●調査
「洞窟の内部じゃが……」
珠真 緑(
ja2428)と木花 小鈴護(
ja7205)は、Y村の村長に話を聞いていた。
「脇道はあるが、すぐに行き止まりになっておっての。祠までは大体真っ直ぐな道じゃよ。祠の先は、急激に道は狭くなっているのぅ。」
木花(きばな)が、祠の鍵について尋ねると、ディアボロの襲撃に遭った際に落としてしまったと言う。
開錠できるメンバーがいることを伝えると、ほっとしたように、
「それはありがたい……。御神体は、昔からこの村の心の拠りどころでのぅ。御神体を救って、村の衆がまた安心して暮らせるようにしてもらいたい。どうか、この通りじゃ」
そう言って深く頭を下げた。
「安心して祭りができるように、みんなで御神体を取り戻します」
と木花が慌てて答えると、
「信仰は大事だもの。御神体は絶対保護するわ」
(「いくら知能低そうな敵でも、そこんとこしっかり教えてあげるわ……」)
珠真(じゅしん)も強い口調で返した。
●村落内
高坂 涼(
ja5039)とナタリア・シルフィード(
ja8997)は、これから避難しようとしている村の人々に話を聞いたところだった。
「あまり洞窟に頻繁に出入りしていないとなれば、こうもりが棲みつくのも仕方ないでしょうね……。それでも、護らないといけないものがある以上、やる事は変わらないわ」
道でナタリアが話していると、6歳位の少年が追いかけてきた。
「ねえねえ、姉ちゃんたち」
ばれたら怒られるので、絶対に、大人たちには内緒だと言って話し始める。その内容は……洞窟内の奥は、危ないので立ち入り禁止になっているが、実は何とか子供が通れる位の狭い穴が続いているということ、穴をずっと通っていくと、村からかなり離れているが外へと出られたという話だった。
「外に通じているとなると、奥に行かれるとそのまま逃がしてしまうおそれがあるわね……」
ナタリアが考え込む。
「俺は男なんだがな……まあ、いい。穴の出口もはっきり覚えてないようだし待ち伏せも厳しそうだな」
中性的な顔つきの高坂(こうさか)も言葉を返した。
●洞窟手前
新田原 護(
ja0410)と仁良井 叶伊(
ja0618)は、皆が来る前に洞窟付近の地形などを調べていた。
洞窟は、入り口の上部が前に出っ張っていて、昼間だがあまり日光が差し込まないような構造になっていた。奥の方は真っ暗で中の様子を見通すことは出来なかった。
新田原(にゅうたばる)は
「敵戦力は、コウモリ型か。インドア、しかもほぼ暗黒状態。赤外線ゴーグルが欲しいが……俺には夜目のスキルがあるしな。それで我慢しよう」
そう言うと、ペンライトを左腕に、服の上からガムテープで固定する。
「どうせ向こうは、明かりに気づく前に、超音波でアクティブソナー(※音波を出してその反射によって距離などを知ること)状態だろうしな。なら、明かりを落とさないように加工した方がいい」
一方、仁良井(にらい)は、音(音波)を吸収しやすい薄いスポンジシートを纏っていた。
超音波は、振動数が高くて人間の耳には聞こえないが、音波には変わりないため吸収できるような素材が有効ではないかと考えたのだ。
「蝙蝠……ですね。此処に「何か」が有るからいるんでしょうが、ディアボロの価値観は分かりかねますので…退治するまではあまり深く考えない方がよさそうですね。ところで、その超音波のことで試してみたいことがあるんですが……」
その時、他のメンバーも洞窟前へと合流してきた。
●戦闘開始
全員そろったところで、情報の共有化と大まかな作戦を立てた。
ほぼ全員がペンライトを所持して、準備する。
「ペンライトだけでは心許ないね。孤立はさけなければね」
高坂が皆に話す。
(「ディアボロは洞窟に棲んでたコウモリなんだろうか…?人間はもちろんだけど、動物が天魔に変えられるのも、俺は嫌だな…」)
木花は内心そう思っていた。
「よーし、じゃ、行ってみよっか!」
珠真がそう皆に声をかけて、洞窟内へと足を踏み入れた。
仁良井が、持ってきた超音波式虫除け器を、火をつけた松明に括り付けて洞窟の中へと放り込む。
