●第一幕「大銀河帝国の第三皇女」
「くそっ、王女は! 王女は何処だ!」
暗闇の中を揺れ動くたいまつの赤い炎。
激しく駆け回り右往左往する。
「何処にもいない……! 部屋はもぬけのからだ!」
「えっ! もぬけのからのもぬけってなんだ!」
「これはやはり、王女の仕業……!!」
「ああなんと痛ましい……!」
「ああなんと痛ましいお姿……!」
「王亡きあとこの大銀河帝国はどうなってしまうのだ!」
ガッシャーンバリバリーーーっ!!
銀河帝国のこれからの混沌を暗示するかのように轟く、雷鳴。
その光に照らし出された一人の冷酷な男の横顔。
美しくも酷薄なその、横顔。
と、なんかシュコーシュコー言ってる、顔はフルフェイスのくっろいマスクのくせに、体はそれなりにナイスヴァディな、いやむしろむっちむちしたFカップのダーーーーーーイナマイトバアアアディな女子の身体にくっろいマントした、なんか……生き物。
そんな、明らかに異質な物体が隣にいるのに、全体的になんか漠然と紫色の冷酷な美男子、鳳 静矢(
ja3856)は黒い物体一切無視で、言った。
「皇女……いやもはや元皇女……。何故だ。私の教えた刃はこんな物のためではなかったのに」
そう、衣装で既に偉さをアピールしている彼は、銀河帝国一の剣士であり、王女に護身術を教えた師匠その人なのである。
そんな彼の前に、へへーーーとかなんか傅いてくる、漠然とがっちゃがちゃした部下達。
「どうやら……部屋の壁を蹴り抜いてお逃げになった模様でございます」
力いっぱい蹴ってみれば壁が割れそうです。蹴ってみますか?
はい ←ピッ。
いいえ
「そうか……」
静矢の脳裏をよぎる王女とのおもひで。
「彼女は何故こんなことを……」
しかし、王女が王を殺害して逃げたとなれば、このまま無事に生かしておくわけにはいかないのである。もし万が一このまま自分が手を下さなくても、いずれ誰かが見つけだし彼女の命を奪ってしまうだろう。
ならばせめて、いっそこの手で……。
「私が必ず見つけだす……かつての第三皇女フレイヤ(
ja0715)!」
っていう隣でシュコーシュコー言ってる黒い物体。
これは……正直銀河帝国にとってのなんなのかは全くわからんのだけど、なんか漠然と銀河帝国っぽくはある。銀河帝国ではこの装備がわりとメジャーなのかも知れないし、銀河帝国にとってはこれはわりとデフォルトなのかも知れない。
「ええ、覚悟してらっしゃいフレイヤ! 久遠ヶ原の毒りんご姉妹の姉と呼ばれる私の実力を見せて差し上げますわ!」
コーホー(呼吸音)。
と。
ここで観客の皆さんにもやっとこのくっろい奴の中身がお分かり頂けたと思う。
その無駄に自信過剰で世間知らずでお嬢様な感じ。しかも久遠ヶ原の毒りんご姉妹の姉。といえば、みなさんご存じクリスティーナ アップルトン(
ja9941)である。
「帝国に仇なす者は、私のライトセイバーで斬るのですわ」
コーホーコーホー(呼吸音)
アップルトンはオモチャの剣をアップルトン。それに合わせて両のアップルがアップルアップルアップルどーーーーん。
暗転。
●第二幕「王女はつらいよ」
一年後。
第三皇女は何とかかんとか生き長らえ、とある町で立派な黄昏の魔女(別名赤ずきん)となり平和な日々を送っていた。
「それではお母様。私はこの黒ヤモリの姿焼をお婆様に届けてくるからね! これさえ届ければ、お婆様の黒魔術も完成すると思うの! 楽しみだわ!」
サルでもわかる魔術教本〜これを読めばあなたも今日から魔女っ子ワッショイ!〜 なる手を片手に、フレイヤは母、天風 静流(
ja0373)に挨拶をしていた。
「うむ」
頷く、母、静流。
あんな痛ましい事件があったというのに、王女は今日も元気に女神の生まれ変わりを気取っているその(いろんな意味で)痛々しい健気なお姿には、涙が出る。
と、目元を拭う母の目。
そこには溢れんばかりの涙が。
ない。
一切ない。
むしろなんだったらあれ? なんかちょっと怒ってます? ってくらいに母は無表情だ。
「これは別に怒ってるわけではない。良く言われるのでな、先に行っておくぞ」
