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マスター:烏丸優
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/07


みんなの思い出



オープニング

●某県某所

 市街地・北方面。
 雑居ビルを影が覆う。
 ビルの上空を、巨大な怪鳥が旋回していた。
 大きく広げたその両翼には、紫電が纏わりついている。
 雷鳥の翼が放電。火花を散らせながら、無数の稲妻が地上へと落ちる。放たれた電撃は建物や地面を穿ち、粉々に砕いていく。
 サンダーバードが建物の間を縫うように飛び回る。次々と繰り出される落雷。 
 街を破壊し尽くさんと、雷の矢が降り注ぐ。


 市街地・東方面。
 黒い霧が、無人の交差点に充満していた。
 霧の中から純黒の物体が姿を現す。
 それは影のような黒い塊で出来た、不定形の人形だった。
 ゆらめく人影の手にあたる部分が歪んで変形。手が刃物のように鋭く尖る。
 人影が腕を振る。腕は長々と伸張し、電柱に命中。伸びた長槍は遠く離れた電柱を貫通し、いとも簡単に叩き折った。
 電柱が音を立てて崩れる中、人影が闊歩する。槍はいつの間にか縮み、手も元の形に戻っていた。
 移動する人影の全身から黒霧が溢れ出る。
 人影――シャドウは再び闇に包まれ、すぐに姿が見えなくなった。
 暗闇の中で、何かが砕け、崩れる音だけが響く。


 市街地・西方面。
 大地が揺れる。
 地震源は、人間の何倍もの大きさをした石人形の足。岩石の巨人が歩く度にアスファルトが陥没し、大型の足跡を残していく。
 石人形――ゴーレムの行く手に、放置された自動車が転がっていた。
 巨人が無造作に腕を振る。岩石の拳が槌となって、鋼鉄の塊を押し潰した。自動車が爆発し、炎上。
 煙と炎が立ち込める。けれど石人形は意に介さず、そのまま歩き続ける。
 ゴーレムの頑強な体は、ただの爆発程度ではかすり傷ひとつ負わない。
 岩石の巨人が街の中央に向かって進む。行く手を阻む障害物は踏み潰し、あるいは叩き壊しながら。


 三体の化物が、無人の市街地を蹂躙していく。
 幸いなことに一般市民の避難は完了しているが、このままでは破壊の規模は拡大していき、壊滅的な損害を被るだろう。
 一般市民はもちろん、警察や軍にも、奴らの破壊活動を止めることはできない。
 天魔を倒すことができるのは、撃退士だけだ。


●久遠ヶ原学園

 呼び出しを受けて、撃退士たちは作戦会議室に集められていた。
「緊急の招集にも関わらず集まってくださり、ありがとうございます」
 丁寧な口調で女教師が説明を始める。
「現在、とある市街地で三体のディアボロが暴れています。破壊活動を中心に行っていることから、人間に対する示威行為である可能性が高く、『人々に恐怖を植え付けるべく冥魔が放ったのではないか』と学園は考えています」
 天魔の圧倒的な力を誇示することで、餌である人間の抵抗意欲を削ぎ、より支配をしやすくする。そういった理由で眷属が放たれることもあるという。
 女教師が説明を続けていく。
「電撃を操るサンダーバードに、黒い霧を生成して暗闇の中から襲い掛かるシャドウ。そして高い防御力を誇るゴーレム……いずれも手ごわい相手です。しかし、たとえ個々の力では劣っていても、連携して戦えば充分に勝算はあると私は思います」
 それぞれの敵に合わせた作戦を練り、仲間と協力し合うことで最大限まで戦力を引き上げれば、単体で散らばっている敵を倒すことは不可能ではないはずだ。
「作戦は皆さんにお任せします。準備が整い次第、出撃してください」
 


リプレイ本文



 市街地・北方面。
 ビル群の上空を、金髪の少年悪魔、東雲 奏多(jb4542)と銀髪の天使、Sion(jb4878)が飛んでいた。
 聴こえてくる雷鳴を頼りに、二人のはぐれ天魔が全速力で飛翔する。
 轟音が近づく。
 やがて、敵を視認できる距離まで辿り着いた。
 翼に紫電を纏った巨大な怪鳥、サンダーバードの姿が、ビルの間から確認できる。
 都合のいいことに、雷鳥は二人に尾を向けていた。
 背後から接近する撃退士の存在に気づかないまま、ディアボロが破壊活動を続ける。
 これ以上、暴れさせるわけにはいかない。
「では……作戦通りに、行きましょう」
 シオンの言葉に奏多がうなずく。
 今の自分にできることを確実に果たす。
 守るべきモノを、守る為に。


 初撃は、サンダーバードが破壊の電撃を放とうとした、その瞬間を狙った。
 背後から急襲したシオンが、シャイニースピアで放電途中の雷翼を突く。
 突然の不意討ちを喰らい、ビルを砕くはずの電撃は虚空へと逸れた。
「威力は高くないが、確実に当てさせてもらう!」
 さらに、双剣を構えた奏多がディアボロに突進。シオンが傷付けた大きな右翼を斬り付ける。
 サンダーバードが翼を振って飛翔。旋回し、撃退士たちに向き直った。
 連続攻撃は確かにダメージを与えたものの、決定打には程遠い。
 奏多とシオンが追撃を重ねる、のではなく、そのまま後退。サンダーバードから離れていく。
 撃退士たちの行動に疑問を抱きつつも、ディアボロは脅威の排除を優先。
 撤退する二人を、巨大な雷鳥が追いかける。
「さぁ、来るんだ」
 ビルの合間を縫うように、シオンが怪鳥をいざなう。
 先行する少年たちは、徐々にビルが立ち並ぶ狭所へと進んでいるように思えた。
 雷鳥の瞳に苛立ちの色が浮かぶ。
 サンダーバードの翼から閃光。放たれた電撃の槍が、奏多へと向かう。
 雷は、空を翔る奏多の背中に直撃した。
「っく……!」
 電撃を浴びて体勢を崩した奏多が、呻き声と共に落下する。
 だが、これでいい。シオンと奏多の役割は、あくまでも敵の誘導。

「スマン……後頼むぞ、ファラ!」

 奏多が叫んだのと同時に、ビル影に潜んでいたファラ・エルフィリア(jb3154)が雷鳥の側面に飛び出した。
 碧眼の可憐な悪魔が、サンダーバードに長弓を構える。
 ――待ち伏せ。
 罠にはまった事を瞬時に理解したディアボロが、射線から逃れようとするが、

 背後から衝撃。

 予期せぬ方向からの攻撃に、サンダーバードがひるむ。
 雷鳥の後ろでは、翼を生やした可愛らしい少女がウインドクロスボウを構えていた。
 ハイドアンドシークで気配を殺し、後ろを取ることに成功したルルウィ・エレドゥ(jb2638)による攻撃だった。
 二人の少女悪魔に続き、黒髪の少年が建物の影から飛び出す。その背には、やはり翼が生えている。
 飛行能力を保有するはぐれ悪魔の撃退士たちが、所定のポイントまで誘き出されたサンダーバードを迎え撃つ。
「焼き鳥にしてやるぜ!」
 ファラの反対側から現れたラウール・ペンドルミン(jb3166)が、赤熱の弓から火球を放った。
「合わせるの!」
 ラウールの攻撃と同期するように、ファラも炎の球体を飛ばす。
 陰陽師の悪魔たちが放った二発の炎陣球が、左右から同時にディアボロへと殺到していく。
 撹乱した上での挟撃。奇襲で隙を突かれた雷鳥は、避けられない。
 サンダーバードの両翼の表面で、業火の連撃が炸裂。
 翼から火花を散らせながら、怪鳥が耳障りな苦鳴をあげる。
 撃退士の攻撃は続く。


