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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/01/26


みんなの思い出



オープニング




 絵羽(えわ)は、学園外ではそれなりに美少女と見られることの多い、バハテのたまごである。
 1年半前に天魔事件に巻き込まれ、アウル適性が見つかり、学園に保護されて、撃退士の卵になった。
 最初は、ダアト科に所属したのだが、色々とうまくいかなくて、バハテ科に転向した。
 でもまだ、うまく光纏もできないし、アウルを使いこなすことも出来ないでいた。
 ヒリュウの召喚すら、一度も成功したことがない。
 だから、中等部1年生を、もう一度最初から修めることになっていた。

 事件から1年半は経ったけれど、いろいろが怖い。
 例えば、マリカせんせー(jz0034)の授業とか。
 マリカせんせーによく似たニセモノに、襲われたから。

 寮で過ごす、ひとりぼっちの夜が怖い。
 一緒に保護されたとうちゃんは、今は島外にアパートを借りて暮らしている。

 お化けも怖い。
 いないと教わっても、頭でわかっていても、心では理解できない。

 座学で天魔の勉強をしても、うまく飲み込めない。ゲートとかコアとか、理解できない。
 演習は、自分でも嫌になるくらい、不得手。

 絵羽は自他ともに認める「学園の落ちこぼれ」だった。





「絵羽のビビリを治してやろうぜ。このままじゃ撃退士になんて、なれやしないもん」
 バハテ科のクラスメイトで、駆け出しの撃退士である順(じゅん)が、肝試しを提案した。
「怖がりすぎて、演習でも竦んじゃって動けないでいるし、実際の天魔事件に関わるなんて無理だよ」

「マリカせんせーは怖い先生じゃないんだけどな。まあ、普通によくある顔立ちだから、似た人は多いけどね」
 フライドチキン店バイトのミチルなども、せんせーのそっくりさんとして知られている。
「世の中、似た人が3人はいるって言うから、気にしなくていいと思うけど。その天魔、退治されたんだろ?」
 陸(りく)が頷いた。

「だって、だって‥‥」
 一生懸命、昔であった怖い出来事を、皆に繰り返し話す絵羽。
 聞き飽きたとばかりに真理(まり)が手を振った。
「わかってるから。何度も聞いたから。絵羽は怖がりすぎよ。あたしは順の意見に賛成ね。絵羽は少し怖がりを治さないと」

 涙ぐむ絵羽を差し置き、クラスメイトたちは地図を手にした。
 廃村・廃屋・廃墟の大好きな咲(さき)が、「ここなんていいんじゃない?」と地図を示した。





 6人は、千葉県君津市内の某廃村に、レンタカー店でワゴン車を借りて、向かっていた。
「事件絡みじゃないときに、勝手に車とか運転して、大丈夫?」
「ばれたら先生に謝ればいいよ」

 はらはらしている絵羽を尻目に、宮(みや)がのんきに答えた。皆、とても楽しそうだ。

「おおー、空がきれいだねえ。やっぱり星空は、冬のほうがクッキリ見えるね」
「これは放射冷却で、明日寒くなりそうだね」
「街灯もほとんどないし、こんなに沢山星が見られるのって貴重だよね」

 廃村に到着する。
 入口らしき場所に並んだ、朽ちかけたお地蔵さんを、皆で何となく撫でまわす。
 遠くに、鳥居のようなものが見えた。

 絵羽は、ナイトビジョンをはずされて、「あの鳥居のところまで行って、帰っておいで」とひとりにされた。
 5人はめいめい、廃村を探検しながら待っているという。

 携帯は圏外。
 怖くて怖くて、おっかなびっくり、絵羽は鳥居に向かった。
 そして、ありえないものを見た。

 暗い山の麓を、ほんのり光る1両編成のローカル列車が、音もなく通過していったのだ。
 中には人が沢山いたように見える。
 距離的には、ガタンゴトンと列車特有の音が届きそうなのに。
 あれ? 今は、確か午前3時過ぎ‥‥。
 人の乗った電車が、まして、こんな田舎のローカル線が、走るわけがない。

「お、オバケ‥‥! 電車の、オバケ!!」

 絵羽は立ちすくんだ。
 その足首を、何かが掴む。

 絵羽の悲鳴が、暗闇を切り裂いた。





「結局ビビってんのかよ、絵羽はだめだ‥‥な?」
 悲鳴を聞いて、駆けつけた順が、顔を引きつらせた。

 絵羽の足元の土が崩れ、そこから順そっくりの誰かが、這い上がってくる。
 本物の順が、「嘘だろぉ!?」と声を上げた。
 慌ててフラッシュライトを焚く。

 順、陸、咲、真理、宮、そして絵羽。
 そのそっくりさんが、壊れた人形のような動きをしながら、襲いかかってくる。

 ダッシュで逃げ、ワゴン車に飛び乗った。
「皆乗ったな?!」
 暗い車内に自分を含め、6人いるのを確認し、宮はエンジンをかけた。

 険しい山道をくねくねと、一番近い街を目指して走る。少し開けた場所で車を停め、携帯の電波状況を確認する。
 アンテナが立った! ここからなら通話できる。
 宮は転げるように、車から出た。

「シキ先輩ですか? 天魔です! 俺らじゃちょっと無理そうなんで、早く救援を‥‥!」
 噛み付くように携帯に叫ぶ宮。
「場所は千葉の君津市内の廃村です! 急いで!」





 通報を終え、宮は仲間のもとに、つまりワゴン車に戻ってきた。
「大丈夫か? 怪我人はいないか?」
 フラッシュライトをあてて、ぎょっとして後ずさる宮。

 後部座席は、真っ赤なペンキをぶちまけたようになっていた。
 乗り込んでいたはずの4人には、首がない。
 そして、ワイヤーのようなものをピンと張って、カタカタと四角い口を動かして笑っている、宮がもうひとり、乗っていた。

「!!」
 吐き気を催して口を押さえ、車から逃げ出そうとする宮。
 首にワイヤーが絡みつく感触を覚える。

 視界が暗転した。





「み、みんな‥‥どこ、行っちゃったの‥‥?」
 恐怖に竦んで、逃げ遅れた絵羽は、遠ざかっていくワゴン車のテールランプを見逃していた。

 廃村の朽ちた建物をそっと回ってみる。暗くてよくわからない。
 もう一度ナイトビジョンをつけ直して見ると、仲間らしき人影が、人形のように不自然な動きでカタカタ動いているのが見えた。
 順もそう。陸も咲も、真理も、みんな人形みたいな動き方で、うろうろと何かを探している。

 ――わたしを探しているのかも!?

 絵羽は鳥居の奥にあった祠に飛び込み、そっと身を隠した。
 ぶるぶる震えながら、「早く助けに来て」と、圏外表示の携帯を握りしめる。
(もう、‥‥人形に襲われるのは、いや! 怖い、怖いよ‥‥助けてよ‥‥)





「後輩から、助けを求める電話が直接入りましたの」

 宮から直接電話を受けたアリス・シキ(jz0058)は、ネットの依頼斡旋システムを利用して、深夜に人を依頼斡旋所に集めていた。パソコンで廃村の地図を拡大し、村の様子を窺う。

「救助対象は6名、いずれもバハテ科のレベル1の学生ですわ。廃村には、崩れた家屋が幾つかと、神社のお社が残ってございますわ。敵情報などは不明ですの。一刻を争う事態のようですので、速やかに現地へ転移してくださいませ」


リプレイ本文




 出征直前、礼野 智美(ja3600)は、アリス・シキ(jz0058)に尋ねていた。
「電話を掛けてきた学生の電話番号も教えて下さい。あと、光信機は人数分借りられます?」
「3つまでならすぐにご用意できますわ」
「結構です。この電話番号をメモして‥‥有難うございました」

 宮の電話番号を記録し、智美はアリスに礼を言った。

「廃村からの帰りの足として、マイクロバスを手配しておきますわね。皆様のご無事を祈ります」
 光信機を智美に渡し、アリスはそう言って皆を送り出した。





 舞台は廃村入口。
「くしゅっ‥‥いやに星が綺麗やねぇ」
 現場は冬の寒さだった。息が白く夜空に溶けていく。亀山 淳紅(ja2261)が軽くくしゃみをした。
 智美から渡された光信機を手に、星の降るような空を見上げる。

「敵情報不明ってのが厄介だな‥‥電波が届く所まで逃げられたとは言え、油断は出来ん。相当焦ってたみたいだし、逃げ遅れた奴がいる可能性もある‥‥何にせよ捜索、偵察は必要か」
「ここじゃ携帯使えないし、GPSデータから考えると、最低限1人は携帯が使える所まで逃げている筈。俺はそいつを探しに行こうと思う」

 麻生 遊夜(ja1838)に光信機をひとつ渡しながら、智美は自身も光信機をセットした。

「カイロとコートがあっても寒いですねー。‥‥彼らも寒い思いをしてないといいのですが」
 間下 慈(jb2391)がコートの前を合わせた。
「ここは圏外ですし、彼らを保護するには、携帯が通じる所まで行かねばなりませんねー。急いで逃げたようなタイヤ跡がありますし、こうなったら寒空の冬の夜にマラソンですねー。礼野さん行けますー?」

「ああ、準備は整っている」
 智美が頷くと、遊夜が「なら常に情報を交換しながら状況を把握するべきかね」と光信機をセットした。

 慈と智美が走り出す。
 慈が左目を閉じると右目が銀色に変化し、同時に全身と魔具が淡い煙のような銀のアウルに包まれた。智美も光纏し、体全体が金の炎に包まれる。闇にアウルの尾を引きながら、タイヤ痕を追う2人。

「慎重に行かないと危ないかもだねぇ。全員逃げれてれば良いんだけど追加情報がないしねぇ‥‥追いかけてく2人に期待だね」
 来崎 麻夜(jb0905)が遊夜のお古のコートを着込んでいる。
「まずは、敵情視察が、大事。詳しい情報を聞くのと安全確保の為、6人を追うべき。携帯は圏外‥‥繋がる所まで、離れてるはず。追う2人に任せて、私達は、逃げ遅れと、敵の捜索。理解した」
 こくりと頷く、ヒビキ・ユーヤ(jb9420)。





「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! そう、ボク参上!」
 イリス・レイバルド(jb0442)は美しい髪をさらりと流した。
「ミハイルくん、ナイトビジョンを借して」
「使え」
 ミハイル・エッカート(jb0544)はイリスにナイトビジョンを貸し出すと、装着を手伝った。


「廃村探索班全員に、<手引きする追跡痕>を打たせてもらうぜ」
 遊夜は、自分以外の廃村探索班全員をマーキングした。
「これから<テレスコープアイ>を使う。近場が見えなくなるから、護衛を頼む」
 ミハイルの言葉に、淳紅が頷く。

 光纏のアウルを黒にしたイリスは、「まさかこの謎の機能が役立つ日が来るとは」と感動していた。
「ボクもミハイルくんの護衛にまわるよ、防壁陣の準備はいつでもおっけいだし!」

 ぐるりと廃村を見渡すミハイルを囲むように、廃村探索班が並ぶ。
 廃村のどこにトラップがあるかわからない。なるべく何にも触れないよう、注意する。

 カタカタと壊れたような動きをする物体が、廃村内に恐らく5体。
 いずれも、前もって顔写真で見た学生だ。宮だけが見当たらない。
 口は四角く開け閉めされ、まばたきはせず、関節には球体が挟まっている。

「顔だけやったらええけど、バハテ科やったら召喚獣のスキルまでコピーされてたりするかもな」
 淳紅が呟いた。

 そんな、ニンギョウじみた天魔が、1体、じわりじわりと侵入者である撃退士の輪に近づいてくる。

 ポッとヒリュウの出来損ないみたいなものが浮かんだ。
 ふよふよと近づいてきて、ブレスを吐こうと首を持ち上げる。

「何だこのコピー人形? マジでお姉ちゃんの記録と似すぎな状況だなー、もしかして3cmくらいの痣が本体だったりする?」
 イリスがヒュペリオンで、ぶぅんとヒリュウもどきを素殴りする。断末魔の声を上げてヒリュウもどきが消えた。陸らしき顔の人形がもんどりうち、だくだくと黒い粘液(血?)を流して息絶えた。

