●
熱気が立ち昇り、火の粉が舞う。
撃退士たちの前には、燃え盛る敵前線大部隊。そして、後ろには人類居住区。
「殲滅戦か、昔を思い出すな」
ディアボロの軍勢を見渡しながら、元軍人のルーカス・クラネルト(
jb6689)は冷静な様子で呟いた。
敵は四十体を超える大軍。しかし、ルーカスの瞳に迷いの色はない。
先手を獲ったルーカスが、長大な和弓を構える。雷上動。所有者の行動速度を高める優れた霊弓だ。
「まずは厄介なお前からだ」
淡々と告げ、ルーカスは紫電の霊矢を放った。アウルの矢は狙い通り、最優先目標であるバーニングソウルへと命中。痛みに悶えるように、火の玉を模したディアボロが揺れめく。
鬼火と併走していたイフリートベビーが、狙撃手であるルーカスに反応。全身から炎を噴き上げ、ルーカスめがけて突進する。
「…………」
幼い炎鬼がルーカスに迫るより早く、紫園路 一輝(
ja3602)は無言で抜刀。銀閃が煌き、陽光にも似た霊刃が真っ直ぐと放たれた。
一輝の操る煌華に両断され、イフリートベビーが地に沈む。同時に、後続のディアボロたちが雪崩れ込んできた。
「くっくっくっ……大勢なれど、ここで殲滅するのみだね」
錦織・長郎(
jb6057)は肩を竦めて笑うと、闇の翼を顕現させた。軽やかに飛翔し、敵がリボルバーの射程圏内に入るのを空中で待ち構える。
「目標捕捉、うちーかたーはじめー!」
身の丈よりも長大なスナイパーライフルを構え、白野 小梅(
jb4012)が発砲。向かってきたバーニングソウルの一体を、的確に撃ち抜く。
立て続けに銃声が炸裂。牙撃鉄鳴(
jb5667)が放ったロングレンジショットを喰らい、火の玉は完全に弾け散った。
「所詮は数だけか」
バーニングソウルを仕留めた鉄鳴が、ショットガン片手に素っ気無く呟く。そんな鉄鳴に向かって、正面からフレイムグールが近づいてくる。だが、遅い。
燃え盛る亡者に、散弾が叩き込まれる。
「射線に入る奴が一番悪いって知ってる?」
煙草を銜えた零那(
ja0485)が、気だるげにショットガンを猛射。接近しようとするフレイムグールに銃撃を浴びせていく。
ひとしきり撃ち尽くした所で零那はぼーっと敵を眺め、口から紫煙を吐いた。
「だっりー……さっさと終わらせておっぱい揉ませてよ美華」
「こらこら」
友人のセクハラ発言に軽く突っ込み、満月 美華(
jb6831)が漆黒の双銃を具現化。呼び起こしたクウァイイータスの銃口を、フレイムグールに向ける。
「零那、気を付けて。アレ、まだ生きてるわよ」
「へぇ、まだ動けんの? ちったぁ楽しませてくれればいいけど」
ショットガンにアウルを再装填した零那が、裂傷の走る左腕を伸ばす。零那の傍らで、美華も双銃を握る手に力を込めた。
「蹴散らすわよ、零那」
「おーう。かたっぱしから片付けてやるよ」
戦場の中央でひっきりなしに銃声が響く中、両翼部隊も強襲を開始していた。
左翼。黒髪に浅黒い肌をした長身の男が、敵勢と距離を詰めていく。
「突破されないためにも、早いとこ数を減らしきっちまわねぇとな」
ディザイア・シーカー(
jb5989)の言葉と共に、アサルトライフルが火を噴いた。堕天使ディザイアが放った銃弾は、冥魔を破壊する一撃。ディアボロであるフレイムグールに、強烈な銃撃は全弾命中した。
金髪の美青年がディザイアに続く。本心の読めない笑顔を崩すことなく、ジェンティアン・砂原(
jb7192)はスキルを発動。
「遠慮なく食らいなよ」
無数の彗星を生成したジェンティアンが、ディアボロ三体に猛撃を叩き込んだ。コメットを浴びて、バーニングソウル一体、フレイムグール二体の動きがわずかに鈍る。
バーニングソウルが重圧を受けている間に、気配を殺したヒスイ(
