●とある場所にて。
「こんにちは、報酬と経験値貰いに来ました」
モブ教師がカタカタとキーボードを操作していると、かわうい声で誰かが言った。
え、と教師が振り返ると、これ絶対に風になびくタイプのやつだよね、可憐な美少女が着るやつだよねってワンピースを着た美森 あやか(
jb1451)が立っていて、しかもレースのエプロンとかつけていて、いきなりのっけからこういうサービスショット出るとは思ってなかった教師は、思わずあれこの仕事って男子をガチホモまみれにさせてニヤニヤする依頼じゃなかったっけ、と一瞬自分の居場所が分からなくなりかけた。
隣には、首にタオル巻いたカーゴパンツ姿の礼野 智美(
ja3600)が立っている。
同じように、「皿洗いが終わったので報酬と経験値下さい」とかなんか、ずずいと前に歩み出ながら、言った。
「あれ、君達はゲームの中に入ってないの」
モブは巨大なモニター画面に映し出されている映像と二人を見比べながら首を傾げる。
「だって……例えゲームの中であってもお兄ちゃん以外ににゃんにゃんされるっていうのはちょっと困りますし」
赤らむ頬を押さえながらくねってするあやか。
「いやにゃんにゃんて」
「だから親友の智ちゃんと一緒に参加できそうなお仕事って観点で参加しただけなのでっていうかむしろ全然人とか集まってなかったんで余裕で参加できましたありがとうございます」
「はいご協力ありがとうございます」
「とりあえず俺達は皿を割ってないので報酬上乗せですよね」
いつものクールビューティーな顔で平然と言ってのける智美。
「はいじゃあこれ」
経験値はよ、みたいなノリの二人に向かい、モブは経験値(的な何かとゲーム内通貨とか呼ばれるアレ的なもの)の入った紙袋を差し出した。「お疲れ様でした」
「って同一経験値&通貨かーーーっっ!!」
智美は中身を確認すると、いつもはクールな中性的美貌を今回ばかりはお茶目な劇画フェイスにしたりして、紙袋を地面に向かいせいっ!
ってして、ぐしゃ、と更に踏み潰しつつ心の中で<よりにもよってなんでこんな依頼に予約当選しちゃったんだろう>って悲しみにむせび泣いた。
「まあまあ。とりあえず罰ゲームの様子をここで一緒に眺めましょう。はいポップコーンとコーラ」
「って映画館かっ」
とか可憐な声で精一杯言って、教師の頭とかスリッパ(何処にあったんだろう)でスパーンってやってツッコミとかいうやつを入れてみたあやかは、無言で教師に見つめられ、また頬を赤らめくねってした。
「ごめんなさい……です」
「うんまあ可愛いから許しますけども」
「というかあの画面の中のやつは既に、放送禁止コードに触れてるような気がするんだけど……」
なんだかんだ言いつつも、伊達にいろんなお仕事こなしてないぜっ基本的に順応性高いぜって智ちゃんは、すっかりポップコーンをもしゃもしゃしつつ画面を指さしていた。
そこでは初老フェイスのダンディイケメン(今日は全力で左側ポジションのあの執事)が以外と細マッチョだった色黒のボディをてからせながら、酷薄な冷笑を浮かべつつ目元を赤く潤ませ表情を歪めた青年を見下ろし、今まさにファイナルアルテメイテッド状態のエナジーアローをバックスマッシュスッピーンブレイドしようとしている様が……(御年八百九十歳。おじーちゃんは今日も元気です)
ズッッシャーーアアアアア!!!!!!
と、そこに凄まじい勢いでスライドインしてきたのは新崎 ふゆみ(
ja8965)。
の顔のアップ!!!
超アップ!! どアップ!! 二度と見れないくらいのアップ!! むしろ画面全部ふゆみの顔!!