 慎重に死体を調べるイリス。
 しかし、3cmの痣は見つからず、陸そっくりだった人形は、死ぬと同時にのっぺらぼうの球体関節人形に変貌していた。

「あっけないものだねぇ」
 麻夜はクスクスと笑った。

 ミハイルは何度か瞬きをして、ようやく焦点を近くに合わせた。
「<テレスコープアイ>では廃村内に動く人形を5体確認した。そのうち1体はこのとおりだ。以降は<索敵>を使用して廃村内を回ろう。奴らは連携をとる様子もなく、俺たちにまだ気づいているふうでもない。恐らく低知能だろう。気づかれないうちに始末してしまおう」

「ん、奇襲、ね」
 遊夜にすりすりしていたヒビキが、こくりと頷いた。

「逃げ遅れた学生の可能性も忘れんといてな」
 淳紅が釘を刺した。





 直線距離を3キロ、峠なので、その倍近くは走っただろうか。
 舗装されていない道に、荒々しいタイヤ痕が続いている。

 慈が<索敵>した。1体、誰かがワゴン車のそばにいることを智美に伝える。
 
「一人だと? 他には‥‥」
 先についた智美がペンライトで顔を照らす。宮だった。四角い口をカタカタ言わせている。
「召喚獣も呼び出していないのか?」

 その言葉と同時に、ヒリュウもどきが、1体、宮そっくりの人形の上に浮遊した。
 慈へ向かってブレスを吐こうと、首をもたげる。

「なっ‥‥宮くん?」
「危ない!」

 智美の<鬼神一閃>が、慈を狙おうとした宮の人形へと放たれる。
 紫焔が玉鋼の太刀を燃え上がらせ、智美の全身のアウル力が燃焼されて加速し、目にも止まらぬ速度でそれこそ太刀を一閃させる。
「ギャッ!」
 ヒリュウもどきが悲鳴をあげ、同時に宮の人形はのっぺらぼうの球体関節人形と化して、周囲に血液を撒き散らして果てた。

「大丈夫か?」
「ええ、僕は何とか無傷で済みましたー。有難うございますー」
 智美はぶんと太刀の血を払った。
「それより、こんな人形がいたなら、彼らが怪我してるは‥‥ず‥‥」

 慈はワゴンに駆け寄った。
 智美がペンライトをかざす。

 ‥‥

 鉄錆によく似た、生臭い匂いが、充満していた。
 力なく、光信機を起動させる智美。

「5人なくなり‥‥首切断。車血塗れ。生き残りが村にいる可能性あるけど、とても見せられない」
「敵は1体、宮くんと同じ姿でしたー‥‥もし生き残りの子がいたら‥‥『皆は見つからなかった』と伝えておいてくださいー‥‥」

 慈の声が震える。
 まだ見つからぬ絵羽に、懺悔を繰り返す。

『車しか見つかりませんでした』
 ――嘘だ
『まだわかりませんが、血痕も大きいですし』
『彼らが生きてる可能性は‥‥低いです』
『捜索は明日以降になりそうです』
 ――これも嘘だ
   死んでるって知ってる癖に
   捜索なんてしないのに

「‥‥ごめんなさい」
 泣きそうになるのを堪えている慈の肩を、智美がぽんと叩いた。

「迎えのマイクロバスが手配されている。この車は、然るべき場所へ移動させ、彼らを弔ってもらえないか聞いてみよう」
 ぐっしょりと血に濡れた内装、転がっている人間の生首5つ。
 これをこのまま、要救出者に見せるわけにもいかない。

「そうですねー‥‥」
「とにかく乗れ、2人で行こう。この位置なら携帯が繋がるはずだ、斡旋所のシキに指示をもらおう」
 智美は光信機でワゴン車を移動すること、及び帰り用にマイクロバスが手配されていることを廃村班に伝えた。





