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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/04/28


みんなの思い出



オープニング




 二階堂辰巳(にかいどう・たつみ)は、現代の桃源郷を目指す、NPO法人「極楽園」の理事長だ。
 前髪が少々後退し始めていることを気にかけている、ごく普通の、アラサー青年である。
 家が代々、原磯地区の大地主で、その御曹司であるという事実を除けば、善良な一般人のひとりに過ぎなかった。

「なるほど、この地は天使さまに守っていただいているということを、久遠ヶ原学園にも伝えなければいけないのですね」
 赤い着物の使徒グウェンダリン(jz0338)から報告を受けて、辰巳はスケジュール帳を睨んだ。


 絵羽(えわ)は、友人たちの死という事実を受け容れて、少し強くなったように見える。
 いつかは天に召されてしまう老人たちの世話を、嫌な顔ひとつせずにこなしながら、以前よりも熱心に勉強に励んでいた。


 悲しい事実だが、要介護老人を施設に入れて放置する親族も、この世界には存在する。
 老老介護で共倒れになるケースもある。

 辰巳の指示で、そうした、助けを必要とする老人たちを原磯地区に引き取り、また、就職先のアテのない、成人した孤児をも呼び寄せ、共生しようというプロジェクトが進んでいた。
 人材を集められるだけ集めて、適材適所に振り分ける。

 介護職に向いたものは、介護施設へ。
 肉体労働に向いたものは、施設の建設や寮の整備など。
 希望者には、医師として学ぶ機会を与えて、未来の原磯で活躍してもらうために、学費を援助する。
 総合病院も作り、市議である親の伝手を使ってでも、優秀な医療従事者を集めた。

 漁業、農業、畜産業に通じたものには、そういった仕事先を紹介する。
 病気や障害があるものには、可能な範囲で出来る仕事を一任する。

 誰ひとりとして、不要な人間などいない。
 絶対に誰もが、誰かにとって必要で、大切な人間だと、辰巳は考えていた。
 
 天使やら悪魔やらのことは、正直、一般人である辰巳は、詳しくない。
 だが、天使が原磯に来て、悪魔からこの地を守ると約束してくれた。
 その時から、実際に、天魔事件は原磯地区では起きていない。

 半仮面の天使、気まぐれな双貌のドォル(jz0337)は、特に何をするわけでもなかったが、原磯地区では民衆に慕われていた。

「ぼくが冥魔を牽制するから、地区の面倒はきみが見てよ。人間のことなら人間が一番詳しいだろ?」
 辰巳にそう言って、桃源郷企画にも快く協力してくれている。
 必要とあれば、使徒とサーバントも貸し出してくれる。


 そんなドォルだったが、学園とコンタクトを取ることには、あまり賛成できない様子だった。

「学園と連絡を取り合って、どうするんだい? ぼくは原磯への冥魔の侵入を許さないよ。そんなぼくでは信用ならないってことかい?」

 ドォルは、あからさまに不機嫌な様子を見せた。

「原磯が何処にあるのかだって、伏せておいたほうがいいと進言したはずだけどね。今は二階堂くんの手に負える規模だけれど、噂を聞きつけてどっと人が集まったら、この地区を維持するだけで、きみの手に余ってしまわないかい?」





 そんなわけで、辰巳は悩んだ結果、学園に形式的な連絡だけ、しておくことにした。
 ぱりっとスーツを着こなし、気にしている頭を帽子で隠し、赤い着物の使徒を従えて、撃退士と面談をする予定の、約束の場所に向かう。
 カバンの中には「極楽園」のパンフレットが数冊、入れてあった。
 身体的な障害を持つものたちで、手分けして、頑張って刷り上げた、大切なパンフレットだ。


 原磯の場所は、今までどおり、伏せておくこと。
 現在は天使の庇護下にあり、安全であること。
 人々が生き生きとした暮らしを、取り戻しはじめていること。

 辰巳は、学園関係者には、それだけ話せば十分だと思っていた。
 正直ほかのことを詳しくと言われても、運営経理関係以外は、辰巳はノータッチだったし、よく分からなかった。


「ああ、グウェンダリン」
 出かける直前、気まぐれな天使が、赤い着物の使徒を呼び止めた。
「何でしょう、マスター?」
「きみは二階堂くんの護衛をしていればいいからね」
「了解です、マスター」

