●DEATH‐BATTLE START
君田 夢野(
ja0561)は、思う。
撃退士の力は、天魔には遠く及ばない、と。
人を超えた存在である撃退士は、けれど、無敵でも最強でもない。
異界の戦士たちとは、比べ物にならないほどに――弱い。
少将アラドメネクによって、どうしようもなく突きつけられた、どうしようもないほど純然な事実。
人はそれを、絶望と呼ぶのかもしれない。
「――それでも、俺達は覆す為に戦う。『護りたいモノを護る』という過ぎた大望を、最後まで徹する為に」
己の非力さを理解してなお、夢の守り人は剣を取る。その背中に、数多の護るべきモノを背負って。
露払い班は、見事にアラドメネクとディアボロの分断に成功した。
だが、目の前のディアボロは全部で五十体。二、三体でも通せば、この先で戦う聖槍強襲班の苦戦は必至。
露払い班が全滅すれば、多数のディアボロが本班のもとに雪崩れ込む。そうなれば、聖槍を使った者たちは殺され、聖槍を喪うことにもなるだろう。いや、油断すれば、自分たちも死にかねない。
それほどの強さを、敵は持っている。
責任は重大。難易度は極限。凄まじいプレッシャーが、撃退士を襲っているはずだった。
「数に劣り、力で負け、状況は不利――つまり」
赤坂白秋(
ja7030)が、口の端を歪める。
「最高の戦場って事だ」
最悪の渦中にありながら、それでも猛銃は不敵に笑った。
獰猛にして聡慧なる狼の瞳には、練りこまれた作戦に裏打ちされた自信が漲っている。
「……ま、なんとかしちゃいましょうか♪」
雀原 麦子(
ja1553) が、平時の軽やかさで強弓を構える。この極限状態でも、彼女の柔和な表情が崩れることは無い。
勝算はある。撃退士は、足止めに特化した戦術を組み立てていた。
そして、圧倒的不利を覆す秘策も、すでに用意してある。
瓦礫に埋もれた狭い道路を活かし、撃退士は四列横隊を展開した。
横に並び、ディアボロの通り道を潰す。
まずはそれが、堅実な勝利への第一歩。
「さて……そっちとこっち、どっちが速く事を成せるかのゲームをしましょう」
ディアボロの軍勢にそう言い放ち、珠真 緑(
ja2428)が軽く舌舐めずりをした。
緑に応じるように指揮官が杖を掲げ、兵士たちが一斉に突撃していく。
かくして、戦いの火蓋は切られた。
命と槍を賭けた死の戦争が、始まる。
●DEAD‐LINE YELLOW
「行かせないっ……!」
先制した陽波 透次(
ja0280)が、影縛の術を発動。
強化グールの影を縫い止めることで、その突撃を手前で強制終了させた。
瓦礫に埋もれた狭い道路では、最前列の一体が止まるだけで後続の動きが鈍る。
出だしで動きを封じられたのは大きい。
だが、敵は強化グールだけではない。
強化スケルトンが透次の前に出る。骸骨の兵士は、長大な槍を構えていた。
ディアボロが槍を突くよりも先に、透次が跳躍。
敵の頭上まで飛翔し、少年忍者はそのまま急速落下。流星の如き一撃を、剥き出しの頭蓋骨に叩き込んだ。
頭蓋の砕けた兵士がふらふらと踊る。
兜割りで無力化した強化スケルトンを、透次は後回しにすることを選択。押し寄せてくるディアボロたちに標的を変え、そちらの動きを封じていく。
「いいですか? 絶対しのぎ切りましょう〜!」
森浦 萌々佳(
ja0835)が堅実防御を発動。仲間たちに防御の最適解を伝える。
「ふむ。別に、全部倒してしまっても構わんのだろう?」
闘気を解放させた郷田 英雄(
ja0378)が獰猛な笑みを浮かべ、襲い掛かる強化スケルトンを迎え撃つ。
振り抜かれた骸骨兵の大剣を、英雄が召喚・展開した武器で弾いた。
それは、長大な戦槌。鬼神の拳ほどある巨大な槌頭に死神の大鎌が附属した、超重量魔具だった。
高い破壊力を誇るそれを、英雄は隙無く操る。
「はッ、纏めてお陀仏。成仏しろやァ!」
隻眼の修羅がクラッシュハンマーを振り降ろし、強化スケルトンが盾を掲げて防御――し切れず、盾ごと骨の体を砕かれる。
