●今夜の夜食はラーメンで決まりです。
その日久遠ヶ原学園の一角は、季節外れの学園祭でも催されているかのように、賑わっていた。
個性的にデコレーションされた出店が並び、行き交う人々が物珍しげに足を止めている。
それぞれの出店には、店主たる生徒達のこだわりが文字になって現れた看板が、掲げられていた。
一つ一つをまずここでざっと紹介みるとこうなる。
御堂・玲獅(
ja0388)とメレク(
jb2528)による屋台「塩拉麺」
龍崎海(
ja0565)による屋台「鶏の胸肉ラーメン」
月詠 神削(
ja5265)による屋台「イタリアン風トマトラーメン」
Rehni Nam(
ja5283)と月乃宮 恋音(
jb1221)による屋台「醤油味の煮干ラーメン」
ハートファシア(
ja7617)と夏木 夕乃(
ja9092)による屋台「明日のラーメン研究所」
そして最後に、白野 小梅(
jb4012)による屋台「モヤシとニラの餡かけラーメン」
一個怪しげなのが混じっているけれど、とにかく全てに共通している言葉。
それは「ラーメン」
そうこれは全て、ラーメンの屋台なのだ。
どうしてこんなにラーメンの屋台ばかりが出現したのかといえば、学園にインスタントラーメンが大量に送られてきたからだ。
元はと言えば、どっかの残念な青年の誤発注による溢れたラーメンだったらしいけれど、とにかくそれがめぐりめぐって学園にやってきた。
置き場所にも困るし、じゃあもうこれ一気に処分しちゃえばいいんじゃない。
と誰かが生徒達への無料配布を決定すれば、じゃあ無料で手に入れたこのラーメンを使って屋台かなんかやって、ついでに、この収益でその残念な青年も救っちゃえばいいんじゃない。と、立ち上がった生徒達により、このラーメン屋台村は実現した。
その影ではもちろん、その発案を実現すべく、面倒な事務処理を一手に引き受け動いた、月乃宮 恋音とそれを手伝うメレクやレフニーらの甲斐甲斐しい努力があったわけなのだけれど、とにもかくにもその結果、今日ここにこうして一夜限りの屋台村が完成したのである。
「一夜限りの屋台村だよ、宜しく!」
屋台村をより賑わすため、自ら作成したチラシを配りながら、海が声を上げる。
今日は、この一夜をより楽しむために。
その場に集う撃退士達は全力を尽くす。
●だからこんなイベントもやってみました。
「さーやってまいりましたー! 一夜限りの大食い大会のお時間でーす!」
屋台村から数十歩ほど離れた場所に設置された特設ステージの傍らで、安っぽーいマイクの声が響く。
何処かから借りてきたらしい長机の上には、「解説席」とかなんか手書きで書かれた札が置かれ、マイクの前に座っているのは、並木坂・マオ(
ja0317)と月乃宮 恋音。
とパンダ。
「おいパンダが座ってるぞ、パンダだ。パンダ」
「パンダがうちの制服来て座ってるぞ! おいー! みんなも来いよパンダだぜー!」
とかなんか、すっかり新入生の人達とかに見世物みたいになってる彼は、下妻笹緒(
ja0544)17歳。
ジャイアントパンダの着ぐるみ纏って学園内を闊歩する、奇人変人知識人(その中身は意外にも美形だという噂も……?)のパンダなのである。最早パンダなのである。
「はーいじゃあ解説席紹介するよ!」
購買で買ってきたハンバーガーと、カップに入った屋台ラーメンを交互にもしゃりながら、マオが言う。
「司会はあたし、好奇心ハンターマオと、特別解説は屋台村運営委員の月乃宮さんとパンダでお送ります!! ずずずずずーっ」
って話の語尾で思いっきりラーメンをすすった。
「い、いやあ……マオさん何というかさすが司会っぷりがそのォ……」
って一旦は言葉を探そうとしたものの、「粗い」って言葉しか言えない事に気付いた恋音はそのままプツりと黙る。
そしたら隣のパンダ……じゃなかった笹緒が、まさしく何の装飾もなく「粗い」と口走りパンダ顔でマオをじーっとガン見した。
「あ、じゃあパンダさん、きみ、やふぉ?」