これはどうやら、接近戦ならお任せ阿修羅のふゆみさん。いつもより多めに接近し。
「ちょッ、も……もう……ッ」
背後の。
「アーーーーーーッッッ!!」
映像を。
「アーーーーーーッッッ!!」
しっかりガード。
「アッアッアーーーーーーッッッ!!」
している模様。音完全に漏れてるけど。
「ここから先は良い子の皆には見せられないんだよ〜☆★ だからふゆみが頑張るんだよ〜☆ 体を張ってしっかりプロテクトだよ〜☆ミ」
バッサバッサバッサバッサ。
「それにしてもふゆみのだーりん、この依頼を受けなくてよかったよ……アーーッなことになったら、だーりんカワイソーだもん☆ミ」
バッサバッサバッサバッサ。
「どうでもいいけどふゆみさんは何故木の枝をサンバのリズムで揺らしているんだろう。っていうかなんで俺今、ふゆみさんの顔しか見えてないのにあの音をサンバのリズムで木の枝揺らしてる音だって分かったんだろうあとバックスマッシュスッピーンブレイドって何なんだろう」
コーラをずずずずとしながら淡々と述べる智美。
「きっと雰囲気MSの雰囲気造語じゃないでしょうか。これでなんとなく察しろ的な」
智ちゃんが食べるならあたしも食べるね、みたいなノリでポップコーンをもしゃもしゃしながら言うあやか。
キーボードをかちかちするモブ。
「ちょっと!!! まさかこのまま皿洗いの様子は端折るつもりじゃないでしょうねっ!!」
そこに、どしーんっとふゆみを突き飛ばす勢いで現れたのは、グレイシア・明守華=ピークス(
jb5092)だった。
またも顔面をカメラ(?)にくっつけ、画面全部を自らのどアップで埋め尽くす彼女。
「そこはしょったら皿洗いで大半のプレ埋めた女子はどうなるの! そういう女子を代表して言うわよ! この依頼大半女子なんだから大事にしないと痛い目に合うからねっ」
シャーッ!!
戦闘本能剥き出しにする猫、みたいに目をつりあげて、がおーってポーズするグレイシア。
さすがアストラルヴァンガード。安定の画面ガード力と女子プレ支援力だった。
●でもこんなのっけからメタった時点で既に痛い目に合うの確定って予感もしてるんだ。
というわけでその数時間前。
セレス・ダリエ(
ja0189)は今日もとっても無表情に黙々と皿洗いに勤しんでいた。
そう書けば、まるで彼女がめっちゃ皿洗い上手い人みたいに受け取られるだろうから、もう少し具体的に説明しておくと、目線が完全に手元を見てなくて、じゃあ一体何処を見ているかと言えば、洗い場を挟んだ向かいに立つ、炎武 瑠美(
jb4684)の辺りをガン見していた。
つまりは、手だけはその間も黙々と動かしつつ、目線は瑠美をガン見するという、まるで後ろから操られてるお人形さんみたいな体制で皿洗いに勤しんでいるのである。
これはもう上手いとか下手とかの問題ではなくて、それ以前に人が皿洗いをする作法としてどうなのっていう問題だった。
ただセレスとしては、なんかこー「人様が皿洗いしてる動き」っていうのがなんか面白いなって、子供が大人の動きじーっと見るみたいな無垢な興味で以て見ているだけで、悪気があるわけでは決してないのである。
とはいえ、やっぱりガン見は居心地が悪い。見た目、完全にアンドロイドみたいだったし。
「グレイシア・明守華=ピークスさん、私は今、向かいの人にとても見られています。どうすればいいですか」
ただでさえ若干人見知り入ってるのに、その上ガン見とか、地味に追い詰められ過ぎてじわじわパニック入ってるっぽい瑠美は、中学生の教科書の英語訳みたいな日本語を述べ、隣の友人を見やった。
「落ち着いてしっかり握り、下手に神経質にならずに平常心で対応すればどうって事はn……えなんでフルネームなの」
「いやグレイシア・明守華=ピークスさんのことどうやって呼んでたのか思い出せないんですよ。パニックしてるからでしょうか。それともプレにも書いてなかったからでしょうか」
「きっと大丈夫よ! そういう時は過去の依頼とか呟きとかを参照してくれる仕様になってるんだから」
「だといいんですが……(三分後)……いえやっぱり、一向に思い出せないんで今日だけはピーちゃんって呼ぶことにしますね」
そしてハイライトの消えた目で、虚ろに笑う瑠美。
「って参照なしかぁああ!! 雑MSがーっ!!」
「ではピーちゃん。私は引き続き皿洗いをが……頑張り……頑張ります」
瑠美は皿洗いアンドロイドセレスに再び挑む事にした。向かい合って皿を洗い……皿を洗……洗……。
踏ん張った時間、約二分五十秒プライスレス。
ブハッ!!!