 よろめくサンダーバードの頭上で轟音。垂直落下した雷刃が、雷鳥の右翼に衝突した。
 ダアトの女悪魔、弥生・ハスロ(jb3506)が放った雷帝霊符による攻撃だった。
 ハスロは、仲間たちが敵を引きつけている間にビルの屋上に登り、そこから更に飛翔していた。
 雷を操るディアボロを嘲笑うかのように、高高度からハスロが雷を落とす。
 サンダーバードの双眸は憤怒に染まっていた。
 雷刃を受けながらも、雷鳥はハスロを攻撃対象に選択。紫電を纏った翼を上方に向ける。

 だが、ディアボロは判断を誤った。ここは反撃よりも、回避を優先すべきだった。

 自身の周囲にそびえ立つビルにも狙撃手がいることに、サンダーバードは気づくことができなかったのだ。
 屋上に待機していたのは、純白のメイド服を着こなした華奢な少女、斉凛(ja6571)。そして、怜悧な瞳が印象的な赤髪の青年、飛鷹 蓮(jb3429)。
「今日のメインディッシュは鳥の丸焼きですわ」
 ショートボウを構えた斉凛が、皮肉気な言葉と共に矢を放った。
 炎陣球や雷刃に灼かれた右翼へと、鋭い一撃が命中する。
「まずは、こちらを翻弄する術を奪う」
 蓮が狙うのは、斉凛と同じくダメージが集中している右翼。
 回転式拳銃の照準を定め、アウルの弾丸を発射する。
 蓮の放った銃弾は右翼を貫き、小さな風穴を空けた。
 サンダーバードの巨躯が揺らぐ。
 しかし、ディアボロはまだ倒れない。


 怒れる怪鳥が唸るように鳴き声を発する。
 劣勢を覆さんと、サンダーバードが反撃の雷を飛ばした。
 飛行能力を持たない人間から先に処理する。たとえ回避されても、足場を破壊すればそれで済む。
 狙いは、ビルの屋上に居る斉凛と蓮。
 コンリートをも粉々に砕く雷の鞭が、斉凛へと向かう。
 少女に直撃すると思われた電撃は、中空で止まった。

 正確には、斉凛を庇って割り込んだ、ラウールの背で。

「がっ……!」
 全身を駆け巡る電流に痺れ、ラウールが墜ちていく。
 雷鳥の側面から爆炎。
 ファラが撃った炎陣球を、サンダーバードが体を傾けて回避する。
 牽制を無視してディアボロが屋上に電撃を放とうとして、そこで気づく。
 屋上にいたはずの、撃退士たちの姿が消えていた。
 斉凛と蓮は、ラウールとファラが時間を稼いだ隙に、隣接する建物に飛び移っていたのだ。
 地面に向かって落下するラウールを、フォローに入ったルルウィが受け止める。
 ルルウィが負傷した仲間を抱え、そのまま戦線を離脱。 
 一気に二人が減り、戦況はサンダーバードの優勢になった、ように見えた。
 けれど、ディアボロの猛追はそこで終わりだった。


 第二射を撃とうとした雷鳥の翼が、がくんと折れる。
 一点集中砲火を喰らったせいで、思うように右翼を動かせない。
 絶好の好機。
 サンダーバードの頭上に影。
 ディアボロの隙を突いて上方から接近したのは、落下したはずの東雲奏多だった。
 アストラルヴァンガードであるシオンに回復術を施され、受けた傷はすでに癒えている。
 仲間たちが戦っている間に、ハスロと同じように雷鳥の真上へと飛んでいたのだ。
「落下の勢いを剣に乗せる……!」
 奏多が、小柄な体格に不釣合いなまでの大剣を掲げた。
 急降下した少年剣士が、ブラストクレイモアを一気に振り抜く。
 放たれた強烈な斬撃は、雷鳥の翼を大きく切り裂いた。
 絶叫をあげてのたうち回るサンダーバードに、ハスロがエナジーアローを発射。
 薄紫色の光矢が雷翼を撃ち抜き、二つ目の孔を穿った。
 もはや、ディアボロの右翼はまともに機能しない。
 体勢を崩したサンダーバードが周囲の建物に激突。そこは丁度、斉凛と蓮が居るビルの対面だった。
 狙撃手たちが武器を構える。
 ファラも屋上に降り立ち、敵に弓銃を向けた。
「チェックメイトですわ」
 斉凛の言葉を引き金に、アウルの矢や弾丸が一斉に発射される。
 撃退士たちの攻撃は全弾、サンダーバードの肉体を貫いた。
 断末魔の叫びをあげ、ディアボロが墜落。地面へとまっすぐ墜ちていく。
 撃墜された怪鳥は大地に叩きつけられ、そこから起き上がることは二度となかった。