ってなんで最後まで我慢できないんだかったのかほんと聞きたい、みたいなタイミングでハンバーガーに被りついたマオは、そこからのラーメンずずっコラボで口の中満開にして、ブフォッ! と漫画みたいに噴き出した。
「うわ、何これこのラーメン! 普通にうまっ。むしろうまっ」
そしてマイクを通して声が響くのもお構いなしに、「パンダさんうまっ。どういうことなの、どうやって作ったのこれ凄いね!」とか笹緒に詰め寄った。
対して思いっきり「はーそーですか」みたいな温度差甚だしい感じで押し黙る、デフォルト無表情(着ぐるみ)パンダ。
と思ったらその中身からなんか「ふふ」とかちょっとまんざらでもなさそーな笑い声が聞こえた。
「これは、あれだな。熱したフライパンに麺だけ入れて、玉ねぎ、ピーマンも一緒にぶち込み、仕上げはトマト缶におろしニンニクをざぱーっとしたやつだな。ただラーメンを煮るだけではつまらんよ。イタリアン風アレンジラーメンだ」
そして徐にスマートフォンを取り出し、所属する新聞部のモバイルサイト「久遠ヶ原タイムス電子版」へアップロードするための原稿の下書きを開いて見せた。
――久遠ヶ原タイムス電子版――
――「一夜限りの屋台村大特集!!」――
――ちなみに筆者の作ったラーメンはこちら! ――
「後で屋台の方にも取材に行かねばならんが。ラーメン代くらいの仕事はしてやろう」
そしてスマホをまた懐に。
「えーではァ……そろそろ選手の紹介をですねェー……」
そこですっかり、逸れまくりに逸れていた話を恋音が戻した。
さすが屋台村運営委員である。
「あ、そだった! はーいじゃあ参加選手を紹介していきまーす! まずはー熱血系のこちらの選手ー!」
「おう! 待ちくたびれたぜ!」
ぐううううう。と思いっきり腹を鳴らしながら虎落 九朗(
jb0008)が登場した。
自らの掌に拳をぶつけ「おす!」のポーズ。
「最近はさみぃかんな!! こんな時はラーメンでも食って弾けるに限るよな! 腹いっぱい食うぞー!」
「はーいというわけで大食いに向かう人のデフォな感じのお言葉確かにきっちり頂戴しましたー! これで場の空気が締まりますね! 今日もありがとうございます! さー続いてはこの人です! 説明は特にしません! もう現物を見て貰うのが一番早いです!」
「おー! ラーメンなんだぞー! 俺もいっぱい食べるんだぞー!」
と、そんな紹介を受け、のーてんきめの声と共に登場してくる、彪姫 千代(
jb0742)。
そして当然ながら彼は今日も上半身の服を。
脱ぐ。思いっきり脱ぐなんか分かんないけどめっちゃ清々しい笑顔で脱ぐそういう教育方針の下で育てられてきたので脱ぐ。
※ちなみにこのそういう教育方針がどういう教育方針かお気になった方は、彼に聞いてみることをオススメします。返答に困って目の前で脱いでくれると思います。
とりあえずし……獅子舞でも持たせてみたら……。
なんて微妙に古い気がしてもう口に出来ない観衆はどうしていいか分からずとりあえずシーン……。
「はいっ、というわけでね、寒くないんでしょうかね。うんっ大丈夫そうですね、もう肌の仕様も人様と若干違うのかもしれないですねってことで次の方行ってみましょうどうぞー!」
そこで、えええっ。と上がる、観衆から微かなどよめき。
舞台に上がって来たのは、え、大食いですよ、大丈夫ですか大食いですよ分かってますか。みたいな細身の少女、みくず(
jb2654)だった。
身長:160cm。体重:48kg。胸はそこそこ。
「ラーメンのホッカホカ……たっくさんたべるよ!!」
こんな淡い銀髪そして碧眼モデル体型の少女がまさかの大食い大会エントリーで尚且つ可愛くガッツポーズとか。
観衆はちょっとなんか分かんないけどドキドキした。なんか分かんないけどドキドキした。むしろキュンとした奴もいたかも知れない。
「さー大丈夫なんでしょうかー! では次の方どうぞー!」
「おー」
