●
(そうね、今回のプレゼントは、あたしの中にさざ波を立てるあの人に)
ケイ・リヒャルト(
ja0004)は、緑色のパワーストーンを選んで、数珠ブレスレットを作っていた。
(緑の石をメインにして、あの人の心が安らぐように‥‥緑は邪気を祓い、ストレスを和らげ、精神面をサポートするわ)
リラックスの石と呼ばれるアベンチュリン。
迷いを取り除き、知恵をもたらすと言われるグリーンフローライト。
未来への指標を示すグリーンガーネットに、感情を鎮めるマラカイト。
根気強さを養うプレナイトと‥‥それから、ストレスからの解放を意味するグリーンタイガーアイ。
カードには、
『I wuensche Ihnen viel Glueck und alles Gute』
と、きれいなカリグラフィで書いてある。
「あらあら、綺麗なのですー、素敵なのですー」
マリカせんせー(jz0034)は早速、採点に取り掛かった。続いてカードのほうもチェックする。
「これは、ドイツ語でしょうかー? なんて書いてあるのですー?」
「あなたに幸運がありますように、そして、頑張ってね、よ」
ケイの和訳に、ふむふむと頷くせんせー。
「カリグラフィも綺麗ですし、シンプルでかっこいいと思いますー。合格点ぺったんこなのです!」
せんせーは、授業参加者名簿のケイのところに、ぺったんと「よくできました」のハンコを押した。
ブレスレットを丁寧に包みながら、ケイは心の中でつぶやいていた。
(あたしに魔法を掛けてくれる彼女には、手作りのもっと違うモノをあげたいわね‥‥何にしようかしら)
●
(一番大切、かは、わかんねーけどさ)
ヤナギ・エリューナク(
ja0006)は、考え込みながら、手作りカリンバの制作手順を読み進めていた。
(心の根っこが似てるっていうか、俺に欠けている「何か」を思い出させてくれたあいつに、贈りてぇ気分だよな)
丸みのある空箱に、相手をイメージした風の飾り模様を焼き込む。
金属は湾曲させて二重にし、肝心の弾き棒の部分には金属片を接着して、涼しげな音色を楽しめるように工夫する。
ネジを締めて弾き棒を固定し、2本の弾き棒の先端から釘の支点部までの長さを測る。
紙に等間隔に13本の直線を引き、計測した弾き棒の長さを両端の線にかき写す。
弾き棒の長さの先端を結ぶ線を引くと、1オクターブの音階を作るのに必要な弾き棒の長さが判明する。作図を参考に、弾き棒の長さを調節すれば、ドレミの音階ができる筈だ。
「案外めんどいが‥‥まあ、音がずれちゃ、楽器として使えねーか」
最終的には、自分の耳で確かめながら、調整して仕上げる。
バンドマンの鍛えられた耳が、正確に基音を捉えていく。
漸く完成にこぎつけ、試しに弾いてみると、澄んだ音が箱の空洞に反響して、美しい音を立てた。
「素敵ですー、すごいのですー、ちゃんとドレミの音階になっているのです〜!」
せんせーは驚いて目をぱちくりさせた。
「クリスマスカードは‥‥小さな冊子になっているんですねー?」
ぱらぱらとめくると、1ページに一言ずつ、メッセージが書かれていた。
『Merry X’mas!
美しい調べはお前の心の‥‥魂の調べ、だ
俺はお前さんのお陰で大事な何かを思い出せそうだゼ
これからも宜しく、な』
せんせーは、ヤナギの成績評価欄に「よくできました」のハンコを押した。
●
(クリスマス‥‥もうそんな時期、か‥‥。雪が降れば、全てが白くなって、そして融けて消えていくのに‥‥)
鈴木悠司(
ja0226)は、手つかずのカードに目をやる。
(一番大切な人に、か‥‥。‥‥俺の一番大切なのは、家族。‥‥でも、今は‥‥)
いま、誰よりも、俺の心を占め、締め付ける人。
彼女が救いで、彼女が責め苦。
俺は、彼女を、ロジー・ビィ(
jb6232)さんのことを、どう思っているんだろう‥‥?
