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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/06/15


みんなの思い出



オープニング

 帰ってきた──
 昨年11月の編入以来、初となる学園外での実戦依頼を終えて。青森から帰って来た高等部2年・榊勇斗は、学園へ向かう列車の中で、ふとそんな感慨を胸に抱いた。
 その心のありように、勇斗は自分で驚いた。彼にとって、久遠ヶ原学園への転入は、中学生になったばかりの妹共々、叔父夫婦の家を出る為の手段でしかなかった。学園で暮らし始めてまだ半年。この僅かな期間にまさかここまで里心がついていようとは。
(存外、ここでの生活に馴染んでいる…… ってことなのかな)
 おそらくそうなのだろう。列車から降りて駅から出ると、その情動はますます大きくなった。マンション寮が見えた時には、自然と涙が溢れてきた。
(青森での戦いはまだ終わっていない。でも、今は──)
 勇斗は制服の袖で涙を拭いた。余計な心配をかけない為、妹・悠奈には、勇斗が実戦訓練や戦闘依頼を受けていることは話していない。涙の跡なんかあったら、それこそ余計な心配をかけてしまう。
 ──今は妹の…… 家族のいる家に帰ろう。勇斗自身の日常が、ささやかな幸せが待つあの家に。

 勇斗は近場の公園で顔を洗うと、改めてマンション寮へと向かい、エレベーターを待つ間も惜しんで、階段で自室の前まで走った。
 鍵を取り出すのももどかしく、扉を開けて中へと入る。
「ただいま、悠奈。今、帰ったよー! おみやげ買ってきたぞ。ほら、鉄瓶」
 中学生の妹相手に土産のチョイスが渋すぎる、とかいうツッコミはとりあえず置いといて。勇斗は靴を脱ぎながら、悠奈の返事がないことを怪訝に思った。
 リビングの食卓の上には、気合の入った料理の数々…… 勇斗が青森に行っている間にレパートリーを増やしたのだろう。肉じゃがや煮物といった、見た事のない家庭料理が増えている。
 と、その視界の隅にぼんやりとわだかまる陰を察して。勇斗はビクリとその身を震わせながら、慌ててそちらを振り返った。
 リビング横の唯一の和室── その畳の上に、陰の正体、悠奈はいた。無言で、ただじっと畳の上に正座で佇む悠奈。その姿は、普段の明るく元気な悠奈からは想像できない。
「な、なんだ、悠奈か…… びっくりしたぁー。なんだってそんな所に……」
「おかえり、お兄ちゃん。ちょっとここ座って」
 勇斗の言葉を遮り、自分の前の畳を指差す悠奈。勇斗は慌てて従った。なんか妹が怒っている、と、それくらいは鈍感な勇斗にも分かった。でも、心当たりがない。なにせ青森から帰って来たばかりで…… 何か怒られるようなことをしただろうか?
「お兄ちゃん、戦闘依頼に…… 実戦に出ているんだってね。……私に内緒で」
 ピシリ、と勇斗が固まった。
 バレた。なるほど、それで怒っているのか。あはは。そいつは困ったねぇ。
「てててててて、ていうか、ゆ、ゆ、悠奈サン、どうして、どこでそのことをっ!?」
 認めちゃったよ、とかいうツッコミはとりあえず置いといて。汗をブワッと噴き出して器用に正座で後退さる勇斗に、悠奈が無言で紙を差し出す。
 それはどこか小さな新聞部が発行した、ローカル系の学園新聞だった。

 悪辣なる悪魔の手先が暴れ回る青森戦線── 後方で避難を行う人々の前に、前線を突破したクラゲ型ディアボロの魔の手が迫る! 突然の脅威に我先にと逃げ出す人々。その狂乱の中、若き撃退士たちの勇気と献身が、人々の心を冷静の地平に引き戻す!
 ──僕らは負けない。あのクラゲは必ず喰い止める。だから、あなたたちも負けないで。僕は知っている。人間が持つ気概を、尊厳を、その強さを。貴方たちは人間だ。決して弱い家畜なんかじゃない!(高等部2年 榊勇斗さん)