カメラ目線(?)でそれだけを言って、静流は青い帽子の上から思いっきりねじ込むようにフレイヤに紅い頭巾を被せたのだった。無表情で。
「い、痛ッ」
「いいかいフレイヤ。この扮装だけは絶対にとってはならないよ。銀河帝国の奴らにお前が女王だとバレてしまうからね」
「は、はいお母様……」
無表情の威圧に押され、頷くフレイヤ。
でも帽子の上から赤い頭巾とか、明らか「え何あの頭おっきい人」だった。
町を歩けば、人々は噂します。「えなにあの頭おっきい人」「物凄い頭おっきいやばい」「長ッ!」「うわ長っ(笑)」「やっばいうわーあの赤ずきんちょー目立ってんだけどー(笑)」
それで彼女は赤ずきんちゃん(蔑称)と呼ばれるようになったのでした。
「では、無事にな」
「はいではお母様、行ってマイリンダンドンデスパードギャゴンミリョッタパラロッテ」(←黒魔術的な挨拶代わりの呪文)
「ちょーーーーーーーーーっと待ったーーーー!!」
そこで闇の翼を発動したみくず(
jb2654)がヴワァサ! って上空から落ちてきた。
闇の翼とか言いながら、ほぼ飛べてなかった。
「ちょ、え! 赤ずきんちゃんってバスケットに銃を隠し持ってるっていうあの赤ずきんちゃんじゃなかったの!?!?!」
「ごめん……普通にそんな赤ずきんちゃん聞いたことない」
フレイヤは大きな(むしろ長い)頭で首を振ります。後、ここでいきなりなんか、赤ずきんの背中が異様に膨らんでいることにもご注目しておいて頂きたいです。コブが出来たみたいに凄い膨らんでいるから、多分言わなくても注目されてると思うけどあえてご注目しておいて頂きたいです。
「えっ違うの! どうしようーーー」
とかそのビジュアルには一切触れずに、みくずはおろおろします。
そして次の瞬間、彼女は赤ずきんちゃんの大きな(むしろ長い)頭を見やりハッとするのです。
「なんか……なんか……間近で見たらちょーかわうい!!!」
どーん。
自分の方がよっぽどかわうい風情のみくずはそんな世迷言を叫びます。登場前に変な薬でも注射されちゃったのかも知れません。
「白状します! 実は私……漠然としか赤ずきんちゃん知りませんでした! だから友達とかが話してるのをふわっと分かってるふりして聞いてましたっ……ふわっとそうふわっと聞いてたんです! あと勢いで赤ずきんちゃんに憧れてるとか言ってました……赤ずきんちゃんが可愛いから、いつかあんな素敵なお姉さんになりたいなって……でもいつもその度に獣仲間からは変な目で見つめられて、仲間外れにされがちでした……あたしが人間に憧れてるなんて言ったから……」
そして、切なげな表情で胸を抑えるみくず。
を、物凄い虚ろな目で、照らし出すアデル・リーヴィス(
jb2538)。
「今日は、私、月だよ」
天井から吊るされた虚ろな目の天使は、トワイライトで幻想的な淡い光球を作り出し、みくずの周りにちりばめながら淡々と言います。
「ラブストーリーなら、まかせて。ラブストーリー赤ずきんなら、まかせて。ムードなら全力で演出するから、任せて」
全力感一切ない、虚ろな目でアデルは言うのです。
ただ残念な事に赤ずきんちゃんにラブストーリー要素全くなかったし、このシークエンスにもラブストーリー要素全くありませんでした。けれど今日の照明は彼女ただ一人なので何がどう転ぼうと、今日はもうこの彼女の感性に託すしかなかったのです。この、思いっきり感情のない目で「わたしはヒーローだからね」と語り見ている人を不安にしかさせない彼女に。
「そう! 狐が人間に憧れてはいけないのですか……! どうして、どうして赤ずきんちゃんに憧れてはいけないのでしょう! 狐だって、狐だって一生懸命生きているのにっ!」
それなのにどういうわけでしょう。アデルの演出は妙にハマってしまっていたのです。
そこはまるで場末のスナックのようでした。そして、切なげな表情で胸を押さえるみくず狐さんは、まるで悪い男に捨てられ身も心もぐずぐずになってしまった悲しい女のようでした赤ずきん一切関係ありませんでした。