 暗く澱んだ青い瞳を伏せがちにして、グウェンダリンは頷いた。





 辰巳とグウェンダリンが、撃退士たちとの面談場所に選んだ、都内某所にて。
 両者が挨拶をするかしないかのうちに、能面のようだったグウェンダリンの顔が、険しくなった。

「‥‥どういうことですか、マスター?」

 グウェンダリンは、主人との通信機になっている、球形のイヤリングにそっと手を当てる。
 そして、その場にいる全員を見回した。

「緊急事態です。千葉県某山中に、冥魔が現れたそうです。原磯とは縁なき地であれ、わたしとマスターは、民草の平穏を約束した身です。至急、冥魔討伐に向かいます」

 グウェンダリンは辰巳に向き直ると「タクシーの手配をお願いします」と事務的な口調で言った。
 慌てて辰巳は携帯電話を取り出す。そして、集まっている撃退士たちを見回し、「皆さんも行かれますか? 必要でしたら大型リムジンなり、マイクロバスなりを手配しますが」と尋ねてきた。


リプレイ本文




 鷹司 律(jb0791)は、現地への足を手配した二階堂辰巳(にかいどう・たつみ)に、「現場は山林、本日は乾燥注意報が出ています。万が一の消火用に、シャンプーとゴミ袋、そしてお湯を調達したいのですが」と訴えた。

 辰巳は一瞬キョトンとして、そして「シャンプーでなければいけませんか? 必要でしたら泡剤消火器を1つ用立てしますよ」と答えた。

「あ‥‥はい、手配していただけるのでしたら」
 律は頷いた。辰巳は快く追加の電話をかけた。

「一期一会とよく言うが、グウェンダリンくん、二度会えた事を僕は心から嬉しく思うよ」
 津島 治(jc1270)はシルクハットを丁寧に脱いで礼を取った。
 使徒はちらりと治を見ただけだった。





 皆を乗せたマイクロバスは、林道に差し掛かる手前の路肩に停車した。

「いきなり事件起きて護衛いなくなるのに、代表さんちょっとのんきすぎねー? だいじょぶ?」

 イリス・レイバルド(jb0442)が、ここで待機すると告げた辰巳と運転手を見比べる。
 辰巳は爽やかな笑顔を浮かべた。

「大丈夫ですよ。ご心配有難うございます」

 既に使徒グウェンダリン(jz0338)の姿はない。バスが停車すると同時に、林道の向こうに、地面を滑るように走り抜けていった。

「あの、赤い着物を着た美人さん? って確か‥‥」

 続けざまの出征で、傷の癒えていない川澄文歌(jb7507)が、自身に<ヒール>を施しながら、以前サーバントおこた布団に襲われたことを思い出した。
 あの、おこた布団とラグを提供したのは、赤い着物を着た行商の美女だと、当時関わった老夫婦が言っていた‥‥。





 滑るように赤い着物の裾を引いて走る使徒を、撃退士たちが追う。

「はっけーん! 開けたところに、獣みたいなのが3体だね!」
 七色の粒子を纏ったイリスは<陰陽の翼>で空から皆を誘導していた。

 1台の軽トラに2名の人影。
 その荷台には、全長2mくらいの野犬めいたディアボロがのしかかっている。
 運転席の天井に足を乗せ、少し車がひしゃげている。

 文歌は迷わずに阻霊符を展開した。

 残る2体はトラックの周りをウロウロしているようだ。

「あの中に、要救助者がいますね」

 狗猫 魅依(jb6919)、いや、枷を外した別人格・仙狸がおっとりと使徒に問う。

「救助の意志はおありでしょうか?」
「何故見捨てると思うのですか」

 グウェンダリンは淡々と答え、じっとトラックを見つめた。

「時にグウェンダリンくん。君の主は君に何を命じたんだい? 言える範囲で良いよ」
「お答えせよとの命はございません」
「そうか。まあ、民草を守ると言っていたので心配をしてはいないのだが、取り残された者が戦場に居るようであるし、彼等を殺さぬよう流れ弾には気を付けよう、お互いに」

