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マスター:神子月弓
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/16


みんなの思い出



オープニング




 夢。
 なんと面白いものだろう。
 己の内に隠された願望を掘り起こす、夢という不思議な精神状態。

 見てみたい。
 どんな夢でも叶うとしたら、人間はどんな感情を抱くのか。
 満足?
 不安?
 それとも‥‥?
 ああ、楽しみだなあ。

 どこかで、双貌のドォル(jz0337)は、くつくつと笑っていた。





 彼の名は、沢田豪(さわだ・ごう)。
 ――という名で通してはいるが、戸籍上の本名は、沢田心愛楽(さわだ・こあら)だ。
 勿論、純日本人である。
 両親の新婚旅行先が豪州だったため、この名がつけられた。

 幼稚園では、まだ可愛がられた。
 小学校にあがると、「人間以下」「動物」「絶滅危惧種」と莫迦にされるようになってきた。
 中学では、初恋の相手に「ありえない」と言われた。
 高校にあがる頃には、自分で考えた通り名を名乗るようになっていた。

 動物のコアラしか連想できない、キラキラした名前をつけた親を恨んだ。
 皆にいじめられた記憶が忘れられなかった。
 いずれ、お金を貯めて、正式に「豪」に改名するつもりだった。

 高校卒業を間近にし、大学へ進もうとした矢先。
 両親は、旅行先で、天魔に襲われて死んだ。
 体調を崩して旅行にいけなかった自分だけが、生き延びた。

 両親の遺品として渡されたフォトフレームに、家族揃った写真を入れて、自室の戸棚の上に飾った。

 幸い、学費は完納していたので、卒業まで高校に通えることは確定だった。
 ただし親戚の家に身を寄せたものの、将来の進路に行き詰まっていた。

 奨学金を希望したが、断られた。
 やむなく、大学への進学を諦めて、就職しようと頑張ったが、珍名を理由に、書類選考で落とされることが続いた。
 収入が見込めず、改名代を稼ぎだす夢は絶たれた。
 親戚のおじさんも、心愛楽の名前を莫迦にして、彼をからかって笑いものにした。
 他の親戚も、両親が逝去したことで、「親が遺してくれた名前なのだから」と改名に反対していた。

 人生に絶望するまでに、そう時間はかからなかった。


 ある夜、夢の中で、誰かが囁いた。
(今まできみを莫迦にしてきた連中を、皆殺しにしてしまえばいいよ)

 以降、繰り返し夢を見た。
 心愛楽は、夢の中で、連続殺人犯になった。

 小中学校時代の同窓生が、まず犠牲になった。
 続いて、通っていた高校でも、事件は起きた。

 夢の中で、心愛楽は刃物を手に、学友の胸を刺していた。
 吹き出す血液。
 命乞いと悲鳴。

 全て夢だ。悪夢だ。そんなことが実際に、起こるわけがない。





 心愛楽が悪い夢を見るようになってから、学友が次々と失踪するようになった。
 風の噂では、血痕だけを残して、消えてしまったという。
 心愛楽の教室でも、彼をいじめていた学生たちだけ、徐々に空席になりつつあった。

 高校卒業を間近に控え、進路が決まったから学校に来ないのだと、心愛楽は思い込もうとした。


 そんなある日、警察が学校へ訪ねてきた。
「失踪した人のリストだよ。皆、君の同窓で間違いないかい?」
 差し出された紙には、小学校で、中学校で、今通っている高校で、心愛楽をいじめてきた連中の名前が並んでいた。 

「間違いないですが‥‥」
 心愛楽はリストを見て蒼白になった。
 どの名前も、あの悪夢に出てきていた。
 出てきていないのは、あと1人だけ‥‥そしてその名は、リストにも無かった。

 警官たちは悩んでいるようだった。
 小柄な彼と対峙してみて、遺体を1人で運ぶ等が出来るかどうか、疑問を持ち始めたようだった。 
「君は、このリストに載っている皆にいじめられていたらしいね。復讐を考えたことは?」
「少しはありましたが、でも、思っただけで‥‥なんか変な夢を見るようになって‥‥」

 心愛楽は悪夢の話を正直に打ち明けた。
 警官たちが顔を見合わせる。
 殺人にしては少ない血痕、被害者の失踪、そして悪夢?
 これは――人間の犯罪として、警察の手に負えるのだろうか?

 事情聴取を終えて一旦警察は帰っていった。
 ぼんやりと心愛楽は思う。

 そういえば、おれを笑いものにしていた親戚のおじさんは、どこへ行ったのだろう?
 最近、めっきり見かけなくなった気がする。
 確か‥‥キレて刃物で刺す夢を見てから、だったような‥‥?