「ぎゃああああぁぁぁ…………!!!」
 赤面した顔を両手で覆い、畳の上を転げ回る勇斗。あの時は無我夢中で「僕は知っている(キリッ!)」とか主張したりなんかしたが、本来は人前で目立つなんて恥ずかしくてできない性分だ。
「そっ、それはですね、悠奈サン。後方で避難誘導中に偶々ディアボロが出現しただけで、決して自分から戦闘依頼に入ったわけでなく……」
「『貴方たちは人間だ』(キリッ!)」
「やめてーーーっ!」
 さらに悶絶し、廊下へとはみ出る勇斗。それを見ながら、悠奈は「しょうがないなぁ」といった視線で嘆息した。
「骸骨とか、牛頭とか。ネタは上がっているんだよ、お兄ちゃん」
 その悠奈の言葉を聞いて、勇斗は遂に観念した。疲れた様子で正座に戻り、語る。
「僕は強くならなきゃならない。その為に、戦闘訓練に励み、実戦にも参加している」
「……それは私の為?」
「最初はそうだった。いざという時に悠奈をちゃんと守れるように、って。……でも、今回、青森に行って、実際に戦場を目の当たりにして、一人の撃退士として人類の為に戦いたいと、そう思うようになった」
 膝の上の拳を、勇斗はギュッと握った。悠奈には言えないが…… あれはまさしく地獄だった。悪魔たちに家畜の様に追い回される人々を見て、天魔に対する許し難い怒りが胸の中に沸き立っている。
 悠奈は嘆息しつつ、傍らのローカル紙に視線を落とした。紙面には、人々に訴えかける勇斗の写真。その姿に、幼い頃、自分を庇っていじめっ子の前に立ち塞がった兄の姿がダブって見える。
「人助けなら、しょうがないか。……お兄ちゃん、頑固だから、言ったって聞かないだろうしね」
 困ったように言う悠奈の口の端には、微笑が浮かんでいた。……妹として、家族として。本当は兄に危ないことなどして欲しくない。だけど、妹として、家族として。『わがまま』を言って兄の負担にはなりたくない。
「私もこれからはもっと戦う訓練をしなくっちゃ。お兄ちゃんと一緒に戦えるくらい、頑張って強くなるからね。一緒に行けば、お互い、目の前でハラハラすることになるんだろうけど…… この家でただ待っているだけなんて、もう絶対嫌だから」
「悠奈、それは……」
 言いかけて、勇斗はそれ以上何も言えなくなった。自分が妹を心配しているように、妹もまた、自分を心配してるのだ。自分が青森に行っている間、悠奈がどんな気持ちでこの家で待っていたのか…… それを考えれば、自分に何を言う資格があろうか。
「……決して無茶だけはしないでくれよ」
「お互いに、ね。……さぁ、ご飯、食べちゃおうよ、お兄ちゃん。言いたいこと言ったらお腹減っちゃった!」

 翌日、放課後。
 勇斗はその日、初めて、悠奈を伴って自主訓練場にやってきた。待ち合わせをしていたのだろう。悠奈の級友たる早河沙希と堂上加奈子が手を振って二人を出迎える。
 教官たる体育教師・松岡がまだ青森に出張っている為、訓練は生徒による自主練が行われていた。
 中等部の3人はその真剣な雰囲気に息を呑んだ。授業中に行われる戦闘訓練とは、参加者の必死さが違っていた。
「そんなに気負うことはないよ。みんな根は良い連中だから」
 勇斗は3人を安心させるように笑うと、訓練中の仲間に声をかけた。事情を説明し、初めての自主訓練に参加する3人の訓練の手伝いをお願いする。
「さて、みんな。撃退士は状況に応じて仲間と連携して戦うわけだけど、その最小単位は二人組──バディ、ペアだ。勿論、3人、4人と人数が増えることでやれる事も増えるわけだけど、この最小単位から考えていけば、連携というものが分かりやすいと思う……」