jb6437)が死角に潜り込んでいく。
「残られると面倒だ……早々にその火、消させてもらおう」
翡翠色の髪をした小さな暗殺者が、リボルバーの引き金を絞る。奇襲攻撃は成功。しかし、接近に気づいたイフリートベビーがヒスイを標的に定めていた。
幼い炎鬼がタックルの要領でヒスイへと突撃する。が、イフリートベビーの横合いから小さな影。
雅楽 灰鈴(
jb2185)の投げ込んだ札が炸裂し、爆発に巻き込まれたディアボロの突進がわずかに遅れる。その隙にヒスイは後方に飛び退き、寸前の所で致命傷を回避した。
「すまんな……助かった」
下がりつつ、ヒスイが灰鈴に礼を言う。灰鈴は気にしたふうでもなく、業火の軍勢に太刀の切っ先を向けていた。
「折角涼しぃなってきよったのに、まった暑苦しいな」
「同感だな。まぁ囮とわかっている以上、役目を果たさせはしない」
それぞれ武器を構えるヒスイと灰鈴のそばで、花月 芽依(
jb5975)が頷く。
「敵……殲滅……気を引き締めていかないと」
そう呟き、芽依は光纏。呼応して出現した橙色、桜色、空色、藤色の蝶たちがひらひらと舞う。
「……全身全霊、殲滅させていただきますね」
シャイニングセイバーを召喚した芽依が、地面を蹴って跳躍する。イフリートベビーの懐まで一気に踏み込み、光剣を翻した。フェイントを織り交ぜた斬刃が、炎鬼を一閃。
前に出た芽依にディアボロたちが詰め寄る。フレイムグールが芽依に掴みかかろうとしてきたが、芽依は予測回避を発動。動きを読み、辛うじて魔手から逃れることに成功した。
立て続けに、次のフレイムグールが芽依を襲う。迫り来る炎屍に、華桜りりか(
jb6883)はすかさず風花護符をかざした。
「大丈夫、みんなで力を合わせればすぐに終わるの……」
りりかの放った風刃がフレイムグールを引き裂く。さらに中村 巧(
jb6167)の強烈な弓撃が殺到。芽依に近寄るディアボロを押し返した。
薄青色のオーラを纏った巧が、芽依やりりかを援護するために美貌侯の洋弓を構え直す。
独り言のように、巧は決意を口にした。
「早く倒さないといけない。頑張ろう」
右翼からも、撃退士たちはディアボロに攻撃を仕掛けていた。
闇の翼で飛行する逸鬼(
jb6567)が一気に降下。猛禽の如くにバーニングソウルへと襲いかかる。
山科 珠洲(
jb6166)も、上空からアルス・ノトリアでバーニングソウルに攻撃。斧槍に貫かれ、光の羽根に撃ち抜かれ、鬼火の肉体は消し飛んだ。
爆音が轟く。
妖狐の悪魔である饗(
jb2588)の放った狐火・燐が爆散し、心火の眷属を焼き尽くす。バーニングソウルとイフリートベビーが一体ずつ死亡、フレイムグール二体が負傷した。
序盤は順調。バーニングソウルを最優先する方針と、中央が惹き付けているうちに両翼で挟み撃つ作戦は、ある程度上手く機能していた。
反撃とばかりに、浮遊する炎魂が突撃。すでに周囲のバーニングソウルたちは、ナイトウォーカーである饗の魔装防御を喰い破れるほどには強化されていた。
バーニングソウルが、噛みつくような勢いで撃退士へと飛びかかる。
「――私の手の届く限り、誰も傷つけさせはしないわ」
真城風 紗耶(
jb7336)が、ブレイジングスピアに溜めたエネルギーを一気に振り抜いた。放たれた風の衝撃波が、バーニングソウルを撃ち落す。
フレイムグールが紗耶に近づく。けれどディアボロは黒い雷に貫かれ動きを阻まれた。
「……紗耶には……手を出させないよ……」
黒塗りの手帳から千切った紙片を雷に変換し、ロキ(
jb7437)がフレイムグールを迎え撃つ。
「……いつも紗耶が私を守ってくれる……けど…今回は私が紗耶を守る……」