って、水面から顔上げた人みたいに息継ぎして、背けた顔を両手で覆った。
シンク台の中に叩きつけられ、割れるお皿。がっしゃーん。
「洗……洗えない! こんな状態で私、洗えないっ!!! なんでなの! なんで見てるの! なんでガン見なの! なんでそんな目でガン見なのぉぉぉッーー!!!」
更に漫画とかで見るみたいに涙をこう、横にだーって流しながら、そのままよろよろよろけて、洗ったお皿が積まれた場所にどーん。
した瞬間、「ほらみろやっぱり!」みたいにすかさず瞳を光らせ、割れたお皿をキャッチすべく滑り込むグレイシア。
五枚くらいはセーフ! しかし、3枚くらいは割れた。ぱりーん。
「やっぱり私の睨んだ通りだったわね。皿が割れる確率は、洗っている最中よりも、こうして一時待機で積み重ねた分が何らかの衝撃で崩れ落ちる時の方が高いのよ! だからあたしはちゃんと言ったんだから! 洗い終わった分がある程度溜まったら収納場所へしまうべきだ、ってねっ」
グレイシアはがく、と力つきたかのように地面へ突っ伏する。
「ハッ私ったらなんてこと! ご、ごめんなさい」
「いえ、しょうがないわ……しょうがないわよ……不可抗力よ……」
きついことは言いながらも、根は優しいピーちゃんはそんな風に友人を励ましてあげるのだった。
「いやぴーちゃん……言うな」
そんなグレイシアの耳に。
『いちまいにまいさんまい割るよ〜♪』
『よんまいごーまいろくまい割るよ〜♪』
なんだか良く分からない歌が聞こえてくる。
え。一体何事なの……って思って物凄いアンニュイな目で「あれ」の方を向くグレイシア。
(濡れた地面と気だるげな目っていう、ちょっとしたサービスショット仕様でお届けしています)
そこにはインディアンダンス中の彪姫 千代(
jb0742)とふゆみの姿が。
「いちまいにまいさんまい割るよ〜♪」
「よんまいごーまいろくまい割るよ〜♪」
「ななまいはちまいきゅーまい割るよ〜♪」
「十枚の割れた皿ぁ〜♪」
何か(多分インディアン関係)の童話っぽいメロディでそんな歌詞を口ずさみながら、包帯ぐるぐる巻き状態で体育座りしてる亀山 淳紅(
ja2261)の周りをぐるぐる回り、上半身を上下にシェイクしつつ、皿をがっちゃんがっちゃん割ってく二人。
「な、なんてこと……なんてカオスな光景なの」
「ええもう何もかもが意味不明だとしか……そしてどうして彼が裸なのかもあたしには全然分からないわ」
「それは彼が御婆様から、千代や、困ったら脱げば良いからね。と教えられ、育てられたからですよ」
と、唐突に、執事がお嬢様に耳打ちするボイスで、そっとグレイシアに囁く、ヘルマン・S・ウォルター(
jb5517)。
「い、何時の間に!」
「しかし最近は困った事しかないので常に脱いでらっしゃるのです。その為か上着を着ると恥ずかしがるようになってしまわれて……おやおや、ちよ殿は元気が余っておいでのようですね」
割烹着姿のヘルマンは、ふっと上品な笑みを浮かべ、とっても温かい眼差しではしゃぐ孫世代二人を見やるのだった。
このインディアンダンスを目の前にしても動じない冷静さと、細めた瞳に滲む父性。冒頭辺りでバックスマッシュスッピーンブレイドを決めようとしてた細マッチョじいちゃんと同一人物とは到底思えない穏やかさである。
