●見た目完全にいい歳したおっさんが、アスレチックの上で「どうだーぬるぬるするだろーはっはっはっはー!」とか言って高笑いしている現実。
そんな現実を目の前にしても撃退士達は全く動じていなかった。
「うに。なんだか楽しそうなんだよー」
それどころかむしろ、今日もなんがい髪の裾がもう、すっかりアスレチックとかに張り付きややぬちゃになりつつありますがお構いなしの真野 縁(
ja3294)を見て貰えればお分かり頂けるように、楽しそうだった。
「ぬるっぬるしてるけどなんだか面白そうー早く遊びたいんだよー!」
だから笑うオッサンより俄然気になるのは、アスレチックの方。
「わー本当にアスレチックなのだー! 面白そうなのだー♪ 楽しみながら依頼遂行してお金が貰える! 最高なのだー♪」
同様に、仕事と遊びの両立を目指すこちらは、焔・楓(
ja7214)。
「ともかくあの変なおじさんを捕まえればいいんだよね♪ 一番乗りなのだ〜♪」
そして早々にバビューンと全力跳躍を駆使してアスレチックの方にひとっ飛び〜。
したはいいけれど、全力跳躍以外特にスキルなかったんで、地面に着地した途端ぬるっぬるの遊具の斜面でツロンッってなってあわやのっけから池ドボンの大惨事。
かと思いきや根性で木に爪を立て、しがみつき、歯を食いしばり、「簡単にはおちないのだぞ! 絶対捕まえてやるのだぁああぁいとーーいっぱぁつなのだああああ」
とかのっけからいきなりブリッジ状態の真夏娘。タンクトップから小麦色の肌がチラリズム。
に群がっていく、モブのおじ様達五名。
「あっちに美少女〜!」
とばかりにぬめぬめ移動し始めたけれど、位置取りもまばらでしかもローションの池なんかに入っているせいで移動速度は、遅い。
とかいうのを眺めながら、とりあえず今はまだ、射程とか状況把握とかの諸々の事情から馬鹿笑いだけしてるリーダーのおっさん。
いやーあーはなりたくないわー今日は遠距離からの嫌がらせ支援で終わらせたいわー……。
「それにしても本当に遊具がローソ……ローションで輝いてますねぇ……ギトギトと」
なんて、オッサン達から現実逃避しつつも、遊具の最初の方の所で立ち往生しているセラフィ・トールマン(
jb2318)。
とはいえこれでも一応、Apocalypse:Sacredness (アポカリプス・セイクリッドネス)の発動機会を窺っている状態でもあるのだけれど、なんせ使用回数は3回迄だったし、効果の時間も限られているもんで、今まはだ楓には踏ん張っていて欲しいところである。
「だいたい撃退士並みの一般人って、超世界レベルですよね……なんでそんな人達が5人も……」
「でも一応一般人だし、あんまり手荒な真似をしたらまず……いやまてよ。万が一怪我させちゃったとしても治療すれば……うん大丈夫」
ぐっ。
隣で拳を握りながら、闘志に燃える赤い瞳を輝かせる七瀬 歩(
jb4596)。
と、男っぽい言動はしていても、彼女がれっきとした美少女であることを手下のオッサン達は見抜いてた。さりげに視線が「落としますぜっ」ってロックオンしてた。
「これ……迂闊には進めないよね……私達」
「うん……まずはあの手下の一般人達を何とかして貰わないと……」
(このままいったらひゃくぱーせんと……落ちる!!)
「だからあの人達に任せるなんだね〜」
そんな二人に縁がのほほーんと言う。
●美少女とローションが最強コラボ? いやさマッソウとローションこそ最強のコラボなんじゃないか!