堕天使の氷野宮 終夜(
jb4748)が、ふらつく骸骨兵士に追撃のフォースを発動。
大切な人を護る為に得た彼女の力は、対冥魔戦において絶大な効果を発揮する。
終夜が白銀の聖槍メタトロニオスを振るう。放たれた聖なる光の波は、負傷した冥魔の眷属を確実に討ち取った。
天界寄りの力に脅威を感じたのか、ブラッドロードが終夜への集中攻撃を指示。指揮官に服従する兵士たちが、刃に蓄積した邪悪なエネルギーをすべて堕天使へと撃ち込んでいく、はずだった。
終夜への必殺の攻撃を、庇護の翼を発動した機嶋 結(
ja0725)が完璧に受け止める。カオスレートを中和した結には、どれも致命傷には届かない。
ならば、と強化スケルトンが更に強力なエネルギーを収束。撃退士たちを纏めて消し飛ばす攻撃を撃とうとしたところで、
「……させません」
イニシアチブを握った結が、フォースを発射。大技を使う間も与えず、光の波を浴びせて骸骨の腕を消し飛ばした。さらにもう片方の腕、それぞれの脚を容赦なく撃ち消す。
怨嗟に狂う亡霊の光を纏い、復讐の少女が獄炎の矢を放っていく。
結の淀んだ瞳には、冥魔への殺意と憎悪が渦巻いていた。
「ここは通しません……絶対に!」
決意と共に、久遠寺 渚(
jb0685)が四陣結界を起動した。四方を司る霊獣たちの力を借り受け、味方の防御力を強化する結界を展開していく。
大剣が振り下ろされる。
パンプアップした久永・廻夢(
jb4114)が、突撃してきたブラッドウォリアーの魔法剣を、ミラージュシールドで受け切る。
アウルの極性を零に規定した廻夢の、盾役としての性能は高い。
嵐のように襲い掛かる大剣を、廻夢が防壁陣を発動して凌ぐ、その隙に。
高虎 寧(
ja0416)が、援護の十字手裏剣を投擲。
眠り虎の飛ばした刃が蛸頭に突き刺さり、ブラッドウォリアーがわずかにひるんだ。
その一瞬を見逃さず、渚が八卦石縛風を発動。
石火の邪風に包まれ、魔法戦士が灰色の石像と化していく。
固まったブラッドウォリアーを廻夢がセイクリッドスピアで貫き、粉々に粉砕。
すぐさま第二陣のブラッドウォリアーが突撃する。結界を張る渚に斬りかかるが、楯清十郎(
ja2990)が庇護の翼で対応。
「ここの通行料は安くないですよ」
清十郎が飛龍翔扇を飛ばし、蛸頭を迎撃していく。
●DEAD‐LINE RED
(地形が有利に働くとはいえ、攻撃に傾いて息切れしたところを突破されないように、気を付けないと……)
天宮 佳槻(
jb1989)が、八卦陣を展開。
前線に立つ袋井 雅人(
jb1469)の魔法防御を少しでも上げようと、加護の陣を付加していく。
突進したブラッドウォリアーの大剣が突き出され、雅人の腹部を抉る。
強烈な攻撃だったが、加護の影響か、致命傷とはいえない。
雅人は気力のままに白虎八角棍を振り回し、反撃の打突を浴びせた。
「私は我慢強さに自信があります! ここは限界までこらえてみますよ」
力尽きるまで戦う。
雅人の覚悟の第二打が、ブラッドウォリアーに放たれる。
魂を乗せた一撃が魔法戦士の肩を砕いたが、蛸頭の殺意は消えない。
ブラッドウォリアーは強烈な破壊力を持つ大剣を片手で掲げ、両断の刃を振り下ろした。
必殺の魔剣に身を裂かれ、死力を尽くした雅人が倒れる。
ブラッドウォリアーによる無慈悲な追撃が来る、その前に、シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)が即座にフォローに回った。
咄嗟に魔法の障壁を作り上げ、魔法剣を受け切る。
「今のうちにお早く! 敵の攻撃はわたくしが食い止めます!」
マジックシールドで猛攻を耐えるシェリアの頑張りに、味方も応えた。
大剣を振りかざしたブラッドウォリアーの体から、鮮血が飛び散る。そして、輪切りになった無数の肉片が地面に落ちた。
不可視の攻撃の正体は、フィン・ファルスト(
jb2205)のゼルク。
