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マスター:カナモリ
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/02/18


みんなの思い出



オープニング




 朝起きてテーブルの上を見たら、今川焼きが消失していた。
 昨日確かに買って来たはずの今川焼きがなかったことはそれなりにショックな出来事で、しかも起きて「さー食べるぞー」くらいの勢いで見たのにないとか、完全にショック倍増な感じで、荻原はもー寝起きから一人でちょっと悲しくなった。
 そして、混乱した。
 ではこの、昨日確かに今川焼きを購入したはずだ! という記憶は一体何なのかとか、思い込みだったら凄い自分怖いとか、でも昨日はだいぶ酔っぱらってたし、とか、でもやっぱり、酔っぱらって甘い物食べたくなっていや絶対購入したはずだ、とか、このままでは一日中悶々としそーだったので、キッチンと地続きになってるリビングでぼーっとかテレビを見ている江藤の背中に「今川焼き、知らない? テーブルに置いてあったよね」とか、確認してみることにした。

 とか、今川焼きに完全に寝起きの思考を全部持ってかれててすっかり忘れていたけれど、昨日一緒に飲んでたので、なんかそのまま部屋にどどーみたいな感じで、そういえばここは江藤の家だ。
 部屋の持ち主である江藤は、「えー」とか面倒臭そうに振り返り、「ああ捨てた」とか、物凄いあっさりもあっさり、あっさり大会とかあったら確実一位だ! みたいにあっさりと、言った。
 それが全くの想定外だったので、荻原は思わず「え」と停止してしまう。
「いやだから、そこにあった今川焼きのきったない箱でしょ。捨てた」
「え、いや……え? ちょ待って何言ってんの」
「えー何言ってんのってどういうこと。あれ、え? 言葉通じなくなったの、大丈夫」
 って身とか乗りだしてきてる感じがもー苛っとしたので、「馬鹿じゃないの、それこそ何言ってんの」ってなんかちょっと本気でキレた。
「だから何怒ってんだよ」
「いや、今川焼き捨てるからだろ!」
 って物凄い剣幕で言ってしまってから、自分でちょっと「あれやばい俺おかしい」とか思ったけど、ここで笑ったら負けだとか思って、「食べようと思ってたのに!」と、頑張って怒り続けた。
 途端に江藤がもー「ふん」とか鼻で笑っている。
「だってお前、酔っぱらってたから覚えてないんじゃん。あれすっごいびっくりするくらいぐっちゃぐちゃだったからね」
「信じない」
「いやなんで嘘吐かなきゃいけないんだよ」
「お前食べたんでしょ、どうせ」
「あのぐっちゃぐちゃ食うんだったら、うわーちょっと無理ーみたいな、全然知らないオッサンの握ったおにぎり食ってる方がまだまし」
「あ絶対だな、お前」
「いやおにぎりも基本食いたくないけどね。あれに比べればってことね。だってあれ、踏まれてたしね、お前に」
「うそ、マジで」
「いやマジだよ。ほんとに。踏んでわーって笑って拾ってたしね。で、また箱ン中入れてたしね」
「真面目ですか」
「真面目ですよ」
「でも落としてないやつもあったかもしれない」
 とか、なんかすっかりこっちが悪いみたいなのを認められない男子の荻原は、しつこく言った。
「じゃあもうゴミ箱から出して食べてみれば」
「ゴミ箱の中のやつなんか食べれないだろ!!」
「落として尚且つ踏まれたのが混じっちゃったやつを食うのと、ゴミ箱の中のを食うのに、違いなんてあるの」
「ばっ……あ、あるに決まってんじゃん!!」
 ってすっかり引っ込みつかなくなって、寝起きでなんかもー地団太、とかした荻原を、はーみたいにぼーとか眺めた江藤は、やがて言った。
「ねーそんな寝ぐせ頭で怒られても、可愛いだけだから、やめておいた方がいいよ」
「いやほんと俺の今川焼き返し」
「無理」
 とか、物凄い素っ気なさで突き放して来た江藤は、はいもー終わりですーみたいに、またテレビを見る。
「えー……そんな……冷たく言わなくていいじゃん」
 ちょっと怖気づいて、椅子になどに座りつつ、独り言のように反論してみた。
 そしたらいきなり、
「あ」
 とか、声を上げた江藤は、ゆらーとかこっちを向いた。
「そういえば、甘いで思い出したんだけど、ディアボロの討伐の依頼、聞いてたんだった」
 そしてそう続ける。
「依頼って、学園に紹介する依頼の話? え、なんで甘いで思い出すわけ」
「なんかそのディアボロがあんまーいらしいんだよね。それでかな」
「え、なに、誰かが食ったのそれ甘いって」
「いや味が甘いとは誰も言ってないし、甘いの匂いだから」
「紛らわしい言い方すんなよ」
「しかもなんかふっわふわなの。っていうか、もっふもふとふっわふわの間くらいのなんかこうー絶妙なふわふわさ加減なの。何だったらこう、抱きついて凄い齧りたくなる感じなのなんか」
「んー齧りたくなる感じっていうのがちょっと分からないけど」
「そんな甘い匂いがして、ふっわふわで、でもそれにそそのかされて齧っちゃうとやばいわけ。ていうか、体内に入るとやばいんだよね。ちょっと混乱するみたいな。なんか漠然と悲しかった出来事とか残念だった出来事を思い出して、軽く泣きだしたりしちゃうらしいよ」
「うそー鬱陶しいパターンの酔っ払いみたいになっちゃうんだ」
「そうそうお前みたいに」
「っていやそんなん言われてどういう顔すればいいのそれ」
「あと、そいつらが潜伏してる場所もちょっと面倒臭くて、廃墟になった洋館なんだけど、以前の持ち主がだいぶ変わった奴みたいで、踏むと高速スピンしちゃう床がそこらじゅうにあるみたいなんだよね。だから、こう、ディアボロを口の中に入れないでおこうと思っても、うっかり口に入っちゃう可能性もあるかも知れないよね」
「いやないだろー。うっかり口には入らないだろー」
「自転車乗ってる時に、ちっこい虫とか口に入っちゃう感じだよ。最悪、鼻から入ったって混乱しちゃうからね」
「うわーめんどくさー」
「いやお前は言っちゃ駄目だよそれ。今のお前の方が5倍くらいめんどくさいからね」
「だからさー。そんなん言われて俺どういう顔すればいいのって」
「そりゃー今川焼きごときでダダこねてごめんなさいって言えばいいんじゃない」
「うわ絶対言わない。ごときってほんっと絶対許さない。この恨み絶対忘れないから俺」
 椅子に座り、頬杖をつき、江藤を睨む。
「あーそー」
 はいはい勝手にすればーみたいに江藤が言った。






リプレイ本文






●物凄い高速でカカシ体勢の人形(等身大)を回転させてみたら、きっとこんな感じになるんだと思う。
 だからつまり、セレス・ダリエ(ja0189)が回っていた。
 回っているって事以外、もー何も言えないよ! っていうくらい通常営業な様子で回っていた。

 それをこうわりと冷静な目とかで見ちゃうと、ふうん、これはこれで成立してるかもね。
 と、いろんなお仕事をこなし、へヴィーな毎日を送ってる撃退士の皆さんなどは思ってしまうかも知れないのだけれど、良く良く思い出してみて欲しい。
 普通、高速でスピンなことに遭遇しちゃった人は。
「はわわわ〜〜〜!?」
 と、ちょうど今、屋敷の二階で回っている柴島 華桜璃(ja0797)のように、奇声を発しつつ回る彼女の目があれ? どういうわけかばってんになってるように見えるよ! ついでに「きゅーっ」とかいう擬音も周りに見えるよ! と、こんなことになってるはずで、
 もしくは、セレスと同じ一階担当の、クリエムヒルト(ja0294)みたいに、
「んなあ〜……はははー〜……たーのしーよーこの床ー」
 って若干虚ろな目で言って回ってみたりして、最終的にかけていた眼鏡を遠心力で飛バスッっ!!! みたいなことになってみたりして、「わー私のメガネ何処ー!」とふらふらになりながら床這い蹲って、壁に頭ごっちん。
 と、ここまでセットの流れでコラボ決めてみたりする人もいるかもしれないけど、まーとにかくこういうことになる。
 なのだけれど、セレスは違う。
 完全な「無」状態で、目をちゃんと、閉じたり見開いたりもせず普通に開き、ニヤつくことはおろか、顔の筋肉一つ動かさず、トワイライトの光球を身の周りに浮かべながら回り続け、何だったら『むしろ私が回ってるわけでなく、皆が回っているというか、屋敷自体が回っている訳で、私は回っていないのです』と、天動説と地動説について思わずふと考えてしまうような知的な趣すら漂わせてくる勢いで回るのである。

「いやだから別に高速スピンしちゃう床のある屋敷で、ディアボロを討伐するっていうそれだけの話なんだろ。あの依頼人には、無駄な話が多すぎるんだよ」
 ってそんなムードには流されない天険 突破(jb0947)は、ディアボロの甘い匂い対策にマフラーなどで口を覆いながら、わりとふごふご、そんな事を言った。
 無駄に回り続けるセレスを見て、いろいろ愚痴りたくなったのかも知れない。
「そしてセレスは、ほんとに回り過ぎだか……」
 と、止めに入ろうと思った瞬間、突破はもーうっかり高速スピンの床に乗っちゃって、手に持ってたばかでっかい大剣シュガールの刃の腹の部分を、ちょうどそこでガシャガシャ回っていた皇 夜空(ja7624)の身体に思いっきり、激突させたりした。
「あっ悪い」
 でも大丈夫だ。夜空のドゥールムメイルは頑丈過ぎるくらい頑丈で、ちょっとやそっとの衝撃ならなんてこたない。
 ただ、頑丈な故に複雑な造りでもあったので、ガツッと、突破の剣が物凄い引っ掛かり方をして、なんやかんやになって、ガンっドっドドコってなって、気がつけば夜空は気を失っていた。こうして彼は今回、(いろんな意味で)不慮の事故に遭遇してしまったため、出番はここで終わってしまうのである残念である。
「え……ゴメン……わざとじゃないんだわざとじゃ……」
 今更ながら気付いた、高速スピン床のおっそろしさ(笑)におそれおののきながら(笑)も、突破はぐっと拳を握る(笑)

 あと、そのなんやかんやの衝撃で、セレスがやっと高速スピンする床から解放されていた。
 多分押し出されたかなんかで、一旦床に膝とかついてたかもしれない体制だった彼女は、無表情にすく、と立ち上がり機械みたいな声で、言う。
「……今回の敵は……変わった敵ですね……まあ、敵は敵なのでどうでも良いのですけれど」
 回り続けた後、一発目に発した台詞にしては、言葉のチョイスが完全におかしかった。
 回り過ぎたのかも知れない。
「でもべつにおいしそうだとかにつられて依頼を受けたわけじゃないんだからねッ!」きっ。
 と、そこでカメラ目線(?)の咲・ギネヴィア・マックスウェルがフレームインしてきて、鼻をあっちへ向けこっちへ向けくんかくんかさせ、
「おいしそーな匂いの奴はいねえがあ。美味しそーな匂いがして尚且つふっわふわの奴はいねえがあっああああああーーー」
 ってやっぱり食べる気満開だったんじゃんっていうのはともかく、そのむっちり体型でわあそんなキレーなフォームのレイバックスピンが出来るのすごーいってことだけはフォームがキレー過ぎたのでお伝えしておこうと思う。