リプレイ本文

「よく来たな、ひよっこ共! これより訓練を始める! 訓練だからって舐めてかかる奴はお仕置きだ! まずその事を頭に刻み込んでおけ!」
 訓練の開始前。秋武 心矢(ja9605)が開口一番、そう言うと、訓練場にならんだ悠奈たち、中等部の3人娘は、ポカンとした表情で心矢のことを見返した。
 心矢の後ろには、身長2mを越す筋骨逞しき金髪金眼の欧米人、デニス・トールマン(jb2314)がなんか下士官っぽい佇まいで休めの姿勢で立っており。その隣りにはさらに巨漢な牛図(jb3275)が小山のようにそびえていたりする。
 3人の反応を見た心矢は、慌ててサングラスを外し、うろたえた。
「と、すまない。訓練っぽさを演出したかったんだが、怖がらせてしまったか……?」
「いえ、全然。秋武さんですし」
「っていうか、いかにも『訓練』って感じで楽しそうだったよね!」
「……先任軍曹」
 それぞれに盛り上がる悠奈、沙希、加奈子の三人に、複雑な表情で苦笑する心矢。やはりこの年頃の子たちはやりにくい。
 その横で、牛図はのそりと動き出すと、顔見知りの3人娘に挨拶をした。神棟星嵐(jb1397)が後に続く。
「……この前は楽しかったです。悠奈さん、元気になってよかったです。今日は、体育の先生が色々教えてくれるというので、来ました。……あ、これ、蜂蜜のレモン漬け。……先生、お留守で残念ですが、皆でお弁当……じゃない、訓練、楽しみです」
「妹さんと会うのは初めてですね。自分は神棟星嵐。お兄さんの勇斗くんとは幾度か一緒に実戦を経験したことがあります」
 挨拶を済ませると、星嵐は3人に対して、各々どのように呼んで欲しいか希望を訊ねた。
「ハイハイっ! それって『山さん』とか『デカ長』とか、そんな感じのやつですか!?」
「違うヨ? でも、まぁ、呼称という意味では同じかな?」
 星嵐が答えると、3人はそれぞれ悩み始めた。
「うーん、私、仇名に良い思い出とかないんですよね……」
「じゃあ、私は『姫様』でっ! って、嘘です! 言っててこっ恥ずかしい! きゃー!」
「……ここは定石通り『クソ虫』とか」
 怪しげな気配を感じ、名字で呼びます、と宣言する星嵐。それを聞いた加奈子がちょっぴり残念そうな顔をする。

「青森では演説を押し付けちゃって、ごめんなさい!」
 竜見彩華(jb4626)は件の新聞を片手に握り締めつつ、勇斗に思いっきり頭を下げた。
 涙目で何度も純朴に頭を下げる彩華に、勇斗は慌てて首を振った。あれは彩華ちゃんが悪いんじゃない。振られなくても、自分はああやって人々に呼びかけていただろう。
「本当にすいません…… でも、あの時、『僕らは負けない』って言ってくれた勇斗さん、とってもかっこよかったですよ!」
「きゃー!」
 真っ赤になった顔を両手で覆い、恥ずかしさにグラウンドを転げまわる勇斗。それを見た彩華が「ああっ! なんかすみません!」と再び頭を下げる。
「勇斗くん…… 悠奈ちゃんに戦闘依頼のこと、話してなかったんだってね。私たち、知らなかったから……」
 勇斗が落ち着くのを待って、今度は月影 夕姫(jb1569)が、そして、葛城 縁(jb1826)、彩咲・陽花(jb1871)の三人が謝った。悠奈に相談を受けた際、彼女を励ますべく実戦での勇斗の様子を話して聞かせたのが彼女らだった。
「勇斗くんがあそこまで隠してるとは思わなかったんだよ。話しちゃってごめんね? ……でも、隠しすぎだよ、さすがに」
「嘘も方便とは言うけど…… それは一生隠し通す覚悟をする、ってことだからね?」
 陽花に続いてそう言った縁の言葉に、勇斗が不思議そうに小首を傾げる。それを見た3人は一瞬、言葉を失った。……この子は本当に一生、悠奈に隠し通しながら戦うつもりだったのか。だが……
「悠奈ちゃん、薄々気付いてたよ? 勇斗くんの実戦参加のこと。あの広い部屋で一人、心配して、心配して、それでもお兄ちゃんに心配かけないように、って…… 勇斗くん、気付いてなかったでしょう?」
 縁にそう言われ、今度は勇斗が言葉に詰まった。夕姫は軽く溜め息をつくと、勇斗の額を人差し指でピンと突いた。
「本当に護りたいなら、心まで護りなさい。表面だけじゃダメよ」
「二人きりの兄妹なんだから。片方だけが頑張るんじゃダメ。『二人で一緒に』頑張っていけるように、だよ♪」
 夕姫と縁の言葉に俯き、はい、と答える勇斗。陽花はその頭の上に、無言でぽふっと手を置いた。