武器を片刃の双剣に持ち替え、退魔士の少女が前衛を交代していく。
その手に握り締める刃『禍断ち』は、護りたい者を襲う災禍を断ち切るために在る。
「アラドメネクの所には行かせない……通るっていうなら、たたっ斬る!」
撃退士の意志を嘲笑うかのように、耳障りな金切り声が響く。
人語とは言えないそれは、土気色の肌をした女から発せられていた。
女の半身は、大蜘蛛の脚を生やしている。
半人半蜘蛛のディアボロ・アラクネーが、裂けそうになるほど口を開いた。口腔内に、煙のような魔力が収束し、放射される。
アラクネーの吐き出した呪いのブレスが広がり、撃退士たちが眠りに堕ちていく。
続いて二体目のアラクネーが石化のブレスを放とうとしたところで、睡魔に耐えた緑がマジックスクリューを発動した。
烈風の渦を避けようとしたアラクネーの死角から、赤い影。
瓦礫に潜んでいたアスハ・ロットハール(
ja8432)が、ディアボロの側面に飛び出す。
「……貫く!」
奇襲のためにアスハが装備したのは、一撃必殺のグラビティゼロ。
轟音と共に鋼鉄の杭が全弾発射される。
不意を突かれたアラクネーは、避けきれない。
串刺しにされたディアボロに、緑のマジックスクリューが炸裂。竜巻に貫かれ、アラクネーの肉体は分解された。
ほかのアラクネーたちが次々とブレスを放つ。避け切れなかった者や、耐性の低い者たちの動きが止まってしまう。
撃退士の予想通り、アラクネーは早期に潰す必要があった。
「今回は悪いけど本気っす!」
天羽 伊都(
jb2199)が封砲を発射。闇の翼で空を飛ぶオーデン・ソル・キャドー(
jb2706)も、上空から封砲を放つ。
二条の黒い光が、数体のアラクネーをまとめて消し飛ばしていく。
●MIX FRUITS PUDDING
黒井 明斗(
jb0525)が、広範囲の敵に無数の彗星を落とす。
多くの敵の動きを阻害できたが、コメットはこれで打ち止めだ。
ブラッドロードたちが即座に範囲回復魔法を発動。血染めの治癒魔術により、強化スケルトンもブラッドウォリアーも全快する。
コメットを使い果たした明斗が後列に下がる。対魔軍でありながら前線に立っていたせいか、すでに満身創痍だった。
「スイッチ、次は俺が前に出る!」
夢野が明斗と入れ替わって前衛に参加。突撃してきた強化スケルトンの斧槍を、『無音の盾』で凌ぎ切る。
骸骨兵士が夢野を乱打するが、それらは全て直前で静止した。ディアボロの攻撃は、灰色がかった盾の空間に鈍い波紋を起こすだけだった。
その隙に明斗がクリアランスを発動。アラクネーに縛られた仲間たちを解呪し、戦線を正常化していく。
状態異常から復帰したカイン 大澤 (
ja8514)が、ブラッディクレイモアを召喚。
「――ミスの責任だけは果たさないと」
緋色の大剣で、カインが強化スケルトンを迎撃する。
放たれた骸骨の刃を避けきれず、頬に裂傷が走った。
けれど、狂犬は無視。身長よりも長大な大剣を振りかぶり、全体重を乗せたカウンターを叩き込む。
強化スケルトンが衝撃で弾け飛ぶが、後続のディアボロがすぐに補填される。
魔軍の勢いを絶つべく、鑑夜 翠月(
jb0681)がファイアワークスを発射。夜空に咲く大輪の花火の如く、色とりどりの爆炎を撒き散らす。
「何としても、ここでディアボロを足止めしましょうね」
息つく間もない激戦に疲弊の色を浮かべながらも、少女のような笑みを浮かべて翠月が仲間を鼓舞する。
「ああ、絶対にここから先へは行かせない!」
透き通るような青い光を身に纏い、日下部 司(
jb5638)が強化グールの毒爪をシールドで防御する。
毒と腐敗に侵され、司の生命力は大きく削られていた。
反面、強化グールは自己再生能力で何度でも立ち上がってる。終わりが見えなかった。
だが、司の攻撃は確実に、強化グールの肉体にダメージとして蓄積されている。
前衛としての自分の役割は果たした、と冷静に見極めた司が後列に下がっていく。
その判断は正しい。
独りで出来ることには、必ず限界がある。司ひとりでは倒せない敵がいるように。
けれど、司は一人の力を嘆きなどしない。
司には、信頼できる仲間がいるのだ。
とても頼りになる、仲間が。
「――司ちゃん、お疲れ〜。後はお姉さんに任せて♪」
麦子が、司と入れ替わって前衛に立つ。
同時に、麦子は強弓を頭上に向け、アウルの矢を放った。
強化グールの頭上には、崩れかけの高架。
強烈な弓撃が炸裂し、轟音が響き渡る。
麦子の一撃で完全に崩落した高架が、ディアボロたちのもとに瓦礫となって降り注ぐ。
増加した瓦礫により、フィールドがさらに狭くなる。
これで、相手の動きは大きく制限できた。自軍は防衛線を張って突出することもないため、悪影響は薄い。
「さ〜て、厄介なのから退場していってもらいましょ♪」
麦子の強弓に頭を射抜かれ、ブラッドロードが沈む。
瓦礫から這い出た強化グールが麦子を襲う。
酒豪の女修羅は軽やかなに毒爪をかわし、司のお返しを見舞うように、大山祇で薙ぎ払った。
意識を刈り取られた亡者に、後衛に移った司が光のリングを発射。
強化グールの五体を、五つの白球が貫く。
戦いはまだ、中盤戦。
この時点で十数体ほどのディアボロを撃破できていたが、撃退士の負傷も激しい。
序盤に前列だった者たちが、続々と後列と入れ替わっていく。
そして、スイッチの際にどうしても生じる隙を、ブラッドロードが見逃すはずもなく。
ここぞとばかりに、ディアボロたちが突撃する。
黒い靄が、強化グールを覆った。
目隠しを放ったのは、高虎寧。
寧は中盤以降の消耗を見越して、スキルを温存していたのだ。
さらに敵の影を縫い止め、動きを封じる。
須磨 各務(
jb4571)が銃撃し、ディアボロの進撃を阻止する。
佳槻もスイッチの支援を行うべく、闘神武舞を発動。
自分の火力の低さを認めた上で、味方の策にどう組み込まれていけば有効に働くかを、彼はよく考えていた。
招来した戦神の剣を乱舞させ、攻め込もうとしたディアボロたちを斬り刻んでいく。
絶好の勝機を逃した魔軍を、スイッチを終えた撃退士が迎え撃つ。
結は、透次に代わって前に出ていた。
銀の盾で強化グールの攻撃を完全に無力化し、レーヴァテインで反撃を叩き込む。
ふらつくゾンビの手足がもげる。後方から透次が狙撃し、再生される前に強化グールを削っていく。
ブラッドロードがブラッディヒール――範囲回復魔法を発動。強化グールや強化スケルトンなど味方のみを癒し、突撃指示を繰り出した。
強化スケルトン版の封砲が轟と撃ち込まれる。
だが、萌々佳はニュートラライズでカオスレートを中和し、封砲を防御した。
どんな状況でも、決して心は折れず。
「絶対に、あきらめません〜!!」
廻夢と交代した伊都が滅光を発動。
振り下ろされた純白の大剣が、マジックウォリアーの体を藁でも裂くように両断する。
カオスレートを変動した隙を突き、ブラッドロードが次のブラッドウォリアーを伊都に送り込む。
伊都に突撃した魔法戦士を、アスハが横合いから強襲。グラビティゼロで蛸頭をブチ抜いた。
脳漿を撒き散らし、ブラッドウォリアーが倒れる。
ならば、とブラッドロードが範囲攻撃魔法を炸裂させようとして――
遠距離から飛来した銀の弾丸が命中。
ロングレンジショットで射程を強化した白秋が、ドラグニールで指揮官の胸を貫いてみせた。
ブラッドロードが地面に沈む。
頃合いは充分。
ここで、一気に勝負をかける。
撃退士たちは、視線だけで通じ合った。
白秋が、この作戦の為だけに用意した無数のフラッシュライトを取り出す。
広範囲を照らすライトを、敵の視界を奪う目晦ましに使う――のではなく、白秋は、敵陣に向かって投擲した。
アラクネーたちの足下に、フラッシュライトのひとつが落下する。
投げ込まれたライトは、いわば目印。
眩い光が放たれる地点に、十人の撃退士が一斉に武器を向けた。
白秋が、叫ぶ。
「――――撃て!」
合図と共に、轟音や爆光が炸裂する。
放たれたのは、五重の範囲攻撃と、同じく五重の支援攻撃だった。
十人もの撃退士による、超高密度の一斉砲火が、ディアボロたちを襲う。
渚の炸裂陣、緑のアークスピア、翠月のクロスグラビティをはじめとする脅威の十連続攻撃が、弾幕となって殺到。
圧倒的な集中攻撃を浴びた無数のディアボロは、当然のように消え去った。あとには微かな肉片しか残っていない。
ディアボロたちが浮き足立つ。
ブラッドロードが対抗策を練るよりも早く、撃退士は第二射の用意に取り掛かった。
「観測手は慣れてないんだけど、やる」
ばらばらに動き出したディアボロの挙動を、カインが捕捉。より多くの敵が集まっているポイントを、白秋に指示する。
白秋がフラッシュライトを目標地点に投げ込むと同時に、再び叫んだ。
「撃てッ!」
二度目の掃射も、うまく決まった。
矢弾や魔法の嵐が、アラクネー、ブラッドウォリアーを殲滅していく。
これが撃退士たちの秘策。MFP――いわゆるミックス・フルーツ・プディングを、この戦場用にアレンジしたものだった。
逃げ場の無い狭所における集中砲火。
その制圧力は、高い。
「甘いプディングに加えて、優雅な一曲はいかがかなッ!」
夢野が追撃に放ったのティロ・カンタビレが、死の旋律を奏でる。
凝縮した音の爆裂は、さながらディアボロへの鎮魂歌の如く、荒れ狂う歌声となって響き渡った。
同時にブラッドロードがMFPへの対処法を確立。再び効率的にディアボロを動かしていく。
強化スケルトンが、合図を出す白秋に突撃しようとした。
警戒手のアスハが立ちはだかる。
「この後ろの、命賭けの仲間の為にも……通さん!」
黒い羽根を纏った赤髪の魔術師が、悪意穿槍を発動。
腕の前に展開させた魔法陣をバンカーで通過することで、アウルを槍状に再練成した。
強化スケルトンが突き出した大剣を、アスハが槍で貫くようにして受け止める。
その隙に、白秋が三度目の砲撃合図を出す。
「『放て』!」
白秋の声に、ブラッドロードが超反応で応じた。目印であるフラッシュライトの周囲に砲撃が来ると予測し、ディアボロを退避させる。
その判断は間違ってはいない。
しかし、撃退士はその先まで読んでいる。
――第三射は、『マーカーとは正反対の方向』に撃ち込まれた。
ディアボロが、ブラッドロードが、予期しない方向へ。
シェリアのファイヤーブレイクを筆頭とする集中攻撃が、強化グール、強化スケルトンを焼き払う。
戦列のみならず、砲撃の合図までスイッチしていることは、ブラッドロードには看破できなかった。
短時間でここまで深く作戦を練りこんだ、撃退士の勝利だった。
続く四射目も成功し、大勢が決した。
残るディアボロは、十体程度。
楽に倒せる数ではないが――巧みな連携を行う彼らの敵ではない。
●DEAD‐END BREAKER
最後の一体が倒れたのと同時に、撃退士たちもその場に膝をついた。
満身創痍、という言葉がこれほど当てはまる状況はそうもあるまい。
こんな状態では、本班の増援に向かうことはできない。今の彼らが行っても、ただ殺されるだけか、足手まといになるだけだ。
それでも、彼らは充分に役割を果たした。
――最終的に、露払い班は、圧倒的な速さでディアボロを殲滅させていた。
普通に戦っていれば、まず負けていたであろう強力な相手だったにも関わらず。
状況を最大限に利用できたから? あるいは、作戦が優れたものだったから?
いずれにせよ、撃退士がアラドメネクの魔軍に勝利したという功績に変わりはない。
これで、聖槍強襲班のリスクは大きく軽減された、といっていい。
彼らは、不可能を可能として見せたのだ。
撃退士は、無敵でも最強でもない。
敵もまた、そうであるように。
少将アラドメネクは別格の化物ではあるが、決して無敵の絶対者ではない。
きっと奴にも、聖槍は届く。
本班の皆ならば、きっと。
撃退士たちが、聖槍強襲班とアラドメネクが交戦しているであろう方向を振り向く。
仲間の勝利と無事を祈って、彼らは視線を送り続けた。