明かりと人工の超音波が、こうもりにどれ位効き目があるのか試そうというのだ。
するとキィ、キィという声がしたかと思うと、こうもり3匹程が松明の側までやってきて、周りを旋回したかと思うと今度は一行の方へと向かってきた。翼を広げると横50cm、縦30cm位の大きさだ。
「来たな。キィキィって五月蠅い声だ。落ちろ!」
新田原がオートマティックP37を両手で構えて、夜目の効果を発動し、狙いを定めて撃ち落とす。
「超音波と光のどちらか、あるいは両方に反応したということでしょうか?直接虫除けを狙わなかったということは、明るい光は苦手なようですね」
仁良井がそう言いながら飛燕翔扇を投げるが、こうもりによけられそのまま手元へと戻ってくる。
高坂はペンライトからクロスファイアに持ち変え、近づいてきたこうもりを撃ち落とした。
もう一匹は、新田原が接近する前に撃ち落とし、
「射撃屋の本領ここにありってな。インドアじゃ、ハンドガンが主力武装になりえるんだ」
一行は新田原と高坂を前衛に、洞窟の奥へと慎重に進んでいく。
「何かいます!」
その時、物陰から突然1匹のこうもりが飛んできたが、不意打ちに警戒していたナタリア、高坂、仁良井の同時攻撃でなんなく撃退した。
左に曲がる狭い道があったが木花が指摘する。
「こっちは、脇道ですね」
さらに進むと、祠の周りに11匹程のこうもりがいるのを新田原が確認した。止まっていたり、飛び回っていたりしていたが、どのこうもりも気が立っているように見えた。
「狭い洞窟ですし、一斉攻撃に注意した方が良いですね。」
ナタリアが小声で注意を呼び掛けた。
●御神体の奪還
こうもり達は、一行を敵とみなしたのか、一斉に祠から離れて群れをなして向かって来る。
「援護する!御神体を頼む」
高坂が言うと、新田原が素早く祠に向かって走った。彼に向かおうとする1匹のこうもりに向かって、高坂はクロスファイアで狙うが外れてしまった。
「鬱陶しい奴等だ。何とか捉える事が出来れば……」
「地の利は向こうにあっても、やり方次第で勝てるはず!……トワイライト!」
ナタリアが新田原へ向かおうとするこうもりに向かい光球を作り出した。
辺りが淡く照らし出され、こうもりは突然の明かりに数秒ひるんだ。
そこを、命中させることを重視して、ナタリアがスクロールを使い小さな光の玉で攻撃を当てる。ダメージを受けて飛び去るこうもりの深追いは避け、すぐ次の敵へと狙いを定める。
木花もじっくりと敵の動きに集中して六花護符を使い、新田原に向かおうとしたこうもりに雪の玉を命中させた。
光のせいか、心なしかこうもり達の動きも鈍くなっているようだ。
「祠を確認した。情報通り鍵がかかっている。これより開錠する。」
新田原が宣言して、開錠に取り掛かる。
「やっぱり、光が有効みたいね……トワイライト!」
珠真もそう言いながら明かりを生み出す。
向かってきたこうもりの群れはその光にひるむ。しかし一部は光をよけて前衛の高坂へと、鉤爪を光に反射させながら襲い掛かってきた。
「くっ!」
高坂はほとんどの攻撃ををブロンズシールドで防ぐが、防ぎきれなかったこうもりの鉤爪で何箇所かを切り裂かれてしまう。
「回復します!」
そう言って木花が、負傷した高坂に対しライトヒールをかけると、アウルの力が流れ込み傷が塞がっていく。
「済まない。助かる。」
珠真は、祠に攻撃が当たらないだろう位置に移動して、光に近づけないでいる敵に対し魔法書を展開する。雷の玉がまっすぐ1匹のこうもりに向かっていきバチバチっという音を立て放電した。
「キィッ、キィッッ!!」
後退しようとする珠真の方へ向かうこうもりは、仁良井がホワイトナイト・ツインエッジで叩き落とす。
「御神体を確保した。戦闘行動は取れないので、可能な限り迎撃をよろしく頼む」
敵の攻撃から御神体をかばいながら、新田原が他のメンバーの元へと戻ってくる。新田原に向かってきたこうもりに対し、高坂が楯を使って地面に叩き潰した。
「OK!……御神体は神が宿る物だもの。不躾に扱う訳にはいかないわよね。何より大事なものだものね」
珠真が答えると、この言葉に仁良井が反応する。彼は、敵が何故かあまり自分には向かって来ないように思っていた。
「新田原さん。これを使ってください。こうもりから狙われにくくなると思います」
纏っていたスポンジシートを渡すと、
「感謝する」
新田原は、それを御神体にまきつけ、防衛に専念する。
御神体を無事確保できたので、高坂、仁良井、ナタリアはこうもり達へと一斉に攻撃をしかける。
そして、珠真、木花はその隙に奥の方へと周り込み、敵を挟み込もうとした。
弱ってきたこうもりは、奥に移動した2人に向かって翼を大きく広げて威嚇のようなポーズを取ると、2人は少しめまいがするのを感じた。
「ちょっとくらくらするけど、どうってことないわね……トワイライト!」
「星の輝き!」
珠真、木花が叫ぶと、洞窟内を明るい光が満たす。味方でもまぶしいと感じる程の光だ。
奥に逃げようとしていた、残りのこうもり達も動きがさらに鈍くなっているようだ。
その直前に入り口側へと包囲をくぐり抜けた1匹のこうもりが、地面に落ちていた超音波式虫除け器へと向かい、鉤爪を突き立てる。時間が立っていたため、一緒に括り付けた松明の火は消えていた。
「しまった!」
仁良井が叫ぶ。彼はそのこうもりを仕留めるが、囲まれていたこうもり達がより一層高くキィィッっと鳴き、再び奥の2人に向かって威嚇する。
「様子がおかしい!気をつけろ!」
高坂が鋭く注意する。
木花がとっさに何かを感じたのか珠真をかばい前へ出る。
その直後、木花は先程よりも何倍もの威力で、頭の中が揺り動かされてるような感覚を覚えた。
平衡感覚を失う程のひどいめまいを感じ、たまらず膝をつく。
「あ、あんた大丈夫!?ダメージ受けやすいのに私をかばうなんて……」
心配してかけよる珠真に対し、
「だ、大丈夫……」
横を抜けようとしたこうもりに対し、残った力で雪の玉を生み出し、足止めする。
(「後は……みんなに任せれば大丈夫……」)
そう思いながら木花は倒れ込んだ。
残りのこうもり達も他のメンバーの攻撃で倒され、何とか光を避けて通ろうとしていた1匹も、
「一匹たりとも見逃さない!……エナジーアロー!」
薄紫色の光の矢を、ナタリアが翼に命中させ、
「キィィィッ!」
さらに珠真が放った雷がこうもり本体へと当たり、息の根を止めたのだった……。
●戦闘後
一行は、村長や村の人々に囲まれて口々に感謝されていた。
「ありがとう、ありがとう。まことありがたいことじゃ……。
避難した皆も村に戻ってこれるし、このまま安全になったことが確認できれば、祭りも開けるじゃろう。なに、予定よりちいとばかり遅れるが、御神体と共に祭りが開けるというのが何よりのことじゃて……」
そして任務上、今回の戦闘を記録した珠真が宣言する。
「記録完了!」
意識を取り戻した木花が、救急箱で高坂や新田原、自分の手当てをしながら、御神体の形状が気になると話す。
救い出した御神体を新田原が見てみると、
「子供……?」
御神体は、子供のような幼い顔つきの木彫りの像であった。受け取った村長が言う。
「そうじゃよ。子供には清らかな心、神様の心が宿るという教えがあったようでの。
今も昔も子供はわしらにとって、希望なんじゃよ。……そう、お前さんたちのようにのぅ」
●おまけ(帰り道のこと)
「何食べたらそんなでかくなるわけ?」
メンバーの中でも人一倍身長の低い珠真が、身長200cmの仁良井に向かって尋ねている。
「さあ…何せ記憶がないまま、学園にたどり着いたものですから……。甘いものは少し食べますが、普段の食事は質素ですよ」
(「仁良井は参考にならないわね」)
今度は小等部5年の木花の方へと向く。
「木花はどうしてそんな背が高いわけ?」
「何でもよく食べて、よく寝てます。好きなものは牛乳とリンゴ、あとお菓子……」
182cm、見た目は16才の木花が答えた。
それを聞いた珠真が、牛乳とリンゴとあとお菓子ね、と呟いていたとかいないとか……。
了