ガラガラドーン。と嵐のような雷鳴がとどろき、風にざわめき出す、新崎 ふゆみ(
ja8965)の木。
「でもそれは多分、えっあいつマヂかって心配されてただけなんだよ☆ あんな頭なっがい赤ずきんちゃんに憧れちゃってんのマヂかっ?! (・∀・)ってなってたなんだよ、みんな心配してただけなんだよ、ふゆみそう思うんだよ☆ミ」
「でもあたしやっぱり、自分の気持ちに嘘はつけない! やっぱり赤ずきんちゃんは可愛いです! だからどうか一緒にお供させて下さい! この化け狐めにピンチも救わせて下さい! 私の愛とか勇気の量をアッピールさせて下さいあときび団子下さい!」
それは最後に本音が出たのか、結局目当ては食べ物だったのか、だいたいどうしてきび団子だったのか、彼女の中で何が何と混ざってしまったのか、とにかくこうして導かれし化け狐さんは赤ずきんの仲間になったのでした。
「ずちゃちゃちゃちゃちゃちゃ。ずちゃちゃちゃちゃちゃちゃ。リャラララララララリーンコーン」
「えっなにこのちょっと聞いたことあるようなないようなメロディ!」
聞き覚えのあるメロディに、みくずキツネさんはサブカルセンサーを発動させます。そして辺りをきょろきょろと見回し、赤ずきんちゃんの(長い)帽子の所にそれを見つけたのでした。
赤ずきんの帽子の周りをふわふわと浮く、赤い頭巾の精霊、ハッド(
jb3000)の姿を。
「我輩はバアル・ハッドゥ・イル・バルカ3世! 王である! あと今日は赤い頭巾の精霊でもある!」
「え? ルパ」
「バアルハッドゥイルバルカ! バアルハッドゥイルバルカ三世!」
「え、ザッk」
「バアルハッドゥイルバルカ! バアルハッドゥイルバルカ三世!」
「ふーん」
まー最終的には何でもいーんですけどね、みたいに、赤ずきんとキツネは顔を見合せます。
「じゃあ一緒に行っちゃう? いずれ訪れるであろう世界の終焉を食い止めるための旅に。ちなみに私はそのために降臨した女神の生まれ変わりなんだけど」
「えっいきなり赤ずきん要素一切ない! そんな赤い頭巾被っといて一切ない!」
ざわめき出す、新崎 ふゆみの木。
「しかもせっかくここまでぎりぎりで来たのに、なんでそんないきなりフリ幅マックス!」
と。そこに突然。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
とかなんか、油敷かれた線の上を走るが如く、炎が一直線に走って行った。ブラストレイだった。なんかサーカスみたいだった。
「ぎゃああああああああああああああ!」
「あっついあっつい、ちょあっつい待ってあっつい」
「はーいはーい。警察です警察ですー、大人しィしーやー。はいはい、久遠ヶ原の所轄署の刑事でーす。偽証罪で逮捕しまーす」
今日も元気にほっぺた赤い亀山 淳紅(
ja2261)が、ぱかって開くタイプの警察手帳(小道具)を示しながら、登場してくる。
「大人しくしてくれへん人とか武器持ってる人は全員もれなく逮捕やでー! だから是非大人しくしてねテヘっ☆」
「テヘじゃねええええええ!!!」
と、そこで唐突に赤ずきんの背後から何かが飛び上がった。ズバアアアアアっと飛び上がった。
えっ誰!
といえばそれは、実はこっそり赤ずきんの背中に抱きついていた下妻ユーカリ(
ja0593)で、あの異様に膨らんだ赤ずきんの背中のコブの正体は彼女だったのだ。どーんっていやべつにどーんでもないけど。
でも確かに、抱きつかれていた当の赤ずきんフレイヤですらえっうそっ抱きついたれたの私! ってさせる抱きつきスキルは凄いと認めざるを得ない。さすが夏場はよく電柱にしがみついており、セミと間違えられることもあるとかないとかいう逸話を持っているだけのことはある。
「このぷりちー顔に傷がついたらどう責任とってくれるのーーーーっ、女子力落ちたらどう責任とってくれるのーーーーっ! イケメンと結婚出来なくなったらどう責任とってくれるのーーーっ、アイドルになれなくなったらどう責任とってくれるのーーーーっばかーーーー!」
ユーカリはそんな世迷言を叫びながら、忍刀・月華を振りかぶった体勢で、地面へどーん!
「せっかくイケメンの狼に(いろんな意味で)食べられに来たのにこんな所で捕まってらんないよ! 私は(イケメンの)狼に会うまでは絶対死ねないんだよ! そんな女子の夢見がちな恋路を邪魔する奴は、この普段から芸能界にスカウトされた時に備えて授業中にサインの練習をおこたらない私下妻ユーカリに蹴られて死んじまいな!」
シャキーン。
「なるほど……抵抗するってことやな……ほなしゃあない。こっちも本気で行くで……」
腰を落とし戦闘の構えを取ると、亀山君(あえて)は、徐に自らのブラのホックを外し始めた。
ブラのホックを外し始めた。
ブラのホックを外し始めた。
え。
何度見てもブラのホックを外している。
「えっブラのホック!? ブラのホック☆?!」
ざわめき出す、ふゆみの木。
「え、ブラのホック!?!?」
見間違えかとリアルに二度見するみなさん。
でもそれは間違いなくブラのホックでしたピンクで天使なレースのブラでした。
「どうして、どうしてこんなことに!?☆★☆」
嬉しがってんのか驚いてんのか、とにかくざわめき出すふゆみの木。
けれどふゆみだけではなく、誰もがそう思っただろう。どうしてか。亀山本人ですらそう思っただろう、どうしてか。どうしてブラのホック外してんのか。
けれど亀山は気付いていない。自分でそう供述してしまっていたことに。
それでは亀山君の供述をご覧頂こう。
→Re:「ブラを遠慮なく使用しつつカオスの現場へ突入」
間違いないですよ。これ間違いなくブラつけてますよ。現行犯です。
そんなわけで久遠ヶ原にある某所轄の刑事、亀山 淳紅巡査部長(18歳)は、某日、赤ずきんの演劇中に女性下着を着用している所を発見され、現行犯逮捕され……。
「ち、違うんや! 聞いて、聞いてくれ! ち、違う、自分はただ、ブラストレイを縮めてみただ……」
亀山君は、しどろもどろに言いながら、万年赤面症の顔をもっと赤面させます。
「ふふふ。亀山殿。言い訳などおやめなさい。お見苦しい……」
そこに突然。
登場した老婆……のような話し方をする、キツネ! めっちゃキツネ! 思いっきりキツネ! 全体的にキツネ! 被り物とかじゃなくて本気でキツネ! でも被り物見たいな人型のキツネ!
「どうやら亀山殿はこのスキルの本当の怖さをご存じなかったようじゃのう……」
顔完全にキツネなのに、ボンキュッボンのナイスバディ(主に胸)を揺らしながら、狐珀(
jb3243)は色っぽく流暢に亀山君を諭します。諭しますがみなさんそのビジュアルに完全に持ってかれて、話が全く頭に入ってきません。
「このスキルはの、ブラにしよーがブラトレにしよーが、なんとなく響きが下ネタみたいになっちゃう怖いスキルだったのじゃ……それでびびってラストレとかちょっと弱腰な縮め方をしてしまった日には全く相手に伝わんなくてえっ何のスキル?! なんて思われてしまうやっぱり怖いスキルじゃったのじゃーーー! こーーーん!!」
「ひーーーーー!!」
なんか分かんないけど、いや多分主に相手のビジュアルに圧倒され、叫び声を上げる亀山君。
「大丈夫じゃ。私が優しくお主の傷を癒してやるからの。もふもふして。あるいはもふもふして」
どっちにしろもふもふされる提案をしつつ、提案したくせに返事待たずに狐珀様は魅惑の尻尾もふもふ攻撃を仕掛けました。
傷心の亀山君を柔らかく包み込むふっわふわの尻尾もふもふ。
「それもっふもふ、もっふもふ」
「わーーー! こ、こここ、こちら亀山! もふもふされて大変です、あ、もふも、お、おお、おお応援! 応援をお願いします! もふも!? あふ、れ、レフニーちゃん! おーいレフニーちゃーーーん!」
亀山刑事は、そこですかさず相棒のうkじゃなかったえーRehni Nam(
ja5283)刑事を呼びます。
「あ、はい! はいこちらレフニーじぇす!」
いきなりの呼びかけで慌てたのか、最後若干噛んだ感じで、相棒のうk……じゃなくて女刑事のレフニーさんは応答しました。
「じゅ、ジュンちゃん!! 助けに……助けに行きたいのですが無理です!!」
「ええええええ! なんですかーうkじゃないやえーーー、レフニーちゃん!」
「私は私で今大変な人生の危機を迎えているのです! 怪しいを通り越してこれはもう決定的な匂いがぷんぷんするのです! 私はこちらの事件を優先します!」
「え、ちょ、そんな単独行動は駄目でしょう、うkじゃないやえーーー、レフニーちゃん! ちょ、ちょっと待ってもしもし?! もしもs……もふーーー」
