この世は不条理。
この世は不親切。
この世は乱雑。
この世は猥雑。
この世は下品。
この世は無情。
この世は茶番。
この世は不平等。
この世は不公平。
そんなことは知っている。だからもっと面白い話を聞かせてくれよ。
●
気がつけばユーサネイジア(
jb5545)は、灰色のひび割れた大地の上に立っていた。
いや違う。
座っていた。
ひび割れた大地の上にポツンと置かれた白いソファに座っていた。
辺りには、何もない。見渡す限り灰色の大地が広がっている。
世界は主に灰色で出来上がっていた。くすんだ、黒に近い灰色だ。
頭上を見上げれば、延々と何処までも続く灰色の空。そこに浮かぶ、月のような何か。
月のようなものはようなものというからには月ではなくて、どことなく人の目のようにも見える白くて丸い物体だった。中央に瞳孔のように丸い、そして赤い、メーターのような物が見える。
それがこの「カオスボックス」に入る前に聞いた「許容容量を現す装置」なのかどうか、ユーサネイジアには判断がつかない。
だいたい判断がついたからといって何かがどうにかなるのかって言われたら何もどうにもならないので、ユーサネイジアはもう別にそのことについて考えるのは、やめた。
空洞のようにぽっかりとした、澱んだ赤い瞳で月を見上げる。
「……ああ……死にたい……」
そしてユーサネイジアは、低い声で呟く。
<<<bang!!>>>
ダスダスダスダスダスダスダスダスダスダスダスダスッ!!
そこに突然ものすごい勢いでデカイ恐竜(ティラノサウルス)が走り込んできた。
「ギャアアアアオオオオオンン!!!!」
灰色の地面を揺らしながら走ってくると、重そうに立ち止まり、貫禄ある咆哮を一つ。
うつろな目で恐竜を見つめるユーサネイジア。
「えものみつけちゃったよーみんなーきてー!」
みたいな感じで、またギャアアアとか鳴いたティラノッティは、そのまま一目散にユーサネイジアに向かい突進してきた。
「危ない!! 逃げろォォォォ!!!」
遠くから聞こえてくる、恐竜ハンター花菱 彪臥(
ja4610)の声。
「……え?」
ユーサネイジアが物凄い気だるげに振り向いたしゅんか……パクン。
「ああああ!! だから言ったじゃーん逃げろってぇぇぇ!! 食われちゃったじゃん! 食われちゃったじゃん!!」
赤い髪の毛をがしがしかきむしりながら、地団太を踏む彪臥。
「だからなめちゃ駄目なんだよ! ティラノッティはやばいんだよ、ほんとめっちゃ強いんだよ! 油断しちゃ駄目なんだよ、あんなけ言ったのにあいつ……」
「じゃあえっと、どうする? 彼食べられちゃったけど……今日の所は狩り、やめとく?」
隣で、なんか、漫画でしか見ないような骨付き肉片手にのんびりと言う久慈羅 菜都(
ja8631)。
「しょうがない……狩りに犠牲はつきものだ。恐竜を狩って食べて生きてる俺達狩猟民族にとって、狩りで命を落とす事は名誉でもあるしな。むしろ俺達が仇をとってやるしかねえよ。菜都ネエ、行くぜ!」
そして彪臥は一気に走り出すと、弓を構え敵の目を目掛け、鋭く弓矢を放った。
ぶううん、と大ぶりに首を動かし高速の弓矢を回避するティラノッティ。
そこへ後ろから菜都の放った弓矢が飛んで来て、硬い額の皮膚に突き刺さった。辺りに響く、けたたましい咆哮。その間にも彪臥は敵の腹の下に滑り込み、弓矢を放っている。腹に突き刺さる、幾つもの鋭い弓。
「ぐわ!」
鬱陶しい蠅でも追い払うかのような動きで、敵の巨大な前足が、彪臥目掛けて飛んでくる。
「彪臥さん!」
吹き飛ばされていく彼に向かい、声を上げる菜都。「いつかのお仕事で雪まみれになってた時、実は赤い髪の毛がカキ氷みたいで美味しそうだって思っててごめん!!!」
そして唐突にそんな衝撃の告白をぶちかました。
「い、今言われてもぉぉぉぉぉぉおぉぉ」
ダスダスダスダスダスダス。
その間にも、仲間の鳴き声に呼ばれるようにして集まってくるティラノッティ。
慌てて弓矢を構える菜都。
「どうしよう……あたし一人じゃ……」
「大丈夫だよ、菜都ねーちゃん。俺だってまだ……死んじゃいない……ぜ!」
傷を負いながらもよろよろ、と立ち上がる彪臥。さすが硬いぜディバインナイト。
「お前さえ倒せば……俺が失った記憶を取り戻せるような気がするんだ」
弓矢を構えながら、「明るく振舞ってるように見えて実は意外と記憶喪失だってことに悩んでいた」彼らしい台詞を吐く彪臥。でも残念なことにそれはない。
「いくぜおらあああ!!」
とにかく。
そうして彪臥は風になったかのように高速で走り出したのだった。(いやだからディバインナイトだっつーの)
そこから更になんやかんやつってそりゃあもうめっちゃすっごい(文字数にして1万文字くらいの)戦闘シーンが繰り広げられ、ティラノッティは残り一匹となり敵を前に彪臥は宣言したのだった。
「残るはお前だ!!」
<<bang!!>>
そんなわけで、ユーサネイジアは死んでいた。
常々「安らかに死にたいという願ヒ」なんて、ある意味(むしろ太宰的な意味で)青春真っ只中だった彼である。