散々迷った結果、悠司はせんせーに「銀細工やガラス細工は無理かな?」と尋ねた。
「銀粘土がありますですー」
せんせーの指導を受け、悠司はまず薔薇と羽の形のオーナメントを型どりし、銀粘土を詰めた。ブローチパーツを埋め込み、スパチュラで丁寧に整える。
まだ銀粘土が固まりきらないうちに取り出し、ペースト状の銀粘土と純銀丸線で薔薇に羽を固定し、乾燥させる。
バリを取り、全体を磨いて整えたらあとは焼成だ。
焼成作業はせんせーの力を借りることになった。
その後何度も研磨をかけ、ブローチパーツの角度調整とピンの取り付け、ピンの長さ調整、最後にピンを研磨機で尖らせたら、銀のブローチの完成である。
中央に、白っぽくなるように磨いた大きな薔薇、そこから羽が生えている、そんな感じのブローチができ上がった。
『何時も有り難う。素敵なクリスマスを‥‥』
カードに、悩んだ末、ペンを走らせる悠司。
(これを見て、彼女は何を想うだろう‥‥?)
喜んでくれるといいのだけれど、と不安は募る。
一方、ロジーは、万華鏡を作っていた。
(大切なのかどうかは分かりません。けれど‥‥あたしの心を揺さぶった彼。悠司に贈りますわ)
小さな穴から覗くとキラキラと美しく数限りない模様が浮かぶ万華鏡。
人の数だけ美しいモノが、想いがある。
悠司は悠司の思う道を‥・本当に思っている道を進んで行って欲しい‥‥。
そして。
あたしにとって悠司は万華鏡のように色々な模様を‥‥色々な感情を教えてくれた人‥‥。
だから、万華鏡を贈りますわ。
そんなことを考えながら、500ミリの空のペットボトルを黒ペンキで染め、底を切り落とし、半周ほど切れ込みを入れる。キャップにドリルで穴を開け、カッターでバリを取って、ホログラフシート、グレーチングシートなどをそれぞれ接着。
ペットボトルの直径に合わせた黒いラシャ紙を何枚も用意して、マップピンで好きなように穴を開け、そのうち1枚をペットボトルの切り口からはめ込む。キャップを選んで閉め、明るい方を向いて覗き込むと‥‥光がくるくると踊りだす、不思議な万華鏡が出来上がった。
黒いラシャ紙を取り替えても、キャップを変えても、また違った光の模様が浮かんで舞い踊る。
万華鏡の出来栄えに満足したロジーは、クリスマスカードを綺麗にデコレしながら、メッセージを書いた。
『心ゆくまで迷って良いのですわ。答えは要りません、きっと‥‥
あたしは‥‥そんな悠司も、悠司だと知っていますわ
メリークリスマス、素敵な夜を』
2人はせんせーに「よくできました」をぺったんこされ、それぞれ綺麗にラッピングして、何となくもじもじしながら、交換した。
●
(食べ物は持ち込み禁止‥‥禁止でなかったら、一番持ち込んでいそうなのは先‥‥いや、止めておこう)
天風 静流(
ja0373)は、母に贈るマフラーを編み棒で編みながら、のんびりと実技室を眺めていた。
メリヤス編みとガーター編みを組み合わせて縦縞模様を作り、縄編みも装飾に取り入れて、あったかく見栄えも良いマフラーにするつもりだ。
(外国の風習も最近は良く聞く様になったものだね)
作業時間を考え、先にカードは作ってある。開くとクリスマスツリーが飛び出す仕掛けになっている。
マフラー編みには、集中力がいる。表目、裏目、表目。数え間違うと、折角の模様が台無しになってしまう。
(さて、どのくらいの長さにしようか。父にプレゼントが何も無いのもなんだし、先生は両親1セットでも良いと言っていたし、‥‥2人で巻いても十分な長さのマフラーにしようか)
同じ机で、狗猫 魅依(
jb6919)は画用紙いっぱいに、クレヨンを走らせていた。
黒猫と白犬が遊んでいる絵のようだ。ひたすら一生懸命に、ぐりぐりとクレヨンを動かす。
「それは何の絵だ? なかなか元気があって良い雰囲気だが」
静流が尋ねると、「にぃにぃとミィの絵!」と魅依は答えた。
魅依の絵が完成すると、続いてカード制作に移る。
カードの真ん中に「いつもありがとう」と拙い字でめいっぱい元気よく書き、周囲にクリスマスツリーやプレゼントの絵をあしらう。
(可愛らしいな)
小さい子が頑張っている姿は微笑ましい。静流は自然に微笑した。
●
エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は、人形用の洋服作りに精を出していた。
せんせーの指導で作った陶器製の不気味な人形は、サンタの服を着せられていた。エイルズレトラは、フェルトで作った服をパーツごとに切り離し、丁寧に丁寧に人形に接着したり、生地同士を縫い付けたりしていた。
人形の頭はハロウィンのカボチャマスクになっており、目と口が大きくくり抜かれ、小さな蝋燭を立てられるよう金具が埋め込まれている。耳や鼻・後頭部、頭頂にも小さな空気孔があけられていて、蝋燭が燃え続けられるよう工夫されている。ちょこんとサンタ帽が乗っているのがお茶目だ。
サンタの袋は、帆布で作った巾着だ。個別包装のチョコやキャンディを詰めて、背負うように肩に引っ掛けられるようになっている。
人形そのものは、胴体の芯材に砂を混ぜてわざと重たくし、どっしりと安定感がある。
「わあ、すごいね。結構な大きさだなあ」
友人でもある鈴代 征治(
ja1305)が、休憩がてら訪ねてきて、エイルズレトラのプレゼントに目を見開いた。
「欧州に住む僕の実家に贈りますからね、気合が入るってものですよ」
エイルズレトラは微笑するが、手は止めない。
奇術師の異名を冠されるとおり、器用さには非常に自信がある。初めて作った人形も、初心者とは思えない出来だった。
『ちょっと早いクリスマスと、ちょっと遅いハロウィンプレゼントを贈ります
現在、久遠ヶ原にて順調に力をつけております
次期当主にふさわしい力を得て、いずれそちらに戻ります
それでは、ハッピー・クリスマス&メリー・ハロウィン』
「そちらはどうです?」
さらさらと母国語でカードにメッセージを書きながら、エイルズレトラが話を振る。
「僕は壁掛け型フォトフレームを作ったよ。コルクボードと木のぬくもりが感じられるようなものにしたつもりだけど、こんなに凄いのを見ちゃうと、自信をなくすなあ」
征治はそう言って苦笑した。
「鈴代さーん」
せんせーに呼ばれる。行ってみると、せんせーは征治の作ったカードを採点中だった。
「あのー、ハッピーバレンタインって書いてありますけど、これで間違いないですー?」
「あ!」
征治は慌てふためいて、カードを書き直した。
●
「彼女と付き合い初めて3年目の、クリスマスになるんかな‥‥?」
亀山 淳紅(
ja2261)は、ふは、と笑った。
買ってきたアルバムの外装に、クリスマスカラーの布を丁寧に貼っていく。
「自分、あんまりこういうんに興味なくて、‥‥でも、こんな入院だらけの撃退士生活してるし、形にして残しとくんも大事かなって思うねん」
アルバムの中に写真を並べるだけではない。
「ふふん、器用さの見せ所ってやつですよ!‥‥せやけど、意外と現像代が痛かったわ」
撮った写真の場所、動物や食べ物などが、開くと飛び出してくるように細工をする。
アルバムの最後に差し込む形でカードを用意した。100均の、押せば鳴るカードをばらして、クリスマスソングが流れる仕様にしたカードだ。
彼女であるRehni Nam(
ja5283)は、と見ると、「せんせー、出来ました! 採点、お願いしますね」と手を挙げたところだった。
「絵は苦手ですけど、頑張りました! プレゼントは私達を繋ぐ物に色をつけて、丁寧にニスで艶出しして‥‥」
「あらあら、素敵なのです〜」