 市街地・東方面。
 駆けつけた撃退士たちの眼前には、漆黒の闇が広がっていた。
「まるで宵のような霧……」
 群雀 志乃(jb4646)が思わず呟く。黒霧に目を凝らすが、何も見えない。
 だが、ディアボロは確実にここにいる。
 仲間たちより一歩前に出たレーヴェ(jb4709)が、暗闇の中から聴こえてくる破砕音に耳を澄ませた。
 視界は悪くとも、音で大まかな敵の位置は掴める。
 レーヴェがあたりをつけた方向に、早見 慎吾(jb1186)が進む。
 慎吾が星の輝きを発動。
 溢れ出た光が、冥魔の生んだ闇を掻き消していく。
 周囲を照らされ、闇に潜んでいたディアボロの姿が露わとなった。
 立体の人影――シャドウが、光に反応して慎吾らのほうを向いた。
 シャドウの頭が衝撃に弾ける。
 すかさず撃たれたのは、不可視の弾丸。
「貴様を屠る為、撃退士……参上なのじゃ!」
 先制攻撃を命中させたBeatrice (jb3348)が、シャドウに銃口を向けたまま言い放った。
 シャドウがベアトリスを敵と認識。
 鞭状に変形させた腕を、シャドウが振るおうとしたその時だった。
 シャドウの背面が照らされる。
 それは、バルドゥル・エンゲルブレヒト(jb4599)が発動した星の輝きによる光。
 視界を遮っていた暗闇は、二人のアストラルヴァンガードによって完全に照らされていた。
 バルドゥルの後方から飛び出した九十九 遊紗(ja1048)が、人影の背中を撃ち抜く。ナイトウォーカーの悪魔を二発目のゴーストバレットを発射。
 ベアトリスと遊紗に挟み撃ちにされて一瞬ひるんだものの、シャドウはすぐに対応した。
 両手を直剣状に変形。右手をベアトリスへ、左手を遊紗へと伸ばす。
 長く伸長した黒剣はベアトリスの白い肩を裂き、盾で受けようとした遊紗を吹き飛ばした。
 少女たちが倒れ、黒い魔人がとどめを刺そうと動く。

 だが、仲間たちがそれを許さない。

 アウルの銃弾が、斜め後ろからシャドウの足元に撃ち込まれた。
 ディアボロが振り向くと、黒髪の少女が銃を構えていた。
 炎武 瑠美(jb4684)による牽制射撃だ。
(みんなが無事に帰るためにも……私のできることを精一杯やるだけです!)
 瑠美がハンドガンを連射し、敵の注意を逸らす。
 瑠美に攻撃しようとシャドウが動いた。その瞬間を狙い、桃色の髪をした少女が召炎符を取り出す。
 志乃が放った援護の火矢が、シャドウの右脚に命中。
 よろめくシャドウの意識が足元へ向いた。 
 ナタリア・ヤノ(jb3416)は、生じた小さな隙を逃さなかった。
 機を窺っていた女悪魔が、上空からディアボロに強襲。
 側面を取ったナタリアが吼える。
 阿修羅がフルカスサイスを一閃。シャドウも反射的に腕を振るった。
 青白い刃と、黒い刃が交錯する。
 大鎌を寸前でかわしたシャドウが、ナタリアの脇腹を手刀で斬り裂いた。