これまでもお仕事の最中とかにバッサバッサ簡単に倒されてる敵とか居たら、「あーいーなーあんな簡単に死ねて」とか思ってたし、久遠ヶ原に来てからだってわりとふらっとマイルドに、走ってくる車の前に飛び出してみたり、屋上から飛び降りてみたりしてたのだけれど、まー人間じゃなし、悪魔だし、撃退士だし、ふつーに車に惹かれたり屋上から飛び降りても死ねるわけがなく、ただの迷惑なでっかい人でしかなかったわけだが、この度、カオスボックスの中で彼は晴れて死ぬことが出来た。
これが安らかな死に方かどうかは聊か謎だけれども、向こうからやって来てくれる抗えない死、って意味では安らかってことにしてもいーかも知れない。消滅しちゃう瞬間までもわりと短かったし。
「オメデトーオメデトーデストルドーソーレーソーレイワイノサケダカンパイタナトゥース」
だからお坊さんがお経を唱えていた。
告別式である。祭壇の上に掲げられたのは、UPCジャケットを羽織り、下半身はふんどし一丁で、完全にキまっちゃってる人みたいな虚ろな目であらぬ方向を見て佇んでいる、つるんとした頭の浅黒い巨体を写した写真。
「まさか恐竜に食べられて死んじゃうなんて……」
そんな写真を前にハンカチで目元をぬぐう人々(笑)
一方受付では、暇そーに佇む二人の男子が、告別式に相応しい、真っ黒なゴスロリのファッションに身を包んで世間話なんぞをしていたりしていた。
っていうのをもうちょっと詳細に言えば「黒いレースをふんだんに使用した、黒と白のちょっと退廃的な雰囲気のゴスロリファッション」に身を包んだ藤井 雪彦(
jb4731)と雫石 恭弥(
jb4929)が、「チュッ○チャ○スのビニルってたまに食うとなんであんなに開けにくさ半端ないの」って事について喋っている。
なんて事をマイルドに書いてると、筆者の頭が唐突に狂ったんじゃないか、いやあいつは元々あたまおかしいんじゃないか、とか心配する読者がいるかも知れないけれど、今回ばかりは残念ながら事実を描写しているだけなので、どうか筆者の頭の心配はしないで欲しい。
でもやっぱり筆者の頭の心配をせずにはいられない読者の方がいたらいけないのでちょっと説明しておくと、彼らがマイルドに女物のゴスロリファッションに身を包み、平然とした顔をしているのは別に、彼らに元々女装趣味があったからではない。
むしろいくら女装趣味があったからって、お葬式の受付でゴスロリファッションて常軌を逸しちゃってる狂気の沙汰だろJK。
では何故こんな格好になってしまっているか。
それは全て、リザベートの願望カオスがここにミックスされてしまっているからに他ならない。
カオスボックスという箱の中。ここはそういうカオスな世界なのだ。
リザベートは常々、ほぼ服飾の事しか考えていない……いやむしろ考えられない、綺麗な物とか可愛いものに目がない悪魔ちゃんだった。
なに、我の知り合いだった悪魔の男どもに比べれば、人間の男なぞ細いものじゃ!
こるせっとで締め、ぱにえで膨らませればシルエットなど、どうとでもなるのじゃ! なんて強引な理論を展開する彼女は、あっちの娘にはこんなのがいいかの。とか、こっちの青年にはこういうのじゃの。とか、日々、久遠ヶ原の生徒達で脳内着せ替えなんていう新しい遊びを開発し遊んでいたわけで、実際に着て貰えるこんな機会を逃がすはずは、なかった。
ってことで彼女の欲望はもう止まらない。
実は今まで黙っていたけれど、お葬式の空間は最早、彼女の願望一色に染まっている。なんせ、お坊さんもゴスロリファッションだったし、祭壇は真珠とかカラフルなアクリルとかピンクとか赤とか黒とかで埋め尽くされていたし、一応お花は最初に書いた通り黒と白だったけど、実は薔薇だった。
「人類は皆、ごすろりを着用すべきじゃッ! ほれみぃよう似合うとる!!」
大樹の陰から葬式の様子を眺めるリザベートは、ぐっと勢い良く拳を握る。
拳から溢れだす服飾へのあいじょー。(ピンク)
「っていうか雪彦。さっきから凄い気になってることがあるんだが……言っちゃっていいか」
その頃恭弥はなんだかとっても深刻な顔で雪彦の事を見つめていたのだった。
「え、そ、そんな急に深刻なムードでどうしたんですか、恭弥さん」
「実は言うべきかどうか迷っていたんだが……」
「はー」
「実はな、ほつれてるんだよ……」
「え?」
「ほつれてるんだ」
「ほ……ほつれて、る?」
「そのレースのところだ……! ほつれてとれかけてるんだよ!! どうして雪彦はそれで平気な顔をしていられるんだ! 俺はもうさっきからそれが気になって気になって、ほんとは全くチュッ○チャ○スの話になんて集中出来てなかったんだよ!!」
「えっ! あんなけ文句言っておいてですかっ?!」
「大丈夫だ! 俺に縫わせてくれたら、三分で仕上げてみせるぜっ」
すちゃ、ってお裁縫セット素早くを取り出したゴスロリファッションの恭弥が、真面目な顔でゴスロリファッションの雪彦に詰め寄った。
「じゅ、準備が……いいんですね」
「たまたまだ。たまたま、持ってたんだ」
きりっ。
って物凄いイケメンの顔でサムズアップしたけど、ほんとのところ、彼はいつだって持ち歩いている。
何食わぬ顔して誰かの服のほつれとか、外れかけのボタンとか、シャツについた縦皺とか、壊れかけのレイ○ィオとか見つけては、いつも裁縫ちゃいたいとかアイロンかけ直してあげたいとか、ほんとの孤独が云々とか思ってたわけで、そんな彼はつまり、所謂オトメンというやつだった。