奥二重のややつり目。妖艶な雰囲気を醸し出す赤い髪。猫のような縦長の瞳孔で淑女達の心を今日もすっかりキャッチなんだぜ小悪魔なんだぜむしろホントに悪魔なんだぜ、天耀(
jb4046)が、飄々と手を掲げながら、舞台上に上がってくる。
「ちなみにこちらの天耀さんは、この大会の実行委員も兼ねてらっしゃいまーす」
「ま。食う方がメインだけどな。今日は腹いっぱい食わして貰うぜ」
「それでは以上のみんなでラーメン大食い大会始めちゃうよ! ラーメンはもちろん屋台村の皆さんからだ〜!! レッツーカーム!」
●そうかと思えばこんな風にも。いろいろな楽しみ方が出来る、それがラーメン。
その一方で極めて私的にラーメンを楽しむ者達も居る。
例えばそう。
『――何気ない時間のほんの空白に』
「今日もまだまだ……寒いですね」
その日、番場論子(
jb2861)は、学園の窓の外に見える寒々しい景色に身ぶるいしながら、考えていた。
今日の夕ご飯はどうしようか、と。
こんな寒い日には、やはり体が芯から温まるような物を食べたいけれど、そのメニューが一体何なのか思い浮かばない。
というよりも、幾つかモヤモヤと考えるのだけど、どれもいまいちピンとこないのだ。
そんな折、食堂に出向いたらある意味うってつけの物が配布されていた。
ご自由にお持ち帰り下さい。
の文字と共に箱で置かれた、インスタントラーメン。
「今日は……これをアレンジして頂きましょうか」
袋詰めされたそれを手に取った彼女はふと、久遠ヶ原学園に来る前に居た場所のことを思い出す。
故郷。
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
天使である彼女の故郷は天界に違いなかったけれど、そこに戻るつもりがもうないのならば、今思い出しているその場所が、最早故郷と呼べるものなのだと彼女は妙に実感する。
あの家で食べた何気ない味。
とろっとした温かさと、ちょっぴり塩味の、ちょっと豪華なインスタントラーメン。
今日は……あの味を再現して食べてみましょう。
夕食のメニューが決まった。
彼女はそっと微笑むと食堂を後にする。
『――あるいは。大切な家族と過ごす時間に』
「インスタントラーメンか」
その日、礼野 智美(
ja3600)もまた、食堂に置かれたそれを見つけた一人だった。
「家に持って帰れば料理好きの妹や親友が調理してくれるだろうし、部室に置いとけば腹好かせた調理できない奴でも好きな時に食べれるだろうし」
インスタントラーメンという言葉の持つ、手軽さと便利さに興味を引かれた智美は、それをいくつか持って帰ることにした。
家に帰ればいつものように、家族や仲間と共に食卓を囲む。
「じゃあ今日は鍋にして〆にラーメン入れて、序に知り合いに声かけて、集まれる人は集まって一緒に食べましょう! 彼と彼女がいればあたし入れて味違う鍋が3つは出来るし……ちぃ姉は皆に声かけ宜しくね!」
その日も、礼野家の夕食は楽しくも騒がしい。
『――またあるいは、学業の合間に』
ところで中学生の男子と言えば、育ち盛りで食欲も半端ない。
ヨーロッパ貴族の家に生まれたレグルス・グラウシード(
ja8064)が、日本に来て覚えたのがこの、インスタントラーメン。
「わあ、本当にいいんですか? ありがとうございます!」
嬉しげにそれを持ち帰った彼は、早速寮の自室でそれを調理することにした。
とは言っても、具も何も入れないスープと麺だけの質素なラーメン。
その質素さが貴族育ちの彼には新鮮で、そのジャンクさは魅力的だった。
派手な装飾なんてなくても、ほのぼのと温かくて、身近にあってくれる存在。
こたつに入り、宿題のページを繰りながら、彼はずずっと麺をすすった。
「んーやっぱり美味しいなあ……」
じんわりと熱いスープが体に染みる。
やがてそのラーメンをすっかり平らげた彼は、
「ちょっとだけ……」
と呟き、テーブルの上に突っ伏すると、幸せな夢の中にまどろむことにした。
『――またあるいは。なんとなく、感傷的になる夜に』