 奇襲は失敗――否。

 口から血を吐きながらも、ナタリアは笑みを浮かべていた。
 敵を引きつけることこそ、ナタリアの真の狙い。
 シャドウの無防備な背後に、緑髪の悪魔が飛来する。
 アズラエルアクスを握ったレーヴェが、ディアボロへと降下していく。
 シャドウが振り返るが、もう遅い。
 断罪の斧が振り下ろされる。
 レーヴェの放った一撃がシャドウを両断した、ように見えた。
 黒い肉体の中心から血を噴き出しながらも、なんとか致命傷を避けたシャドウが退避。
 去り際にレーヴェに一太刀を浴びせ、撃退士たちと距離を置く。
 敵が離れたことで、慎吾がナタリアへと駆け寄る。
「しっかり!」
 慎吾が発動したライトヒールが、ナタリアを回復させていく。
「……だいじょうブ。まだ、戦えル」
 よろめきながらもナタリアが武器を構える。しかし、痛烈なカウンターを喰らった体はふらついていた。
 そんなナタリアに、シャドウが遠距離から狙いを定める。
 ディアボロが、三叉槍と化した右腕をナタリアに向けて撃ち込んだ。
 黒い槍が伸びる。
 これが通れば、前衛職であるナタリアは重傷を負っただろう。

 射線上に影が割り込む。

 シャドウの槍が貫いたのは、ナタリアを庇って前に出たバルドゥル・エンゲルブレヒトだった。
 バルドゥルの腹部を抉り、冥魔の眷属が槍を戻していく。
「相反せし属性か……響くな」
 言葉と共に、青年の口から血が零れた。堕天使であるバルドゥルにとって、シャドウの一撃は非常に重い。
 されど、ここで膝を折るは男の名折れ。
 バルドゥルは倒れなかった。気力を振り絞って、立ち直る。
 そこで丁度、戦場が暗転。
 フォローに回った慎吾とバルドゥルが光源を維持できなくなり、シャドウの作り出した暗闇が広がっていく。
 しかし、それも一瞬のこと。
 再び放たれた光が、希望の明かりとなって闇を一掃。
 志乃と瑠美が互いに補い合い、余すとこなく光で満たす。
 撃退士たちの連携は完璧だった。


 シャドウの両腕がゆがむ。
 両手の五指が、鉤爪状に変形。
 さらに鉤爪を長く、長く伸ばしていく。
 二メートルほどに伸ばした十本の爪刃を掲げ、シャドウが突進。
 漆黒の殺戮者が撃退士たちに迫る。
 だが、シャドウの攻撃はまたも遮られた。
 側面から放たれた暗黒の弾丸が、シャドウを襲う。
 戦線復帰したベアトリスのダークブロウが、シャドウの右腕を弾く。
 味方の反撃へと繋げる為に。
 さらに逆方向からも、鋭い一撃がシャドウに着弾。
 援護すべく放った遊紗の銃弾が、シャドウの左腕を弾いた。
(遊紗だって皆のために何かしたい……遊紗も戦える!)
 力と想いを重ねた少女たちの攻撃が、シャドウの進撃を一瞬だけ食い止めた。

 ベアトリスと遊紗が作った隙を突き、ナタリアがアサルトライフルから弾丸を放出した。
 ナタリアの攻撃は、シャドウの胸部に直撃。
 バルドゥルが、ひるんだディアボロの懐へと一気に入る。
 大鎌を振るう。
 天冥の性質差を利用し、聖なる一撃を叩き込んだ。
 瑠美も攻撃を畳み掛ける。
「……ソニックインパクトっ!」
 少女が武器を全力で振り抜いた。
 それが決定打となった。
 V兵器の金属バットが、シャドウの頭を吹き飛ばす。




