●「ライオン」「シマウマ」「ゴリラ」達は、全裸時々ネクタイまたは全裸時々靴下っていう防御力ほぼない格好で現地に着いた撃退士達をお出迎えしました。
「都会のっ……孤独っ……」
前衛的なポーズと共に、そんな事を呟きながら。
「そんな都会の孤独に立ち向かう!」
と思ったらいきなりどっかから飛び出してきたネクタイシマウマが、ライオンの横でなんか漠然と「\荒ぶったポーズ/」とか、キメ出した。荒ぶるおっさんの小荒ぶるおっさんもやや見え状態でライトアーップ!
「俺達三人合わせてサファリアッ……オゥエッ」
で、最後に出てきた靴下ゴリラに関しては完全にやばそうとしか言えなかった。嗚咽的に。きてるやつだった。もうそこまで来てるやつだった。
(…………)
っていう諸々の光景を、鳳 静矢(
ja3856)は、ただただ静かに眺めていた。
(……哀れな……姿だ……)
風情がなんかもう、散る桜に物思ふ人みたいになっていた。
片手に拡声器なければ。いやあっても。あっても拡声器片手に散る桜眺めて物思ふ人だった。
っていう隣の、ラグナ・グラウシード(
ja3538)は、おっさんはさておき、冷静を装いながら花見客の中に潜むカップルの数を数えていたりしていた。
(……カップルが一組……カップルが二組……カップルが……ええええええい!! 悔しくなんかないわーーー!!)
今現時点に至るまで一体何にどう呪われてんのか非モテ街道をひた走ってきた彼としてはそうせずにはいられなかったのかも知れないけど、とりあえず、今一つ言えることがあるとすれば、冷静を装えてると思ってるのは自分だけで実際のとこは目から普通に血が流れ出ているということだった。
え。
えなんで。えっなんでなのなんでこの人目から血ィ出てんの。いきなり何なのどういうことなの戦う前なのにどういうことなの大丈夫なの。
と、そんなラグナに気付く位置に立ってしまっていたばっかりに、そして実際気付いてしまったばっかりに、もう全くオッサンどころではなく落ち着かなくなってしまった海城 阿野(
jb1043)。
さっきまでは確かに彼だって、あんな大人にはなりたくないな。とかなんかオッサン達にリアクしてたんである。でも隣でいきなり目から血ィ出されたらそれはもう一気にサファリンジャーどころの騒ぎじゃなくなった。だって目から血はわりとよっぽどのことだ。本人気付いてないけど。
「……しかしまあ……どんな辛いことがあっての乱行かは分かりませんけど、一般の花見客にまで迷惑を掛けるなんて、大の大人がする事じゃありません。ここは率先して鎮圧しましょう」
ごもっともである。
さすが中華料理店【太狼酒楼】の末息子、楊 礼信(
jb3855)。最年少でも言うことが違う。
その隣では、同じく最年少女子の部のリコリス・ベイヤール(
jb3867)が、ロリっ子の顔して切なげにオッサン達を見つめていた。
「もしかしたら日々社会の歯車として酷使されたストレスが原因なのかも……。いやはや世知辛い世の中だね。そんな事情があったら、このおじさん達を責める事なんて出来ないよ……」
で、そんな彼女らしからぬことを言った。
かと思った五秒後にはもう顔がギッラーンと豹変していた。悪魔顔に。何ていうか、だからもう、悪魔の顔に。