採点を終えたレフニーは、プレゼントをシンプルな白い箱に詰めて、赤いリボンを結んだ。そして、淳紅のもとへ、箱を背に隠しながらやってくる。
「あー、せんせー、自分のも見て欲しいねんけど‥‥」
慌てて採点してもらい、ラッピングに取り掛かる淳紅。
何とか、レフニーが心からの笑顔を浮かべて、プレゼントを手渡してくるのに、間に合った。
2人で仲良くラッピングを外す。
レフニーのプレゼントは、符頭部分が、亀、猫、カナリア、狐になっている、音符型の木彫りブローチであった。カードにはディフォルメされた亀と白猫が木の下のベンチで寄り添い、背景に、橇に乗ったサンタの影が描かれている。
『メリークリスマス
いつも一緒にいてくれてありがとう
これからも宜しくです』
潤んだ瞳を淳紅に向けるレフニー。
淳紅のアルバムを熱心にめくり、最後にカードを開いて、「ここ押してみ」と勧められて流れる、静かなクリスマスソング。
『今年の冬も君が隣にいてくれて嬉しいです
いつもごめん
ありがとう
愛してます』
2人は顔を見合わせて、にっこりした。
お互いに、忘れられないクリスマスになりそうだった。
●
「あれから2年? 3年か? それすら忘れてしまったか‥‥」
茶色のウェットスーツで足は馬の脚の形のブーツ、馬のマスクを被り、焦げ茶色の腰布を巻いた、金鞍 馬頭鬼(
ja2735)は、(家出してそのまま撃退士となり今に至るので、実家の父母に手紙を添えてプレゼントをしたい)と考えていた。
銀粘土を焼成しても、シルバーの指輪は作れる。馬頭鬼は銀地金での彫金にこだわりたかったが、授業時間内に完成させることを考え、諦めて銀粘土でのリング作成に取り掛かった。
もくもくと作業を進め、両親に手紙を書く。
『次郎です。そちらはいかがですか。こちらは元気でやっています‥‥』
「あら、金鞍さんは田中次郎さんというお名前だったんですねー。だいじょーぶです、誰にも話さないですー。偽名の人なんて学園にはいっぱいいるのですー」
カードとリングの採点にきたせんせーは、片目をつぶってみせた。
「素敵なリングなのですー、きっとご両親に喜んでもらえると思うのですー」
北條 茉祐子(
jb9584)は、ひっそりと馬頭鬼のいる机の端っこで、静かに制作に取り組んでいた。
作っているのは、長さ9センチほどの、クリスナイフを模った木製のお守りだ。サンドペーパーで丁寧に磨いて、飴色になるようにニスを塗って、乾かしている。
「クリスナイフは、幸運のお守りだそうです」
様子を見に回ってきたせんせーに答える茉祐子。人前で贈り物を作った経験がないとかで、若干気恥ずかしそうにしている。
「日本でも、刃物は魔除けになると言いますよね」
茉祐子のクリスマスカードは、白や薄い水色の雪の結晶の模様で飾られており、中央に『メリークリスマス』とだけ、書かれていた。
「きっと渡せないと思うから‥‥」
茉祐子は少し悲しげに目を伏せた。
●
鳳 蒼姫(
ja3762)は、ペンギン型貯金箱を制作していた。
「ペンギンさんは愛の象徴☆ そして夫婦の平和なのですよぅ☆」
「そうなんですかー?」
意味不明な蒼姫の言葉を真に受けるせんせー。
「そうなんですよぅ☆ 実はこれには、無駄遣いしないで貯まるようにという願いが込められているんですぅ☆」
続いて蒼姫は、カードの制作に取り掛かった。開くと音が鳴るクリスマスカードを器用に作る。
「メッセージは何て書こうかなぅ?」
少し考える。
『大好きな静矢さん。これからもどうぞ宜しくお願いします。メリークリスマス☆』
「これでいいかなぅ? 心がこもっているから、きっと大丈夫ですねぃ☆」
蒼姫は頷き、せんせーの採点を待たずに、ちょういい笑顔で貯金箱とカードを持って旦那さまのところに走っていった。
「じゃーん、クリスマスカードとペンギンさんの貯金箱ですよぅ☆」
