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マスター:カナモリ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/01/15


みんなの思い出



オープニング


 とんとん、と肩を叩かれ振り返った瞬間、
「ねえねえ、祠の中にある風船みたいな形をしたサーバントを討伐して貰って、死骸を回収して来て貰おうと思ってるんだけど」
 と、久遠ヶ原学園の研究職員である成瀬が、唐突に言った。
 永野はあんまりのことにちょっと茫然として、びっくりするくらいに整ったその顔をちょっとぼーっと眺めた。
「あ、はー」
 それから、とりあえず間延びした相槌を辛うじて打った。
 打ったけど、それって今ここで言うことですか、とはちょっと思った。思っただけではなく実際に、「あれでもそれって今、このタイミングで言わなくていいですよね」と、口にも出した。
「でも別にどのタイミングで何を言うかは俺の自由なんだし」
 なんて子供みたいな事を言われたらもう何も言えない。
 途方に暮れてテーブルを振り返ったら、向かいに座った女の子達の、「え」みたいな顔で視線をぶつかった。この美形は、いきなり合コンに乱入して来て、しかも皆が自己紹介している最中に、突然何を言い出すのか、と思っているような顔で、それは確かに正解である気がする。
 でも久遠ヶ原学園の研究職員の変人だけど優秀らしい成瀬は、人の話の腰を物凄いマイルドに折っても平然として、
「あとね、こんな所で暢気に合コンなんかしてる永野君を見てたら、軽く苛っとして邪魔しちゃったよ。ごめんね」
 とか、相変わらずの覇気のない無表情で、そんなエキセントリックな事を口走ってきたので、永野はなんかもー漠然と負けた気がした。それにこのままこの変人を喋らせておいたら、どんどん他の友人や女の子達の気分も害していく危険性も高かったので、仕方なく「すいません、ちょっと」と、席を立つことにした。
 店の脇に成瀬を引っ張って行って、「明日聞いたら駄目なんですか」と、一応、申し出る。多分駄目とか言われるんだろうな、と思ったのだけど、そしたら予想に反して「うん別に、明日でもいいんだけど」という返事が返って来て、「え」と驚いた。
「え、いいんですか」
「でもその代わり俺があの合コンの席に居座るけど、いいよね」
「いいよねって交換条件の選択肢おかしいですよね」
「じゃあさ、とりあえずさ、あっちの席に座ってじっくり話したらいいじゃない」
「いいじゃないって良くないですし、そもそもじゃあの意味が全く分からないですし」
 って言いつつも、抵抗しても面倒臭い事になりそうな予感があったので、永野は従う事にした。
「それでなんでしたっけ。また変テコリな敵の話でしたっけ」
 興味も関係も全然ないのにどうしてそんな話を聞かなければならないのか、とか、むしろどうしてこんな場所でそんな話を聞かなければならないのか、とか、ふと我に変えると発作的に暴れ出してしまいそうな気がしたので、考えないようにし、話を促す。「確か、風船みたいな形をしたサーバントとか言ってましたけど」
「そうなの。今回のサーバントはちょっと特殊なの」
「っていうか、いつもですよね。いつも変じゃないですか」
 永野は思わず指摘する。
 変人の成瀬は、アウル武器や魔装の研究の傍ら、敵の能力などについてもいろいろと情報を集め研究を行っているらしく、いつも変テコリな敵の情報ばかりを集めては喜んでいる。といっても顔には全く出てないので、嘘か本当かは分からないのだけれど、本人曰く「どきどきするよね」であるとか、「わくわくするよね」であるとか、絶対そんな感情貴方の中にないですよね、と言いたくなるくらいの覇気のない無表情で良く口走っている。
「うん実は、今回のこの風船のようなサーバントはね。特殊な天界製の膜で守られてるみたいでね、生命力はさほどでもないんだけど、耐久性が半端ないことになっちゃってるんだよね。だから現状でのアウル武器での通常の攻撃やスキル攻撃だけでは、出来ない事はないけど破壊が難しそうなんだよね」
「はー」
「だかららさ。攻撃が通りやすいように、ちょっとV兵器を考えてみたのよね。人間のネガティブな感情をどんどん吸い込むバルーンだからね。そこを逆手にとって、人の怒りの力を、攻撃力に変えるV兵器を考えてみたわけ。ただちょっと実用化は出来なかったというか、実戦向きじゃないからね。何ていうかちょっと手間がかかるから、使う側の負担も大きいんだよね。でも折角だからちょっとだけ協力しようと思って。試作品ということで、今回の依頼に参加する生徒達に使って貰おうと思ったのよね」
「へーV兵器とか作れるんですね」
「そうねまあ一応」
「意外と凄いんですね」
「尊敬した?」
「はーそうですねいやまあなんか、数学教えるくらいしか能のない身としては、ちょっと凄いのかなって」
「じゃあさじゃあさ」
「はい」
「何ならその勢いで俺のこと好きになっちゃっても、いいよ」
 とかなんか、また全く意味不明な事を言った美形の顔をちょっとなんか眺めた。
「あ、それはいいです」
「どうして」
「いやもうそこでどうしてって聞いてくる感じがもう無理っていうか、合コンの最中に邪魔してくる神経が無理っていうか」
「だって」
 とか、覇気のない美形は無表情のままちょっと顔を伏せ、「なんか嫌だったから」とか、完全に子供みたいな事を言った。
「成瀬さん」
「うん何だろう永野君」
「気持ち悪いです」
「あとね。俺が割り込んで行って友達の人達に悪い印象を与えることで、永野君の評判も下がればいいな、と思って。それで俺以外の友達とかいなくなっちゃえばいいな、と思って」
「成瀬さん」
「うん何だろう永野君」
「真顔で怖いです」
「じゃあ笑って言えばいいの」
「ごめんなさい、それはそれでもっと怖い気がします」
「じゃあまあ、依頼の話はそういうことでね」
「はい」
「あとは、一緒に食事でもしようよ」
 とか、マイペース過ぎるくらいマイペースにメニューを手に取り、眺め始める姿を茫然と見つめる。
 これはもしかして、もうあっちのテーブルには戻らせて貰えないってことなのかなと、小さく、思った。





リプレイ本文




 その日、そこに集まった8人の撃退士達は、何処か殺伐とした雰囲気を漂わせていた。

 それもそのはず。
 これから自分を含めたこの8人は、ここでイライラしたり怒ったりしなければならないという、過酷な難題に立ち向かわなければならないのだ。
 何もないこの場所で、いきなり、突然。

 と。
 そんな自分はいくら仕事とはいえ、冷静になって考えると、ちょっと、引く。
 そういうV兵器なんだから仕方ないんだけど、やっぱりいきなり苛々し出す自分とか、なんか、引く。
 それでふと我に返ったりして、存在の基盤を冷静な所に置いてしまったりすると、この仕事自体が全う出来ない事態になりかねないので、だからのっけに殺伐としてるって思いこんで、その勢いで怒るのはどうか。
 と企てていた矢野 古代(jb1679)の思惑は、黒井 明斗(jb0525)のふわわああんとした、物凄い朗らかな優しい笑顔を発見してしまった瞬間、挫折した。

 そんな全うで真っ直ぐで無垢な笑顔を前に、殺伐の妄想なんてもうできない。
 現実は過酷だ。状況はハード化している。
 そして仲間達は程良くマイペースだ。
「うちとしては現状そんなにストレス貯める事ないから……影響を及ぼせるとは思えないけど」
 高虎 寧(ja0416)が困惑気味に微笑みながら頬に手を当て呟いている。
「確かに苛々したことなんて、中等生にはそんなにないかも」
 四条 和國(ja5072)は、腕組みながらのんびりとした相槌を打ち、俄然行方不明なイライラの入り口を探し、思考の旅に出る。
「んーイラっと力を変換ねぇ。そりゃいくらでもあるっちゃあるけどさ、できりゃ思い出したくないよな、そんなの」
 虎落 九朗(jb0008)はわりと身も蓋もないことを言った。
「というか。本当に役に立つかどうか微妙ですよね」
 すると寧がそんな感想を漏らし、そしたらメレク(jb2528)が、
「でもこのV兵器、イラっとする事で効果が上がるなんて、なんとなく天使が感情を吸い取るのと構造が似てますよね」
 なんて相槌を打ち、皆で笑った。

 古代は最早、勝てない気がした。
 この無垢でふわわんとした温かい雰囲気を前に、怒ったりイライラしたりするなんて、もー絶対無理な気がした。
 いや、そうだ。
 イライラなんてしなくていいんだ。もうやめよう。やめちまおう。イライラも怒りも忘れて、皆で朗らかで楽しい時間を過ごそう。
 皆で笑うんだ。いいじゃないか。こんな、こんなサーバントなんて放っとけば……。

(ばか野郎ーーーっっ!)

 ぴぴ。
 古代のV兵器のポイントは2上がった。


 とかいうその頃、山木 初尾(ja8337)は片隅の方で一人、わりとぼーっとしていた。
 ように見せかけて、意外にさらーっと仲間達の姿を観察したりしていた。
 向かいでは、篠田 沙希(ja0502)が、蛍丸を振りかぶり、無言でサーバントにばっこーんと振り下ろしたりしている。
 そこには、やっぱり一応自分の目で確かめておかないと、みたいなエネルギッシュさがあるような気がして、撃退士としてこの覇気のなさは大丈夫なのか、と常々自己嫌悪していたりする身としては、少し羨ましくも感じたのだけれど、彼女のやり方は多少ハード過ぎたようで、思いっきり打ちこんだ大太刀は「なんか天界製らしい特殊な膜」とやたらに思いっきり跳ね返され、抜けなかったつるはしが思わぬ所で抜けて「んがっ!」と万歳しちゃった工事現場の人みたいになった。
 なったけど、彼女は全然気にしてない。
 か、どうかは分からないけれど顔がもうクールだ。

「んー実は僕もそれ思ってたんですよね。ホントに普通の武器じゃ難しいんですかねぇ?」
 そんな中、明斗は明斗で、自ら十字槍を突き刺し事実確認を行っている。
 人に流されそうな柔和な外見の彼だけれど、あんな万歳を見ておいてまだやるとは、こちらも意外と自分の目で確かめてみないと納得できない派なのかも知れない。
 わりとしつこく、ガツガツ、突いた。
 で、最終的には納得した。
「なるほど無理なんですね」
 ふう、と額の汗などを爽やかに拭って見せながら、言う。「ほんと、ただの丸の癖に生意気な奴ですね」
 そして笑う。
 でも、初尾は彼のV兵器のポイントがぴぴ、て上がったのを見逃さなかった。
 イライラしている。あれはきっと確実にイライラしている。
「んーじゃあやっぱり、イライラしたことを思い出さないと駄目なのかー。あーあ面倒臭いですね。でもんーイライラかあ……」
 って全然気づいてない彼は、のんびりと考え出した。
 不可解だった。

「じゃあ、どうする。そろそろイライラ発表してくか?」
 九朗が皆を見回しながら言った。
「まあそうですね。共感ポイント制もあるわけですし、発表はいいとは思いますけど」
 メレクが少しだけ困惑したように九朗を見た。「でもそうは言っても、誰から言うかとかは結構問題じゃないですか」
 確かにそうだ。
 と、その場に居た皆が、自分が一番手になるなんて思ってなかった顔で互いを見回した。
「ねえねえ、じゃあさ」
 和國が軽く挙手、みたいに手を上げながら、皆を見た。
「じゃんけんで決めちゃうっての、どうだろ」




「んーまあうちとしては、さっきも言った通り、現状にそんなストレス感じてないので……」
 結局じゃんけんで一番手となってしまった寧は、そんな慎重な前置きを置き、皆の顔をちらちらと見た。
「影響を及ぼせるとは思えないんだけど……」
 そりゃまーきっとそーなるよね。
 とか、ちゃっかりじゃんけんで勝った初尾は、また皆の輪からさりげなく離れつつ、思った。
 だいたい、いきなりイライラした事を思い出せなんて言われても無理だろーし、その上みんなの前で発表しなきゃいけないとかいうハードルもあるのだから、これは多分中々思い付かな。
「でもやっぱり寝入る瞬間に邪魔されるのは腹立つかな」
 なんて前振りは嘘としか思えない素早さで、彼女はもう言った。

「うちはねえ。睡眠欲の塊みたいなものだから、意外に暇と余裕が有ればどこでも寝れるのよね。勿論身の安全は自分で確保できるから危険が迫ろうとも即時に起きて対応出来るのだけれど、それでもやっぱりこう、これから無防備に寝ていいですよ、みたいな瞬間はあって、だからあーこれから眠れるんだーって凄い幸福な気分で布団に入って、はふ、とかなって、気持ち良いうとうと状況から一気に意識が落ちて行く瞬間は何にも変えがたい快楽なわけ。だからそれを妨げられて不用意に起こされると、しかもそれがくっっっっっだらない内容だったりすると、殺意すら沸く時があるんだよね」
 絶対それ言う気満々だっただろ、みたいな滑らかさで一挙に言って、凄まじい勢いでイライラポイントを加算させた。

