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マスター:カナモリ
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/01/30


みんなの思い出



オープニング



 久遠ヶ原学園のどこかの片隅に、ひっそりとそのカウンセリングルームはある。
 けれど余りにもひっそりと片隅にあるので、余りその存在は知られていなかったりもする。

 そんなわけで永野もつい最近までその存在を知らなかったのだけれど、同僚の誰かから何かの拍子に聞かされ、その存在を知った。
 知ったけれど心の何処かで信じてなかったというか、まるでどこかの未確認生物の存在を聞いたみたいに「えーほんとーそーなんだー」くらいにしか思ってなくて、つまりは全く自分には関係のない物として、認識していた。
 今日までは。

 永野は机に置かれていたその回覧紙を茫然と眺める。

 今週のカウンセリングルームの当番。
 一般職員(数学教諭)永野・研究職員成瀬。

 何故そこに自分の名前があるのかと困惑し、更に成瀬の名前があることに愕然とした。
 当番とは一体何をすればいいかが全然分かっていなかったけれど、何にせよあの変人研究員成瀬と一緒だという事が、既に恐怖だ。

「だからね、そこにやって来た生徒達の話や相談を聞いてあげたりするのよ」
 ちょうど隣の席に座っていた同僚の女性教諭に聞いてみると、そのような答えが帰って来た。
「はー、でも、そんなシステムなくても、学園には大人な人達もいますし、いろんな人種の人達もいますし、生徒同士で解決すると思うんですけど……。わざわざカウンセリングなんて受けにくる人いないんじゃないんですか」
「そうね。数は少ないと思うわ。でも、まあ一応ね。誰にも言えない悩みを抱えた子達も居るから」
「いやーそれだったらこの人選は絶対駄目だと思うんですけど……僕もそんな器じゃないですし、何より成瀬さんは……」
「んー確かにあの人はちょっと変わってるけど……でも、当番制だし、やっぱり皆に回していかなきゃ不公平だから。でも永野君はきちんとしてるから大丈夫じゃない? それに最近、成瀬さんとは仲がいいみたいだし、それで多分そういう人選になったんだと思うわ」
 それは誤解なんです。
 別に仲がいいわけではなくて、付き纏われているだけなんです。
 とは、言ってもいいけれど言った瞬間に何をどう誤解されるか怖い気もして、口に出来ない。
 しかも、だいたい僕はきちんとはしてないし、猫かぶってるだけなんです。
 なんて、猫を被って見せてる本人達の前では更に口には出来なくて、もう何も言えない。
「あーはー」
 間延びした相槌を打つ。
 回覧紙を眺めながら、途方に暮れた。






リプレイ本文




 カウンセリングに来る人は現代社会の犠牲者である!
 すなわち、そんな彼らなら、今は例え政治活動に関心がなくとも、搾取の社会構造を学び平等の思想を知れば、共に戦ってくれる同志となるだろう!

 と、ものすごーく平和な久遠ヶ原学園のある日、赤糸 冴子(jb3809)はそんなわりと特殊な自らの思想、信念に基づき、カウンセリング室の前で「革命的労働者同盟天魔委員会(革労同)」の同胞を募る活動に勤しんでいた。

「諸君は悩みがあって来たはずだ! 学業、友人関係、恋愛、お金……理由はさまざまだと思う! だがよく考えて欲しい! 総てはブルジョワ的支配構造の不平等が原因ではないのか!? 我々悪魔が、否、労仂者が平等を勝ち取り幸福な世界を築く為には、共に正義の旗を掲げ斗い勝つしかない!」

 そんなアジテーター気取りの彼女の手には、今日もゲバ字満載のアジテーション・ビラ。そしてその隣には、これまたゲバ字で書かれたアジテーション看板。

 えーっと……ここって何処だったけー……。
 と、本当はカウンセリングルームにちゃんと相談しに来たはずだった嵯峨野 楓(ja8257)は、その光景に一瞬、自らの目的を忘れそうになった。
 ぼー。
 冴子のあんまりの勢いに、思わず魅入ってしまう楓である。
「そこの君! 興味があるようだな!」
 すると、早速なんかもー勘違いされた。
「えっ、い、いや」
「なに、遠慮することはない。ブルジョワの思想に屈してはならない! さあ、このビラを持って行きなさい」
 ってなんかもー怖いので、逃げようとしたら、
「早速配りに行ってくれるか嵯峨野君、いや、同志嵯峨野!」
 とか、何をどう勘違いされたか、思いっきり束でどか、とゲバ文字満開のビラを手渡された。

