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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/12/08


みんなの思い出



オープニング




 撃退士たちは、任務を終えた。
 そこは、とある辺鄙な山村。
 冷たい雨が降りしきる中、撃退士たちのお陰で、暴れまわっていた天魔は退治された。

 村人に道を聞いて、ローカル列車の無人駅へと向かう。
 ダイヤによると、まだ1本、乗れるはずだという。

 そして、道に迷った。

 雨は冷たく体温を奪っていく。
 日暮れも近くなり、風が徐々に勢いを増していく。
 絶望的なことに、遠くから列車の通り過ぎる音が響いてくる。

 無人駅が見えてくるはずの、踏み分け道を真っ直ぐきたはずなのに、いつの間にか道がなくなっていて、撃退士たちは何もない荒地を彷徨っていた。

 手が凍える。耳がじんじんと痺れてくる。
 寒い。

 日が暮れてきた。月が明るく撃退士たちを照らし出す。
 夜の帳がゆっくりと降りてきて、仲間の顔も判別しづらくなる。

 遠くに、明かりが見えた。
 撃退士たちは足を速め、見えてきた農家に走り出した。





 ことことと、お鍋の立てる音。豆の煮える良い香りが漂っている。
 農家には、人の好さそうな老夫婦が住んでいた。
 快く撃退士たちを迎えてくれる。

 濡れた体を拭かせてもらい、服を干し、あたたかい上着を借りる。希望者は風呂も借りた。
 風呂は、年季の入った五右衛門風呂だった。

「ああ、駅ならもっと東の方だよ。それにしても、隣村で天魔事件があったとはねえ」
 おじいさんは、震える指で、皆が目指していた無人駅の方角を示した。

「天魔と戦ったなんて、ご苦労様です。風邪を引かないように、あったまっていってくださいねえ」
 おばあさんは、皆をこたつのある部屋に案内した。

 ふかふかのラグが部屋いっぱいに敷いてある、掘りごたつの和室。ストーブも焚かれており、どの部屋よりもあたたかく、居心地が良かった。
 撃退士たちは、戦闘の疲れが出たのか、気持ちよくこたつでウトウトしてしまった。

「ああ、おみかんもありますよ。体があたたまったら、アイスもありますからねえ。ぬくぬくしながら食べるアイスも美味しいですからねえ」
 老夫婦が、隣の客間におふとんを人数分敷いてくれている気配が、障子越しにわかる。
「ゆっくりあったまって、明日、日が昇ってからお帰りになるといいですよ」

 こたつでまったりぬくぬくして、かごに入ったおみかんを好きなだけ食べて、のんびりしていた撃退士たちの耳に、台所から小さな声が聞こえてきた。

「どうしましょうねえ。急なお客さんですよ。おじいさん、皆殺しはやめて、半殺しにしておきませんかねえ」
「そうだなあ。わしとしては、皆殺しのほうがいいんだが‥‥」

 一瞬、会話にどきっとする。
 だが撃退士たちはすぐに思い当たった。

 米のつぶつぶを残さずに、なめらかになるまで搗きあげたもの、つまり、皆殺しは、餅。
 つぶ感を残して搗いて丸めたもの、即ち、半殺しが、おはぎ。

 田舎では、特にお年寄りは、まだそういう表現をするところもあると聞いている。
 あの豆の煮える香りは、餡を炊いている匂いだ。

 分かってしまえば、なんてことはない。ほっとして再び、撃退士たちは疲れを休めていた。
 十分体があたたまると、どうしておこたはこんなに、眠たくなるのだろう。

「撃退士さんたち、そこで寝ると風邪をひきますよ」
 遠くから、おばあさんの声。だが、撃退士たちの耳には届かない。

 あったかい。
 このままとろとろしていたい。
 おみかん美味え。
 
 撃退士たちは気づいていなかった。そのおこたは、「ひとをダメにするおこた」だったのだ。





 深夜。どこかで、誰かの口笛が聞こえた。

 あたたかい部屋の障子が、すっと音もなく開く。
 ぬくぬくとろとろしている撃退士たちを見下ろしているのは、あの老夫婦だ。
 人の好さそうな顔に表情はなく、ただ、手に、嫌な輝きを持つ大きな包丁を握り締めている。

 そして、あの農家は、いつの間にか、無表情の村人達に囲まれていた。皆、嫌な輝きを持つ刃物を手にしている。
「半殺しよりは、皆殺しだな」
 村人たちは、口々にぶつぶつと呟きながら、できる限り静かに農家に上がり込んだ。

