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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/10/21


みんなの思い出



オープニング




 悩みのない人なんていないの。
 みんな、みんな、それぞれに悩みを抱えているのよ。

 番長だってそう。
 だって、にんげんだもの。





 俺は、久遠ヶ原学園の番長だ。

 轟闘吾(jz0016)は、そのことに疑いの余地を挟んだこともなかった。

 俺は、番長だ。
 小さい頃はガキ大将と言われ、以降、高等部まで、番長の名を馳せてきた。
 不良グループを束ね、教師に歯向かい、義理人情を重んじ、決していじめは許さない。

 そう、実践してきたし、信じてきたつもりだ。

 だが‥‥いつからだろうか。
 闘吾の周囲から、不良グループなるものが、少しずつ、少しずつ、消えていった。

 おそらく、闘吾の住まいがまだ黒電話であり、携帯類を一切持っていないのも原因と思われる。
 留守電すらついていない、ダイヤル式の黒電話。
 今時そんなものに執着している若者は、あまり見かけない。

 それもあって、いつの間にか、闘吾の近くから学園生が離れていっていた。
 今や携帯、スマフォで、SNSを通じて連絡を取り合うのが当たり前になっている。

 また。

「んー、授業に出ないのは、この学園じゃあ当たり前だしぃ」
「改造制服も、普通よねえ」
「先公に楯突くにしても、現場じゃ撃退士としての判断が優先するしなぁ」
「そもそも、この学園って校則あるの?」

 昔つるんでいたはずの不良仲間を通じて、かような噂が耳に入ってくる。

 一体、何をもって、不良学生とするのか。
 未成年のタバコと飲酒?
 それ以外は?

 ――闘吾にはわからなくなってきていた。

 しかも。

「大学部‥‥だと!? この、俺が?」

 進級試験をサボり続けた結果、自動進級してしまっていたのだ。
 高等部を卒業してしまった今や、もう「番長」とは名乗りづらい。

 ただの、バンカラファッションの、成人男性である。

 盗んだバイクで走り出せば、新聞に窃盗犯として、名前が載ってしまう。
 いつの間にか、闘吾は、見た目はともかく、そんな年頃になっていた。

「‥‥俺は、いつの間に、何を卒業しちまったんだろうな‥‥」





 ふらりと、中等部の頃から行きつけていた、立ち飲み屋に寄る。
 撃退士は酒に酔わない。
 だから、赤い牛健康飲料を、血液から採取できるくらい飲んで、飲んで、飲み明かす。

 名乗りづらいが、俺は「番長」だ。
 誰がついてこなくとも、この学園を不正から守る。

 ‥‥その、正すべき不正は、どこにある?





「闘吾のやつ、様子がおかしかったな」
 立ち飲み屋のおやじが、帰っていく分厚い背中を見送っていた。
「何か、悩んでいるようだったが‥‥」

「あいつはもともと、口数が少ないからな。なかなか、悩みを聞いてやろうとしても、難しいところがあるよな」
 立ち飲みをしていた別の男が、心配そうに闘吾を見やる。

 更に別の客が、心配そうに、闘吾の最近の様子を語る。
「あいつはさ、昔から腕っ節が強くて、で周りに自然に子供らが寄ってきて、ガキ大将していただろ。高等部まではそうだったように見えたが、最近、一人ぼっちでいることが多い気がするな」

「もともと、自分から人の輪に入れる性格じゃないからねえ」
 店のおやじも、闘吾について話し始める。
「すこぶる真面目なやつだ、色々考えて、気後れしちまうんだろうな」

 少し考えて。

「若者の悩みは、若者が一番よくわかるもんだ。誰か、闘吾の良い相談相手が見つかるといいねえ」





 無口でかっこいい、男気あふれる番長。
 いつの間にか、そんな印象がつきまとってしまった闘吾だけれど。

 本当は話したい言葉だってあるだろう。
 本当はカッコ悪い、情けない言葉を吐きたくなる時だってあるだろう。

 にんげんだもの。


(今、俺は誰の『番』を張っている!? 俺に誰がついてきている??)
 もっと前なら、信念のままにがむしゃらに暴れて、結果、勝手に不良仲間がついてきた。

 大学部ともなると、流石に分別がつく。
 闘吾自身にも、今まで不良を気取っていた者たちにも。

(俺は、学園の番長だ――今でもそう言えるのか!?)

 志は変わらない。
 不正を正し、いじめを許さず、教師に楯突き、校則などに縛られない。
 弱い者は守る。

 変わらない、はずなのに。
 変わっていった。

 年齢も、立場も。

 もうじき、次の進級で大学部2年になる。
 心が、ゆらぐ。

 闘吾は、己の「有り方」に、軽いアイデンティティ・クライシスを起こしていた。


リプレイ本文




 木嶋香里(jb7748)が拠点として提供した和風サロン「椿」にて、連絡先交換と作戦会議が設けられていた。


「ばんちょーさんのしあわせちょっと迷子みたいなの、ゆきこも一緒に探すの!」
 最年少の天童 幸子(jb8948)が、一生懸命に提案した。
「ねえ、ばんちょーさんへの『ありがとう』をみんなで集めたらどうかな?」

  ゆきこはね、学園の先生にあんけーとするの!
  ばんちょーさんに、ありがとうって思っていることと、
  もうちょっとこうしたらいいのにって思っていることを、
  いんたびゅーしてめもするの!
  わすれないように、ぼいすれこーだーも持っていきたいの!

「でね、ゆきこ、ぼいすれこーだーを、貸してほしいの!」

 皆は顔を見合わせた。
 コンビニで容易に手に入る商品ではない。
 誰も手持ち品に持っていない。
 斡旋所を通した依頼でもないため、借りられるあてもない。

「う‥‥ゆきこ、めも、とるの、がんばる‥‥」

 ちょっと自信なさそうに、幸子はノートに顔をうずめた。


「で、元・現仲間に聞き込みに行くのは、誰ですかー?」
 間下 慈(jb2391)が点呼を取る。

 シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)が手を挙げる。
「あれだけ有名な番長の仲間ともなれば、彼らがテリトリーにしている居場所も自然と割れるはず。見つけ出すのは簡単だと思いますわ」

「素早く解決して行きましょう♪」
 香里も挙手した。
「彼の同級生達から、最近の行動・挙動などを聞き込みをして回ろうと思っています♪」

「轟が大学1年生なら、昔つるんでただろう不良の後輩組はまだ高等部のはずだ。そいつらに、轟や番長について、色々聞いてみるつもりだ」
 嶺 光太郎(jb8405)も頷いた。
「ついでに、連中から轟に伝えたいこととかあれば承っとくか。まあ、一言くらいはあるだろう」

 慈は少し考え、「じゃあ天童さんだけ、先生にあたるんですねー」と確認をとり、自らの考えを提案した。

「僕の案は、『久遠ヶ原の番長を追え!』って企画をでっちあげて、元・現仲間のひとに、取材に協力してもらう作戦ですー」

  質問1
  轟さんの武勇伝とかあれば教えて下さい

  質問2
  轟さんが自分の事を、人に相談したことってあります?

  質問3
  もし今、轟さんが貴方に『手を貸して欲しい』って頼んだら、手伝います?

  最後に『他に轟さんの武勇伝とか知ってる人ご存知ですか?』

「最後の質問には、次のターゲットを知り、絞る狙いがありますー。これなら効率的に話を聞いて回れると思うんですよー」

「いいと思いますわ。わたくし達もご一緒して構いませんかしら?」
 シェリアが腕組みをしてこくりと頷く。慈は微笑んで「まあ、回答の想像は大体ついているんですけどねー」と寝癖の多い黒髪を掻いた。

「天童の言っていた、ありがとう探し、あれもいいんじゃね? どうせインタビューの形をとるんだろ、設問に混ぜてやったらいいんじゃねーの?」
 光太郎は面倒くさそうに呟いた。幸子が顔を輝かせる。


 頭にフランスパンを装着し、リーゼントヘアを模しながら、芸人☆歌音 テンペスト(jb5186)はくるりと皆を見回した。

「てことは、あたしだけ別行動ね。あたしは立ち飲み屋に行ってるぴょん。芸人と番長‥‥どうやら相通じるものがありそうね」





 不良学生への聞き込み結果は、慈の予想通りに終わった。

 設問1:語り尽くせないほど、色々、逸話がどっさり。
 設問2:相談されたことは一切ない。
 設問3:手伝えることなら勿論。
 設問4(ありがとう探し):無いこともない。

 次の人へ、次の人へとインタビューを進めていくが、概ね得られる答えは変わらない。
(ずっと一人で頑張っている人で、悩みは『孤高』であることでしょうかー。そういや、チラシを配るときも一人でしたねー)
 慈は心中で呟いた。

「ところで貴方達、今回は、インタビュー企画のために立ち寄ったから、特別に見逃しますけれども、未成年のお酒とタバコは犯罪ですから、次に見かけたら容赦致しませんことよ? というか、そんなにお酒が飲みたいなら、フランスにいらっしゃいな。軽いものなら16歳から飲酒可能ですわよ?」
 シェリアがさりげなく勧誘を混ぜつつ、不良学生を諌める。

「ケータイくらい持てよ、か。承った」
 光太郎は元・現仲間からの伝言を心に刻む。
「学校に来いよ? それもか。了解だ」
 どうやら、ここ2年ほど、学園の授業に出てもいないらしいのだ。


「せんせーはね、轟さんはすごくいい生徒さんだと思うのですー」
 マリカせんせー(jz0034)の言葉を、一生懸命にノートに書き留める幸子。
「ただ、真っ直ぐすぎて、大人としては危なっかしく感じますー。悪い人に騙されたりしないか不安ですー」





「マスター、青汁とケンピ」
 フランスパンリーゼントの歌音が、立ち飲み屋の端を占拠する。
「すまねぇ、青汁は置いてねえや」
「じゃあ、爆裂元気エリュシオンZでいいわ」

 歌音が、ゆっくりと栄養補給飲料を飲んでいると、やがて轟闘吾(jz0016)が体を屈めて入ってきた。
「‥‥おう」
 いつものように赤い牛健康飲料を注文する闘吾。
 その横に移動する歌音。

「ねぇ、あなたは見たところプロの番長みたいね。ちょっと、しがない芸人の愚痴でも聴いて頂戴」
 健康飲料とケンピで絡み出す歌音。無言で赤い牛缶を傾ける闘吾。

  何かを貫くって難しいわね
  貫き続けると先鋭化して、思わぬ角が立っちゃう

  あたしは、芸で皆を笑わそうと、芸をどんどん先鋭化させたの
  ところが逆に角が立って、批判を受けたの
  それがショックで、孤独で、芸を続けるべきか悩んだなあ‥‥

  そんな時ね、自分が本当は何をしたいのか考えたの
  冠番組? MVP? 芸を極める?‥‥
  考えて考えて、考えついたの。あたしは皆を笑顔にしたいんだ、って

  勘違いしてたんだよね、芸は皆を笑顔にするあくまで一つの手段に過ぎなくて、
  一番の目的は、皆の笑顔だったってこと
  そのためなら芸じゃなくても‥‥戦闘、言葉、料理‥‥何だって良かったのに

  そう思うとね、今までと違う世界が見えてきたの
  これまでとは違う芸への取り組み方ができるようになったの

  いま番長道を貫いてるあなたの、本当にしたいことは何かしらね?
  番長たること? 不正を正すこと? 多くの友達を持つこと? それとも‥‥

「自分って探すものじゃなく、創り上げ、築き上げていくものだと思うんだよね。だから、変わっていっていい。どんどん変わっていって構わないのよ」

「‥‥」
 闘吾はジロリと歌音を見やり、フランスパンリーゼントに目を留め、だが、何も言わなかった。
 本当にしたいことは、何なのか。
 その問いに、闘吾は答えられなかったのだ。

 体は勝手に大人になっていく。
 周囲もどんどん、年を経ていく。

 番長でありたいか?――それ以外の生き様を彼は知らない。
 不正を正したいか?――不正を見逃せる性格ではない。
 多くの友達‥‥考えたことがなかった。彼の周囲に居たものは、いつも彼が守るべき者たちで、率いて行動する者たちで、誰とも対等な関係を築いたことがなかった。
 気が付けば番長だの、番長総代だのと持ち上げられ、神輿に乗せられていた感覚。

