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マスター:神子月弓
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/12/24


みんなの思い出



オープニング




 窓の外が、徐々に暗くなっていく。
 街中を彩るイルミネーションが明るく輝きだし、クリスマス気分を盛り上げる。

 ♪しんぐるべーる しんぐるべーる クリスマス〜♪
 マリカせんせー(jz0034)は、デタラメな替え歌を口ずさみながら、レストランのスイーツバイキングにやってきていた。
 ♪さみしくないもん たべほうだーいー♪

 スイーツバイキングの席は、どこもカップルでいっぱいだ。
 カップルでなければ、ご家族連れだ。
 せんせーのように、1人でテーブルを占拠している者は、全く見かけない。

「いーのですー、せんせーには、学生さんたちがいるのですー」
 ちょっぴり寂しい気持ちをおさえながら、もぐもぐと、皿に積み上げたケーキを平らげていく。
「甘いものを食べると幸せになります〜、この幸せを、皆さんにも分けてあげたいですー」

 もぐもぐ。
 ごくん。

 せんせーのフォークが止まった。

「そうですー、分けてあげればいいのですー!」
 良いアイデアが浮かんだとばかりに、せんせーはにっこりした。
「せんせーが幹事をつとめて、パーティを開くのですー! お料理の上手な学生さんもいっぱいいますし、スイーツバイキングだけでなく、スイーツのフルコースも出してもらうのですー!」



 

 存分にお腹を満たして、レストランを出ると、せんせーは寒さに背を丸め、コートの前を合わせた。
「さて、場所は体育館がいいでしょうかー? 調理実習室に近いところとなると、第2体育館を借りましょうかー? それとも、どこかの学食をひとつ借りてしまったほうがいいでしょーかー??」

 色々悩み、教員仲間にも相談した結果、学食の1つを借りることになった。
 学食は既にクリスマスモードに入っている。改めて飾りつけをしなくても、既に飾りつけは済んでいる状態だった。クリスマスツリーもちゃんと設置されている。

 せんせーは、学園内の掲示板にポスターを貼り、学生を呼び止めてはチラシを手渡した。


  『クリスマスパーティ+忘年会を一緒にやっちゃおう会のお知らせ』

 ちゃおちゃおー、皆さん、今日も輝いてますか?
 学食のクリスマスツリーはきらきらなのです。飾りつけもきらきらなのです。
 みんなで食べて、飲んで、歌って、一芸を披露して、大いに楽しんじゃいましょう!
 これはそんなパーティのお誘いです。
 場所は第1学食です。厨房も使えますので、スイーツを作れる学生さん募集中です。
 スイーツのバイキングと、フルコースと、おいしいお料理でお腹をいっぱいにして、
 ノンアルシャンパンで乾杯しましょう!
 歌って踊って演奏できる場所も確保しました!
 ぜひぜひ皆さんの一芸を披露してもらいたいです。
 学食の開放は夕方5時からです。
 皆さんに集まってもらえることを、せんせー楽しみにしています。 マリカ





 場所は確保した。飾りつけをしなくてもOKなのも確認した。
 最低限のスイーツとお料理は、お店に頼んだ。
 ノンアルシャンパンも用意した。

 幹事・マリカせんせーは、パーティ当日を楽しみにして、教員寮の自室のカレンダーに丸を書いた。


リプレイ本文




 パーティ数日前。

「クリスマスのあたいは、いつもとは一味違うんだから!」
 雪室 チルル(ja0220)は、生クリーム製造工場に社会科見学に来ていた。
 ウシャンカの上からビニールの帽子をかぶり、ビニールの衛生服を着込んだチルルは、包装されたばかりの、出来たての生クリームが、ベルトコンベアで続々と流れていくのを見つめる。
「このくらいのケーキを作るのに、どれくらい買えば良さそうかな?」
 どーんと両手を広げる。

 そう、チルルの今回の目標は、「皆にひと切れずつ行き渡るくらい、とってもすごく大きいケーキを、一から作る」なのだ。
 そして、志を同じくするものが、同じように工場見学に来ていた。

「以前の依頼でまりかせんせーに負けた(語弊)ので、今度こそ、ぎゃふんといわせてやるのです!」
 もふもふ冬毛仕様黒猫姿で、\ぱてぃしえ仕様/の、カーディス=キャットフィールド(ja7927)である。