「んーこういうのはなんや言うんやっけ。えー……ししるいるいるい?」
 ちょっとした二階の吹き抜けから、一階の様子を見下ろしていた雅楽 灰鈴(jb2185)が、覇気なく、言った。
 一階でも二階でも、みんなとりあえずスピンっ! 状態だから思わず言ったのだけど、良く考えたらまだ戦いすら始まってないし、始まったらもっと酷いことになる気がしないでもないので、ししるいるいるいるるーには、まだ早い。
「いや多分、るいが一個多い気がするっす」
 その隣に並ぶ虎守 恭飛虎(jb3956)が物凄い下っ端の悪魔の顔で、つまりはとっても悪い人相で、でもおどおどと小さく指摘した。あとなんでもいいけど今回、虎守恭飛虎は虎守くんと呼ばせて貰いたいっていうか、呼ばなきゃいけない気がしたのでそう呼ぶ。
「あーほんなら……ご愁傷様?」
「そっちの方が……近いかもっす」
 それにしても、夜空と突破の死闘(笑)の傍に、虎守くんがいなくて本当良かった。
 多分あそこに虎守くんが居たら、うっかり大剣でどつかれてたのはまず間違いなく虎守くんだったはずで、のぎゅんっ! とか古き良きリアクションをしながら涙目でちょっと飛んでスピン床に飛び乗って回転して、顔から転倒した挙句、強打した鼻を押さえつつも不意に「……あ、俺。飛べたんだった」とか「俺、恋しちゃったんだ」くらいの茫然とした面持ちで呟く予感がするのだそういう気がむんむんするのだ。
「っていうかディアボロ何処におんねや。はよ出てくれんと滑るだけで終わってまうであの人ら」



●そうなんですだから尺的にそろそろ戦闘に突入しなきゃだめなんです。
 ところで突破が、あっかいマフラーを何重かにして鼻に巻き、厳重な「美味しそう匂いのブロック」に勤しんでいたことを覚えているだろうか。
 マフラーで遮断出来る匂いの程度は未知数だが、ないよりはあった方が断然まっしで、ないとどういうことになるかといえば、こうなる。

「あー私のメガネメガネメガネどこーっ」
 こちら、まだ眼鏡探しの真っ只中。クリエムヒルトさんである。
「ああ、良かったあった〜無傷だあ」
 やがて、えーそんな飛んだのーってくらい驚異的な飛び具合を見せた自らの眼鏡を見つけた彼女は、大事そーにふうふうし装着し、したところで不意に顔を上げた。
「何だろうこの……凄くいい匂いー」
 くんくんくん。
「これが敵の匂いなのかな? ううん。そんなわけ……ないよねっ(サムズアップ)」
 そしてそんな甘い匂いに惑わされてしまったクリエムヒルト姫は、どんどんと屋敷の奥深くへと歩いていき、そして。
「あ」
 白馬の王子様ならぬ、白いふっわふわディアボロさん(×3)と遭遇してしまったのです終わり。
「わーもっふもふのふっわふわ良い匂い〜」
 いっただきまーばふ。
 ばふばふっばふばふわふわふおいしーおいしーなにこれおいしー。手先不器用な私の作る料理より、断然おいしー。全然おいしーおいしーおいしーうふふおいしー私の作る料理より全然……はは、は……私の料理……よりお、オイシイ……う、うううっ。
「そんな、ひっく。そんなわけうう、そんなわけ、ないよ。私だって、私だって頑張ってるよ。私の料理はおいしいよ。壊滅的なわけないよ。破壊力なんてないよちっともないよ。泣いちゃうよ! そんな事言、泣いちゃうよ女の子だよ!」
「そんな混乱状態で延々甘いもん食いながら愚痴る女子みたいになりつつあるクリエムヒルトにしょーりゅーk」
 ぐわあし。
 レイバックスピン状態から、レイバックし過ぎスピンになり、もうレイバックでもなんでもないヘッドスピン状態になっていた咲が、すかさず仲間のピンチに立ち上がる勢いかーらーのアッパーカ―ッを放った。
 むっちりとした体躯や腕から発散する風圧に、華奢なクリエムヒルトは「きゃ」とちょっと飛ばされ、軽い混乱状態から復活。
 するわけがなくいよいよ絶望的な顔で泣き始めた。「えーん」
 そこにぎゃあっおーんと響き渡る百獣の王ライオンの鳴き声(携帯着メロ)
「あーたーしーにーもーふっわふわ食わせろーっ!(ぎゃあっおーん)」
「えーん。なまはげこわいよー」
「誰がなまはげだ! せめてほしょくじゅうと呼べあーんまーんまーん!」
 両手でふわふわを持ってかぶりつくライオンいやなまはげ@咲。