「ただの夢‥‥だよな?」

 図書館で新聞を見ても、何ひとつ記事にされていない。
 大都会の真ん中で、ビルの上の街頭テレビを見上げても、自分の見た夢に似たニュースは全くない。

 ふと、自室のフォトフレームを見た。
 生前の両親と、家族3人で写った写真を入れていたはず‥‥だった。
 
 フォトフレームの中で、刃物を持ち、返り血を浴びた自分が、両親と笑顔で写っていた。
 ポーズは記憶にあるものと同じ。変わっているのは、刃物と血だけ。

 こんな写真があるはずがない。
 心愛楽は戦慄した。
 震える手で、フォトフレームをその場にぱたりと伏せるのが、精一杯だった。
 近くに立てかけてあった、山や風景だけを撮った写真が、ひらひらと戸棚から舞い落ちた。

 そして、中学時代の先輩、轟闘吾(jz0016)のことを思い出した。
 闘吾は当時、ばりばりの不良だったが、いじめが嫌いで、心愛楽をよく庇ってくれた。
 改名の際に有利になると、通り名を名乗ることを勧めてくれたのも、彼だ。
 彼だったらこんな気味の悪い話でも、真摯に聞いてくれるだろうか。

 決断し、心愛楽は単身フェリーに乗る。
 久遠ヶ原島が、近づいてくる。





「‥‥胸糞悪い話がある」

 心愛楽から相談を受けた闘吾は、撃退士の仲間を呼び集めていた。

「天魔絡みかどうかはまだわからねぇ。だが、俺の昔馴染みの力になってやってくれ‥‥」

 心愛楽は神妙な顔つきで、学園の応接室にいた。
 リアルな悪夢の話と、符合するように失踪事件が起こっているらしいことを、皆に語る。

「おれ、誰も殺してないですよね? あれは夢で、失踪とかも偶然で、おれと関係ないですよね?」

 心愛楽――いや、豪と名乗った高校生は、恐怖に肩を震わせていた。


リプレイ本文




 ――心愛楽、のどこが不満なの?

 心に愛が満ちた人間になりますように、楽しいことでいっぱいの人生になりますように。
 そう、おかあさんとおとうさんが祈りを込めて、決めた名前よ。
 読み方だってわかりやすいし、改名したいなんて、ワガママだわ。
 心愛楽、どうしても名前を変えたいならね、「さいばんしょ」に行かないといけないのよ。
 「さいばんしょ」にお世話になるには、なんじゅう万円もお金がかかるのよ。


「えっ」
 沢田心愛楽(さわだ・こあら)は、蘇芳出雲(ja0612)の言葉に耳を疑った。
「改名手続きは、手数料+αだけで済むんですか? 家庭裁判所に関わるには、もっと大金が必要だと、常々母から聞いていたのですが‥‥」

「母親から、ですか‥‥」
 出雲はため息をついた。親は彼に、よほど改名させたくなかったのだろう。
 天魔が心愛楽に、何らかの方法で間違った知識を吹き込んだのだろうと、出雲は予想していたのだが、事実は違ったようだ。

「但し、正当な事由がなければ改名は認められません。心愛楽というあなたの本名が、社会生活上支障があると認定されなければいけません。『心愛楽』がそれに当てはまるかは、珍名の多いこの時世、僕にも保証はしかねますね」

 出雲は続け、轟闘吾(jz0016)をちらりと見やる。

「轟さんが、通名の使用を勧めたのは、あながち間違いではないでしょう。日常生活で通名を、少なくとも10年間以上使い通せば、改名はより認められやすくなりますから」


 観察狂のアイリス・レイバルド(jb1510)は、じっと心愛楽を観察していた。
 今の心愛楽は、改名費用の現実を知り、そしてそれを隠していた両親の意図を知って、愕然としていた。
 アイリスの髪が青灰色に変化し、<マインドケア>を心愛楽に試す。
「沢田。落ち着くために茶でも飲め」
 同時にことんと、応接室のテーブルに、湯呑を置いた。

「あ‥‥有難うございます」
 心愛楽は茶をすすった。
 その間にアイリスは<異界認識>を試みる。結果は白。彼は普通の人間だった。

(今まさに、この瞬間を見張っている者がいるかもしれないです)

 知楽 琉命(jb5410)も光纏し、<生命探知>をかける。
 だがこの場所は、学園内の応接室のひとつ。
 廊下を通り過ぎる学生や教職員の気配に、<生命探知>はいちいち反応した。

(‥‥場所が悪すぎますね)