 2人はあらん限りの生クリームを買い占めると、続いて養鶏所の見学(卵の確保)に出かけて行った。
 勿論、いちご農家や小麦粉の卸問屋なども回る予定だ。

 材料を概ね調達し終えると、今度は、某ホテルへ、ウエディングケーキ用の巨大な型を借りられないか打診し、タワーケーキスタンドと共に、借り出すことに成功する。

「あとは練習あるのみよ!」

 チルルは卵を泡立て始めた。レシピ本を見ながら、基本の円柱形スポンジケーキを焼いていく。
 焼き上がりは‥‥むむ、膨らみが足りない。
 最初からやり直す。
 次は、スポンジが大きすぎて、中まで火が通っていない。
 やり直す‥‥。

 カーディスはというと、大きな天板で四角く薄めのスポンジケーキを焼き、幾重にも重ねて厚みを出していた。
 シロップを塗り、いちごを挟み、スポンジを重ね、ホイップクリームを丁寧に塗る。少し小さめのスポンジケーキを重ね、同様の作業を繰り返し、更にサイズダウンしたスポンジケーキを重ね、‥‥地道に、タワーケーキを作っていた。一番上の小さなスポンジケーキまでクリームを塗ったら、余白のないようにびっしりといちごやブルーベリーを敷き詰め、デコレして完成である。

「わわ、すごいね! あたいのはなかなか上手く行かないのに、綺麗にタワーになってるね!」

 チルルがカーディスのタワーケーキに触発されて、やる気マックスになる。
 練習の成果もあり、徐々にスポンジケーキがそれらしくなってきた。





 水無月沙羅(ja0670)は、定番のローストチキンとローストビーフ、ローストターキー、パエリアやブイヤベースなどを用意していた。ピザのドゥも、カナッペ用のクラッカーも準備済みだ。
 密かに、マリカせんせーの為に、特別な料理を用意している。それはなんと、うさぎのローストだ! 頭を切り落として血抜きしたうさぎをワインに漬け込み、じっくりと焼き上げた逸品だ。お腹にはフォアグラとトリュフを忍ばせてある。  

「アリスさまには、スイーツをお願いいたします」
「では、わたくしは、コゾナックをご用意いたしますわね」

 アリス・シキ(jz0058)は、東欧人である実母――既に絶縁され他人になってしまった女性から、かつて教わった、異国のクリスマス菓子を作り始めた。
 コゾナックは、クルミのフィリングを入れた、菓子パンだ。生地をねかせる時間も多く、その間アリスは沙羅を手伝って、一緒に料理の下準備を整えた。

「むむ、コゾナックだけでは、やはり地味ですわね」
 焼き上がりを見て、アリスは併せて、バタークリームの薔薇をあしらったプティフールも手早く作り始める。
 時に手伝い、時に手伝われながら、沙羅と一緒に楽しく調理を進めていく。






 当日、夕方5時。クラッカーがぱあんと鳴って、パーティの開始を告げた。

「それではみなさーん、かんぱいですー! 厨房の中のみなさんも、手を止めて、かんぱーい、ですー!」
 幹事・マリカせんせー(jz0034)が、ノンアルシャンパンをグラスに注いでまわり、進んでグラスを掲げた。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」

 一斉に、皆でグラスを鳴らす。


「今夜は、皆が楽しめる、素敵なパーティーになるように‥‥」

 志堂 龍実(ja9408)は、旬の洋梨であるシルバーベルのコンポート、ビターチョコで少し大人な味わいのブッシュドノエル、甘みと酸味が引き立つ香り高いタルト・タタン、濃厚なチーズとアクセントの生ハムを添えたココットカマンとカナッペを、次々と作っていた。

「オードブル出来ているよ。お出しして」
「はーい! 美味しい幸せを運ぶうさ♪」

 うさぎの着ぐるみ姿のフィル・アシュティン(ja9799)が、料理をシルバートレイに載せて、こぼさないように気をつけて客席へと運んでいく。

「むむ、着ぐるみで給仕とは、私も負けてはいられませんね」
 同じく、着ぐるみパティシエのカーディスが、厨房からうさフィルのスマートな動きを見つめる。
「伊達にうさぎをやってないうさ♪ 配膳と給仕は、うさフィルにお任せうさ!」

 うさフィルは、カーディスの焼き上げたアップルパイ、ブルーベリーパイ、いちじくパイ、ポテトパイ、プティング、クッキー等を、指示通りマリカせんせー中心に運んでいった。

「あらあら、おいしそーなのです、嬉しいのですー」
 せんせーは、周囲の皆にも一口ずつ分けながら、もさもさがつがつと、ひたすら食している。

「それは何うさ?」
「シルバーベルのサラダだよ。この洋梨は生でも美味しいんだ」
 厨房内で、龍実はうさフィルにあーんさせると、ひとかけシルバーベルを食べさせた。
「ふふっ、どうだい?」
「お、美味しいうさぁ〜っ! 濃厚でコクがあって、酸味が丁度良いうさ!」
 




