ごめん、今日は帰れそうにない。
恋人にメールを送信して、志堂 龍実(
ja9408)は眼前の地獄と向き直った。
最凶の化物達が無力な自分達に襲いかかる現実と。
●
「人間達だ! あたいがまとめてやっつけてやる!」
市民を発見した雪室 チルル(
ja0220)が嬉々と笑って大剣を一閃。一瞬で全員を斬り殺した。
殺さなきゃ殺さなきゃ。もっと殺さなきゃご褒美が貰えない。
「学園トップクラスの子と肩を並べてる……嬉しい♪」
吹雪を起こして有象無象を薙ぎ払う氷剣士の隣で、九鬼 龍磨(
jb8028)が顔を綻ばせる。
青年は笑顔のまま逃げ惑う大衆に言った。
「人間はもう勝てないよ。でも大丈夫、痛くないように殺してあげるから。ね?」
龍磨の言葉を具現するように牙撃鉄鳴(
jb5667)が逃走者を次々と撃ち殺していく。
銃弾は途切れる事無く大量に吐き出され、人間に反撃する隙を与えない。一方的な虐殺だった。
「人類の皆様ァ、御祈りは済ませましたァ? 部屋の隅でガタガタ震える準備はオーケーェ? じゃァ……絶望しながら死んで下さいねェ」
語尾にハートマークが付属してそうな黒百合(
ja0422)の声に、破砕音が重なる。足元には、たった今頭を握り潰された男の死体が出来上がっていた。
黒百合が血や脳漿に塗れた手指に舌を這わせ、血液を絡め取る。黒百合はこくん、と白い喉を鳴らして嬉しそうに嚥下した。
「やっぱり搾り立ての血は美味しいわねェ……きゃははははァ♪」
少女の高笑いに銃声が交わり、女や子供の頭が弾ける。
「いや〜しかし楽しいね! 破壊や殺戮がこんな楽しいものとは思わなかったよ」
容赦ない銃撃を続けながら、森田良助(
ja9460)がへらへらと笑う。建物が爆砕し交差点に血の華が咲き乱れるが、少年は何の罪悪感も感じなかった。
「僕も撃退士だった頃は必死で街を守ったかもしれない。だけど今の僕はヴァニタスなんだ。さあ、鼠の意地を見せてよ」
「まぁもう元に戻れる訳でもないんだしぃ。楽しまなくちゃ損だよね?」
ロゼッタ(
jb8765)はそう言うが、まだ身の振り方を決めかねている。しかし表立って刃向かう気はない。
(ま、生きてればその内機会があるでしょ。あ、今は死んでるんだっけ)
どっちでもいいか、と反逆者を探す。とりあえず怪しまれない為に戦闘には参加しないと――
見つけた。
保身の為に、殺す相手を。
ロザリオを弄びつつ、少女が軽く告げる。
「あは、別にあなたに恨みとか一切ないけどぉ、あたしのために消えてね?」
「……」
ラグナ・グラウシード(
ja3538)は自嘲するように唇を歪めた。嗚呼、まったく笑える。
自分の身を削って、他人を助け続けて、その挙句がこれか。
誰からも愛されることなく、何も報われることなく、そして忌まわしいヴァニタスにされて。
「だが、悪魔どもよ。貴様らのいいなりなど、癪に障る。私はそれでも、人を守ろう」
「うざいんですけどぉ?」
「黙れ」
乱暴に大剣を振り、騎士の唇が怨嗟を紡ぐ。
「死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね!」
私も――
「消えて、ってゆったのが聞こえなかったのぉ?」
ロゼッタの圧倒的な反撃。首飾りから白銀の閃光が噴き出し、無数の刃となって騎士を貫いた。
ラグナの意識が闇に溶けていく。
(今度はもっとまともに……いや。今のように、誰からも愛されないのなら)
私は、もう、生まれることを望まない。
●
「……何もかも夢であれば良いのに」
自分が悪魔だなんて信じたくない、と二階堂 光(
ja3257)。
いっそ此の儘、堕ちてしまおうか。その方がずっと楽かもしれない。
淀川 恭彦(
jb5207)は、自分の中に燻っていた黒い欲望に気づく。
「……………今なら、いつか捨てた理想を叶えられるかもしれないな」
今なら、取り戻せる。プライドも、生きる理由も。
ただ息を吸ってるだけの、生きも死にも出来ない自分を、変えられる。
今度こそ、俺を嗤った連中の自尊心を踏み躙り返してやる。
そうと決まれば、やることは一つ。
恭彦の足元から膨大なヘドロが溢れ出す。同時に強い毒性を持つスモッグが周囲に漂い始めた。
「往け」
腐毒を操り、恭彦が淡々と街を壊していく。
毒を吸った少年が苦悶の声を上げてのたうち回る。恭彦はとどめを刺そうと銃を取り出して、
「……なんだ?」
光が、恭彦の前に飛び出していた。
思い出すのは、悪魔に殺された弟のこと。
ああ、そうだ。
俺は、誰かを守りたくて撃退士になったんだ。
勝算なんて何処にもない。それでも俺は、大切な人達がいるこの世界を守りたい。
戦おう。
そうと決まれば、やることは一つ。
少年を庇うように構えた光は、恭彦に微笑みを向けた。
「同胞だった君達とは争いたくはないけれど。俺は俺の意思を貫くだけだよ」
「そうかよ」
恭彦は躊躇わずに引き金を握る指に力を込めた。俺の邪魔をする奴は、死ね。
乾いた銃声が轟き、急所を撃ち抜かれた光が地面に倒れる。
遠ざかる意識の中、光の脳裏によぎるのは、苦楽を共にした友人達の笑顔。そして、大雨の日に殺された、弟の――
やがて、光の全てが闇に呑まれていった。
●
何処まで走っても、街は血の臭いで溢れていた。
ヴァニタスの咆哮や人々の悲鳴が入り混じる戦場から遠ざかるように金髪紫眼の男、ルドルフ・ストゥルルソン(
ja0051)が路地を駆け抜けていく。
ルドルフは悪魔のしもべとして戦う気は勿論、撃退士として抗うつもりも無い。
男の菫色の瞳には、たった一つの意志だけが宿っていた。
「……帰らないと」
はやく、帰らないと。愛しい姫の元に。ルドルフの心に在るのはた だそれだけだった。
視界の端、魔族に襲われている少女が映ったがルドルフは無視。反対側、助けを請う少年の叫び声が聴こえたが、ルドルフは走り続ける。
行かないと。傍に居てあげないと。あの子の傍には、俺がいないと。
「他の何を置き去りにしても、俺は君の所へ帰ってみせる……」
呟いた直後、上空から飛来した黒い衝撃波がルドルフを襲った。全身を切り裂かれ血飛沫が噴き上がる。戦場を離れようとする自分をヴァニタスが攻撃したのだと、激痛の中で理解した。だが、それがどうした。
こんな所で立ち止まっている暇は無い。
行くんだ。這ってでも進むんだ。邪魔するものは、全部全部振り切って。
走れ、何処までも。
あの子に、ただいまを言う為に。
●
「ああ、血が甘くて温かい……」
蕩けるような表情で、シルヴィア・エインズワース(
ja4157)が血の雨を浴びる。ヴァニタス化の影響で、清楚だった彼女は心身共に変貌していた。
「そんな……こんなこと、いけないのに……うう、あ……もっと……っ!!」
悩ましげな声を上げ、身悶えするシルヴィア。己の自制心と必死に戦うが、人を喰らう快感を植え付けれた今のシルヴィアに、欲望に抗う事など出来るはずがなくて。
「だって……しょうがないじゃないですか……」
今の私は、ヴァニタスなのだから。
紅い瞳に蝙蝠の翼。吸血鬼のような姿となった妖艶な女が、鋭い爪を人類へと向ける。
貴方の血を、もっと――
(……私、もう人間じゃないんですね。一度死んだなんて不思議な気持ちです)
天辻 都(
jb8658)は、ヴァニタスになった現実を受け止めたくない。
(……でも、従わなければ殺されるのは私なんですよね。今まで天魔相手に向けていた銃口を人間に向けなければ)
虚ろな瞳で、都が銃を構える。街を守ろうとするかつての同胞たちが、視界に映った。
「……ごめんなさい。私は、死にたくない」
私は、お父さんとお母さんの分も生きるんです。
都が無表情のまま、人々を撃ち殺していく。
(まだ手が震えるけど……大丈夫。すぐに慣れるはずです。私はもう人間じゃないんですから)
ヴァニタスになっても同じですね。
私は――
罵倒されても、阻害されても、俺は人だから。
だから、俺は人を裏切らないって、そう決めてたけれど。
「俺は……もう、人じゃ……?」
心の拠り所を失った平賀 クロム(
jb6178)が『自分』を保てていたのは其処までだった。
やがて絶望に震える声は狂える絶叫に変わり、自我が崩壊したクロムは、獣の如き咆哮と共に反逆者ヴァニタスへと襲い掛かった。それは、彼の心の奥底に秘められていた殺意。裏切り者の父への憎悪。
憎い憎い憎い。『裏切り者』が憎い!
今のあたしはヴァニタスで、もう人間じゃなくて人間の敵で。
「……ならもう人間襲ったって別に大丈夫な訳だ?」
いつもの緩い雰囲気のまま、ミスティス・ノルドステア(
jb0357)がさくっと市民を斬殺していく。
「刃向う奴は殺す。逃げる奴も殺す。命乞いする奴も殺す……あ、これ皆殺しだねー?」
ミスティスが最も嫌悪するのは天魔ではなく人間だった。彼女の家族は、暴走した撃退士に殺されていた。
「しんじまえ」
湧き上がる黒い激情に従い、ミスティスは襲い掛かってくる撃退士の胸に刃を捻じ込んだ。
憎しみを込めて、幼き頃の怒りを込めて、刀を握る手に力を込める。斬刃が閃き、撃退士の肉体は紙切れのように切断された。
「んー駄菓子が美味しい」
虐殺後、夥しい返り血を浴びた女は、撃退士の血に濡れた手で、いつものように好物の駄菓子を口にした。
「我ラノ前ニ生者ハ要ラヌ。早々ニコノ世ヨリ去ネ」
鉄仮面を被ったシェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)が機械的な声で言って、撃退士達へと向かっていく。
彼女もまた、壊れている。
人々の生命力を吸い上げ、シェリアはラグナロクを放った。神々の黄昏。冥魔の雷撃が迸り撃退士達を一瞬で焼き払う。刃向かう者、逃げる者も、全て。
路上に溢れる沢山の死者を、仮面の女が眺める。使命を果たしたはずなのに、胸が苦しい。本当に、守りたかったものは――
私が、殺した。
「い、嫌……いやあああああああ!!!!」
仮面が砕け散り、慟哭するシェリアの泣き顔が露わになる。悪魔に奪われたはずの理性を、不運にも取り戻していた。
シェリアは罪の重みに耐えられない。暴走した魔術師がラグナロクを連発し、無差別に殺戮を開始していく。
在るのは絶望だけだった。
「即席ヴァニタス作成術なんて、きっとすぐに解除して……解除してどうなると言うのです!!」
フィオナ・アルマイヤー(
ja9370)の心に巣食う劣等感と疎外感は、ヴァニタス化によって一気に芽吹いていた。
「魔術師の家に生まれて捨てられて、子供の集まりのヌルい学園に駆け込んで!! ああ、人間も私も拒絶するか!! 全てが憎い!!」
鬱屈した精神が弾け飛び、憎しみを糧に暴れ回るフィオナ。刃物の如き爪を振るい、ダアトの撃退士達を次々と惨殺していく。
「はははっ、まさか、私の阿修羅の力がこうなって初めて十全に発揮されるなんて……」
紅く染まったフィオナの双眸から、涙が零れ落ちる。嗚呼、なんて虚しい。
「魔剣・神断」
黒羽 拓海(
jb7256)が黒いオーラで伸びた長大な剣を一閃。暴走したシェリアやフィオナを攻撃した。
「彼女の意にそぐわぬもの、尽く滅びるがいい」
拓海は、愛する主人の為に刃を振るう。
「彼女は俺を救ってくれた。愛しい者を亡くして、それを振り切るように戦い続けて錆び付いた俺を……故に彼女の為なら何だってやってみせよう。この想いに比べれば、万象総て軽いと言ってやるさ」
主――艶やかな黒髪の少女悪魔を想い、拓海が刀を構える。
その狂愛が魔法による暗示とは、知らぬまま。
「足掻くなら相手になるさー。納得できるように終わらせてあげるさ」
虎を象った黄金色に燃える炎を身に纏い、与那覇 アリサ(
ja0057)が爽やかに笑った。白い歯がカフェオレ色の肌に映える。
アリサは太陽の如きオーラを噴き上げ前方へと跳躍。鮮やかに放ったドロップキックで撃退士の上半身を爆砕する。更に血の雨に打たれながら宙空で拳を連射、二人目を肉片に変えていく。
ヴァニタスとして戦うことに抵抗はない。人も天魔も、所詮は同じだ。
「付いた旗印の最も有益な行動を。人であった過去もそうでなくなった今もそれは変わりありません」
只野黒子(
ja0049)はあくまで冷静だった。
人間を殺すのは勿体無い。戦闘不能になった者を魂吸収・ディアボロ化することで戦力を増強した方が効率的だ、と瀕死の撃退士達を回収していた。
長い前髪に隠れて、その瞳がどんな感情を宿しているのは分からない。
「強い魂にこそ価値がある。貴方はどうでしょうね」
黒子が淡々と言って、撃退士の肉体から超高速で引き剥がした魂を吸い上げる。魂の定着が不安定化した人間達は、通常存在する数時間のタイムラグを待たずにディアボロに変化していた。
三対の光翼を展開した佐藤 七佳(
