●物凄い高速でカカシ体勢の人形(等身大)を回転させてみたら、きっとこんな感じになるんだと思う。
だからつまり、セレス・ダリエ(
ja0189)が回っていた。
回っているって事以外、もー何も言えないよ! っていうくらい通常営業な様子で回っていた。
それをこうわりと冷静な目とかで見ちゃうと、ふうん、これはこれで成立してるかもね。
と、いろんなお仕事をこなし、へヴィーな毎日を送ってる撃退士の皆さんなどは思ってしまうかも知れないのだけれど、良く良く思い出してみて欲しい。
普通、高速でスピンなことに遭遇しちゃった人は。
「はわわわ〜〜〜!?」
と、ちょうど今、屋敷の二階で回っている柴島 華桜璃(
ja0797)のように、奇声を発しつつ回る彼女の目があれ? どういうわけかばってんになってるように見えるよ! ついでに「きゅーっ」とかいう擬音も周りに見えるよ! と、こんなことになってるはずで、
もしくは、セレスと同じ一階担当の、クリエムヒルト(
ja0294)みたいに、
「んなあ〜……はははー〜……たーのしーよーこの床ー」
って若干虚ろな目で言って回ってみたりして、最終的にかけていた眼鏡を遠心力で飛バスッっ!!! みたいなことになってみたりして、「わー私のメガネ何処ー!」とふらふらになりながら床這い蹲って、壁に頭ごっちん。
と、ここまでセットの流れでコラボ決めてみたりする人もいるかもしれないけど、まーとにかくこういうことになる。
なのだけれど、セレスは違う。
完全な「無」状態で、目をちゃんと、閉じたり見開いたりもせず普通に開き、ニヤつくことはおろか、顔の筋肉一つ動かさず、トワイライトの光球を身の周りに浮かべながら回り続け、何だったら『むしろ私が回ってるわけでなく、皆が回っているというか、屋敷自体が回っている訳で、私は回っていないのです』と、天動説と地動説について思わずふと考えてしまうような知的な趣すら漂わせてくる勢いで回るのである。
「いやだから別に高速スピンしちゃう床のある屋敷で、ディアボロを討伐するっていうそれだけの話なんだろ。あの依頼人には、無駄な話が多すぎるんだよ」
ってそんなムードには流されない天険 突破(
jb0947)は、ディアボロの甘い匂い対策にマフラーなどで口を覆いながら、わりとふごふご、そんな事を言った。
無駄に回り続けるセレスを見て、いろいろ愚痴りたくなったのかも知れない。
「そしてセレスは、ほんとに回り過ぎだか……」
と、止めに入ろうと思った瞬間、突破はもーうっかり高速スピンの床に乗っちゃって、手に持ってたばかでっかい大剣シュガールの刃の腹の部分を、ちょうどそこでガシャガシャ回っていた皇 夜空(
ja7624)の身体に思いっきり、激突させたりした。
「あっ悪い」
でも大丈夫だ。夜空のドゥールムメイルは頑丈過ぎるくらい頑丈で、ちょっとやそっとの衝撃ならなんてこたない。
ただ、頑丈な故に複雑な造りでもあったので、ガツッと、突破の剣が物凄い引っ掛かり方をして、なんやかんやになって、ガンっドっドドコってなって、気がつけば夜空は気を失っていた。こうして彼は今回、(いろんな意味で)不慮の事故に遭遇してしまったため、出番はここで終わってしまうのである残念である。
「え……ゴメン……わざとじゃないんだわざとじゃ……」
今更ながら気付いた、高速スピン床のおっそろしさ(笑)におそれおののきながら(笑)も、突破はぐっと拳を握る(笑)