 パーティが始まると、厨房は戦場となる。

 髪を高くポニテにまとめ、シェフスタイルのRehni Nam(ja5283)は、沙羅を手伝ってお皿の盛りつけをしていた。
 沙羅の手がけた、ローストビーフも、ローストチキンも、ターキーも、ほど良い火の通り具合。
 美しく切り分けて、ソースも綺麗に添えて、パーティ料理らしく、野菜やハーブをあしらう。
 せんせー用のうさぎのローストは、敢えて姿を残し、レースペーパーを敷いた大皿にでーんと置いた。

 給仕が足りないので、アリスが厨房と客席を行ったり来たりしている。
 マリカせんせーは、うさぎのローストに目を輝かせ、何の躊躇いもなくナイフをいれると、「すごいですー美味しいですー!」と舌鼓を打った。

「今回は、アウル料理が禁止なのが、残念ですねぇ」
 レフニーは、てきぱきと調理をこなしながら、龍実と沙羅とチルルに声をかけた。
「こないだも忘年会パーティーでお料理当番やりましたが、あの時はアウル禁止が無かったので、見世物に料理パフォーマンスやりましたけど、うーん、アウル料理を広められない、というのはちょっと残念ですねぇ」

 チルルは、すんごいケーキ作りの最終段階で、答えるどころではない。
 真剣そのものといった顔つきで、ホワイトチョコの薄い板に、チョコペンでメリークリスマスと書き込んでいる。

「ピザが焼けましたので、お願いします」
 沙羅の声に、アリスが厨房へ飛んでいく。
 あつあつのうちに客席に運んで、ピザカッターで切り分ける。

 簡易ステージから、蓮城 真緋呂(jb6120)のバイオリンの音色に乗って、亀山 淳紅(ja2261)の美声が響き渡る。
「それでは、お聴きください。曲名は、アメイジング・グレイスです」

 白のワンピースにアイボリーのニットカーデ、茶色のロングブーツと、ガーリーなコーディネートの真緋呂の横で、声を張る淳紅。ワックスであげた淳紅の前髪が、なかなか様になっている。

 神に救けを求めたことはなく、祈りを捧げたこともない淳紅。
 だが、歌っている間だけは、敬虔な信者の心を声に宿して、歌い上げる。
 響き渡るカウンターテナーと、バイオリンの協奏。
 その瞬間、舞台は、どこかの教会の大聖堂を思わせる雰囲気に満ちていた。

 厨房内では、レフニーが流れてくる曲を、ふんふんと口ずさんでいた。
 調理の手は止めない。次々と料理、お菓子、ケーキが完成していく。

 皆の拍手喝采とともに、ステージを降りる淳紅。
「自分も手伝うで」
 厨房内にいる、恋人のレフニーのもとへ真っ直ぐに向かい、給仕を買って出る。
「歌、本当に素敵だったのです、ジュンちゃん。前髪をあげた姿もかっこいいですね」
 レフニーに褒められて、淳紅は少し照れて笑った。





 ふらりと浪風 威鈴(ja8371)が厨房に入ってきた。勇気を出して尋ねる。
「感謝‥‥形にする‥‥フルーツ‥‥あまってる?」
「オードブルのサラダに使ったオレンジが、余っていますよ」
 沙羅が幾つかオレンジを差し出すと、威鈴は器用にナイフを扱って、フルーツアートを始めた。

 その頃、アリスは浪風 悠人(ja3452)に呼び止められて、相席していた。

「学園に来てから三年、威鈴と付き合ったり、シキちゃんと友達になって二年、威鈴と結婚して8ヶ月、色々な出来事があっという間に過ぎていったなぁ」
「本当ですわね。もうそんなになりますのね」
 アリスは悠人のグラスにノンアルシャンパンを注ぎ、こくりと頷いた。

「まだまだ、未来には、色々なことが待ってございますわ。これからもどうぞよろしくお願いいたします。今までも、おつきあいくださいまして、有難うございました」
「いえいえこちらこそ。あっという間だったけど、今まで仲良くしてくれてありがとう、そしてこれからもどうかよろしくお願いします」
 2人して頭を下げあい、思わず笑顔になる。
「そう、だね‥‥あっという間‥‥だね」
 二人の飲み物と、完成したフルーツアートを持って、威鈴がテーブルに戻ってくる。
「ありがと」
 差し出されたフルーツアートに、悠人とアリスは目を丸くした。