「さあ脱げ! 俺が完璧に仕上げてやるから!」
カオスボックスというメンタルをパージしなきゃいけない世界の中で、そんな彼を止める物はもうなかった。
普段は「恥ずかしいぞ」と囁いてくる理性も、カオスボックスの影響ですっかり機能しなくなっちゃってる、らしい。
その証拠になんか凄い顔がやばいことになっていた。具体的には目が獲物を狙う肉食動物みたいになっていた。
「い、いや待って恭弥さん! そんな半端ない気迫で来られても……!!」
「なに! 大丈夫だ。安心しろ。ほんのちょっと縫うだけなんだ。ほんのちょっと。そこのほつれをささっと縫うだけなんだ。大丈夫だから。縫うだけだから。他には何もしないから……」
「いやこのままでも全然問題ないですし、ちょっと外れかけてるだけ」
「あーーーーーーー!! 触るなああ!! はずれちゃうーーーーー!!」
<<bang!!>>
見る角度によって赤にもオレンジにも見える、オーロラのような空の下で、巨大な龍が舞っていた。
シンバルや太鼓、銅鑼の音が何処からともなく響き渡り、地上では黄色や赤や緑といった派手な色の舞獅があっちへこっちへとゆったりとした動きで飛び跳ねている。
立ち並ぶ中国風の古い建物から覗く、猿のお面をつけた人々。誰もかれもが薄っすらとした微笑みを浮かべ、目元に紅いラインの入った猿のお面姿で、軽やかに駆け抜けていく赤いチャイナドレスの少女を見つめている。
人界に来て初めて話をした人物がいたという中華街に深い思い入れを持つ少女、花琳(
jb5569)。
これは、彼女の深層心理の中に眠る風景の一部だ。
「おーここはーふしぎねー。でもーみんなーたのしそうねー。たのしいのはーいいことよー。わたしもーたのしむのよー」
銅鑼の音がチャインチャインチャインと大きさを増していく。
踊るように歩いていく彼女の前を、これまた踊るように歩いていく猿は、まるで彼女を誘導するかのように大きな仕草でこっちへこいよ、と手招きする。
追いついてみると猿は、「あちらをご覧ください」とばかりに手で遠くの方を示した。
美しい顔をしたガラス玉のような目を持った人形達が整列し、ゆったりと太極拳を舞っている。
「わーい、ふぁりんもやるよー」
花琳は人形達の元へと駆け出していく。
のを、ゆらりゆらりと踊りながらまるで見守っているかのような巨大な龍。
の傍らにはなんか、よく見てみると、みぎゃみぎゃ言ってる子猫サイズのドラゴンがいた。
白いレースで作られたケープみたいなのをつけ、かんわいらしー声で鳴きながら、龍の周りをちょろちょろと徘徊している。
「や、やっと! やっとみつけた! あれだ! あれが伝説のホワイトドラゴンだ!!」
そこで唐突に、男の声が叫んだ。
それを合図にしたかのように、周りの景色がぐにょんと歪み姿を変える。
そこはまるで原始時代のような大自然の中。
なんとか探検隊みたいな格好の男が、上空に浮かぶちっちゃいドラゴンちゃんを指さしていた。
「なんて……なんてかわいさなんだ……!! ぜ、是非撫でてみたい……っ!!」
ってよく見たら、その探検隊の人は恭弥だった。
「よし、捕獲だ! いくぞ、皆!!」
なんつって大草原の中を走りだすオトメン。そんな彼を遠くから見下ろし、なんかみぎゃーみぎゃー鳴き出すドラゴン。
『みぎゃぎゃ! みぎゅっ、みぎゃうーー!!』
訳:(ふはははは! 俺様は悪魔の中でもそれなりの地位に立つ龍の血を引くすげえ悪魔の宗方 露姫(
jb3641)様だー! 俺様を捕まえるとはいー度胸してんじゃねえかあ! やれるもんならやってみやがれー! なんか良くわかんねえけど今日の俺はとってもテンションうなぎ上りなんだぜぇーーー!!! ひゃっはー!)
「こらー逃げるなぁっ! 可愛いは正義なんだぁぁぁ!」
「まずい……暴走している」
オトメン恭弥にすっかり置いてけぼりにされてしまった中津 謳華(
ja4212)は、やっぱり同じくすっかりおいてけぼりにされてしまった雪彦の方を静かに見やった。
「そう、みたいですね。なんか一人だけ格好が探検隊の人みたいになってるし」
ぽりぽりと額をかきながら雪彦は中津を見やる。
「これって……止めた方がいいんでしょうk」
「いいか良く聞け! ホワイトドラゴンには、捕獲した者の願いを叶える力があるという言い伝えがあるんだ! 俺は絶対に捕まえてみせる! そして、そしてこの世を可愛い物で溢れかえらせてやるんだ! そうだ、いっそ……いっそ全部可愛くなっちゃえばいい……可愛い物だらけの世界、ふふふ……ふふふふふふ」
そして懐からお気に入りのぬいぐるみを取り出し(どうやって入ってたんだろー……)頬づり。
「とめましょう」
余りの恭弥の錯乱ぶりに、思わずぐっと拳を握り、中津を見やる雪彦。
上空で鳴いてるホワイトドラゴン。
『みぎゃーーーん?! みぎゃーん! みぎゃぎゃみぎゃみぎゃーん!! みぎゃみぎゃぎゃみぎゃぁぁぁ? みぎゃぎゃぎゃぎゃしかし!』
訳:(はー?! おんどらわっれーい! なめとったらあかんぞわっれーい!! 可愛い物で溢れかえらせるやてぇええ? わらわせよんなしかし!)