あと、そのなんやかんやの衝撃で、セレスがやっと高速スピンする床から解放されていた。
多分押し出されたかなんかで、一旦床に膝とかついてたかもしれない体制だった彼女は、無表情にすく、と立ち上がり機械みたいな声で、言う。
「……今回の敵は……変わった敵ですね……まあ、敵は敵なのでどうでも良いのですけれど」
回り続けた後、一発目に発した台詞にしては、言葉のチョイスが完全におかしかった。
回り過ぎたのかも知れない。
「でもべつにおいしそうだとかにつられて依頼を受けたわけじゃないんだからねッ!」きっ。
と、そこでカメラ目線(?)の咲・ギネヴィア・マックスウェルがフレームインしてきて、鼻をあっちへ向けこっちへ向けくんかくんかさせ、
「おいしそーな匂いの奴はいねえがあ。美味しそーな匂いがして尚且つふっわふわの奴はいねえがあっああああああーーー」
ってやっぱり食べる気満開だったんじゃんっていうのはともかく、そのむっちり体型でわあそんなキレーなフォームのレイバックスピンが出来るのすごーいってことだけはフォームがキレー過ぎたのでお伝えしておこうと思う。
「んーこういうのはなんや言うんやっけ。えー……ししるいるいるい?」
ちょっとした二階の吹き抜けから、一階の様子を見下ろしていた雅楽 灰鈴(
jb2185)が、覇気なく、言った。
一階でも二階でも、みんなとりあえずスピンっ! 状態だから思わず言ったのだけど、良く考えたらまだ戦いすら始まってないし、始まったらもっと酷いことになる気がしないでもないので、ししるいるいるいるるーには、まだ早い。
「いや多分、るいが一個多い気がするっす」
その隣に並ぶ虎守 恭飛虎(
jb3956)が物凄い下っ端の悪魔の顔で、つまりはとっても悪い人相で、でもおどおどと小さく指摘した。あとなんでもいいけど今回、虎守恭飛虎は虎守くんと呼ばせて貰いたいっていうか、呼ばなきゃいけない気がしたのでそう呼ぶ。
「あーほんなら……ご愁傷様?」
「そっちの方が……近いかもっす」
それにしても、夜空と突破の死闘(笑)の傍に、虎守くんがいなくて本当良かった。
多分あそこに虎守くんが居たら、うっかり大剣でどつかれてたのはまず間違いなく虎守くんだったはずで、のぎゅんっ! とか古き良きリアクションをしながら涙目でちょっと飛んでスピン床に飛び乗って回転して、顔から転倒した挙句、強打した鼻を押さえつつも不意に「……あ、俺。飛べたんだった」とか「俺、恋しちゃったんだ」くらいの茫然とした面持ちで呟く予感がするのだそういう気がむんむんするのだ。
「っていうかディアボロ何処におんねや。はよ出てくれんと滑るだけで終わってまうであの人ら」
●そうなんですだから尺的にそろそろ戦闘に突入しなきゃだめなんです。
ところで突破が、あっかいマフラーを何重かにして鼻に巻き、厳重な「美味しそう匂いのブロック」に勤しんでいたことを覚えているだろうか。
マフラーで遮断出来る匂いの程度は未知数だが、ないよりはあった方が断然まっしで、ないとどういうことになるかといえば、こうなる。
「あー私のメガネメガネメガネどこーっ」
こちら、まだ眼鏡探しの真っ只中。クリエムヒルトさんである。
「ああ、良かったあった〜無傷だあ」
やがて、えーそんな飛んだのーってくらい驚異的な飛び具合を見せた自らの眼鏡を見つけた彼女は、大事そーにふうふうし装着し、したところで不意に顔を上げた。
「何だろうこの……凄くいい匂いー」