●第三幕「赤ずきんちゃんビヨンド」
その頃、レフニーはレフニーで女刑事としての人生におけるクライマックスを迎えようとしていた。
眠らない夜の街に輝く、「バー白雪姫」のネオン。
そしてその隣の、「バー赤頭巾」のネオン。
単なるバーとしての看板しか出していないが、この二つは、言わずと知れた白雪組と赤頭巾連合のフロント企業でもあり、両の主だった幹部らが良く出入りしている店でもある。情報屋ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)がそうレフニーに教えてくれた。更に彼女が言うには、現在白雪組のシマだったこの場所に、赤頭巾連合が殴り込みをかけてきた事から二つの組の抗争は白熱し、いつ一般市民を巻き込んだドンぱちが始まってもおかしくないという緊迫した状態になっている、というのだ。
「情報源? そりゃー刑事さん、企業秘密ですよ」
札束を数えながらソフィアは意味深に微笑んでいたものだ。
あらゆる情報を扱う凄腕の情報屋ソフィア。レフニーも随分お世話になった。彼女に赤頭巾連合の組員、天耀(
jb4046)を紹介してくれたのもこのソフィアだ。
彼は言った。
「刑事さん、今日二つの組に動きがあるぜ」と。
真面目な顔をするのは慣れてないのか、引き攣った笑いのようなぎこちない表情で天耀は言っていた。
普段は、「疲れてない? ちょうどこの近くにいい感じの店があってさーつか腹も減ってきた頃っしょ? マジおすすめだから一緒に行こうよー」
などと、その美形の顔を武器にチャライ言葉で女性を垂らしこみ、そんな女達を時には体を、時にはその「悪魔の囁き」とも呼べるような魅惑の口先で繋ぎとめ管理することをシノギとしている、下っ端のチンピラ悪魔だ。
けれど、情報には信頼が置ける。
何故なら誰よりも彼自身がこの世界から抜け出したがっているからだ。
「俺もそろそろ足洗ってさ。農業でもやってのんびりくらしたいんだよなマジでさ」
何故農業だったのかは謎だが、彼なりに将来について考えているのだろう。そう笑った若者の顔を見てレフニーは、その将来を守るのが刑事の務めなのではないか、と自らに自問し、そして決した。取引の瞬間を押さえ、二つの組を壊滅させてやる、と。
一方その頃、
「赤ずきんを、狙え」
白雪組の若頭、紀浦 梓遠(
ja8860)は、今日も美しい酷薄な笑みを浮かべながら、金で雇った男、黄昏ひりょ(
jb3452)に赤ずきんの暗殺を依頼していた。
「目ざわりだよ、あいつ」
「分かりました……」
今日も真面目かつ冷静に眼鏡を押し上げるひりょさん。
「報酬の方は……きちんとお願いしますね」
「分かってるよ」
若頭の隣には、一人の女性。高い宝石を纏ったその美しい女性は、赤頭巾連合の本家の遠縁でありながらも白雪組若頭に惚れ込み、白雪組に寝返った女、柚祈 姫架(
ja9399)。
「えへへー、白雪姫は今日も可愛いねー大好きだよー白雪組をもっと大きく出来るように私、梓遠を頑張ってバックアップするよー」
それにまた、若干壊れたような無邪気で歪な笑顔を返す、梓遠。
「赤ずきん組なんて僕が潰してあげる」
「そうはさせるかー!」
そこへ、赤ずきん組の者達が乗り込んで来たのだった。でも者達っていうか良く見たらお婆さん一人だった。お婆さん一人なのにめっちゃ強そうだった。
っていうそれは、アイリ・エルヴァスティ(
ja8206)だった巨乳だっただからお婆さんっていうか衣装だけお婆さんだった。
「ここはうちが貰う!! 赤頭巾連合なめんじゃァないよ」
おばあさんはそう言って、杖を全力で振り回します。
「くそっ、行け! かかれ! ひりょ!」
「ふふふ……こんな老婆が相手とは片腹痛ぐはっ!!!」
途端に杖で全力撲殺される、ひりょさん。頭から血がコメディみたいに噴き出しました。普段はあんなに生真面目で冷静なひりょさんの頭からピューって大量の血が出てる様っていうのもなんだか感慨深いものがあります。
血で地面を赤く染めながら「な、なんじゃこりゃあ……!」と叫びつつ、ド派手に倒れ込むひりょさん。
「ふん、うちの金づr……孫には指一本触れさせないよ!」
続いてお婆さんは、寝返った身内、姫架ですらも杖で全力撲殺します。
「ぎゃーーーーーー、白雪姫―――ぐ、ふ」
「くそ、こうなったら!」
ズドーーーーン!!!