「な〜んて言うわけないじゃなーい!! こんな愉快な黒歴史の記録は撮っとくしかないでしょ! 撮っとくしかないでしょ! 何故なら面白いからでしょ! いや違う後で見てしっかり反省……してもしなくてもいいからとりあえず困って! めっちゃ困って! 途方に暮れて! 面白いから!」
その手の中でおぼろげに光るデジタルカメラ。
さすが、日々、悪魔としての優れた知識をフル活用して悪戯に勤しむ悪魔の鑑。今日もぶれてない。
「さあ自らの黒歴史を恥入るのだ〜! い……いざぁ……いざぁ……」
明らかに挙動不審なそわっそわぶりで、鼻息荒くカメラを構えるリコリス。
抑えきれない含み笑いが「ふふふふふ」地響きのように「ふふふふふ」
「ええ、ええ、分かります分かります。いいですよね分かります」
そんなリコリスの隣で楚々として頷くティルダ・王(
jb5394)。一体自分が何に同意してるのか分かってなくて頷いてんじゃないかっていうくらい、穏やかで美しい笑みを浮かべていた彼女だが次の瞬間、「困って途方に暮れて正座してる殿方を眺めてるのって、楽しいですよね分かりますよ」とかなんかドS丸出しの発言をしたのできっとそういうことなのだろう。
このギャップにキュンするがいい。
「とにかくあまり遅くなると美容に悪いですから、ちゃちゃっと片付けてしまいましょうか」
彼女が同じ笑みを浮かべたまま、穏やかに言った。
文言怖かったけど。あと、思いっきり焼きそばの屋台見ながらだったけど。
●だからこのままたらたらしてたらティルダさんにしばかれるんじゃないかなって思ったんで、とっととオッサン達を制圧して貰おうと思うわけです。
そんな心意気を背負って立つかのように、人ごみの中からすんごい勢いで駆け出していく人影。
猫まっしぐら! 発動中の並木坂・マオ(
ja0317)である。
ちなみにこの個性的なお名前のスキルは、通常昼休みの焼きそばパン戦争などの際に用いられてる、バビューン! って擬音がとっても良く似合いそうなぐらいの勢いで走れちゃったりする例のやつで、これを使う生徒が時折、勢い余ってうっかり購買の壁に激突している様は久遠ヶ原学園では珍しくもない光景でもある。
なんてどうでもいいミニ情報言ってる間に、マオはもうすっかり靴下ゴリラ@ダアトの目の前。
ただ、皆様は覚えておられるだろうか。靴下ゴリラさんのアレはもうほぼスタンバイ完了状態だったことを。
ただでさえあと一歩状態だった所に、なんか分かんないけどとりあえずすんごい形相かつ、すんごい勢いで走ってこられたら、こっちも慌てて出るもん出ちゃうよ、と。思いっきりこっちも勢い良く出ちゃうよ、と。
大丈夫、ゴムマスクは口元だけちゃんと開いてる安心設計なのだ!
「あぶなーーーい!」
「きゃーーーーー」
「ゲェェレレレレレレレ」
ズバアアビョシャアアアアア!!!!
ってあれが。
そのーなんだ。あれが。ティルダさん風に言えば、もんじゃが。
「うおあああああああああああ!!!!!」
何をどう間違ったか、ラグナに。
「あばばばばばばば、き、きみ、大丈夫!?!?!」
思いっきり突き飛ばされた体制から慌てるマオ。
ただマオにかかるはずのそれがラグナにかかったことに間違いはなかったようで、それは彼の清々しすぎる笑顔が証明していた。
「ふっ……これしきのこと……お前が無事なら何でもない!」
キリ。
もんじゃまみれでキリっ。血の涙のあとがっつりつけてキリっ。で、サムズアップ!
