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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/06/04


みんなの思い出



オープニング

 久遠ヶ原学園体育教師・安原青葉が、眼前の敵に突進しながら軽やかに地を跳躍した。
 そのまま空中で身体の縦軸を維持しながら、クルリと背を向け、一回転。その背に遅れて出てきた両手の短剣が、振り返ったディアボロ『悪鬼』の喉元に白刃を二閃する。
 血飛沫を上げて倒れゆく敵の巨体を、踏み台に再跳躍して。瞬く間に傍らの別の悪鬼、その後頭部に取り付くと、今度は逆手に持ち替えた短剣を延髄に突き入れ、引き立ちきる。
 地を駆けるその姿はまるで『小さな竜巻』そのものだった。正面に迎えた敵に対して、左右の連撃から回転斬り。大振りする悪鬼の戦槌を危なげなくかわしながら青葉が刃を振るう度に、血煙が、指が、四肢や血飛沫が舞い上がる。
 都合3匹の悪鬼を白刃で平らげた青葉は、双短剣を構えたまま周囲に警戒の視線を飛ばし……近場に敵がいなくなったことを確認した後、背後の生徒たちを振り返った。
 見れば、生徒たちもまたそれぞれに悪鬼を屠ったところだった。別班、同僚の松岡率いる生徒たちもまた同様。この後の戦いに備えてスキルの使用は制限されていたのだが、それを破る程に追い詰められた者もいない。作戦の前準備としては上々だ。
「松岡先生。作戦予定区域内の雑兵の掃討は終了しました。敵は殲滅。味方に大きな損害なし」
 青葉は魔具の活性化を解きつつ松岡に歩み寄ると、同僚であり、かつ恩師でもある体育教師を眼鏡越しに見上げ、報告した。
「おう。ご苦労さん。『双短剣の回避鬼』、『元気印の突撃お嬢』の二つ名は健在みたいだな」
 報告を聞いた松岡は、そう言いながら青葉の頭にポンポンと手をやろうとした。青葉は1歩退いてそれから逃れる。
「子供扱いはやめてください。生徒たちが見ています」
「そうだったな。まだお前が教え子だった時の癖が抜けなくていかん」
「ホント、お願いしますよ。私、今でも生徒たちから『青葉ちゃん』扱いなんですから」
 まるで中学生のような童顔と背の低さにコンプレックスを持つ青葉(22)は割かし本気で注文をつけるも、松岡はいつも通り右から左に流して聞いていないようだった。
 青葉は一つ溜め息をつくと、松岡と同じく、生徒たちに目をやった。学生たち──といっても、もういっぱしの撃退士たちだ──は、現場の撃退署が手配してくれていた回復役に『ライトヒール』を受けているところだった。
「……この後が『本戦』ですね」
「ああ」
 青葉と松岡の視線の先で、治療を終えた回復役たちがこの後の激戦に巻き込まれぬよう、撤収を開始する。
 青葉は大きく胸を張ると、ポニーテールに纏めた髪を改めて縛り直した。

 悪魔子爵ザハーク・オルスが青森で始めた『人狩り』は、最初の大攻勢が一段落した後も引き続き繰り返されていた。
 数多の護衛を連れて襲撃を仕掛けてくる『デビルキャリアー』。撃退庁および久遠ヶ原学園の撃退士たちは、住民の避難を終えた地域でその攻撃を迎え撃つ…… そんな光景が各地で今も繰り広げられている。
 青葉と松岡が学生たちと共に派遣された東北某都市の撃退庁指揮官は、度重なる悪魔の襲撃に「埒が明かない」と一計を案じた。即ち、たとえどんなに悪魔どもを撃退しても、敵にデビルキャリアーがある限りやつらは何度でも襲ってくる。ならばこれを優先的に叩いて数を減らしていけば、敵の攻勢も立ち枯れになるはずだ──
 とは言え、デビルキャリアーについた護衛は強力で数も多い。キャリアー自体の足も速く、自らが不利となればさっさと逃げ出してしまうこともしばしばだ。
 そこで撃退署の指揮官は考えた。
 撃退署および学生で構成された前衛部隊が敵の護衛を誘引・拘束しつつ、デビルキャリアーにはわざと戦線を突破させる。勿論、突破された穴は速やかに塞ぎ、護衛には引き続きこちらのもてなしを受け続けていただく。
 そうして引き込んだルート上には、松岡および安原の両班が伏兵。単騎となったデビルキャリアーを、確実に、叩き潰す……

「みんな、作戦の最終確認をするよ」
 作戦区域のルート脇── 河川敷の土手の陰に身を潜めた青葉は、自らの班に配属された生徒たちの顔を見やり、呟いた。
「土手下に見える河川敷脇の一般道路…… このルートにデビルキャリアーは誘導される。敵の進行方向は東から西。これに対して私たちは伏撃を敢行する。松岡班は道路北側の住宅地に伏兵。私たち安原班はここ、道路南側の土手の陰ね。松岡班が飛び出して敵の進路を塞ぐと同時に、私たちも出て敵の退路を塞ぐ。以後、挟撃態勢を維持したまま包囲、殲滅の予定。いい?」
 青葉の言葉に頷く生徒たち。その内、一人の生徒の顔が緊張に強張るのを見て、青葉は、かつて自分がされたように、その生徒の頭をポンと叩いた。
「大丈夫だって。『人狩り』の悪魔たちは確かに強敵だけど、いっぺんに相手しなくてすむよう、こうして作戦立ててるんだから」
 その言葉が終わらぬ内に、無線機が待ち伏せ班をコールする。青葉は生徒から手を放すと、耳のレシーバーに指を当てた。
「……く……返す……デビ……ャリアーは……予……線を突破。た……手……護……」
 唐突にブツリと無線が途絶える。青葉は顔をしかめると、土手の上から顔を出して東の先へ道路を見下ろし……
 それから程なくして、青葉の視界は予定通りルート上を疾走してくるデビルキャリアーの姿を捉えた。
 ただし、予定と違うのは、その触手に1体のブラッドロードとブラッドウォリアー、そして3体の悪鬼を掴んで提げていること……
「護衛を引っ掴んで突破してきたの!?」
 思わず素っ頓狂な声を上げる青葉。リーダーとしては失敗だった。傍らの生徒たちが不安そうに顔を見合わせる。
 だが、当の青葉に彼等を気遣う余裕はなかった。
 ……作戦の予定が狂った。どうする? このまま挟撃策を実行するか? その場合、松岡班の5人だけでは敵に突破される恐れがある。護衛4体つき、と敵の戦力が予定より遥かに強力だからだ。こちらが敵の背後を取る前に突破されてしまえば、挟撃策もただの戦力分散の愚に成り下がる。
 では、松岡班が飛び出す前にこちらも下まで下りて、敵のルート上にもう一枚、突破防止の壁を敷くか? だが、精鋭は足止め役を予定していた松岡班に割り振ってある。突破はされにくくなるだろうが、敵の撤収は阻めなくなるし、何より、松岡班がこちらと合流するまで持ちこたえられなければ、各個撃破の憂き目に遭うのは同じだ。
「或いは……」
 思考を独り言にして洩らしながら、考えを進める青葉。その袖を、生徒の一人がそっと引く。
「考えが、あります」
 その言葉に、目を見開く青葉。彼女は頷くと、生徒に先を続けるよう促した。
「……分かったわ。その案でいきましょーか。……安原よりみんなー。予定とはちょびっと状況が違っちゃってるけど、後ろに市民が控えている以上、ここを突破されるわけにはいかないわ。なぁに、敵は強敵揃いだけど、前衛部隊との戦いで少なからず消耗している。大丈夫、勝てるわよ。気楽に、かつ、集中して事に当たるよーに。いじょっ!」
 青葉は無線でそう皆に呼びかけると、改めて同じ班の生徒たちを見返した。
「それじゃあ、みんな。行きましょうか!」


リプレイ本文

 敵がデビルキャリアーだけでなく、護衛も伴っていると耳にして。
 『新兵』たる夢前 白布(jb1392)は一瞬、己が耳を疑った。
(そんな…… いったい、どうすれば……)
 全身から汗を噴き出し、視線にうろたえの色を見せる白布。その横で、比較的年長の『熟練兵』、龍崎海(ja0565)は、青葉に対して自らの意見を具申した。
「キャリアー単独なら、元々、松岡班で抑えられたはず。なら、我々で予定外の護衛を受け持てばいいのではないでしょうか?」
 そうすれば『キャリアーの突破』という最悪の事態だけは避けられる。「……できるか?」との青葉の問いに頷く海。護衛は触手にぶら提げられていて動き難いはず。奇襲であれば充分に数が減らせるはずだ。
「松岡班の不意打ちでキャリアーが停まったところを、護衛狙いで襲撃、だね」
「最初の奇襲でどこまで敵を削れるか、それが決め手になりそうね」
 同じく安原班の彩咲・陽花(jb1871)と月影 夕姫(jb1569)が海の案を聞いて頷き合う。その表情にはもう不安はなかった。既に変化した状況への適応を済ませている。
 そんな先輩たちを見て、白布は撃退士に対する畏敬の念を新たにした。「自分だって」と震える拳に力を込める。……本当は怖い。とても怖い。でも、こんな所で震えていたって、強くなんてなれないから……!
「……さて、そろそろだね」
 陽花は馬竜──スレイプニルを召喚すると、滾る相棒の蒼白煙のたてがみをそっと撫でた。
「初手はキミにお願いするからね。……まだみんな、前線で他の敵と戦い、頑張っている。キャリアーを孤立させてくれた彼等の為にも、私たちも頑張らないと」

「これはまた…… 予想外のことが怒ったもんやな」
 一方、道路北側の建物の陰に伏兵する松岡班──
 迫り来るデビルキャリアーとぶら提げられた護衛を見やって、御神 優(jb3561)はどこか呆れたように呟いた。
「想定外は仕方ないさねぇ。とは言え、言い訳が通用する事態でもないし…… ここはその場凌……もとい、臨機応変にでも、結果さえ良ければ……ねぇ?」
 そう言って頭を振る九十九(ja1149)。撃退署の立てた作戦が完全に裏目に出た。その尻拭いをする現場の負担は大きいが、後方に避難民がいる以上、敵の突破を許すわけにはいかない。
「大丈夫。悲観してもしょうがないです。楽しんでいきましょう♪ むしろ遊べる相手が増えて面白いじゃあないですか」
 重苦しい空気の中で、天使のエリーゼ・エインフェリア(jb3364)はむしろ心底楽しそうにそう言った。きょとんとした顔で見返す優と九十九。「変でしょうか?」とエリーゼが小首を傾げて見せる。
「……ま、なんにせよ、わいのやることは何も変わらへんしな。殴って、殴って、殴り倒したるわ!」
 苦笑しつつも不敵に拳を握って見せる優。そこへ青葉から作戦の続行を告げる通信が入り、それを聞いた優はまたニヤリと笑った。──さすがは青葉ちゃんとこや。やるべきことがちゃんと分かっとる。
「敵が来ます。攻撃予定地点まで、目測であと20秒」
 塀の陰に張り付いてずっとキャリアーの動きを確認していたRehni Nam(ja5283)が、敵から目線を外す事なく報告する。
 松岡班は淡々と、奇襲の準備を整え始めた。


 蜘蛛の様な八本の足を生やした巨大なイソギンチャク── デビルキャリアーを言い表すとそのようなものだった。
 ガシガシと高速で脚を前後させるその姿は何ともグロテスク。護衛たちを触手でぶら提げ、ブランブランと振り揺らして走る様は、滑稽を通り越してシュールですらある。
 そのキャリアーを物陰から覗いてニコニコ笑うエリーゼは、敵が攻撃開始地点を越えたことを確認すると、他の松岡班のメンバーと共に、隠れていた廃屋から飛び出した。
「では、『ファイアブレイク』、いきますよ〜♪」
 広げた両手の間に巨大な火球を生み出すエリーゼ。九十九は流れるような所作で洋弓にアウルの矢を番えると、静かに弦を引きつつ蒼き光を矢に纏わせる。
「蒼天の下、天帝の威を示せ! 数多の雷神を統べし九天応元雷声普化天尊!」
 弦の鳴る音も高らかに、蒼光のアウルの矢が迸るエネルギーの奔流と化して放たれる。聖なる力を付与された九十九の一撃は、魔の眷属たるキャリアーに対して強かにその威力を発揮した。矢はキャリアー右脚の1本を直撃し、激烈な破砕音と共に叩き折る。
 反動で宙高く舞い上がる蜘蛛の脚。そこへエリーゼは膨れ上がった巨大な火球を思いっきりキャリアーへと投射した。まるで小さな太陽の様に真っ赤に燃えて、宙を飛ぶ火炎球── キャリアーの右側面を捉えたそれは直撃と同時に炸裂し、触手に提げられていたウォリアーと悪鬼の1匹を巻き込んだ。爆炎に呑み込まれ、まるで水風船のヨーヨーの様に宙を乱舞するウォリアーと悪鬼。その身を焼かれて咆哮する悪鬼とは対照的に、対魔障壁のマントを持つウォリアーに殆どダメージは見られない。
「……ホントに魔法攻撃、効かないんですね。むー、なんだかちょっと負けた気がします」
 ちょっぴりむくれて呟くエリーゼの視線の先で、脚1本失ったキャリアーがつんのめり、激しい火花を撒き散らしつつ、擱座する。残りの脚をがしゃがしゃ動かし、立ち上がろうとするキャリアー。無論、撃退士たちはそんな時間は与えない。
「おらおらーっ! これ以上好き勝手やらさへんで!」
 敵前へと駆けながら右手に白き光を纏った優は、立ち上がろうとするキャリアーの傍らまで一気に肉薄すると、敵の『軸足』目掛けてダンッ、と一歩踏み込んだ。そのまま腰を入れつつ、アッパー気味に放つ掌底。その衝撃に一瞬、ぐらりと揺れた所へ更に、白色のアウルを纏った優がさらに一歩踏み込み、獅子の咆哮と共にその半身を叩きつける。
「くそっ、倒れんか……っ!」
 天覇御神流『白帝戦吼撃』── 其をもってしてもなお、大型種たるキャリアーに対しては足をすくうのが精一杯だった。
「こないだみたいな思いは、もうごめんです…… 絶対、ここで阻止して見せます……!」
 優と共に突進しつつ左手に短剣を活性化させたRehniが、そのままキャリアーの前方4mの位置まで走り込みつつ、右手に『審判の鎖』を現出させる。そのまま、優の一撃で体勢を崩したキャリアーに向かって鞭の様に振るうRehni。脚の一つに絡まった聖なる鎖が敵を大地へ繋ぎ留め。その喰い込み、締め上げる『鎖の茨』から逃れようと、もがき始めるキャリアーを見やりながら、Rehniは『アウルディバイド』で鎖の再装填をする……

(作戦の手足でなく耳目となる…… 攻撃は華だけど、その華を支える茎の役割も必要さねぇ)
 九十九は最初の攻撃の後、矢を番えたままの姿勢で戦場を見渡し、後方から冷静な目で状況の把握に努めていた。情報面で仲間を支援する為だ。
 初撃の奇襲は上手くいった。松岡班の攻撃により、敵は完全にその足を止められた。奇襲の効果か、敵の反撃はない。そして、斜めに土手を駆け上ってきた安原班が、今、次々と土手の上へ──戦場へ飛び出して来る。
 それを見た九十九は、自身もまた弦を引き絞り、アウルの矢を禍々しき血色へと変化させた。
「纏うは大地を殺す腐毒。貪り喰らい尽くせ荒ぶる九頭の大蛇、相柳!」
 放たれた矢は錆色の風と化して、鎖でつながれたキャリアーに襲い掛かった。そして、その身に染みこむ様に、広く『腐毒』が侵食していく。
「リーダーごと…… みんな纏めて、吹き飛んでしまえっ!」
 そこへ白布が、土手の上から眼下に見下ろすキャリアーに向けて、ロードを巻き込むように狙いをつけた『クレセントサイス』を全力投射した。
 更に、光の槍をその手に生み出した海が、ロードへ向け大きく振り被って投擲し。夕姫は突き出した右手に生み出した五連の光弾を偏差射撃で速射する。指示出す陽花と、嘶く馬竜。放たれたアウルの力はキャリアーを中心に爆発的に猛威を振るい、力の奔流がキャリアー本体と護衛たちを激しく揺さぶる。
 だが、それらの攻撃は、殆どロードには当たらなかった。触手にぶら提げられた敵は攻撃と急停止で激しく揺れており、狙いをつけるのが難しかったのだ。集中攻撃の中、有効打は海の投擲した光の槍のみ。夕姫の虹弾もまたロードの身体を捉えはしたが、命中したのが5弾の1ではマントの障壁は破れなかった。
「外したっ!?」
「慌てないで。第二次攻撃!」
 驚愕する白布に声を掛けつつ、自らも再び光の槍を生み出す海。反撃が来た。悪鬼を土手へと放り投げつつ、自らも鞭の様に迫る触手。驚き、後ろへ跳び退さる白布。慌てて放った反撃の矢はあさっての方向に飛んでいく。
(しっかりしろ! 慌てちゃダメだ! ここを乗り切らなくちゃ、もっと多くの人が苦しむ。なんとかして、僕たちが止めるんだ──!)
「夢前白布! 第3射、いけます!」
 力強く声に出しながら、矢を番えて一歩前に出る。突進して来る悪鬼に一瞬、怯えを見せながらも、不可視の矢で迎撃する白布。……自分に出来ることをやる。僕の矢数が味方の支援になるのなら……!
「その意気よ、白布! ……陽花! ロードを地面に叩きつけられる!? 落下直後を攻撃するわ!」
 突進して来る悪鬼に対して立ちはだかりながら、陽花に要請を出す夕姫。陽花は「ん。やってみるよ!」と答えると、再び馬竜に指示を出した。もう1体の悪鬼を放る触手の直上を、宙を駆けて進む馬竜。キャリアーの直上に到達した馬竜は見えざる壁を駆け上がり。そのまま逆落としに降下攻撃を仕掛けて今度こそ命中するも、体当たりの衝撃は再びサスペンション代わりとなった触手によって減衰される……

 奇襲で混乱していた敵は、早くも立ち直りを見せ始めた。
 敵はまず悪鬼の内2匹を土手上の安原班に向け投入した。もう1匹の悪鬼は、後衛に位置するエリーゼと九十九に突っ込ませる。慌てて『光の翼』で上空へと逃れるエリーゼ。弓で迎撃する九十九に、火傷と矢傷に血塗れになりながらも悪鬼は肉薄して戦槌を振るう。
 近場に位置するRahniに対しては、キャリアーの触手で反撃に出た。肉薄した優に対しては、その背後にウォリアーを下ろす。『四門開放』を始めた優に背から切りかかるウォリアー。魔法的な刃でざっくりと背を斬られた優に、Rahniからすかさず回復が飛ぶ。
 それらの指示を出したロードは自らとキャリアーを回復しながら、自身をキャリアーの上に下ろすよう命じた。そこには広い視界と、下から射線の通らぬ『稜線』、近接戦を避けられる安全地帯がある。
 だが……
 キャリアーの背に乗った直後、空飛ぶエリーゼと目が合うロード。互いに暫し硬直し……
「えい♪」
 と、エリーゼが放った火球がキャリアーの上で炸裂する。
「今ですっ!」
 うろたえるロードを見て、再び光の槍を投擲する海。土手の上からならキャリアーの上にも射線は通る。白布も今度は落ち着いてしっかりと敵に矢を放ち。夕姫もまた5つの虹弾を纏めてロードに叩きつける。
 肩口を矢に貫かれ、光弾にマントごと乱打されたロードの胸部を、海が放った槍が刺し貫き…… 集中攻撃を喰らった敵は今度こそ、絶命して地面へ落ちていった。
「ちょいと待ってろ。今、本命に止めを刺してやっからよ!」
 背後を振り返らずに叫びながら、四門の開放を始める優。ウォリアーなど無視するように「蒼帝門、炎帝門、白帝門、玄帝門!」と4つの型を繰り出し、気を練り上げ……
「天覇御神流が奥義、四門解放・白帝戦吼撃っ!」
 白いアウルを爆発的に噴出しながら、眼前の巨体に対してその身ごと叩きつけた。
 回復役を失い、緒戦から立て続けに攻撃を喰らっていたキャリアーはその一撃に耐えられなかった。ガクリ、と崩れ落ちる蜘蛛脚。触手がしなしなと力をなくし、イソギンチャクをしぼませながらキャリアーが地に倒れる。
「目標の撃破を確認! 残る護衛を掃討します!」
 ロードとキャリアーを倒されて狼狽する悪鬼に向けて、海は十字槍で文字通り横槍を突き入れた。夕姫と戦闘中だった悪鬼は、横合いから突き出された海の十字槍に仰け反り、よろめいて。瞬間、海は手の中で槍の柄を回すと、槍の横に張り出した十字刃を敵の方に立てて引き戻した。行き過ぎたはずの槍の刃に喉元を切り裂かれ。悪鬼は噴水の様に血を撒き散らしながら、土手の斜面を転がり、動かなくなる。
 直後、土手下へ向かって駆け出す夕姫。もう1匹の悪鬼は、盾を構えた陽花に邪魔され夕姫の進行を止められない。背後に接近した馬竜のいななきに慌てて後ろを振り返る悪鬼。その隙に魔具を盾から斧槍へと変えた陽花が、その穂先を喉へと突き入れる。
 走り出した夕姫の向かう先には、キャリアーへの攻撃で全力を放った優の背に向け、大剣を振り上げるウォリアー。間に合うか、と唇を噛む夕姫の頭上を、白布が最大射程から放った矢が飛び、優に手痛い一撃を与えようとしていたウォリアーの肩口に突き刺さる。(間に合った……!)と心中に叫んだ夕姫は、走りながら虹のリングを本へと換装し…… 両手に振り被ったその本で、ウォリアーの横っ面を思いっきりぶん殴った。
「本はね、こうも使えるのよ!」
 血の滴る金属本を手に息を荒げながら、どや顔でウォリアーに言い捨てる夕姫。信じられないようなものを見るように振り返ったウォリアーの目に、空中を真正面から飛翔してくるエリーゼの姿が映り……
「魔力増強完了! というわけで対魔障壁に全力リベンジです♪ 目には目を、歯には歯を。天魔には、天魔の力を! 天魔槍・『グングニル』♪」
 細氷の様な魔力の煌きを周囲に曳きながら、敵真正面から放つエリーゼの光の槍。障壁を振り上げてそれを受け止めるウォリアーの手が光に焼かれ…… 直後、背後からRahniが放った聖なる槍が、あっけなく背から胸へと貫き、ウォリアーを絶命させた。

 眼前に迫った悪鬼の戦槌をかわしながら、九十九は路上へと移動した。血を曳く戦槌を手に追随してくる悪鬼。そこへ真っ先に駆けつけた陽花の馬竜が敵の頭上を前足で上げる。
 思わず怯んだ悪鬼に対し、九十九は弓で悪鬼の目を叩くと、一歩跳び退さって矢を放った。その日、何本目かの矢に貫かれ、最後の敵が絶命する。
「大丈夫ですか?」
 海は九十九に対して回復を飛ばすと、キャリアーの死骸を確認するRehniに歩み寄った。どうやらこのキャリアーに捕まった一般人はいなかったらしい。二人してホッと息を吐く。
 連絡を受けた前衛部隊は、目標たるキャリアーの討伐を確認すると、戦闘を中止して引き上げ始めた。キャリアーさえ潰してしまえば、わざわざ他の敵を相手にして戦力を消耗する必要もない。
「この青森も…… そろそろ反撃といかないとね」
 土手から下りてきた陽花や白布と合流しながら、金属本の活性化を解いて呟く夕姫。
 松岡と安原が状況の終了を宣言し、敵が押し寄せて来る前の撤収を指示した。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
Little Brave・
夢前 白布(jb1392)

高等部3年32組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
水華のともだち・
エリーゼ・エインフェリア(jb3364)

大学部3年256組 女 ダアト
撃退士・
御神 優(jb3561)

大学部3年306組 男 阿修羅