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マスター:烏丸優
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/10/12


みんなの思い出



オープニング

●不死王復活

 青森某所・廃教会。
 薄暗い夜道に、革靴の足音が響く。
 周囲を雑木林に囲まれた教会堂を、ひとりの少女が訪れていた。
「…………」
 少女は無言のまま、壊れた扉に手をかけて教会内に足を踏み入れた。少女の歳は十三、四といった所で、セーラー服を着ている。長い黒髪が映える整った顔立ちをしているが、その顔には殴られたような跡があり、表情はどことなく暗い。
 砕けたステンドグラスの破片や倒れた蝋燭台が散乱する中を、少女が慣れた足取りで進む。割れた窓から月明かりが差し込んでいるが、たとえ真っ暗でも問題なく歩けるだろうと思えるほど、その歩みに迷いはなかった。
 荒れ果てた教会の中には、誰も居ない。少女もそれを知っているようだった。地理的な都合を考えると、もしかしたらこの教会は九魔侵攻の被害を受けてしまった場所のひとつなのかもしれなかった。
 だが、だとすればなぜ中学生と思しき少女が、こんな時間帯に出歩いているのか。なぜ彼女はこんな寂れた場所に来ているのか。その理由は彼女にしかわからない。彼女が抱える闇を、知る者は誰もいない。
 講壇に近づいた少女が、ふと足を止めた。わずかに首を傾げ、囁くような小声で呟く。
「……棺桶?」
 講壇の前に転がっていたのは、五メートルほどの大きな棺桶。蓋には不吉な髑髏の紋様が刻まれていた。
 このまえ来た時は、こんなものなかったはず。少女がそう思考した次の瞬間、
 棺桶の蓋が、内側から突き出された腕によって破られた。
 ――その腕には、包帯が幾重にも巻かれていた。

「ヒャハハハハハハッ!!」

 静寂を切り裂く耳障りな笑い声と共に棺桶から這い出てきたのは、全身に包帯を纏った長身の男。不死の王を騙るヴァニタス、サバク(jz0232)だった。
 砂のようにざらざらした声で、起き上がったサバクが饒舌に独白する。
「回復に思いのほか手間取っちまったなァ。おかげで体が鈍って仕方ねェ……だが、これでアイツらと殺り合う準備は出来たぜ。ヒャハハハハ!」
 ごきんと一度首を鳴らし、隠れ家にしていた廃教会内を見渡して――そこでようやく、サバクは眼前の少女に気づいた。
 少女と視線がかち合い、サバクが問いかける。
「誰だァ、テメエ。人間かァ?」
「……あなたこそ、何者なの。まともな人間には、見えないけど」
 あからさまに怪しいサバクに対して、少女は冷静に聞き返した。けれど、答えは概ね分かっていた。
 サバクが答えるより早く、少女が重ねて推測を告げる。
「……あなた、天魔?」
「ヒャハハハ、随分と察しの良いガキじゃねェか! その通り! 俺様はヴァニタス、テメエら人間をブチ殺す存在よォ!」
 両手を広げ、サバクがけたたましく笑う。同時に、それまで抑えていた膨大なアウルがサバクの全身から噴き上がる。普通の人間や動物なら、それだけで逃げ出してしまいそうな圧倒的な気迫だった。
「……」
 けれど、ヴァニタスの殺気に当てられて尚、少女は逃げるでも怯えるでもなく、身動き一つ取らずにサバクを見つめ返した。
「そう。やっぱり天魔なのね」
「……あァ? いやに冷静だなァ、おい。この状況分かってンのかァ?」
 そう言うとサバクは片腕を伸ばして、少女の胸倉を掴んだ。
 凄まじい膂力で引っ張りあげられ、少女の体が宙に浮き上がる。
「……」
 少女がサバクを見下ろす。首が絞まっているせいか、少女は少し苦しげに眉を寄せたものの、変わらず平然とした様子だった。その顔に、死への恐怖は微塵も浮かんでいない。
「私を殺すの?」
 少女の放ったシンプルな問いに、サバクは残虐な笑みを浮かべた。
「当たり前だろォが。俺はヴァニタスだぜ? ガキ一人殺すくらい訳ねェに決まってンだろ」
「どうして私を殺すの?」
「ハッ、理由なんざねェよ。殺りてェから殺る。それだけだ」
「…………そう。分かった」
 短い問答を終えると、少女は全身の力を抜き、静かに目を閉じた。そして、次の言葉を紡いだ。
「いいよ。殺しても」
「……はァ?」
 サバクが少女を見上げて首を傾げる。命乞いをする人間ならば山ほど見てきたが、この反応は初めてだった。
「何なんだァ、テメエ。死ぬのが怖くねェのか」
「……もちろん怖いけど。でも、抵抗しても無駄でしょ」
 無駄なことはしたくないの。目を瞑ったまま、少女が呟くように言葉を続ける。何の感情もこもっていない、冷たい声だった。