「うわーやばーいあの人大丈夫なの」
「すっごいもんじゃ塗れなんだけどー(笑)」
「ちょ、あっちにもんじゃ塗れの奴がいるってよ」
「えーマジマジどんなどんなー?!」
そんな彼の元に心ない言葉と共に集まってくる一般人とかの人達。
「えー現在アウル発現者の酔っ払いが暴れています、皆さん御注意くださいー。繰り返します、現在アウル発現者の酔っ払いが暴れています、こちらには近づかないようお願いしますー」
キキーンって、拡声器ならではの音を響かせつつ、すかさずアナウンスする静矢@美形。
でもそれでむしろ「え何あの人かっこいー」「ちょーかっこいー」「美形なんだけどー」って一般人がぐいぐい寄ってきちゃう始末。
まあ確かに今日は、「美形」「違う意味で美形」「ショタ」「どうt……不器用な純情男子」とある意味乙女ゲーム以上にバラエティ豊かな男性陣がそろっているわけですけれども。
「とにかく君達! 巻き込まれて怪我をする前にこっちへ来るんだ」
っていう間にもいろいろ吐き出しはしたものの、まだまだへべれけ状態らしーダアトが、「きりっ」ってやってるラグナの背後からそっと忍び寄って来た。
「危ない!」
駆け出すマオ。
けれどそれより一歩早くラグナの額を押さえ、シンパシー。
なんでシンパシーだったか、なんでラグナだったかについては、余り深く追求しないでほしい。なんせほら、相手酔っぱらいですから。この話に理屈なんて。
で、その時靴下ゴリラが見た映像は、このようなものだった。
仕事の前にシャワーを浴びるラグナ。そして出て来た後に穿くのは、今日も何が起こっても大丈夫! むしろ今日こそは何かが起こるかも知れない! 勝負パンツのボクサーパンツ! 今日も鏡の前、赤いパンツ姿でいろいろシュミレーショ……。
「見るなあぁぁぁああ!」
純情な青年の秘め事を見るなあああ!
パシィッっ!
思いっきりゴリラの手を振り払い、小天使の羽で上空へと避難するラグナさん。
「だ、だいたいちゅ、中年男がそう粗末なものを見せつけるのはどうかと! どどど、どうかと思うんだ私は!!」
あばばばばば。って完全にパニクって、本当はおっさんらくるむため用意したブルーシートで自分をくるみ出すラグナ。
「ラグナさん、ちょっと落ち着こうか」
下からめっちゃ冷静に言う静矢。
でもそんな、ハリセン構えた人に真面目な顔で言われても。
「そ〜んなラグナちゃんにど〜〜ん!」
とそこでいきなりラグナに向かいバッシャーッとぶっかけられる水。
闇の翼で浮遊してるリコリスが、どっかの屋台から調達してきたらしい水入りバケツ(現在はカラ)をポーンと投げた。
「うんよし! とりあえずこれでだいたい洗い流した! あとは頑張って! 写真はお楽しみに!」
気になる言葉を残し、去っていくリコリス。
「……全くはた迷惑な酔っ払い達だ……ラグナさんの分も……きつい仕置きが必要だな……覚悟」
駆けつけたマオによってすかさず背後からロックされたゴリラに向かい、ハリセンを構える静矢。
まるで刀剣を構えているかのように見えてくるから不思議だった。かというそうでもなく、やっぱりその手にあるのは紛う方なきハリセンなのだけれど。
マオが退いた途端、高速で飛び込んで行く。
「成敗してくれる、そこに直れ!」
パシパシパシーーーーン!!!
って言い終わらない内にもう、ゴリラはもう黒い光の衝撃波に吹っ飛ばされていた。たかがハリセン。されどハリセン。そりゃ紫鳳翔のっけて叩かれたら、吹っ飛びますよね、やっぱりね。
っていうのをやっと我を取り戻したラグナがブルーシートでくるんでる頃。
「ぎゃーーーこないでこないでこないでーー」
阿野さんがすっかりオネエ化してハイドアンドシークで逃げ回っていた。
後ろからぐいぐい追っかけていく、いろいろもろだし状態のネクタイシマウマ@アスヴァン。
「ぐへへへへーぐへへへへー」
残念な事に酔っぱらいは、微妙にくねくねしだした阿野さんが完全に美少女に見えちゃってる模様です。
「可愛くないーこのシマウマ可愛くないのー、可愛くないのいやーーーー」
俗に言うオネエ走りで、砂浜走る人みたいに走ってく阿野。
「ぐへへへ俺の審判の鎖でぎっちぎちに縛ってやるしまうまふぉおっ?!」
とそこで突然、シマウマがこけた。思いっきり。
なぜかといえば、めっちゃ笑顔のティルダが、ハイドアンドシークで忍び寄り、シマウマの膝かっくんしたからだった。
思いっきり不意をつかれたシマウマは、尻突き出した格好で地面にズベラーッシュッッ!!