「おわあ!?」
いきなり背後から飛びつかれた鳳 静矢(
ja3856)は、玉石を機械で研磨しているところだった。
2人を象徴する蒼と紫の石を多めに選んで、機械で穴を開け、更に研磨をかける。
それに手作業でテグス糸を通し、最後に糸に金具を取り付けて、ネックレスの完成である。
「磨けば、宝石よりも遥かに美しい石もあるし、手作りなら、二つと同じ物が出来ないような物が良いと思ってな」
「素敵なのですー。パワーストーンの作品もありましたが、普通の石も磨くとこんなに綺麗になるんですねー!」
せんせーに合格点ぺったんこされる。
「いやしかし、ペンギンとは蒼姫らしいな」
「可愛いですぅ☆」
同意を求めるように蒼姫が頷いた。
「静矢さんのネックレス、アキの好きな色いっぱいできらきらですぅ☆」
「このネックレスは‥‥色でいうと、雌雄一対の象徴、かな?」
蒼姫は静かにカードを開いた。飾り気のない、シンプルなカードに力強い手書き文字。
『一番大切な蒼姫へ、命尽きるその日まで共に歩もう‥‥メリークリスマス』
●
オルゴールの音色を試しに、翡翠 龍斗(
ja7594)と黄昏ひりょ(
jb3452)は、偶然同じ作業机に向かっていた。
「聞いたら温かい気持ちになれそうな、優しい音色のものを探しているんですが、いいのはないかな?」
ひりょが問う。龍斗は躊躇いもなく【星に願いを】を選んだ。
パウリーネ(
jb8709)もオルゴールを物色し、【花のワルツ】を手に取る。
「何かいい曲ないでしょうかぁ〜?」
神ヶ島 鈴歌(
jb9935)も、オルゴールパーツを眺め回した。
「オルゴールの音は基本的に優しいからな。贈る相手の好きな曲でいいんじゃないか?」
なるほど、とひりょは頷いた。恋人の好きそうな曲を思い浮かべる。龍斗は続けた。
「クリスマスソングの中から選ぶのも、無難だろう」
「確かにそうだね。有難う」
笑顔のひりょの横で、鈴歌はこれだと思うオルゴールに手を伸ばした。
「私は、夏っぽい曲にしますぅ〜」
龍斗は木材を幾つか切り出し、印をつけて鋸で成形し始めた。
ひりょは、じんわり静かで雰囲気のいいクリスマスソングを選ぶと、オルゴールを仕込むのにもっと難易度の低いものはないかと、材料を見回した。
「こんなのどうですー? 蓋を開けるとオルゴールが鳴る小箱のキットですー。これに装飾したり、ビーズでデコっても綺麗ですよ〜」
せんせーが様子を見て、初心者にも優しいオルゴール小箱キットを、ひりょに勧める。
「中にベロア生地を内張りしたら、小物やアクセサリーを仕舞うのにも良くなりますよー」
「有難うせんせー、そうしてみますね」
ひりょは初心者キットを受け取り、制作に取り掛かった。
説明書の通りに組み立てるだけ、なのだが、何かひとひねりしたい。
内側に赤いベロアを張って、外側は出来れば白地に塗って、上品な模様でも書き込みたい。
横を見ると、パウリーネが同じように、オルゴール小箱のキットを使って工作を開始している。
掌サイズの小箱に、トールペイントを施すパウリーネ。丁寧に花柄を書き込んでいく。
「小さいからか、わりと難しいねー」
パウリーネの笑顔につられて、ひりょも笑顔になった。
「‥‥恋人さんは紅茶が好きだから、イギリスっぽい模様がいいな」
シンボルマーク事典をぱらぱらして、ひりょは、薔薇の絡んだ王冠マークをあしらうことにした。
かと言って、筆で描くには、なかなか強敵だ。
「箱の塗装が終わったら、焼印を入れるか、スタンプに専用の糊をつけて、上からこまかい金粉や銀粉をふりかけて乾かすと、刷毛で落とした時にマークだけ綺麗に残りますよー」
ひりょはせんせーの指導を受けながら、オルゴールボックスを作ってみることにした。
「皆さんは木の箱にするんですねぇ〜。私はガラスの箱にするのですぅ〜」