「――それに、生きることに意味や価値なんてないもの。ここで死ぬことになっても、別にどうでもいい」

「……ハッ、ヒャハハハハハ!」
 サバクが笑う。たった数秒で死ぬ覚悟を決められる不思議な少女を。あるいは、『自分と同じ』ように生に意義を見出せない可哀想な少女を見つけて。嗤う。
「面白ェガキだな、テメエ」
 少女から手を離し、サバクは顔の包帯をほどいた。凶暴な笑顔に歪めた美貌を向け、ヴァニタスが少女に告げる。
「テメエ、名前は?」
「……水華」
「気に入ったぜ、ミズカ。お前――俺と一緒に来い」
「え……?」
 少女、ミズカが何かを言い返そうとした、その刹那だった。
「見つけたぞ、ヴァニタス!」
「あァ?」
 声がした方向をサバクが振り向く。怒号と共に教会に踏み込んだのは、四人の若い男女――フリーランスの撃退士たちだった。
 武器を構えた撃退士たちが一斉に突撃してくるのを見て、サバクが歯を剥いて笑う。
「ハッ、まだ追手の連中がいやがったのか! 丁度良い、あいつらと殺る前にテメエらで肩慣らしさせて貰うぜ!」


●狂宴再開

 鮮血が飛び散る。
 サバクに抉られた腹から内臓をブチ撒けて、最後の一人が床に倒れた。
 一分も経たないうちに、撃退士四名は戦闘不能に陥っていた。
 血反吐を吐いて床に伏せる死体寸前の女撃退士の頭を踏みながら、サバクが欠伸を漏らす。
「弱ェな、テメエら。こんなんじゃ準備運動にもなりやしねェ……まァ、あいつらを釣る餌が見つかったんだ。それで上出来とすっか」
 おい、起きろ。サバクが女撃退士の頭を掴み、懐を弄る。取り出したSOS発信機と無線を、強引に顔に近づけた。
「死にたくなかったら、さっさと久遠ヶ原に増援を頼みな。そうすりゃ助けてやる。もっとも……あいつらをおびき寄せた時点でテメエらは用済みだ。その後はどうなるかわからねェがなァ! ヒャハハハ!」


 数分後。
 フリーランス撃退士からSOS信号を受け取った久遠ヶ原では、救出班の編成を急いでいた。
 ヴァニタス・サバクに捕まったフリーランサー四人は、いずれもすぐには回復しないであろう重体以上の危機的状況にあるという。すぐに向かわなければ、手遅れになる可能性が高い。
 緊急手配された生徒たちに向かって、若い教師が焦燥を滲ませた声で告げる。
「今回は人命救助が最優先だ。重傷者四名、何としてでも助け出してくれ。その上で、現場で可能だと判断すればサバクの撃退も頼む。簡単なことではないだろうが……」
 撃退士たちは頷き、最低限の作戦相談を済ませると、ディメンションサークルのもとへと急いで駆けていった。


●side:ミズカ

 教会の中には血の匂いが充満している。
 サバクと名乗った包帯まみれのヴァニタスと撃退士の人たちが戦うのを、私は黙って見ていた。戦いを止めることも、戦いの隙に逃げることもしなかった。
 サバクは私に、一緒について来い、と言った。それは私にとって救いの言葉だった。
 私は――


リプレイ本文

●開宴

 現場に到着した撃退士たちが駆ける。
 廃れた教会の中からは、サバク(jz0232)の禍々しい殺気が漂ってきていた。
「とにかく、凶悪なヴァニタスからフリーランスの方たちを救わなきゃ!」
「何としても、先行された方たちを助けて見せます……!」
 レグルス・グラウシード(ja8064)とRehni Nam(ja5283)が、ヴァニタスが待ち構える白亜の檻に近づき生命反応を探る。伏兵を警戒してのことだ。
 反応はなし。感知できる範囲内には、サバク以外の敵はいないようだ。あるいはこちらの探知を破るほどの強力な者が潜んでいる、という可能性もあるか。
 志堂 龍実(ja9408)も教会の横手へと近づき、サバクに気取られぬよう慎重に中の様子を窺う。割れた窓越しに、見慣れたサバクの姿が見えた。包帯男の周囲には、若い男女が汚い床に倒れ伏せている。
(アイツめ……今度は人質を取るだと……? どこまでも卑劣な……!)
 自由騎士たちは今にも息絶えそうな有様。龍実は無意識のうちに奥歯を噛み締めていた。
「この人数でヴァニタスを撃破までもっていくのは……なかなか難しそうですわね」
 クリスティーナ アップルトン(ja9941)が小声で呟く。重体者四名に対してこちらは八名。今回最優先すべき目的である人命救助に人手を割くことを考えると、必然的に四人から六人程度でサバクの相手をせざるを得ない。少ない戦力で奴の首を狙うのはリスキーといえるか。引き際を見極めるのも大切だ。
 撃退士たちが打ち合わせ通り所定の配置に就いていく。最後にマキナ(ja7016)が突入の合図を送り、撃退士たちは頷き合った。
「――いくぜ。作戦開始だ」


●極限下の攻防

 正面扉が勢いよく破られる。

 レグルスと共に、神喰 朔桜(ja2099)は正面から堂々と教会内へと踏み込んだ。独逸人の血を引く彼女の緋眼が、まるで戦いに歓喜するように黄金色に揺らめく。
 光纏した朔桜が無動作で闇の鎖を召喚。アビスの鎖を自在に動かし、不死を騙るヴァニタスへと魔法攻撃を放った。
 朔桜の魔術が、サバクの防御を貫通して炸裂する。
「あれ、まだ普通の攻撃だよ? 頑丈だって聞いてたけど、こんな程度なのかな。拍子抜けしちゃうなぁ」
 そう言って余裕の笑みを湛える魔術師に、サバクも哄笑で返した。
「ヒャハハハ! やっと殺し甲斐のある奴らが来たじゃねェか! 俺はテメエみたいな奴を待ってたんだよォ!」
 サバクが朔桜に飛びかかろうとした直後、遠方から弾丸が飛来。
 被弾の衝撃でヴァニタスの突撃が止まる。サバクは目を凝らして教会の外、薄暗い雑木林の奥に視線を向けた。

「――あはァ♪ サバクちゃん、遊びましょうォ……♪」

 スナイパーの正体は黒百合(ja0422)。教会から離れた森林の中に潜み、草木を体中に取り付けることでカモフラージュしていた。
 そんな黒百合の姿を認めて、サバクが口の端を吊り上げる。
「あの時の鎌女か。テメエも来てやがったとはなァ!」
 サバクの意識が扉外の黒百合に向けられる。その一瞬を見計らったように、サバクの頭上でステンドガラスが盛大に音を立てて割れた。
 衝撃音にサバクが振り返る。
「っ、テメエは――」
 振り向いたヴァニタスが、突撃してきた宗方 露姫(jb3641)を見上げる。
 露姫は背に二対の翼を生やし、両腕でレフニーをお姫様のように抱いていた。
「――サバクよぉ、お目覚め早々で悪いが痛い目見て貰うぜ?」
 露姫は不敵な笑みを浮かべると、胸の中のレフニーをサバクめがけて思いきり放り投げた。投げ込まれたレフニーはサバクの手前に着地し、そのまま魔法陣を展開した。
 サバクが何か反応するよりも早く、別の窓側からも侵入者が突撃していく。

「『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』華麗に参上! ですわ!」
 名乗りを上げて派手に登場したクリスティーナが光輝の流星群を、続いて天翔弓を構えたマキナが弓なりに矢を飛ばし、サバクに連続攻撃で浴びせた。サバクが僅かに怯んだ隙を突いて、脚部にアウルを集中させた龍実が突入。疾風の速度で重体者たちに駆け寄る。
 一斉突撃。奇襲に次ぐ奇襲。タイミングも良かったが、
「チッ……雑魚の分際で邪魔臭ェんだよ!」
 苛立つように不死王が吼える。ヴァニタスの周囲に赤黒いアウルが渦を巻いて出現し、帯状の刃を無数に形成していった。
 血啜りの紅刃。
 サバクが動けない重体者ごと撃退士たちを切り刻もうとして――しかし血色の刃は、霧散するようにして消失した。
 異能封じ。先ほどレフニーが発動した封魔の術が、成功していたのだ。
「ウゼェ真似しやがって……! なら、一匹ずつ潰してやンよォ!」
 ヴァニタスが勢いよく前に跳び、一瞬で朔桜の懐に飛び込む。
「まずはムカつくテメエからだ、鎖女ァ!」
 包帯を纏った貫き手が繰り出され、朔桜の脇腹が抉られた。魔術師の全身を気絶しそうな激痛が襲う。だが、奇蹟の模倣者は余裕の表情を崩さない。
「……いいね。君のその強さが、愛おしいよ」
 天真爛漫な彼女が全てに示す愛とは即ち『破壊』。恋が焦がれる物ならば、愛とは焼き尽くす物。争い合える『敵』こそが愛おしい。

 ――愛している。だから容易く壊れないで。そして、壊れ果てるまで愛させて。

 呪文を唱えるでもなく、朔桜が黒焔の縛鎖を召喚する。拘束の魔術で締め上げ、不死王の動きを止めた隙に後退。敵の間合いから離れ、距離を取る。
 朔桜の秘術に身動きを封じされ、サバクは追えない。
 好機。
 クリスティーナが阻霊符を起動しつつ、サバクへと迫る。透過能力を無効化した上で、フラッシュエッジにエネルギーを収束。一気に刃を振り抜いた。
「星屑となって散りなさい! スターダスト・イリュージョン!!」
 幻想的な光が散って、包帯男の身に炸裂。サバクの強固な防御を突き破って、血飛沫を上げさせることに成功する。

「糞ったれが……舐めてんじゃねェぞォ!」
 思うように動けない苛々を発憤するように、サバクが全身の包帯を解いて振り乱した。アウルを纏い武器と化した包帯の渦が、そばにいた銀髪の少女へと襲い掛かる。レフニーは光翼を具現化させた五芒星の盾を掲げ、ヴァニタスの猛攻を辛うじて受け止めた。
 苛烈な攻防が繰り広げられる中、救助役の龍実は重体の男女二人を背負うと、そのまま近くの窓から飛び出した。流石に二人抱えていると動き難いが、出来る限りの最大速度で戦場を離脱していく。
 同時に、サバクに施された束縛と封印が解けた。
 要救助者はまだ二名残っている。彼らを救う時間を、あと少しだけ稼ぐ必要があった。
 飛翔する露姫が、サバクに色鮮やかな火の雨を降らせる。爆炎の花を撒き散らして、龍族の少女は声を張り上げた。
「ほらほら、掛かって来なぁ! たっぷりイイ思いさせて殺してやっからよ!」
 広範囲攻撃で全てを一掃しようとしていたサバクが頭上を見上げる。不死王の顔には笑み。
「面白ェ……上等だ龍女ァ!」
 講壇を踏み台にしてサバクが大きく跳躍。上空の露姫へと詰め寄り、出鱈目に帯刃を伸ばす。普通ならまず当たらないだろうが、予期せぬ攻撃だったこともあり今回は命中。露姫は地上に墜ちそうになったが、気力で持ち直す。
「ったく、ふざけた攻撃しやがって……! いきなり跳んできてんじゃねえよ!」
 予想外の反撃は痛かったが、何はともあれ奴の気を惹くことには成功した。
 その間に、マキナが残る二人の若いフリーランサーを担ぐ。サバクとは因縁があり、出来ればこの手で叩き斬ってやりたかったが、強い意志で以って自制した。
「今回は救助優先でな。闘いは次回楽しみにしてるぜ、サバク」
 そう言い捨て、速力を上昇させたマキナが廃教会を後にした。目的を見誤ることはしない。
 直後、離脱するマキナと入れ替わるようにして、雑木林から飛び出した黒百合が教会の入り口まで接近。
 サバクを外に燻り出すべく、黒百合がつとめて丁寧な言葉遣いで誘惑する。
「メインディッシュの後はデザートでも如何かしらァ……♪ ほらァ、こっちに来なさいィ……男性なら乙女の誘いは素直に受けるものよォ♪」
「……ハッ、まァいい。そんじゃあ、斧野郎の分までしっかり愉しませて貰おうじゃねェかァ!」

 挑発に乗ったサバクが黒百合に興味を移し、屋外へと向かう。
 それに合わせ、撃退士たちも教会の外へと駆けていく。
 朔桜も外に出ようとして――ふと物音に気づいた。
 そちらに視線を向けると、廃材に身を隠すセーラー服を着た少女の姿があった。緊迫した戦闘中にはその存在に気づかなかったが、無害な雰囲気からすると人間のようだ。
 少女は整った容貌をしているが顔には怪我の痕がある。何か事情があって、この場に居合わせたのまもしれなかった。
 だが、だとしても――どうでもいい。
 他人と相容れない考え方なのは理解しているけれど、本音を言えば朔桜はそこまで他人の生死に興味はなかった。救う気も救う力もない。『生きる』ことと『生きている』ことは違う、と朔桜は思う。
「…………」
 少女を『見なかった』ことにして、朔桜がサバクのほうへと向かっていく。
 朔桜は教会から出つつ、黒焔を纏った五本の雷槍を束ね、ヴァニタスの背へと投擲した。
 轟音が迸る。


 その頃、龍実は教会から離れた雑木林の奥まで重体者を運んでいた。龍実の傍らでは、合流したレグルスが重体者の回復を試みていた。
 腹部に大穴の開いた若い女性撃退士に、レグルスが二度目のライトヒールを施す。
(たとえ無駄かもしれなくても……少しでも延命措置を……! そうじゃなきゃ、何のためにここに来たのかわからないッ!)
 レグルスは諦めない。懸命に、再度ライトヒールを発動する。
「自分は皆の加勢に向かう。こちらは任せた……必ず、救ってやってくれ」
 そう言って龍実は縮地を掛け直して、再び戦場へと引き返していった。


 戻ってきた龍実が最初に見たのは、黒焔の槍に貫かれるサバクの姿だった。
 灼熱の毒槍に犯され、焼かれ、サバクの長身を覆う包帯はぼろぼろになっていた。
 けれど、不死王は未だ倒れる気配はない。
「ヒャハハハハ! 良いぞ、もっとだ! もっと俺様を愉しませろォ!」
 魂を燃やすような叫びをあげて、サバクが腕を振るう。朔桜を殺すべく向けられた魔手は、飛び込できた龍実の双剣によって弾かれた。

「サバク、オマエは……何故、人を傷付ける? ――こんなにも簡単にッ!」
 怒りに震える声で、龍実が干将と莫耶の双刃を振り乱す。
 両腕で双剣を往なしながら、ヴァニタスが答える。
「どいつもこいつも下らねえことばっか訊きやがるぜ! 愉しいからヤッてんだよ! クソつまらねェ人間どもを殺すのに、イチイチ理由なんてあるわけねェだろうがァ!」
「……なら、やはりお前を許す訳にはいかんな! 自分は……人を護る力を手に入れるために、撃退士になったんだ!」
 サバクと龍実が斬り結ぶ中、レフニーが龍実の背後から審判の鎖を撃つ。が、サバクは飛び退いて聖なる鎖を回避。
「貰いましたわ!」
 クリスティーナが横合いからサバクの懐に飛び込み、閃光の刃を振り抜く。しかし、上体を捻るようにして惜しくもかわされる。
「へっ、俺が飛んでるのを忘れてんじゃねーぞ!」
 天高くを舞う露姫がアブラメリンの書を開き、最大射程から深紅の槍を放つ。ぎりぎりの所で、サバクはまたも攻撃を避けた、ように見えた。
 だが、槍撃をかわす際に体勢が崩れた隙を、黒百合は見逃さなかった。
 好機を窺っていた黒百合がデビルブリンガーを召喚し、一気に跳躍。巨大な大鎌を携えているとは思えぬ素早さで、不死王の死角へと這入り込んだ。
 捉えた。
「あなたの首ィ……消してあげるわァ♪」
 組み合うような至近距離で、黒百合が口を開く。黒百合の口腔内に圧縮された高密度の砲撃が解き放たれ、包帯に覆われたサバクの頭部に着弾。盛大に炸裂する。
 黒百合の切り札・破軍砲。朔桜の毒槍による影響もあり、ダメージ量は本日最多だった。
 だが、サバクは即座に血啜りの紅刃で反撃、回復。ずたずたになった顔が修復し、サバクの凶悪な笑みが浮かび上がった。


 マキナはレグルスと合流した後、二人の重体者を担いでサバクから離れていた。
 レグルスも救助対象を抱えて戦線を離脱していく。戦場から避難しつつ、回復を施し続けている女性に最後のライトヒールを使用した。
「僕の力よ……深き傷を癒す、光になれッ!」
 アウルの光に包まれた女性の口から、微かな声が漏れる。レグルスの祈りが届いたのか、ついに意識を取り戻したのだ。
 と、それまで全力で駆けていたマキナも、ようやくそこで安堵の息を吐いた。
「これだけ離れれば、流石のサバクも追ってこれないだろ。あとはタクシーでも拾って、近くの病院まで搬送してもらえばいい」
 やっと緊張を解いて、マキナが確信の言葉を呟く。
「依頼は、成功だ」


 衝撃音が連呼する。
「あはァ……相変わらず硬いわねェ……♪」
 黒百合は瞬速の突きを放つと共に、サバクから大きく距離を取った。
 再度、露姫が援護の魔法槍撃を飛ばす。露姫の支援を受けて、気絶から復帰したレフニーが審判の鎖を射出し、ヴァニタスに命中させた。
 聖なる鎖でサバクを縛ったレフニーが、後方に下がりつつ告げる。
「マキナさんから連絡です。あちらは無事に離脱できたようなのです。こちらはどうしますか?」
「ん……そうか」
 サバクと距離を取りつつ、龍実は思考を働かせる。
 こちらは全員が気絶寸前の重傷だが、サバクもレフニーのおかげで数秒は動けない状態。恐らく生命力だって、半減させる程度には追い込んでいるはず。
 退くべきか、続けるべきか。
「……自分たちも、撤退しよう」
 葛藤の末、龍実は撤退を進言した。他の仲間たちも同意見だった。逃げるなら、サバクが動けない今がチャンスだ、とも。
「悔しいですけれど……仕方ありませんわね」
 クリスティーナが唇を噛む。この状況で何の策もなしに勝てるほどヴァニタスは甘くないということを、彼女はよく知っていた。
 撃退士を嘲笑うように、麻痺したままサバクが言う。
「オイ、双剣野郎。テメエ、俺が許せねえとかほざいてたなァ。だったら殺してみろよ。ここで俺様を逃がしたら、何人も何十人も、死ぬ羽目になるかもしれねェんだぜ?」

「……オマエはいずれ、自分が仕留めてみせるさ。オマエが誰かを傷つけるというなら、自分が絶対に護る。二度と、誰も傷つけさせはしない」
 そう言って、龍実はサバクに背を向けた。他の撃退士も不承不承引き下がっていく。今は本格的に争う場面ではないと、頭では理解していながら。
 去り際、露姫はサバクを振り返って、薄い胸を張った。
「いいか、サバク。テメーを倒すのはこの俺、宗方露姫だ! 首洗って待ってろよこのヤロー!」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
 BlueFire・マキナ(ja7016)
 遥かな高みを目指す者・志堂 龍実(ja9408)
重体: −
面白かった!:8人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
愛すべからざる光・
神喰 朔桜(ja2099)

卒業 女 ダアト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
遥かな高みを目指す者・
志堂 龍実(ja9408)

卒業 男 ディバインナイト
華麗に参上!・
クリスティーナ アップルトン(ja9941)

卒業 女 ルインズブレイド
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー