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マジカルティーチャー・マスクドマリカ(jz0034)の悪行を偵察しながら、向坂 玲治(
ja6214)は産業廃棄物と化した愛しきコーラのことを思い浮かべていた。
「くず鉄になった俺のコーラの無念、はらさせて貰うぜ!!」
「他人の不幸は蜜の味、まさしくその通りですが‥‥自分がそれに巻き込まれるのは、いささか腹が立つので、さっさと成敗させてもらいますよ」
如月 千織(
jb1803)が苛立ちを表情に出さずに呟く。
「なんだかなあ、夢の中でもヒーローをやることになるのかよ」
リアルでもゲキタイジャーのオペレーターとして活躍する、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)はぽりぽりと頭を掻いた。
(これは‥‥夢の中とは言え、新年そうそうチャンス到来のヨカーン!?)
歌音 テンペスト(
jb5186)は何かを心に秘めているようだった。
「こんな酷いことをする人は許せません!」
きりりと正義を掲げる木嶋香里(
jb7748)と比較しても、何だか歌音の様子は若干オカシイ。
「よくわかんねーけど変身は浪漫なの、覚悟するなの!」
ペルル・ロゼ・グラス(
jc0873)の一言で、ゲキタイレンジャーたちは戦場である第4学生食堂に躍り出た。
「きゅいー!」
「きゅいー!」
ヒリュウを連想させるような甲高い声をあげ、でっちたちがゲキタイレンジャーに気づく。
マスクドマリカに危機を伝える声だったようだが、マスクドマリカはスイーツに夢中だった。
「きゅいー!!」
でっちがゲキタイレンジャーを取り巻く。
取り巻くだけ取り巻いて、脅しのポーズをするだけで、実際は何もしてこない。
ちゃんと空気を読んで、ゲキタイレンジャーが変身するのを待ってくれている。
「どうしましたですー?」
やっと、マスクドマリカがスイーツを食べおえた。
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「光ォ纏ッ!」
玲治の全身が輝き始め、はらはらと学生服が解けていく。
360度カメラがぐりぐりと移動して、誰が見ても得をしない(かもしれない)光り輝く裸身が、ぐるりぐるりとでっち達の前に晒される。
そして、光の粒子が凝縮してゆき、くるくるとサービスポーズを決めた玲治を、戦隊スーツがその裸身を覆うようにパーツごとに顕現し、光が収まった時にはグリーシァン・オリーブ色のバトルスーツを纏っていた。
「ゲキタイグリーシァン・オリーブ、参上」
具体的に言うと、ウェブカラー#4d564fの色である。和装にありそうな緑がかったグレー色だ!
「そ、その色は、グリーシァン・オリーブ! 何て渋いカラーチョイスなのですー!」
仮にも本来は美術教師であるマスクドマリカ、この微妙な中間色にもしっかり気づいていた。
玲治の変身シーンは両目を隠して見守っていたでっち達であるが、次に進み出た香里に、「きゅいきゅいー!」と甲高い歓声をあげる。
眩く輝くサービスポーズを期待しているのだろう。
「光纏です!」
香里がふわりと回転すると、光の粒子が凝縮されて、紫系統の扇柄ストールと、翡翠色の扇柄があしらわれた色留袖に変化した。動きやすいよう、丈はおはしょりの少し下、大体ミニスカート丈まで短くなっており、勿論透けないグリーンのタイツ(こちらも扇柄)と和洋折衷なブーツがついてきた。
仮面は戦隊ものによくあるあれだ。扇の形の模様がついている。
「ゲキタイグリーン参上です。マスクドマリカ、貴女の横暴は許しませんよ!」
「きゅういー」
「きゅういー」
でっち達から不満の声があがる。だがまだ、まだ変身していない女子はいる!
逆に言えば、ゲキタイグリーシァン・オリーブ以外、全員女子だ!
期待を持ち続け、次なる変身を見届けるでっち達。
ていうかキミタチ何してるの?
「さぁてあたしの番ね! ゲキタイレンジャー迷物・白い変人ことホワイト参上! 光ぉ纏ッ!」
釘バットにしか見えない改造マジカルステッキを振り、でっちたちの前で、ジャストマイオンステージとばかりに呪文を唱えながら変身する女子現る!
青髪金目の悪魔ペルルである。
「あたしの歌――いや、変身シーンを見れ! なの! 大人しく見ねぇと、うふふふふ、なの♪」
どんなサービスシーンが展開されるかと、既にでっち達、固唾を飲んで見守っています。
「ペールルペペルナペペルナペールルト! なんかすごくでかくてカッコよくてワンダホーかつゴージャスかつミラクルスーパーラッキーウッキーおこのみ焼きオドントグリフスオパビニアハルキゲニアな美しいあたしになりたまえー清めたまえーはらいたまへーなの!」
しかし、でっち達の願いむなしく、ペルルのロリパンファッションが魔法的に、はらりはらりすることはなかった。
釘ステッキを振り回しながら不思議なダンスを踊り続け、徐々に白い毛並みのでかい人狼へとモフモフ変身していくペルル。
「最後までしっかり見ないと釘ステッキが唸るからね〜」
ペルルの変身呪文に重ねるように、「僕は紫、僕は混沌、僕は魔、悪役よりも悪役らしく、何よりも最低に、ゲキタイシルバーパープル、推して参ります」と千織が光纏した。
「くっ! 初夢に限って、サービスシーンを披露する機会があっただなんて! きっと真犯人は、でっちのあなたたちね! チッ」
ステッキを握り締めて涙するは歌音である。
「こうなったら意地でもネタに走ってやるわ! ゲキタイピンクとイエローの格子柄、参上! 月に代わって、五時起きよ!」
でっちにサービスしたかったんですか、ゲキタイピンクとイエローの格子柄さん。
地味に呼びづらいので、以降はゲキタイストライプでよろです。
「オオトリを飾るのは本命の役目だからな。俺はスーパーゴージャスデラックスゴールデンボンバーシーク王子仮面だ。月々のお小遣いは10億円だぜ」
きんきらきーんという効果音と共に大変身するラファル。
月々のお小遣い10億円が、ひらりひらりと花吹雪のように舞い落ちてくる。
「拾いたいか? 拾いたいだろう? げはははは、拾わせてやるとでも思ってるのか?」
でっち達の目線は王子仮面より、金に釘付けである。
ていうか、ゲキタイレンジャーの中で唯一ゲキタイが入っていないんですけど、これって突っ込むところなの?
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ゲキタイレンジャー+王子仮面が全員変身したところで、漸く動き出すマスクドマリカ。
「何なんですか、あなたたちは! この世界が誰のものかわかっているんですー?」
念のため、一応、マスクドマリカが世界を支配していることになっている。
「楯突くなんてマリカ困っちゃいますー! でっちの皆さん、思い知らせてあげちゃってくださいですー!」
「きゅいー!」
「きゅいー!」
ヒリュウみたいなかわいい声を甲高く立てて、でっちの皆さんが襲ってくる。
立ちはだかるは、スーパーゴージャスデラックスゴールデンボンバーシーク王子仮面。
「さあさあ皆さんさてこの次は何が出ますか早く早く、夕焼け小焼けのツンツン月夜で火が出て来い来い来い、金がなるなりきんこんかーん、お前らの心の折れる音が聞いてみたい。ほーれぼっきんぼっきんぼっきんきんっとなー」
(なげーよ)
自分でもよく考えたと思うロンゲスト呪文を唱え、マジカルステッキで顔をひとなで。ぺろんとのっぺらぼうになった王子仮面を見たでっちが<阿鼻叫喚>にかかり、大混乱に陥った。
「世界中がお花畑、みんなじゃがいも、みんなかぼちゃ、慌てることはないのですー、かぼちゃはおいしくぱくっとたべて、じゃがいもはぺろっとバターをつけて食べちゃうのですー、ゆっくりもぐもぐ、良く良く噛んでいただくのですー、お百姓さんありがとう、お料理人さんありがとう、食べられてくれるかぼちゃさんじゃがいもさんにもありがとうなのですー!」
マスクドマリカの長い呪文で、王子仮面の<阿鼻叫喚>が打ち消される。
でっち達は、我に返ったようだ。
「ふふふ‥‥お話し合いのための礎になって貰いましょう。深淵へと誘う旋律、以下著作権的にごにょごにょと誤魔化して、魂縛‥‥!」
その間に、ゲキタイシルバーパープルが、<魂縛>で眠らせたでっちを皆に見せつけていた。
「何てひどいことをするですかー!」
「あ、余計なことしたら、範囲でドッカーンですよ?」
「ひどすぎますですー!」
でっちには優しいマスクドマリカ、抗議の声を上げる。
「まじかる、ふぃじかる、すろーたー、殴っても壊れない非殺傷なステッキになーれー。うむ、今宵のマジカルステッキは血に飢えてるぜ」
ゲキタイグリーシァン・オリーブは、非殺傷なのに血塗れになる魔法をマジカルステッキにかけ、でっちを殴りつけながら、ゲキタイシルバーパープルの元へと歩み寄っていた。
「へっへっへ‥‥こいつがどうなってもいいのかぁ?」
返り血(?)に塗れたマジカルステッキを、人質にぐりぐり押し付けながら、下衆な笑みを浮かべ、マスクドマリカをにやにやと挑発する。
「そんなことするならこっちにも考えがあるですー! いざゆかん我がでっちの皆さんよ‥‥あ、あら?」
「必殺、誰ガデー! ダデニ投票シデモ! オンナジオモデェー! ンァッ!(中略)ンフンフンッハアアアアアアァン! 真空ハイメガ粒子全米が泣いた歌音砲(仮)」
無駄にクルクル回りながら号泣し、長い呪文で、マスクドマリカのマジカルステッキを破壊する、ゲキタイストライプ。
その必殺技はマスクドマリカのマジカルステッキを破壊するのみならず、第4学生食堂の壁の一部も破壊してしまった!
「でっち達め‥‥なんてヒドいことを!」
自分のしたことなのに棚上げするゲキタイストライプ。
「ところで今、あたしと契約すると、ホワイト家族特典でソフトクリーム食べ放題なの。せんせー、おとなしく言うこと聞くなの」
「ソフトクリーム食べ放題ですー? でもどんな契約なのですー? 世界を半分よこせとかいわれても嫌ですよー。クーリングオフは効きますですかー?」
ゲキタイホワイトのモフモフしたしっぽを「あたたかそうですー」と見つめながら、マスクドマリカは慎重に話を聞こうとする。
そこへ割って入るゲキタイグリーン!
「マスクドマリカ、私と真剣勝負して貰います! 『マスクドマリカはわんこそばがとてもいっぱい食べ続けたくなーる♪』」
「うっ!」
マスクドマリカのステッキは壊されてしまっている。対抗する術もなく、マスクドマリカは気づくとわんこそばのテーブルにつかされていた。
試合形式は、ゲキタイグリーンがお蕎麦を注ぎ、マスクドマリカが食べ続ける、離席・タイムなしの1発勝負サドンデスマッチ。ゲキタイグリーンの呪文の効果で50組2セットの注ぎ椀に、自動的にお蕎麦が補充される仕様になっている。
「マスクドマリカが食べきれなったら負けを認めてもらいます。こちらが根気が尽きて諦めたら負けを認めます。さあ、お蕎麦はまだまだありますから一杯食べ続けてくださいね♪」
「少しでも食べる速度が落ちたら‥‥わかってンな?」
ゲキタイグリーシァン・オリーブは、ゲキタイシルバーパープルが人質にしているでっちを小突いてみせた。「きゅいぃ〜」とヒリュウのような悲しそうな声が響く。
マスクドマリカのわんこそば対決。その間に王子仮面がスニークして、黄金のリンゴを掠め取ろうとする。
同じことを考えていたのが、ゲキタイストライプである。既にリンゴを手に入れて、(マスクドマリカと間接ちゅーね)と、もわんもわん妄想を膨らませながら、齧りつこうとしているところであった。
「待て!」
王子仮面はゲキタイストライプからリンゴを奪い取った。
「今度はマスクドマリカに成り代わって、このスーパーラファルキング様が学園に君臨するのだー! お前なんかにリンゴは欠片もやらん!」
「先に奪ったんだから、あたしのものよ! 世界を百合百合ワールドに変えるの、まさにハッピーパラダイス!」
奪い返すゲキタイストライプ。
「俺のだ!」
「あたしのよ!」
わんこそば対決の足元で、ごろんごろんと醜い争いを始める2名。
マスクドマリカはというと、50組2セットの半分をぺろりと平らげたところであった。
ゲキタイグリーンが冷や汗を浮かべる。
リアルなら、何度かお手洗いに立たなければ、底なし胃袋の本領発揮まではできないマリカだ。
しかし、ここは夢の中。
「わんこそばを食べ終えたら、ソフトクリームが食べられるですー♪」
ゲキタイホワイトの誘惑にも負けかけている。マスクドマリカの脳内には食べ物のことしかなかった。
「あ! いけない、でっちさんを助けないとなのですー」
ゲキタイグリーシァン・オリーブとゲキタイシルバーパープルが捕まえている人質を見て、慌てて箸を早めるマスクドマリカ。ほぼ噛まずに飲み込んでいる。
もうどちらが正義かわからない!
「おっとぉ、そろそろ退屈してきましたねぇ〜。範囲でどかーんとぶっぱなしたい気分になってきましたよぉ」
ゲキタイシルバーパープルが、もにゃもにゃと著作権的にごにょごにょな呪文を詠唱する。
「ちゅる、待ってください、でっちの皆さんは何も悪くないんですちゅるるー!」
マスクドマリカの悲鳴に続いて、範囲魔法:金ダライ先輩が落ちてくる。
カーンといい音を立てて、気を失うでっち達。
「いやーあまりにも面白みが無いので、安心安定お約束の金ダライ先輩です‥‥!」
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そして、勝負の結末は。
マスクドマリカ、わんこそばを完食するも、ステッキとリンゴを失い、魔法の力を失って、敗北。
でっち達、マスクドマリカの敗北により、全員投降。
ゲキタイホワイト、ソフトクリーム食べ放題権をマスクドマリカに売りつけて、夢の中で儲ける。
ゲキタイグリーン、王道の食勝負に出るが、完食されて敗退。
ゲキタイストライプと王子仮面、リンゴを誤って踏み潰してしまい、どちらも世界の覇者になれず。
ゲキタイシルバーパープル、悪どいやり方でマスクドマリカに圧力をかけ、勝利。
ゲキタイグリーシァン・オリーブ、自分の所業を棚にあげて、「正々堂々とした正義こそ勝つのだ」と主人公らしく宣言。
「結局、この夢では、誰が主人公だったのでしょう?」
「俺だろ」
改心したマリカせんせーと一緒に、関係者各位に謝罪して回りながら、香里の問いに玲治が答えた。
言われてみれば、変身サービスシーン(引っ張る)も玲治しか無かった。
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「見つけたぜ‥‥」
世界を制する夢を捨てきれなかったラファルは、メカメカしい変身をして、禁断の黄金のリンゴの樹木にたどり着いていた。
「これをひと齧りしさえば、この世界は全てが俺のも‥‥」
「‥‥の」
ちゅん、ちゅんと雀の声が聞こえてくる。
ジリリリリリ、目覚まし時計がいつもの時間を知らせる。
「なぁんだ、夢か」
ちぇ、とラファルが手のひらを見ると、朝の日差しのせいか、何となく皮膚が金色に光っているように見えた。