 市街地・西方面。
 大地を揺らす轟音に導かれた撃退士たちの前に、岩石の巨像が立ちはだかっていた。
 破壊の巨人、ゴーレム。
 単純な強さだけならば、先のサンダーバードやシャドウよりも、おそらく上だろう。
 だが、撃退士たちは、他の二班同様に、敵を倒すための作戦をしっかりと組み立てていた。
 まず最初に動いたのはアストラルヴァンガードの六道 琴音(jb3515)。
 初手で確実に動きを封じる。
 琴音が放ったのは、冥魔を縛る聖なる鎖。
 審判の鎖が、ゴーレムの巨躯を締め上げていく。
 琴音に気づいたディアボロが臨戦態勢へと移行する。
 絡みつく鎖に動きを阻害されながらも、ゴーレムが豪腕を振り上げた。
 動けなくとも、巨人の腕は接近している琴音まで充分に届く。
 琴音に攻撃しようと腕を掲げたゴーレムの頭部に、衝撃。
 ゴーレムの斜め上には、紫髪に金眼の少女悪魔が飛んでいた。
「ふっふっふー! ほーら、鬼さんこちらっすよー!」
 強欲 萌音(jb3493)が挑発しながらエナジーアローを発射。
 破壊力を集中させた光の矢が、ゴーレムの頭に命中する。
 岩石の頭部が僅かに削れた。動けないゴーレムが怒りのままに萌音へと腕を振るうが、間合いの外を飛ぶ悪魔には届かない。
「やーい、やーい! ぜんぜん届いてないっすよー!」
 萌音が敵の注意を惹き付けているうちに琴音が後退。入れ替わるようにして、飛翔する金髪の幼女が前に出る。
 ゴーレムの頭上から、姫百合(jb4963)も頭部へと攻撃を集中。
 流麗なる長弓を用いて、姫百合がゴーレムの頭に矢を撃ち込んでいく。
 やがて聖なる鎖が消失。
 上空の鬱陶しい悪魔たちに反撃を繰り出そうと、上を向いた巨人が一歩を踏み出す。

 そして、それ以上動くことは出来なかった。

 愚鈍なディアボロの虚を突いて放たれたのは、エーツィル(jb4041)が召喚した無数の腕。
 異界より呼び出された腕の数々が、審判の鎖に代わってゴーレムの動きを封じた。
 黒髪の女天使、氷野宮 終夜(jb4748)が空中からの集中攻撃に加わる。
 終夜がビヨネット・ハンドガンでゴーレムの頭を銃撃していく。
(ゴーレムに対してまともに戦うのは難しい、けれど)
 上空から一方的な攻撃を浴びて、たまらずゴーレムが両腕を掲げた。
 巨人の太い腕が、頭部への攻撃を防御する。
 それを誘うことが、終夜たちの狙いとも知らずに。