 遠くから響く口笛は、やがて聞こえなくなった。





 楽しそうに、遠くで口笛の主が、天使がその様子を眺めていた。
「さて、今回は、生き人形よりも精巧だよ。所作も不自然ではない、だって生きた人間だからねえ」
 くつくつと喉の奥で笑う。子供のように無邪気に微笑んで。
「みんな、どんな感情を見せてくれるのかな? 楽しみだなあ」


リプレイ本文




 川澄文歌(jb7507)は、のんびりとおみかんを剥きながら、アイリス・レイバルド(jb1510)の話に耳を傾けていた。
「レイバルド先輩は、前にも似たようなシチュエーションにであったんですか? 偶然ですね」
「偶然だと良いのだが」
 アイリスはおみかんに手をつけず、室内を観察していた。
 暖かくて気持ちよくて、どうしてもおこたから離れられない。或いは、『何か』理由があって、おこたから離れられない。どっちだ‥‥?

「カイ、はい、あーん♪」
「あーん‥‥もぐもぐ‥‥ねむぅ‥‥」
 水無瀬 快晴(jb0745)は、恋人の文歌に、おみかんを食べさせてもらっていた。
 目がとろんとしていて、甘酸っぱいおみかんの味が舌に広がると、幸せそうな表情になる。

(ふぉぉ〜〜! ぬっくぬくですよ!! こたつにストーブですよぉ〜〜♪)
 支倉 英蓮(jb7524)は完全に猫化して、掘りごたつの中に潜った。ストーブの風を逃さぬよう、尻尾はこたつ布団の外にだしてある。

 こたつの中は、子供が秘密基地にできるくらい広々としていた。
 こたつ本体は足元に置かれ、掘りごたつの中全体を、赤外線で赤く染めていた。
 組み立て式のこたつ上部を見上げると、テーブル部分は格子になっており、こたつ布団をはさんで天板が置かれているようだった。

「ふにゃっ!?」
 こたつの中に、快晴の手が伸びてきて、英蓮の顔に溶けかけたアイスを塗りたくった。
「何するんですかぁ〜〜‥‥!?」
 英蓮が、快晴に抗議しようと視線を上げると、格子状のテーブル部分の向こうに見える布団に、大きな目があった。

 目と目が出会う。ぎょろ、とこたつ布団の目が動く。
 ああぁ‥‥ねみゅいですぅ、なんか頭がぼーっとしますですぅ〜。
 何かを皆に伝えなくては、と途中まで思ったものの、英蓮は大事なことを忘れてしまった。

「妙にだりィな‥‥」
 髪を染め、不良のような出で立ちの円城寺 遥(jc0540)も、こたつで奇妙なまったり感を感じていた。
「あー電車ぁ〜‥‥これのがしたら、SFアニメ『CTS』の再放送に間に合わなくなっちゃう〜‥‥」
 白いハイソックスに半ズボン姿の銀髪碧眼の美少年、ヴァルヌス・ノーチェ(jc0590)が、半ば使命感を燃やしつつ、寝言を言っていた。


 その間にも、村人たちは静かに屋敷に上がり込んできた。
 土足のままで、撃退士たちのいるほかほかルームを取り囲んでいるようだ。
 障子に、かなりの数の人影が映っている。

「祭りじゃ〜、血祭りじゃ〜」
「皆殺しを供えよ」
「半殺しを供えよ」

 凶器を振りかざし、村人たちは奇妙な踊りを踊っていた。
 やがて襖がばたんと開かれ、土足のままの老人たちが上がり込んできた。
 ラグが汚れるのも構わず、こたつの皆を取り囲む。

「祭りじゃ祭りじゃ」
「皆殺しを供えよ」
「半殺しを供えよ」

 ぐるぐる老人たちが円陣を描きながら回り踊る。

「盛大ですねぇ、何かのお祭りですか? 血祭りって言ってましたけれどぉ、随分楽しそうですね〜」
 ヴァルヌスがぼんやりした頭で、呑気に頷いた。





「迂闊! これで常在戦場とは聞いてあきれるな」
 アイリスは、ぺしんと自身を叱咤した。
 冒険慣れ+戦場帰り+遭難未遂=警戒心マックスのはずなのに、見事に術中にはまってしまった。
 自傷してでも正気に戻りたいのに、頭がどんよりしていて体も重く、眠くてだるくて動けない。
 アイリスは、寝返りを打つようにして、英蓮の尻尾を容赦なく踏んづけた。