 琉命は、心愛楽がお茶で落ち着いたところで、ゆっくりと事情を繰り返し、聞き出した。
 どんな内容にも反論せず、聞き役になり、具体的な話が聞きだせるよう、心を砕いた。

「なるほど。きみの家を淑女的に見せてもらいたい。その折に、身長・体重、手や足のサイズなどを測らせてもらっても、構わないだろうか?」

 アイリスの言葉に、心愛楽は首を傾げながらも、頷いた。





 ヤナギ・エリューナク(ja0006)は、学園の図書館で過去の新聞データベースを検索していた。
 心愛楽の両親が襲われたという、天魔事件の概要を調べる。

「これじゃねーか?」

 高速道路をおり、暫く市道を走ったところで発生した、奇怪な事故。
 被害者は中年夫婦。遺体は見つかっていない。
 見えない何かにぶつかったかのように、新聞の画像に残る、ねじくれてひしゃげ、炎上する車。
 柩を担いで空へ飛んでいった男を複数見た、という、目撃者の証言。
 車の持ち主は沢田姓で、年齢的にも心愛楽の両親と合う。

「豪に両親の名前、聞いときゃよかったゼ‥‥だがこれで間違いなさそーじゃねーかな」
 ヤナギはプリントボタンを押し、新聞記事を印刷した。





 フェリーが行く。
 久遠ヶ原島を離れ、一行は心愛楽の住んでいる地域へ向かっていた。


「コアラなんて可愛い名前だべ」

 心愛楽の隣に近づき、御供 瞳(jb6018)が緑の髪を風になびかせた。
 黒い肌に、茶色い瞳がくりくりとしている。

「だども、どんなに可愛くても、親が子供につけていい名前じゃないべなー。オラの名前も、逆さに読んだらば、ヒトミゴクウになっちまうっちゃよ」

 どこの方言ともつかない口調で、瞳は続ける。

「今回の事件が天魔の仕業なら、どえらい狡猾だべ。人間が逃避する最後の砦である夢を悪用しているとしたら、オラ絶対に許せないべさ」


 心愛楽の親戚の家に近づく。


「捜査の基本は足で稼ぐって、ドラマで見ました♪」
 自身も名前に悩む、華子=マーヴェリック(jc0898)は、行方不明の親戚のおじさんの足取りを追うことにした。

 華子は、心愛楽の親戚に、行方不明のおじさんの写真を借りる。
 親戚一同は、誰もおじさんの心配をしている風ではなく、「あの人は自由人だからねえ」「きっとそのうち、ふらっと帰ってくるわよ」と、慣れた様子だった。

「何処に行っちゃったんでしょう?」

 心愛楽本人、警官、ご近所の人達、他の親戚達に、おじさんの事を聞いて足取りを追う華子。

 おじさんの職業は、無名の登山家で、自称セミプロカメラマンでもあるそうだ。
 何度か、写真の大会で賞をもらっているらしく、カメラ型のトロフィーが幾つか飾ってあった。
 行動、性格は自由奔放、豪放磊落といった感じで、近所の飲み屋にもよく顔を出していたという。

 酒が入ると、心愛楽の名前を笑いものにして、よく遊んでいたようだ。だが心から莫迦にしている様子ではなかったと、飲み屋のおやじは証言した。
 寧ろ、甥である心愛楽を可愛がっていたほうではないか、と。
 確かに、心愛楽の部屋には、おじさんからプレゼントされた沢山の風景写真が飾られていた。

 あたたかい風の吹くある夜、家で酒を飲み、心愛楽をイジって遊び、そのままふらりと出かけ、飲み屋で飲み直し、公園のベンチで寝入って、‥‥行方が絶えた。
 その夜、心愛楽は例によって、悪夢を見たという。おじさんを刺し殺す夢を。

 華子が公園へ行ってみると、僅かながら、ベンチに血痕が変色したような黒いシミが見つかった。





 ヤナギは悩んでいた。
 心愛楽の両親が襲われた理由が、いくら調べても、わからないのだ。
 偶然天魔の目にとまったのか、それとも何か理由があるのだろうか‥‥?