はい出ましたー。今日一です。今日一のスキル有効利用例です。
「い、いいい、今の内にさっさと潰してしまいましょう!!!」
やや裏返った声で立て続けに氷の夜想曲を発動する阿野。
凍てつく吹雪が辺り一面を覆い尽くし、うっとり目を閉じればちょっとの間「氷の国の妖精」気分でうっとりと。
で、目を開けたらいろいろ現実が待っていた。
相変わらず尻突き出してるシマウマとか。
「ぐぅZZZ」
「はいはいじゃあ今の内に縛っちゃいましょうね」
そうして怖いくらいの笑顔のティルダは、ジャンシェーヌで黙々とシマウマの身体をぐるぐる巻きにし始めた。
「まあ花も恥じらう乙女としては、醜いものは見たくないのですけど……ふっ……見えたら見えたでしょうがないですよね」
って今一瞬、何処見て鼻で笑ったのかティルダさん。
というその頃、ショタロリッターズは。
「彼女には指一本触れさせませんよ!」
なんつって礼信がリコリスを守ったりして。
彼女、悪戯のために燃えてるだけなんですが、守ったりして。戦っていたりしていた。ちっちゃい二人して健気な感じで。
そんな中、やがて、礼信がこんなこと叫ぶわけです。
「覚悟、サワリンジャー!!!」って。
瞬間、思いっきりライオン@阿修羅はずっこけて、ライダーキック繰り出すタイミングとか完全に失ったりして、「え、さわえ、え?」ってちっちゃくパニックに陥りました。そりゃそうですだってそんな無垢な子供の顔で「サワリンジャー」だなんて。
まあ本当はサファリンジャーですから、文字的には遠くはないし、でも意味は全く別物なわけですよ。ミラクルです。はっきり言いましたしね。サワリンジャーって。滑舌よく。
なんてちょっとシーンとしちゃった二人の間に、散ってきた夜桜の花弁がはらり……。
とこのようにして、礼信は(不本意かも知れないけれど)リコリスを守り切った。最大の防御だった。攻撃される前にずっこけさせたんだし。
はいこれタイミングにもよりますが、天然ボケは最大の防御! の凄い良い例です。
ってやってる背後から、闇の翼で忍び寄るロリっ子悪魔ちゃん。
ライオンの耳元に囁きます。
「さっきから思ってたんだけどお兄さん素顔素敵そー。いやほんとマジ素敵そー。見てみたいなあ。兄さんの素顔見てみたいなああシシシ」
ってなんかライオンがトローンってなった瞬間、すかさずシュパッ!! ってはぎ取られるマスク。
見逃しませんよ。さすが悪戯プロフェッショナルですよ。
「ハッ!! ま、マス」
ひょいってマスクふりふりしながら、すかさず連続で押し込まれるシャッターバシャバシャバシャバシャッッッッ!!!
「さあ! 思う存分そのわりと普通だった素顔を大衆の前に晒すがいいよ!」
バシャバシャバシャ。見よこのシャッター速度。まさに悪魔の所業。さあ皆の衆、恐れ慄くが良い。
「あはははねえねえどんな気持ちどんな気持ちこんな格好して写真撮られてるとかどんな気持ちこんなプリチーな小悪魔ちゃんに写真撮られてるってどんな気持ちどんな気持ちねえねえねえ」
●と。こうして。
飼育員ジャー(阿野さん発信)達の活躍により、サワリンジャー(礼信発信)達はめでたくお縄になったのでした。
ちなみにリコリスのグッジョブによりトラウマを抱えた三人は、その後一切お酒は飲めなくなったのだとか。
「ざまぁ☆」
ま、しょうがないよね!
おしまい