●それぞれの遭遇。
下妻笹緒(
ja0544)といえばご存じの通り、ジャイアントパンダの着ぐるみを纏い学園内を闊歩する奇人であり、その言動はなんかこう漠然とインテリさんな感じのするパンダであるじゃなかった、青年である。
「この私を模倣する? そんなことが出来るとでも思っているのかね」
自信満々に言い放つパンダ。
「それから、同士討ちや偽物に惑わされるのを避けるために合言葉を用意しておこう。これならもし自分以外の偽物が出ても分かるだろうからな」
彼は何処から見てもパンダだったけれど、これはもうただのパンダではなくて、できるパンダだった。
動物好きのジェラルディン・オブライエン(
jb1653)は、この「パンダ」が更に「できる」という魅惑のコラボに感動し、動物園の笹緒パンダ、みたいな想像をし、笑顔になった。がすぐに、バッシバシ叩いて来たりとかする可愛くない子供とかを理屈とか捏ねまわした挙句泣かしてる姿が思い浮かんで、だめだ動物園は駄目だいやでもきっと、新宿とか歌舞伎町に持っていけば人気者に……。
「あと同士討ち対策と言えば、マークを書いておいてそれを見せる、と言うのもありそうですが」
けれどそんなできるパンダを前にしても、蔵里 真由(
jb1965)は、このようにわりとクールなのである。
えなんでパンダなの着ぐるみなの大丈夫なの、と戸惑うこともなければ、パンダの着ぐるみとインテリジェンスのコントラストに動揺することもなく、この着ぐるみパンダとむしろ、通常営業の顔で喋っている。
「うむ。ではその二本立てで行くとしよう」
だからこんなに尊大で知識人のパンダさんが居れば、きっと「自分に化けてくるサーバント」に遭遇した所で、いくらややこしかろーが全く差し支えなんてなくて、知識人が知識人のアイディンティティたる理屈を武器に、あらゆる言い回しを駆使し、そのアラを指摘し、さっさと討伐してしまってくれるんじゃないかなってlie(
jb4307)は思ってた。
油断しているわけではなかったけど安心してた。何だったらこのパンダさんと離れないで居たら大丈夫じゃないかなって安心してた。
じゃあこれから2階班ばらけて探索開始、みたいな時も出来るだけパンダさんと離れず探そうかなあ、とか思ってた矢先、何をどう間違ったか、もうパンダさんの奴が出現した。
向き合う笹緒とパンダ。むしろパンダ二匹。
「ほう。なるほど。それは私を模倣したつもりか」
尊大に言い放つパンダ(笹緒)
「もきゅ」
ふわふわもこもこした体をくねらせ鳴くパンダ(パンダ)
ってもうなんか完全に偽物とか偽物じゃないとか言う前にそいつただのパンダだった。明らかただのパンダだった。
えーこのクオリティなのどういうことなの大丈夫なの。と真由はほっそーい目をした。
あ、これはもう全然簡単にやっつけられちゃうなってジェラルディンは思った。
「ふん。やれやれ私も舐めれたものだな。私を模すだと? これではただのパンダじゃないか。こんな……こんなラブリーアニマル攻撃などできるものかーーっ!!」
「えーーーーーーっ!!!」
って仰け反ったlieさんやばいですやばいです大きな胸がヤバいです漫画並ですむしろ衝撃映並ですバイーンってなってますそれはもうバアアアアイイイイイイインってなってますほんとです大丈夫ですか。
「ぐっ……ま、まさかここまでラブリーだったとは……ッ!」
それはそうと、笹緒のベクトルが完全に想定外だった。
「まさかの。まさかの自己愛系?!」
「違う! パンダ愛だ!」
「どっちにしろ思いっきり惑わされてるー!」
いやえー今日ずっとこんな感じになるんですかー……。
真由の目は益々ほっそー……くなる。
その頃二階では。
七ツ狩 ヨル(
jb2630)の偽物の行動を、Erie Schwagerin(
ja9642)とErieの偽物が一緒になってディスっていたじゃなかった、弄っていた。