「ふぎゃあああ!!!!」
 英蓮は飛び上がり、痛みで一時的に我を取り戻した。同時に、伝えなければならないことも思い出す。
「聞いてくださいですぅ〜〜。このこたつ布団、裏にぎょろりと目があって、動いていたですぅ〜〜!!」
 ばりばりと、猫のように、アイリスの腕を引っ掻く。
「なんだと?」
 眉すら動かさずに痛みに耐え、正気になったアイリスが、布団から離れ、<異界認識>でこたつ布団を確認する。
 美しいアイリスの金髪が、光纏とともに青灰色に変化し、黒水晶が現れる。黒い粒子が第二のアイリス自身を模して、本体のそばに付き従った。

 <異界認識>の結果、こたつ布団は天魔であると判明。

 こたつ布団から出ていたアイリスに、更なる眠気と朦朧は襲ってこなかった。
 アイリスは天板をどけ、こたつ布団を掘りごたつからひっぺがした。
 まだ睡眠と朦朧が効いている仲間たちを、「すまない」と謝ってから順に蹴り起こしていく。

「痛っ、もう誰です、おイタをしたのはっ。ピィちゃん!」
 文歌が、青き羽もつ鳳凰ピィちゃんを召喚する。
 <聖炎の護り>が発動し、文歌ははっきりと覚醒した。

 快晴は、半眠状態でアイスを食べていたせいか、顔中をべたべたにしていた。
 文歌にタオルで拭いてもらう。
「とりあえず‥‥あの老夫婦は怖い‥‥話を聞きたいが‥‥」

 村人たちは彼らを囲んで踊っている。その中には、皆を助けてくれた老夫婦も混ざっている。
 踊りの儀式が一段落したのか、彼らは手にした凶器を構えると、まだ戦闘態勢に入りきれていない撃退士たちに、襲いかかってきた。

「あーなるほど、こたつ布団が天魔だったってことかよ‥‥」
 遥は、アイリスがどかしたこたつ布団を<炎焼>させた。
 襲いかかってくる村人には、ファイアヨーヨーで応戦を試みる。彼らの凶器のみを狙い、手元から叩き落とそうとする。
 しかし、まるで手に吸い付いているかのように、彼らの得物が叩き落とせない。老人たちは、お年寄りとは思えぬ動きで、素早く確実に撃退士たちを狙ってくる。


「ふにゃあああ!!」
 しっぽを逆立て、英蓮は<咆哮>をあげる。村人たちが逃げる気配はない。
 そのままストーブにタックルし、足の小指をぶつけて、ふぐにゅお〜〜と悶え苦しむ。
「ストーブさん邪魔ですぅ〜!!」
 めきゃぁ! と破壊する勢いで再びタックルし、ラグですべって転倒。
 やり場のない怒りを今度はラグに向け、思いっきり爪を立てて、ずばぁ! と引っ掻く。
 ラグから、血液のようなものが、ぶしゅっと噴き出してきた。
「こっちも天魔でしたかぁ〜! 容赦しないですぅ〜!!」

 こたつ布団とラグが退治されると、部屋の中の違和感は消え去った。
 あとは、くるくる周りを囲み踊りながら、時折、奇怪な動きで襲ってくる老人たちだけだ。





「あっ、手が滑った挙句、ピンが何故か抜けちゃった!」

 ヴァルヌスが発煙手榴弾を転がすのと、快晴が<ナイトアンセム>をかけるのが同時だった。
 発煙手榴弾の爆発とともに大量の白煙が撒き散らされる。ごほごほと皆咳き込んだ。
 ほぼ同時に深い闇が訪れ、老人たちがおろおろと右往左往し始める。

「ボクなら兎も角、他の人に当たったら、危ないですよ〜」
 <認識障害>を受けてめちゃくちゃな動きをしている老人を見て、刃物が他の村人に当たりそうで危ないなぁと感じ、ヴァルヌスは凶器をひょいと取り上げようとした。

 取り上げられなかった。

「あれっ、くっついてる!?」
 村人の凶器は、手のひらから生えていた。

「それでヨーヨーじゃ落とせなかったってわけか。引っこ抜けねぇか?」
 遥がヴァルヌスの手元を覗き込む。
 2人で引っ張っても、引っ張っても、凶器が老人の手から外せそうにない。
 そんなことをしているうちに、2人とも、村人に囲まれそうになってしまう。


 ヴァルヌスは「こっちだよ〜」と物質透過で壁をすり抜け、屋敷の外へ脱出した。
 囮になれればと思ったのだが、「うー‥‥。外は寒いなぁ‥‥。でも月が綺麗だなぁ」と、すぐに使命を忘れてしまう。
 <リントヴルム>を発動させると、肩から背中を覆うように、翠と漆黒のツートンカラーの機械翼が顕現する。緑色の光の粒子が放出しながら、暗い夜空を舞う。
 高い木の枝に着地し、ぼんやりと月を眺める。村には街灯がない。自然の闇が、月の明るさを引き立てて照らし出している。
「そうだ、お土産買って帰らなきゃ。あるかな? お土産屋さんみたいなの」
 きょろきょろしながら、夜の村を一周する。
 暗くて看板は読めない。それっぽいお店はどこにも無かった。シャッターが下りていて、わからないのかもしれない。

 そろそろ寒いし、屋敷に戻ってみようと思い立った時、ヴァルヌスは、闇に染まる白っぽい人物と、赤い着物の人物を、ちらりと見た気がした。


 凶器が空を切る。
 すれすれで遥が身を躱す。
 ぴ、と一筋、顔の薄皮が切れて血が滲む。

 並みの凶器ではない。撃退士に傷をつけられる武器、V兵器にも相当する得物だ。
「気ぃつけろ、こいつらの武器はやべぇぜ!」
 遥は警告を発した。

 英蓮は、とりあえず縄、ビニール紐、カーテンのタッセルなど細長い布類をありったけ探し出し、村人をひっとらえては、縛って転がしていた。
「とりあえず朝までごめんなさいなのですよぉ‥‥私たちもねみゅいのです‥‥」

「天魔でない、ならば洗脳の類か?」
 その頃アイリスは、村人1名に<異界認識>を試していた。
「旅人を捕らえて食らう鬼の隠れ里も、浪漫が有るか」

 <異界認識>の結論は、天魔だった。しかし、どうにも違和感を感じる。
 下級天魔が踊ったり唄ったり、するだろうか?
 ましてや餡を炊いたりするだろうか?
 奴らはそんなに知能が高いものだろうか?


「そういえば、レイバルド先輩から、似たようなお話を伺っていたのでした」
 文歌が老人の襟足を確認する。
 蜘蛛のような痣――瘤?――が、村人たちの体に、出来ていた。


「カイ、お願いします」
 文歌に頼まれ、ステュクスバンドで快晴が軽く瘤をひと弾きする。
 蜘蛛状の瘤はその場でぐったりと萎えしぼんで、老人の四肢を操っていた触手もぽたりと床に落ち、村人の体全体から力が抜ける。
「半殺し‥‥皆殺し‥‥」
 老人はまだ寝言のように呟いていたが、単純に眠っているだけのようであった。

 再度、アイリスが<異界認識>をかける。今度は天魔反応は起こらなかった。

「全くもう、めんどくさいなぁ‥‥一人一人、こうするしかないのか‥‥」
 快晴は、頭を掻いた。

「なるほど。彼らは一般人で、眠って意識のない体を、蜘蛛に操られていたというわけか。ふむ。その方法で、彼らから天魔だけを排除できるのだな」
 アイリスはメルクリウスを使って、村人たちから効率よく、そして慎重に、蜘蛛の痣や刺青、瘤だけを取り除いた。
「あ、ボクもお手伝いする!」
 屋敷に戻ってきたヴァルヌスは、話を聞くと、忍苦無を使って作業に加わった。


 残りのものは、未処置の村人を縛ってそのへんに転がしたり、処置済みの老人の手当をしたりしていた。
 凶器を振りかぶって襲ってきた老人たちだ。恐らく慣れないであろう、素早い動きをしたため、筋を違えたり、肉離れを起こしたりしているかもしれない。
 何しろ皆、相当なお年寄りばかりだ。くしゃみで肋骨を骨折する可能性だって、無いわけではない。

 蜘蛛を取り除き、軽い応急処置とマッサージが済んだら、老夫婦が布団を敷いておいてくれた部屋へと運び、寝かせる。

 文歌が静かでやさしい歌を、歌い出した。
 自らの意思と関係なく、操られてしまった老人たちが、怖い夢を見ないように。
 怖い夢はもう、終わったのだと安心できるように。