 新米忍者、ふたば(jb4841)が影手裏剣を投擲。
 放たれたアウルの手裏剣がゴーレムの左足に命中し、弾けた。
 関節の破壊を狙った一撃だったが、硬質の肉体を持つディアボロには、大したダメージは通らない。
 無論それは、一対一であれば、の話だ。
「実力不足は仕方ないけど、みんなで協力してやっつけるよ!」
 ふたばに続いて銀髪の少女、鳳 螺旋(ja8215)が飛燕翔扇を飛ばした。狙いは勿論、左足の関節部分。
 阿修羅の扇が、足関節の表面を削ってブーメランのように戻ってくる。
 ダメージはまだ足りない。
「やっぱ、硬いなぁ……ならコレでどやっ!」
 廿九日 神無(jb1012)がストレイシオンを召喚する。
「力貸して! シオンさん!」
 幼竜使いに使役され、召喚獣が渾身の魔法攻撃は放つ。
 竜のブレスがゴーレムの足に叩き込まれた。
 後退した琴音も、バルディエルの紋章で攻撃を試みる。
「当たれっ!」
 無数の雷矢が巨人の足に殺到。
 ゴーレムの足関節には亀裂が生じていた。
 あと一押しというところで、さしものゴーレムも地上組に対応を開始。
 空中からの攻撃を片腕で防ぎながら、残った腕を横に薙ぐ。
 豪腕が、不用意に接近していたふたばを叩き潰した、はずだった。
 ゴーレムの死角から影手裏剣が脚部に飛来。
 放ったのは、無傷のふたば。
 さきほどゴーレムが圧殺したのは、囮用に設置した分身に過ぎない。
 異界の呼び手による束縛が解けたゴーレムが暴れるように突進。
 上空からの攻撃を無視し、本物のふたばへと向かう。
「させないっすよ!」
 萌音と終夜が高度を下げてゴーレムに攻撃を繰り出す。必死に敵の注意を自分たちに向けさせようとした。
 だが、岩石の巨人は無造作な腕の一振りで少女たちを撃墜した。
 続けてディアボロがふたばへと拳を放つ。
 小柄な少女が吹き飛ばされた。
 攻撃を受けた三人が倒れるも、何とか立ち上がった。追撃を避けるべく急いで後退。
 ゴーレムの強烈な攻撃を喰らったとは思えない動きだった。
 負傷者たちの身には、青い燐光が宿っている。
 神無に命じられ、ストレイシオンが防護結界を展開していたのだ。
「いま癒します!」
 琴音がライトヒールを発動。傷ついた仲間を手早く回復させていく。


「これが結束の力ですわ」
 言葉と共にエーツィルが再度、異界の呼び手を放った。
 無数の腕が巨人に迫る。
 が、同じ手は喰わないとでも言わんばかりに、ゴーレムが無数の腕を易々と薙ぎ払う。
 エーツィルは笑っていた。
 ゴーレムの背後で、何 静花(jb4794)が拳を構えているのを分かっていたからだ。
 無防備な後方から、静花がディアボロに拳打を叩き込む。
 痛打。激しい痛みを伴うその一撃が、ゴーレムの意識を強制的に刈り取った。
 動けない巨人の足元に螺旋が近づく。
「その堅牢を誇る体……私の拳で打ち砕いてみせましょう……」
 ダメージが蓄積された右足へと、螺旋が布を巻きつけた拳を突き出した。
 螺旋の攻撃で、ついにゴーレムの膝が砕けた。
 片足の支えを失い、岩石の巨人が崩れ落ちる。
 これでもう、完全に動きは封じられた。
 もはや動くことも、避けることもできない。
 意識を取り戻したゴーレムが必死に腕を振り回して抵抗するが、どんなに足掻いたところで遠距離からの攻撃には為す術もない。
 先ほど手痛い一撃を喰らった終夜が、ゴーレムに銃口を向けた。
 萌音や姫百合もそれぞれの武器を構える。
 完全に詰んでいた。
 終夜が引き金に指を伸ばし、ディアボロに宣告する。
「――私たちの勝ちだ」