そうして、ラーメンを食べながら過ごす夜に、幸せな夢を見る者もあれば、少しセンチメンタルになる者もいる。
長幡 陽悠(
jb1350)は学園から持ち帰ったラーメンを食しながら少し、郷愁に浸ったりしていた。
野菜炒めを乗っけたラーメン。
自分で作ったそれも不味くはないけど、やはり家で食べていた味とは少し違う。
野菜の切り方は乱雑で、少し焦げてしまっていて、そもそも見た目があんまり美味しそうじゃない。
母さんならもっと肉も入れて具沢山で美味しく作るんだろうな。
ふいにそんな事を考え、そんな事を考えた自分にちょっと照れて苦笑した。
「さ。明日も頑張らないとな」
もやもやとしたいろいろを振り切るように陽悠はわざとらしい背伸びなどしてみる。
『――そしてあるいは。戦いの後、ほっと一息つきたいそんな夜に』
天風 静流(
ja0373)はその日、帰途の途中に見つけた、商店街の中の古びたスーパーマーケットの店内にいた。
夕食のための買い出しだったけれど、主役のメニューはもう決まっている。
インスタントラーメン。
処理に困ったのか何なのか、とにかくご自由にお持ち帰り下さいと学園の食堂に置かれてあったので、持ち帰って来た。
ただ、このまま食べるというのも味気ない。
せっかくなら、こんな風に余裕のある日くらいは、買い物でもして行こう、と彼女は商店街に立ち寄ったのだった。
野菜に豚肉……片栗粉でも買ってあんかけにでもしようか。
ついでに炒飯も作ろう。
何ということはないありふれた日常と思考。
日々天魔との戦いの中にある久遠ヶ原学園では、こちらの方が珍しい。
けれどたまには。
こうしてのんびりとする時間もいいものだ。と。
彼女は買い物カゴを片手に、店内をゆっくりと歩きまわる。
そうだ。ついでにシャンプーも買って帰ろう。
明日からまた、勉強に仕事に戦いにと慌ただしい生活の中に戻るために、彼女は今のこのゆったりとした時間を密やかに噛み締める。
●それでは屋台村に中継を戻しま〜す。
ではここで、屋台村にある個性豊かなラーメンをご紹介していこう。
まずは、玲獅とメレクが切り盛りする屋台「塩拉麺」のメニュー。
アジの魚骨スープの塩拉麺。
作り方は玲獅とメレクが実演してくれている。見てみよう。
「まずはアジを三枚に下ろし、身は照り焼きに使用するのでおいておきます。こちらの鱗と内臓は捨てますが、中骨、頭、腹骨、ゼイゴ等のアラはやはり後で使うのでおいておいて下さいね」
「はい分かりました。では、次はどうしましょう」
「はい次は、鍋に水と少量の酒、生姜のブツ切り、昆布と先程のアジのアラを入れ、1時間程木べらで骨を少しずつ潰していき煮詰めます」
「はい、煮詰めた物がこちらになりますね」
「これを白濁したら汁をザルでこし塩味に統一。これでスープは完成です」
料理番組さながらの二人のやりとりに熱心にメモを取るもの、えどっちがどっちなの口調変えてくれないと分からないよ、と困惑する者と様々だったけれど、とにかく、息の合った二人のやり取りはもう少し続く。
「それでは具のアジの照り焼きに移ります。まず、先に三枚におろしたアジの小骨を取り小麦粉を塗し、別の鍋に油をひきアジの皮面から焼き、鍋に酒2、みりん2、醤油2、砂糖1の割合で加え1分ほど絡めます。はい、これで完成です」
「御堂さんの動きは本当に無駄がありませんね。うっとりします。アジがすっかり美味しそうな照り焼きになりました」
「おおおー」
そんな事は……などと白い肌を微かに赤らめつつも、玲獅は作業を続ける。
「麺は別の鍋で茹でた後スープに入れます。アジの照り焼きと貝割れ菜、葱等の具を乗せ、はい出来上がりです」
と、容器を差し出す玲獅の、控え目な微笑。これ、最高の隠し味です。
一方こちらは。
龍崎海(
ja0565)による屋台「鶏の胸肉ラーメン」のメニュー。その名も、鶏の……胸肉ラーメン!! どーん!! そのまんまやないか。
具にはもやしと人参。それにスープ煮込んだ鶏の胸肉のスライス。
「国産でも安い鶏肉だ。客層は男子。肉があれば基本喜ぶ」
