校舎に転がり込んだところで、挫斬は遂に力尽きた。その挫斬と白蛇を小脇に抱え、昇降口を駆け抜けた凛が停まっていた高機動車に二人を放り、運転席でエンジンのキーを回す。
「後は……2F?」
 背後を振り返った翠月の目の前で、玲獅の牙爪と藤堂班の一斉射撃を受けて階段を転げ落ちてくる偽天使。駆け抜けていく玲獅と藤堂たちを見やって、翠月たちもまたその場を後にする。
「校庭、および2Fの人員の後退が完了した。全員、撤収を開始してください」
 その連絡を受け、屋上から支援射撃を続けていたイーリスと露姫が、翼を広げて屋上から飛び降り、車両の上へと降下する。
 玲獅は隊員たちを車両に乗り込ませつつ、新たな負傷者に対して『ライトヒール』による回復を続けた。昇降口の保持を諦め、夕姫もまた舞い戻る。
 最後に残ったアッシュと縁、陽花、彩華たちが、そのまま隊の殿となった。予め進発する先行の2台。縁は他の召喚師たちと隊列を並べて後退しながら、盾を構えて迫り寄る敵に散弾銃を撃ち放ちつつ、車の屋根の上に飛び乗り、銃撃を継続する。
「全員乗った!? それじゃあ、こんな所、さっさと撤退するよ!」
 自らの馬竜の横で、車に飛び乗る陽花。……皮肉なことに、3台の高機動車で撤収が遂行できるほど、分隊の犠牲は大きかった。
「ごめんね、『イア』。痛い役を任せるけど、頑張って!」
「ここから先は、絶対に通しません!」
 車上のアッシュによって新たに召喚されるティアマット『イア』。裏門から続く道路上には、アッシュ、彩華、陽花の3体の召喚獣が残された。
 蒼い燐光でそれらを包む彩華のストレイシオン。アッシュのティアマット『イア』が、昇降口を抜けて追撃してきた騎兵に咆哮と共に雷を放ち。その傍らを飛び抜けた陽花の馬竜が蹄で骸骨たちを駆け飛ばす。
 残された召喚獣たちは10秒間だけ後衛戦闘を継続すると、元の世界へ送還された。その間に、車両は全速でその戦場を離脱していた。

 無人の街中を、敗走の道往く3両の高機動車。
 駐屯地に帰るその瞬間まで、口を開くものは誰もいなかった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
雪煙に潜む狙撃者・
イーリス・ドラグニール(jb2487)

大学部6年145組 女 インフィルトレイター
優しさを知る者・
アッシュ・スードニム(jb3145)

大学部2年287組 女 バハムートテイマー
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー