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マスター:烏丸優
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/06/20


みんなの思い出



オープニング

●ディアナゲート

 ディアナがレインを呼び戻した大きな理由は、撃退士の反撃にある。
 最近になって、ディアナの支配するエリアでは、撃退士による侵入が繰り返されていた。

 東北でザハークが暴れている影響か、都市部の防衛力は強化されている。少なくとも、そのエリア周辺はそうだった。
 天魔による侵攻を防ぎ、一般人への被害を減らすため、撃退士たちは全力を尽くしている。
 ディアナにしてみれば、鬱陶しい事この上ないほどに。
「……だから、それを潰すのよ。撃退士どもの拠点、撃退署とかいうヤツをね」
 抵抗は無駄だと、人間どもに思い知らせる。
 冥魔への恐怖を、魂の根源に刻み込ませる。
 そのための策は無数に存在する。
「……いくつか駒を動かすわ。強力なディアボロたちをたっぷりとね」
 警察署、病院、学校、役所、住宅地、商業地……狙い所はいくらでもある。
 人間にとって重要な各所に、撃退士が無視できないだけの戦力を送り込む。
 それらの陽動に、撃退士は人員を割かざるを得なくなるように。
 よしんば罠だと気づいても、殺戮と破壊の危険がある以上、撃退士は放置できまい。
 無力な家畜どもを守るのが、奴ら撃退士の役目なのだから。
「……撃退士たちが分散した隙を狙ってレイン――貴女は、手薄になった撃退署を制圧しなさい。残っている連中は、家畜にならない撃退士がほとんどでしょうから、皆殺しにして構わないわ」
 ディアナが続ける。
「……ゴミを片付けたら戻ってきなさい。この辺りの撃退士が機能しなくなるまで、貴女には働いて貰うわ。……何があっても、絶対に油断しないのよ。貴女には強大な魔力を与えているけれど、ゲートを作る時に消費したでしょう。撃退士に足許を掬われる可能性も、零ではないわ」
 レインは高い魔法性能を誇るが、実はこれでも全盛期の八割程度に過ぎない。
 そして、元々高くない物理防御面は、ゲート作成の代償として、さらに脆弱になっている。
 上質な魂を大量に吸収すれば力の回復、および強化も見込めるが、現実的な手段ではない。それには長い時間がかかる。
 ただでさえ、ディアナ一人では魔界に上納する分の魂を収穫するだけでも手一杯だから、レインにゲートを作らせたのだ。魂の上納分と収穫量を考えると、即座にレインを強化するのは不可能といえた。
 とはいえ――力が弱まっているといっても、やはりヴァニタス。ディアボロに比べれば大きな力を持つし、レイン自体の戦闘センスも高い。油断さえしなければ、並の撃退士に負けることはない、とディアナは考えている。
 だが、久遠ヶ原学園の撃退士たちは、いまだ成長途中。大きく育つ危険性を秘めている。
 侮れば負けるかもしれないということは、ゲートを破壊されたレインも充分理解しているだろう。
「……わかりました」
 ディアナの命令に、レインが頷く。その青い瞳に、慢心は最早ない。
 全力を以って、必ず殺す。

 そうして、蒼き魔女が動き出した。


●久遠ヶ原学園

「レインが、現れました」
 集まった撃退士たちに、その教師は凶報を告げた。
「襲われたのは撃退署です。ディアボロの撃退のため、人員が出払った隙を狙われました。さきほど学園に救援信号が届きましたが、今から駆けつけても、おそらくは……」
 あのヴァニタスの攻撃力は、相対した撃退士たちもよく理解している。レインに奇襲を受けたとなれば、壊滅的な損害は免れないだろう。
 人命の救助は絶望的。
 ならば、招集された撃退士に与えられる依頼は。
「――貴方がたには、レインの撃退を行って頂きます。これ以上の被害が出る前に、ヴァニタスを排除する。それだけを最優先して行動してください」
 教師が言葉を続ける。
「……幸いにも、レインと共に乗り込んできたディアボロは、応戦した撃退署の皆さんが撃破してくれました。今、撃退署にいる敵はレインただ一人です。撃退するだけなら、不可能ではないと想定しています。……もっとも、深手を負わせたり、撃破するには、作戦をより深く練りこみ、実力以上の能力を発揮しなければ難しいと思われますが」
 レインの能力は底知れないが、ヴァニタスとしては下級である、というのが学園の見込みだ。ゲートを作成していたことも鑑みると、決して倒せない相手ではないはず。
 力任せの物量作戦では、運が良くない限り失敗するだろうが、仲間と連携し、幾重にも策を張り巡らせれば、あるいは。
「作戦は貴方がたに任せます。屋内での戦いになると思われますので、それに沿った作戦にするのも良いかもしれません。いずれにせよ、最善の策で臨んでください」
 健闘を祈ります。
 そう言って教師は撃退士たちをディメンションサークルに送り出した。


●撃退署

 レインのワンピースは、撃退士たちの血で真っ赤に染まっていた。
 血だまりの中、青い髪の少女が佇む。
「…………足りない」
 撃退署に残っていた撃退士はあらかた始末した。
 だが、この程度では、自分が味わった屈辱は晴れない。
 この怒りは、治まらない。
 殺す。殺す。殺す。
 撃退士は、一人残らず殺す。
 レインの全身から青黒い光を噴き上がり、そして、穏やかに凪いだ。
「……ダメですね。落ち着かなきゃ」
 怒りで我を見失うようでは、撃退士に隙を与えてしまう。
 魔力を研ぎ澄ませ。
 集中しろ。
 隙を見せるな。
 油断するな。
 そう言い聞かせるように、レインが深く息を吐く。
 そして、

「――――っ!!」

 敏感に撃退士の気配を感じ取ったレインが、そちらを見やる。
 久遠ヶ原からの増援が来たのだと、彼女はすぐに理解した。
「……あははっ」
 レインが臨戦態勢に移る。

「――遊びは終わりです。ここで終わらせてあげますよ、撃退士っ!」



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リプレイ本文

●蒼邪の光雨

「……ッ」
 光坂 るりか(jb5577)が、唇をきゅっと噛む。
 レインのもとに駆けつけた久遠ヶ原の撃退士たちは、その凄惨な光景を目撃してしまった。
 死体、死体、死体。
 血に染まったヴァニタスの周囲には、志半ばに力尽きた撃退署員たちが、絶望の表情を浮かべて転がっていた。
「これみんな、さっきまで生きてた人間だってのかよ……」
 緋野 慎(ja8541)の赤い瞳が、瞋恚に揺らぐ。
「ちくしょう……絶対許さねぇぞ……!」
 一連の事件で、レインが人を殺すことは無かった。
 けれどそれは、少女の優しさでも何でもない。
 ただの幸運。ただの気まぐれの結果に過ぎなかった。
 本気となったこの怪物を野放しにするのは、あまりにも危険過ぎる、と慎は思う。
 るりかが路傍の死者から視線を上げ、血だまりに立つ少女をキッと睨み付ける。
「決着をつける時、ですね」
「お前を逃がしたら、お前はまたたくさんの悲しみや憎しみを生む。だから絶対に逃がさねぇ、ここで終わりにしてやる!」
 撃退士の刺すような視線を、少女は真正面から受け止めた。
「あははっ。ここで死ぬのは、あなたたちのほうですよ。そこに転がってるゴミ人間みたいに、すぐにずたずたにしてあげます」
 殺意で濁った青い瞳を細め、レインが笑う。
「残念だよ……キミみたいに可愛い子を、消さなきゃいけないなんてねぇ……☆」
 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)が飄々と言い放ち、アサルトライフルを召喚。その銃口を、青髪の少女に向ける。
 終劇を、もたらす為に。
「約束通り遊びに来てあげた、ぞ……存分に殺し合おう、か。レイン」
 アスハ・ロットハール(ja8432)がヴァニタスの正面に立ち、和弓にアウルの矢をつがえた。
 呼応するように、射撃組がそれぞれの弓や銃を構える。
 撃退士がタイミングを揃え、レインに一斉砲火を浴びせようとしたところで、
 レインが、両手を前に突き出した。
「遅いですよ」
 先手を獲ったヴァニタスの双掌から、青黒い光が噴き荒れる。
 瞬間、ケイ・リヒャルト(ja0004)の脳裏に電撃が走った。
「――みんな離れて! 広範囲スキルが来るわッ」
 ケイの叫びを掻き消すように、蒼光が爆発。
 魔女の両手に収束された膨大な魔力が拡散し、微細な光の流星群となって、撃退士に殺到する。


 桐村 灯子(ja8321)が読んでいたとおり、それはレインの名を体現する、雨のような魔術だった。
 光の豪雨は範囲内の床を穿ち、死体を粉々に消し飛ばし、そして、幾人かの撃退士の身を貫いた。
 これが、ヴァニタスの本気の攻撃。そして恐らくは、レインが保有する最大級の攻撃魔術。
 ケイの呼びかけで咄嗟に散開しなければ、この一撃で全滅していたかもしれない。そう思えるほどの、凄まじい威力だった。
 だが、光雨を浴びて血まみれになりながらも、鈴木悠司(ja0226)は立ち上がった。
「倒れない。逃がしもしない。ここで、これで、終わらせてみせる……!」
 闘気を解放した悠司が床を蹴り、レインへと一直線に疾走する。
 これほどの破壊力を持った攻撃、無制限で撃てるものではないはずだ。インターバルか、使用限度はあるに違いない。
 ならば、次の光雨を発動される前に、短期決戦で討ち取るのみ。
「あはは! そう簡単に近づかせると思ってるんですかぁ!」
 悠司にとどめを刺そうと、レインが蒼光を宿した右手を振り上げた。
 ひゅん、と鋭い矢音が空を裂く。
 灯子の放った矢が、レインの足元に向かって飛来する。
 牽制の矢を、レインは思わず飛び退いて回避してしまった。
「……放て」
 レインの意識がわずかに逸れたのを見逃さずに、アスハが攻撃の合図を出す。
 微かな勝機を手繰り寄せなければ、この化物を倒すことなど到底できない。
 ジェラルド、ケイ、るりかが銃を同時に構える。
 一斉攻撃が来る、とレインは読んだ。
 けれど、三人の銃撃は、レインの頭上へと放たれた。
「なっ――!?」
 撃ち砕かれた天井面が、真下のレインに落下する。
 レインにとっては、完全に予想外の攻撃。
 コンクリの塊はレインが手で払っただけで砕け散ったが、彼女の注意と視界を数瞬だけ奪うことに成功した。
 フェイントに乗じて、悠司が正面、慎が窓側、オーデン・ソル・キャドー(jb2706)が壁側から、レインへと迫っていく。
 同時に襲い掛かる、三人の戦士。
 誰を攻撃すべきか、隙を突かれたレインは、一瞬だけ判断に迷ったはずだ。
 その一瞬が、刹那の死闘では命取りとなる。
 鬼道忍軍の慎が、壁走りの要領で窓面を駆け抜け、ヴァニタスの側面に一気に飛び出した。
 聖爪を装着した右腕が、レインの脇腹に叩き込まれる。
「くぅっ……、このっ!」
 レインが反撃の魔術を放つ――より速く、少年忍者は迅雷の速度で離脱。
 ヴァニタスが慎に気を取られた瞬間を狙い、逆サイドのオーデンが大きく踏み込んだ。
 神速の刃が一閃。
 オーデンの剣がレインの胴を袈裟懸けに斬り裂き、少女の体から血飛沫が噴き上がる。
 よろめくヴァニタスに、斧槍を構えた悠司が突進する。
 真正面から突撃する、と見せかけて、悠司は手前で跳躍。
 悠司の全身全霊を傾けた一撃が、レインへと振り下ろされる!


 鮮血の尾を引いて、レインが後退。
 右肩を深々と裂かれ、態勢を立て直そうとしたレインに、いくつもの銃弾が飛来する。
 銃撃を浴びせつつ、赤黒い闘気を纏ったジェラルドが間合いを詰めてく。
 接近する阿修羅を迎撃しようと、レインが青黒い光の球体を飛ばした。
 放たれた光弾は、これまで観測されたものより大きく、速かった。
 直撃すれば大ダメージは免れない。
「――させません!」
 ジェラルドの前方に、るりかが防壁陣を高速展開した。放たれたレインの光弾の衝撃を、アウルの壁が和らげる。
 併走するアスハが魔断杭を発動。攻撃直後の隙を狙い、巨大化したエネルギーブレードで刺突を繰り出す。
 近接戦闘に特化した魔術師の刃を、ヴァニタスは寸前で回避。
 が、その間にジェラルドとるりかもレインの懐に踏み込む。
 ジェラルドの爪撃とるりかの連続蹴りとが、レインの華奢な体を痛めつけていく。
 三位一体の連撃は、格上であるレインを確実に追い詰めていた。
 血反吐を吐きながらも、ヴァニタスが吼える。
 レインが対近接用に編み出した光槍が、三人を迎撃。盾ごと貫き、撃退士を串刺しにした。
 青黒い光の槍を引き抜かれ、アスハがその場に倒れ伏せる。
 レインが二発目の光槍を放とうとしたところで、

 少女の右手の甲に、素早く射出されたアウルの矢が突き刺さった。

「レイン……今までの借り、返させて貰うわ」
 ケイが弓銃を連射し、矢の雨を降らせていく。
 正面の援護射撃を受けて、レインの横合いからオーデンが再び剣を振るう。
 オーデンの回転斬りを、光の槍を掲げたレインが辛うじて受け止めた。
「くっ……!」
 火花を散らす接触面を、オーデンの大剣がじわじわと押し込む。
 激しい鍔迫り合いの中、悪魔剣士が唐突に問う。
「……貴女の名は、どんな意味を持つのですか?」
 同族の眷属であるレインに何か思うところがあるのか、あるいはただの思いつきか。
 オーデンが歌うように続ける。
「全てを洗い、押し流し、山さえも崩してしまう、激しい雨。哀しみを隠し、弱い自分を包んでくれる、庇護の雨。貴女にとって、その名前はどんな雨を指すのでしょうね?」
「……あははっ」
 オーデンの言葉に、雨の名を冠するヴァニタスが皮肉気に笑う。唇から血が零れるが、少女は気にせず言葉を吐きつけた。
「そんなの決まってます。あたしは苦しみの雨です。ずっとずーっと降り続けて、無力な人間どもを苦しませる災禍の雨。それが、ディアナ様に与えられた唯一無二の意味です」
 レインの答えに、オーデンが呆れたように嘆息する。
「やれやれ……まあ、私には関係の無い事でしたか。いずれにせよ、人間界でも古くから言われているのでしょう? 『止まない雨は無い』……つまり、そういう事です、よっ!」
 オーデンが剣を掬い上げるようにして、光槍を弾き払った。
 体勢を崩したレインの側面から、二条の刃が伸びる。
 会話の間に近づいていた灯子が、双剣で斬りかかったのだ。
 不意討ちを喰らい、レインがさらに後退。
 壁際まで下がったレインを、灯子が非情なまでの冷静さで追い詰める。
「逃げ場は無いわよ」
「えへへ。逃げ場が無いのは、貴女たちの方ですよ」
 通路の片隅まで後退したレインが、残忍な笑みを浮かべて、手を前にかざす。
 重傷を負いながらも、ヴァニタスは撃退士を一ヶ所に集めていた。
 広範囲攻撃で、相手を一掃するために。
 二発目の光雨が、撃退士に降り注ぐ。


 通路内には、惨劇の二幕目が開演していた。
 けれど、撃退士は全滅したわけではなかった。
 レインが窓の外に視線を向ける。
 撃対署の屋外。戦場となっている三階通路の窓側を、はぐれ天魔の撃退士が飛翔していた。
「また派手にやりましたね……ですが、まだ終わりじゃありません」
 エリーゼ・エインフェリア(jb3364)の掌に紫電が迸る。
「今回は、以前受けた悔しさを返させて頂きます」
 召喚した雷の槍を、堕天使が投擲。放たれた雷槍ブリューナクは窓ガラスをブチ破り、屋内組にとどめを刺そうとしたレインに衝突した――ように見えた。
「あはははっ! あたし相手に魔法で勝負するなんて無駄ですよ!」
 天冥の差で、ブリューナクの威力は増している。だが、敵を貫くはずの雷撃は、不可視の盾に遮られるように、レインの目の前で弾けていく。
 減衰され、か細い電光と化した雷槍は、レインが掲げた右手を浅く傷つけるに終わった。
 所詮は悪あがきだと、レインが愉快そうに笑う。
 ディアナに下賜された魔力に、よほどの自身があるのだろう。
「この程度であたしを倒そうなんて――」
 余裕を滲ませたレインの言葉に、一発の銃声が重なった。
 ナイトウォーカーの天耀(jb4046)が、雷槍の軌道に合わせて弾丸を発射したのだ。
 エリーゼのフェイクに騙されたヴァニタスの胸を、本命である天耀の銃弾が穿つ。
 天耀の一撃を受け、レインが胸を押さえて片膝をついた。
「くっ……!」
 最後の最後で、レインは油断を誘われてしまった。ディアナに厳命されていたにも関わらず、心のどこかで、まだ撃退士を甘く見ていたのだ。
 自身を恥じる気持ちは、すぐに撃退士への殺意に変換された。
「やってくれましたね……! 二人まとめて消してあげますよッ」
 レインが屋外の飛行組に向かって、光雨を放つ構えを取る。
 ここまでは作戦通り。
 天耀が、PDWを握り直す。
「エリーゼ、後は頼んだぜ」
「……はいっ!」
 意志をかわした二人が、作戦を続行。
 エリーゼから離れた天耀が、空中を駆けながらレインを撃ち続ける。
 天耀を見上げる青い瞳に宿るのは、怒気と殺意と、そして、狂信。
(あいつが気づいてるのか知らねえけど、今回もディアナの手駒として都合良く使われただけなんだろうな……)
 だとすれば、彼女の想いは。
 戦闘に余計な思考を断ち切るように、かぶりを振って天耀が空中移動する。
「……情けをかける気は微塵も無え。全力で仕留める――それだけだ」
 手を緩めることなく、天耀が銃を連射。
 少しでも、レインの意識を自身へと向けさせるために。
「まずはあなたからです!」
 単体攻撃に切り替え、レインが光弾で天耀を撃ち落した。
 物理攻撃に優れた天耀から先に潰す。この局面の判断としては、間違っていない。
 誤算があるとすれば、それは――。
 レインの側面に回りこんだエリーゼが、術式魔装を展開。周囲の収束された魔力が、ダイヤモンドダストのように煌く。
 さらに天使は、攻撃力に特化した光焔の槍を呼び起こした。
 純白の炎槍レヴァンティンを、レインめがけて一直線に飛ばす。
「以前と違い、現在の私の最大攻撃力での攻撃です! 前回同様、防げるものなら防いでみてください!」
 レインも青黒い光槍を召喚し、エリーゼの炎槍を迎え撃つ。
 槍と槍とが衝突する。
 拮抗する魔力のぶつかり合いの末、片方がついに砕けた。
 青い瞳が見開かれる。
「うそ……?」
 驚愕するレインの胸を、超高熱の槍が貫く。
 瞬間的にとはいえ、エリーゼの魔力はレインのそれを上回っていた。
 身を灼く炎よりも何よりも、その事実を突きつけられ、レインに動揺が広がる。
 訪れた最大最後のチャンスを、彼は逃さなかった。
「終わりにしよう……ヴァニタス、レイン」
 ハッとして振り返ったレインが見たのは、倒れたはずのアスハだった。
 起死回生で立ち上がったアスハは、ずっと好機を窺っていたのだ。
 零距離で、確実にレインを撃ち貫くために。
 装着したバンカーに、残るアウルを限界まで注ぎ込んでいく。
 レインが咄嗟に右腕を掲げてガードするが、間に合わない。
 打ち出された鋼鉄の五連杭が、レインの右腕に突き刺さる!


 ヴァニタスが激痛に喘ぐ。
 時間経過でアウルの杭が消えたのと同時に、だらん、とレインの右腕が垂れた。
 右腕は、もはや使い物にならなかった。
 完全に治すには、長い時間が必要だろう。
 撃退士の猛撃で、レインは気絶寸前まで追い詰められていた。
 悔しいが完全に自分の負けだと、レインは認めていた。
 撃退士は、敵と呼ぶに足りうる存在だと。
 とはいえ、レインと死闘を繰り広げた撃退士も壊滅状態。負傷度はレイン以上だ。
 しかし、ここは撃退士の拠点。間もなく撃退署員が戻ってくる。そうなれば、レインに勝ち目はない。
 撤退する以外に、彼女に残された選択肢はなかった。
「今回は退きますが、あなたたちはあたしが必ず殺します。もっと強くなって、絶対に」
 満身創痍のレインが左手をかざす。
 右腕が使えない現状では、光雨の破壊力も半減する。だが、足場を崩すくらいは容易い。
 放たれた光雨が、床ごと撃退士を撃ち抜く。
「――また戦えるのを楽しみにしてます。その時まで、あたし以外の子に殺されたりしないでくださいよ?」




 あと一手足りず撃破には至らなかったが、久遠ヶ原の撃退士はレインに深手を負わせ、見事に撃退して見せた。
「いずれあのヴァニタスは戦線復帰するだろう。だがそれまでは、主力を欠いたディアナは動きを制限されるはずだ。その間に、我々も対策を進められる」
 ディアナによる都市部・撃退署への攻撃は、恐らくこれからも続く。
 緒戦で主戦力と思しきレインを戦闘不能にできたのは大きい。
 レインとの戦いの後、撃退署に駆けつけた撃退士たちは、そう言った。
 最小限の犠牲で済んだのも、君たちのおかげだ、と。

「思えば哀れな子だったのでしょうね。この様な子をこれ以上増やしてはいけません」
 るりかが静かに述懐する。
 悪魔ディアナとの本格的な戦いになれば、レインと再戦する日も来るだろう。
 その時こそ、必ず。
 本当の戦いは、これから始まる。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 水華のともだち・エリーゼ・エインフェリア(jb3364)
 Man of Devil Fist・天耀(jb4046)
重体: −
面白かった!:7人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
余暇満喫中・
柊 灯子(ja8321)

大学部2年104組 女 鬼道忍軍
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
水華のともだち・
エリーゼ・エインフェリア(jb3364)

大学部3年256組 女 ダアト
Man of Devil Fist・
天耀(jb4046)

大学部4年158組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
光坂 るりか(jb5577)

大学部8年160組 女 ディバインナイト