「そろそろ、しがない芸人はお暇するわね。まあ、ゆっくり考えるといいわ」
 歌音は空になった瓶を置くと、立ち飲み屋を出て行った。





『たはしじょう』

 幸子の拙い文字で書かれた手紙が、立ち飲み屋に飛び込んできた。
 闘吾が開いてみると、和風サロン「椿」の地図が挟まっていた。





 そろそろ日暮れも近いという頃合い、サロン「椿」へ行く道すがら。

「すいませーん、コンタクトを落としてしまって‥‥一緒に探してもらえませんかー?」
 ボロボロで足まで届く黒いコートを羽織った慈が、地面に屈んだ状態で、闘吾に声をかけた。

「‥‥んだとぉ?」
 ギロリと迫力のある目つきで慈を睨む闘吾。
「動くんじゃねぇぞ!」

 どすの効いた声でそう一喝し、闘吾は地面に這いつくばった。無骨な指で丁寧にアスファルトを探り、落ちているはずのコンタクトに集中する。

(怖そうに見えるところも、損しているんでしょうかねー。好い人じゃないですかー)
 慈は自分も探しながら、背を向けている闘吾に声をかけた。

「探し物って一人じゃなかなか見つからないんですよねー。だからこう、誰かと一緒に探すと案外あっさり‥‥あ、あったー」
「ぬぉ?! 見つかったのか!!」
「ええ、有難うございますー」

 良かったな、とズボンの埃をはらい、立ち上がる闘吾。

「実は最近、轟さんも何か探してたりしてますー? 自分の在り方? 戦う意味? 恋人?――最後のは冗談ですよー」
「‥‥」
「みんな、実は待ってるんです。貴方がさっきの僕のように「手伝ってくれ」って言うのを」

 慈は、立ち飲み屋の常連たちが闘吾のことを気にしていたり、元・現仲間が闘吾からの連絡を待っていることを伝えた。

「実はですねー、貴方のご友人達に「轟さんが困っていたら、手伝ってくれるか」って聞いてきましたー。答えは全員、『手伝えることなら勿論』でしたよー。さて、闘吾さんは何を探してるか教えて下さいー。僕も、皆も、貴方を手伝いたいのですー」
「‥‥」

 一緒にサロン「椿」へ向かいながら、2人の間に長い長い沈黙が流れた。
 闘吾は黙っているのではなく、言葉に出来ずにずっと困惑していた。





「ばんちょーさん、きたのきたのー、はたしあいなのー!」
「こんにちわ♪ お疲れの様なのでお寛ぎくださいね♪」

 ぱたぱたと走り回る幸子、女将として丁寧に闘吾を迎える香里。

「はたしあいじゃなくて、話し合いでしょう?」
 シェリアが幸子に突っ込む。

「‥‥」
 闘吾は背を向けた。
「俺には、賑やかすぎる」
「えーまってー! ゆきこのおはなし、聞いて欲しいのー!」

 がらがら、ピシャンと入口が閉ざされる。
 去りゆく闘吾を追って、皆が続いた。


 薄暗くなってきた宵の口。
 近くの電柱に寄りかかって、一部始終を見、「やれやれ」と肩をすくめる光太郎。
(ゾロゾロ行って縮こまらせるのもあれだろう、っつったのによ)

 光太郎自身、学園に来るまで、居場所も会話してくれる人もいなかった。
 学園に来て初めて、そういうことを知った身としては、何となくだが、「あいつ、今、辛いんじゃね?」程度には、闘吾のことを考えていた。

「よぉ」
 面倒そうに光太郎が声をかける。闘吾は立ち止まった。
「お前の仲間とかに言伝て頼まれたんだが、ケータイ買え、学園に来い、偶には連絡しろ、だとよ」
「‥‥そうか」

 有難う、という代わりに、帽子のつばに手を触れる闘吾。

「あのな」
 向けられた分厚い背に、続けて声をかける光太郎。

「‥‥番長ってのは、周囲の連中を守ったりなんだりするんだよな。なら、そうしてりゃいいじゃねえか。こんだけ広い学園で、弱い者いじめがないわけがない。不正で泣く奴がいないわけない。そういう奴らを、今までどおり、番長として助けてやればいいじゃん。小等部から大学部まで、守る対象は事欠かねえよ。そんな姿を見てれば、自然についてくる奴も何人かいるんじゃねえの?」

 闘吾はまさに今まで、そうしてきた。


「わたくしは不良でも、ましてや、番長に憧れがあるわけではありませんから、正直「番長の在り方」が何かと聞かれても答えようがありませんわ。でも、精神的に孤独に追い込まれる辛さは経験として知っています」

 追いついてきたシェリアが、息を切らせる。
(年齢や立場は違えど同じ学園生、筋を通すその愚直な心構えこそ、今まで彼を番長たらしめていたのではないかしら)

「闘吾さん、貴方は今まで通り、今までの貴方であるべきだと思います。強きを滅ぼし弱者を守る。信じたものに向ってひたすらに貫き進む番長は、後にも先にも闘吾さんただ一人ですわ。寡黙でクールというのも、渋くて素敵だと思いますし♪」

 ――今までの俺で、いいのか?
 いや。違う。もうあんな、若さに任せてがむしゃらに突き進む真似は、出来ない。


「あのね、ばんちょーさんは、まっすぐすぎてあぶないかも、ってせんせーゆってたの」
 幸子がぱたぱたと闘吾の足元に絡む。
「わるいひとに、だまされるかも、って。でも、みんな、ばんちょーさんに、ありがとうって思ってたの!」

 日が暮れて、闘吾の顔は見えない。

「だから、ばんちょーさんは、もうちょっと自信を持っていいと思うの! 今までも、いっぱいいっぱい色んな人に、しあわせ届けてきたと思うの、だからこんなにみんなが「ありがとう」っていってくれてるの!」

 幸子は、一生懸命、言葉を紡ぐ。

「ゲキタイシも座敷童子も、皆にしあわせ届けるのがおしごとなの。ばんちょーさんも今まで通り皆にしあわせ届けるなら、きっと一人じゃないの。まっすぐすぎ、とか、危ないとかは、少しずつなおしていけばいいの」

  まずね、に〜ってしよ?
  ゆきこのおすすめ!
  笑顔は、みんなをしあわせにするの!

  上手くできなくても恥ずかしくないのよ
  ゆきこも一緒に頑張るから、練習しよ!

(あたしは皆を笑顔にしたいんだ)
 歌音の言葉が、つと闘吾の脳裏を駆ける。
(俺は‥‥誰かを笑顔にしたいのか? 違う。不正に泣かされるやつを、見過ごせないだけだ。誰が笑おうが泣こうが、知ったことじゃねぇ)

 そう、思ってはみるものの、『孤高』であるつらさは和らぐものでなく。
 幸子に顔をいいように弄られながら、闘吾は自問自答していた。
(俺の望みは‥‥何だ?)


「私が撃退士として頑張る理由は、義母との想い出の中にあります。護るための力を、アウルを得た以上、自分に関わってくれた皆を守れるよう、撃退士になりたいと思いました」
 香里が、自分自身が今頑張っている理由を話す。

 その気持ちは、闘吾とてわからないでもない。
 彼がまだアウルに目覚める前、天魔に襲われた一般人を守るために立ち向かったが、通常の攻撃が通じないため、当然窮地に陥った。その時に助けてくれた撃退士の導きで、学園へ入学したのだ。
 そして、学園の不正やいじめと戦ってきた。

 大学部であろうとも、今までどおりで良いと、数人は言う。
 だが、闘吾にはそう思えない。


「まー、ヒマだとか、何かしたい時にでも、声かけろよ。そんとき俺もヒマなら付き合ってやるよ。住所と電話番号くらいなら教えてもいいぞ」
 面倒そうに発された光太郎の言葉に、番長はまたふと帽子に触れた。

  そうか!
  俺は、俺を「対等」に扱ってくれる相手を、求めていたんだ。
  「番長、番長」と持ち上げられるだけの人間関係に、辟易していたんだ。

 シェリアから文房具を借り、街灯の明かりで光太郎は連絡先を書いた。
 それを受け取り、番長は微かに口の端を歪ませた。
「ありがとよ」

「あっ、ばんちょーさん、笑ったの!」
 幸子が両手を叩いた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
和風サロン『椿』女将・
木嶋香里(jb7748)

大学部2年5組 女 ルインズブレイド
無気力ナイト・
嶺 光太郎(jb8405)

大学部4年98組 男 鬼道忍軍
時魔の時と心を奪いし・
天童 幸子(jb8948)

小等部6年4組 女 陰陽師