そんなわけで唐突ではあるが、黒いモヒカンマッスルボディが降臨した。
っていう言葉だけでほぼ誰なのか特定出来てしまうくらい黒くてモヒカンでマッスルボディのマクセル・オールウェル(
jb2672)が降臨した。
「なんと傍迷惑な輩であろう。よろしい。我輩が何とかしてみせるのである!!」
ズガチャ。
と、ワイヤースタンガンを構えるマクセル。
の下には。
「ええい! いい年をして子どもたちの遊び場を奪うとは何事かッ!」
大きな網片手に、どっろどろの中を邁進する純情剣士ラグナ・グラウシード(
ja3538)。
あ間違えた。純情・DOUTEI・剣士ラグナ・グラウシードさんでしたお詫びして訂正しますすいません。
「しかしこのローションには困ったものだな! 全然前に進めんぞッ」
そして。
「頭のおかしい撃退士ですか……何というか……世も末ですねえ」
なんて完全に残念な物を見る目で水上歩行しながらおっさんとか見下ろしているエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)。
いや「とか」じゃなくて彼の目はおっさん達を見ているだけで、決してラグナやマクセルは含まれていないホントだよ。
「とにかく手下の方々の対応は任せました。ローソンの池は大変でしょうが頑張って下さい! 僕は御免です! 一足先にリーダーの足止めに向かいますね!」
そこはドライにばっさり言って、優雅かつスタイリッシュに滑っていくエイルズレトラ。
にサムズアップで答えたマクセルは「えなになに筋肉モヒカンにうさみみってどういうことなの」みたいな目で唖然と空を見上げるモブ達を見下ろし、(無駄に)威厳のある声で、警告を始めた。
「さてここで問題である。池の中に悪人が居てここにはワイヤースタンガンがある。そして我輩は今、塩をまいている!」
光の翼で浮遊しながら、腰につけたウエストポーチからぶわっさーと塩を巻き散らすマッソウ。
「果たして、どんな結末が待っているか! 分かるなら早々に立ち去れい、三秒以内に立ち去れい! 3、2、1!」
カウント早いマッソウ、ワイヤースタンガン掲げるマッソウ、手が塩塗れでマッソウ。
「さあ! とくと味わうが良い裁きの雷をっっっ!!!」
途端にスタンガンからズバシャーッと飛び出すワイヤー。一目散に池の中のモブ達に向かう手前に懸垂状態でファイト一発ってる楓だ!
「ぬおっ!?!?!?!」
慌ててワイヤーの軌道を変えようとスタンガンぶんぶん振るマクセル。
「はっ! 場が混乱してるっ!!」
そこですかさずアポカリプス・セイクリッドネス(略して)ロドリゲスを順番に放っていくセラフィ。
途端に美少女とマッチョの頭上に現れる小さな翼の付いた輝く輪! 彼らを包む防御結界!
大丈夫! 事態はまだ混乱したままだ!
「いや駄目じゃん!」
突っ込む歩と忍び寄るモブの影。
ってやってる間にも、何とかかんとか一応ちゃんとモブの一人にしっかり到達したワイヤーの先端。
を辿って本体の方を見てみると、最終的に無理っ! ってなったのかワイヤーを自分の手で掴んじゃったマクセルが何をどうパニくったのか、そのままスタンガンのトリガーを。
「あばばばばばばばばばば」
そして黒いまっそーボディはローションの池にどぼんむしろネボンと。
「おおー!」
ぱちぱちぱち。
とかなんか思わず拍手する縁。
「さすがマルクスさん。そこにシビれる憧れるゥー」
歓声を上げるセラフィ。
「い、今のうちである……我輩ごとこやつ等を捕獲……」
辛うじてモブ二匹の頭をヘッドロックしながらそんな事を口走るまっそう。
よしきた! とばかりにちょっと離れた所から網持って駆け寄ろうとするも全然前に進めない純情・DOT・剣士ラグナ。
の目に映る、モブにタンクトップのひらひらしてる裾の部分引っ張られてる楓の姿!
「え、ひゃ!? そこ引っ張らないで欲しいのだ、わきゃ!?」
まずい! あのままでは破れる……!!