 治は、他2体の獣がトラックに向かわぬよう、トラックから離れ、引き付けるように燐光珠からの一撃を放った。直線移動する白色の刃が、獣の汚らしい毛皮を切りつける。

 空中から、イリスが<タウント>でトラックにのしかかっている野犬の気を引いた。
「さあボクが引きつけているうちに、パパッと民間人の保護をお願いしますよー」

 イリスが言い終えるかどうかのところで、ゆがんだトラックのドアがごとりと落ちた。
 使徒が中から要救助者を引っ張り出す。

「あなたには救助の意志がありますか」

 自分に問いかけてきた仙狸に、逆に問い返す使徒。仙狸が頷くと、1人目の体を注意深く渡された。
 使徒は反対側へ回り、同様に残る要救助者を助け出す。
 彼らは咄嗟にトラックに避難したものの、天井を透過した獣の爪によって、2人とも頭部に浅い傷を負っていた。

「ぎゃあ! 火ぃ吹きやがったコイツ! 最悪じゃん!」

 上空からイリスの声が聞こえてくる。

 律は木材や、トラックから漏れたガソリンに敵の攻撃が引火する事を防ぐ為、辰巳から渡された消火剤を、木材やガソリンの匂いのする所に、敵に察知されぬよう慎重に気配を殺して、振り掛けて回っていた。
 可燃物を完全に覆いかくして、火種になりかねない攻撃や行動があっても引火しない様、防火処理を施し終える。

(これで仲間達が、心置きなく、救助活動やディアボロ退治に集中できます)


「初めまして‥‥或いは、お久しぶりかしら? 御機嫌よう‥‥死があなたを、迎えに来たわよ」

 死(jb6780)はそう言って、残る2体を135mm対戦ライフルの視界に捉える。少し照準を調整したときに、イリスに向かって火を吹く野犬を目の当たりにする。
「‥‥これは、消防にも待機してもらっておいたほうがいいわね‥‥」


「この時期は、山火事が起き易いのですが、山火事の鎮火と冥魔討伐のどちらを優先します?」

 文歌は、要救助者を、戦場から離れた安全そうな場所に寝かせている使徒に、改めて尋ねていた。
 内心では(天使さん達が、本当に絵羽ちゃんを守ってくれる存在か、見極めさせてもらいます)と考えていた。
 少なくとも、怪我人への扱いは、乱雑ではない。丁寧と言ってもいいくらいだ。

「冥魔が暴れ続ければ、鎮火どころではないでしょう。先に原因を潰してから、鎮火作業を行うものではないのですか?」

 事務的に使徒は答える。視線はトラックに乗っている獣を見たままだ。

 使徒は銃らしき武器を、火を吹く直前のモーションを見極めて、イリスに向かっていく野犬の口に確実に撃ち込んでいた。獣の上下の顎が縫い止められ、炎として噴き出されるはずだったものが、ぼとぼとと熱い液体になって、こぼれ落ちてくる。

 <ピィちゃん召喚>によって文歌に召喚されていた青い鳳凰が、慌てて熱い液体を避ける。
 律が防火準備をしていなければ、トラックから漏れ出たガソリンが、熱い液体によって引火していたかもしれない。

 暴れる野犬は、ピィちゃんを狙った。
 そこへ文歌の<スタンエッジ>が命中する。

「牙と爪まで喰らう義理は無いですしー、ハンマーで殴って牽制しますとも! そぉれぇ!」
 イリスのヒュペリオンが、獣の頭部へと吸い込まれるように命中した。





 仙狸は残る2体を<ダークハンド>で『束縛』していた。

 律が、ランタンシールドを構えつつ、赫灼珠から直線移動する赤色の球体を生み出して獣を攻撃する。攻撃を済ませるとすぐに潜行し、位置を変えて、今度は<氷の夜想曲>で獣を眠らせる。

 獣がふらふらと目覚めたところへ、続いて治の<奇門遁甲>が飛ぶ。
 『幻惑』された獣2体は、同士討ちを始めた。


「なるほど。これが学園の撃退士のなさり方なのですね」
 助け出した一般人を守りつつ、様子を見ていた使徒が呟いた。
「わたしが手を出す必要も無さそうです」

 使徒はそう言うと、2人の民間人を両肩に抱えて、辰巳の待つ車の方へ駆け出した。

「おや、戦線離脱するのかい?」
 治が尋ねると、「この者たちには、治療の必要がありますので、先に運搬します」と使徒は声だけを残して走り去った。





 辰巳の指示で、山道には救急車と消防車が既に到着していた。
 怪我をした林業関係者2名を、慎重に引き渡す。

 救急車は、サイレンを山あいに響かせながら、怪我人に障らないよう、ゆっくりと去っていった。


 再び戦場に戻るも、全く手を出す様子の無いグウェンダリン。
 沈んだ青い瞳で、ただただ、撃退士たちの動きを見続けている。





 口を縫い付けられ、火を吹くことも出来なくなったトラックの上の1体は、イリスのヒュペリオンと文歌の<スタンエッジ>で、確実にダメージを蓄積していた。
 <陰陽の翼>の回数と効果時間が切れて、地上に戻ったイリスを、執拗に狙おうとする。
 文歌の<スタンエッジ>も、既に回数が残っていない。