 そしてこのかん、一切言葉を発さず、「無」の顔で敵を凝視していた、セレス。
「…………」
 おなかの辺りで両手をそっと重ね合わせ、ピンと背筋を伸ばし、顔をちょっと横に向けつつ黙って一連の流れを見守るその様は、最早観葉植物が如く景色の一部と化し、いやもうもしかしたらあれはセレスではなく魔法で作ったセレス的人形、もしくは残像……あ。動いた。
 むぎゅ。
 徐に彼女は、その場に居たディアボロの端っこを掴み、掌の中で握り潰し千切り握り潰し千切り握り潰し千切り握り潰しっていやこのディアボロの攻撃力とか防御力とかほんとどーなってんだろー……。
「だがしかし俺はそんな匂いに惑わされたりはしない。絶対にディアボロを口にしたりはしないんだ! ただ一つ言えることがあるとすれば、厨房においてあったお菓子は美味しそうだったので食った! それだけのことだっ」
 どかちゃ。と、どっかのドアが急に空き、そこからなんかわりと熱っぽい感じの台詞を口走る突破が、出て来た。
 口に厳重に巻かれた「匂い対策マフラー」
 両手にふわっふわのディアボロ(未死亡)

「…………」
 セレスは無言で握り潰し千切り潰し作業に戻った。

「なのになんでだろう。どうしてこんなにも泣けてくるんだ。あの日のあのおばあちゃんの栗きんとんが、俺の胸を、こんなにも……こんなにも締め付けてくるなんて!」
 がく、とその場に膝をつく突破。
 セレスは無言で握り潰し千切り潰し作業を続ける。
 姫は泣きながら、スピンの床ですっぴーんしてメガネ……飛バスッ!
 なまはげは「だってなんかよくわかんない召喚に応えちゃったらうっかり人界の英国に居て、帰り道がわかんなくなっちゃったんだから仕方ねえだろ。泣くぞ、泣いちゃうぞ。なまはげだって女の子だからなあーん、あーん」泣いてる。
「俺の罪……それは、ばあちゃんの栗きんとんを食わなくなっちまったことだ。小さい頃から好きだったあの栗きんとんを、だ。ああそうだよ、おせちに入っているあれだよ! でも小学校になる頃には俺はぐれちまってカッコつけてお年玉をもらったらすぐ年長のイトコの兄ちゃん達と外に出かけるようになっちまってさ。はは、今思えば子供だったよ。だからそれ以来、栗きんとんは食べてないんだ。どうして俺はあんな馬鹿な事をっ。お、おばあちゃーん」