「確かにな」
 と、そこで前に出て来たのは、沙希だ。
「何かの邪魔をしてくるやつというのは本当に腹立たしい」
 顔や口調には全く同意感を漂わせずに、それでも彼女はクールに頷く。
「私も以前、急いでいる時にエスカレーターで邪魔をされたことがあってな。つまり、大人しく乗っているのを選択した人間達は、右側とか左側とか、どちらかに寄って、道を空けておかなければならない、というこれは礼儀ではないだろうかと思うんだ。例えば、子供や老人など、理由があって道を空けられない人々ならまだしも、理由などなく理不尽に人の前に立ち塞がり、人々の行く手を阻むとなると、これは最早、悪の所業」
 そこで彼女は長い髪をぶわあぁさ、と靡かせながら、皆を振り返った。
「一体何の権利があって、急いでいる私の邪魔をするのか。その段差を踏破して時間を短縮しようとしている私の自由を奪う権利が何処にあるのか。そう何人たりとも、私が私の道を行く事を邪魔する権利などないのだ!」
 ぴしーっ。
 と、決まった。
 これは決まった。
 たかがエスカレーターの話なのに、説法を説いているみたいな力強さで、皆の心をしっかりキャッチ。

 じーん。
 と、かく言う初尾もしっかり共感していた。
 人は人、自分は自分。人が人の選択で勝手にやってくれるのは別に全然どーでもいー。
 けれどそれで人に迷惑をかけては駄目なのだ、多分。
 だから勝手にやりたい奴は、迷惑かからない所で勝手にやってれば良くて、迷惑かけそーな奴は、迷惑かけそーな事を自覚して、だから一人でふらふらしてればいーのだ。
 と、納得済みではあるけれど、たまに寂しくて絶望しそーなわが身を振り返り、なんか俄にずーんときた。

 いや落ち込んでる場合ではなかった。
 次のイライラが待っている。
 と、その一点で初尾は持ちこたえた。

「んーでも分かる。分かるなあ。やっぱり人に迷惑かけちゃ駄目だよね。協調性っていうか、その場の空気とかっていうのもあるしさー」
 和國が、自分の頬を突きながら、前へと出た。
「僕もね。打ち上げで焼肉行こうとしてた時の話なんだけど。その中の一人の女の子がさ、「私、お肉駄目なんだ〜」とか言って主張してきちゃって。なんかその場がすごいシラーとなっちゃった事があったんだよね。
 いやそりゃあまあ、駄目なら仕方ないけどさ。でももう皆でそこ行くつって、予約してくれた人だって頑張ったのにさ。テンション下がるじゃん。何で今このタイミングなの、ってとこも凄い引っ掛かったし、いやいいんだよ、いいんだけど、何だろう。焼肉屋つっても別に、肉しかないわけじゃないんだしさ。
 でもそしたらその子帰るとか言い出して。そんな武器持ち出されたら、もう何も言えないし。益々その場の空気は悪くなっちゃうし。そんなつもりで言ったわけじゃないのに。ただ皆で一緒に焼肉屋行きたかっただけなのに、そんな帰るとか……」

 と、和國は結局しょぼーん、とした。
 意外と大人だった13歳は、けれどやはり13歳なので、イライラするはずが勢い余ってしょぼーんになるのだ。
 そこはまだまだ詰めが甘い。どうせその女が悪いのだ。と、女子には微妙に厳しい初尾は独断と偏見で決めつけた。肉が駄目と言った時点で、そーですか肉がアレルギーなんですか、じゃあむしろ連れていくのは可哀想ですね、お疲れ様でしたさよーならァ……、と言いはしないが言ってやりたい。
 だから恋人がいないのだ。
 いや別に欲しくないのだだから。

「んーんー分かる分かる。自分の事しか考えてねーやつっているよな。俺も満員電車に乗った時、すぐ隣に滅茶苦茶香水くさいおばさんがいてよ。満員電車だから逃げ場ねーし、匂いも篭るし、さすがに殴るのは我慢したけどさ……っつーか、途中からきつ過ぎる匂いで気持ち悪くなってくんのな。あれほんとまじ苛つくわ」
 そこへ九朗が畳み掛けるように無難な怒りを披露し、和國のしょぼーんをフォローし、皆のポイントを加算させた。
 なんか凄いイイ奴に見えた。