「……お兄ちゃんの周りって、なんだかいつも綺麗な女の人が多い気がする」
 そんな勇斗たちを遠目に見やって、悠奈がポソリと呟いた。
 それを聞いたデニスは苦笑した。その理屈だと、依頼に参加した男全員、いつも綺麗な女の人に囲まれているということになるのだが。
「……家族としては、やはり気になるか?」
「……お兄ちゃん、ずっと私の為に、って頑張って、苦労してきたから。良い人が側にいてくれたら、とは思いますけど」
 デニスさんのところもそうなんですか? と見上げる悠奈に、デニスは乾いた笑いを上げた。うちのはなんというか、家族と言っても特殊だからな……
「お兄さん、学校新聞に出ていた人ですね。凄いなぁ。後で握手してくれるかなぁ」
 勇斗たちの方を見て、ほんわかと呟く牛図。悠奈は笑った。お兄ちゃん、そんなに有名じゃないし、握手するほど大したものでもないよ?


 悠奈たちに対する訓練は、まず座学から始められた。
 体育座りで待つ彼女らの前に、倉庫からホワイトボードを引っ張り出してきて準備する。
 牛図もまた一緒になって教習を受けることにした。わざわざ持ってきていたノートとペンを手に、キラキラした目で講義を待つ。
「ん、やっぱり実戦での話が一番わかり易いよね。私は勇斗くんと一緒に実戦出たことも多いし…… ここは悠奈ちゃんが知らない勇斗くんの雄姿を話してあげちゃおっかな♪」
 冒頭、悪戯な表情でそんなことをのたまう陽花。転がり過ぎて疲れ切った勇斗は反駁する元気もない。
「新聞にも書いてあったが、勇斗くんも成長しているなー。……これはもう陽花ちゃんを彼女にしても良いんじゃないか?」
「なっ、なに言ってるんですか、秋武さん! そんな冗談、僕はともかく、陽花さんに対して失礼ですよ!」
「失礼。へー」
 なぜか半眼で勇斗を見返してくる陽花。うろたえる勇斗にまた笑いが起こる。
「さて、冗談はこれくらいにして。新人さんたちに対して、撃退士の先輩として皆の経験談を語ろうか」
 座学は、皆の経験談から教訓を探すという方法で行われた。心矢に続き、彩華、デニスが話を続ける。
「青森で、半分新米の18人でドラゴンゾンビを倒しました。一箇所に固まらないよう注意しながら、空を飛べる人たちで相手の気を引き続けて、その間に地上部隊が一斉砲火で頭部を狙ったんです。……幸運も勿論ありましたが、やっぱり協力って大事ですよね」
「俺の初めての戦闘は、重戦車型サーバントに対する撃破依頼だった。物理・魔法共に高火力で高耐久。それが二両もいた上、鈍足と言う弱点を補う為に随伴歩兵まで付いていた。俺たちは市街地という地形を利用し、トップアタックで奇襲を仕掛けた。1両を破壊、1両の砲身を曲げて無力化。さらに、奇襲に気を取られた歩兵たちを別班が奇襲。被害らしい被害もないまま撃破に成功した」
 大事なのは、地形の利用とそれぞれの役割分担だ── デニスは悠奈たちにそう力説した。たとえ強敵であったとしても、相手の見かけや能力を必要以上に恐れてはいけない。虚仮脅しも天魔の手の内だ。
「勿論、敵の強さや性質等、諸々見極めるのは重要だよ? でも、事前に分かることって少ないことも多いから、相手や状況によって装備や各人の役割を変えること。基本は大事だけど、それに囚われ過ぎないでね」
 夕姫が言うと、悠奈たち3人と牛図は真剣な顔で頷いた。星嵐は満足そうに頷くと、彼女らに問題をひとつ出した。
「それは巨大な赤い竜と青い虎を相手にする依頼でした。通常のディアボロよりタフであることが予想されたため、自分たちは敵の互いの攻撃をぶつけさせる作戦を取りました。竜を影縛りで拘束する間に、火力の集中で虎の機動力を奪い、そこに互いのブレスを誘発させることで、早急に退治することが出来ました。作戦のポイントはいかに同士討ちをさせるかで、その為に優先すべきことは虎の動きを止めることでした。……さて、この依頼にあなたたちが──アスヴァン・ルインズ・ダアトの3人が参加していたとして、どういう風に動くべきだと思いますか?」
 星嵐の問いに3人は暫し相談し…… 答えが浮かばなかった沙希が冗談めかしてこう言った。
「えーと…… 全力でぶん殴る?」
 星嵐は怒らなかった。
「各々強力な攻撃スキルで攻撃する、というのも選択肢の一つです。アスヴァンなら、仲間が安心して全力を出せるよう、支援に徹することで成功率を上げられますしね」


 一通り座学を終えると、今度は実際に身体を動かしてみようという話になった。実際に二人組、四人組で組んでみて、色々な職種の人との連携を確かめる為だ。
「勇斗くんと悠奈ちゃんは一番連携が考えやすそうだね」
 陽花が言うと、悠奈は少し嬉しそうにはにかんだ。陽花もまた嬉しそうに微笑むと、使う得物に悩んでいる沙希の側まで歩み寄る。
「ん、沙希ちゃんは近接系の武器がよさそう? 爪とかトンファーとかどうかな?」
「……悠奈と加奈子を守るのに、どれが一番いいですか?」
 前衛としての覚悟を胸に訊ねる沙希。陽花はひとつ頷くと、ありったけの得物の中から使えそうなものを並べてみせる。

 それぞれ使うべき得物を選択し、ペアを組んでグラウンドに立つ勇斗と悠奈たち。手にするのは実戦用の魔具だ。
 授業で使ったような訓練用武具とは違うその重みに、互いに顔を見合わせる悠奈たち。ズシリとしたその重みは、そのまま実戦の重みを彼女たちに知らしめた。
「そうだよね。怖いよね…… 私も怖かったけど、友達を…… 仲間を信じれば、必ず乗り越えられるから」
 むしろ優しい口調で縁が言うと、ようやく3人は覚悟を決めた。
「よしっ……! じゃあ、みんな。隊列を組んで! 中後衛は前衛を信じて攻撃に集中することが大事だよ。勿論、抜かれることもあるけど、それでも仲間を責めちゃだめだよ!」
 縁がパンッと手を叩いて、悠奈たちに配置に付くよう促す。初戦のペアは勇斗・悠奈組と沙希・加奈子組。敵役は牛図と夕姫、そして、彩華とそのヒリュウが務めることになった。
「それじゃあ、演習スタートだ。反則や危ないことをしたら、俺の銃が轟き叫ぶからな!」
 レフェリー役の心矢が、手にしたマグナムを見せながら、その場の皆に警告する。
 始め、の合図と共に、ヒリュウを召喚する彩華。牛図はピンと背を伸ばし、『闇の翼』で宙へと舞った。
「僕は飛ぶのが下手です。でも、飛んだ方がいい時は飛びます。下手でも長い武器なら変な所に行ってもなんとか届きます。あと陰陽師なので符も一緒に持って飛びます」
 やっぱり猫背で羽ばたき始める牛図。それに合わせて、夕姫は勇斗たちに玉入れの玉を投げ始めた。銃や魔法の遠距離攻撃の代わりの演習弾──の代わりである。
「基本はよく見ること。回避は闇雲に、じゃなく、考えて動くように」
 言いつつ、次から次へと投げつける夕姫の『弾速』がだんだん速くなる。盾を構えて後衛を守りつつ、前進を始める勇斗。回避を選択した沙希は、後衛の加奈子に流れ弾が飛ぶのを見て、自分の失敗を悟った。
「だったら…… とにかく相手との距離を詰める!」
 ゴールキーパーよろしく夕姫に向かって突っ込んでいく沙希。もって敵の目標を自分にもってくる腹だろう。
 だが、そんな沙希の頭上を越えて飛んでいった彩華のヒリュウが、加奈子の頭上にポンと乗る。
「通路を塞いだって思っても、敵が飛んでたり移動力が高かったりすると、油断できないんだよね」
 頭上でくつろぐヒリュウを撫でつつ、自身の『戦死』を宣告する加奈子。フォローすべく移動しようとしていた勇斗は、だが、槍の柄を突き出して降下してきた牛図の突進に阻まれた。
「受け止めるんじゃねェ! 弾いて逸らせ! マトモに受けてたら身体がもたねェぞ!」
 横合いから勇斗に叫ぶデニス。武器を使った防御は彼の十八番。同じディバインナイトということもあり、いつの間にか悠奈たちより勇斗に目がいってしまう。
「デニスさんの言う通り! あと、受けて逸らすだけでなく、カウンターを意識するとか、その後の動きにも工夫して!」
 勇斗の動きを見て助言する夕姫。やっぱり彼女もディバインだ。