 オレンジの皮のカップに、一口大のオレンジ果実と、切ったいちごが飾られている。
 目にも鮮やかな、赤と橙のコントラスト。
 食べてしまうのが惜しいほどだ。

 アリスは威鈴に「すごいですの!」と拍手をし、心からの感謝を伝えた。
「有難うございます。これからも、仲良くしてくださいませね」
「‥‥うん」
 3人とも、一緒に笑顔になる。威鈴の運んでくれたソフトドリンクで乾杯し直して、しばし談笑した。

(エリュシオンZを一気飲みして、鼻血を噴いたこともあったなあ‥‥あの時の後輩の子は元気なのかな?)
 悠人は懐かしく、この3年に起きた出来事を思い返していた。ほろりと笑みがこぼれる。
(せんせーがBBQで、木炭の箱ごと火を点けようとしたこともあったっけ‥‥あれは怖かったなあ)

 真緋呂のバイオリンが、We Wish You A Merry Christmasを奏でている。
 クリスマスと新年を同時に祝う曲だ。まさにこの会にぴったりの選曲と言えた。





「赤と白の系統がよかったかな?」
 ちょっとだけお洒落な外出着で出席した龍崎海(ja0565)は、マリカせんせーと相席してパーティを楽しんでいた。
 このパーティのチラシを受け取った時のことを思い出す。

(クリスマスといえば、ツリーに料理にプレゼントだけど、プレゼント関連の催しはないのか。折角だから、マリカ先生に、何かプレゼントするかな。んー、先生は食べることが好きだから‥‥、食器類とかなら喜ばれるかな、銀メッキのティースプーンなら、そんなに高くなかったはず)

 そう思って、銀張りの可愛らしいティースプーンセットを買い、クリスマスらしくラッピングをしてもらってある。
 さりげなく渡すチャンスを窺っていたが、せんせーは目の前のうさぎのローストに夢中であった。

(やっぱり良く食べる先生だなあ)
 海は苦笑する。
 カーディスがこれでもかと提供したパイの数々も、ほぼ制覇されていた。

「ろーひまひた?」
 もぐもぐしながら、せんせーは海の視線に気がついた。小首をかしげている。
「あ、参加費がわりにと思って、プレゼントを‥‥」
 海が、クリスマスラッピングを施された包みを手渡す。

 早速、開けてみると、銀張りステンレスの、とっても可愛らしいティースプーンのセットだった。
 半擬人化したうさぎの模様が彫り込まれていて、凄くおしゃれで、高級感もある。

「きゃー! こんな素敵なもの、いただいちゃって、構わないのですー? 高かったでしょうー!?」
 マリカせんせー、大興奮である。
「う、うん。気に入ってもらえたなら、良かった」
 海が頷くと、せんせーは女子学生のように、箱を大事そうに抱え込んで、「有難うですー、大切にしますですー!」と何度も何度も礼を言った。


「今年もお疲れさま! なっちゃん、部隊とかいろいろ協力してくれてありがとっ」
 ヒスイ(jb6437)は、執事服でばっちりキメている一川 夏海(jb6806)の真似をして、ノンアルシャンパンを一気飲みした。
「いやァ、有言実行出来てよかったぜ。前々からXmasパーティをする約束だったもんなァ」
「うんっ。なっちゃん、パーティ誘ってくれてありがとっ!」
 抱きついてくるヒスイを受け止める夏海。

 軽快なクリスマスソングがBGMとして流れる中、舞台ではドラッグクイーンのマリア(jb9408)が、リズムを取りながら、手品を披露して皆を楽しませている。
「さあ、このカードのAにハンカチを被せると‥‥ほぉら不思議! 『1ヶ月メイド奉仕券』に大変身よぉ♪」

 ヒスイの手元には、トランプカードのA。
 あれ? あれ? と混乱する間もなく、マリアが舞台から艶かしく降りてきて、ヒスイに片目をつぶる。
「はい、『1ヶ月メイド奉仕券』、お返しするわン。それと、ご協力感謝とお詫びにこれもねン♪」
 空っぽのシルクハットから、赤いバラの花束を出して、かちこちのヒスイに差し出すマリア。

 花束と奉仕券を受け取って、ヒスイは真っ赤になった。
「ほほ〜う」と夏海が『1ヶ月メイド奉仕券』を覗き込む。

「なるほど‥‥こいつァ俺へのプレゼントでいいんだな?」
「う、うん。もっといいものあげられればよかったんだけど‥‥ね?」
「それならば、俺からのプレゼントもあるぞ。なァんとびっくり、メイド服だァ! ほら丁度良いし、ここで着てみろよ!」
「ちょ、なっちゃんここで脱がすの!? あとでっ、あとで着るから‥‥!」
「なァに男同士だ、今更照れンなよ♪」