鈴歌はガラス箱に専用の絵の具で、夏を思わせる風景画や蛍、たくさんの向日葵を描き込んだ。
蓋を開くとオルゴールが鳴り出すように仕掛ける。
そして、蓋の裏を写真入れにして、そこにメッセージカードを挟むことにした。
「あの人に、たくさんのありがとうと大好きの想いを‥‥あと‥‥これからもよろしくの意も込めて届けたいですぅ〜♪」
龍斗は黙々と作業を続けている。大まかに成形した木材を削り、彫刻刀を使って彫り進める。
台座にオルゴールを仕込み、その上に、兎がかわいくおすわりしている像をかぶせる。
木目調を活かし、しっかりとヤスリをかけて艶を出し、ニスを塗る。全体的に丸みを帯びさせた、手彫りの兎だ。
「素敵ですー、奥様が喜ぶと思いますですー!」
せんせーの絶賛に、ふっと龍斗は目を閉じたまま、口角を上げた。
デフォルメされた雪だるまが描かれたシンプルなカードには、奥さんへの思いが込められている。
『メリークリスマス。
イヴを君と一緒に過ごせて嬉しい。
愛しています。 龍斗 』
パウリーネは、くるみ割り人形をイメージして作ったカードに、『メリークリスマス』とだけ書き込んで、掌サイズのオルゴール小箱と一緒に提出した。
「あら、メッセージはこれだけですー?」
「本当に伝えたい言葉は、ちゃんと口で伝えたいですから」
「あ、それもそうですよねー」
せんせーは細かくペイントした小箱を眺めまわし、合格点ぺったんこした。
「先生、できましたですー」
鈴歌がカードとガラス小箱を持ってくる。
『二人で一緒にいる時間は
楽しくて切なくてとても幸せですぅ〜。
いつもお傍にいてくれてありがとぅですぅ〜♪
これからも一緒に幸せになりましょ〜♪
大好きですぅ〜♪
鈴歌』
「思いが伝わるといいですねー」
せんせーは合格点ぺったんこしながら、にっこりした。
●
ひりょは時々休みを入れながら、作業を進めていた。
メッセージカードには、白薔薇の押し花が漉きこまれた便箋を買ってある。
『大切な恋人の君へ
メリークリスマス
君の為にオルゴールを作ってみた
これを聴いたら笑顔になれるといいな
これからも色んな事があると思う
楽しい事は二人で分かち合い、辛い事は二人で乗り越えていこうな
ひりょ』
(なんだか気恥ずかしいなあ)
書き終わってから、せんせーには見られるのだと思って赤くなる。
「あらあら、市販の便箋を使ったんですねー、それなら中身は見ませんですよー」
せんせーはにこにこしていた。
(そうだ、シキさんは何を作っているのかな?)
箱の組立が終わったところで、休憩がてら、ひりょはアリス・シキ(jz0058)のところへ向かった。
アリスは、革の財布を作っていた。器用に革同士を縫い合わせている。札入れと小銭入れが分けられていながら、一体型のデザイン。半分に折るタイプで、男性のズボンのポケットに丁度いいサイズである。
「ま、まだ彼氏さんには内緒にしてくださいませ」
そういう約束なんですの、とアリスはひりょに口止めをした。
アリスが採点を終えてから、征治は丁寧にラッピングしたプレゼントを持ってきた。
急いでアリスもプレゼントを包装する。ラッピングを習ったかのような要領の良さだ。
「あんまりお洒落なものとか、気の利いたものって思い浮かばなくてごめんよ。でも僕なりに一生懸命作ったから受け取って下さい」
「有難うございます。わたくしこそあまり気の利いたものでなくて‥‥」
プレゼントとカードを交換する。
『アリスへ これからも思い出をたくさん作っていこうね メリークリスマス 征治』
『メリークリスマス いつも有難うございます これからもよろしくお導きくださいませ アリス』
2人はそれぞれ、プレゼントを開けた。