 文歌の歌が、深夜の村に響き始める。
 どこかで見ていた天使は「あーあ。お祭りの時間は終わっちゃったかあ、思っていたよりも早かったなぁ」と呟いて、赤い着物の使徒とともに、その場を去った。





「‥‥どういうことか説明してもらおうか?」
 あの、人の好さそうな老夫婦から天魔を排除すると、快晴は、おもむろに問いただした。

「どういうことって‥‥何がじゃね?」
「あれ、あたしらは一体、どうしたんでしょう?」

 目を覚ました老夫婦は、現状が把握できず、困惑の表情を浮かべる。

「確か、餡を炊きながらうとうとして‥‥」
「わしも、それくらいしか覚えておらんのう」

 2人して顔を見合わせ、困ったように撃退士たちを見る。

「あのこたつ布団とラグは、何処で手に入れたんですぅ〜?」
 英蓮が尋ねると、おばあさんが言った。

「行商の娘さんから買ったばかりのものなんですよ。娘さんは赤い着物をお召しの綺麗な若いかたでねえ。ラグもこたつ布団もすごく立派なものなのに、破格で譲ってくださると言ってくれて。丁度買い換えないとぼろぼろですねえ、とおじいさんと相談していたところでしたので、まとめて買った次第ですよ」

 そういえば、娘さんを見かけたのはあの1回きりですねえ、とおばあさんは小首をかしげた。

「そうじゃそうじゃ。見かけない娘さんでの、とても綺麗なお嬢さんじゃったから覚えておるよ。名前はわからんが、長い黒髪と、人形のような顔(かんばせ)が、どこかお雛様みたいでの。十二単ではなかったんじゃが、ほれ、折り紙で作るお雛様とかあるじゃろう? あんな感じじゃったのう」

 その場に一緒にいたらしく、おじいさんも頷いた。

 どうやらあの、こたつ布団の目玉は、一般人には見えなかったらしい。
 この老夫婦は天魔に利用されただけなのだろう、と撃退士たちは考えた。
 疑うべきは恐らく、その行商の娘だ。

(そういえば外に、赤い着物の人がいたような気がするなぁ?)
 ヴァルヌスは障子をそっと開けて外に出てみたが、もう誰の気配もなくなっていた。

「そいつが次に行商に来る予定とか、聞いてねぇのか?」
 遥が尋ねると、老夫婦は首を横に振った。





 全ての蜘蛛型天魔を排除し終えた頃、村人たちはすうすうと寝入っていた。
 残念ながら、撃退士たちのために用意された広間どころか、廊下も納戸も、あがりこんだ村人たちで埋まっている。
 今宵は、あたたかいおふとんで休むことは、難しそうだった。

 老夫婦はすまながって、寝ている村人を起こして帰らせ始めた。

「これ、山辺のおじいさん、起きてくださいよ。ここは山辺のお宅じゃござんせんよ」
「のうかっちゃんや、起きられんかの? ここはかっちゃんちではないんじゃよ。動けんかの?」

 1人1人を揺すり起こし、「祭りは明日なのに、皆が1日勘違いをして、泥酔してここに集まった」と、尤もらしく老夫婦は説明した。
「まだ餡も、皆殺しも出来ておらんでのう。明朝までには餡が炊けるじゃろうから、一旦家に戻って、休みんしゃい。風邪をひいても困るじゃろう?」





 翌朝。
 何事もなかったかのように、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

「んー。よく寝た〜‥‥。って、何でボクこんなところで寝てるんだろう?」
 何とか布団で体を休めることに成功し、ヴァルヌスは時計を見て、思い出したように叫んだ。
「ふぇぇ、電車の時間まで間がありませんよぅ〜! 早く帰らないと『CTS』の再放送が‥‥!」

 朝ごはんに温かいお汁粉をいただき、お弁当としてあんころ餅を持たされ、撃退士たちは村を後にした。
 搗きたてのお餅と手作りの餡は、甘さ控えめで、本当に美味しかった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
 雷閃白鳳・支倉 英蓮(jb7524)
重体: −
面白かった!:5人

紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
深淵を開くもの・
アイリス・レイバルド(jb1510)

大学部4年147組 女 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
雷閃白鳳・
支倉 英蓮(jb7524)

高等部2年11組 女 阿修羅
優しき不良少年・
円城寺 遥(jc0540)

大学部2年117組 男 アカシックレコーダー:タイプA
彩り豊かな世界を共に・
ヴァルヌス・ノーチェ(jc0590)

大学部7年318組 男 アカシックレコーダー:タイプA