恐るべき執事。底の見えない、執事。
「おー! ヘルマー! 皿洗いって皿をたくさん割るんだろー! 俺知ってるんだぞー!」
「ええ、ええ、構いません構いません、どんどん割りたいだけ割って下さい」
「ちょ、違いますよ〜! 皿洗いは皿洗うだけですから! 割っちゃ駄目ですから! ヘルマーさん笑ってないで止めて下さいよ!」
インディアンダンスの真ん中に居る彼氏を助けようと、必死になって場を鎮めようと奮闘するRehni Nam(
ja5283)だったが、もちろん場はもう収まらない。
「ダイジョウブだよ☆★ お皿洗いなんてラクショーなんだよ〜(`・ω・)-3 最悪全部割っちゃえばいいんだよ〜☆★」
そこに皿洗いよりもインディアンダンスに興味が移っちゃったらしいセレスが乱入。
めっちゃ無表情にインディアンダンスの輪に加わりながら、お皿割ります、割りまくります、脇目も振らずに割りまくります。
そして「はーお皿がこんなに割れ易いとは聞いた事も見た事もなかったですねありがとうございます」みたいな無表情で割れた破片をガン見。
「ちょ、だからもっ! 皿割っちゃ駄目ですってーー!!!」
そんなどうしようもないカオスに思わずキーッてなって、叫ぶレフニー。
皿をフリスビーみたいにして遊んでた千代が、その声に、ビクッとして動きを止めた。
怒られた犬みたいだった。
「でもレフニーさん……きっとゲームの中に入ればあなたのダーリンの傷も痛くなくなると思うんだよ……ヴァーチャルだからきっと傷も治ってる安心設計のはずなんだよ」
そこで唐突に、何処までも澄んだ目になり、レフニーの肩を叩くふゆみ。
「え。ま、まさかふゆみさん……ジュンちゃんのことを考えてくれてたんですか……」
「それにあんな背中の落書きも、ゲームの中に入ったらきっと消えると思うんだよ……」
「背中の落書き?」
こくん、と頷いたふゆみは、レフニーの手を引っ張っていって、体育座りな淳紅の背後へと回っていく。
包帯ぐるぐるに、ジャケットを羽織った格好の彼の背中には、なんかプラスチック製っぽいプレートが貼りつけられていた。
曰く。
このキャラクターは<この依頼に入る前の依頼とかなんやかんやとか>の理由により『重体』となり、能力が著しく減少していましたし、10日間安静に入院しなければならないにも関わらず「きちゃった☆」なんつって、突然訪ねてきた彼女風に目の横んとこで横ピースとか決めてきたので、包帯の胸のところにおっぱいみたいなぐるぐる書いて、どぐ○せんし仕様としています、ご了承下さ。
「ってやかましーーわーー!!! どぐう○んしってどういうことやねんっっ!!! 自分かてなりとうて重体なったんちゃうであほーーーーっっ」
「じゅ、ジュンちゃん!! 傷に、傷に触るから! おち、おちついてっ!!」
今回はわりと大人しめな登場だったからおかしいと思ったんですよね、って実はちょっと思ってたけど、それに関しては口にしないでおいて、とりあえず錯乱状態で背中のプレート剥がそうともがくけども外せなくてキーッてなって、八つ当たりすべくその辺にある皿に「黒タイツ殺」ってマジック(何処から出したんだろう)で書いて投げ出すビヨンドモードな彼を必死に止めるレフニー。