「えっ、今しかしって言った?!」
なんて言いつつも、とにもかくにも、走り出す中津と雪彦。
と共に走り出す巨大な大仏。
「えっ、大仏?!?!」
ダス、ダス、ダス、ダス、「ぬぼぉぉぉーん」
ジャイアント馬場のモノマネ的な声で言って、「どうもっ」みたいに大仏は片手を上げる。
誰にか。
向かいから走ってくる「修羅の像」にだ。
ダスダスダスダスダスダス。
「のりょぉぉぉぉーん」
大仏に向かい、「お久しぶりでございます」的にチューチュートレインみたいな動きで答える修羅の像。
の後ろから「ハーイ」みたいな、外人式「握手、肩ポン、ハグ」コンボの挨拶してくるこっわい顔した鬼の像。
皆一様に無表情だったけれど、何だか雰囲気はとってもフレンドリーで楽しそうだった。
「いやあほんと参ったの〜。蛇だの大仏だの神だの鬼だのと考えておったらこんなもんが出てしまったようじゃ〜」
って、全然参ってないどころかむしろ愉快げに、大仏の頭の上で一升瓶片手に寝そべる白蛇(
jb0889)が、そんな事を言った。
っていうかそのほんのり赤い頬でイイ顔してる感じはどっからどう見てもほろ酔いだったけど、外見的にはどっからどう見ても10歳の少女であったし、飲酒ダメ絶対! ラインとしか思えなかった。
思えなかったけれども、外見年齢と実年齢が一致しないのは久遠ヶ原では良くあることで、彼女も例に漏れずその手のタイプで、今日も印籠みたいに大学部と書かれた学生証を下々の者に掲げ、大手を振って酒を飲んでいるのである。
「ほらわしって〜力と記憶を失い人の身に墜ちた神ぢゃし〜? 「白蛇様」ぢゃし〜? 蛇だの大仏だの神だの鬼だの考えちゃうのはわりとデフォ、みたいな〜?」
はっはっは。なんつって凄い楽しそうに笑う酔っぱらい@白蛇。
に合わせて、肩組み合って笑う三つの巨大な像。
「黙れリア充ぅぅぅぅぅぅ!!!」
そこに突然飛びかかってくる目から血ィ流したディバインナイトがいた。
いや「非モティンナイト」ラグナ・グラウシード(
ja3538)がいた。
「何故だぁぁぁぁ!! 何故私などよりよっぽど容姿のまずいそんな大仏に恋人がいるのだ! なんというりふじぃぃぃぃん!!!」
そんな、どう考えても世迷言としか思えない事を叫びながら彼は、ツヴァイハンダーで大仏に斬りかかったのだった。
一体何が起こったのかと戦慄し固まる巨人の皆さま。
このやたら美形な主人公顔で何をどう間違ったか非モテ街道をひた走る非モティンナイトは一体何を言っているのか、まさか頭がいいかんじに誤作動しちゃったのか、とうとう壊れちゃったのか、だいたいなんで目ェから血ィ流してんだよ正気の沙汰じゃねえだろJK、なんて心配する読者がいたらいけないので言っておくと、別にこれは異常な状態ではなくて、彼にとっては至極自然体な状態であるので心配しなくていい。
はいニュートラルなんです。ニュートラルに、目から血が出るんです。そりゃ女子近づいてこないだろJK。
「何故だ?! 何故世の女性たちは私ほどの美形を放っておくのだ?! いったい男のどこを見ているのだ?!」
血の涙をだっらだら流しながら「な、なになに何なのどういうことなの」みたいに丸まる大仏にどんどん斬りかかっていく大仏。
いつだってぶれずに「カップル」への憎悪を燃やし、今日も「自分に恋人がいない事」をひっそりとナイーブに思い悩んでいたラグナである。そんな彼の目には、楽しそうにしてた大仏達がもはや、「きゃっきゃうふふしていちゃこらしているのをこちらに見せつけてきてるカップル」にしか見えなかったのである病気である。
「くそおッ! 全員くたばれ! リア充どもおおおおおッ!!」
そして高まった非モティンナイトの非モテ小宇宙(コスモ)は爆発した。
ゴオオオオオオオオ。
その衝撃で地面が割れ、そこから出現してくる巨大な壁。
「久遠ヶ原の毒りんご姉妹ィ……華麗に参上ォ……」
で良く見ると、てっぺんにはアンジェラ・アップルトン(
ja9940)の顔があった。つまり、壁はアンジェラの体だったのである。
ってそんな! 今日はアップルトン姉妹のアップルトンな上半身のアップルをアップルアップルアップルトーーーンできると思っていたのに! よりにもよって壁になって出てくるなんて。
「幼き日の私は……それはもう何処に出しても恥ずかしくないような立派な「まないた」だった」
どっしーーーーん、と凄まじい音を轟かせながら跳躍し前進してくる壁。っていうかまな板。
瞬間プチ。って何かを踏み潰したけど全然気づかず、アンジェラは自らのトラウマを喋り続ける。
「つまり、絶壁、だ。だから通販でボインになるという機械を買って試していたら英国貴族のゴシップを狙う記者どもになぜかかぎつけられ新聞に書かれてしまったんだ。ヤケになって大好物の甘味を食いまくってやったら胸から太ったんだ。現在は脅威のFカップだ。これは100%天然物なのだ。そんなわけなので世の中の貧しい胸囲に悩む少女達よ……あきらめるのはまだはやい……ぞ!!」
そしてカメラ目線(?)で決め顔きりっ。
きゃーアンジェラさんかっこいー。
「でもアンジェラ、思いっきりラグナさんのこと踏んでますわよ、思いっきり確実に潔く」
どがちゃ、といきなり出現した時空の割れ目から顔を出すクリスティーナ アップルトン(
ja9941)。どこ○もドアか。
姉の言葉に自らの下を見るアンジェラ。
顔を上げて一言。
「わざとだ」
わざとなの?!
「でもラグナさんはてっきりモテモテの世界をご想像なさると思ってましたわ」
アンジェラさんに踏まれて(他意のない表現)あーざーす! ってなってるドM(他意のない表現)のラグナさんを見下ろしながら呟く、クリスティーナ。
「私なんかは、あっち側でファッションショーをやってましたわよ! 素敵なお洋服がそれはもうずらあああああと。いっぱいですの。大きな鏡で自分の姿をみて、うっとりでしたわ」
なんていう、豊満なアップルトンいやむしろ毒りんごを持つクリスティーナが、様々なお洋服を着まくるっていうその夢のような光景についてはきっといつか、美術室でお披露目される日がくるだろう。(無責任な予測むしろ願望)
「だからアンジェラもそんな所で壁なんてやってないで、こちら側で一緒に紅茶でも飲みながら楽しむのですわ! もちろん、ラグナさんも連れていらっしゃってね」
とかやってる彼方で鳴き出すホワイトドラゴン。
『みぎゃみぎゃーみ! ぎゃ、みぎゃぎゃ、みぎゃみぎゃみぎゃみぎゃぎゅっ、みぎゃう! みーぎゃぎゃぁぁぁぁぁみぎゃあああああと!』
訳:(だがしかーし! 俺の本当の能力は、捕獲した者の願いを叶える、ではなくて、俺が無作為に選んだ誰かの何らかの能力を飛躍的に跳ねあげることが出来る能力なんだぜ! これからその誰かを選ぶルーレットを回してやらあ! ルーレットォォォォォスタああああト!!
ずだだだだだだだだだ。じゃん。
そして選ばれたのは、そう最上 憐(
jb1522)、君だ! 一体何がどうなるのか。衝撃の展開は後ほど!
「まー……とりあえず」
そんなカオスボックスらしいカオスな空間を思いっきりほっそーくした目で見つめながら、雪彦は言った。「僕らは恭弥さんをとめましょう」
「だな」
そして二人は、走り出す。
走って走って走って走って。
走っている内に気がつけば景色はまた、あの中華街風の街中に戻っていた。
「あれ?」
「……ん?」
困惑したように辺りを見回す二人。
そして二人はそこで、本当ならば遭遇しない者と遭遇する。
「え? ……まさか……か、母さん……?」
「……お前は……闘華?」
雪彦は、幼い日に失ったはずの母の姿と。
そして中津は、本来対面する事叶わない筈のもう一人の自分。女装人格の「闘華」と。
●
「あっ、行かないで……!」
雪彦は路地裏に消えかかる母の姿を、慌てて追いかけ始めた。
それが自らの願望が見せている幻覚だという自覚すらなく、いつもの軽薄でお調子者の彼は今はそこにはいない。
彼は必死で追いかける。
置いてけぼりにされる焦燥と戦い、見捨てられる恐怖に怯えながら。
「待って……もう、もう母さんを失うのは……嫌だよ」
絶対的な味方である誰かを失う恐怖。
唯一の道標である誰かを失う恐怖。
彼が母の姿を望み、誰より彼がそれを追いかける自分を望んでいない。
こうしてみればまるで願望は、傷つく事と表裏一体。
彼は、幻想的な風景の中を、もう一生その手に抱きしめる事もその手に抱きしめて貰う事も出来ない影を追い、何処までも走って行く。
その頃、一方の中津は、自分自身と並んで歩く、という良く良く考えてみれば極めてシュールで性的倒錯な匂いのする行為を楽しんでいた。
「まさかこうして顔を合わせてお話ができる日がくるとは思いませんでした」
美しく着飾った、何処からどう見ても女性にしか見えない、けれど紛う方なき自分自身でもある「闘華」が、か弱い笑みを浮かべながら、言う。
「それは此方の台詞だ……だが何故だろうな。悪い気はしない」
それはまるで、デートを楽しむ恋人同士のようもであり……。
「ていやああああああああ!!!!」
っていう二人の前に飛び込んでくる、小柄な影。
途端に風景がぐにゃあんぐにゃあああんと変化を遂げ始める。
ハッと気付けばそこは、みなさま馴染みの「久遠ヶ原学園のどっかにある食堂風」
「な、なんだ」
「だ、誰ですか」
テーブルに腰掛ける中津と闘華は饅頭を食べていた手を止め、困惑した。
「決まっているのよ! デートと聞いたら黙ってるわけにはいかないあたしよ!」
二つに束ねた髪の毛を揺らしながら、小柄な彼女はしゃきーんとかわいらしーポージングした。
っていやそんな思いっきりテーブルの上でポージングされても。
「え、誰ですか」
「もう! 知らないの! しっと団を作った立派なしっ闘士の天道 花梨(
ja4264)ちゃんを!!」
「……知らん」
「知りませんすいません」
「ならば教えてあげるのよ! えーっとね、まずね、花梨のおーとさんがね、嫉妬の闘士、通称『しっ闘士』として名を馳せてね、そのおとーさんの命により、カップル撲滅を掲げて学園内にバカ騒ぎを起こすモテない撃退士による特殊テロ組織を作ってね、それがしっと団でね」
「えーっと……その話、長くなりそうですか?」
「饅頭……食うか」
「いらないわよ!!!! くそーしっ闘士を馬鹿にしてー、いちゃこらして馬鹿にしてー。許さないんだからー!!」
机の上でガゴンガゴンッ勢い良くと地団太を踏む花梨。っていや物凄い迷惑なんですけどー……。
「一先ず落ち着かれた方が……」
「話なら……聞いてやるから……」
「なんて二人が言ってる間に、リア充嫌がらせキャンペーン第40弾! 饅頭激辛わさび入りに変えちゃうよっ発動なのよ!!! いけー白服さん達ーーーー!!!」
とかいきなり花梨が仁王立ちして声を上げると、思いっきり「仲間のしっ闘士です」と背中に書かれた白服というか全身(顔も)白タイツで覆われた方々が出現し、「あちょっとすいません、失礼します」みたいなへこへこした感じで饅頭の乗った皿を別の皿と取り変え消えて行った。
その背中をちょっと見送る中津達。というか、二人合わせて中津。