 薔薇色の空間が一部に広がり始めたところで、マリアがついと歩み寄った。

「そこのイケてるオニーサンたちぃ、そこらへんで止めといて貰えないと、アタシが襲いたくなっちゃうわぁン♪ アタシが手品で脱がせてあげたって構わないのよぉ?」
「‥‥結構です」
 固い口調でヒスイが拒む。マリアを怖がるかのように、ぴたりと夏海に身を寄せている。
「そーだなァ、お楽しみはあとにすっか」
 夏海は、緊張してしまったヒスイを抱きしめて、よしよしと肩を撫でた。


 軽快なBGMも、マリアの手品も続く。
 からっぽの帽子からハトが飛び出し、指先から次々と花が咲き、拍手の嵐の中マリアは会釈をした。





 襟付きのシャツにジャケット、片目に眼帯の出で立ちの佐々部 万碧(jb8894)は、薄手のレンタルドレスで着飾ったシャロン・エンフィールド(jb9057)と共に、テーブルについていた。

「万碧さん、その格好、とっても似合ってますよ!」
 素直な笑顔で感想を口にするシャロン。きらきらした目で、期待の眼差しを送る。
(こう切り出せば、万碧さんも私の格好に何か言ってくれるかな〜、わくわく♪)

「あー‥‥馬子にも衣装ってやつか‥‥」

 明らかなシャロンの「褒めて褒めてオーラ☆」に、思わず口走る万碧。
「えへへ、ですよねですよね? 可愛いですよねこの服!」
(‥‥通じてないな‥‥)
 少しは辞書くらい引け、と軽く頭を抱える万碧であった。

(とはいえ、女のお洒落には時間や手間がかかるとも聞くし、こんな時くらいちゃんと扱うか)

「お料理、いっぱいありますね! どれから食べるか迷いますね‥‥流石に全部は無理だし、うー」
 迷うシャロンに代わり、万碧は料理を見繕って取りに行ったり、飲み物のお代わりを持ってきたり、空いた皿を下げたり、シャロンの口もとを紙ナプキンで拭いてやったりと、世話を焼いた。

「あ‥‥ありがとうございます。ほら、万碧さんも」
 カーディスの作ったいちじくパイを一口分差し出すシャロン。
 流石に食べさせてもらうのは恥ずかしく、万碧は皿ごと受け取って、自分で食べた。
「ほう、結構旨いな」
「でしょう! どのお料理も美味しくて、持って帰りたいくらいですよー」
 花より団子なシャロンが力説する。

「俺はそんなに腹も減っていないし、酒でも飲んでいるか‥‥あ、お前はこっち(ノンアル)な」
 万碧は内心、もっと空腹の時に来れば良かったかと思いつつ、シャンパンを口に含んだ。


 舞台に目をやると、葛葉アキラ(jb7705)が、華やかに、艶やかに、皆が思わず見惚れるような舞いを静かに舞っていた。
 手に持った鈴を、時に、りん、と響かせる。
 目立つ動きや激しい動きは全くないのに、不思議と目を引く舞である。
 りん。
 鈴の音が、静寂をひときわ際立たせ、クリスマスというより、正月を迎える前夜の静けさを連想させた。
 舞が佳境に差し掛かると、淳紅が横笛を吹き鳴らす。
 りん。
 横笛の音と鈴の音が混じり合い、不思議な雰囲気を醸し出した。





 黒を基調としたシックな服装の水無瀬 快晴(jb0745)と、ミスティローズ色のプリンセスドレス姿の川澄文歌(jb7507)は、アキラの後に、ステージ上にあがった。
 携帯音楽プレーヤーをスピーカーにつなぎ、客席を向いて挨拶。

「ささやかですが、歌を2人で歌わせてもらいます」
「曲名は『ふたりの聖夜(クリスマス)』です。お聞きください」

 自作の音楽が鳴り始める。2人で息を揃えて、歌い始める。
 文歌の澄んだ声が綺麗に響くよう、快晴は敢えて自身の声を張らないように注意した。

 快晴「♪今年の冬は とにかく寒いと聞いたけれど」
 文歌「♪今年の冬は とびきり熱いと感じるよ」

 快晴「♪聞こえてくるよ Sleigh bells are ringing」
 文歌「♪幸せの歌 Everyone is singing」

 快晴「♪雪も降らなくていいさ」
 文歌「♪プレゼントもいらないよ」

 二人「♪必要なのはたったひとつ」
 二人「♪クリスマス 欲しいのは」
 
 快晴「♪キミさ」&文歌「♪あなた」(同時ハモリ)