素朴なフォトフレームに感激するアリス。征治は「お気に入りの画像をここに飾ろうね。今年も来年もそれから先も、まだまだ物語は続くんだよ」と言葉を添えた。
「うわあ、すごいや、こんな本格的なお財布が作れちゃうんだね」
アリスの手作り本革財布を受け取り、征治は驚いた。
「買ったものみたいだ。すごい。有難う。大切に使うからね」
(あんなふうに、俺たちも、いつまでも仲良くいられたらなぁ)
ほのぼのと、ひりょがその様子を見ていた。
(さて、俺も仕上げに入らなくちゃ。プレゼントが間に合わなくなっちゃうよ)
●
水無瀬 快晴(
jb0745)は、クリスマスカードをハサミで切っていた。
シンプルに猫の形に切るはずが、何だか豚のような、得体の知れない動物になっていた。
(う〜、俺‥‥不器用なんだよな‥‥)
『いつも支えてくれてありがとう。笑顔が一番の貴女へ。メリークリスマス』
カードが出来上がると、今度は無地のマグカップに愛猫ティアラの絵を描き始めた。
カップに手書きするのは難しい。猫と言うより、熊のような何かが描きあがった。
絵の具を定着させるため、せんせーに軽く焼いてもらう。
川澄文歌(
jb7507)は、自作の歌を録音してパソコンに取り込み、音楽データをメディアに入れて、クリスマスカード風の歌詞カードとセットにして、提出した。
『出会ってくれてありがとうin2014冬
この出会いは偶然でも
この気持ちは必然なの
あなたとは まだそんなに長く
一緒にいたわけじゃないのに
とても たいせつに想える
出会ってくれて ありがとう
その言葉が 自然に出てくる
出会ってくれて ありがとう
あなたの手の ぬくもり好きだよ』
「水無瀬さんのプレゼントは、手作り感が味わい深いですー。川澄さんの歌は自作ですか? すごいのですー」
せんせーの採点を終え、神妙に向かい合う2人。
ヘッドホンをつけて、文歌の歌に聞き惚れる快晴。
「‥‥素敵な歌を、ありがとう。‥‥びっくりした‥‥」
そう言って、思わず文歌の頭を撫でる。
快晴は、プレゼントとカードを一緒に渡し、思い切って告白した。
「‥‥これからは、ずっと一緒に傍に居て欲しいです。良ければ俺と付き合って下さい‥‥」
文歌は頬を赤らめた。
「はい、不束者ですが、よろしくお願いしますね」
「ありがとう、文歌‥‥」
快晴は、文歌の頬に軽くキスをした。
頭から湯気が立ち上るくらい、文歌は真っ赤になった。
●
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)は、カードを仕上げたものの、悩んでいた。
『相棒兼恋人のヒナちゃんへ、愛をこめて』
「愛をこめて、何を作りゃいいんだ? 俺は壊す専門なんだが」
「紙粘土のお人形とかいかがですー?」
せんせーのアドバイスに、「よし、ゆるキャラ人形を作るか。名前は「ヒナっしー」に決定だな。某妖精のパクリじゃねーぞ」と腕をまくる。
出来上がったのは‥‥雪だるまに目鼻をつけたような、微妙に相棒っぽいような、2頭身ディフォルメ人形だった。指紋やヒビがあちこちに入って、無残な姿である。
「紙粘土、乾くのはえーんだよ。すぐヒビが入るしさ」
上半身を粘土でひどく汚しながら、ラファルは愚痴った。せんせーは「でも、精一杯頑張って作ったことが感じられる出来なのですー」とフォローを入れる。
「溶いた粘土でヒビを埋めながら、色をつけてみましょーか。もっと見栄えがしますよー」
●
狭霧 文香(
jc0789)は、相手に何を贈ろうか考えていた。
「そう言えば、キーホルダーを欲しがっていたわね‥‥」
彼の言葉を思いだし、早速作業に取り掛かる。小さな円形のアクリル板二つに、アイビーの葉の押し花を入れて閉じる。彼のイニシャルであるHを隅に印字して、チェーンを取り付ける。
次に、カード作りだ。クリスマスローズの押し花を、花束に見えるよう、バランスよくあしらう。押し花を傷めないよう、糊がはみ出さないよう、慎重に作業を進める。そして、丁寧な文字でメッセージを書いた。
『いつも元気をくれてありがとう。大好きだよ』
(喜んでもらえますように)
祈るような思いで、文香はせんせーに完成品を提出した。
●
「良く考えたら、我から執事に何かしてやった事はなかったのじゃ。学園に来て、様々な事を覚えた我を、皆が今見たらどう思うのじゃろう‥‥?」
アヴニール(
jb8821)は、つと未だ安否のわからない家族に思いを馳せた。
中でも、何時も世話になっていた、自分仕えの執事を思い出す。
プレゼントを考えるが、思いつかない。
アヴニールは、カードに凝ることで、執事宛のプレゼントとすることにした。
100均のオルゴールカードをばらし、組み直す。
開くと【諸人こぞりて】が流れるカードが出来上がった。
『何時も有難うの感謝を込めて、プレゼント‥‥カードじゃが用意したのじゃ。我の手作りじゃ♪
リアンが元気にしておると信じ、また会える日を楽しみにしているのじゃ。
良いクリスマスを送れる様に‥‥そして来年は一緒に楽しみたいの』
「書きたい‥‥伝えたい事は沢山じゃが、それはまた会えた日に取っておくのじゃ。ちゃんと自分の口で語りたいからの」
●
ポーシャ=スライリィ(
jb9772)は、天国の両親にプレゼントを贈りたいと考えていた。
「‥‥そうだな、自身の像がいい。二人とも、ポーシャの行く末を案じていたし、元気な姿を見せておくのもいいだろう。採点後に美術室に寄贈するから、美術の基本、石彫でヌードだ」
美術室の片隅で脱ぎ始めるポーシャ。
せんせーが慌てて飛んできて、事情を聞いた。
「そういうことでしたら、レオタードを着てくださいですー」
やむなくレオタードを着て、鏡を見ながら、柔らかい石材を彫っていくポーシャ。
彫刻刀が滑って、なかなかうまくいかない。
「これは‥‥スライム化は私の理想ではあるが‥‥マリカ教諭、手直しをお願いできるだろうか」
「じゃあ、せんせーがお手本を見せますねー。そしたら、自分で最後まで頑張ってみるのですー!」
せんせーの真似をしながら、ポーシャは何とか、自分に見えなくもない石像を作ることに成功した。
『ポーシャを慈しんでくれた父と母へ。
爵位は失ったが、息災かつスライム化も諦めていない。安心してくれ。
今は母に似た職で、翼を少し出せるようになった。
父の語った古き良き悪魔の流儀も、取り戻してみせる。 ポーシャ』
「このお手紙は、天国のご両親あてなんですねー?」
せんせーは、軽く目頭を押さえた。
「きっとポーシャさんの思いは、天国まで届くのですー。せんせー信じてますですー」
●
寒い冬が訪れても、大切な誰かを想う温かな気持ちは尽きる事はない。
いつも隣に居るあなたへ、遠く離れた空の下のあなたへ、過去のあなたへ、これからのあなたへ。
感謝と祝福と、愛情と‥‥。
沢山の想いを宿したメッセージが、どうか届きますように。
チャイムが、授業の終わりを告げた。
●
『前略
この世界で、暗闇の中を歩いている俺の道に光を灯してくれたのは、貴方でした。
その真っ白な道の風景に、色を、音を、香りを付けてくれたのは、貴方でした。
そして、何の前触れもなく僕の目の前から消えたのも、貴方でした。
いつかはそんな日が来ると、頭では分かってはいたけど、心では‥‥
出来る事なら、もう一度貴方とこの世界で‥‥
叶わぬ願いなら、せめて感謝の言葉を‥‥ありがとう、そしてMerry X'mas‥‥』
そう書いたカードを、空瓶に詰めて海に投げる、佐藤としお(
ja2489)。
浜辺には、誰もいない。
砂浜には誰のものとも知れぬバンダナが、打ち上げられていた。
海岸を離れゆく、としおの肩に、ふっと、季節はずれの桜の花びらが散った。