「え?」
「ふふふ! 今あたしの仲間が高速でこの饅頭を激辛わさび入り饅頭に変えていったわ!! あたしに気を取られてぬかったわね! お二人さん!!」
「……え?」
「いやだから、今あたしの仲間が高速で」
「いや、花梨さん。聞こえてなかったわけではないので大丈夫ですよ」
「だってえって言うから」
「まあ……分かった。とにかくこれはワサビ入りになったってことだろう……了解した」
明らかに「はいはい」みたいな面倒臭そうな様子で頷く中津。
「じゃあ……用が済んだなら……帰れ」
「きーーーーーー!! もっと驚いて欲しいのに! もっと嫌がって欲しいのにぃぃぃ!」
「いや信じてますよ、分かってますから、ええ分かってますから」
「ほんとにワサビ入りなんだから! めっちゃ激辛なんだから! ほんとなんだから! ほんとにワサ、ビビョんッッ!!!」
って一体何を証明しようとしたのか、ワサビ入り饅頭を自分で齧っちゃった花梨ちゃんはその場でぶっ倒れた。白目むいて。
「くっ……饅頭激辛わさび入りに変えちゃうよっ破れたり……何がいけなかっ……た……」
「なにもかも」
「ノープランでアドリブし始めたMS」
「でも花梨ちゃんは負けないのだわ! まだまだ嫌がらせは仕込んであるのよ!! あの厨房のカレールーの鍋の中にゴム手袋を沈めてやったわ! それから福神漬けをマーブルチョコに変えて」
「どういう嫌がらせだ……それ……」
「……ん。大丈夫。カレーは。飲み物。飲む物。今日も。最高の。飲料」
「…………」
「……えっ!! 誰!」
思わず仰け反る中津。
キャラじゃないなんて苦情、今は受け付けてなかった。
「……ん。カレーって。言葉に。呼ばれて。登場」
初めから居ましたが何か、みたいな平然とした無表情でテーブルの上に正座し、憐はカレー入りの湯のみをずずず、とすすった。
「……ん。カレー。逃さない。全て。私が。飲み干す」
そして唐突にそんな事を言った憐は、すくっと立ち上がり、がばっと両の腕を開いた。
無表情に。とっても無表情に。
そして、大きく口を開いた。
そのおかっぱの可愛らしい顔からは想像できないくらい大きく。小柄な姿からは想像できないくらい、大きく開いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
その動きと共に、何処からともなく響いてくる地響きのような音。
一体、何なの。何なの音なの。とその場の全員が騒然となる中。
やがてその正体が明らかになる。
「か、カレーだ!!!!!!!」
しっ闘士の白服(まだいたのか)が、彼方の方を指さし、叫ぶ。
「カレーが津波のように襲ってぶしゃぶっ!!!」
ゴオオオオオオ。
その場の全てを飲み込んで押し迫ってくるカレー。
窓の外はすっかり茶色い世界。
「……ん。世界の。全ての。カレーを。飲み干す。逃がさない。大人しく。私の。胃に。収まってね」
そう露姫ドラゴンの能力により、憐はカレー好きー能力(能力?)が飛躍的に跳躍し、世界中の鍋という鍋、食卓という食卓からカレーを収集する力を身につけてしまったのだ! 更に、カレー飲み能力(能力?)も飛躍的に跳ねあがった今の彼女に、カレーを飲むなということは、変態淑女に腐った妄想をするな! というくらいに不可能な事だったのだ!
やがてばっきゃあああんと襲いかかってくる津波の如く食堂の窓という窓を破壊し入り込んでくるカレー。
それらが全て、みるみると憐の口に吸い込まれていく。
カレーを飲み干す程に憐の身体はどんどんと巨大化した。
世界中の皆のお鍋から、あるいはこれから食べようとしてる人々の前から忽然と姿を消し、世界を飲み込む津波に変わっていくカレー。
その中で唯一、地球の滅亡の時に現れたメシア。みたいな風情で空中に浮遊し、カレーを飲み続ける憐。
に飲まれ続けるカレー。
の上を小型の船に乗りやってくる、睡眠中の紅鬼 姫乃(
jb3683)。
芝生の上で子猫ちゃんのように丸まって眠っていた所をカオスボックスに飲み込まれ、吸い込まれた後も起きず、むしろカレーの波に流されても起きない彼女を乗せた船は、そのままどんぶらこと憐の口に吸い込まれていく。
(尚この最中、彼女はペットとか調教とか血とか内臓とか拷問とか薬漬けとか危うい単語満載の自分の半生を夢に見ていましたが、内容がヘヴィーでグロテスクすぎたためカットされました。別冊付録「姫乃ちゃんの半生。※18禁」をご期待下さい!)
後ろから、サーフィンボードに乗って突進してくる、なんかハロウィンのカボチャマスクを被った男。
隣で、やっぱりサーフィンボードに乗って突進してくる、黒い仮面、黒いマント、服も何もまっ黒黒のなんか、男。
「我が名は怪盗パンプキーーーン!!!」
「ぬおおおおお! 怪盗ブラック、参上おおおおお!」
二人はなんだか良く分からない事を叫びながら、やっぱり憐の口の中に吸い込まれて行った。
<<bang!!>>
カタタタタタタタタタタタ、と、まな板の上では、何らかの食材が高速でみじん切りにされていた。
何がみじん切りにされているか、というのは今は重要ではなく、誰がみじん切りにしているか、ということが重要で、それは有名中華料理店【太狼酒楼】の末息子、楊 礼信(
jb3855)その人だった。
ずんずんとカメラが遠のいていくと、片手に包丁、片手に中華鍋なんていう普通の人間なら絶対無理そーな格好で、料理をする青年のすg……え!! 誰!!!!
誰なのこの凛々しい男!!
だって礼信って言えば、麗しくかわういショタ少年でしょそうでしょ!! ほっぺが赤くて目がくりんとしてて、10歳で黒髪のショタでしょかわういでしょそうでしょ!!!
っていうか誰だよこの凛々しい男!!!!(二回目)
……はいすいません。取り乱しました。
そんなわけで今回ばかりは、一代で店を有名中華料理店にした父親を尊敬しつつ、子供っぽい全能感で大人になったら自分も父親を越える料理人になれるはずだと信じている礼信の深層意識の作用により、大人になった凛々しい青年の礼信のお姿でこの先をお届け致しますのでそのつもりで想像してみて下さい。(名残惜しそうな目)
「……無限の厨房……アンリミテッド・クッキングワーーーークス!!!」
お玉を振り上げ、叫ぶ、礼信。
飛び散る汗。中華鍋を見つめる鋭い瞳。翻るチャイナ服の裾。鍋なら凄い勢いで上がる炎!
軽々と中華鍋をコンロの上で滑らせていく、細身に見えて逞しい腕!
まるで舞踏を踊るかのように、あっちへこっちへ、彼は目にも止まらぬ速さで八面六臂のご活躍。
の前にずらああああああああああと並ぶ、満漢全席で埋め尽くされた長いテーーーブル。かつテーーーーーーーブル。まーぶる。
彼の姿を写しだしながら、永遠に続くかのようなテーブルの間をズームアウトしていく映像。
そうして辿りついたテーブルの端っこ。
片霧 澄香(
jb4494)がナプキンで口元を拭いながら、ハロウィンのカボチャマスク姿の男と向き合っ……え!! 誰!!!!
誰このスタイル抜群八頭身誰なの!!!
「ふふふ。全く。面白いお宝の話があるというから来てみれば。それはこの怪盗パンプキンの分野ではありませんね」
そして気障な仕草で肩を竦めて見せる謎のパンプキン男。
でも声は確実にエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)っぽかったし、ハロウィンのカボチャマスクの怪盗パンプキンと言えばやっぱりエイルズレトラだけど、彼は確か「神殺しを祖先に持ち、その呪いによりマステリオ家の者は先天的に何らかの呪いを負うが、エイルズは先天的に発育不全を背負い、永久に男として成熟出来ない運命を負った」とかいうなんかこう、エロスを感じさせてくれる背景を持ってる人だったはずで、こんな完全に八頭身でスタイル抜群のイイ男になっちゃってるなんて聞いてない。
聞いてない。(二回目)
「仕方ありませんよ。それがこのカオースボックスという世界! ふはははははは!」
ってカメラ目線(?)で両手を広げるパンプキンマスク。
そんなわけで今回は、礼信君に続いてエイルズレトラさんも「黒いマントにタキシード、シルクハットにハロウィンのカボチャマスク、更に願望丸出しの八頭身という出で立ちの怪盗パンプキンに変身」との深層意識の作用により、スタイル抜群のタキシード姿でこの先をお届け致しますのでそのつもりで想像してみて下さい。(名残惜しそうな目)
「欲望には果てがないのよ。別に簡単な仕事でしょう? 何が気に食わないの」
って言ってる間にも、しっかりと話を本筋に戻してくれる澄香。
「ロマーン!!」
怪盗パンプキンはマントをはためかせなながら、空に手を上げた。「ロマーンがないのですよ、お嬢さん。金の入ったトラックを襲撃する。そこにロマンはありません。この怪盗パンプキンを動かしたいならば、もっとわくわくするような宝を用意すべきですよ」
「ならばその話、この怪盗ブラックが聞いてやるぜ」
そこに現れた、オペラ座の怪人みたいな黒い仮面をつけ、黒いマントを羽織った黒服の男。
怪盗ブラック、ルナジョーカー(
jb2309)である。
「あれ? 俺の紹介すげーシンプルじゃね?」
いえ大丈夫です気のせいです。
むしろ怪人マスク半面だから、何だったらルナさんってばればれなんです。
「じゃあ……許す!」
顎(って何処だろー……)を撫でながら頷くパンプキン。
「お前が言うな! 許すか! こら!! もっと俺を格好良く紹介しろ!」
「いい加減にしなさいよあなたたち……」
ごごごごご、とそこで突然怒りのためか頭から煙上げながら、地響きのような声を上げる澄香。「私なんて……私なんて紹介すらなかったんだから……いきなり……満漢全席食い終わった人みたいな登場だったんだから……!!!!!」
ショットガンM901をずちゃ、と構え、目を座らせる澄香。
ってことで、澄香さんがマジギレしたらやばいんで、話を戻そう。
「とにかく。かぼちゃだかパンプキンだかパンツ一丁だか知らないがな……ロマンだかマロンだかそんな甘いこと言ってる奴にゃあ怪盗の名をかたらせるわけにはいかねえよ。どうせ俺達は人様から何かを盗んで暮らしてんだからな。ロマンもへったくれもねえよ」
皮肉な笑みを浮かべて見せる、怪盗ブラック。
「で、だ。お嬢ちゃんは、そんなトラック一杯の金を手に入れて一体どうするつもりなんだい?」
「あれは元々あたしのお金だったのよ。だから取り戻すだけ。そして取り戻した暁には全部、破壊してやるのよ」
「破壊?!」
「破壊?!」
「あるだけ無駄だわあんなもの。人はね。餓えなきゃ……勝てないのよ」
幼い容姿でわりとへヴィーな事を言うお嬢さんである。
その見た目にはかわうい少女にしか見えない彼女が、一体何とどう戦っているかは分からなかったけれど、満たされ満足した時に人の歩みは止まるというのも、あながち間違っているとはいえない。
つまり彼女は、一つの満たされた状態である裕福の象徴、「お金」を目に見えて破壊してやろうと思っているのかもしれない。
ルナはそう、理解した。
「よし! 商談成立だな! ならトラックを取り戻した暁にはド派手にやりな、お嬢ちゃん! それじゃあ俺は行くぜ! パンプキンちゃん、お先にな!」
ぱらぱらっぱー。ぱらっぱらっぱらっぱぱー。
ぱらっぱらっぱっらっぱぱー。
ちゅいーんちゃちゃっ、どぅーん。
ちゃちゃっちゃちゃっ、どぅーん。
ちゃちゃっちゃちゃ、どぅんどぅかどん、怪盗ぶらァーーーく(あのメロディで)。
怪盗ブラックは黒いマントを翻し、その場を飛び出して行く。
その頃。その問題の「お金」を積んでるトラックを運転しているはずの運び屋のお二人、秋津 仁斎(
jb4940)と安形一二三(
jb5450)はというと。
「大爆走エンジェ……大爆走天使やっちゅーねん! お好みにご飯やっちゅーねん! なめとったらしゃぁああああーくぞぉぉぉぉぉわれぇえええええ!!」
すっかり昔(狂速(クレイジー・モンスター)秋津だった頃)を思い出した秋津と、最近見た映画の走り屋の主人公がやッたら格好良かったもんで俺も爆走したいッて思ッたんすよ! っていう安形とで、走り屋対決してたりしていた。(トラック何処いったんだ)
「ぬおおおおおおお。根性見せろやーーーーーー!!!」
こちらはフルスロットルで走る秋津の、劇画チックなコントラストバッシバシの顔のアップ。
こわっ。
秋津の顔イカつ! こわっ!