「時に豪、お前は両親を死に追いやった天魔にゃ、どんな感情を抱いているんだ? そいつは復讐したい対象に入らねーのか?」

「‥‥復讐したいとは、思います。でも、おれには撃退士さんを雇うお金がないですし、天魔に立ち向かうなんてできっこないですし‥‥諦めています」

 心愛楽はうなだれた。

「じゃあ、質問を変えるぜ。夢の中で豪は、どうやって他人の家に入ってんだ?」
「わかりません。気づいたら、刃物を振りかぶっているんです」

 悪夢を思い出し、震える心愛楽。


 心愛楽の部屋は、こざっぱりと整えられていた。
 両親の遺品と言われるフォトフレームに、出雲が目を向ける。

「これは沢田君の趣味ですか?」
「あ、いえ、写真はおじさんの趣味‥‥仕事かな? とにかく、おじさんにもらったもので」

 その写真を撮った者が、行方不明で、あの悪夢にも出てきていることを、心愛楽は告白した。

「フレームは確か、『両親の遺品』として渡されたものでしたよね?」
「はい。警察の人から、無事な遺品はこれだけだったって‥‥あとは車と一緒にダメになったって‥‥」

 ヤナギは新聞記事の画像を思い出す。炎上する、ひしゃげた車。
 記事は手元にあるが、心愛楽の前で取り出すのは気が引けた。

「ちょっと写真を失礼しますね‥‥おや?」
 出雲がフレームを掴み、写真を引き抜こうとする。写っている人物は、確かに心愛楽にそっくりだった。しかし。

 抜けない。

 撃退士の力で引っ張っても、写真もフレームも、びくともしない。
 光纏し、出雲が<中立者>を使用してみても、カオスレートがわからない。

 青灰色の髪のアイリスが<生命探知>と<異界認識>を使用した。
 この部屋にいる人数より、明らかに多い生命反応。
 そして、想像通りの、天魔反応。

「沢田。フォトフレームにつけた傷がきみと連動するか、確認したい」
 アイリスはそう言って許可を取り、そっとフォトフレームを叩いた。

 びくともしない。
 物質透過を使用して、写真を引き抜こうとしても、何故か透過できない。

「か、硬いな? どういうことだ?」
 終いにはV兵器を持ち出して殴ってみるが、フォトフレームには傷ひとつつかない。

 ふうむと考え込んだアイリスに「あれ、おかしいな?」と心愛楽が手を伸ばした。
 心愛楽自身がフォトフレームの端を軽く弾くと、弾けるように彼自身の左腕が吹っ飛んで、くっきりとアザが残った。

 どうやら、フォトフレームに打撃を与えられるのは、現時点では、心愛楽本人だけらしい。
 何か条件を満たすまでは、他の者には手を出せない仕掛けになっているようだ。


 琉命は、やむなくフォトフレームにおさまっている状態の写真を観察した。
 スナップ写真の日付を確認した上で「これは偽物です」と言い切った。

「理由は単純です。豪さんのこの姿を見て、ご両親が笑顔で撮影できる筈がありません。そして、ご不快な事を申し上げますが、豪さんの御両親はすでに身罷られ、『今』ご両親と一緒に写真におさまるのは不可能です」

 笑顔で3人並んでいる写真。中央の心愛楽だけが血まみれで、刃物を持って笑っている。

「従って、この写真が撮影される為には、豪さんとそのご両親に偽装できる者か、画像操作できる者が必要になります。追い詰める為に用意したかもしれませんが、この写真は何者かが貴方の周囲にいる事を示す証拠でもあります」

「え、でもこの写真、最初は普通のスナップ写真だったし‥‥おれが高3に上がった時に、両親と一緒に撮った写真なんですけど‥‥」

 心愛楽は不安そうに写真を見た。写真の中で自分だけが成長していき、自分だけが血塗られていき、自分だけが刃物を持つようになっていった、その経緯を話す。

「まずはこれが、アナログカメラによる写真なのか、デジカメによるものかを確認するべさ。アナログカメラなら偽造するのは難しいし、どうしようもなかんべ? でもデジカメ写真なら改竄はかなり容易なはずだべさ!」

 瞳がじっくり写真を見る。写真の素人が見ただけではよくわからないが、綺麗な発色だと思った。

「ああ、フィルム撮影ですよ。おじさんがセミプロ写真家で、デジタルはあんまり撮らないんです」
 心愛楽は、風景写真なども取り出して見せた。

 はっとするほど美しい夕焼け。
 真っ青な空にくっきりと浮かぶ白い雪山。
 海に沈みゆく太陽の輝き。

「おじさんは自然物を撮るのが好きなんだそうです‥‥」
 そう心愛楽が言ったところへ、華子が帰ってきた。

「その、カメラマンのおじさんも悪夢の被害にあったみたいですね。公園のベンチに血痕が残っていました‥‥」
 華子の言葉に、蒼白になる心愛楽。

「豪君、フォトフレームを落とした時、確か手首を骨折してしまったんですよね?」
 わざと間違った所を聞いてみる華子に、「いえ、足首です」と心愛楽が修正する。
(うーん、誰かと入れ替わっているわけではないのですか‥‥?)