実直で真面目な彼の、誠実な対応と共にぜひ一杯どうですか。
さらにこちらは。
月詠 神削(
ja5265)による屋台「イタリアン風トマトラーメン」のメニュー。その名も、イタリアン風トマトラーメいやもうそのまんまやかないか。
「麺はスープとは別に茹でとく。その方が旨くなるし。で、用意する物はこれね。ホールトマト缶。鍋に水とインスタントラーメンのスープの素を入れ沸騰させ、スープを作製。出来たスープ、茹でた麺を器に入れ、とろけるチーズをたっぷり投入。お好みで胡椒やタバスコを加えても良し。ま、簡単だな」
中性的な美貌の彼の愛想の欠片すらない淡々とした対応にきゅんきゅんしながら、食べるのが通の食べ方。
「麺を食べた後、残ったスープにご飯を入れ、トマトリゾット風にして食べるのも至福だと思うよ」
ぼそっとくるアドバイスにきゅんきゅんしながら食べるのがこれまじ、通の食べ方。
そしてこちらは、Rehniによる屋台「醤油味の煮干ラーメン」の味噌味煮干しラー……以下略。
ちなみにお手伝いの恋音はご存じの通り解説席にいらっしゃるので今は不在。
彼女の「えー……これがァ……煮干しのラーメンですゥ……ど、どうぞ……」というとっても恥ずかしげなたまらん接客を楽しみたい方は、後ほど訪れてみるといいかも知れない。
「えーっと私が作るのは只管煮干を煮詰めて作った醤油味の煮干ラーメンです! 味はちょっと濃い目ですが、寒いと濃い味の方が美味しく感じますもんね! 具は、白髪ねぎ、煮卵半分を2個と叉焼、メンマ、なると、もやし炒めです! 叉焼も煮卵もこの日の為にしっかり煮込んで沢山作ってきました! へいらっしゃい!」
雰囲気作りに付け髭・ハチマキ! なんて無茶をした、かの水着コンテスト優勝者の銀髪の美少女を楽しみたいマニアの方は是非要チェックです。
その隣にあるのは、小梅による屋台「モヤシとニラの餡かけラーメン」のモヤシ……以下略。
「最後まで熱々の餡かけラーメンでボクがみなさんの身を心も温かくするです! ニコニコですよ! めしあがれ♪」
甘えん坊天使ちゃんの元気いっぱいスマイルと一緒に差し出される容器をほくほく受け取り、寒い夜をぬくぬくと過ごしてみませんか。
そして最後に。
こちらがハートファシアと夕乃による屋台「明日のラーメン研究所」の。
ハートファシア特製マヨネーズラーメン!!!! どーん! になります誤字ではないですマヨネーズです間違いないです。
「はいまずは……私の大好きな昆布で出汁をとりましょう。味に深みが出る筈です」
青いシルクハットを被ったハートファシアが、ジト目で鍋を見つめながら、言った。何らかの怪しい儀式にしか思えなかった。
「はーい! 昆布だし大賛成ですー!」とか隣で言ってる夕乃がショートボブ系の爽やか美少女だったからまだぎりぎり屋台として通用してるけど、ハートファシアが一人だったら、絶対何か公衆の面前ではお見せできなさそうなグロっぽい何かが出てきそうだった。
「\コンブラー、コンブラー/」
ハートファシアが呟いた。
何かやばいもんが召喚されそうだった。
「\コンブラー、コンブラー/」
隣で夕乃が一緒に言った。
何か物凄い健気な感じがした。
「ちなみにこのコンブラーってなんですかー??」
知らないで言ってた夕乃とか、益々なんか健気な感じがした。
「美味しくなーれです」
あなたの事怨みます、くらいの口調でハートファシアが言う。
「あ! 先輩! そういえば麺のこと忘れてました! 茹でないと駄目ですよね」
「ですが麺をお湯で茹でるのでは面白くありません。ですのでここで取り出すのがこれ、マヨネーズ。私の大好物です。新たな可能性の開拓です」
「さ、さすがマヨネーズプリンセース!! そいつはぁゴーカイのワーオ!!」
とか、もう何言っていいか分からなくなってバグった夕乃とか、益々健気な気がした。
「ふむ。なかなか茹で上がりませんね……気長に待ちますか」
とかいうこれに夕乃がこっそり胡椒と辛味をつけ、オーブンで焼いたこれ!