ソニックブームを喰らって気絶していたバーニングソウルが再起。怨念の業火を燃やして撃退士に再度突撃するが、すぐに食寝 眞流佗(
jb7556)が立ちはだかった。
眞流佗がシャインセイバーに力を込めて一撃を叩き込む。カオスレートの乗ったインパクトを喰らい、今度こそ鬼火が撃沈。
「速やかに撃滅致しましょう……」
丁寧な言葉遣いで呟き、眞流佗が光剣を握り締める。内心では早く終わらせてごろごろだらだらしたい、と思っている怠け者系の残念堕天使だが、行動は的確だ。
戦場は敵味方が入り乱れる混戦状態。戦況を見て動く遊撃部隊が、押されがちな箇所の支援に向かっていく。
ストレイシオンのすーさんと共に田中恵子(
jb3915)が右翼側に駆けつけ、その上空をハウンド(
jb4974)が飛翔していた。
「さぁ、殲滅しようか!」
言葉と共にハウンドが光纏。円錐型の犬歯を露にして、標的であるフレイムグールめがけて降下する。
恵子も雷霆の書を開き、魔法の雷剣を生成。閃光が迸り、焼身の亡者を貫いた。そこにハウンドの振り下ろしたカタラクトクレイモアが叩き込まれ、フレイムグールが両断、真っ二つに割けた死体が崩れ落ちる。
漆黒の翼で飛ぶジャスパー・クリムゾン(
jb7167)が上空から戦況を確認。地上の右翼部隊に襲いかかろうとするイフリートベビーのもとへと向かい、落下攻撃を放つ。
ジャスパーのルシフェリオンに右腕を斬り落とされたイフリートベビーが、残った片腕で反撃。火炎を纏った拳が飛んでくるが、軌道を見切ったジャスパーが攻撃をよける。
「悪魔たちの好きにはさせません」
スレイプニルに掴まったアリア(
jb6000)が、ジャスパーと交戦する炎鬼にPBWを掃射。アウルの銃弾を浴びせ、ディアボロを大地に沈める。
●
再び中央。
右翼に向かって突進するイフリートベビーの脚に、衝撃が叩き込まれる。
アカシックレコーダーである勇が放った氷の鞭に片脚を潰され、幼き炎の魔人の進撃が止まった。
勇、殺伐として見えるが実は人当たりは良い。仲間たちをカバーすべく、中央で足止めに尽力していた。
左翼側に向かおうとするバーニングソウルには、紫電の矢が命中。ルーカスの雷上動に射抜かれ、火の玉が儚く散る。
「敵の沈黙を確認」
ルーカスは淡々と撃破を報告して、それとなく視線を左翼方面へと泳がせた。
(……花月は、大丈夫だろうか)
左翼で前衛として奮闘する芽依の身を案じながら、ルーカスが中央の敵を処理していく。
その傍らの一輝はただ目の前の敵にのみ意識を集中し、敵を倒すためだけに思考と体を動かしていた。
一輝が煌華を抜刀し、まっすぐ向かってきたフレイムグールの首を刎ねる。頭を失くした生ける屍はそれでも前進してきたが、空中の長郎がリボルバーで追撃。とどめを刺した。
鈍重だがタフなフレイムグールたちが、手を前に突き出したまま中央部隊へと迫り来る。まるでホラー映画のような光景だった。
「ぜ〜ったい、通して上げないもんねぇ! あちっちはあっちいけー!」
充分に引き付けて狙いを定めてから、小梅がスナイパーライフルでフレイムグールを狙撃。鉄鳴も破壊力を高めたブーストショットを駆使し、炎獄の死人を淡々と撃ち抜く。
フレイムグールたちの間を抜けたイフリートベビーが猛進。撃退士を突破せんと愚直に突き進む。
「――ここから先は行かせない!」
咄嗟に飛び出した美華が、イフリートベビーの強烈なタックルを受け止めた。流石に重い。だが、気力で踏ん張る。
炎鬼の突進に耐え、美華が反撃のフレイムクレイモアを一閃。スマッシュを喰らい、息絶えたイフリートベビーが吹き飛ぶ。
中央を抜けようとしたフレイムグールは、零那がショットガンで銃殺。アウルの銃弾で頭をブチ抜かれ、灼熱のゾンビは倒れ伏した。
後ろに逃がしたディアボロはなし。だが、両翼へと向かうディアボロ全てにまでは対応し切れなかった。
ディアボロたちを追って、長郎と鉄鳴が右翼側のカバーに、ルーカスと勇が左翼側のカバーに向かう。
左翼。
こちらでもイフリートベビーたちは強引に突破を図っていたが、それはディザイアによって阻止されていた。
「こっから先は通行止めでな、お引き取り願おうか」
雷と風のアウルを纏ったディザイアの全身が、淡い緑色に輝く。閃滅。放たれた疾風迅雷の一撃が、イフリートベビーの肉体を容赦なく粉々に砕いた。
ディザイアは人間を護るために堕天し、撃退士となった身。願うは人属の平和。『守るべき存在』以外に慈悲をかけるつもりなどない。
フレイムグールたちがディザイアに迫る。が、重圧の効果で動きは通常よりも鈍い。
「僕達は侵攻を阻止する、それがお仕事」
ジェンティアンがワイバーンで銃撃。動きが遅くなった敵を無情に潰していく。柔和な青年に見えて、彼は強かな一面も備えていた。
フレイムグールが這うようにして銃撃から逃れるが、そこに雷剣が突き立てられる。芽依のサンダーブレードに斬られ、ディアボロの全身は麻痺して動けなくなった。
ヒスイのファイアワークスが炸裂。火花が散り爆炎が広がり、麻痺や重圧を受けたフレイムグール二体、強化途上のバーニングソウル一体を仕留めることに成功する。
「さて……これで何体目だ?」
憔悴した声でヒスイが呟く。絶え間なく繰り広げられる戦いは、ヒスイを確実に消耗させていた。
ファイアワークスをよけたバーニングソウルが、ヒスイへと襲いかかる。
「逃がさないの、です……!」
りりかが反射的に放った炸裂符が、バーニングソウルを爆殺する。記憶を無くしているりりかは、無意識の行動に自分でも驚いていた。
(どうしてこんなに動けるの……です?)
戸惑いながらも、りりかが眼前の敵と向き直る。今、疑問と向き合う余裕はない。ある程度強化したバーニングソウルたちが数体、左翼側には存在していた。気を抜けばやられる。
「これでどうかな」
グラシャラボラスを再装備した巧が、ソニックブームを発動。邪炎を噴き上がらせる鬼火に衝撃波を叩き込む。
手応えはあった。だが、まだ撃破には届いていない。流石に硬かった。
十数体ものディアボロの怨念を吸い取ったかのように、バーニングソウルの全体からは禍々しいオーラが迸っている。
火の粉を撒き散らして、バーニングソウルが巧に突撃。直撃すれば不味かったが、少年剣士は盾を緊急活性化して防御。クリペウスで受け止め、猛攻を凌ぐ。
その頃、右翼では恵子のストレイシオンが防護結界を展開し終えることに成功していた。射程内にいる撃退士たちが青い燐光に包まれる。
飛翔する珠洲がアサルトライフルで地上に銃撃を飛ばす。銃弾を喰らいながらも、膨れ上がったバーニングソウルが逸鬼に突進していく。
隕石のような突撃を耐えた逸鬼は、即座に斧槍を薙ぎ払って反撃した。
ジャスパーが横に回り込み、バーニングソウルに剣を突き出す。たとえ包囲されても。次のターンには空中に離脱できる構えだ。
アウルを集中しスマッシュを活性化する紗耶に、イフリートベビーが突進。強烈なタックルに弾き飛ばされるが、防御効果もあって耐え抜く。
「紗耶を傷つけるのは……許さない……」
ロキが異界の呼び手で炎鬼を束縛する。声には、恩人を傷つけられたことへの怒りが滲んでいるかのようだった。
続々とディアボロが迫る。が、妖孤は動じることなく、
「抜かせませんとも。大人しく此処で死になさい」
酷薄な笑みを浮かべ、饗が氷の夜想曲を発動。冷気の奔流に呑まれた炎魔の群れを、凍えるような眠りに誘う。
睡眠状態に陥ったディアボロたちを、アリアのスレイプニルがボルケーノで一掃。爆発的な力で縦横無尽に攻撃し、悪魔の眷属たちを蹴散らしていく。
●
「横に回っちゃメッ!」
アサルトライフルを構える小梅が、左翼に回ろうとしたイフリートベビーを撃破。進撃を食い止めた。
一人前の狙撃手らしく振舞う小梅だったが、体格ゆえか性格ゆえか、幼稚に見えるのはご愛嬌だ。
その左翼では、依然として苛烈な攻防が続けられている。
灰鈴の紫色の瞳には、膠着した状況への苛立ちのようなものが浮かんでいた。
「ウザイわ。さっさと片付けよーや」
そう言って、灰鈴が呪縛陣を展開。束縛の結界を組み上げ、接近したイフリートベビー二体を中心に範囲内の全ての動きを封じた。
束縛を回避したバーニングソウルが、芽依に突進する。バーニングソウルはかなり強化が進んでおり、新人撃退士たちには脅威と呼べるレベルに達していたが、
ルーカスの放った援護射撃が、鬼火に命中。芽依を補助するように、ルーカスの紫電の矢が乱れ飛ぶ。
バーニングソウルが怯んだ隙に、芽依が跳躍して接近。サンダーブレードの一太刀を浴びせ、その移動力を奪った。
あとは――
「うまく一ヶ所に固まってくれたな。まとめて葬ってやろう」
ヒスイがファイアワークスを紡ぎ、色とりどりの爆炎を撒き散らす。まさに一網打尽。広範囲を焼き払う花火の魔術が、動けないディアボロたちを一掃していく!
恵子の使役するストレイシオン、すーさんがハイブラストを放つ。
右翼側も、戦いは佳境に差しかかっていた。
轟々と焔を巻き上げ、生き残った強化バーニングソウルが眞流佗に突撃。カオスレート差も加わり、その威力は序盤とは桁違いのものになっていた。
シャインセイバーを掲げ、眞流佗が突進を受け止める。防ぎ切れないが、何とか耐えた。
「天に召されい!」
眞流佗がインパクトで反撃。冥魔を破壊する光刃に斬り裂かれ、強化バーニングソウルが討ち取られる。
饗にも強化バーニングソウルが襲いかかったが、狡猾な狐は瞬時にナイトミストを展開。ぎりぎりで回避に成功した。すかさずウォフ・マナフで斬り返すが、焔の壁に阻まれて本体に届かない。
「……仕方ありませんね。対応頼みます」
饗の言葉に呼応して、再度飛翔したジャスパーと逸鬼が上空から降下。強敵と化した強化バーニングソウルを挟み撃ちにする。
鬼の姿から逸れし者、閃光の如き動きでラピスハルバードによる刺突を繰り出した。
天冥両界から離れた堕天使、黒き旋風となって魔剣を振り抜く。
強烈な連撃が燃え盛る魂に叩き込まれる。
●
撃退士が前線大部隊を壊滅に追い込んでいく。
最優先目標を立てていたお陰か、バーニングソウルの多くは序盤から中盤にかけて撃破されていた。
残るディアボロは数体。
飛行する長郎が、弾幕を張るようにしてリボルバーを猛射し、圧力をかける。
わずかに怯んだ隙に、りりかが炎陣球を発動。フレイムグールを焼き尽くし、温度障害を与えていく。
追い詰めたディアボロたちを前に、灰鈴がニヒルな笑みを零す。
「もーえぇやろ? 派手な一撃食らわしたる」
灰鈴は炸裂陣を展開。結界の中で爆発が巻き起こり、フレイムグールたちをずたずたにした。
満身創痍となったフレイムグールが呻く。これでもまだ倒れない。すでにふらふらだが、八塚楓に与えられた使命を果たすべく、しぶとく前へと突き進む。
けれど、その進撃もここまで。
「逃がさね〜よ! もっと遊ぼうぜ!」
嬉々とした声と共に、空中から悪魔の猟犬が飛来。ハウンドがカタラクトクレイモアを振り回し、フレイムグールを薙ぎ払う。斬り裂かれた生ける屍は、今度こそ活動を停止した。
さらに銃声が轟く。それは鉄鳴がブーストショットで瀕死のフレイムグールを撃ち殺した音だった。
これで頑丈なフレイムグールは全滅。脆弱なイフリートベビーもすでに全滅している。
残るは、しぶとく生き延びて超強化を果たしたバーニングソウルが二体。
邪悪な怨炎を纏ったバーニングソウルが、ロキに向かって突撃する。四十三体分の怨念を吸い上げた今の鬼火は、後衛職を一撃で気絶させることも難しくはない。
ロキにとっては致命傷になりうる攻撃。だが、それが届くことはなかった。
「誰よりも大切な千手……絶対に傷つけさせないわよ!」
千手――ロキを庇って前に出たのは、炎の如きオーラを纏った紗耶。燃え上がる魂の突進を、ブレイジングスピアで受け止めていた。衝撃で槍の柄に亀裂が走るが、気力で耐える。
紗耶が限界を迎える刹那、ロキの放ったエナジーアローがバーニングソウルに命中。人魂を弾き飛ばした。
「私も……紗耶を守りたい……守られてるだけの私じゃ……嫌だから……」
「千手……」
ロキの言葉を背に、紗耶が力強く前に踏み込む。渾身の力を乗せたスマッシュを、強化バーニングソウルへと叩き込んだ。
残り一体。
ディザイア、饗、鉄鳴、ジェンティアンを中心に、撃退士総員でディアボロを囲んでいく。
「僕、射撃距離は選ばないんだ」
ジェンティアンが至近距離まで迫り、バーニングソウルに審判の鎖を放った。聖なる鎖が、不浄な業火を雁字搦めに締め上げる。
動けなくなった鬼火に、美華&零那の銃撃が飛ぶ。
さらに轟音が爆ぜた。鉄鳴のショットガンが火を噴き、饗が人魂大に凝縮した狐火が炸裂。剛炎で防御を固めるバーニングソウルを痛めつけていく。
気絶寸前のバーニングソウルが、強引に審判の鎖を突き破る。死力で状態異常を解除したディアボロが、残るエネルギーを振り絞って突破を試みるが――
「行かせねぇっつってんだろ?」
突如として聴こえた低い声に、バーニングソウルの動きが止まる。
優れた判断で以ってディアボロを御したのは漆黒の守護者――ディザイア・シーカー。
傷だらけの精悍な堕天使が、雷の魔法剣を一閃。雷鳴のような斬音が跳ねる。サンダーブレードに斬り裂かれ、一度解けた麻痺が再びバーニングソウルを襲う。
電撃を浴びたディアボロが痙攣する中、巧が背後から近づきグラシャラボラスを振り上げた。
「――もういい加減消えろ」
言葉と共に、虐殺の斧槍が振り下ろされた。
両断されたバーニングソウルが、腐った果実のように地面に潰れ落ちる。
●
最終的に、撃退士たちは瞬く間と言えるほどの速さで前線大部隊を殲滅させていた。
「敵全殲滅か? 他の持ち場の状況はどうなってるんだろうな?」
戦闘を終え一息ついたところで、一輝が仲間たちに問う。
「最後尾の首尾が気になるな。向こうには指揮官格のヴァニタスが出現したと訊いている」
リボルバーを弄りながら、ヒスイが呟く。
負傷した味方に回復を施しつつ、ジェンティアンは首を傾げた。
「両陣営が居座るほど、この島って重要なのかな? ……なーんて、やっぱり考えても分からないんだけどさ」
「……デイアボロを送り込んできた子がどんな子なのか知らないけど、何だかちょっと、寂しそうな子に思えちゃうね」
後方に視線を送ったまま、恵子も所感を述べる。心火のヴァニタス・八塚楓。最後尾では、彼が直接指揮を執る本命部隊と学園の別部隊が戦っている。
「迅速に殲滅せよとのお達しは無事果たしたが……まだ向こうの戦いは終わっちゃいねえみたいだな。幸い、俺たちはまだ戦える。どうだ、このまま向こうの増援に行ってみねえか?」
ディザイアは思う。撃退士としての経験が浅い今の自分たちが、ヴァニタスとまともに戦って勝てる見込みは薄い。だが、この数ならば――。
「ま、やれるだけやってみようぜ」
「ああ。このまま何もしないで見ているよりはずっとマシだ」
持参したウォッカを一口だけ飲んだ後、ルーカスが答える。
かくして、業火の猛侵を止めるべく、撃退士たちは最後列へと向かっていった。