「‥‥そうか」
 光信機で2人から通信を受け、遊夜と淳紅は廃村探索班全員に伝えた。
 但し、どこで隠れている要救出者の耳に入るかわからないため、携帯のメモ機能に書いて見せるという手段を取った。

(生き残りは、この村にいる一人だけか)

 重い空気が流れる。

「逃げ遅れが隠れるとしたら‥‥マシな建物か、神社かね?」
「俺は神社方向をあたろう」
「なら俺らは家屋さね」

 分担し、散る。


 遮蔽物を利用して隠れつつ、静かに移動を繰り返す遊夜。
 奇襲に備えて、麻夜とヒビキが身を隠してついていく。
「とりあえずこっそり、だね、クスクス。隠れられそうな場所を中心に見て回ろうか?」
 麻夜がクスクス笑いを抑えながら、先行する。
「ん、敵も探してるはず、慎重に行くべき」
 ヒビキもこくりと頷く。
「ん、ここにはいない」


「っと救助対象、いや‥‥動きがおかしい‥‥人形か」
(まぁ逃げ遅れなら見つかりやすい所でうろうろしてる訳ねぇわな)

 四角い口、かくかくした動きに目を凝らし、遊夜は麻夜とヒビキに合図を出した。
「さぁ、スニーキングミッション開始だよー」
 クスクス笑いながら麻夜は<Shadow Stalker>で潜行し、ヒビキと一緒に奇襲位置につく。

 遊夜が順の人形に、<光堕とす者>をお見舞いする。黒い光を纏わせた弾丸が放たれ、銃口から肩にかけて赤い光が螺旋状に纏わりつく。
「一人歩きは危険だぜ? 月のない夜には気をつけろ、ってな」
「ふふっ、後ろがお留守だよー? クスクス」
 間断なく麻夜が<Downfall Gloria>で人形の眉間を撃ち抜く!
 同時に上から<徹し>でヒビキが人形の頭を叩き潰す!!
「ん、上からにも、注意、だよ?」

 ぐちゃあ。
 黒く赤く錆び付いた臭いの粘液を撒き散らし、のっぺらぼうの人形に戻った天魔は、破れた革袋のようになっていた。
 球体関節を仕込んだ手足がひくひくと動いていたが、それも間もなく鎮まった。

「ん、次、複数、くるよ」
 ヒビキが察して遮蔽物に隠れた。
 絵羽と真理の人形が、偶然のように近くへ、かくん、かくんと近づいてきたのだ。
 動きからしてもう怪しい。
 真理の人形はヒリュウもどきを呼び出した。絵羽の人形も真似をするが、本体が光纏すら出来ない落ちこぼれっ子なためか、召喚がうまくいかないようだ。

「さぁ来いや、俺はここにいるぜ?」
 真理人形の足元に<光堕とす者>を撃ち込み、遊夜はばっと遮蔽物から人形2体の前に飛び出した。
 死角から接近した麻夜が、<Reject All>に2体を巻き込む。影から湧き出た闇色の鎖が2体に絡みつき縛り付ける。麻夜の目から黒い涙が流れ出し、身体中に鎖で縛られた様な痣が浮かんだ。
「う・ご・く・なっ!」
 麻夜の言葉に合わせ、上空からヒビキが、束縛された2体の人形を纏めて<時雨>で叩き潰す。
「私もいるの‥‥忘れちゃ、やだよ?」
 クスクスと笑いながら、2体の人形をグチャグチャと激しく破壊するヒビキ。黒地に赤く「深夜会」と書かれた特攻服がはためく。
 ヒビキの白い頬に、人形の返り血(?)がぴちゃっと飛ぶ。ぐい、と甲で拭うと、人間の血の匂いがした。





