●学園の校門近く
学園内へと忍び込むために、一同は校門近くの塀の前へ集合していた。
やや鋭い目をした久井忠志(
ja9301)は、
「夜の学園に忍び込むというのは気が引けるが、調査のためだ」
気が進まない様子も見せながらも、しっかりとカメラを手に持ち真剣な表情である。
金髪金目のニオ・ハスラー(
ja9093)と、カメラを手にしたcicero・catfield(
ja6953)は、
「謎!いい響きっす!皆で力を合わせて謎を解くっす」
「面白いじゃないか。噂の真相、突き止めてみせる!」
と大変乗り気の様子である。
正義感の強い天道郁代(
ja1198)はというと、
「幽霊なのか天魔なのか、ふしぎですわ!」
彼女も興味津々の様子で、事の解決を図ろうとしていた。
一方メンバーの中で最年少の雫(
ja1894)は、幽霊の存在を否定する事を目的に参加したものの、
「‥‥幽霊に対してV兵器って有効なのでしょうか?」
などと考えていた。
黒髪に青味がかった瞳の桐原 雅(
ja1822)は思案深げに
「……もしかして動物でも入り込んだのかな? ボールみたいって言うと……」
と呟いている。
パオ(中華服)を着ている九十九(
ja1149)が、やや苦笑気味に
「ん……案外、球技大会の為に、太珀先生が1人でバスケとかの練習してたりしてねぇ?」
と話すと、ありえなくはないと、何人かが思わず頷いている。
その内に、cicero(シセロ)が九十九(つくも)の連れている猫のライム(♀)に気づいて、ニコニコと話しかけてきた。
「キミ、よい毛並みだね〜。今度良かったら一緒にお茶(ミルク)でも飲まない?」
「ライムはうちの家族なのさぁね。勝手に口説かないでほしいのねぇ」
「にゃ、にぁ〜。にゃにゃにゃ、にゃ〜!」
九十九が言うとライムも何か訴えるかのように鳴いている。
反対側では、白騎 双刃(
ja9538)が
「私のご主人になる気はないかい?」
と熱心に雅(みやび)に話しかけ始めた。
そんなこんなで、一同はこっそりと(?)学園内へと忍び込んでいくのだった。
●学園内
今夜は満月。窓から差し込む月明かりが壁や床をほんのり明るく照らしている。
とはいえ、普段大勢の学生で賑わっているいつもとは違って、学園はしんと静まり返っていた。
事前に、人数を分けて調査することを決めていたので、体育館へ向かうのは、九十九、雅、忠志、双刃の4人である。
中庭組は、郁代、雫、cicero、ニオの4人だが、彼らは見回りの教師が宿直室にいるかどうか確認してから中庭へと向かうことにした。
●体育館内
音をなるべく立てないようにしてそっと体育館へと侵入する。
体育館内は、窓から月明かりが差し込んでいるものの、光が当たらない陰になっている場所もあった。
かなり広めの室内に、手前側にバスケットボールのゴール、両側のやや高いところに通路があった。事前の雅(みやび)の提案によって、4人は下から上の方へと不審なものがないか調べていくことにした。
雅はナイトビジョンを装着して、主に陰になっている場所へ向かいボールのようなものが隠れていないかを調べていた。
(「床には不審なものはない……かな」)
彼女は、今回の件にはあまり悪意は感じられないような気がしていた。又、動物が入り込んでいた場合を想定して、餌になりそうなソーセージや野菜の切れ端等を持ってきていた。
一方、九十九と双刃(ふたば)は床を一通り調べた後、両側の通路を探索し始めた。
九十九は、この調査に気楽な気持ちで参加していて、今も夜の学園の様子を愉しんでいた。
(「……んー、夜の闇は安らぐから好きなんだけどねぇ……犯人は、人か天魔のどっちだろうねぃ」)
夜目を使用し、さらに索敵を用い、近くに発見可能な敵がいないか探る。
(「下にいた時は反応しなかったけど、今度はどうかねぇ」)
忠志(ただし)は、今回カメラ係であったが、通路やその下などの見えにくいところを調べるため、小天使の翼を使おうとしていた。そのため、ナイトビジョンを雅から借り、カメラを彼女に預ける。
いざ飛ぼうとした時、九十九がしきりに通路の真ん中の方を指さしているのが見えた。
(「‥‥あの辺りに誰かいるってことか?」)
彼は、今回の事件は誰かのいたずらでではないかと推察していた。真相を確かめようと背中から天使の翼を生やし、浮かび上がる。その時。
「う、うわあああぁ!!」
通路の真ん中辺りから声が聞こえたかと思うと、何か丸いものが忠志の方へ向かってくる。
とっさにに受け止めると、それはバスケットボールのようだった。何者かが、通路を奥の方へと走り出すのが見えた。
「犯人か!?桐原、撮影を頼むぞ!」
忠志がそう言って、犯人を追いかけようとする。が、
パシャッ
たかれたフラッシュに思わず振り返り、雅の持つカメラの向きを確認する。