「ジュ、ジュンちゃん! ジュンちゃん! 落ち着いて! どうどうどう」
「うっ、ううっ、酷いわ。重体の人に酷過ぎるわこの仕打ち」
いやんってポーズで胸元を隠しつつ、むせび泣く淳紅。
「おお、じゅん殿……。なんとおいたわしいすg……いや。良く見れば……おお何ということでしょう。とても良くお似合いではありませんかっ。素敵ですよ。ええ、チャーミングです。なあに、じゅん殿ならどんな落書きがあろうと似合うのは必須。この爺やめの言葉を信じて、どうか元気を出して下さr」
「って励まされれば励まされる程切なくなるのはなんでやの……おじーちゃーん!」
ちゃーん、ちゃーん、ちゃーん……。
工場の中にこだましていく、淳紅の絶叫。
っていう横でまた、インディアンダンス再開するふゆみ。
「そうと決まれば皿割るのみなんだよ〜☆★ げへへ……罰ゲームの恋愛シミュレーション……オトコノコがおもしろいことになるんだよねっ、これはミ・モ・ノ☆★ ミモノなんだよ〜☆★」
「ちょ、ふゆみさん本音! 本音漏れてますから! めっちゃあくどい顔になってますから! 確信犯ですから!!」
「げへへのへー(・∀・)」
「げへへじゃないですよ! 思い出して下さいふゆみさん! お皿の……いえ、物の大切さを! 久遠ヶ原に来る前のあなたならきっとこんなことはしないはずですよ!」
レフニーの言葉にハッとして、一瞬動きをとめるふゆみ。
その脳裏に浮かぶ、弟や妹達の顔……。
片親で苦労はさせまいと、母親が昼夜働いて生活費を稼ぐ間、彼女はかわりに弟たちの面倒を見、家事に忙しい日々を送っていたのだ。
<にーちゃん、にーちゃん。うちお腹すいたわー>
<待ってろやせ○こ〜。今、兄ちゃんがええもんくわしたるからなっ!>
「うっ、うっ、せ、せ○たさんっ。ご、ごめんなさいなんだよ〜☆ ふゆみ、心を入れ替えてしっかり洗うんだよ〜うっ、うっ」
「って今絶対なんか違うこと思い出してますよね、ふゆみさん……」
とかやってる隣では、すっかりしょんぼりとしゃがみ込み、ヘルマンの割烹着を引っ張ってる千代の姿があった。
「うー……で、でも俺……俺ちゃんと洗ってるのに皿が割れちゃうんだぞぅ……ヘ、ヘルマーァ……どうしたらいいんだぞぅ……」
レフニーちゃんの言葉に心を入れ替え、真剣に洗いだしたもののやっぱり全然洗えなくてむしろさっきより多めに割ってしまった感じの千代はしょんぼりを通り越し、しょんめりしている。
「なあに。落ち込むことはありませんぞ。ちよ殿が悪いわけではないのです。全てはこの皿めの性根が足りぬが故。……めっ!! この皿! めっ!! ほうら叱ってやりましたぞ。これでもう大丈夫です。そんな事よりもちよ殿に怪我はありませんかな?」
この人本当にノーマルなのかなって見る人が見たら思うくらいの優しさで、ちよの背中(裸体)をさわさわとさすってあげながら、猫撫で声を出すヘルマンじいちゃん。
「ってちょっと離れてる間に、酷い事になってるな……」
そこへ、智美とあやかが休憩から戻り、姿を現した。
二人は顔を見合わせ、頷き合うとすぐさま皿洗い作業を開始したのだった。これぞアグレッシブ皿洗い!
「遅れてた作業分を取り戻すぞ!」
「はい! 智ちゃん!」
つってそりゃあもう、計算しつくされた連携プレイで、具体的には智美がスポンジで洗う→あやかに渡す→あやかが濯ぐ→すすがれたやつを江戸川 騎士(
jb5439)が専用のカゴの中に重ねていく→いっぱいになったら江戸川っちが乾燥ルームに押し込m……。
「ってえっ! 何時の間に!」
って何食わぬ顔して物凄いさりげなく連携に混じってる江戸川に、思わずぎょっとして一瞬手を止める二人。
「え、うんいやなんとなく……俺様実はずっとフツーに洗ってたんだけど……っていうか密かにいちおー、ハートのエプロンとかはつけてんだけど……で、ちょっと割ったりもしてたんだけど……なんか周り濃ゆい人らばっかだったから全然気づいて貰えなくて……ここで紛れとかないと、このパートに俺様の出番ねえんじゃねーかなって……思って……」
ずうーーん、と背中に薄暗いもんを背負いこみつつも虚ろに笑う江戸川っちの目からは、すっかりハイライトが消えていたという。
と。
こうして一応真面目に再開された皿洗い作業だったけれど、もちろんこの時点で既に、9人の罰ゲーム行きは決定していたのである。
●それではお待ちかねの罰ゲームターインマッ。
ウィンドーガラスの向こうで、ねろんとした液体洗剤にまみれた美形男子が、濡れたTシャツをすっけすけにして、雌豹のポーズをとっていた。
「俺様だぜ……っ」
カメラに向かいアンニュイな上目遣いを決めてくる江戸川。
その前を、あーこれホントはさっきの皿洗いの時のプレだったんだろーなー、こんな所に部っ込まれて可哀想だなー、みたいな目をしつつもさらーって通り過ぎていくグレイシア。
「やめろ……そんな、そんな憐れむような目で俺様を見るな……!」
「………………」
「無視すんなーー!!」
ゲームの中では一切の恋愛事に関わることなく、ウィンドーショッピングをしようと決めていたグレイシアである。
所持金はなんと、何かのバグとしか思えないような3000000久遠。バーチャルとはいえ、これで湯水のように無駄使いしてストレス発散してやるぜーって、パンパンに膨らんだ財布片手に、彼女はずんずんと進んで行く。
すると、おされなカフェのテラスで話しこむ仲間達に遭遇したのだった。
「ジュンちゃんが時々何を考えてるか分からなくなるんですよね……。いえ、きっと私を愛してくれてるんだろうとは思うんですけど……時々、不安になっちゃって」
溜息をつきつつ、恋する乙女の顔になってるレフニーと、一体何処みてるのってくらい目線を真っ直ぐに定めているセレスである。
「関西人気質だからなのか、たまに考えられないような無茶とかしますし……今回だってガチホモだらけの罰ゲームあるこんなお仕事に参加しちゃって。心配で心配で、私、気が気じゃなかったですよ〜……。昔はもっと堅実で繊細な人だったんです。いえ今でももちろん堅実で繊細な所はあるんですが……時々ブラつけてみたり、それに対抗するからってさらし巻いてみたり……コメディ依頼の時のパージの仕方が半端ないんです。セレスさん。どう思います?」
「アナタシアワセ、ワタシモシアワセ」
テープに録音された電子音声を再生したかのように、無表情に答えるセレス。
「ですよね。やっぱり人って幸せ過ぎると不安になるんですよね……私はもっともっといっぱい私の愛でジュンちゃんを包んであげたいです。優しく触れて癒してあげたいです」
「アナタシアワセ、ワタシモシアワセ」
「ええ分かってるんです。人って恋をするとどんどん欲張りになるんですよね……」
ああジュンちゃん、今頃どこにいるのかなあ。
頬杖を突き、愛しい人を思い出すレフニー。
頭の斜め上辺りに広がったもわんもわんの中にキュート過ぎるジュンちゃんの顔が浮かんだ(BU画像参照)
ではそんなジュンちゃんは何処に居たのかと言えば、ヘルマンが仕える金持ち主人の家に居た。
――これまでのあらすじ――
淳紅、千代、江戸川の居るクラスに謎の転校生がやってきた。
かなりのイケメンかつ金持ちっていうありがちな設定の彼は、ある日、まだ全然仲良くない淳紅に向かい謎の歌ウマアピールを開始した。突然目の前で「千の風になって」を思いっきり熱唱し出され、上手いとか下手とかの問題以前に人としてどうなのかって問題に直面させられ、どうしていいか分からなくなった淳紅はドン引きして硬直。
そこにすかさずぶち込まれる「俺の家に遊びにこないか」。
何の前触れもなく好意MAX状態のNPCに「いやいやいや行くわけないやろ!」などと抵抗してみせるも、「いいんだライバル視されることには慣れてる」と何故かNPCは悲しげな表情で謎の発言をする。
「うおおお。プログラムされた言葉以外喋ってくんないのも意外とやりずれぇぇぇ」
頭をかきむしる淳紅を物陰からそっと見守りつつ、シャッターを切る親友セレス。カメラのフラッシュにうっ、と一瞬顔を顰めた淳紅は、はいって答えるつもりなく「はい←(ピッ)」って状態で、「そうか来てくれるのかありがとう!」って連れ去られるように転校生宅へと運ばれていくのだった。
一方の千代は、謎の転校生の兄(長男)と偶然街中で遭遇し「おー! お前の弟知ってんだぞー!」と持ち前の気さくっぷりで話しかけ、実は密かに人間不信に陥り、半ひきこもりだった彼がどんなに愛想のない返事をしようと、「誰にでも抱きついたりキス(フレンチ)したり挨拶は大事だからな!」とか「よく分かんねーけどみんなと一緒だとたのしーなんだぞー!!」などと謎発言を繰り返し、やがては彼の心の壁を意図せず撃破してしまう。
そんな彼をカメラを構えつつ追跡するふゆみが、「わはー……ふゆみ、オンナノコでよかったんだよっ」かーらーのー「ふゆみのダーリンここに居なくてよかった安堵」を決めたにも関わらず、「でももしここにダーリンが居たら妄想」で自らを追い込み、ふぎゃーー/// って顔を真っ赤にして顔を覆っているその頃、千代の他意なきスキンシップにすっかりやられちゃったNPCは、「こいつを……飼う!」って「完全なる飼育」ばりの危ない欲望を抱き、千代を昏倒させ拉致。
だ、だめよ! 駄目よふゆみ! 考えては駄目!! とまだまだふゆみが自らを追い詰めている間に、すっかり監禁。
「い、痛いこと……痛いことする人は……好きじゃないんだぞぅ……ぅ」
部屋の中に閉じ込められた千代の運命やいかに?!
ってなってるその頃、江戸川は江戸川で、学園の中を歩いている最中突然フラッと来てバタっとなった所を、学園清掃員瑠美に発見されたりしていた。
「誰か。誰か助けてくださーい」とかの映画で話題となった文言を叫ぶ瑠美の元を、ちょうど転校生の兄(真ん中の)が通りかかり、眼鏡を押し上げつつ冷静に「何事ですか」と溜息をつきつつも、ぐったりした江戸川を抱きあげ、保健室へ輸送。
保健の先生には、「貧乏による栄養失調なので寝てればその内目覚める」って言われ、さすが築45年の共同住宅(風呂無、台所・便所共同)に住みついてる常に貧乏悪魔だな、と何故かプライバシー知りまくりのNPCは遠い目をする。
けれど、「もうそろそろ保健室閉めなきゃいけない時間だから」って追いだしたい気満々で言われたので、NPCは仕方なく江戸川を自宅に運ぶことにした。
「うまっ。これうまっ。やべ。バーチャルって思ってもうまっ! めちゃうまっ!!」
目覚めた江戸川は凄まじい勢いでNPCの出した飯を食い、「ふー腹いっぱいだぜー」ってソファで文庫本読んでたNPCの膝にごろんして、すかさず必殺の上目遣いを発動。
「ならこの借りは体で返して貰おうかな」
相手も負けじと「文庫本のページめくりながら素っ気なく言う台詞」を決めて来て、場は更にヒートアップ。
「へーおまえって男の尻弄って盛り上がるタイプなわけ?」
小悪魔系の子ぶりな唇をやけにセクシーに舌でなめつつ、挑発するように相手を見れば、NPCの眼鏡の奥の切れ長の瞳が酷薄にきらんする。
「だったらどうする?」
「へー。いいのかよ。演算処理が間に合わん位、ナかされちまうぜ」
「ふん、それは俺の台詞だ」
――そして皆は一体どうなるの?! ――
その頃、ピンチの千代の元には、つい今しがたまでは温和系執事を決め込み、今は闘気解放して冷酷系腹黒老執事にパワーアップした齢八百九十歳白髪のダンディズムヘルマンが駆けつけていた。
「今の内にお逃げなさい。ちよ殿」
「お、おー! へ、ヘルマー!! ありがとうなんだぞー!」
いそいそと逃げていくちよを見送り、主人に向き直る冷酷系腹黒老執事。
「さて。坊ちゃま。うちの可愛い孫世代に手を出すとは……覚悟は出来ていますね?」
「きさまー! それでもうちの執事かー!」
「正直に申し上げましょうむしろ主人ですら問答無用で喰いますが何か?」
「くそー! お前まで俺を裏切るのか! こ、こんなの、こんなの……」
「さあもうお喋りのお時間は終わりですぞ、おぼっちゃま!」
そしてヘルマンは、俺様受NPC(主人)の服をパージ! 全力でパージ!!
主人のヴァルキリーライフルにスタンエッジな攻撃を加えつつr(冒頭シーンに続く)
っていうその頃、淳紅もまたピンチを迎えていた。
何故かそこはふかふかのベッドルームの上。
「れ、レフニーのためにも貞操は確実に死守せな……」
淳紅はそこですかさず必殺奥義「怪我人大事にせなアカンやろ!」を発動することにした。
うるっと赤い瞳を潤ませ、腕の所を押さえつつ、相手をチラ見。
「痛ッ……ぁ、ん……自分今、重傷やねん……うんこびちびちやねん……優しゅうして、な?」
しかしこれが逆に相手のコンコルドを刺激してしまい、敵の闘気解放がパージ。
「ちょ、ちょちょちょ、タンマタンマ! うそ! 今のなし! うそやって! 自分、レフニー以外攻める気ないですからノーマルですから平均的な男子ですから特殊な趣味なんてありませんから必死に抵抗しますからそしたらなんか抵抗すればするほど相手喜びますから結局嫌がる顔も可愛いね系誘い受けってことになっちゃう寸法ですからってじゃかあしいわっ!!! アホか! 何言わせとんねんっ!!!!」
どんどんと自ら墓穴を掘り、追い詰められていく淳紅。
彼の貞操も最早これまでか! と思われたその時。ナイトは登場するのだった。
バタン!!
「ジュンちゃーーーん!!」
「れ、レフニーーー!」
「ガチホモだからって私は差別や区別したりしません。私は理解のある女なのです! でもジュンちゃんを狙うガチホモは別ですよー! スキルを駆使しつつ成敗ですぅぅぅぅぅ!!!」
「加勢します!!」
槍を構えたレフニーと、何時の間にかトンファーを振りかぶって仲間入りしていた瑠美が、NPCに向かい襲いかかって行った。
「まさかこのような場でご披露する事になるとは思いませんでしたが……くらえー! 炎武式……クロスインパクトぉぉぉぉ!」
「ジュンちゃんを襲う奴は許さないのですー! ヴゥゥァルキリィィィージャベリーーーン!!!」
●こうして彼らはNPCの魔の手を逃れ、バックの貞操は死守し、現実社会に戻ったのだった。
いろんな意味でぐったりとする仲間達の中で、江戸川とヘルマンの肌だけはとってもツヤツヤだったとかなかったとか。
「おー! みんなと一緒にどきどきしたり笑ったり楽しかったんだぞー!」
そして千代ちゃんに関しては最後まで無垢に笑っていた。らしい。
良かったね☆
おしまい。