 ひーっ!!!
 ちが、違うよ! 私は、カウンセリングルームに相談しに来ただけだよーっ!
 だばだばだばだーっ。

 と、彼女は追いかけてくる冴子から逃げるように走り出してしまったが、今日もちゃんとカウンセリングルームはオープン中だ。
 その証拠に中ではもう相談者が相談をしている。
 全くやる気ない教師二人に。



「ぶっちゃけ、僕に足りないものってなんなんですかね」
 椅子に腰掛けた、最強の『普通』鈴代 征治(ja1305)は、向かいに座る成瀬と永野を真っ直ぐに見据え、そんな事を言った。
「だってこの学園って結構ぶっ飛n……個性豊かな方が多いじゃないですか。そんな中僕は見た目も普通、生い立ちも普通、キャラ的にも普通で……このままでは無個性すぎて人の印象に残らないんじゃないかと……こう何ていうかパンチが足りないっていうか。だから、ぶっちゃけ僕に足りないものってなんでしょう。割と奪都とか封都は参加してるんですが」
「んーそうね、ハリセンじゃない」
 成瀬が言った。丸めてぽーいみたいに、乱雑に。

「え?」

「もしくは釘バットとか、ピコピコハンマーとかでもいいけど」
「え、それはどういう」
「いやだからだからね、ふじや……えーっと何だっけ名前」
「いえ、鈴代です。何だったらふもじもやも全く関係ないですすいません」
「うん、そうそう鈴代くんね。だから物凄い無難な容姿の君がね、そういうアッパーな物を黙って持って立ってるだけで、えどういうことなの、ってなるからね。それであれだよ、俺の出す依頼とかに出て、アドリブOKって書くだけでいいよ。そしたらもう今日から君も、なりたくなくても個性的な人になっちゃうから」
 え? アドリブOK? 書く? 書くって何処に? え、なに、どういうことなの。
「あれ最後の方ちょっとなんかおかしいんですけど」
「ねー誰かー、ハリセンか釘バットかピコピコハンマー持ってなーい?」
 ってもー全然聞いてない成瀬は、カウンセリングルームの隣にある、控え室を覗き、言った。
 そこでは幾人かの生徒達が待機しており、お菓子食べたり談話したりしながら、自分達の相談を待っている。
 鴉乃宮 歌音(ja0427)が用意してきた、鎮静作用のある紅茶やクッキーの甘い香が漂い、ルリ(ja3090)の奏でるピアノのメロディが流れていた。
 少しでも、悩みを解消する助けになればと、ルリは、不安を和らげる為にリラックス出来るような曲を選び弾いてくれているらしい。そういう彼らの細かな心使いが、待合室を、心地の良い空間に変化させていた。

「あー……私……ピコピコハンマーなら持ってるよ」
 そんな中、気だるげな声を上げたのは、桐生 直哉(ja3043)と共に相談に来ていた常塚 咲月(ja0156)で、テーブルの上に乗った大量の和菓子の中から、いちご大福を摘みはむはむしたりして、ちっちゃく手を上げている。
「ありがとありがと。じゃこれちょっと貸してね」
 成瀬は、咲月から受け取ったピコピコハンマーを、当然、みたいな顔で鈴代に渡した。
「というわけでまあ一応ここにね、ピコピコハンマーがあったから」
「はい、え?」
「これ持って校内一周とかしてみたらいいよ。これで明日から、君のあだ名はピコピコハンマーのピコ治君だね!」
 とか、ものすごーい覇気のない顔で成瀬はサムズアップを。
「いやなんかそういうんじゃあ……」
 なんて戸惑ってる間にも、次の相談者がどういうわけか「ガタガタガタっ」とか窓から侵入してきてしまい皆の意識は俄然そっちに向いてしまった。
「え」
 という皆の視線に、
「いえ、すいません。ちょっと、顔を合わせたくない人がいたものですから……」
 可憐なガラス細工のような羽をパタパタと揺らしながら、颯(jb2675)はちょっと気まずげに微笑んで、言う。
 さすが久遠ヶ原学園はやっぱりアッパーな人が多い。
 とかいう間にも颯は、そこに座る二人の教師をちらちら見比べ、永野の向かいの席に「……」と、座った。
 わりと潔く。
 何だったら何をするのにも戸惑ってそーな、可憐な外見であるのに、窓から侵入してくるといい、意外と肝が据わっているタイプなのかも知れない。
「それで相談なんですけどね」
 颯はそう切り出し、永野を見た。
「あ、はい」
「妙な相談……かも知れないのですが」
「はい」
「実は、ある人と話をしてみたいんですが、なかなか勇気が持てなくて、ですね。理由はなんていうか、嫌われていそうだから、なんですが。ちなみにこれは、片想いとかではなくて、何というか僕がその人の死んだ弟に良く似てまして、だから何ていうか」
 と快調に自らの悩みについて喋っていた颯は、次の瞬間、物凄く厳しい表情でがたっ! とか椅子から立ち上がった。
 え、何、何が出たの! 敵?! くらいの勢いで、キッと出入り口の方を見つめ、「僕がここに居た事はどうか内密に! 彼は、彼女の恋人でもあるんですッッ!」とかなんか早口で言い残し、窓からぴゅー。
 え、あれ? 忍者?
 みたいに、一同は茫然と窓を。

「おーい、つか俺らの順番、まだかよー」
 そこで出入り口の扉がバッと勢い良く開き、直哉が顔を出す。
「あれ? 今……誰かが窓から飛んでったような……」
 と、颯の言っていた「彼」は果たして直哉なのかどうなのかは誰にも分からないのだけれど、とにかく何にしろ、言っては駄目だ、と言われたので、永野はもー何も言えない。
 ただなんか、折角相談しに来たのに結局何も言わず返って行った颯は少し不憫でもあるような、ないような……。
 と、永野が一人ハマってる間にも、生徒達が入ってくる。
 先程ピコピコハンマーを貸してくれた咲月と、顔を出した直哉、そして、最上 憐(jb1522)の3人だった。
 そして深刻な顔した直哉と、わりと何考えてるのか分かんない淡々とした表情の咲月は、
「食べ放題の店に行くと出禁になるのだけれど、どうすればいいのか」という悩みを打ち明けてきた。
「いやだから、食べ物とか前にすると、どうしても夢中になって食べちゃうからさ。それで食い過ぎちゃって、あれもー出入り禁止、みたいな」
「でもさ、食べ放題なら、好きなだけ食べていいはずでしょ、おかしいよね……美味しい物は、やっぱりいっぱい食べたいわけだし……悩むよねー……どうしたらいいんだろー……」

「うんそれは別にどうもしなくていいんじゃない」
 と、これはぼーっとした顔の成瀬が言った。
「え」
「どうもしなくて……いいの」
「だって食べ放題なんでしょ、食べ放題つっちゃってんでしょ。だったら食べ放題しちゃったらいいよ。全然大丈夫」
「でも出禁食らうし……どうもしないわけには……」
「うんじゃあもう訴えちゃえ」
「え」
「だいたいさー。自分で食べ放題って言っといて出禁とかしてくる時点でどうなのって事じゃない。それってあれでしょ、『私あれなのー、変態っぽい人が好きだから大丈夫なのーとかなんか言って、はーじゃーとか思って実際付き合ってみたら、わーほんとにこんな変態だったなんて無理ィっ!』 みたいな事でしょ」
「いや成瀬さん、それは違うと思います」
「んーだからとにかくさ、そんな出禁くらいでめげてちゃ駄目だよ。大食いの風上にも置けないよ。店なんてほっといたってどんどん出来てくるんだからさ。次々行っちゃえばいいんだよ」
「いや別に……めげてはないけど……」
「だいたい、彼女見てみ。全然めげてないよ、むしろ自分の大食いとどう向き合っていこうか検討してるくらいなんだから、物凄い前向きだよね」
 と、ゆらーと成瀬が憐を見る。
 だから咲月と直哉もとりあえずなんか見た。
「……ん。所で。お茶とか。お茶菓子とかは。出ないの?」
 皆に見られた憐は、はーそーですかーくらいの無表情で、そんな事を言った。
「あ……じゃあこの和菓子、食べる?」
 咲月が差し出したそれを受け取り、ぺこ、と無言で頭を下げた憐は、ずるん、とその餅をもう食べるとかではなくて飲み込む。
「……ん。食べ放題。は。私も。良く。出禁に。なる」
 けれど彼女の身体は、びっくりするくらい小柄なので、どうやったらその体で出禁になるくらい食べられるんだろー、と、永野はもー全然分からない。でも資料には、食事は1日に7食&オヤツ数回を食す、とある。
 そんな彼女の今回の悩みは、「どうすれば食べる量を減らさず、食費を抑えられるか」である。
 だから、まずは、学園の学食や購買にある食べ物の基本量を底上げすることは出来ないのか、と彼女は続けた。
 あれでは全然足りないのだ、と。
「……ん。だから。やっぱり。これは。学園長に。直訴。かな?」
「……ん。それとも。アウルの。力で。食べ物を。増力。出来無いのかな?」
「……ん。ちなみに。依頼の。報酬は。9割。位。食費に。消えてる」
「……ん。あと。食堂の中で。行き倒れの。フリをして。驕って貰う。最終手段が。ある」
 と、彼女は無表情に、凄まじい体験談やおっかない現象を暴露していく。
「ね? 君達」
 と成瀬が、不意に、咲月と直哉を振り返った。「いずれはこうなるんだよ。報酬の9割食費に消えるんだよ。出禁くらい可愛いもんだよ。こっちの方がよっぽど深刻だよ」
 確かに。大食いのレベルは違うけど。

 と。
 そこで突然、白いシーツにくるまった男が、ぬぼーとカウンセリングルーム内に出現した。というか、入って来た。
「飯食え〜飯食え〜」
 彼は、そんな言葉を連呼する。
 え、何これ。何なの。
 と、唖然とする一同をよそに、シーツのおばけ気取りらしきそれは、カウンセリングルーム内をゆらゆらーと徘徊し、やがて、立ち止まった。
「あ、あれ、間違えた〜」
 一体何をどう間違えたというのか、シーツから顔を出した星杜 焔(ja5378)は、のほーんとした顔で笑い、恥ずかしげに両手で顔を覆った。
「このシーツ、あんまり前が見えないから〜」
 でも多分、問題はそこではない。
 何故、シーツを被ってしまったのか、というそこなのだ。
 でも彼は、一切そこに関しては説明する気配がなく、やがて何がどう転んだのかは定かではないけれど、「あの〜これ〜ちょっと自家製のカレーなんですけど〜よかったら食べてほしいです〜」とか、いきなりそこで、どか、がん、カーン、じゅぼーっと料理を始めてしまった。
 右耳のヒヒイロカネイヤーカフをそっと触り、どんどんコンロやら食材やらを出して行く。

「手料理を色んな人に振舞いたいんですけど……なかなか言い出せなくて〜。たまーにシーツ被って飯食えおばけになって弁当を無差別配布しちゃう始末で〜」
 なるほどそれでシーツかと納得した。
 かというと、そうでもない。
 そもそも考えれば考える程、飯食えおばけがどういうことか全然分からない。
 けれどそこに居た咲月、直哉、憐の三人は、そんなひねくれた永野とは違い、
「……ん。言って。くれれば。私が。食べるよ。カレーなら。毎日。食べるし。カレーは。好物。そして。飲み物」
「食べすぎても怒らないなら、俺達も食ってやってもいいぜ。な、咲月さん」
「んー……。美味しかったらそうだね。いいよ」
 と、なんかもーちょっと優しい。
「ねー良かったじゃない、星杜くん。だからこれ、三人が凄い勢いで食べてたらさ、量に驚いた人とかが寄ってくるかも知れない。そしたらその集まった人達に更に料理を振舞えば、もっといろんな人に料理を振舞うことができるし、三人は食費が浮くしで、もうこれ、みんな悩み解決じゃない」
 でも、多分、星杜君の料理の材料費は半端ないことになるはずで、それは一体どーするんだろー……。
 とかちょっと思ったけど、なんかいー雰囲気になってる感じだったので、永野はもー黙っておくことにした。




 その頃待合室では、「重度のブラコン、三度の飯より兄が好き」なメリー(jb3287)が、カウンセリング手伝いに名乗りを上げたヴェス・ペーラ(jb2743)相手に、物凄い勢いで兄自慢を行っていた。
 カウンセリングに興味がある、というヴェスに、成瀬は物凄いいい加減なアドバイスを行い、すなわち、「相手に寄り添う気持ちが大事」であるとか、「どんな理不尽な内容でも相手の話を否定しない」であるとか、そーゆー事なのだけれどとにかく、ヴェスは真面目にそれを遂行していて、だからこんな事になってしまった。
 本当ならばヴェスは、メリーが、「カウンセリング……? メリー悩みはないのです……?」
 とか言った瞬間に、話を聞くのはやめるべきだった。
 けれど、相手の話を否定しては駄目だ、追いかえしては駄目だ、と気張る内、メリーの兄自慢はどんどん熱を帯び、今や兄の写真が貼り付けてあるというアルバム片手に、兄の大胸筋の逞しさであるとか、少し冷たい感じに見えるけどそこもまた兄の素晴らしい魅力なんだよ、とか、どんなに冷たい態度をとってても最後は助けてくれるツンデレな所もまた、ポイントが高いよね、とか、家を飛び出してから再会するまでにまた一段とかっこよさが増してて、最近は直視も出来ない位素敵なのっ!! とかもー、言いたい放題言っている。
 それでもヴェスは、「なるほどそうなんですか、凄いですね、うんうん」などと相槌を打ったりするので、火に油。というか、火に火鉢な勢いで、消えることなく燃え続ける火のように、メリーの話は終わらない。
 そうですか、これがカウンセリング……。
 カウンセリングって疲れるんですね……。
 いや違う! 気付いて、ヴェス!




 とかいう頃、ルーム内ではまた、一人の相談者が途方に暮れた顔で悩みを打ち明けていた。
「私の何がいけないのでしょうか」
 動物が懐いてくれない、と悩む、雫(ja1894)である。
「別に何をするわけでもないのですが、彼らは私と目が合うと、怯えて吠えたり逃げ出したりするんですよ」と彼女は語る。
 それはとっても気の毒だなーと同情しかけたまさにその時、
「昔と違って今はちゃんとペットと狩猟許可がある動物を区別できるのに」
 と、最後のとこがもーちょっとおかしい。
「でも本当に可愛い動物は好きなのです……。何時か自分に懐いていてくれる動物がいたら、飼えればいいな、とも……」
「あー」
「それでも昔、初めて遇った犬がお腹を見せて触らせてくれた事がありまして。喜んで撫でていたんですが、後に動物は降伏の証として腹を見せることを知りまして。そういえば虚ろな目で撫でられていたなーと」
 ずどどどどー……と、語りながら雫はどんどん落ち込んで行く。
 でも多分動物は、本能的に雫のハンティング能力を察知し、逃げて行ってしまうのだろーし、何というかまー、どちらも気の毒な話ではある。
「私はどうすれば良いのでしょうか?」
「んーじゃあヒリュウとか飼ってみれば」
 と、これはまたぼーっとした顔の成瀬が言った。
「え」
 面食らう雫を置き去りに、さっさと立ち上がった成瀬は、また待合室を覗きこみ。
「ごめーん、バハムートテイマーとか、いないー?」
 で、一旦向こう側に消え、そしてまた、戻って来た。
「うんごめん、居なかったみたい。でも代わりに可愛い子見つけた」
 で、そんな成瀬の手には、エナ(ja3058)と共に相談に訪れていた静馬 源一(jb2368)が、借りて来た猫みたいに首根っこ引っ掴まれて収まって……。
「ちょ、ちょちょちょ、なんで御座るか! 離すで御座る! ちょ、何をするで御座るかーっ!」
 いや、収まってはいない。頑張って抵抗している。でも、どー見ても大型犬に突っかかって行く豆柴……。
「ね。可愛いでしょ」
「いや、可愛いとか可愛くないとかいう問題では……」
「離すで御座るーっ。自分は悩みを相談しに来ただけで御座るーっ!」
「わわ、静馬さん! 大丈夫ですか!」
「可愛いじゃないで御座るよー! 自分はもう中学生の立派な男子で御座、るーっ……う、うぅぅ」
「せ、先生大変です。静馬さんが……」
「え?」
「静馬さんが、ちょっと泣いてます」
「あ……」


「いやーまさか泣いちゃうとは思ってなかったからー。んーなんかほんとごめんね」
 とかなんか、全く謝罪感のない感じで、成瀬がぼーとか謝っていた。
 その目の前で、源一は、膝のズボンをきゅっと握りながら、目元をゴシゴシと上着の袖で拭っている。
「とにかくもー自分はもーこんなちっこい自分は嫌で御座る。なんで自分に身長はこんなにも伸びないんで御座るかー」
 更にそこには、月乃宮 恋音(jb1221)と桐生 水面(jb1590)の姿もあり、二人ともやはり「身体について」悩みを抱えた者達だったりした。
「分かるなあ……うちもその何ていうか……はよ成長したいなあって……その、いろいろな部分でさ。思うわけで」
「……私は逆にそのォ……あー……は、発育を、と、止めることは出来ないかとォ……そのォ……いろいろな部分で」
 水面の言葉に恋音がコソコソと頷く。
「だって自分、もう中学生になるのにこの間なんて3年生に間違えられたで御座るよ……? 酷いで御座る……この身長のせいで同級生には年下と間違えられてパシられるで御座るし……ううぅ……」
「うんうんわかるわかる。うちもさー、ここってスタイル良い人多いやん? もー周り見てはちょっとへこんでさー」
「実は私も……外見というのとは違うんですけど、ちょっと小さい時に色々あって……それから、誰かの言うことが真っ直ぐ信じられなくなっちゃってて……気づいたら疑っちゃってる感じなんですよね……信じたいって、思ってるのに……」
 エナがそこで、悲しげな顔を浮かべ、言う。
「それを言うなら……そのォ、私も、自分の臆病な性格とか、仕事以外で積極的に人と話すことが出来ない性格とか……困ってますよォ……ほんとに……」
 こそこそ、と隠れるようにして座っていた恋音もおずおず、と自らの悩みを話す。

 それでなんかどよーん。
 とか、ちょっとルーム内が沈んだ空気になったその時。

「あれー! みんなー! どうしたの、元気ないなーっ!」
 と、めちゃくちゃ元気な声が響き、皆がハッとそちらを向いた。
 武田 美月(ja4394)が、「はいはい、私も悩みありまーす!」とアホ毛をぴよんぴよんさせながら、手を上げている。
 隣には、高峰 彩香(ja5000)が立っていて、同じくひらひらーと手を振っている。
「あっ、今、こいつ悩み無さそうだとか思ったっしょ! ふふーん、残念でした。今日はちゃんと準備してきたんだからねー」
「そうそう。ちゃんとアドバイスしてよー。ま、最悪デタラメ教えたりいい加減な返答だったりでも大丈夫だけど。後であたし達がガッカリするだけだからね」
 と脅しですか、みたいな台詞をさらっと言った彩香は、さて、と椅子にどか、と座る。
 美月も座り、「センセーっ! このアホ毛を有効利用するためにはどうしたらいいですかーっ!」と、もー言った。
「この頭のてっぺんでふよふよしてる「これ」をですねー本当どうにかしたいなーって思ってるんですよー。毎朝セットするのも面倒だし、ていうか、そんなことしてたら毎日遅刻しちゃうし……あっ、そういえばアホ毛を自由自在に操ってる人とかいるじゃないですかー。あんな風に私もできないかなー? どう思う? 先生」
「あたしはー、定期テストで毎回赤点ギリギリだったり、追試にご招待されちゃったりするのなんとかできないかなーって思って。ほら、授業聞いてたり勉強してたりするといつの間にか寝落ちしちゃっててさー。だから、なんとか寝ないで済む方法とかないかなーって」

 と。
 いろいろ悩みを打ち明けた生徒達は、最終的にはじろーと教師二人を見た。
 さー解決出来るならしてみろ。とその目が何か物凄く挑んで来ているように見え、わー視線がもー怖いー。
 となった永野は、もう一緒にじとーっと成瀬を見ておくことにした。

「じゃー言いまーす」
 皆にじとーと見られた成瀬は、いつもの何考えてんだか全く分からない無表情で言う。
「えー勉強の悩みはーもー別に勉強しなきゃいいんじゃないかな。むしろ寝ちゃいな。どんどん寝ちゃいな」
「え、いいの」
「いいよ、だって君の人生だもん」
「え」
「赤点取っても死にゃーしないし、他の事で頑張ればいいんじゃない。寝るのは我慢しないで赤点我慢するのも、寝るのは我慢して頑張ってみるのも、君の自由さっ!」
 サムズアップ。
 なんてしてるけどそれはつまりもー丸投げというやつである。
「あと、身長はー。まそのうち伸びるとは思うけど最悪どーっしても伸びなかったら俺が君の身体いじくりまわして研究を……」
「ひーっ! それは要らないで御座るっ!」
「で、発育を止めたい君はー、そーだなー……んー……じゃあ南米辺りの裸族の村で一週間くらい過ごしてみよう。そしたらなんか開放的になって、どんな自分でももう大丈夫になってるかも」
「あ……はいィ……え?」
「あとー、人が信じられない君はー、いいよ人なんて信じなくてっ!(サムズアップ!)」
「いや、え?」
「だいたい俺も未だに信じられる人なんていないっていうかまず信じようとか思ってないしーはははー」
「え? あ、はい、じゃああははは」
「あとアホ毛はー……うん、目の付け所は鋭いね。ただ君は気付いてないだけで、本当はもう自分でアホ毛を自在に動かせるんだ。その証拠に……あれ? え、え、やばい。なに。何なの、どういうことなの。え、すごい、えっ、何それ何それ、凄いことなってる、凄いことなってる、やばいやばい凄い、何それ何それ何それ」
「えーーーー!! なになになになに、なにがどーなってるのーっ!」
 と、美月はうっかりそそのかされ、カウンセリングルームから逃亡。
「あと発育不足に悩む君の胸はー揉んで貰えば大きくな」
「こらー! いい加減にしろーーーっ!」
 バッコーンっ!
 とそこで炸裂する、彩香のツッコミ。
 アサルトライフルで思いっきり頭をぶっ叩かれた成瀬は、なんかちょっと飛んだ。




「ところで何故……私は幸せがつかめないのだろうか」
 そして今、ラグナ・グラウシード(ja3538)が真剣な顔で悩みを打ち明けていた。
「何故、私を愛してくれる女性が見つからないのだろうか」
 要するに、モテ騎士ラグナは「何故自分がモテないか」について悩んでいるようだった。
「自分で言うのも何だが、そんなに容姿が悪い……わけではないと思う。それに、少なくとも女性には優しいつもりでいるのに。教えてくれッ! 私は、どうやったら愛をつかめるのだ?!」
 詰め寄るラグナ。
「んーそうね」
 それをぼーっと見ていた成瀬は、やがて徐に、言った。
「まずその下着のビキニパンツはやめた方がいいよね」
「え」
「だって見てみ。彼女の居る鈴代君も、桐生君も、そして彼女はいないけどやっぱり意外にモテそう男子の相馬君も、実は皆、下着はボクサーパンツなんだよ」
 と、いつのまにか「なんとなく」その場に流れついた風情で座っていた相馬晴日呼(ja9234)も、気付いたら数に入れしかも下着まで見抜かれている。
 なんでこの人俺の下着……。
 とか一瞬は思ったけど、でもまーわりとどーでもいーので晴日呼は、そんな事よりここって悩み相談室だったのか、とか今更気付いて、じゃあちゃんと悩み考えないとな。とか思って考えて、 んー悩み、悩み、悩みな……癖っ毛がすぐにもじゃもじゃになる事……だけどこれは適当に切ってるからまーいいよな。ところで俺いま何回「な」って言ったかな。「なんとなく」で既に2回も「な」って言うしな。いやこれ意外にちょっとハマるな。な、な、な……。とか一人でハマり込み……。


「さあもう分かっただろう。君が愛を掴めない原因、それは即ちビキニパンツ! 君がモテないのは、君がビキニパンツだったからなんだよ」
 ガーーーーーんっっ。
 ラグナの体に走る衝撃。
(そ、そうか。そうだったのか……! ああなんてことだ……私は今までとんだ周り道を……俺の非モテの原因は、ビキニパンツ。そうか、ただ、ビキニパンツなだけだったのだ! ボクサーに変えたら途端に彼女が! 美しく愛らしく気立てがよくて可愛くて自分を気遣ってくれてスタイルが良くて胸が大きくて可愛い(二回目)彼女が……)

 そして、なんか分かんないけど、自分もうっかりビキニパンツだった焔と源一も、一緒にちょっとガーン。
「だから君もビキニじゃなくてボクサーにすれば、明日からすっかりモテ男だ良かったね」
 成瀬は覇気のない顔で親指をたてた。



「っていうか先生ちょっといい。」
 そしたら突然、そこでポンポン、と肩を叩かれ、えと顔を上げると、透き通るような白い髪をした少女が立ってた。
 エルザ・キルステン(jb3790)である。
 目が合うと彼女は、徐にとっても突飛な事を言った。
「血がね、欲しいんだよ」

 でもそんな言葉を言われた経験がなかったので、永野は思わず「え?」と聞き返した。
「いやだから血をだね、飲みたいんだよ」
 っていうのがなんか更に良く分からなかったので、「あーはーそーですかー」と聞き流した。
「だから、飲ませて?」
 はいいいですよどうぞ。
 なんて言うわけない。「いやえ、ちょ、ちょちょちょ」
 そしてやっと事の重大さを理解した頃には、彼女の顔が眼前にーっ。
「いやいやいや、ごめんちょっと待って。何してるの」
 そこへゆらーと現れた成瀬は、ぽん、とエルザの肩を叩き、ぐい、と引き戻した。
「いや、永野の血を吸おうと」
「やだ」
「え?」
「俺のにして」
「え?」
「おぉー、先生という職業も大変なものなのですねー」
 そこで暢気な声が聞こえ、振り返れば駿河紗雪(ja7147)と黄昏ひりょ(jb3452)が立っている。
「いやーほんと、カウンセリングって血まで吸わせてあげるんですね。尊敬だー」
「いや違いますよえ、違いますよ」
「そうだよ違うよ。永野君の血じゃなくて、俺の血を吸わせてあげるんだよ。永野君には、指一本触れさせないから」
「おぉーなるほどですよ。永野先生は、成瀬さんに愛されているのですねー」
「えっ、駿河さん。二人とも男なんだけど……って、ああそうね。駿河さんはそういう意味では言わないよね」
「んぅーそういう意味とはどういう意味……」
「はいはい、そんな所で私登場!」
 そこへずさーと、そこに滑り込んで来たのは、ビラ配りを終えた楓である。
「ふうビラ配り疲れた……でも間に合ったよ! さあ聞かせて! 先生たちは成瀬×永野なのか、それとも永野×成瀬なのか!」
 ビラの残りをマイクのように丸め、成瀬と永野に突き付けている。「これがもう気になって気になって夜も眠れません! だから教えて! どっちが上なの、どっちが下なのっ」
「いや生々し……」
「おぉー、それは白状しなければなりませんね、先生。でもうっかりばらしても大丈夫なのですよ。ひりょさんは、お母さんみたいな方なので秘密もばっちり守るのです」
「そこの駿河さんや。なぜに俺がお母さんなのですか。せめてお父さんにしてくださいな」
「いやまーそれはやっぱりあれでしょ成」



 とかいうその頃、待合室では。
 歌音と五十鈴 響(ja6602)が話をしている。
「私もカウンセリングには興味があってですね。音楽とか好きなので、音楽で癒しをって考えてるんですが、そもそもカウンセリングがどう必要なのかとか、意義とか価値とかちょっと曖昧なんですよねー。性格的に合わない方もいると思いますし……そういうのって分かりますか?」
「んーそうだなあ」
 ルーム内の教師よりもよっぽどしっかりとした風情の歌音は、白衣の前を掴み、裾を直したりしながら、のんびり語る。
「色んな種類の生徒がいるからこそここが必要なんだと思うんだ。撃退士という特性上何らかの影響はあってしかり……例えばPTSDとかな。それにいろいろな種族が居るから、生徒間でうまく馴染めていない状況もあるだろう。特に多感な時期故にそういった心の闇が芽生えるもの。そうした心情を吐露させスッキリさせる事がここの仕事なんだと思うよ」
 と、頼りにならない馬鹿教師の変わりに彼が全て纏めてくれた。
 本当はこの部屋にはそういう意義があったらしい。

 つまり……悪いのは全部、成瀬と永野だ。






依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:18人

双眸に咲く蝶の花・
常塚 咲月(ja0156)

大学部7年3組 女 インフィルトレイター
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
未来へ願う・
桐生 直哉(ja3043)

卒業 男 阿修羅
それでも学園を楽しむ・
エナ(ja3058)

卒業 女 ダアト
撃退士・
ルリ(ja3090)

大学部4年35組 女 インフィルトレイター
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
失敗は何とかの何とか・
武田 美月(ja4394)

大学部4年179組 女 ディバインナイト
SneakAttack!・
高峰 彩香(ja5000)

大学部5年216組 女 ルインズブレイド
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
幻想聖歌・
五十鈴 響(ja6602)

大学部1年66組 女 ダアト
君との消えない思い出を・
駿河 紗雪(ja7147)

卒業 女 アストラルヴァンガード
怠惰なるデート・
嵯峨野 楓(ja8257)

大学部6年261組 女 陰陽師
子猫の瞳・
相馬 晴日呼(ja9234)

大学部7年163組 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
カレーは飲み物・
最上 憐(jb1522)

中等部3年6組 女 ナイトウォーカー
夢幻の闇に踊る・
桐生 水面(jb1590)

大学部1年255組 女 ナイトウォーカー
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
撃退士・
颯(jb2675)

大学部1年96組 男 ルインズブレイド
スペシャリスト()・
ヴェス・ペーラ(jb2743)

卒業 女 インフィルトレイター
蒼閃霆公の心を継ぎし者・
メリー(jb3287)

高等部3年26組 女 ディバインナイト
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
UndeadKiliier・
エルザ・キルステン(jb3790)

大学部1年70組 女 鬼道忍軍
暁は来ぬ・
赤糸 冴子(jb3809)

小等部6年2組 女 阿修羅