「夢は夢です。現実ではない。ただそれを現実と思いこませるだけの仕掛けが施されています」

 出雲は考え込みながら呟いた。
 現実で彼に干渉してきた人物を特定した結果、改名代は親がついてきた嘘と判明した。
 遺品は、警察が、事件現場に残っていたものとして、遺族に届けただけ。
 誰かが、彼を生きたまま絶望の淵に追いやり、またはそこで殺す為に仕掛けたと考えてはいるが、まだ確証がない。

「あなたの両親を殺した天魔と、おそらくこの事件の犯人は、一致するのではないでしょうか」





 くつくつと、誰かが笑っている。
 この遊びを終えたら、次は何をしようかと、考えながら。





 夜。

 フォトフレームを恐れる心愛楽を捜査のためと説得し、琉命が彼の部屋に留まることとなった。
 悪夢体験の続いた心愛楽が、眠る事にも恐怖を感じている可能性を考慮し、<クリアランス>や<マインドケア>で落ち着かせると約束した。
 同時に、心愛楽を常に監視する者がいる可能性を考えて、言いたいことはスマホのメモ機能で見せ、監視者に悟られぬ様工夫することにした。

『貴方が眠る間、どこかに隠れ、不寝番につきます』

 スマホのメモ機能で見せ、心愛楽を安心させる。


 ヤナギ、アイリス、瞳は、最後の一人、次の被害者と噂される菊池くんに会いに行った。
 他の者は、心愛楽の親戚宅の客間で待機することとなった。


 心愛楽がベッドにもぐると、タンスに潜んだ琉命は<現世への定着>を施し、心愛楽に変化があるか、隙間からじっと観察していた。
 <生命探知><異界認識>を駆使して部屋をチェックする。
 フォトフレームの中のスナップ写真から、ぬうっと影が飛び出してきた。
 血みどろで、刃物を持った、心愛楽の影だ。
 フォトフレームと影、どちらにも天魔の反応がある。

 ベッドで眠っている心愛楽は、うう、うう、と苦しげなうめき声をあげていた。
 悪夢にうなされているのだろう。

 影は暗がりの中にすうっと消えていった。心愛楽はベッドで苦しげにうなされている。


『皆、起きて。こんな動きがありました』
 客間の仲間と、菊池くん宅の仲間にメールを送る琉命。


 一方、ヤナギ、アイリス、瞳は、菊池くんの部屋にいた。

「まぁ何だ、事情を説明し‥‥なくてもダイジョブか、護衛を買って出るゼ」
 どんとゴスパン衣装の胸を叩き、ヤナギは菊池くんに戸締りを確認するように言った。

「何か思い当たる節でもあるのか?」

 アイリスが<マインドケア>を使い、無表情に且つ淑女的に話しかける。

「ウチに引き籠っているからには、何か事情を察して隠れているもんと考えて構わねえべか? そげん怯えんと、オラたちが保護してやるけえ、身辺や友人らに起こったことで気づいたこととか、聞かせてもらえねえべか?」

 瞳も頷く。すると、菊池くんは頭を抱えて、ベッドにうずくまった。

「次は俺の番なんだ。俺しかもういないんだ」
 菊池くんは、心愛楽が皆を殺して回っていると信じ込んでいた。
「警察が学校にも来たっていうじゃん。どうしよう、次は俺だ‥‥絶対俺だ、だって皆、ほかの連中は消えちまったじゃねーか‥‥」


「まあ俺らは撃退士だからな、大船にでも乗った気で待ってろ。お前は守り通すゼ」
 ヤナギがはっきりと宣言した。

 深夜の部屋に、スマホのメールが点灯する。
 琉命からのメールだった。写真から影が抜け出して消えた、と書かれていた。

「阻霊符発動‥‥しといて、正解じゃねーの」
 はっとヤナギがベランダを見ると、そこには、刃物を持った心愛楽の影と、柩を背負った男のような人物が立っていた。
 しかし、ガラス戸を透過できず、部屋まで入ってくる様子はない。

 菊池くんが悲鳴をあげた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
撃退士・
蘇芳出雲(ja0612)

大学部3年249組 男 ルインズブレイド
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
智謀の勇・
知楽 琉命(jb5410)

卒業 女 アストラルヴァンガード
モーレツ大旋風・
御供 瞳(jb6018)

高等部3年25組 女 アカシックレコーダー:タイプA
その愛は確かなもの・
華子=マーヴェリック(jc0898)

卒業 女 アストラルヴァンガード