「でも自己主張って言えば、人間社会の奇妙な風習の「センキョ」とかいうやつの音も、煩くないですか」
 と、元天使のメレクは、人間が仕方ないしーと流している部分を、鋭く突いてきた。
「色々な車が街を駆け巡って、常々「人々のために」とか言ってるんですけど、人々のためならむしろあの音量は下げるべきと思うんですよね。人々には休息が必要で、それなのに大音量で、これまた物凄い良く通る声とか延々聞かされ続けて、今この瞬間に疲れて眠っている人だっているのに、そこ想像できない人に果たして本当に人々の生活が守れるのか甚だ疑問で、いい加減静かにしなさい、と思ったんですが、皆様はどうでした?」
 もっともだ。

 と、その辺りで、皆のポイントは意外に9とか溜まっていて、はーわりと簡単でしたよね、じゃーそろそろ倒しときます? みたいな空気になりつつあって、でも一人だけそうじゃなくて焦っている人がいた。
 それは未だ「んー」とか唸りながら、
「皆さんのポイントたまってるどーしよー、どうしようどうしよう」
 とか、物凄い焦って焦り過ぎて、思い浮かばない自分自身にイライライライラっ! とかしてる自分に全く気付いていない明斗。
 ではもちろんない。
 彼のポイントは最早10だ。気付いていないのは彼だけだ。
 ではそれは一体誰か。
 温厚代表、皆のお父さん、矢野古代・三十路である。
「くそう。やはり10ポイントの壁は高かったか……」
 いや、そうでもない。
 皆わりとちゃんとイライラ出来ている。

「怒るのって苦手なんだよな。でも敵を倒すためには仕方ない……これだけは使いたくなかったが」
 彼はそう言ってロングトレンチコートの間から一冊のノートを取り出した。
 秘密兵器なんだろう、多分。
 そういう出し方だったし。
 だからあそこには、あらゆる怒りや苛々が克明に記されていたりするのかも知れない。
 と。
 古代は感情たっぷりに、ノートの中身を朗読し出した。

「連絡超。○月○日。
 くくく、今日も我の正体は暴かれることはなかったな。
 俺が魔界の王子である、ヤノーノコシッーロー十四世(14歳だから)であることは、隠し通さなければいけない秘密だからな。そう。ヤノーノ帝国がこの人間界を支配するその時までは。くくく。
 そんなわけで魔界の王子をやっていくのも大変です。でも頑張ります。
 先生は、どう思いますか。

 そうですか。それは大変ですね。
 ところで王子、宿題は数学と理科ですよ。明日忘れないようにして下さいね。
 それから悩みがあるなら先生がいつでも相談に乗るので、気軽に話して下さいね」

 気付けばそれは、苛々した話ではなく、痛々しい話だった。
 けれど彼の中では、「こんなものを書いてしまった自分」というのが余程腹立たしいらしく、ゲージを振りきる勢いで、ポイントをどんどん加算させていく。
「○月×日、今日も……」

 誰も何も言わなかった。
 誰も一切共感出来なかった。
 ただただ痛々しかった。
 和國などは、自分より一つ年上だった頃の古代の痴態に泣きだしそうになり、「分かったから! もう分かったからやめて、古代さん!」と縋りついている。
 初尾は指摘すべき箇所が多すぎる気がして、最早突っ込みどころ絞ることすら出来ない。
「こんな……こんなものを読むことになったのも貴様のせいだサーバントーっっっ!」
「分かる、分かるよ、そんな自分が許せないんだよね! さあ一緒に倒そうバルーンを!」

 そんな自分は許せない。
 なるほどそんな怒り方もあるのだ。
 奥が深い。
 初尾はちょっと感動した。

 かというとそうでもない。




 とにかくポイントが溜まった皆は、ここぞとばかりに思いきった一撃でサーバントを打っ叩き、すっきりとした。
 きっちり始末されたサーバントは、メレクがシートに包んで持ち帰る事を提案したので、皆でそれを手伝い、持ち帰ることにした。
 帰りには打ち上げでカラオケに行くらしー。
 と、これは和國と九朗が言っていた。
 サーバントを打っ叩いたくらいでは、彼らの苛々は収まらないのだそーだ。
 さもありなん。





依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
撃退士・
篠田 沙希(ja0502)

大学部7年57組 女 ルインズブレイド
真冬の怪談・
四条 和國(ja5072)

大学部1年89組 男 鬼道忍軍
地道に生真面目・
山木 初尾(ja8337)

大学部5年139組 男 鬼道忍軍
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
無尽闘志・
メレク(jb2528)

卒業 女 ルインズブレイド