 続けて、ペアを変えて訓練を続行する。あの後、突撃を終えた牛図がずずん、と地面に激突したりしたのだが、流石は巨漢、へいきへっちゃら。構わず訓練を続行する。
 今度の加奈子には、同じ遠距離火力型の星嵐が側について、その都度、適切な助言を与えた。
「範囲攻撃は強力だが、連携がしっかりしていないと味方を巻き込む恐れがある。使う際には事前に綿密に相談した上で、使うタイミングを見誤らないこと。前で身体を張ってくれている仲間の為にも、自分が必ず敵を倒す──そういう意志をもって術を放つ」
 星嵐の言葉に頷き、範囲魔法──の代わりの、水風船を投げつける加奈子。対して、その加奈子に突進する沙希には彩華が付いている。
「ストレイシオンの『防御効果』── 効果時間は短いけど、こういう瞬間的な攻勢に出なきゃいけないとことか、便利なのよ!」
「りょーかーい!」
 彩華の言葉を信じて突進を継続する沙希。一撃喰らうを覚悟しての切り込みだ。その沙希に直撃する水風船。判定は、ダメージなし。だが、流石の防御効果も、水風船の色水には効果がない……


 最後に、陽花がスレイプニルを召喚し、敵を挟み込んでの連携を説明して、訓練は終了した。
「自分が出来ることをしっかりやる。できないことは信じて任せる。あとは練習あるのみよ」
 夕姫の言葉に礼で応え、シャワー室へと向かう悠奈たち。その間に、縁は打ち上げ用に作ってきた料理をテーブルの上に並べ始めた。陽花が持参してきたのはデザートのみ。それ以外の調理は笑顔で縁に拒否された。
 勇斗は彩華の元に歩み寄ると、ローカル紙を捲って、写真を──依頼の成功に感極まって、号泣する彩華の姿を見せた。
「なして耐え切れんかった、自分…… 穴があったら入りたい」
 顔を真っ赤にして大地に両手と膝をつく彩華。そんな彩華に「怖かったから、泣いたわけじゃないんでしょ?」と勇斗が訊ねる。
「怖かったですよ。でも、それ以上に」
 ホッとした。と、顔を上げて彩華は言った。
「……護りたい人を護れなかった後悔なんて、もう二度としたくなかったから。……私、頑張りますよ。悠奈ちゃんたちのように。この子たち(召喚獣)もいてくれますし、一人じゃないから」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

思いの護り手・
秋武 心矢(ja9605)

大学部9年164組 男 インフィルトレイター
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
紫電を纏いし者・
デニス・トールマン(jb2314)

大学部8年262組 男 ディバインナイト
でっかいひと・
牛図(jb3275)

高等部3年4組 男 陰陽師
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー