とびきり素敵な笑顔と、ひたすら重い愛情をあなたに向ける青髪の少女・レイン(jz0211)。
突如として目の前に現れたレインに対し、あなたは――。
●高野 晃司(
ja2733)の場合
夜道でばったりレインと遭遇した晃司は、咄嗟に彼女を口説き落とすことに成功しかけていた。棒読みの口説き文句だったが、レインはあっさり誑し込まれていた。
「えへへ。ふたりっきり、ですね」
幸せそうに笑って、レインが晃司の腕にしがみつく。ふくよかとは言い難い胸が当たり、晃司の手がぴくんと跳ねた。
(このまま好きにしていいならな……いや、駄目だ。ダメダメ。落ち着け俺)
一瞬忘れそうになったが相手はディアボロである。おまけに病んでいて話が通じない。
(まぁ、可愛いんだけどなー……普通に普通の女の子だったらな。しかも、貧乳ですし? 貧乳ですし?)
ちょっとくらいなら――なんて、貧乳成分に飢えている晃司が思い始めた、そのときだった。
凍りついた表情で、レインが晃司を見上げる。
「……女の子の匂いがします……晃司さん、まさか……」
殺気を滾らせるレインを前に、晃司は慌てて首を振った。
「ち、違う違う! 誤解だって! それ俺が使ってる香水の匂い! ほら、俺女装してるし!」
「……信じてたのに。晃司さんは他の撃退士とは違うって、信じてたのに」
「ちょ、ま。信じてくださいよ?! 嘘はついていませんから!」
「……あたしだけを見てくれない晃司さんなんて要らない……こうなったら……」
「いやいやいやいや。これは冤罪ですよ? おーい? 聞いてますー?」
晃司の弁明は聴こえてないのか、レインはぶつぶつと何事かを呟き続けていた。
あ、これアカンやつだ、とバッドエンドを予感した直後。晃司の腹に、どすっ、とレインの放った魔法槍が突き刺さった。ごふっ、と血反吐を吐きながら晃司は突っ込みを入れる。
「ちょ……まじで勘違いだって……」
返り血を浴びたレインは、恍惚とした表情を浮かべていた。
「最初からこうすればよかったんです……これで晃司さんはあたしだけのもの。他の女になんか渡しません……あはは、あははははははっ!」
●エリーゼ・エインフェリア(
jb3364)の場合
「えへへ。逃げても無駄ですよ……? あなたのためだったら、あたし、地獄の底まで追いかけていきます」
レインの言葉に、エリーゼはきょとんと首を傾げた。
「私を追いかけるって……??? むしろレインちゃんが逃げたくなるほど追いかけますよー、私が」
満面の笑みを浮かべたままエリーゼがレインに詰め寄る。無言の圧力に、思わずレインのほうが後ずさった。
「えっ? あ、あの……エリーゼさん?」
「私を追いかけようなどと思った事を、後悔すると良いです……!」
「……えっ、えっ?」
レインが困惑したような声をあげる。しかし、時すでに遅し。
「レインちゃんぺろぺろー!」
がしぃ! と飛びかかったエリーゼが、レインを思い切り抱きしめる。淑女たる天使は少女に密着すると、細い両手をわきわきと動かし始めた。
「ひゃっ!? ど、どこ触って……っ!!」
「レインちゃん貧乳気にしてるんですか? 貧乳気にしてるんですか? でも私はそんなレインちゃんも大好きです!」
涙目になるレインを恍惚の表情で眺めながら、エリーゼ(巨乳)がはぁはぁと息を荒げる。ついには辛抱たまらん、といった感じでむしゃぶりついた。
レインの首筋を、エリーゼの桜色の舌が這う。無論、並行して髪の毛の甘い香りを堪能することも忘れない。そして最中も、その両手はレインを弄り続けている。
さすがのレインもこれは恥ずかしいのか、顔が真っ赤になっていた。
レインがふるふると小刻みに震える。
「エリーゼさん……く、くすぐったいです……っ」
「怖がらなくても大丈夫ですよ、レインちゃん。お姉さんが優しく教えてあげますから……はぁはぁ」
それじゃあ早速ふたりの愛の結晶を――とエリーゼがよだれを垂らした、その時。
ちゅぃぃぃいん、というチェーンソーの音が、エリーゼの背後で鳴り響いた。
●瀬波 有火(
jb5278)の場合
「ねえ、レインちゃん……その人、だれ? お友達?」
チェーンソーを片手に、有火がレインとエリーゼに近づく。
「もしかして――ううん、そんなはず無いよね。だってレインちゃん、あたしが一番だよって言ってくれたもんね? 二人が出会った瞬間に回り始めた運命の歯車は世界を巻き込みながら摩擦でこの身が焼けるくらい高速回転して邪魔者の肉を引き裂きながらどんな選択肢を選ぼうと未来はトゥルーエンドに一直線だね、って誓ったもんね? そうだよね? 安心してね、レインちゃん。あたしが守ってあげるから。あたしだけが守ってあげれるから。だから、ずっとずっと二人で――ううん、二人だけで、一緒にいようねっ」
返事を待つことなく、有火はのべつ幕無しに喋り続ける。表情こそ笑顔だが、その瞳は虚ろだ。正直レインの数倍は怖い。
「待っててねレインちゃん。レインちゃんを騙そうとする悪い人は、あたしがすぐに駆除してあげるから」
有火はレインに微笑みを向け、そのあとエリーゼを睨むと、チェーンソーを大きく振り上げた。
「レインちゃんの純粋さに付け込んで……最低な人。二度とレインちゃんに近づけないようにしてあげる。泣いても喚いても許してなんかあげないよ」
「なに言ってるんですか。レインちゃんは私のお嫁さんです。邪魔するようでしたら、あなたから先におっぱいミサイルの餌食にしますよ?」
「望むところだよ。そっちこそばらばらに刻んであげる!」
ばっ、と縮地をかけた有火が一気に迫る。薙ぎ払いによるスタンをかけ、動けなくなったエリーゼの体をチェーンソーで一方的に切り刻んでいく。
だが、ジェイソン有火の手によりR18Gな姿となったエリーゼは、それでもゾンビのように這い上がった。レイン愛のなせる荒業である。
「れ゛い゛んち゛やぁぁっぁぁああん゛」
叫び声と共に、エリーゼが胸からおっぱいミサイルを発射した。
飛んできた半球型おっぱいが、有火の両胸へと突き刺さる!
●リンド=エル・ベルンフォーヘン(
jb4728)の場合
轟音に気づいたリンドが、物陰からひょっこりと顔を出す。
「んむ? あの青い……やけに肌寒そうな格好の女子…いつぞやのヴァニタス?」
真面目なリンドは真剣に観察を開始。もぐもぐしていたあんぱんを急いで食べ終え、恐る恐る様子を窺う。
「酷い……色々と酷すぎる……」
リンドが見たのは、無数の魔法槍に串刺しにされて地面に転がるエリーゼと有火の凄惨な姿。
血だまりの中でレインが笑う。
「――あははっ、喧嘩しちゃダメじゃないですかぁ……でも、お二人の気持ちはすっごく嬉しかったです。これからは皆でずーっと、仲良く遊びましょうね……リンドさんも一緒に」
「なっ!?」
「えへへ、匂いですぐに分かりましたよ。リンドさんもあたしを探してきてくれたんですね。ほら、こっちに来てください。一緒に遊びましょうよ」
「いやそのっ、俺はどちらかと言えばもう少し発育の良い女子の方……がぁあっ!?」
光槍を飛ばしたレインが、にっこり笑顔でリンドに近づく。リンドは膝が笑い出しそうだった。
「……どうしてそんなこと言うんですか? おっぱいミサイル撃てるくらいおっきくないとご不満なんですか? Bじゃダメなんですか?」
「じ、地雷を踏んでしまった……!? こうなっては、戦うしかあるまい!?」
完全にテンパったリンドが、驚天動地を発射して応戦する。光槍と交わり驚天動地がレインの胸を撃つ。
そう、胸を。
レインの青い瞳に涙が滲む。
「……わざとですか、リンドさん? あたしの胸なんてあってもなくても同じだと、そう仰りたいんですか……?」
「そ、そんなつもりでは……がはっ」
●ルルディ(
jb4008)の場合
光槍を受けて気絶したリンドも地面に倒れる。
レインは三人を地下牢に連れて帰ろうとして――そこで、首筋に触れる冷たいものに気づいた。
蒼に染まった髪を揺らして、ルルディがレインに鎌を向ける。
「どうしてぼくだけを見てくれない……なんで他の奴を見るの……? なんで? ボクはこんなにも君のことを『アイ』してるのに! ねぇ、なんで? なんで? なんでぇ?!」
マミにクライムしたルルディが、半狂乱で鎌を振り乱す。なぜだか彼もヤンデレ化していた。
「ぼくを見てくれないなら、見させればいいんだよね? 大丈夫なんだよ……ボクは君のことちゃぁんと『アイ』してるから……ねぇ?」
言葉と共に振り下ろされたソウルサイスが、レインの頬を掠める。皮膚を裂き溢れた血液を舌で舐め取りながら、レインは嗜虐的な笑みを浮かべた。
「あははっ! 最高に素敵です、ルルディさん! あたしもルルディさんのこと、殺したいほど愛してますよっ!」
闘争に悦ぶように、レインが光槍を飛ばす。蒼く輝く魔法槍は緋色のロリータドレスを突き破り、ルルディの身体を貫いた。
紅翼のように鮮やかな赤に塗れながらも、ルルディは魅力的な笑顔を絶やすことはない。
血で汚れた手でレインの頬を撫で、ルルディが微笑む。まるで、溺愛する弟に想いを吐き出すように。
「――これで……ボクだけを見てくれるね……」
●ルナジョーカー(
jb2309)の場合
異様に甘えてくるレインに戸惑いつつも、ルナは彼女に合わせて何とか乗り切ろうとしていた。
「よしよしよし……可愛い可愛い」
「えへへ。ルナさんの手、あったかいです」
仔猫のようにすり寄ってくるレインの頭を、ルナが恐々と撫でる。その声は震えていた。
目の前のヴァニタスもそうだが、恋人も怖い。
レインの頭を撫でてやりながら、ぼんやりとルナは思う。
もしも俺がこいつに殺されでもしたら、やっぱりあいつはブチギレるんだろうか……。
そんな思考を遮るように、頬を膨らませたレインが言う。
「むー、あたしが目の前にいるのに考え事ですかぁ? ひょっとしてルナさん、あたしのこと嫌いなんじゃ……」
「ん? いや、俺はレインが大好きだぞ?」
うまい。ルナ、嘘は言っていなかった。この調子ならやりすごせるか?
少し考え、レインはルナに顔を近づけた。そして、自分の唇を指さす。
「じゃあ……キスしてください。本当に好きなら、できますよね?」
「…………」
拒絶すればどうなるかは、容易に想像がついた。
けれど。
「いや、それはできない」
ルナの答えは、ノーだった。
「自分の気持ちに嘘はつけない。悪いな」
ルナは優しい笑みを浮かべ、灰燼の書を改造した黒い魔剣を構えた
「勝てる気は正直しないが……ここで死んだらあいつに怒られるだろうしな。来いよ、レイン――殺し合おうぜ」
●日ノ宮 雪斗(
jb4907)の場合
「久しぶりですね、雪斗さん。また逢えて嬉しいです……えへへ」
(……あれ? なんかいつもと違くね? てか私達って仲良しだっけ? 一撃で吹き飛ばされた記憶しかないんだけどなあ……いや、でもあれはヤバい目だ! 良く分からんけどこの状況ヤバい!!)
レインと遭遇した雪斗は瞬時にそこまで思考して、とにかく話を合わせることにした。
機転をきかせた雪斗が、ぽん、と手を叩く。
「そうだ、学校の食堂で凄く美味しいケーキがあるの! レインさん一緒に食べよう? 美味しいケーキ食べながらお話ししたい!」
そんなわけで、食堂。
互いにケーキを食べさせ合いながら、少女二人はキャッキャウフフと睦み合っていた。
「あたし、甘くて美味しいものは好きなんです。もちろん、一番大好きなのは雪斗さんですけど」
頬にクリームをつけたまま、レインがにこにこと笑う。
「私もレインさん大好き! だ、だって親友だもんね!」
雪斗も満面の笑み(内心では震えているが)でレインを抱きしめて、頭を撫でた。レインは猫のような声をあげて嬉しそう。
「えへへ」
親友だと言ってくれた雪斗の胸に顔をすり寄せながら――レインが魔法槍をじゃきん、と呼び起こす。結局そうなるのか。
「――それじゃ、ここにずっと一緒にいましょう。一生、あたしが雪斗さんにケーキを食べさせてあげます。それだけであたしは幸せです。雪斗さんも同じ気持ちですよねそうですよね?」
「……うっはぁ〜……まあいいや。うん、それでもいいよ」
槍の穂先をつきつけてくるレインに、雪斗は諦観の笑みを浮かべた。この後どうなるのは何となく悟っていた。
雪斗がたは〜っと笑いながら、レインを見つめる。
レインは、藻が絡まった溜池のように虚ろな瞳で、雪斗を見つめ返してきた。
「私、ほんとはね。一度レインさんと普通に話してみたかっただけなんだ……今ならきっと、仲良くなれるんじゃないかな、って……」
最後に柔らかい微笑をヴァニタスに向けて、雪斗は言った。
――私、少しでもレインさんの友達になれたかな?
●赤坂白秋(
ja7030)の場合
「……ふう」
自室のベッドの上。白秋はやりきった顔で、読了した小説を閉じた。
小説のタイトルは『ヤンデレイン』。
複数の男女がレインに愛されてドタバタラブラブグチョグチョミシベキゴリュッを繰り広げる、そんなお話だった。
「はあ、にしてもレインたん可愛いな……。ちょっとヤンデレなとこが玉に瑕だが、でも、美少女だ。そして、美少女だ。何よりも美少女だ……!」
女の子大好きで自称イケメンで非モテの白秋が、高らかに叫び上げる。
「――ああ! 俺もこんな風に、美少女に全力で愛されてみてえ!」
「お呼びですか?」
「なっ――」
後ろから聴こえた声に振り返り、白秋が茫然とした表情に変わる。
彼女は、小説の中の存在のはず。
「えへへ。白秋さんに逢いたくて、ここまで来ちゃいました」
何故レインがそこにいるのか。何故顔を赤らめているのか。
そして何故――レインの全身がべっとりと赤くなっているのか?
よく見るとレインの背後には無数の肉塊が転がっていた。そのうちの一つ、見知った友人に良く似たそれは、「れ゛い゛んち゛やぁぁっぁぁああん゛」と叫んでいる。それはそれで怖いが、変わらず無邪気に笑っているレインが一番怖かった。
「ひいいいいっ!?」
後ずさろうとして、白秋の背後から声。
「どこにいくんですか?」
白秋が振り向くと、『ヤンデレイン』の表紙にレインの顔が浮かび上がっていた。そのレインが、壊れた笑みを白秋に向ける。
畳み掛けるように、八方からレインの声が響く。
「あははっ」「逃がしませんよ」「えへへ」「大好きです」「あははは」「××していいですか?」「あたしだけを見て」「あはははっ!」
照明が枕が電話が椅子が壁が床が、ぼこぼことレインの顔に変わっていく。
「ないわー。いくら美少女でも、これはないわー」
ヤンデレを見縊っていた。レインの哄笑に包まれながら、白秋が放心したように言葉を漏らす。
絶望と恐怖の中、ヤンデレインは微笑み、そして――。
<了>