ヨルといえば、その意外にかんわいらしい、一歩間違えれば「ショ……ショタァショタァハアハア」で尚且つ「が、眼帯ショタァハアハア」みたいな外見が印象的なのだけれど、本人は至ってダウナー系で、別にショタだろーとショタじゃないのになるのだろーと何でもいーくらいなのだけれど、ただダウナー系の系はあくまで系なので、時々はアッパーに苛んらー! とすることもある。
弄られている事自体はまー別に問題ない。
それはもーダウナーの範囲で処理できる事柄だ。あーなんか言うてはりますね。ショタですね。くらいで終わるのだ。
問題は、ディスられて泣きそうになって、パンダのぬいぐるみぎゅっとしてるあれだあいつだ同じ顔した自分みたいなあいつだ。
「ほらほらパンダのぬいぐるみ取りあげちゃうわよ。あら何かしらこれ、パンダ……ササオ? えなにこれどういうこと」
確かに、ヨルが初めて見るパンダぐるみに大変なインパクトを受けていたことは事実だ。
(くそ……変なとこにリアリティ出しやがって……)
「やだっ、あーん泣いちゃったーかんわいー」
もはやErieさんはどっちが本物か偽物か分からない。
のはさておき、そんな彼女にいいように弄られ尚且つひっくひっくしてる自分とか、その現実と余りにかけ離れた弱々しい姿に、表情こそ変わらないものの内心苛んらーーーーーっっっっ!! とする、ヨル。
「……存外……ムカつくものなんだね、自分でない自分を見るのって」
ぼーっとした表情で言いつつ、ヒヒイロカネからキメリエスハルバードをダウンロード。
「ふむ……なるほどそういうことか」
その二階の大広間で繰り広げられる仲間達の遭遇を見て、一人現状を冷静に把握する蒼桐 遼布(
jb2501)。
「こちらの姿形を真似て混乱を誘い、精神的ダメージを与え、あわよくば共倒れを狙う……ってところか」
それならば他人を狙うより、自分自身を倒したほうが手っ取り早い、と今日の心構えがもうできた。
「さあ居るんならさっさと出てこいよ俺の偽物。さっさと片付けてやる」
「んーじゃあボクもボクと戦ったらいいのかな」
そんな仲間の言葉にふむふむ、と頷く犬乃 さんぽ(
ja1272)。
「ま。どうせボクに化けたって、ニンジャの目は騙せないもんね! さー出てこーい正しいニンジャを教えたげるよー!」
そして今日も元気に、美少年だけどもうそれ通り越して美少女になりつつあるフェイスで辺りを見回した。
瞬間えっ! ってポニーテールの髪を揺らしながら、同じとこ二度見。
「あ……な、なぁんだボクかーもういきなりそんなとこ立ってるから驚いたよー。脅かさないで……ってえーーーーっ? ボクー?!?! わーボクだーーーー!」
と。可愛らしい美少年の天然ボケをご覧頂き、心を癒して頂いたところで、このお話はそれぞれのサーバントへの対応パートに移動する。
●それぞれの撃滅
「大鎌、アクティブ。リ・ジェネレート」
遼布が呟き、ヒヒイロカネからフルカスサイスをダウンロードした。
「大鎌、アクティブ。リ・ジェネレート」
すかさず相手もまた、同じ武器をダウンロードしてくる。
ガチインと次の瞬間には交差する青白くも巨大な刃。
「くそっ」
大鎌を力の限り押し込み、均衡した力比べの数秒の間の後、反動で跳ね返ったかのように二人の身体が後方へと飛ぶ。
床に手を着きながら着地した遼布は、すかさず次のターンで武器を持ち変えた。
「鋼糸、アクティブ。リ・ジェネレート」
「鋼糸、アクティブ。リ・ジェネレート」
「ちっ……後出しじゃんけんをされてる気分だぜ」
チタンワイヤーを手に襲いかかってくる敵の攻撃から身を交わし、床に転がる遼布。
壁を蹴って立ち上がり、振り向きざま、大山祇をダウンロードした。
「蒼刀、アクティブ。リ・ジェネレート」
これは相手が口走った台詞。
「おもしろい……いつまで後だしじゃんけんで続けられるかとことん付き合って貰おうじゃないか」