って事でみなさま今夜はイカついオッサン顔の秋津の劇画の夢にうなされるがいい。
一方の安形は気分はすっかりライアン・ゴズリング気取りで、アクセル全開でハンドルを右へ左へ。
無茶な運転にキュイイイイインとタイヤを軋ませ、前方に走る幾多の障害物を抜き去っていく。
「今こそ……駆け抜ける時ッ……!」
前方に秋津の単車を捉えた時、安形はすかさずチェンジを入れ替え、ハンドルをフル回転!!
道路の前で滑り回転する車体!!
フルスロットルの秋津の前に立ちはだかる安形のスポーツカー!!
「おーーーーーーーじゃましまんにゃわァァァァァァァァ!!!」
っていうそれをブワアアアアアアアアアンっつって飛び越えて行く秋津の単車。
やがてズッダーン、ズッシャーーーーーーァァアと、砂煙巻きあげまくりながら、横滑りしまくって着地した。
「アホかわしの走りは誰にもとめられへぇぇーんっちゅーねんアメ村やっちゅーねん。ほんまなめとったらばらされんどしかし!」
ってここぞとばかりにエアーやっさん決めてくる秋津。
の上では、エイルズレトラとルナが空中戦を繰り拡げていたりした。(話の脈絡どこいったんだ)
「お前、このっ、なんだよ来ないんじゃねえのかよ!」
「別に気が変わったんです問題ありますか?」
「うるせー死んどけこのカボチャ野郎め! くらえ神速剣! ズバシ!(物理)」
「はい回避ー。トランプマンで回避ー」
「回避出来てませんー。装備品足りてませんー」
「手袋ですー。手袋でトランプマンったんですー」
「はい無理。絶対無理ですー。手袋さっき俺が奪いましたー」
「は? 何時ですかー? 何時何分何秒地球が何回回った時ィー?!」
そして醜い争いを続けながら、摩天楼の彼方へ消えて行く二人。子供か。
<<ウゥゥゥ、ウゥゥゥ、ウゥゥゥゥゥ!!!>>
やがてそこに、一台のパトカーが唸りを上げて登場したのだった。
ちらつく赤灯。
車から降りてきたのは、鴉女 絢(
jb2708)と何 静花(
jb4794)の二人。もちろん婦人警官のコスプレ姿で。
「いやだれがみね○じこだ、こら」
パトカーから降りてくるなり静花が、物凄いやる気なさそーな半眼で言った。
「いやマジカルステッキ片手にいきなりどういうことッすきゃみょんッ!!」
なんて思わず真顔でつっこんでしまった安形の背中を、半眼のままマジカルステッキで殴りつける静花。
「じ、持病の背痛がァッ……!!」
「はいはいはいはーい。大人しくしてねー。共同危険行為の現行犯だからねー、即刻逮捕しまーす。とりあえず私、早く帰って恋人に会って温泉つかってゆっくりしてきゃっきゃうふふしたいんで大人しく逮捕されてくださーい」
地面で手を伸ばして「アガーッ」ってなってる安形にちゃっちゃと逮捕していく絢。
「それにしても私のプレイングはいずこへ……」
こちらはこちらで秋津をふん縛り、遠い目(半眼)で呟く、静花。
「そして、箱の奴は何処行ったんだろうな」
もう文字数もほぼないというのに。
あんなけ「フッフッフ、ナントモマ”ア私ノ為ニアルヨウナ依頼デハアリマセンカ! ソウ! 私ハ箱! 私コソガ箱! アイアムカオスボックス!」なんつってた、常に箱型の被り物をしているエキセントリックレディは、まだ登場していない。
と思ったら。
<<\ハア”ア”ア”ア”イ/>>
「呼バレテ出テキテジャジャジャジャン!!」
聞き覚えのある機械音声が聞こえたなって見たら、パトカーのトランクから箱(
jb5199)が姿を現した。
で登場してそうそうプロペラ回しながら上空に浮上していく。
その間にも、頭部はなんかどんどんと変化した。
ズイーンガシャンガシャンめにょんめにょん。
そんなマトリックスで見れそうなドットのコラージュの果てに出来上がったのはまさかの。
「コ○助?!?!」
「箱トハ四角イ物体。常々箱ヲ被ル私ダッテ一度クライハ丸ク、ナッテミタカッタ。ナリ”イ」
そんな遺言と共にダブルピースした格好で箱は、天へと召されて行ったのだった。(死んでない)
そしてまさにこの瞬間。
カオスボックスの容量が限界に達する。
世界は、凄まじい音を立て世界は崩壊を始めた。
カオスボックスは全てを、吐き出し始める。
<<bang!!>>
●
この世は不条理。この世は不親切。
この世は乱雑。この世は猥雑。
この世は下品。この世は無情。
この世は茶番。この世は不平等。
この世は不公平。この世は茶番。
この世は悲劇。この世は悲惨。
この世は繊細。この世は自由。
この世はくだらない。この世は喜劇。
そしてこの世は。
些細なおかしみで満ちている。
<おしまい>