 戦闘後、撃退士たちは一ヶ所に集まっていた。
 ハスロが街を眺め、安堵の声を漏らした。
「何とか被害は最小限に抑えられたみたいね」
 三班に分かれ、早期決着を狙ったのが功を奏したのか。
 襲来時に多少の損害は出たものの、この分ならばすぐ元に戻るだろう。
 撃退士たちの間に張り詰めた緊張感も解け、弛緩した空気が広がっていた。
 敵は強力だったにも関わらず、一人も欠けることなく無事に勝利できたのは、彼ら自身の意志と、結束によるところが大きい。
 これから先にはもっと困難な試練が待ち受けているかもしれない。だが、今回のように仲間と協力すれば、どんな障害でもきっと乗り越えられるはずだ。
「皆様お疲れ様でした。お茶の用意は調っていますの」
 斉凛がメイドらしく(?)、準備していた紅茶セットを取り出す。
「茶もいいが……その、あれだ。記念に写真とか撮らないか?」
 初めての依頼で気分が高揚したのか、デジタルカメラを手にした静花が少し気恥ずかしそうに言う。
 集合写真にしたい、と。
 静花の毒舌ぶりを知るエーツィルが笑みを浮かべる。
「まあ、今回の敵はなかなかクソ強かったですし、記念に一枚というのもいいですわね。わたくしは構いませんわ」
「ボクはいいよー! ボクも初めての戦闘だったんだよね!」
「わー、写真撮るの? 遊紗も撮って欲しいなっ」
「ふむ……可憐なる九十九殿も入るのであれば我も……」
「バル、おまえ腹に穴開いてるだろ。無茶するなよ」
「ラウも紫電ばりばりーってされてたよー?」
「雷怖かったよ〜。でも、頑張って討伐のお手伝いできて良かったかな〜」
 わいわいと騒がしくなる二十五名の初級撃退士たち。
 そのあと写真が無事に撮られたのかはどうかは、彼らのみぞ知るところである。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 穏やかなる<時>を共に・早見 慎吾(jb1186)
 導きの光・六道 琴音(jb3515)
 撃退士・エーツィル(jb4041)
 撃退士・東雲 奏多(jb4542)
 祈り秘めたる透翼の天使・バルドゥル・エンゲルブレヒト(jb4599)
 遠野先生FC名誉会員・何 静花(jb4794)
 撃退士・Sion(jb4878)
重体: −
面白かった!:11人

撃退士・
九十九 遊紗(ja1048)

高等部2年13組 女 インフィルトレイター
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
撃退士・
鳳 螺旋(ja8215)

大学部5年143組 女 阿修羅
幼竜使い・
廿九日 神無(jb1012)

中等部3年5組 男 バハムートテイマー
穏やかなる<時>を共に・
早見 慎吾(jb1186)

大学部3年26組 男 アストラルヴァンガード
お菓子の国の住人・
ルルウィ・エレドゥ(jb2638)

高等部1年20組 女 ナイトウォーカー
おまえだけは絶対許さない・
ファラ・エルフィリア(jb3154)

大学部4年284組 女 陰陽師
俺達の戦いはここからだ!・
ラウール・ペンドルミン(jb3166)

大学部5年70組 男 陰陽師
暗黒女王☆パンドラ・
Beatrice (jb3348)

大学部6年105組 女 ナイトウォーカー
『九魔侵攻』参加撃退士・
ナタリア・ヤノ(jb3416)

大学部5年43組 女 阿修羅
繋ぎ留める者・
飛鷹 蓮(jb3429)

卒業 男 ナイトウォーカー
流行の最先端を行く・
強欲 萌音(jb3493)

大学部5年162組 女 ダアト
撃退士・
弥生・ハスロ(jb3506)

大学部8年9組 女 ダアト
導きの光・
六道 琴音(jb3515)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
エーツィル(jb4041)

大学部6年59組 女 ダアト
撃退士・
東雲 奏多(jb4542)

高等部3年21組 男 ルインズブレイド
祈り秘めたる透翼の天使・
バルドゥル・エンゲルブレヒト(jb4599)

大学部6年13組 男 アストラルヴァンガード
鬼灯唄を宵の胸に・
群雀 志乃(jb4646)

大学部6年215組 女 アストラルヴァンガード
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
炎武 瑠美(jb4684)

大学部5年41組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
レーヴェ(jb4709)

大学部3年239組 女 阿修羅
撃退士・
氷野宮 終夜(jb4748)

大学部5年1組 女 ディバインナイト
遠野先生FC名誉会員・
何 静花(jb4794)

大学部2年314組 女 阿修羅
笑顔を贈る者・
ふたば(jb4841)

高等部2年5組 女 鬼道忍軍
撃退士・
Sion(jb4878)

高等部1年5組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
姫桜(jb4963)

小等部6年1組 女 ディバインナイト