そこに轟く、一発の銃声。
「な、なに……?」
打ち抜かれた腰に手を当て、茫然とするアイリ。
「追い込まれた赤頭巾は狼よりも凶暴なのでしょうね」
雫(
ja1894)でした。
ギリースーツ姿で店の隅に身を隠していたスナイパー雫が、お婆さんを撃ったのです。
「お、お婆さん!!!」
そこに現れる、赤ずきん組の女組長、紅鬼 姫乃(
jb3683)。
「あ、赤ずきん……駄目だろう? 一人で出かけちゃ。お、お外は危険なんだから」
お婆さんは血に染まった手をぷるぷるさせながら伸ばし、赤ずきんのスカートを掴みます。
「ああお婆さん……なんて可哀想なお姿なの。ええ大丈夫よ、お婆さんの仇は姫乃が必ず取ってあげるからね」
赤ずきんちゃんはふふふふ、と残虐な笑顔を浮かべました。
「この返り血で紅く染まった頭巾が目に入らないかしら? 姫乃を本気で怒らせたらどうなるか……思い知らせてあげるわ」
「動くなーーー!!」
バターン!!!
そこでレフニー刑事が登場しました。
やる気満開、メタトロニオスを構えながら、彼女は力の限り叫びます。
「あなた達を、逮捕します! 大人しく捕まれば良し、抵抗するなら、容赦はしません!」
(ピー)
(差し込まれるひまわり畑の映像)
(※こちらのシーンは過激過ぎるバイオレンスのためカットされました)
(映像をお楽しみになりたい方は、他にもキャストインタビューなど特典映像満載の「赤ずきんちゃんビヨンド完全版(R指定)」の発売をお待ち下さい)
と。
気がつけば天耀は、血に濡れたレフニーの横に跪き叫んでいた。
「こんな悲しい結末なんて……俺、俺嫌だよ、刑事さん、なあ返事してくれよ、刑事さーーーーん!!」
後には彼の悲しい嗚咽だけが虚しく響き続けたのだった。いつまでもいつまでも。
●第四幕「赤ずきんちゃんが世界を救う」
その頃、狼さんもまた、泣いていた。
具体的には、雨宮 祈羅(
ja7600)がクインV・リヒテンシュタイン(
ja8087)のしごきに耐えきれず、泣いていた。
「ふふふ、如何に悪辣狼と言えどせっかく食べたのに逃げられるのは可哀想だね。僕が変わりに入ってあげるよ! さあ遠慮は要らないよ、さあさあ口を開けてご覧。それじゃ入らないよ、もっと! もっと開けるんだ! ええいっ! 開けきれないなら僕が手伝ってあげるよ、ほらもっと開くんだろ?」
「む、無理だよまぶしっ、う、うぅ、眩しいよ、苦しいよ、無理だようぇっくうぇっく」
「泣いちゃ駄目だ! 根性だよ! 頑張るんだ! 君の心の眼鏡を光らせてみろ!」
さすが今日も無駄に眼鏡光線眩いクインさんは、エキセントリックな所に全力投球です。これでも悪気一切ないですから。心はもう完全に石になりきってますから。無邪気なだけですからむしろなんだったら不器用なだけですから。清楚な乙女に若干かすってる祈羅さんのこと、もしかしたらちょっと気になってますから。気にはなってるけど言えないだけですから。どう話しかけて良いのか分からずに高慢な話し方になっちゃってるだけですから。祈羅さんに活躍して貰おうと一生懸命になってるだけですから。有難迷惑ですから。
とかいう背後では、森の沼に封印された雪ノ下・正太郎(
ja0343)が、今まさに、赤ずきんフレイヤの黒魔術によって呼び起されていた。
「俺の名はリュウセイガー。漢字で書くと「龍成我」。意味は、俺は龍のように強く大きくなると言う意気込みだ。そんな俺を呼び起こすのは、誰だ」
「私はフレイヤ! 大銀河帝国の第三皇女にして、いずれ訪れるであろう世界の終焉を食い止めるため降臨した女神の生まれ変わりよ! よろしくね!」
「私は雪室 チルル(
ja0220)! 赤ずきんを故郷から追ってきた狼だよ! 暗殺容疑で逮捕するんだよ!」
「えっ!」
「えっ!」
「ええええ赤ずきーーん!」
「ええええ狼ーーーー!」
「それから私は、シリアスを決して許さないシリアス狩人のヴェルゼウィア・ジッターレイズ(
jb0053)ですわ!」
説明しよう! シリアス狩人とはシリアスになったらめっちゃ怒り出して、シリアスになってる人達をペン先で刺したりしてお仕置きするという狩人の事である!