「たっぷり野菜とたっぷりマヨでこってりコク厚ラーメンの出来上がりです! 食の勇者に託します! 恐れずかかってこいやー!」
というわけで、訪れた食の勇者一人目は、アリス・シンデレラ(
jb1128)。
「ふぅ……費用対カロリーとか考えなくてもいい食事っておいしいのです」
シンデレラなのにアリスなのに、こってりねっちょりをめっちゃモリモリ食ってます貧乏なので基本的にいつもお腹を空かせてますだからおいしいです全然食えます大丈夫です。
「す、凄いめっちゃ食ってる」
キッラーーーーーン!
そこで唐突に飛び込んでくる眼鏡光線。
「新しいラーメンの研究をしているというのは君達かな! どれ、僕が一つ味わってあげようじゃないか! 僕の舌を満足させられるかな、ふふふ」
訪れた二人目の勇者はクインV・リヒテンシュタイン(
ja8087)……いやブリ・リアント・メガネ君である。つまり、ブリメガネのリアント君である。もしくはモス・トバリア・ブルメガネ君のブルメガネ君でも可である。
「さあ君達に最高に美味しいラーメンの味わい方を教えてあげよう」
そして(無駄に)眼鏡キラーンさせたリアントメガネ君は、背後に立つマーシュ・マロウ(
jb2618)とチョコーレ・イトゥ(
jb2736)を振り返った。
「らーめんどんなお菓子ですか、私楽しみです」
カタコトしか喋れない外国人みたいな文法でマーシュが頷く。その手にはマシュマロ。そしてその腰に巻かれた紐。
を辿っていくと、
「マーシュ、らぁめんとはお菓子ではない。めん類というモノだ。つるつるしているらしいぞ」
何ということでしょう。もんのすごーい青い、もう青いとしか言えない肌の色をした大魔王チョコーレ様が紐を握って立ってらっしゃるではありませんか。
ちなみにこれは、召喚に失敗して変な物呼び出しちゃった挙句、それに危ない飼育されそうになってる美少女。という関係性ではないので、安心して欲しい。
の隣で、すんごい驚愕の胃袋キャラだけど、外見は何処からどー見ても普通に美少女なので、外見的に完全にアッパーな三人に押しやられるようにして立ってる真野 縁(
ja3294)。
「ではどうぞ、これが神秘のマヨラーメンです!」
そんな四人にばばんと差し出される神秘の(凶悪な)マヨラーメン。
「こ、これが……」
その見た目のアウトレイジさに、思わずちょっと引き気味になるリアント(クイン)。
眼鏡舐めてました。明日のラーメン研究舐めてました。ちょっとダシ変えてみるとかそんな程度だと思ってました舐めてました。
なんて今更反省出来ないよ! 不遜な男クインだよ! なブルメガネ君は、平気な顔して着席。それからマシューと大魔王チョコーレ様に眼鏡を渡した。
「かけるんだ。眼鏡を。温かいラーメンには眼鏡。素敵な経験だよ」
でも、食べようとしたら思いっきり眼鏡曇っちゃってんじゃーんアメージンキラーンオブメガネーンナッがもう全然アメージングでもキラーンでもなくなってんじゃーんみたいな展開とは最早全く違う事になりつつあって、クインは焦る。
「ち、違う! これはラーメンだ! 大丈夫だ! 僕なら出来る! 感じるんだっ! 心の眼鏡を通して! そう! 麺の腰! スープの香り! 全てはこの器の中にあるんだ! そうだろ、な! 僕の眼鏡!」
目を閉じて心の眼鏡と対話しながら貪り食うクイン。そしたら意外と上手くてクイン! 眼鏡光るクイン!