「なーあれ、突破先輩のお婆ちゃんってさー」
 お札っぽい何かを、というそれはつまり、命中すると小爆発するといわれる炸裂符のお札なのだけれど、とにかくそれを、出現したディアボロに向け投げつけながら、灰鈴は言った。
「もーお亡くなりになってもうてはんのかなあ?」
 ディアボロバーンして炎に包まれごーっ。
 と、役割は果たすべくちゃんと二階で戦っている最中も、いかんせん吹き抜けのせいで一階の声は耳につく。古びてるとはいえ、洋館の中ってわりと良く声も響くし。
「えー……と、じゃあ俺ちょっと行って聞いてくるっす!」
 隣で白鶴翔扇を使い、せっせと灰鈴にふわっふわディアボロを誘導し続けていた虎守くん(推定年齢400歳)は、ぴゅーと無駄に闇の翼を発動し、一階の方へ降りて行った。
「えーっと。そのォ」
 でも実際、男泣きに突っ伏してる突破を目の前に、「ばあちゃん死んじゃってるんすか」とは、言いにくい。言いにくいことを言えない虎守くんは、「何ていうかそのォ。元気出すっす」とその肩をそっと叩いた。
「おばあちゃんの魂もなんていうか、きっと無事で突破さんを見守ってる」
「うん別におばあちゃんが亡くなってるわけじゃないんだ」
 その時だけ一瞬物凄い「まがお」になって言った突破は、また顔を覆って泣きだした。「おばーちゃーん」
「じゃあまだ食えるじゃんっ!」
 くわっ、となんか思わず慣れない突っ込みをしてしまいそうになった虎守くんの開いた口に、セレスに千切られ続けたもののまだ潰されてはいない唯一の生き残りのまっくろk……ふわっふわディアボロが、瀕死の状態でなんかふわーっと彷徨って来て、すぽん、と入った。
「は、はうすだすとぉ?!」
 虎守くんは分かりやすくパニくってごっくんし、やがてずどーんと死んだ魚のような目になって地面を見つめ出した。
「生きていて……生きていてごめんなさい……」
 推定年齢400歳は推定年齢400歳なりに、魔界でいろいろあって人間界に来たのだ。ぱしられたりとか、戦いから逃げ出したりとか、逃げてる途中に角折られたりだとかぱしられたりだとか。
「がりがりがりがり」
 ポケットに入ってた豚の骨を取り出し、がりがりしながら虎守くんはちょっと泣いた。


「ほんで自分も泣いてもーてるし」
 くく、と灰鈴は、吹き抜けから一階を見下ろし、ちょっと笑う。
 うしろでは華桜璃が、「はわわわ〜〜〜!?」とか懲りずにまたすっぴーん状態からのふにゅう〜ふらふら〜、ディアボロに顔面がらぼふっ。
 からの、「!!?〜〜〜っっっ!!!」(←あまりの混乱に口押さえつつごろごろ転がって悶えてる様)
 とかいういろんな意味でファンタスティックな連携技を決め、今は、怒りに震えていたりした。
「こんなのが……こんなのが残ってちゃいけません! 絶対に片付けます!」
 ごおおお、と何故かその背中に炎が見えるよ! カオリアンガーザフレイムだよ! である。
「せいや!」
 ぼよん、とわりと大きな胸元を揺らしながら飛び上がった華桜璃は、ジャンプ両足踏みつけ! でディアボロをぎっちょんぎっちょんにし、
「かーらーのライトニーング!」
 がっしゃーんばりばり! とすっかりやっつけた。

 その頃一階でも、
 エナジーアローー……。
 的に微かに唇を震わせたセレスが、薄紫色の光の矢で残りの未死亡ディアボロをしっかりと始末する。




●そして今日も無事に撃退士達の戦いは終わった。
「え。今日って誰か戦ったっけ?」
「んー……食べた!」
「ですよね」

 おしまい。






依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

撃退士・
セレス・ダリエ(ja0189)

大学部4年120組 女 ダアト
太陽の笑顔・
クリエムヒルト(ja0294)

大学部4年185組 女 アストラルヴァンガード
グランドスラム達成者・
柴島 華桜璃(ja0797)

大学部2年162組 女 バハムートテイマー
神との対話者・
皇 夜空(ja7624)

大学部9年5組 男 ルインズブレイド
久遠ヶ原から愛をこめて・
天険 突破(jb0947)

卒業 男 阿修羅
符術士・
雅楽 灰鈴(jb2185)

高等部3年2組 女 陰陽師
べ、別にビビッてないし!・
咲・ギネヴィア・マックスウェル(jb2817)

大学部6年268組 女 阿修羅
怒涛の反駁者・
虎守 恭飛虎(jb3956)

大学部4年203組 男 阿修羅