「さーみなさま準備はよろしくて? 私は決してシリアスなんざ認めませんわ! ペン先舐めると痛い目に会いますからご注意を!」
ヴワァサと銀色の髪をかきあげつつ叫ぶ、今日もめっちゃテンション高いお嬢様ウェキペディアじゃなかった。ヴェルゼウィア。
が跨っている本物の馬が物凄い暴れてます、ブヒンブヒン言ってあばれてます大丈夫ですか。
「でもぜーんぜん出番がなくて困っていたのですわ。もうシリアスじゃないけど出ちゃいますわ」
そう目の付けどころは面白かったんですけどね。シリアスな人なんざいませんでしたよ、カオスでしたよ。みんな程良く壊れてましたよいやほんと目の付けどころは面白かったんですけど。
とかやってる間にもチルルが赤ずきんに飛びかかっていた。
「ここで会ったが一年目―!!! 暗殺容疑で逮捕するー!」
所にすかさず割りこんでくる、静矢とみくず。
あと、アップルトーーーン!(言いたいだけ)
「この方は私のターゲットだ……貴様には渡さん!」
「あたしのあこがれの人を食べちゃおうなんてひどいよ!」
「アウルの暗黒面に落ちるといいのですわ! (コーホー)」
「あと、ふゅみだよ☆彡 木だよ! 悪い人には意地悪するよ! アウトローだよ! (バシッ!)げへへのへー(・∀・)」
で、ばったばったし出したその辺を全く無視して、とうとうと召喚主に語りかけるりゅーせいがー正太郎。
「世界を救いたくば、光る石を手に入れ魔王「狼」を倒すがよかろう」
「えっ光る石!? そんな物が何処に……」
振り返った(頭長い)フレイヤ。
そこに佇む少年を、物凄い虚ろな目で、アデル月さんは照らし出します。
「今日は、私、月だよ」
知ってます。
「でもあっちの方が眩しいよ、月、立つ瀬ないよ」
同情します。
「しかしその赤い頭巾はちょっとパンチが足りないよね。もっと地獄の業火のように赤黒く、燃え上がるようなフリルをつけたらいいんじゃないかな……まあ、どうしてもというならこの石の僕が作ってあげてもいいけどね!」
照らし出されたクインさん、姉の過剰なコスプレ趣味に答えるために健気に衣装作りを行ってきた血が騒ぐようで、そんな事をぶつぶつ言ってます。有難迷惑だけどね!
あとその隣で地団太踏んでるユーカリ。
「狼、女子かよ! どういうこったよ女子かよ! じゃあもうそこの石でいいよ! 私を食べなよ! 赤ずきんちゃんより私の方がずっと美味しいよ、食べなよ!」
「ちょ、ちょっときみ何をするんだ、や、やめろちょ」
「だいたい赤ずきんちゃんとか、あんな頭長い毒キノコみたいなのより、このコアラちゃんの方が絶対美味しいんだから! 召し上がってみるのがいいよっ、遠慮は要らないよ! さあさああ!」
「馬鹿な! 今日僕は石だ! 食べられることはあっても食べることなど……くらえ! 眼鏡こうせーーーーん!!!」
「きゃーーー!」
「そうか……光り輝く石……あれだ!!」
こうして赤ずきん一向は無事光り輝く石をむりくり手に入れたあと世界の終焉を止めたりなんかしちゃったりして気球に乗って世界各地を回ったりして世界の平和を見届けたのでしたなんでやねん。
おしまい。