「ほむこれがらーめんですか」
隣でマシューが、コマ割りした別世界の人みたいにのんびりと呟く。
「そうです好きな物を入れて楽しむ料理です」
そしたらそれまで蝋人形みたいに押し黙っていたハートファシアが急に言った。
でも、あんまりやっちゃいけないアドバイスだった。
「好きなものを入れるのですね。では私はマシュマロ入れます」
「ぎゃおうーま、マーシュちゃん! すとーっぷ! マシュマロは駄目なんだね、マシュマロは駄目なんだね!」
慌てて止める縁さん。
隣で、「これは何だ」とかなんか、コショウ(ちなみにこの研究会のラーメンには一切必要ない)の容器に興味津々な大魔王チョコーレ様。
「はわー! マシュマロ美味しいですー」
「いやマシュマロじゃなくてラーメン食べわーマーシュちゃん光の翼で飛んでっちゃ駄目なんだねー!」
「うむ。こんなこともあろうかとマーシュの腰に紐を巻いておいた」
美味しすぎて空飛んじゃう〜みたいなマーシュをきっちり引き戻した大魔王様は、そんな事よりこの容器だ、とそれをしげしげみつめ、こちょこちょ弄くり、
「ふぁ……、ふぁ……、ふぁっくしょん!」
ばっふーん!
テーブルの上を滑る突風。その辺にある物にいろんな意味で壊滅的なダメージを与えた。
「ふむ、不思議な粉だな」
いやもっと……縁は普通にラーメン食べたかったんだね。っていうか縁まだ一切全然ラーメン食べてないんだね。
緑は、そっと目元の涙を拭った。
●ところで大食いの方……どうなりました?
はふはふはふずるずるずる〜ごきゅごきゅごきゅ。
凄い音を出しながら、九朗が食べていた。
「ラーメン♪ ラララ〜ラーメン♪ 麺が上手いぞラーメン♪ スープがカラフルラーメン〜みんな大好き小沼さ♪」
いや小沼さん誰。みたいな歌を口ずさみつつ、千代が食べていた。
「まだまだ食べれますよ〜。次お願いしまーす」
男どもと同じくらい器を重ねがら、みくずが食べていた。
とかいうのを、その体のどこにそんなに入るんですか、みたいな遠い目で見つめる天耀が、一応食べていた。
つまりまだ全然終わってなかった。
器めっちゃ散らかってるけど、全然終わってなかった。
屋台の在庫もつきかけているのに、全然終わってなかった。
「優勝者には豪華賞品贈呈!」
パンダ笹緒は、特設ステージに貼られたそんな文字をぼんやり眺める。
この状態で優勝者を決めるというのか。
屋台どころか学園中のラーメン、食いつくすぞ。
「み……みなさん良く……食べますねェ……」
感心したように恋音が呟いた。
「でもそろそろ自粛して貰った方が……いいかも……しれませんねェ……」
「じゃあそろそろ片づけて皆で屋上行こ! 打ち上げ打ち上げ!」
マオが箸を空へと突き上げ、声を上げた。
きっとこんな夜の星は、キレイに違いないから。
●メニーハッピーラーメンタイム。
こうして。
それぞれはそれぞれなりのラーメンタイムを楽しみ。
一夜限りの屋台村は、皆の手によりしっかりと片づけられ姿を消し。
誤発注で困っていた一般人青年には、その収益の一部が支払われ。
大量のラーメンは姿を消したのだった。
あなたは。
誰と。何処で。ラーメンを楽しみましたか?
おしまい