 ギィ‥‥

 神社の社の扉が、とても微かな音を立てた。奥に体育座りをしていた絵羽(本物)は、怖気づいて壁に身を寄せる。

「どもー、絵羽ちゃんだねー? 頼れる先輩ナイトが助けに来ましたよー。ボクはイリスちゃん! 1年位前に金髪黒服の人を助けてくれたでしょ? あれボクのお姉ちゃん♪ お姉ちゃんに親切にしてくれてありがとねー」
 明るい声で、イリスはナイトビジョンに映りこんだ人影に声をかける。
「え‥‥はい‥‥」
 絵羽はか細く声を出した。動き、顔立ち、表情、そして応答できる知性。
 確実に人形ではない、人間だ。ミハイルも淳紅も確信する。

「1年位前にお姉ちゃん達が助けた子だよね? ボクのお姉ちゃん記録好きだから、ボクも顔と名前と簡単な経緯くらいは知ってるんだよー。絵羽ちゃん、よろしくね!」
「あ‥‥う‥‥うわーん!」

 よほど怖かったのだろう。絵羽はイリスに飛びついて泣きじゃくった。

(正直、ワゴン車の話があるから、内心穏やかじゃないけれど、もっと不安定で心の助けがいる子がいるから、今はボクが支えてあげなくちゃね。表面上はいつも通りのボクで隠し通すよ、いつか知るとしても、今は少しでも心を休めなきゃ)

 イリスは、絵羽に気づかれないように少し表情を暗くした。

「せや、もう大丈夫やで!」
 淳紅が<マインドケア>をかける。携帯していた魔法使いのローブをかけてあげ、絵羽が少しでも安心できるよう、ソーラーランタンで灯りをともす。

「少しそこにいてくれ」
 ミハイルが何かに気づいたらしく、社から離れていく。
 やがて、遠くから、「いらんことするんじゃねぇ」という声と共に、鈍器のような硬いものでどすんと何かを殴る音がして、静寂が戻ってきた。

「さて‥‥どうやら悪趣味なイタズラパペットは、もういなくなったようだが、絵羽に聞きたいことがある」
 震えている絵羽に、ミハイルは精一杯穏やかな声を出した。
「一応、あの人形は何体いるのか知っているか?」
「わ、わたしは‥‥6体だと、思いました。みんなにそっくりになって出てきたから‥‥」

 絵羽は、怖かったあの時を思い返して、でも一生懸命答えようとした。

「ほかの子たちは?」
「わからない‥‥です‥‥。車の音がしたと思ったら、もう誰もいなくて‥‥」

「きっと慌てて逃げたんやな。絵羽さんを見捨てたわけやないと思うで」
「まあ、その件は今、捜索中だ。行方がわからないので、知っているかと思っただけだ」
 淳紅とミハイルがフォローする。

「この村で何があった? いや、この村に来る前からか‥‥聞かせてもらえないか?」

 絵羽は頷いて、レンタカーでワゴン車を借りて皆でここへ来たこと、廃村好きな咲が選んだこと、村に来てお地蔵さんをなでたこと、音もなく走る満員電車を見たこと、社の中に隠れていたことを話した。

「電車はわからんが、地蔵に何か仕掛けがあるのかもしれんな‥‥」
 ミハイルは淳紅から光信機を借りると、仲間にその情報を伝えた。
「電車、なぁ」
 ほむ、と考え込み、淳紅は絵羽に「どっちの方角へ行ったかわからへん?」と尋ねた。
 後に地図で確認すると、その電車は南に向かっていたようだった。





 マイクロバスが到着する。ワゴン車の2人とは学園で合流することにして、皆、バスに乗った。
 本当は、一緒に来た同級生たちも同席しているはずだったのに、わたしの所為だ、と絵羽は泣いた。
 早く見つかりますように、無事でいますように。その言葉に誰もが言葉を失った。

 帰路道中、ミハイルは絵羽の身の上話の聞き役になっていた。
「戦闘が苦手で避ける生徒なんざ珍しくないぞ。遊べるのは子供のうちだけだ。訓練や戦闘よりも学園生活を楽しめよ。俺は覚醒したのが27歳だぜ。まだまだ中学生、人生に悩むには早すぎるぜ?」


 犠牲者は、行方不明扱いで処理された。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 凛刃の戦巫女・礼野 智美(ja3600)
 ハイテンション小動物・イリス・レイバルド(jb0442)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
重体: −
面白かった!:3人

夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