「……ちょっと待て、何故犯人でなく俺を撮るんだ?」
「……何となく?記念になるかなって思ってね」
問われた雅は、可愛く首を傾げる。
暗闇に浮かび上がる、神々しい純白の翼を生やした強面の男性。確かに何かの記念にはなりそうである。
「……いや、俺でなく犯人をだな……」
「んー、2人とも余裕だねぃ。犯人逃げてるさぁね。」
2人の方へ近づいてきた九十九が指摘する。
「「あ」」
振り向いた先、犯人が逃げている所に、反対側の通路から降りてきた双刃が走り寄る。
捕まえようともみあった後、犯人が彼女に足で蹴りを入れ、後方へと大きく飛び退く。
しかしその間に飛んできた忠志が加勢し、あっさり捕まえることが出来たのだった。
●事の真相1
捕まったのは中等部在籍の鬼道忍軍の少年だった。今回の噂の原因も彼が起こしたものだという。
「ぼ、僕はただ、皆に涼を与えようと思ったんだ!」
囲まれて必死に説明し始める。
「涼?」
「そうだよ!最近暑いから、七不思議みたいな噂でも流せば、皆怖くなって多少涼しく感じるかなぁって……。
ま、まあ確かに途中から皆(主に女子)が怖がってるのを見て、段々面白くなってはいたけど……」
問いかける忠志に、少年が答えるが本音がもれている。夜、体育館に潜んで糸をつけたボールを動かしたり、録音したボールの音を流していたそうだ。
「ふーん。わざわざそんな手間かけるなんて、結構暇?」
グサッ。雅の言葉に『少年は心に15のダメージを受けた』
これで事件も解決かと思ったその時、
ポーン……ポーン……
「「「「!?」」」」
中庭からボールの音が聞こえてきた。
顔を見合わせる4人に対し、
「あの音は、2、3日位前から聞こえてきてね。まだ確認してないけど、きっと僕と同じ考えを持った同志に違いない!グッジョブ!」
親指を立てて何故か誇らしげに答える少年。
「(太珀先生は除くとして)そんな暇人はそうそういないと思うさぁね」
グサッ。九十九の言葉に『少年は心に20のダメージを受けたのだった』
そして丁度、携帯へと連絡が入ってくる。
●中庭(遡ること20分前)
郁代(いくよ)、雫(しずく)、ニオ、ciceroの4人は、宿直室の場所とルートを確認してから、中庭へやって来た。
中庭は、満月の光が降り注いでいるため、周辺にある木々や体育館の周りに一部、陰が出来ているものの、辺りは意外と明るくなっていた。
4人は、見回りが来ないか注意しながらも、感知や隠密を使用して中庭の調査を開始した。
黒い服を身につけた雫は、ナイトビジョンをつけて静かに移動しながら、体育館の周りの林を探っていた。小等部3年であるが、怯える様子は微塵もみせていない。
(「幽霊とは、グールやスケルトンと似たような存在なのですよね。それの何が怖いのでしょうか?」)
などと考えていた。
一方、ニオは髪の毛をまとめて帽子に隠し、目立ちにくい黒い服に身を包んでいる。
調査中、一度見回りの先生が近づいてくる気配を感じ注意を呼びかけたが、幸いこちらの方までは来なかった。
「夜の学校に忍び込むの初めてっす!ドキドキして楽しいっすね!」
彼女は、犯人は忍者で、遁甲の術でも使って夜中練習でもしているのかもしれないと考えていた。
今回カメラ係のciceroは、細心の注意を払い、すぐ撮ることが出来る様にカメラを常に手に持っていた。
(「今回の件、お化けだったら面白いよね!ロマンを感じるなぁ」)
ファインダーを覗きピントを合わせていると、ふとファインダー越しに、地面で何かが動くのが見えた。体育館から離れた場所だったが、よく見るために夜目を発動する。
メンバーの誰一人、暗い夜の学園を怖がってはいないように思えた。が、しかし。
(「こ、ここ怖くなんてありませんわ!」)
郁代は、地面にボールを叩きつけた跡がないか探っていたが、少々挙動不審な様子である。
(「暇な先生がボールを使って遊んでいるだけかもしれませんが、幽霊だとしたら、弱小クラブ部員で、中庭に追い出されたことを恨みを持っていたりして……!?」)
妄想をふくらませながら周りを見渡すと、ciceroが、少し遠くの地面に向かってレンズを向けているのが見えた。
そちらへ目を向けると、丸い形状のものが地面からぽこっと出てくるのを目撃してしまう。バスケットボールよりやや大きい位であった。かと思うとまるで誰かがドリブルしているかのように、その場でバウンドし始める。
ポーン……ポーン……
「きゃあああああああ!!ゆ、幽霊の仕業ですの!?」
恐怖がリミットを超えた郁代は、近くへ寄ってきたニオへと慌てて抱きつく。
「ぐ、ぐぇっ」
もとい、恐怖のあまり締め付けている。
声に気付いた雫も、ボールの方へと向かってくる。
「実体を持たないのでは、苦手な魔法攻撃で対応するしか無いでしょうか……?」
ciceroはというと、ちゃっかりカメラを構えて怪現象の撮影を行っている。
「いいね〜!中庭に出るボールのお化け、スクープだね!」
「ぐ、ぐるじいっす……て、天道さん、冥魔認識っす……!」
顔色が白くなりかけながら、ニオが郁代に声をかける。
はっと正気に返った郁代は、ボールをじっと見つめる。
「……!これは、天魔ですわ!」
その台詞に、一同に緊張が走った。ニオが早速その場で阻霊符を使用し、ciceroは戦闘態勢に入る。雫は体育館の4人へと電話をかけた。
●事の真相2
跳ねていたボールは4人を敵とみなしたのか、凄まじいスピードで迫ってくる。
ひゅんっ、どごっ。
慌てて避けると、地面に衝突してのめりこんでいた。
そこから再び跳ねると、4人の方へ向かってくる。狙われた郁代は、腰を低く落とし何とレシーブの態勢で攻撃を受ける。
どんっ。かなり重たい衝撃だったが、かろうじてふんばり逆に弾き飛ばす。
「よくも怖がらせてくれましたわね!――ニオさん、パスですわ!」
ボールが飛んで行った先には、ニオが待ち構えている。
「今宵は満月……、月の力よどうかこの鎖にご加護を与えたまえ!審判の鎖!」
聖なる鎖をのばしてボールを捉えようとする。惜しくもわずかによけられてしまうが、鎖をぶつけて地面へと落とすことは出来た。地面でもぞもぞと動いている姿をよく見ると……
「「「「ア、アルマジロ?」」」」
そう、ボールだと思ったのはアルマジロ型のディアボロだった。
学園のゲートの残滓からつい数日前に生成されたものである。隠れていたが姿を見られたため、本能に従って攻撃してきたのであった。
しかし形勢不利とみたのか、アルマジロは再び丸まると素早く体育館の方へ跳ねて行く。
「天魔なら、悪いけど逃がさないよ!」
バンッ。ciceroが、銀色の拳銃で狙いをつけて撃ち抜く。
やや動きが鈍ったところで、雫が、アウルの力を脚に集めると一気に加速して追いかける。
その時、連絡を受けて体育館から出てきた、九十九、雅、忠志、双刃の4人がアルマジロの前へと立ちはだかった。
前衛の忠志は、ショートスピアを銀色の焔で包み込むとボールへと攻撃をしかける。双刃も、アウルの力を込めてレイピアで突きを入れた。
アルマジロの硬い甲羅も、攻撃を受けて傷だらけになっていった。そこへ雫が追いつき、
ザンッ。
大剣を振りかぶりディアボロを一刀両断した。アウルの光がのびていく様子はまるで三日月のように見えた。
消えかけていくそのディアボロの姿を見つめて、雅が呟く。
「ボールだからアルマジロってそんな安直な……」
グサッ。それに対し何か聞こえた気がするが、気にしてはいけないのである。
ちなみに途中から戦いの様子は、後は仲間に任せて大丈夫だと判断したciceroがしっかりとカメラに収めていた。
●
雫や郁代が、校舎内の遠くの方から明かりが近づいてくるのに気付いた。
「見回りの先生かもしれません。こちらの方に向かってくるので早く隠れないと……!」
しばらくすると足音が近づいて来て、中庭や体育館内を懐中電灯の明かりで照らすが、そこには誰の姿も見当たらない。
「何か音がしたと思ったんだが、居眠りしていたから寝ぼけていただけかぁ……?」
そう言って当直の教師は、あくびをしながらそこを立ち去った。
●体育館の側の準備室
「先生、行ったみたいさねぇ」
奥にある跳び箱の中から九十九が出てくる。
他のメンバーも、ロッカーや積み重なったマットレスの後ろから姿を現した。九十九が誘導して、ぎりぎり何とか準備室内へと隠れていたのだった。
「今回の件は、残念ながら七不思議ではありませんでしたわ」
「結局は幽霊の正体見たり枯れ尾花と言った所でしょうね」
雫は、郁代の言葉に返しつつも、何故か少し残念そうな表情であった。
「ん、結構面白かったのねぃ」
「いいスクープ写真撮れたなぁ!」
九十九とciceroは満足そうである。
「餌は使う機会なかったな……」
雅はディアボロがいた辺りを見つめていた。
「謎は全てまるっとお見通しっす!」
ニオがきりっとした表情で言うが、周りは、いやこのタイミングで言われても……とツッコミを入れる。
忠志は、体育館にいた少年へ厳しく注意をしていたが、ふと体育館の方へ顔を向ける。
「……何か聞こえた気がしたが、気のせいか」
こうして一同は夜の学園を後にしたのだった。
●後日談
人と天魔のW犯行ということで、新聞愛好会の少女の記事はそこそこ話題になった。しかし、
「読んだ人のほとんどが『何だ、幽霊じゃないのか。残念』てどういうこと!?こうなったら、今度こそ幽霊をスクープしてやるわ。……え?幽霊は写真に撮れるのかって?そんなの気合よ、気合!……あ、ちょっとあなたたちどこへ行くのよーー!!」
おしまい