慌てて軌道を変えるDOTラグナの目の前に掲げられる、ぬるっぬるになった横断幕。
『でも女子がそうなっているのは色っぽいかもしれないのでそれはそれでいいです!』
「なにーーーーー!!! 何を言う! 私はそんな不埒な事を考える男ではない!! 見くびるなァアアッッ!!」
そして唐突にDOTラグナは壊れたようにツヴァイハンダーFE(LVは10)を振り回し始めたのだったっていうか実際多分軽く壊れてたみたいだった。狼狽で。
でも若干我を失った状態で暴れてるだけだったので、おっさん達は連携プレイ(手を引っ張りあって遠心力で近づいてくる戦法)でそこ抜け出して来てて、気がつけば奴らのマジックハーンドがもう眼前。
「ぐへぐへ」
「わっ、こっ、このっ……ってちょ、ちょっとまって! そ、そこはマズイですって! いやぁ! 助けてパパー!」
「Iカップ女子! Iカップ女子! 爆乳女子! 爆乳女子!」
「ぎゃああああああああ!!!」
って言ってる間にも何故かツルンして隣で落ちてる歩。
「ええええええ?!!」
おっさん近づいてきたのにパニくって滑っちゃったんでしょうね、可哀想に。
『でも女子がそうなっているのは色っぽいかもしれないのでそれはそれでいいです!』
人として最低な文言の横断幕と共に、歩とセラフィに群がって行くおじさま達。
「いやああああ!! 助けてーーーーギドギドした欲望を感じる! 寒気がするーーーーー!!」
「うわ、来るな! 触るなぁっ!」
「ハッ! 私は何を!」
と、ここでやっと我に返るラグナ。
一歩間違えばなんかエロいゲームとかで聞けそうな女子の叫び声を聞いたからじゃないわけでもない。
「させるかーーー!! とおおおう!!!!」
途端にローションの池を根性とDOTの本能で「うおおおおお」とかなんかクロールしてくるラグナ。さっきの網でやっとけよ、なんて言葉は言わないで上げて下さい。純情なんです男なんですDOTなんです。
っていう間にもヘッドロックだけで完全にモブ二名の意識を落としたマッソウ。
容赦なくバルバトスボウでばっしばしモブ達を攻撃してるセラフィ。
そして、怒りなのか恥ずかしさなのか、思いっきり顔を赤くしつつも何とかかんとかアスレチックにしがみつき、足蹴りしまくってる歩。
でも最終的にこちらもやっぱり無理っ! ってなったのか、「来るなって……言ってるだろっっっ!」とカッ!!! と目を見開き、気迫を使用。
「ぐ、ぐへへ」
一瞬ひるむモブ達の前。
そこへ滑り込んでくる一人の勇敢な純情DOT剣士!
「大丈夫だ……お前は私が守ろへぶしッ!」
ぬるっぬるべっどべっどの清々しい笑顔の横っ面を思い切りモブに殴られたものの、彼はまだ笑顔だった。
仲間を攻撃からその身を持って護り切る!
己の身を仲間の盾とする!
これこそ騎士の魂!
だから私は今、猛烈に満足している神様ありがとうっ!!
「ふふっ……大丈夫だったか? ここは私に任せて、さあ、行け!」
そんなベッドベトな顔で笑われてもどうすれば。
ぶる、と歩の背中に走る悪寒。
助けて貰った事は有難いと思ってるのにどうしよう身震いがとまらないよ!
「あ、ありがとう後は宜しく!」
「す、すいませんありがとうございますー! 恩に来ます〜!」
「さあ、貴様ら! 容赦はせんぞ、年若い女子を狙うとは何と不埒な……」
とか言ってる前でぶちぶちと文句言い始めるモブ達。
「えー話が違うじゃないかよー、楽しくやってお金貰えるんじゃなかったのかよー」
「そうだよーそのお金で彼女にヴィトンのバック買ってやるって約束したんだよー俺、危ない目に遭うなんて聞いてないよなー」
「怪我して帰ったら彼女に怒られるんだよなー彼女に」
なんて。
言ってます聞こえてますか純情DOT剣士ラグナさん。
「……はは、ははは、ふふふふ」
あ、聞こえてたみたいです。
「恐るべき変態どもめ……よかろう……そんなに滅びたければ誇り高きディバインナイトの名に賭けて、私が貴様らを滅ぼしてやるーーーーー!!!!」
ちなみにオッサン達は彼女がいるって事実を暴露した他には、むしろ若干引き気味で観念してる感じだったけど、言ったらいけない人の前で言ってはいけないことを言ったんでこれはもうしょうがないと思う。
こんな男にすら彼女がいる現実!
ラグナは怒った。ラグナは悲しんだ。山椒魚だって悲しんだ。ローションの池の山椒魚だった。関係なかった。
とにかく彼は今こそ「リア充を必ず屠る!」というDOTの執念をぶつけるべき時だと奮起したのだ!
「くたばりゃぁぁぁあああああリアじゅぁぁぁぁぁぁああああッ!」
リア充獄殺剣に悲しく輝いた魔具は、モブ達3人に鋭く襲いかかりすっかり気絶させたのだという。DOTパウワー恐るべし。
●その間にも、ぎとぎとねばねば一切気にせず遊具で遊んでらっしゃる縁さんは、軽い体重を活かしてアスレチックをぴょんぴょん。
してる前方ではエイルズレトラがちゃんと真面目におっさん撃退士と戦っていた。
「引退したロートルと、現役の違いを見せて差し上げましょう」
水上歩行状態から突進して行くエイルズレトラに向かい、おっさんが辻風をぶっ放す。
すかさずトランプマンを発動し、回転しながら羽織ったスクールジャケットを華麗に脱ぎ捨てるエイルズレトラ。
放りだしたそれに辻風が命中。その身代わりを尻目に尚もおっさんへ突っ込んで行く。
こちらも水上歩行を駆使し逃げ出そうと走り出すおっさんに、現役の止まらない勢いで飛ぶように接近し、彼はクラブAを発動した。
アウルで作り出された無数のカードがその手から飛び出し、おっさんに貼り付いていく。ぎちぎちとそのたるんだ体を束縛し、圧迫する。
「僕の必殺技です。どうです動けないでしょう?」
「ぐ、ぐぐぐ、ま、参った」
ネボン。
おっさんは力尽き池に落ちた。
●そして今日も事件は無事解決。パンプアップ状態のマッソウは無駄に眩しいくらい黒光りする体で筋肉祭り。サイドチェスト。ダブルバイセップス。アドミナブルアンドサイ。ラットスプレッド。かーらーのモストマスキュラーぁぁぁ!!!
「悪事は即刻辞め、まじめに働き、日々の糧を得よ! そして罪を償い真っ当に生きるのである! それこそが人の道、人の道なのであるーーっ!!」
ローションとマッスルボディ! 最強コラボがここに今降臨!
っていうのはまーさておき、エイルズレトラがふんじばったおっさんらに説教していた。
「……全くあなたは一体何がしたかったんですか? 同じ鬼道忍軍として非常に恥ずかしいですよ」
恥ずかしい大人になんかにゃ確かに誰もなりたくないが、気がこうなってたんだから仕方ない。
けれどそんなおっさんの目を、それでも無垢にじっと見つめてくる瞳があった。縁だ。
「うにー。おじさんさー、折角素敵な才能があるんだから人のために使ってみようなんだね! 他人に意地悪するより、他人に感謝されるとすっごく嬉しくなれるんだよ! ありがとうって言われるの! 縁はね、依頼をして感謝をもらうのが何よりの報酬なんだよ。だからおじさん達も良い事してみようなんだよー!」
それでオッサンらが改心したかどうかは分からないが。
すくなくとも素直に学園に連行されて行ったのは、確かだ。
「またありがとうって言って貰える大人に戻れるだろうか……」
それは多分、無理だろうけど。
おしまい。