 文歌は、青とミスティローズの彩色が美しいクラリネット型の魔法武器、Leggero C8を取り出し、美しい音色を吹き鳴らした。衝撃波に悶絶する野犬。

「と・ど・めぇー!」

 大きく振りかぶったイリスのヒュペリオンが、風を切った。ずん、と野犬は倒れ、そして動かなくなった。


 一方、残る2体は同士討ちの末、互いに噛み合ってかなりの重傷を負っていた。
 うっすら黒く見える牙に仕込まれた毒が、互いに効いたようで、傍目にもふらふらしている。
 それでも、相手の喉仏を狙って噛み付き、食いちぎろうと、2体とも、躍起になっていた。
 火を吹き合い、双方とも毛皮がすすで黒ずんでいる。焼けた毛が焦げて縮れて丸まり、より汚らしい印象を強めていた。


「牙には『毒』のバステ効果。吹き出す炎は【自然現象再現】スキルと見るわ。火ではあるけれど、『温度障害』のバステ効果はなさそうね」

 硝子の罅割れの様な赤線を半身に浮かべ、死が、獣たちの同士討ちを注意深く観察したのち、結論を出した。
 
「火を吹くぐらいだから、だめかとも思ったけれど、十分に効果はありそうですね」

 仙狸は<ファイアワークス>で2体をまとめて爆発させた。回数限界まで撃ち込む。
 律の赫灼珠が赤色の球体を生み出して、次々と野犬2体に降り注ぐ。

「この風向きでは、野犬のブレスの火の粉が、林まで飛び火してしまいます! 何とか向きを変えられないでしょうか‥‥グウェンダリンさん、先ほど、獣の口を縫い付けた銃は使えませんか?」

 トラック付近の1体を仕留めた文歌が、加勢にくる。

「今更わたしが手を出さずとも、この子達はもう死にますが?」

 淡々と、能面のような顔で使徒が答えたその時、ずずんと音がして、2体の野犬が体を絡めたまま、横倒しに倒れるのが見えた。

 グウェンダリンは、3体の野犬の死体を調べ、確実に死んでいることを確認し、主に報告した。





 治の<奇門遁甲>のおかげで、2体の獣が同士討ちに没頭したためか、負傷者は少数だった。

 獣のブレスの火の粉を浴び、軽い火傷をしたのは、イリス、文歌、仙狸、治。
 いずれも文歌の<ライトヒール>で十分に回復可能な程度だった。

 しかし、治自身は気づいていた。

 彼の<奇門遁甲>の回数は1回のみ。『幻惑』の効果は確かにあるが、あんなに長い時間、効果を発するはずがないのだ。

「グウェンダリンくんはずっと戦いを見ていたようだね。何か気になることでもあったかな?」
「何もありませんが」

 使徒はそう言って、黙って背を向けた。
 だが、じっとあの青い目で野犬を見続けていたことに、治は気づいていた。

 待機していた消防団は、軽く焼けた枯れ草などに処置を施し、山火事にならずに済んだことを感謝しながら去っていった。

 ディアボロの死体については、学園関係の処理班がすぐに駆けつけるとのことだった。

「しかしまたも野犬か。何故遭遇する機会が多いのか。いや不満は無い。頭から喰われなければ問題は無い。頭から喰われたら最悪だけれどもね」

 犬が、正確には犬に頭からかじられるのが苦手な治は、軽く歌うように口の端をあげた。





 都内某所に無事に戻ってきた一行は、最初に約束していた喫茶店に再び集まっていた。

「お疲れ様でした。まあ、一杯召し上がってくださいよ」
 冷たいジュースを人数分用意し、辰巳が気さくに勧めた。

 グウェンダリンの前には、何も置かれていない。彼女自身が断ったのだ。

「学園のかたはすごいんですね。スーパーパワーの正義の味方ですね、いやはや、素晴らしいです」

 心底感心したように、辰巳は何度も頷いた。


(パンフから見てみると、結構いい人オーラが感じられるけどなー。あの使徒さんとマスターってのが食わせ者っぽい、かな?)

 何しろ友達である絵羽を預けている身である。言動には出さずとも辛口評価だ。
 イリスは何度もパンフレットを見直した。

「あのさ、ひとつ聞いておくけどさ。天使系からは護らないとか、そんな言葉遊びされたくないんだけどー?」
「民草の平穏を守れとの命です」

 グウェンダリンは抑揚なく答えた。

(この使徒さんもいまいち信用ならないしねー。文歌ちゃんが言ってた行商が、本人じゃないとは限らないしねー)


「『不要な人間などいない』‥‥それで平等になったつもりなのかしら‥‥?」

 死はレモンスカッシュをストローで吸いながら、辰巳に尋ねた。

「平等とは申しておりませんよ。人は生まれながらに不平等なものです。人は歪な多面体であって、どこかが長じていればどこかに必ず穴があります。私自身もそうだと思っています」

 辰巳は「ですから、助けあいが必要なのだと私は思いますし、誰もが誰かに必要とされているのだと思うのです」と続けた。

「万人を受け入れる勇気の無い極楽なんて、失楽と何が違うのかしらね」
「そうですね。いずれは万人を受け入れられるような、そんな規模になれたらとは思いますが、なかなか厳しい現実がありますね」

 続ける死の言葉に、素直に頷く辰巳。

「辰巳様、グウェンダリンさんの主さんは、この面談に対してどう反応されたんですか?」

 仙狸がおっとりと尋ねると、辰巳は「いやはや、あまり良い顔はされませんでしたよ」と答えた。
(なんとなく予想はしておりましたが‥‥)
 若干苦笑する仙狸。

「やっぱり、少なくとも学園と手を結ぶ気はない、ですか‥‥?」

 学園と手を組んで、天界勢を敵にまわす可能性を考えれば、それもいいでしょう。
 でももし、堕天の行為と認識した天界からの攻撃には、どう対処するつもりなのでしょうか?

「私にはそのあたりはよくわかりませんが、天使さまが対応してくださると信じていますよ」

 仙狸の疑問に、辰巳は軽く両手をあげた。
 グウェンダリンは黙ったままだ。

(言動や仕草に違和感がないかどうか、ずっと見てきましたけれど‥‥人形のようなかたですね)
 最初から文歌は、密かに使徒を観察していた。その所感がこれである。





 会合は穏やかに幕引きとなり、「では、今回はお疲れ様でした。有難うございました。失礼します」と辰巳が頭を下げ、全員分の飲み物代を支払うと、使徒を連れて静かに去っていった。


「僕はグウェンダリンくんと会うのは2度目だけれどもね」
 治がぼそりと呟いた。
「彼女、もしかして『魅了』を使っていたのではないかと思うのだよ。僕の<奇門遁甲>が切れたはずなのに、ずっと、あの獣たちが同士討ちをやめなかった理由を考えてみたのだが‥‥」

 そう考えると、文歌くんの行商の話とも、今回の戦闘での話とも符合が合うし、何より『魅了』の能力の強さに戦慄するね。

 彼女の事に興味が有る、そう思ってずっと観察してきた結論が、それだった。





 原磯は、静かな夜を迎えていた。
 帰ってきた2人を真っ先に見つけ、絵羽は飛び出していって、辰巳とグウェンダリンに飛びついた。

「おかえりなさい!」
「ただいま」

 辰巳は絵羽の頭を撫でた。他の子供たちにも、もみくちゃにされる。

「二階堂さん。ご飯の時間になっちゃいますよ。早く着替えてきてくださいな」
 割烹着姿のおばさんに急かされて、辰巳は「はいはい」と寛いだ笑顔を見せた。 


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ハイテンション小動物・イリス・レイバルド(jb0442)
 死の円舞曲を僕と共に・津島 治(jc1270)
重体: −
面白かった!:5人

ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
七福神の加護・
鷹司 律(jb0791)

卒業 男 ナイトウォーカー
死の救済・
死(jb6780)

大学部8年192組 女 ディバインナイト
諸刃の邪槍使い・
狗猫 魅依(jb6919)

中等部2年9組 女 ナイトウォーカー
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
死の円舞曲を僕と共に・
津島 治(jc1270)

卒業 男 陰陽師