 拍手が起こる中、快晴が挨拶をした。
「聴いてくださってありがとうございました」
「有難うございました」
 文歌も、ドレスをつまみ、軽く膝を折る。

 音楽プレーヤーとスピーカーを片付け、舞台の裾に引っ込むと、快晴は文歌の頭をぽんぽんと軽くたたいた。
「お疲れさま。‥‥んー? You are a present to me. I do not wish for anything more! Merry Christmas to you!」
 そう言って、恋人の、柔らかな冷たい頬にキス。
「Me too !」
 文歌も快晴にキスを返した。





「出来たわ!!」

 チルルは渾身の逸品、いちごショートケーキタワーを見つめて、腰を伸ばした。
 タワーテーブルに、丁寧にケーキを載せていく。ショートケーキタワーは、軽くチルルの身長を超えた。

「これだけあれば、参加者全員がひと切れずつ食べられるって寸法よ! あたいグッジョブ!」
 さあ、運んで頂戴、とばかりに、うさフィルを見つめるチルル。
「バ、バランスを取るのが難しそうだね‥‥」
 うさフィルはタワーテーブルに手をかけた。

 レフニー、淳紅、カーディスも手伝って、ツリーの前にタワーケーキと台を設置する。
 クリスマスケーキというより、ウェディングケーキと言ったほうが、通用しそうな外観だ。
 でも、艶々のいちごショートケーキは、宝石のように赤く輝いて、とっても美味しそうだった。
「一人ひと切れ、食べていってね! あたい、この日のために頑張ったんだから!!」

 
「これ美味しい♪」
 真緋呂は、チルルのケーキと、カーディスのパイを食べ比べていた。
「あ、こっちのも美味しい! 幸せ〜!」


「そういうわけなら、こちらもタワーケーキを出さねばなりませんね」
 カーディスが、四角いケーキを段に重ねて作った、タワーケーキをマリカせんせーの前に置く。
「せんせー、ささ、どうぞですよ」
(流石にもう、あれだけ食べているのですから、今回は食べきれないでしょう! ふふふふ‥‥)
 以前、ラーメン大食い大会に敗れたことを根に持つカーディスであった。
「有難うですー、いただきまーす♪」

 むしゃああああああ

 ピラミッドを思わせるタワーケーキが、みるみるせんせーの暗黒胃袋に吸い込まれていく。
 着ぐるみの中で、カーディスの頬を冷たい汗が伝った。

 厨房に衝撃が走る。
「マリカ先生の胃袋を満たせるか挑戦‥‥の途中で、材料が先に尽きました!」
 カーディスの涙声に、一斉に厨房係がやっぱりと項垂れる。
「「デスヨネー」」

 レフニーは、さっと白衣を脱ぎ捨てると、金狐にクライムして全力で商店街へ向かった。
「まだお店は開いているでしょうか‥‥少し心配なのです」
 なんとしても、材料、もしくは食品でもいい、買い足してこなければならない!!





 スーツ姿の如月 統真(ja7484)は、同居もしている意中の女性、エフェルメルツ・メーベルナッハ(ja7941)のために、チルルのショートケーキを2皿取り分けて、テーブルに戻ってきた。

「エフィちゃん、ご馳走は美味しいかな? はい、次は此れだよ! 綺麗なケーキだね」
 白ロリドレスのエフェルメルツは、今までどおりにすっと統真の膝に腰掛けると、あーんしてケーキを食べさせてもらう。
 一口、また一口と重ねる度に、統真が紙ナプキンで口もとを拭ってあげる。
「美味しいケーキだね」
「‥‥ん、美味しいの‥‥♪」

 チルルが作り上げたケーキは、新鮮な生クリームがたっぷり塗られ、クリームは甘さ控えめで、いちごが酸味と甘みを主張しており、中のスポンジもふわふわに仕上がっていた。

 何くれと世話を焼かれながら、じっと統真を見つめるエフェルメルツ。
(‥‥この気持ちは‥‥何?)
 彼の唇を凝視する。
(大好きなのは、確かなの‥‥悪戯、したい‥‥しちゃおう‥‥かな‥‥)
「統真‥‥」

 エフェルメルツは、隙を突いて統真の頭をホールドし、唇を重ね合わせた。
「ん? 如何かした――んむぅっ!?」
 驚く統真の口の中に、ショートケーキの飾りの、大きないちごを、舌で押し込むエフェルメルツ。
「むむぅ、むぅ〜〜!?」
 ガッチリと頭をホールドされていて、統真は動けない。周囲が気になって大慌てし、顔が火照って真っ赤になっていくのも抑えられない。

「‥‥はふ。‥‥エフィのキス、美味しかった?」
 唇を離し、統真にうっとりした笑みを向けつつ、白ロリドレスの小悪魔は口もとをほころばせた。
 ぺろりと舌を出し、自身の口もとのクリームをゆっくりと舐めとる。

 統真はただただ真っ赤になって、慌てふためくばかりである。
 近くのテーブルで、顔を赤らめてこちらを見ている男女2人組が目に留まり、「いえあの、その、これはあのっ!」と、弁解にならない奇行を繰り返す。


「す、すごかったね、今の‥‥」
 まだ顔を赤くしたまま、恋人未満の幼馴染カップル、松永 聖(ja4988)と高樹 朔也(ja4881)は、もじもじと俯いていた。
 どうしても、他のカップルの熱いラブシーンを見てしまうと、つい、お互いを意識してしまう。

「な」
 永遠にも思える沈黙から、口火を切ったのは、まだ頬を染めたままの聖だった。
「な、何だか‥‥サクと過ごすのも久し振りね‥‥! べ、別に嬉しくなんか、無いんだからねッ!!」
 嬉しくないと言いつつ、白いハイネックのニットに、おろしたての花柄ワンピース。
 この日のために、精一杯お洒落をしてきたことがわかる。

「‥‥綺麗だね。よく、似合ってる」
「に、似合わないの間違いでしょ? そ、そんなの分かってるわよっ!」
 俯いたまま、顔があげられない聖。

 甘いものに目がない朔也は、ささっと席を立ち、2人分のショートケーキと、幾つかのパイを選んで戻ってきた。
「しかし豪勢だなー。あれもこれも、全部食べていいんだよな? どれから食べようか‥‥」
「あはは、サク、甘い物好きだったわよね、確か。ヨダレ出てるわよ、ヨダレ。‥‥嘘だケド」

 冗談を言ってくすりと笑う聖。
 やっと、2人の間にいつもの空気が流れ出す。

「セイちゃん、こっちも食べてみる? なかなか美味いぞ」
 無意識にフォークにケーキを一口分さして、聖の口もとへ差し出す朔也。
「どれどれ‥‥美味しい!」
 ぱく。聖も思わず、その美味しさに目を輝かせる。しかし、すぐに、はっと我に返る。
「ちょ、何させんのよッ!」
「何って‥‥『あーん』‥‥?」
「や、やだあ、恥ずかしいじゃない!!」

 聖はそう言うと、赤くなって朔也の背中をバシンと平手打ちした。
「そ、そういうのは、ここ、恋人とか、大事な人が出来てから、その相手にするものなのよ!」

 何故か明後日のほうを向いて、力説する聖。
 その顔は、夕日のように赤く上気していた。

 折しも、淳紅の演奏する「赤鼻のトナカイ」が、会場を賑わせていた。





 黒いスーツの文 銀海(jb0005)と、白を基調としたドレスのうらは=ウィルダム(jb4908)は、テーブルを同じくして、チルルのショートケーキに舌鼓を打っていた。
 時折ノンアルシャンパンを注ぎ合い、2人で食事の感想を交えて語らう。

 今年あったことや、来年やりたいことを話している中、ふと思いついたように、うらはは恋人の顔を見つめ、問いかけた。
「ねえ銀海、随分前も同じようなことを聞いた覚えがあるのだけれど。何で、私だったんだい?」

 うらはが常に浮かべている、薄い笑みはそこにはなく、答えを聞きたい期待と、聞きたくない不安が、同時に入り混じった表情をしていた。

「私を好いてくれたのは、とても嬉しいことだけれど。何で、って想いが今でもたまに浮かぶんだよね。他に仲のいい子だってきっと居るでしょ。その中で、何で私だったんだろう、って」

 銀海はうらはの問いに、真っ直ぐに視線を向けた。

「私は今、大学部4年になったところだ。学年が結構上だよね。後輩はいても、友達は少なかった。そんな中で、私と対等に喋ってくれた人は、女性ではうらはが初めてだったんだ」

 思い出すような目をして、銀海は続ける。

「本当に嬉しかった。心からね。私にとっては、君は初めて会ったあの頃から、ずっと特別だったんだ。仲の良い異性はいても、君の様に、序列も年齢も気にせず、私を一人の人として見てくれたことが、君を好きになった理由なんじゃないか、と思っているよ」

 うらはは、すっと席を立った。そのまま銀海の後ろに回り込み、スーツの背中に顔を埋めて抱きつく。
 しばらくの間、そのまま静かに時が流れた。

「ええと、うん、その、うらは、私と、その、け‥‥けっ‥‥」
 温かなうらはのぬくもりを背中に感じ、銀海は意を決して切り出した。
 ぎゅ、とうらはの腕に、力がこもる。