ja0030)が空中を右から左へ、左から右へと縦横無尽に駆け回る。撃退士が残像を追っている隙に間合いを詰めた七佳は刀を一閃し、白銀の奔流を炸裂させた。
人を斬る事に抵抗は一切無い。七佳は撃退士だった頃から、天魔が人を狩る事は生きる為の行為として肯定していた。人だって他の命を狩る。命を喰らう事で己を保つのは、生物の必然だ。
殺せ。超速の刺突を浴びて倒れた撃退士が言った。勝てないと悟ったのだろう。はやく楽にしてくれ、と。だが、
「諦めるなんて赦さないわ。最期まで足掻かない事は糧とした命に対する裏切りよ。命尽きる刹那まで刃を振るいなさい」
七佳にとっては、自殺的行為こそ最大の悪だった。闇に堕ちて尚、少女は己の正義を、生きる意志を、貫く。
「私は生きる事を諦めない、絶対に」
●
「結局ヴァニタス化しても人は変わらないね。壊す対象が天魔から人に変わっただけだし」
鈴原 りりな(
ja4696)は実母と同系譜――紅月夜一族の悪魔を主に持つ。その主人に命じられ傍観に徹しているが、壊れていく人や街をただ眺めるのは退屈極まりなかった。
「別に今更、人を壊す事に躊躇いはないんだけどね」
と、そんな事を呟くりりなの前に、数人の撃退士が姿を現していた。
狂戦士の少女が剣を抜き、愉しげな笑みを浮かべる。
「私は今回の事に関わる気なかったんだけど。良いよ、君が手を出してくるなら相手をしてあげるよ……! あはははっ!」
撃退士達を嘲笑うかのように狂気の刃が荒れ狂う。剣閃の嵐に巻き込まれた撃退士達の体は、瞬く間にバラバラに切断されていった。
絆など下らない。
人間性など糞喰らえだ。
ヴァニタスとなった天宮 佳槻(
jb1989)の所業は正に悪魔だった。
首から下を石化させた撃退士達の眼前で、佳槻は凄惨な殺戮ショーを繰り広げていた。
様々な手段で市民が次々と殺されていく。
「撃退士を殺せば、お前らだけは助けてやる」
最後にそう唆して、我が身愛しさで撃退士を攻撃した市民を皆殺しにしてから、佳槻は撃退士に向き直った。止めを刺す為に。
かつてない屈託のない笑顔を見せて、佳槻は言った。
多分、生前も含めて、最初で最後の涙を流しながら。
「さよなら、不要品」
猫耳と尻尾を生やした少女、桐原 雅(
ja1822)は撃退士を狩っていた。
雅にとっては、『強さ』こそ全て。弱者の虐殺など興味はない。
肩慣らしを終えた雅が見つけたのは、二人の少年。彼らも又、闘争に溺れる狂人だった。
ルナジョーカー(
jb2309)が獅子のように吼え、本能のまま雅へと斬りかかっていった。
吸血鬼の復讐者は、倒した敵の血を呑み己の力を強化している。
護るべき者は、護る前に喪くしてしまった。俺は弱いのか? それとも。護るだけの力は充分につけているのだろうか?
「俺は……それが知りたい」
狂気の吸血鬼は自我を残していた。亀裂の入ったペンダントは、まだ完全には砕けていない。
マキナ(
ja7016)は破壊衝動の赴くままに暴れる狂獣と化していた。
血管のようなものが浮き刃には血霧を纏った異形のエクスキューショナーを乱暴に振るい、戦闘狂が雅へと突撃する。
その身を焦がすは強敵と戦えることへの歓喜。求めるは血湧き肉躍る命と命を削る戦い。
狂戦士達の戦いに言葉は要らなかった。
雅はマキナに眼差しを向け、全霊を乗せた蹴撃を叩き込んだ。生命力を大きく上昇させた怪物は倒れない。
マキナが処刑斧を一閃し雅とルナが吹き飛ばされる。その衝撃で、ルナのペンダントは粉々に砕け散っていた。
完全に狂気に呑み込まれた吸血鬼が修羅二人と相対する。
――何もかも、壊れてしまえ。
「ヴァニタスか、敵として相対した時は厄介だったが、なってみると……大したものじゃ、無いな」
呟きながら、久遠 仁刀(
ja2464)は絶望している自分に気がついていた。化物になっても、俺はここまでの存在にしかなれないのか。
嗚呼、俺は弱い。
「だが、元々自分より強い相手と戦い続けてきた、今更臆するか」
弱いのは分かってる。それでも、それを認めた瞬間に心まで負ける。ならばせめて、戦って、戦い抜いて、それで終わって見せる。
「俺は、撃退士だ……!」
「……」
マキナやルナと死合いながら、雅がかつての恋人を見つめた。
やっぱり、仁刀先輩は強い。
「理解できないね。もう僕達は人じゃないのに」
仁刀に銃口を向けて、良助が軽薄な笑みを見せる。
「撃退士の心なんて死んだ時に捨てたよ。僕達は今ヴァニタス。ならキミ達も一緒に暴れまわるべきだ。人間に味方するなら未来は一つしかないよ?」
「死に堕ちてなお志を忘れず意志を貫こうとする、かぁ。強いんだね、お前はぁ」
刻んだ仮面を身に着けた雨宮 歩(
ja3810)が、仁刀を評してそう言った。
「じゃぁ、その強いお前を斬れば、ボクはもっと強くなれるかなぁ?」
歩が歪んだ笑みを浮かべ、黒刀をゆらりと構える。
「上等だ。お前一人くらいは道連れにしてやる……!」
対する仁刀は防禦を棄てた捨て身の構えだ。勝算が限りなく低いと理解していて尚、それでも退かない。諦めない。
狂える少年は躊躇わずに銃を撃った。
仮面の男は、冷徹に黒刀を振り抜いた。
赤髪の剣士は、少年の銃撃を浴びながらも大剣を振り上げて仮面の男へと一気に突撃する――
●
虐殺の最中、鉄鳴は今の自分なら父親に復讐できるのではと思い立った。
「どう殺すか、予習しておくのも悪くない」
鉄鳴は適当な撃退士を捕らえると、父親に見立ておぞましい拷問を開始した。
「あぁ、待っていろよ親父……」
狂気の笑みを浮かべる鉄鳴。ふと気配を気づいて背後を振り向くと、
「どうした九鬼?」
「にはは、なんでもなーい! 鉄鳴くんも頑張ってー!」
首を傾げて戻っていく鉄鳴の後姿を見て、龍磨が笑う。
「……あの顔、鬱憤溜まってたんだねぇ。気の済むまで暴れなよ、君にはきっとそれが許される」
そう言って、龍磨は無邪気に暴れ狂うチルルへと視線を向けた。氷剣士は既に三桁に及ぶ数を斬り殺していた。
「これで百人目! あたいったら最強ね!」
「すっごい強ーい! いけいけー! 突撃どっかんGOGOチルルちゃーん!」
「わぁ、沢山いるなぁ」
大量の魔人を眺めて長幡 陽悠(
jb1350)は暢気に言った
この悪夢みたいな現実は受け入れてるが、元々そこまで好戦的ではない。
「ま、こんなに仲間がいるのならサボりつつって感じかな……あ、そういえば」
召喚獣は今も使えるんだろうか、と陽悠は召喚術を発動することにした。
出てきてくれるかは分からなかった。今の俺に愛想を尽かしたんじゃないかと不安が掠めたけれど、杞憂に終わった。
現れたのは、馴染み深い姿のままのヒリュウやスレイプニル達。
「俺の味方は、お前らだけだもんな」
そう言って召喚獣を撫でる陽悠の元に、月臣 朔羅(
ja0820)が接近していた。
「こんな所にいたのね、御客様。状況は御覧の通り。良ければ、手伝ってくれない?」
スレイプニルに乗って陽悠が戦場を駆け回る。最低限の戦闘だけこなしていた。
空高く跳躍した朔羅が、左右の壁を走り継ぎながら撃退士達に銃弾の雨を降らせていく。
「元々、人間は狩る側の存在。力を合わせ、強大な獣を討ち、その血肉を糧として生きてきた。でも、今の人間は大半が飼い慣らされ、それ故に嘗ての力を失っている。ならば――この身を以って追い詰め、目覚めさせるのみよ」
虚格牢月で人々を抉り抜き、朔羅は淡々と言った。
雫(
ja1894)は市民や逃げる者に攻撃を加えなかった。
それは、彼女なりの矜持。
「人の生は失いましたが、魂まで売り払う気はないので」
大剣を薙ぎ払い両断するのは、ヴァニタスである自分を攻撃してきた者だけだ。積極的に人を斬る気はないが、座して死ぬつもりも更々ない。
「我ながら、生き汚いですね……」
小さく溜息を漏らして、雫は再び無骨な大剣を振るった。
「………ふん」
中津 謳華(
ja4212)の望みは強者との純粋なる戦いだった。
故に戦意無き者は彼の狩る範疇にはない。
狩るならば強くなってから。果実はやはり熟してから収穫すべき。
「『ソレ』を今狩ることは俺が許さん。滅びろ、塵芥」
その他大勢のヴァニタスを蹴散らし、助けた人々に向かって謳華は言った。
「強くなれ……そして俺を殺しに来い。待っているぞ」
全ては我が欲望の為に――
仮面は死と裏切りの証。雨宮歩は死んだ。
「今のボクはただの残骸。そう、ボクは刀だ。ただひたすらに斬るだけの斬り続けるだけのモノ。妖刀が如く、ねぇ」
心が強い奴はみんな斬った。なら次にやる事はひとつ。力の強い奴を斬る。
「敵も味方も全て斬る刀。ああ、こういうのを妖刀っていうのかなぁ?」
いったい何十人を殺しただろう。この刀はどれだけの血を吸ったのだろう?
「あれま、対天魔用とか考えて獅子の威容を取ってたのにボク自身が悪魔になるとは皮肉だね……人外は人外らしくいくしかないかな!」
天羽 伊都(
jb2199)が大剣を振り乱し人々を滅多斬りにしていく。
「獣王ココにあり、恐怖せよ人間、フハハハ」
暴虐の限りを尽くさんと少年が刃を振るい、逃げる人々を街ごと消し飛ばす。放たれた黒い衝撃波が路上の全てを薙ぎ払った。
撃退士だった頃は受けの戦いが多かったけれど、今は違う――。
かつての同胞と対峙した伊都は、余裕の表情を浮かべた。
ヴァニタスの力を得た今、撃退士如きに負ける気がしない。
「戦いの作法を教えてやろう、フハハハ」
世界が絶望に沈む中、藤井 雪彦(
jb4731)は未だ希望を捨てていなかった。
「ヴァニタスになってもボクはボク。可愛い女の子達を見捨てられないよね☆ 勿論、男の子も助けるよ☆ ……余裕があればね?」
雪彦は市民を救う事に全力を尽くしていた。 人々を逃がしたり土豪に避難させたり仕込みは終了。後は、そちらが見つからないようにヴァニタスの注意を引くだけだ。
「どうするかって? ……こうなったらこうするしかないよね♪」
ギャル男は覚悟を決めて、高らかに言い放った。
「――撃退士の誇りを失った者達よ!! それによって手にした力でこのボクを屠ってみせよ!! ま……大人しくやられるつもりはないけどネ♪」
●
瀬波 有火(
jb5278)は兎耳が生えていた。
「ヴァニタスになった有火です! う゛ぁにー!」
ウサミミをぴょこぴょこと揺らす有火は、人間だった過去に執着する気が無い。かといって、悪魔の思惑にも興味が無かった。
「あたしはいつも通り前に進むだけだよ。あたしの道を阻む人は、誰だろうとみーんな撥ね飛ばしちゃうからねっ」
どどどどど、と突撃兎娘が一直線に突き進む。
「あるかディアロストパニッシュメント!」
必殺技をかっこよく叫んだ有火が、撃退士やヴァニタスを吹き飛ばしながら猛進していく。
最後は誰かに激突して停止した。
「有火……?」
それは、ジョシュア・レオハルト(
jb5747)だった。
ジョシュアは迷わない。
「有火と同じで、僕のやるべき事は、もう決まってる。だって、それしか出来ないから」
逆らえば死ぬことは分かってる。
だけど、それでも。
僕は守りたい、癒やしたい。傷付く人達を、心から笑える人達を。
「僕は拒絶者。世界が僕からこの人達、この意志を奪おうとするなら、拒絶するだけだよ」
少年が治癒魔法を発動し、傷付いた人々を回復していく。近くで爆炎が炸裂し誰かがまた死んだが、少年は癒し続ける。
その白炎は、濁らない。
●
死んだ。誰が。俺が?
「この後、どうするのだ?」
あくまで撃退士として抗うことを決めた大狗 のとう(
ja3056)が、ヴァニタスとしての道を選んだ花見月 レギ(
ja9841)に問いかける。
レギは答えられない。明確な正義など、持ち合わせていないのに。
なのに、君は俺に問うのか、心友。
敵も味方も酷く曖昧だった。即断出来るほど軽くも重くもない。
だからレギは、選ばなかった。
偽りなく生きるには、世界は少し複雑で。
「俺は世界が大好きで、だから世界が……大嫌いだったのかも、しれない」
「んー……そっか」
レギの言葉に首を傾げ、のとうが続ける。
「べっつにさぁ、今までも世界の為に戦ってたわけじゃねぇけど。難しい事とか、わっかんねぇけど。俺にとって大事なモンがまだそこにあるなら、やる事は一つなのよな」
もしも心友と敵同士になったとしても、俺は。
へらりと笑った後、のとうは慣れ親しんだ大剣を手に、彼へと斬りかかった。
「……っつーわけで、レオ。悪いね、邪魔させて貰うのだ」
レギの滲む視界に夕焼け色が写り混む。
彼は、武器を抜く事さえなかった。
「……どうして、戦わないんだよ」
「君と本気で戦える訳が、ない。のとう」
もしも心友と敵同士になったとしても、俺は。
「俺は、夕焼けが見れない世界を、望まない、よ」
のとうが彼の傍に膝を付き、冷たい頬をそっと撫でる。
その上に、一粒の涙が零れ落ちた。
のとうの細い指が、その跡をなぞっていく。
「もう死んでるってのに、涙だなんて。変だよなぁ。なぁ、レオン……」
●
「マーシー、人間側についたのか。勝てないと分かっているだろう、馬鹿なヤツだ」
ミハイル・エッカート(
jb0544)が突撃銃を構え、間下 慈(
jb2391)は回転式拳銃を取り出した。
「そっちこそ馬鹿な真似やめましょうよ。全部演技なんでしょ、本当は……撃退士だった頃、覚えてますよね?」
ニヤリと笑うミハイル。その笑顔を見て、慈は手遅れだと悟った。
「人間の阿鼻叫喚が心地いいんだよ。俺が人だった頃は殺しの仕事もしていたが、こんな気分は初めてだ。最高だぜ」
「だったら……僕が終わらせてやる。ヴァニタス……ミハイル=エッカート!」
二人が同時に引き金を絞り、激しい銃声が炸裂する。弾幕を抜けた銃弾の雨が、慈の肩や脚を掠めた。
(負けるのは知ってる。でも、僕は撃退士の間下慈。そう名乗れるのが僕の……凡人の誇りだ)
苛烈な銃撃戦の末、遂に一発の凶弾が慈の胸に命中した。
慈が血を吐きながら地面へと倒れこむ。意識が遠退くのが自覚できていた。
金髪男を見上げ、慈が途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「ミハイルさん……大規模で一緒に戦ったり、部活で駄弁ったり……楽しかったです……先輩として、尊敬してました」
「部活? そんなこともあったな……楽しかった」
その言葉を聞いて、慈は小さく微笑んだ。
「……最後に。ありがとう……ござい、ました……」
●
「天使について知りうることを全て、死ぬ前に言い切りなさい」
暮居 凪(
ja0503)が欲するモノは情報だった。
女は自分が望む情報を得る為だけに、槍で相手の体を地に縫い止め尋問していた。
「随分と手荒いな」
行く手を阻む撃退士達を淡々と斬り捨て、フィオナ・ボールドウィン(
ja2611)が凪へと近付く。力を渇望する騎士は手段を選らばぬ暴君と化していた。
凪が振り向く。
「あら、貴方もこちらに?」
フィオナが言葉を返す、より早く、凪は攻撃を開始していた。
赤黒い光を放つ数式が凪の肌に浮かび、解き放たれた強化封砲がフィオナを襲った。
「……やれやれ、再会の挨拶もさせぬ気か」
衝撃波を双剣で防いだフィオナが嘆息する。
「まぁ良かろう。我等に言葉は要らぬ」
双剣と両剣の二種を切り替えながら、機動力を活かしてフィオナが凪へと斬りかかる。凪は剣魂で回復しつつ、周囲を無視して強化封砲を連打した。射線上にいた市民や建物が消し飛ぶ。
女騎士二人の壮絶な戦いが繰り広げられる。やがてフィオナは、楽しげに笑みを浮かべて凪に言った。
「我と来い。今度は地獄からこの世の国奪りだ。その過程で貴様の望むものも手に入ろう」
「……」
それに対する、凪の答えは――
●
「お前さ、撃退士も全部ぶっ倒したらどうすんだ? また別に戦う対象を探すか? まぁそれも悪くねぇんだ・け・ど……」
サバクと共に撃退士を蹂躙しながら、宗方 露姫(
jb3641)は極自然に言った。
「俺の世界征服の野望、手伝ってくんね?」
血流を操るスキルで人間から血を搾り取りつつ、竜の娘が続ける。
「悪魔との力の差? ンなもん知ったことかよ! ……下克上の精神は奴らにしっかり教わったしな」
どうだ? と隣に立つ男を見上げる露姫。サバクは愉快そうに笑って露姫の肩に腕を回した。
「面白ェ! 気に入ったぜ、ツユキ。やってやろうじゃねェか」
「よっし決まりだな! いつかテメェより上に立ってこき使ってやっからな! 覚悟しとけよ!」
「威勢が良いな。だがその前に、だ。まずはコイツらをぶっ殺すぞ」
「ぶっ殺して頂けるので? それは有難い、この力を少し試させて頂きましょうか」
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)が飄々と言って何処からともなくトランプの渦を巻き起こした。カードの嵐が吹き荒れ周囲の市民を巻き込んでサバクに炸裂する。
不死身の男が即座に反撃するがエイルズには掠りもしない。けれどエイルズがいくら攻撃してもサバクも倒れない。
エイルズはやがて攻撃を止めて、降参のポーズを取った
「……いやあ、お強い! 流石ですね。御見それしました。感服の極みです」
ぱちぱちと拍手を送りながら、奇術士が不敵に言う。
「僕をしばらく貴方の子分にして頂けませんか? ああ、大丈夫です。僕が貴方より強くなるまでで結構ですから」
「……ハッ。まァ良い。次はテメエだな、リュウジ」
「例え一度死んだとはいえ心は変わらない……生き花咲かせて儚く散るさ!」
咆哮と共に、龍実がサバクへと突撃。周囲にはエイルズや露姫までいる。最初から、勝算があるとは思っていない。だが、
「死ぬ気か、テメエ?」
「オマエに理由があるように……自分にも戦う理由があるんだ!」
勝てなくても良い。少しでも長く粘って、一人でも多くの市民が逃げる時間を稼ぐ。誰かを助ける為に、自分は此処にいる――!
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黒井 明斗(
jb0525)も又、命を賭けて人類の為に動いていた。
「いまは勝てません、捲土重来を期して人々を連れて逃げてください」
明斗は命令に従ってるフリをして、市民を逃がし撃退士達に回復を施していた。人間はまだ終わりじゃない――
明斗は骨の髄から正義の味方だ。敵のボスであるレインを倒そうと、密かに背後から奇襲を試みていた、が。
「死ね……」
レインを死角を守っている紅香 忍(
jb7811)は、明斗の接近に気が付いていた。
忍が躊躇なくワイヤーを引き、明斗が倒れる。
「……ご無事で……」
「えへへ、ありがとうございます。忍さんには危ない所を助けて貰っちゃいましたね」
レインの前で膝をつき忠誠心を示す忍。内心では舌を出していた。
(悪魔……悪くない……取り入って出世……)
これできっと褒美が貰えるに違いない。昇進へと確実に一歩近づいている。明斗には感謝しなければ。
「もういいの。だって、モモのものにならないんだもん。全部、全部、ぜーんぶ! なくなっちゃえばいい!」
倒れた明斗に馬乗りになって、矢野 胡桃(
ja2617)は銃を彼の額に突きつけていた。
空いている片手でぺたぺたと明斗の頬を触りながら、胡桃がにっこりと笑う。
「ねぇ明くん。こっち見て? どうしてモモを置いてったの? どうしてモモから逃げるの?」
恋人や父。大好きな人達と過ごすため、人を狩る事を決意した少女。しかし、届かぬ想いに身を焦がし、少女は全てを壊し尽くす事を選んでしまった。
「だいっきらい」
明斗に柔らかな笑みを向けたまま、胡桃は引き金を絞って――
●
撃退士は既に全滅していた。
未だ街に残る市民は、助けを求めて逃げ惑っていた。
そんな彼らに、赤髪の青年が笑みを浮かべて手を差し伸べた。差し出された救いの手に、人々が縋ろうとした瞬間――無数の巨大な魔法陣が街に出現した。
作り笑いを浮かべたアスハ・ロットハール(
ja8432)が、魔術を炸裂。魔弾の暴雨が放たれ人間の絶叫が響き渡った。
「さて、遊ぶとする、か」
阿鼻叫喚の中を無表情で進み、アスハはレインと合流した。
「あれだけ辛酸を舐めさせられた相手が味方、というのは心強い、な……」
「えへへ、任せてください。それじゃ、残った人達も消しちゃいますね」
殺戮の光雨が街全域に降り注ぐ。死の雨から逃げた市民は、アスハがバンカーで全員串刺しにしていく。
「女王の為にも、これが仕事なんで、な……悪いが、死んでくれ」
そして、虐殺は完了した。
矢野 古代(
jb1679)は、ただ自分の欲の為に悪魔に膝を屈した。
『――雨の名を知る栄誉を』
それだけだった。あの時の続きを――それだけだった
だからこそ、だ。
「続きだ、レイン。かつて君の名を聞いた男が、立場を変えて聞きに来たぞ」
――雨の本当の名前を、教えてくれ。
そして、ひとつだけ、俺の願いを聞いてほしい
仕える者同士であろうが、これだけを言いに此処に来たんだと、思う。
「――俺の前では、『レイン』じゃなくても良いんだぞ?」
「あ、ありがとうございます……えへへ」
青髪の少女は頬を赤らめ、少し照れたような表情になって、
「え、えっと……じゃ、じゃあ……失礼します」
古代の耳元に顔を寄せ、レインは小さな声で囁いた。
「私の名前は――」
●
戦いが終わり、ヴァニタス達が帰還していく。
元撃退士のヴァニタス集団は、世界を崩壊させる程の戦力を保持していた。
虚しいまでに圧倒的な勝利だった。
かつて好んだ機械の様に、クロムの顔に感情はなく、瞳に宿すのは絶望と狂気だけだった。
去り際に崩壊した街を見やり、少年は微かに笑った。
(ああそうか、俺がずっと望んでいた物は──)
「…………」
寂しそうな顔で、雫が彼方を見つめる。
「早く私を討滅しに来て下さい……そして、私の死を糧に前に進んで下さい」
久遠ヶ原学園の残る友人達に、雫は懇願するように呟いた。
戦いの後、アリサは撃退士達の墓をひっそりと建てていた。
――俺はきっと、地獄に堕ちるんだろうな。
――いや、もしかしたら既に、此処が。
嘘みたいに最悪な現実は、まだ始まったばかり――。