くんくんくん。
「これが敵の匂いなのかな? ううん。そんなわけ……ないよねっ(サムズアップ)」
そしてそんな甘い匂いに惑わされてしまったクリエムヒルト姫は、どんどんと屋敷の奥深くへと歩いていき、そして。
「あ」
白馬の王子様ならぬ、白いふっわふわディアボロさん(×3)と遭遇してしまったのです終わり。
「わーもっふもふのふっわふわ良い匂い〜」
いっただきまーばふ。
ばふばふっばふばふわふわふおいしーおいしーなにこれおいしー。手先不器用な私の作る料理より、断然おいしー。全然おいしーおいしーおいしーうふふおいしー私の作る料理より全然……はは、は……私の料理……よりお、オイシイ……う、うううっ。
「そんな、ひっく。そんなわけうう、そんなわけ、ないよ。私だって、私だって頑張ってるよ。私の料理はおいしいよ。壊滅的なわけないよ。破壊力なんてないよちっともないよ。泣いちゃうよ! そんな事言、泣いちゃうよ女の子だよ!」
「そんな混乱状態で延々甘いもん食いながら愚痴る女子みたいになりつつあるクリエムヒルトにしょーりゅーk」
ぐわあし。
レイバックスピン状態から、レイバックし過ぎスピンになり、もうレイバックでもなんでもないヘッドスピン状態になっていた咲が、すかさず仲間のピンチに立ち上がる勢いかーらーのアッパーカ―ッを放った。
むっちりとした体躯や腕から発散する風圧に、華奢なクリエムヒルトは「きゃ」とちょっと飛ばされ、軽い混乱状態から復活。
するわけがなくいよいよ絶望的な顔で泣き始めた。「えーん」
そこにぎゃあっおーんと響き渡る百獣の王ライオンの鳴き声(携帯着メロ)
「あーたーしーにーもーふっわふわ食わせろーっ!(ぎゃあっおーん)」
「えーん。なまはげこわいよー」
「誰がなまはげだ! せめてほしょくじゅうと呼べあーんまーんまーん!」
両手でふわふわを持ってかぶりつくライオンいやなまはげ@咲。
そしてこのかん、一切言葉を発さず、「無」の顔で敵を凝視していた、セレス。
「…………」
おなかの辺りで両手をそっと重ね合わせ、ピンと背筋を伸ばし、顔をちょっと横に向けつつ黙って一連の流れを見守るその様は、最早観葉植物が如く景色の一部と化し、いやもうもしかしたらあれはセレスではなく魔法で作ったセレス的人形、もしくは残像……あ。動いた。
むぎゅ。
徐に彼女は、その場に居たディアボロの端っこを掴み、掌の中で握り潰し千切り握り潰し千切り握り潰し千切り握り潰しっていやこのディアボロの攻撃力とか防御力とかほんとどーなってんだろー……。
「だがしかし俺はそんな匂いに惑わされたりはしない。絶対にディアボロを口にしたりはしないんだ! ただ一つ言えることがあるとすれば、厨房においてあったお菓子は美味しそうだったので食った! それだけのことだっ」
どかちゃ。と、どっかのドアが急に空き、そこからなんかわりと熱っぽい感じの台詞を口走る突破が、出て来た。
口に厳重に巻かれた「匂い対策マフラー」
両手にふわっふわのディアボロ(未死亡)
「…………」
セレスは無言で握り潰し千切り潰し作業に戻った。
「なのになんでだろう。どうしてこんなにも泣けてくるんだ。あの日のあのおばあちゃんの栗きんとんが、俺の胸を、こんなにも……こんなにも締め付けてくるなんて!」
がく、とその場に膝をつく突破。
セレスは無言で握り潰し千切り潰し作業を続ける。
姫は泣きながら、スピンの床ですっぴーんしてメガネ……飛バスッ!
なまはげは「だってなんかよくわかんない召喚に応えちゃったらうっかり人界の英国に居て、帰り道がわかんなくなっちゃったんだから仕方ねえだろ。泣くぞ、泣いちゃうぞ。なまはげだって女の子だからなあーん、あーん」泣いてる。
「俺の罪……それは、ばあちゃんの栗きんとんを食わなくなっちまったことだ。小さい頃から好きだったあの栗きんとんを、だ。ああそうだよ、おせちに入っているあれだよ! でも小学校になる頃には俺はぐれちまってカッコつけてお年玉をもらったらすぐ年長のイトコの兄ちゃん達と外に出かけるようになっちまってさ。はは、今思えば子供だったよ。だからそれ以来、栗きんとんは食べてないんだ。どうして俺はあんな馬鹿な事をっ。お、おばあちゃーん」
「なーあれ、突破先輩のお婆ちゃんってさー」
お札っぽい何かを、というそれはつまり、命中すると小爆発するといわれる炸裂符のお札なのだけれど、とにかくそれを、出現したディアボロに向け投げつけながら、灰鈴は言った。
「もーお亡くなりになってもうてはんのかなあ?」
ディアボロバーンして炎に包まれごーっ。
と、役割は果たすべくちゃんと二階で戦っている最中も、いかんせん吹き抜けのせいで一階の声は耳につく。古びてるとはいえ、洋館の中ってわりと良く声も響くし。
「えー……と、じゃあ俺ちょっと行って聞いてくるっす!」
隣で白鶴翔扇を使い、せっせと灰鈴にふわっふわディアボロを誘導し続けていた虎守くん(推定年齢400歳)は、ぴゅーと無駄に闇の翼を発動し、一階の方へ降りて行った。
「えーっと。そのォ」
でも実際、男泣きに突っ伏してる突破を目の前に、「ばあちゃん死んじゃってるんすか」とは、言いにくい。言いにくいことを言えない虎守くんは、「何ていうかそのォ。元気出すっす」とその肩をそっと叩いた。
「おばあちゃんの魂もなんていうか、きっと無事で突破さんを見守ってる」
「うん別におばあちゃんが亡くなってるわけじゃないんだ」
その時だけ一瞬物凄い「まがお」になって言った突破は、また顔を覆って泣きだした。「おばーちゃーん」
「じゃあまだ食えるじゃんっ!」
くわっ、となんか思わず慣れない突っ込みをしてしまいそうになった虎守くんの開いた口に、セレスに千切られ続けたもののまだ潰されてはいない唯一の生き残りのまっくろk……ふわっふわディアボロが、瀕死の状態でなんかふわーっと彷徨って来て、すぽん、と入った。
「は、はうすだすとぉ?!」
虎守くんは分かりやすくパニくってごっくんし、やがてずどーんと死んだ魚のような目になって地面を見つめ出した。
「生きていて……生きていてごめんなさい……」
推定年齢400歳は推定年齢400歳なりに、魔界でいろいろあって人間界に来たのだ。ぱしられたりとか、戦いから逃げ出したりとか、逃げてる途中に角折られたりだとかぱしられたりだとか。
「がりがりがりがり」
ポケットに入ってた豚の骨を取り出し、がりがりしながら虎守くんはちょっと泣いた。
「ほんで自分も泣いてもーてるし」
くく、と灰鈴は、吹き抜けから一階を見下ろし、ちょっと笑う。
うしろでは華桜璃が、「はわわわ〜〜〜!?」とか懲りずにまたすっぴーん状態からのふにゅう〜ふらふら〜、ディアボロに顔面がらぼふっ。
からの、「!!?〜〜〜っっっ!!!」(←あまりの混乱に口押さえつつごろごろ転がって悶えてる様)
とかいういろんな意味でファンタスティックな連携技を決め、今は、怒りに震えていたりした。
「こんなのが……こんなのが残ってちゃいけません! 絶対に片付けます!」
ごおおお、と何故かその背中に炎が見えるよ! カオリアンガーザフレイムだよ! である。
「せいや!」
ぼよん、とわりと大きな胸元を揺らしながら飛び上がった華桜璃は、ジャンプ両足踏みつけ! でディアボロをぎっちょんぎっちょんにし、
「かーらーのライトニーング!」
がっしゃーんばりばり! とすっかりやっつけた。
その頃一階でも、
エナジーアローー……。
的に微かに唇を震わせたセレスが、薄紫色の光の矢で残りの未死亡ディアボロをしっかりと始末する。
●そして今日も無事に撃退士達の戦いは終わった。
「え。今日って誰か戦ったっけ?」
「んー……食べた!」
「ですよね」
おしまい。