同じ姿形をした二人が刃を交える。同じタイミング、同じ仕草、同じ行動。
それはまるで息のあった舞踏を見ているようでもあり。
「鋼糸、アクティブ、リ・ジェネレート」
遼布がまた武器を変える。
が、しかし、その手に出現したのは、これまでの流れで憶測されるチタンワイヤーではなく。
青白い光を放つ、不気味な大鎌フルカスサイス。
闘気を解放した遼布は、全速力の薙ぎ払いを発動し、その鋭く光った刃で相手の身体を思いっきり打った斬ったのだった。
「後出しでくるなら」
ブン、とその鎌についた返り血を払い、呟く。「出される前に倒すまでさ」
その後ろでは今まさに、闇遁・闇影陣を発動を発動するさんぽが、「忍者」を名乗る不届き物にトドメの攻撃を撃ちこんでいる。
「忍者じゃないんだ、ニンジャだよ!」
音だけで聞いてたら、え、どっちも結局「にんじゃ」なんじゃあ……とか思われそうな文言なのだけれど、彼の中では確固たる違いが存在している。
正義と悪。狡猾と実直。悪意と善意。美徳と悪徳。
例え行動が同じだろうと、同じ武器を扱おうと、信念が違えばそれはまるで違うものになる。
「これが正義のニンジャの力だ!」
ジャシャシャシャシャシャッッ。
敵の腕、腹、肩、腰、そしてそのこめかみへ正義のデュエルヨーヨー攻撃が炸裂した。
一方ヨルは、ぼーっとしたいつもの「無」の表情で、敵の頭をキメリエスハルバードの斧の部分で叩き割っている。
「まあ確かにあんまりいい気分じゃないけど……邪魔だし」
ぐっちゃあと潰れた肉の塊をぼーっと見下ろし、呟くヨル。
どうせ魔界でも元々ただの兵士だったし、大した力もなくて、実際自分は弱いのだと。
自分が弱い存在であることを誰より自分が知っている、と。ヨルは自分のことをそんな風に認識していた。
でも。
ヨルは内心でそっと思う。
こうして弱い自分を見せつけられて苛っとしてる俺は、「知っている」けど「認めてない」んだ。と。
(じゃあもっと……これから強くなっていけばいいだけ……)
「……しばらくの間、鏡を見ると割りたくなりそうだね、これ」
内心の決意はおくびにも出さず、ヨルはのんびりと呟く。
「はあ……もう終わり? 面白くないわねェ」
影の書のページを繰るErieが、皆の戦いが終わったのを見て呟いた。
「さてと、じゃあそろそろ良いかしら? いい加減自分の真似されるのも飽きたわ、消えてちょうだ〜い」
自らの幻影にトドメを指すため、影の書をめくる。
選ぶスキルは Demise Theurgia-Bloodyclematis Viviane-。
深淵に形を与え、現界させる魔術。これを発動した彼女の姿は、誇り高き騎士王に剣を授けた美しき精霊『湖の貴婦人』に変化する。
「ここまでさせたのなら、覚悟を決めよ」
その妖艶な体から、目に見える程増幅された魔力が発散した。
「さあ、あなたの身体はこれでも持つかしら〜?」
彼女がその美しいくも艶めかしい指先をさっと上げると、直線移動する影の槍の様な物が飛び出して行き、サーバントErieの身体を串刺しにする。
「それでも。私はいつも一人で泣いている。寂しい寂しいと一人、泣いている」
一階では真由がそんな弱音を吐く自らの偽物と対峙していた。
「それは……そんなのは私ではないとでも言わせたいんでしょうか? お生憎ですが私は良く知っています、自分がずるくて、弱くて、ちっぽけな事を」
炎熱の鉄槌を手に、真由は駆け出す。
「確かに私は一人では何も出来ないかもしれません、ですが私は一人ではありません。あの子に教わったこの鋼があります」
「みんな私と一緒に腐れ爛れて沼に沈んで。お願いだから」
対するサーバントは、忍刀・血霞を振りかぶり斬りつけてくる。
真由は一歩も動かず、槌を掲げる。ファイアワークスを発動した。
「遅い……喚くな!」
振り下ろされる鉄槌。夜空に咲く華の如く、彼女の周りに巻き立つ炎。
「この醜い塊を。太陽の如く、溶かせ!」
ドフワアッ!
炎に包まれ、サーバントが凄まじい悲鳴と共に消えて行く。
「本物の手足を持ったあなたの言葉など……私の孤独の足元にも及びませんよ」
そうだから。
偽物は所詮偽物。
「あらいやですわ。なんですのこの薄汚いねずみは。爺! こんなものはさっさと片付けて頂戴!」
偽ジェラルディンが、テンプレ的嫌味な金持ちお嬢様台詞を吐いて、偽ヒリュウからのブレス攻撃!
「〜〜〜ッッ?!?!?!? わ、わわわ。私は! 私はそんな事言いませんよ〜ッッ!」
貧乏没落貴族ジェラルディン(本物)は、なんかもう目をばってんにして叫んだ。
「絶対こうはなりたくないです〜!」
赤面状態で相棒のヒリュウを指し向けると、チャージラッシュからのラッシュ&ラーッシュ!
の横でまだパンダの可愛さにぶつぶつ言ってる笹緒。
「ああ今目の前に存在する、この愛すべきパンダちゃんをどう表現すれば良いというのだろう。果てしなくもふもふでキュートなボディ、つぶらなおめめと全身からにじみ出る愛嬌! これまさにパーフェクツッ! このような存在が世界にあるということが、ただただ奇跡」
「ぐふぉー!」
あと殴られてますから。それ、めっちゃ殴られてますから、クリティカル気味に殴られてますから。
「わわわ、どう、どうしよう、どどどどうしよう。大丈夫ですかぁ!」
自分のサーバントはとりあえず片づけたものの、笹緒の状況を放っておけず、かといって回復するスキルもないので、ただただおろおろするばかりのlie。
と共に揺れる、大きな胸。
「この恐るべき可愛さの前では……私など無力……だが!」
ぐふぅ、と口元を拭いながらパンダ(笹緒)は立ち上がった。
「だがそれでも……それでも、残った理性が導き出した結論はひとつ!」
震える手で獄炎珠を握りしめる。
「パンダの黒と白は即ち陰と陽、宇宙を示す。つまり、これ以上二体が引き寄せられれば、宇宙が」
とかなんかもう規模が意味不明、を通り越して、えーこの人あたま大丈夫なんだろうか可哀想な人なんだろうかむしろ可哀想なパンダなんだろうか。と周囲を心配させた挙句、
「こんなにチャーミングなパンダちゃんが世界に二体も存在してしまっては宇宙が消滅するのだ! だから宇宙の崩壊を防ぐため私は戦う!」
とかもうなんか規模が大きいのか小さいのか良く分からない事を言って最終的に風神雷神図を発動した。
途端、笹緒の背後上空に、風袋を持つ風神と天鼓をめぐらす雷神の姿が描かれた、黄金の屏風が現出する。
パンダ手が前方を示す事で、サーバントに向け、思いっきり凄い稲妻が射出された。
ドッカーッバリバリバリバリッッ!!
って魔法の威力が予想外に凄かったことで、人々は怯え、益々不安になった。
えーこのパンダ……野放しにしといて大丈夫なんだろか。と。
●終幕
こうして人の姿を模写するサーバントは撃退士達によってしっかりと撃滅されたのだった。
それぞれの胸の内に。
何らかの成長を残して。
おしまい。