「け‥‥け‥‥け、ケーキを一緒に作りたいなあ、なんて」

 やっぱり、言えなかった。
 銀海は心の中で、ORZのポーズをとっていた。






 おおよそのものが食べ尽くされてしまうと、厨房は、今度は洗い物の戦場である。
 食器を下げて、ざっと洗って、食洗機に入れて、更に手洗いして、拭いて、指定の場所にしまって。
 皆で手分けすれば、気が遠くなるほどの食器も徐々に片付いていく。

 淳紅が給仕の手伝いとして食器の回収をしていると、買い出しに出ていたレフニーが戻ってきた。
 大量に買ってきたレモンゼリーを切りわけ、生クリームとミントの葉を添え、あとの口として皆に提供する。

「にゅおおお、今回もまたせんせーに敗れてしまったのですー」
 タワーケーキも数々のパイも完食され、カーディスは着ぐるみの中で男泣きしていた。
「あの暗黒胃袋はどうなっているんですかー? 本当に一般人なんですかー!?」

 うさフィルは、龍実と、ノンアルシャンパンで乾杯していた。
「付き合って丁度1年だね。一緒にいられて幸せうさ!」
「そうだな。今日はお疲れ様、フィル」

 沙羅は宴の終わりに、手を組んで祈っていた。
(クリスマスプレゼントとは言わないけれど、この世界に夢と希望を! 皆さんの、心からの笑顔が世界中にあふれることが、最高のプレゼントです)


「‥‥っと、クリスマスに‥‥一緒できて、嬉しかったよ‥‥。ありがとう」
 時計が10時を告げる。
 パーティの終わりに、皆でホワイトクリスマスを合唱して、クラッカーが幾つか鳴った。
 片付けを手伝おうとして、朔也は動きを止め、聖にぼそりと囁いた。
「あのさ‥‥来年も、予約‥‥しといて、いいかな?」
「来年のX’mas‥‥? そうね、でももう予約は埋まってるの」
 少しがっかりしたような朔也に、「サクと過ごす、ってね!」と照れながら囁く聖。
 思わず聖を抱きしめる朔也。

「ななな何してんのよっ!!」
 幼馴染の声に我に返り、パッと万歳姿勢で飛びすさる。
「ご、ごめん」
 朔也は照れて、わたわたと取り繕おうとする。
(‥‥ああ‥‥男らしくない‥‥)

 海よりも深く落ち込む朔也であった。





 厨房の中もすっかり綺麗になり、参加者の協力も得てテーブルを拭き、椅子を片付ける。
 チルルはタワーテーブルを綺麗にして、借りた時と同じくばらして箱にしまっていた。
 何と、余った食品はなかった。全て、せんせーの胃袋に収まってしまったのだ。
 最後にせんせーが、挨拶をした。

「今日は皆さん、楽しんでもらえたでしょうかー? これからも学園生活を楽しんでくださいねー。では、メリークリスマス! 良い夜をお過ごしくださいですー!! 有難うございました!」

 マリカせんせーは、皆が解散して帰っていくのを見届けてから、海にもらったスプーンセットを大事に大事に抱え直し、教員寮へと戻っていった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
料理は心〜学園最強料理人・
水無月沙羅(ja0670)

卒業 女 阿修羅
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
高樹 朔也(ja4881)

大学部4年114組 男 アストラルヴァンガード
闇に差す光輝・
松永 聖(ja4988)

大学部4年231組 女 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
幸せですが何か?・
如月 統真(ja7484)

大学部1年6組 男 ディバインナイト
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
二人ではだかのおつきあい・
エフェルメルツ・メーベルナッハ(ja7941)

中等部2年1組 女 インフィルトレイター
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
遥かな高みを目指す者・
志堂 龍実(ja9408)

卒業 男 ディバインナイト
起死回生の風・
フィル・アシュティン(ja9799)

大学部7年244組 女 ルインズブレイド
男だから(威圧)・
文 銀海(jb0005)

卒業 男 アストラルヴァンガード
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
撃退士・
うらは=ウィルダム(jb4908)

大学部3年153組 女 ルインズブレイド
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
久遠ヶ原の魔法使い(黒)・
ヒスイ(jb6437)

中等部3年1組 男 ナイトウォーカー
撃退士・
一川 夏海(jb6806)

大学部6年3組 男 ディバインナイト
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
鬼!妖怪!料理人!・
葛葉アキラ(jb7705)

高等部3年14組 女 陰陽師
玻璃の向こう、碧海は遠く・
佐々部 万碧(jb8894)

卒業 男 阿修羅
リアンの翼・
シャロン・エンフィールド(jb9057)

高等部3年17組 女 アカシックレコーダー:タイプB
スプリング・インパクト・
マリア(jb9408)

大学部7年46組 男 陰陽師